短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)
――野比家トレインが目的地へ到着したのと同じ頃、501へある暗号通信が発せられた。
「何?司令部から?」
「はい。DQヲハケンスという内容で、何が何だか分からなくて……」
「DQ……まさか。昔に会った事がある、あの人達の仲間か?」
「知っているんですか?」
「思い当たる節がある。若い頃に世話になった事があるのでな」
と、坂本がリーネに言ったあたりで、バァンとドアが開き……。
「ココが501JFWの司令部デスネ〜?」
いきなりの元気いっぱいな声で入ってきたのは、スーツ姿の10代後半の少女だった。
「司令部から派遣されてきた秘書官の『ldy.D』デース!ヨロシクネ!」
その少女は扶桑人のように見えた。坂本よりも長身であり、年の頃は19〜20前後ほどに見えた。喋り方が普通の扶桑人でないため(帰国子女のような喋り方)、少なくともブリタニアの滞在歴があったと踏んだ。これはブリタニア語を長く使っていて、日本語をしばらく使っていなかった者にありがちな特徴だった。
「お、お姉様。いつもの調子でやられては困ります〜!」
「OH、紹介シマース。私の妹デース」
こちらは清楚な大和撫子と言った容貌の少女だが、どことなく姉妹であるのは初見でも分かる。
「ldy.H、着任しました。よろしくお願い致します」
と、挨拶する。司令部から派遣された秘書官と通達されているが、纏う雰囲気は事務方のそれでなく、武士としてのそれであるのを、坂本は察する。かつて出会った『加賀』や『長門』と同じような感覚だ。
「坂本美緒少佐ですね?貴方のことは、仲間から聞いています。大きくなられましたね」
「あの人達と知り合いなのか?」
「あの子達は、私とお姉様の後輩に当たります」
と、自らの正体を僅かに示唆するH。坂本も何となく察したようで、なんとも言えない表情である。
「……分かった。君たちには主に事務を担当してしてもらうが、緊急時には戦闘にも参加してもらう事になるが……」
「構いません。元よりそのつもりで参りましたので」
「私達が来たからには、大船に乗ったつもりでいてくだサーイ!」
坂本はDIの軽口に額を抑えつつも、正体を何となく察したらしく、苦笑いだ。その上で、『……扶桑のオールドネイビーがあの人とは……東郷元帥閣下が存命なら、何と言われるやら』と、Hにだけ聞こえる声でぼやく。それを承知で『あの方は、きっと天国で笑っておいでですよ。東郷閣下はそういう方でしたから』と返す。DIの正体を察した坂本の言葉は自分のイメージからかけ離れた事での幻滅も入っていたが、hは優しく返す。
「私はお姉様の『次妹』ですが、二番目の姉様のストッパーも楽ではありませんので」
「やはり」
お互いに微笑を浮かべる。それは、『h』の事情を悟った上での事だ。彼女が何物で、DIがどのような存在か。坂本はわかったからだ。
――彼女らの着任で501に混乱は起きず、ミーナの入院時の現場責任者の坂本が彼女らを信頼した事もあり、スムーズに事務作業は進展した。また、芳佳が黒江のツテで、hやDIと以前からの知り合いだった事も助けになった。
――ある日のこと
「う〜、日頃の無理が祟ったみたいデース……」
「ウチのお母さんとそんな変わらない年で、それ言います?」
「私は最古参デスから……」
芳佳は急激な魔力の成長に伴い、ストライカーの機体交換頻度が他より早い。そのため、黒江が司令部に直接かけあって、新品を確保する事があった。その時に顔を合わせていたのだ。そのため、気心の知れた仲であった。
「ミーナ中佐の具合はどうデスカ?」
「あと2日の安静で治るそうです。持ち直し始めたみたいで」
「それは良かったデス。OH、SHIT!!いつつ……」
DIは腰痛を発症し、芳佳がそれを治療していた。過酷なデスクワークなため、腰を痛めたのだ。芳佳の治療魔法により、痛みは消えていく。
「WONDERFUL!!さすが芳佳ネ!」
と、大喜びだ。
それにちょっと不満げなリーネだが、DIの勢いに呑まれ、一緒に加わるのだった。
――3つの統合戦闘航空団をまとめる作業は並大抵の苦労ではなく、更に506の統合も近々決まるため、事実上は4つの統合戦闘航空団を501に集約させるも同然だったが、更にストームウィッチーズも合流しているため、各部隊の整備隊・防空部隊・回収部隊も統合される。ここに至り、501は史上空前の規模のウィッチーズ部隊となる。その部隊をまとめる事になるため、ミーナの双肩にかかる責務は数倍になる。そのため、ミーナのトラウマに起因する規則は予め、スリーレイブンズが有名無実化していた。そうでないと、整備班とのコミュニケーションが図れないからだ。(名目上は、整備班のモチベーションを維持させるため)彼女達は統合作業の円滑化も兼ねて、派遣されたのである。軍部はティターンズがヴェネツィアに空海軍を集結させつつあるのを察知し、その対策も兼ねての統合であった。それを山本五十六から聞いたハルトマンは、剣鉄也に助けを求めようとしており、炎ジュンに言付けを頼んだりしていた。『全てはロマーニャへ』。その言葉が敵味方共通の標語になっていた。ロマーニャとヴェネツィア(イタリア半島)は火薬庫も同然になり、ロマーニャの国境付近の住民の疎開も進められ、北と南の軍港には、敵味方の大戦艦が停泊する。その慌ただしい様子に、ガトランティス戦役の生き残り航空兵は『フェーベ航空戦』を想起したという。
――翌日
「ロマーニャの空軍基地に、各軍の航空戦力が集結するか。艦載機だけでダースは行ってるぞ?」
「陸上機入れると、今日だけで2000機以上が集められたそうです」
「多くないか?何に使うんだ?」
「こうなると、グロス単位で表記した方がいいですね。続々とやって来てるので」
「馬鹿な、各国空軍の一線機の過半数は有に超えてるぞ?」
「向こうも政治的にロマーニャを重視しているんでしょう。そうでなければ、本国からわざわざB-29など回しませんよ」
「そうなのか?」
「ええ。敵はチュニスに海軍基地を築き、そこの近くからトマホークミサイルを叩き込むでしょうから、連邦軍はこの地域に航空基地を設営するのを反対しているのですが……。黒江少佐がガリポリ救援を断った理由が分かると思いますよ。」
「ああ。後で、ガリポリを見捨てたってわかった後、ルッキーニがすごい剣幕でな。黒江の部屋のドアを蹴り破ったんだ」
「シシリーをゴレンジャーのおかげで守れたのが救いですね。あそこを落とされれば……」
「バリドリーンがいなければ、ローマにスカイレーダーが飛来してるだろう。あの空中要塞さまさまだな。孔雀みたいな形だけど」
バリドリーン。ゴレンジャーの誇る空中要塞である。現在のバリドリーンは二代目で、高馬力のターボプロップエンジンにより、大柄な機体ながら、かなりの速度が出る。戦艦の甲板装甲を一撃で貫通、破壊するスカイロック、スカイミサイル、スペースウィングなどを武装とし、504救援の際にも、その威容から『希望の象徴』とされ、新聞記事になった。見出しは『地球連邦軍の誇る空中要塞『イーグルワン』、飛来!!見事、504を救援!』というものである。これはゴレンジャーの所属組織『イーグル』が国連の組織であった都合、地球連邦軍統合参謀本部の指揮下にあるためで、名称は秘匿されていた。
「孔雀は結構獰猛ですよ?」
「うーむ。あとはバトルフィーバーロボがぶった斬ってくれてるから、怪異は封じ込んでるし、ハルトマンはグレートマジンガーを呼ぼうとしてるようだし」
「私にも、仲介の依頼がありましたよ。ガランド閣下に話は通しました」
「そうか。あいつはあいつなりに考えてるんだな……」
「ハルトマン少佐は仲間思いですから。それで、娘のクイント少尉が説得に動くようです」
「ああ、数年前に閣下が孤児院から引き取ったとか言う、義理の」
「ええ。連絡が入っています」
ハルトマンは、この時期には決戦に備えての根回しを初めており、ガランドの義理の娘である『クイント』に接触し、更に『h』を通して、公式な依頼を出すなどの地道な動きを見せていた。休暇前にこれだけの動きを行えたのは、戸隠流忍術の心得を得たためでもあり、二日で全てをこなし、それが今、坂本に報告されていたのだ。
「バルクホルン少佐が聞いたら、泡吹きますね。これは」
「ああ。バルクホルンの耳に入らないように……って、聞いていたか」
バルクホルンが今にも泡を吹きそうな形相で近づいてくる。そして、開口一番……。
「ハルトマンがそのような事をしていただと!?坂本少佐、私は夢を見ているのか?」
これである。普段が普段なだけに、驚きすぎて、自分の正気を疑う始末だ。
「落ち着け、バルクホルン。水を飲め。深呼吸して――」
「フーハーフーハー……」
この有様である。ハルトマンの意外に真面目な側面はバルクホルンにさえ正気を疑われるレベルの出来事だったのだ。(若手時代は真面目だったが)
「ハァハァ……。本当なのか?」
「そうだ。既に使用機材申請をシャーリーと共同で、ガランド閣下への面会依頼、更に科学要塞研究所へのアポを取っている」
「なん……だと……!?」
「バルクホルンの頭がフリーズしたようだ」
「仕方がありませんね。それこそ、天地がひっくり返るほどの衝撃だったでしょうし」
hもこの言い様である。坂本も冷静にバルクホルンを評する。バルクホルンは3分ほどフリーズした後、声を震わせながら、「ハルトマンはどうしたというのだ?あいつがこんな……」と言うのが精一杯な有様であった。
「ハルトマンも危機感を抱いているのだろう。ガランド閣下へのアポを取るのに、素っ気ない対応した従卒を怒鳴ったり、科学要塞研究所に懇願していたしな。科学要塞研究所に頼るといえば、あの『偉大な勇者』を動かすことだからな」
「グレート……マジンガー……」
グレートマジンガー。並み居るスーパーロボットの中でも高名な『魔神』の正統後継者である。そのグレートマジンガーを動かせるほどにハルトマンはツテがあると言うのか。
「未来行った時にツテを得たのだろうな。あいつは人当たりはいいしな。しかし、マジンガーのパイロットとはな……」
「あいつはシャーリーと共に、向こうの『メカトピア戦争』に従軍している。その時に出会ったのだろう。黒江たちが仮面ライダー達と面識を持ったように。ハルトマンも同様だろうな。その時に何か、思うところがあったのだろう。それに、マルセイユ中佐の事もある」
「あいつか……あいつが静かだと、こちらまで調子が狂う!アフリカで何があったのだ?」
「それは私から話しマース」
「あなたは――」
「D・I。Dと呼んで下サーイ。故あって、本名は明かセマセーンので」
『DI』はバルクホルンに語る。マルセイユに何があったのか。
「マルセイユ中佐は、ケイの不在時にアフリカ部隊の責任者でシタ。次席でしたからネ」
「それは聞いている。それでどうしたのだ?」
「ティターンズの大攻勢で戦線が崩壊する時、マルセイユは地獄を見たのデース。それで自責の念に駆られるあまりに酒浸りになってしまい、エーリカがどうにか支えていたんデス」
「あいつが……信じられん……」
「あの子がニュータイプに覚醒したのは、自責の念に駆られていた事、固有魔法を使用し続ける内に脳が活性化された事、更に元々の素養がサイコミュシステムで増幅されたからでしょうネ」
「ニュータイプ、か……。誰でもなれる可能性を秘めているとは聞いているが」
「ニュータイプは現生人類の進化形と言えますが、ニュータイプ同士で分かり合えるとも限りマセン。人間、覗かれたくない秘密はありますカラ」
「当然だろうな」
「実際に例もありますカラネ。ですが、人の可能性は時として、全知全能の神も恐れおののくほどに無限なのデス。黒江少佐やフェイトがその証明デース」
「だろうな」
DIが言うと、説得力に溢れている。彼女自身が人間ではない存在だからだ。それ込みでも、人の可能性は無限だからだろう。
「OH!すっかり言うの忘れてたネ!バルクホルン。ユーはもうじき正式に少佐に任じられます。辞令は発送ずみらしいので、明日にも届くでしょう」
「予定より遅れたな。ハルトマンと同時に昇進と最初は聞いていたが」
「アナタの若かりし頃の素行が、辞令を出す直前に問題になったそうデス。創立当初、部隊員を何人か飛ばしたでショウ」
「うっ……言い訳がましいとは思うが、あ、あれは若気の至りだ……反省している。本人達に謝りたいくらいだ」
バルクホルンは妹が昏睡状態に陥った時期が501創立の時期と重なって、精神的に荒れており、当時の隊員が何人か、自分の苦情をきっかけに左遷に至った経緯があり、精神的平静を取り戻した後、自分の行いの愚かさを恥じていた。そのためか、本来の姉バカな性格をさらけ出すようになっている。『言い訳がましいが……』と、D・Iに言う辺り、ラウラ・トートなどの左遷の一件を気に病んでいたのが分かる。
「設立メンバーで消息が今でも判明しているのは、ラウラ・トートのみ。後は殆どが、ティターンズとの戦いで消息不明か、戦死したそうデス。ただ、殆どが周囲に元メンバーであったとは語らないまま死んでいったそうだから、501時代の写真が出てきても、遺族が信じなかったりしているそうデス」
バツの悪い思いのバルクホルンと坂本。坂本に至っては、ラウラ以外の設立メンバーの顔も思い出せないほどに記憶が曖昧かつ、おぼろげでしかない。結果、後の世で、初期はラウラを含めた『定数未満』の人数で始まったという説明がなされるようになり、それが定着する。ティターンズが元々、地球連邦軍の一部であったのにもかかわらず、戦後に『反地球連邦運動』とレッテルを受けたのと同様の歴史改竄だが、初期501はお世辞にも纏まっていたとはいえず、初期の惨状を公表するわけにはいかないため、マロニーがウォーロック計画の絡みで公式記録を破棄していた事もあり、宮藤芳佳配属以後の記録しか残されなかったという。
「やはりな。あの頃は今より大変で、メンバーの顔もろくに覚えておらんからな。それにバルクホルン。お前が荒れていたから、噂は立つし」
「す、すまない……若気の至りで……」
「いいさ。もう済んだ事だ。今の問題はスリーレイブンズを冷遇してるミーナをどうにかせんと」
「それは多分、大丈夫だ。エーリカがルーデル大佐に連絡しているのを聞いた。ルーデル大佐のお叱りを受けただろうから、反省するだろう。しかし、珍しいな……あいつが個人的感情で、部下を冷遇するなど」
「ミーナは恐らく、私と黒江たちが親しいのに良からぬ感情でも持ったんだろうと、ラル少佐は推測していた。ミーナはあれなところができてしまったらしくてな……」
「嘘だろ……!?」
「本当らしいんだ、それが……」
困った表情の坂本。hとDは苦笑い、バルクホルンは愕然としている。ミーナも年頃の女の子、やはり坂本が黒江たちを頼るのに嫉妬していたのである。そのため、坂本は諭し、更にはルーデルには叱られたのだ。
「その話の顛末だが、ルーデル大佐は来るわ、ロンメル将軍は来るわ、パットン将軍もリムジンで入院先から怒鳴り込んできてな。ミーナは半泣きだったそうだ」
「それはそうだろ、本人としたら、ちょっと冷たくした感覚だったのが、将軍達が怒りの突撃かます事態になったんだぞ。その心労もあって、倒れたんじゃないか?」
「だろうな。それで、あの三人が扶桑歴代最凶のウォ―モンガーなのを肌で感じ取って、更にエーリカがそれにおせ……もとい、染まり始めたんだ。ショックなのもわかる。が、あいつは相手を間違ったな。ちょっと意地悪する相手を――」
「デスネ。あの三人は、私達から見ても『バトルジャンキー』な人達ですカラ、ミーナ中佐が事の重大さを悟ったらショックなのも当然デース」
「ああ、黒江少佐は手刀で敵を落とすわ、黄金聖闘士だし、加東少佐は狙撃屋と想いきや、戦斧持たせたらバーサーカー気味だし、穴拭大尉は炎を操ると来てる。扶桑最凶と畏れられて、鼻つまみ者にされたのも理解できる。目が怖い、目が」
三人は未来世界の戦いなどで共通して、何かかしらの『狂奔』の性質を持つようになった。その片鱗は記憶の封印後も顔を覗かせる事があった。智子でさえ、スオムスでビューリングが傷つけられた際、怒りのスイッチが入ったために瞳が銀色になり、刀に炎が宿る一幕があり、ビューリングが智子に正気を戻そうと狼狽する一幕があった。黒江は記憶の封印の度合いが最も高かったものの、切れた場合は口調が自然に現在のそれになり、その荒っぽさと、事変での行為から、『黒江を怒らせるな!』という秘密通達が当時の所属先で出され、後に鬱病の治療と称し、欧州最激戦地に送られる。そのため、スリーレイブンズで最も冷遇期間が長かったウィッチと言えるが、最激戦地から生還したため、むしろ評判は安定していた。圭子は一線から退いた後、アフリカで空挺怪異が基地を襲った際に、やむなく斧で戦ったが、その時は完全にバーサーカーとなったので、マルセイユをも唖然とさせ、マイルズやシャーロットですら『あり得ない』と絶句させた事がある。(本人は無我夢中だったと言い訳した)フレデリカは『陸戦ウィッチとしてもやっていけたわよ、あなた』と呆れ、フレデリカの相棒のシュミット大尉も「銃いらずだな、あれは」と呆然としていた。戦闘力が完全にマチルダ装備の陸戦装甲歩兵を上回り、ティーガーを動かしているシャーロットも真っ青なほどで、その時に、仮面ライダーストロンガーの『スクリューキック』を使っていたり、『ゴッドハンド』を自然に使った事から、マルセイユも感心したりで、その翌日に正気に戻った後、質問攻めにあったという。(圭子が、戦線でかつての評判を取り戻すきっかけだったりする)その逸話と、時たま、三人が見せる『狂奔』の片鱗により、扶桑国内では『鼻つまみ者』扱いだった。未来に送り込んだ理由の一つも『厄介払い』が入っていたが、未来で『記憶が完全に戻った』ため、扶桑『最凶』という、ありがたくない評を得てしまった。ミーナはその評判を聞いていたため、個人的感情以外にも、『自隊を他所者にシッチャカメッチャカにされる』という危惧が働いたのである。ましてや、三人はエクスウィッチと言える年齢なので、当然だった。
「あの三人がスリーレイブンズなのを実感したんだ、これで対応も変わるだろう」
「そうだな。あいつらが元祖『三羽烏』なのを、ミーナが知らなかったのは意外だったよ」
「仕方がない。あの三人が名を馳せた時代からは、もう10年近く経っている。我々の今までの常識ならば、2、3世代は世代交代している歳月だ。スリーレイブンズの事を直接知っている世代は殆ど退役しているし、あの時代の怪異は、今の我々ならば『鎧袖一触』な強さだ。それによる見下しもある。私が知ったのは、妹がマニアなおかげだからだし」
「そうなのか」
「私が只者でないと実感したのも、あの模擬戦と、将軍達の血相を変えた対応、それと妹のおかげだ」
「うーむ。年を取った自覚が出てきたよ。同年代で、あの三人を知らないものはいないしな」
「時の流れという奴デース」
D・Iが締める。坂本が年を取った気分になったのは、ミーナ・バルクホルン以後の世代は『スリーレイブンズ』の威光を全く知らないのがショックだったからだ。1939年前後の時期、扶桑のスリーレイブンズといえば、プロパガンダにも使われた(ただし、黒江の活躍は当人が映画で主役級でなかったせいもあり、一般にはあまり浸透しておらず、国内では武子のほうが有名である)ほど有名で、メンバーのブロマイドは飛ぶように売れていたのを覚えている。それからほぼ8年。第一線ウィッチの世代が、扶桑海世代から大戦世代に移り変わったため、昔年の活躍を知らない世代が大勢を占めるようになり、このような事態が発生したのだ。
――ミーナのお腹を逝かせた、将軍達の殴り込みは以下の通り。
「あ、シュトルヒだ」
「こんな時間にシュトルヒだと?誰が乗っている?」
滑走路に着陸したシュトルヒ。乗っていたのは、ルーデルとロンメルだった。
「あ、ロンメルだ」
「何!?何故、ロンメル将軍がこんな時間に!?」
「ミーナがアレだったから、ルーデルに文句言ったんだけど、話がロンメルのとこまで行ってたようだね」
「あ、今度はリムジンだ。パットンのおっちゃんだな」
「パットン将軍まで、何故だ!?確か今は療養中のはず……」
「あれ〜、どうしたの?パットンのおっちゃん?」
「おお、ハルトマン少佐か。ミーナ中佐はいるか?」
「今、ロンメルがミーナのとこに行ったとこ。そんなに間はないから、すぐ追いつけるはずだよ〜」
「了解した」
ロンメルとパットンが夜中にわざわざ駆けつけるなど、尋常ではない。ミーナは執務を終えようとしていたところに、三大バトルジャンキーがやってきたので、大慌てであった。
「ミーナ中佐、どういうことかね?」
「自分は、その、あの……あの三人がまさかそのような大人物とは存じ上げなかったのです……世代も違うので……」
パットンの質問に、ミーナはもっともらしい理由を捻り出すのに四苦八苦する。個人的感情も入っていたなどと言ったら、パワーハラスメントとされ、聴聞委員会どころか、査問委員会行きになる可能性が高かったからだ。
「それは理解できるが、三人の経歴書は送ったはずだが?」
「ハッ……申し訳ありません。一目見て、『飛べる若作りのエクスウィッチ』と早合点してしまったのです。生年月日を見れば、誰でもそう思うはずです」
ロンメルにはそう答える。生年月日が20年代前半期(圭子は1910年代末)前後の世代のウィッチで軍に留まっている者は、この時期には殆どいない。それもあって、早合点したと。ミーナはマロリーの一件もあり、上層部に不信を抱いており、そのため、パットンやロンメルに対しても『一歩も引かない』という姿勢を見せていた。
「それは理解しよう。だが、ハルトマン少佐の言うことまで信用しなかったのは、行き過ぎではないかね?あのハルトマン少佐がルーデル大佐に通報するなど、相当だよ」
「それについては、ハルトマン少佐に詫びます。去年までの司令部があまりにも我々を軽んじていましたので……、不信を抱いております。あのような男の跳梁跋扈を許したのは、貴方方にも責任があります」
ミーナは、ロンメルとパットンに反撃をしようとするが、その糸口がつかめておらず、論点を変えた。だが、ロンメルはすぐに返す。
「確かに、彼のような男の跳梁跋扈を招いたのは、我々に責任がある。が、それとこれは話が別だよ、中佐。私たちは『何故、三人を冷遇したのか?』と聞いているのだ」
ロンメルは圭子と懇意であり、自分としては厚意で送り込んだのだが、ミーナが司令部を敵視していたのは心外である。よほど、同志であったダウディング大将が更迭されたのを根に持っているのだろうが、その時に自分達は関わっていないのだ。(ロンメル達は、その当時は中枢部に入れていない)その事を自分達にぶつけられても困る。
「……申し訳ありません。その理由はご説明しかねます……。ですが、あくまで私個人の感情であって、隊の皆には……」
「なるほどな。年頃の女の子にありがちな『あれ』か。中佐、君もなかなか……」
「ハッ……」
「どういうことだ、ロンメル」
「つまりだ。同性愛というのを知っているだろう?」
「ああ、女が女に惚れたり、男が男に惚れるとかいうセンセーショナルな分化だろ?そうか、中佐、君はGLか」
20世紀後半以後に生まれる言葉を口にするパットン。意外にハイカラらしい。
「い、いえ!自分はけして、坂本少佐に対して、そのような感情は……」
と、赤面しながら否定するミーナだが、ロンメルもパットンも、ルーデルも納得の表情だ。確かに坂本には好意はあるが、そのような意味ではないと弁明する。
「自分は性質的に流されやすいのです。それで、過去に整備士であった幼馴染が戦死し、哀しみを味わいました。それを踏まえ、整備士に対し、過度な思い入れは危険と判断し、規則を設けました。ですが、あの三人はその規則を有名無実化させたのです。隊の規則を勝手に変えられては……」
「規則に盲従していたら、守りたいものも守れんぞ、中佐。ルールは状況に対し、柔軟にせねばならん。我々はアフリカでその事を理解した」
ロンメルは、いくら自分で作ったとは言え、ルールに盲従せねばならない理由などない。ロンメルは思いついたように喋りだす。
「思い入れは、傍目では心が弱くなった様に感じるかもしれない。だが、人はその思いで強くなることも出来るんだよ」
と、語りだす。それはかつて、フレデリカとシュミット大尉との間で起こったエピソード。それはパットンも立ち会ったので、よく知っている。ミーナが考えを改めるきっかけは、このエピソードを知ったからであった。そのエピソードは感動的であり、ミーナが持てなかったモノを持つフレデリカへの羨望も覗かせた。そして、将軍達はただでは帰らず、稲垣真美の食事が食べたいと言い出し、寝ていた真美を将軍自ら叩き起こす事態となった。そのため、リーネ、芳佳、ティアナ、真美とで食事を作ることになった。
「将軍達って、こんな事させるんですか?」
「アフリカじゃ、いつものことだし、慣れたよ、芳佳」
真美も1945年にもなると、入隊年度や年から言って、芳佳より先輩になるため、後輩に対し、珍しくタメ口を聞いている。
「真美さんは、その、慣れてるんですか、これ」
「将軍達が飯をタカリに来るなんて、日常茶飯事で、12の頃からだったから、慣れちゃってね」
真美は12歳の頃から、このような事に慣れていたので、日常と割り切っているが、芳佳は驚いている。リーネは寝ぼけている。
「あ、リーネ。切りすぎ」
「す、すみません。寝ぼけてて……」
「まっ、明日は休暇取ることね」
ティアナが言う。夜中の二時に夜食作りなど、501の者には過酷だ。そのため、リーネは夢うつつである。
「下原さんはどうしました?」
「定子なら、スクランブルでサーニャと一緒。帰ってくるのは、あと二時間後よ。諦めなさい」
「嘘ぉ……眠いですよぉ〜…」
と、リーネは目が半分閉じている。このため、料理の出来は芳佳、ティアナ、真美がどうにかしたという印象の強いモノが出来上がり、リーネはティアナがベットまで運んだとの事。
――501でそんな出来事が起こったのを露知らぬ黒江達。彼女らは函館で、バダンの北海道支部とどういうわけか、激しい銃撃戦に突入した。
「おい、スネ夫!弾持って来い、弾!」
「はいな!」
使用銃器はM4カービンを主力に、しずかなどがサブマシンガンを使うという状況だった。
「おお、キャリコの二連装なんて、どこかの漫画みたいな真似しやがってからに。ドミニカ大尉、あそこだ、制圧しろ!」
「了解!」
野比家トレインに殴りこんできた戦闘員は、ショッカー出身戦闘員が30名、デストロン出身が30名、学園都市の傭兵が20名と、おおよそほぼ小さめの中隊規模であったが、ウィッチ側も百戦錬磨の者達だったので、数の差は問題にならなかった。むしろ、基礎火力をフットワークで補う方向になり、Vz61をしずかが使い、戦闘員の股間を思い切り蹴り上げてから蜂の巣にしたり、H&K MP5をジェーンやマルセイユが使用するなど、サブマシンガンが意外に活躍した。しずかは『やる時はやる』性格ゆえ、サブマシンガンと相性が良く、戦闘員の顔を蹴り、そこから至近距離で蜂の巣にするなどの戦術を披露する。そのため、最初の30名はものの数分で無力化された。
「クソ、バダンめ、北海道支部まであったのかよ!」
「そりゃあるでしょ。悪の組織たるもの、日本が狙いなんだし」
「ちくしょう、偶には骨休めさせろよ〜!こうなったらフルボッコにしてやらねーと!」
「ウチの家具壊さないでくださいよ〜」
黒江は額に怒りマークを浮かべつつ、ぼやく。のび太はそれに冷静に突っ込む。戦闘員と戦闘を繰り広げるウィッチ達。同時に二方向からの第二波攻撃を受けるが、それは駆けつけた二人のヒーローが阻止した。
『レーザーZビーム!!』
『クライムバスター!!』
「お、その声は!!来てたんすか!?」
『宇宙刑事ギャバン!!』
『宇宙刑事シャリバン!!』
銀と赤の丸い光が人形になり、その勇姿を現す。宇宙刑事ギャバンと宇宙刑事シャリバンだ。では、二人の宇宙刑事の蒸着の原理を説明しよう。
――宇宙刑事ギャバンがコンバットスーツを蒸着するタイムは、わずか0.05秒にすぎない。
『了解!コンバットスーツ、電送シマス!』
ドルギランのコンピュータがコンバットスーツを電送し、ギャバンに0.05秒で蒸着されるのである。
――宇宙刑事シャリバンは、僅か1ミリ秒で赤射蒸着を完了する。では、赤射プロセスをもう一度見てみよう。
「赤射ァッ!! 」
灼熱の太陽エネルギーが、グランドバースの増幅システムにスパークする。増幅された太陽エネルギーは、赤いソーラーメタルに転換され、シャリバンに赤射蒸着されるのだ!
「あれ〜、お二人さん、どうして来たの?」
「502をシャイダーと共に送り届けた後は、アフリカにいたね。アフリカが落ち着いたから、ギャバン隊長に呼ばれて、この時代のバダンの動きを追っていたんだが、そこへ君達がドンピシャでやって来たわけさ。バダンの北海道支部が怪人含めて送り込んできてるからね」
「なるほど〜」
「あの〜、室内でコンバットスーツ使います?」
「仕方がない。怪人が来たら普通の状態ではまともに戦えないからな。これくらいはやむを得ないさ」
のび太とハルトマンに、シャリバンが答える。室内でコンバットスーツを使うのは怪人対策らしいが、ビームを撃つのはオーバーな気がするらしい。
「ついでに、シャリバンに忘れてきた財布持ってきてもらった」
「偉そうになにいってるんですか……」(苦笑)
「いや、俺、偉いんだけど…オリオン腕方面隊長だよ?」
「財布忘れてるようじゃ、ぼく並じゃないですか」
と、のび太にすら弄ばれるギャバン。今や銀河連邦警察のコム長官の娘婿にして、オリオン腕方面隊長という地位にある、銀河連邦警察きっての英雄も、こうなると形無しだ。
「言われてますよ、隊長」
「いつもこうなんだよな、俺。カミさんには怒られるし、お義父さんからも『だらしがないぞ!』と丸刈りにされたし」
「シャイダーが大笑いしてましたよ、あれ」
「あいつめ……。今度会ったら、アニーに頼んで、シャイダーの嫌いな食べ物聞いておこう」
ぼやくギャバン。こうなると、刑事コロ○ボさながらの悲哀を感じさせる。スーパーヒーローの割には、俗っぽい悩みを見せるので、黒江、ハルトマン、のび太は大笑いだ。
「さて、ここらでカッコいいところ見せよう!レーザーブレード!」
ギャバンが最初にレーザーブレードを抜刀し、エネルギーを注入する。ちょうど置いてあったムードもりあげ楽団がおあつらえ向きの音楽を流してくれた。
「よし、こちらも!レーザーブレードッ!」
「おお〜来たぁ――ッ!」
なお、レーザーブレードの抜刀とエネルギー注入モーションはシャリバンのほうが好評であったとか。二大宇宙刑事の剣戟に、目を奪われるウィッチ達とのび太達。
「チュウ!!」
ギャバンとシャリバンは鍛え上げた剣戟を披露し、戦闘員を次々と倒していく。そして、隊長格の再生怪人二体をも軽くあしらう。
「スパークボンバー!」
シャリバンは両手パンチを繰り出し、相手を玄関付近まで吹き飛ばすと、室内戦の都合上、派手な爆発が起こるシャリバンクラッシュは使わなかった。その代わりに――
『俺の怒りは……爆発寸前!!』
キメ台詞を放った後、レーザーブレードのもう片側の刃を展開する。
『ツインブレードッ!!』
シャリバンは『時空戦士スピルバン』という日本の特撮ヒーローの必殺技に感銘を受け、シャリバンクラッシュが破られた場合の対策として、ウィッチ達と同時期に『アークインパルス』を編み出した。アークインパルスならばデリケートな戦いに向いているからで、この時期から多用していた。
『アークイン・パルス!!』
技の発動時のイントネーションもこだわっているらしく、全く同じである。主演俳優が伊賀電によく似ている事もあり、コンバットスーツの違いを除けば、スピルバンそのものであった。片方の刃で突き刺した後、X字に斬り裂く。シャリバンの新境地である。爆発もシャリバンクラッシュより小規模であり、影響は少ない。
「ギャバンダイナミック!」
ギャバンは『ギャバンダイナミック』の威力を抑えて放ち、爆発させないように気を使った。本気であれば、巨大なベムモンスターをも一刀両断してしまうからだ。
「ふう。上手くいった」
「これで片付いたかな?」
「いや、外で仲間がまだ戦ってるよ。あと5分もすれば終わるよ」
「ふう。それにしても、のび太君。さっきのは効いたよ」
「だって、ギャバンさん。ぼく並にうっかり属性あるじゃないですか」
蒸着を解除して、一条寺烈はぼやく。よほど先程の一言が堪えたようだ。
「刑事コロ○ボみたいだってのは分かるよ。カミさんや義父に頭上がんないし」
一条寺烈は私生活では、妻と義父に頭が上がらない『どこでもいそうな、ちょっとうだつが上がらない婿養子』である。このように、輝しい経歴の割には俗っぽいのもあり、部下からは慕われている。また、うっかりから、直接の後輩である伊賀電や沢村大から金銭を無心する事も度々あるので、今ではすっかり、ギャバン=金欠のイメージが定着している。
「隊長は金欠な事が多くてね。俺にもよく無心しては、奥さんに怒られてるよ」
赤射を解除して、伊賀電が言う。伊賀電は、一条寺烈から無心される側なのだが、回数が多くなってきていたらしく、のび太達にぼやいた。もちろん、一同は大笑い。烈はカッコ悪いところを子供たちにみせてしまったのが堪えたらしく、その後にアンパンをやけ食いしたとの事。
「金欠じゃない、ちゃんと返してるだろ?財布忘れるだけだぁ〜!」
と、烈の涙声の叫びが響き渡ったのであった。無敵のヒーロー『宇宙刑事ギャバン』の天敵はマクーでも、マドーでもフーマでもなく、自分自身のうっかりであったのかもしれない。
――こうして、バダン北海道支部は、小さな地方支部であり、(重要拠点であり、最も南の沖縄本部に比べて、実に40%あまりしか戦力がない上に、怪人の戦力もショッカーの中期頃の水準でしかない旧型が主力であるという、田舎ぶり)他の地方よりも遥かに寡兵であったのに関わらず、マクーとマドーを殲滅した二大宇宙刑事を相手取る事になり、北海道支部長は二大刑事の登場の報に泣いたという――
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