短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――ウィッチ世界で大決戦は迫る。そのための連邦軍の切り札の一つが飛来する。


「あれは?」

「大和型五番艦をそもそもの出自に持つ、史上最後の大戦艦。そのコードネームは『ラ號』。正式名は『八洲』だそうだ。未来世界の過去における日本海軍が最後に建造した大戦艦になる」

「大和型の五番艦?」

「正確に言えば、超々大和型の二番艦になるそうだ。全長も元々の大和型の倍以上はあるしな」

「波動砲はついていないんだな」

「波動砲実用化以前に実験艦になっていたのを再改造したらしいから、波動砲はない。その代わりに衝角ドリルがある『ドリル戦艦』だそうだ」

その大戦艦は宇宙戦艦ヤマトと同じく、大和型戦艦を出自に持つ宇宙戦艦であるものの、素体は第799号艦と呼ばれた超大和型戦艦である。そのため、現在の上部構造物はヤマトと共通規格だが、素体が波動砲実用化前から存在していた都合上、波動砲ではなく、衝角ドリルが艦首に存在する。そのため、外見上は『ドリル戦艦に改造された宇宙戦艦ヤマト』に見える。

「あれが連邦軍派遣艦隊の新旗艦で、無線コールサインは轟天と通達されている。20年ほど月ドックでモスボールされていたのを大改造して、准ヤマト型に改造したらしく、相当に手間がかかっている」

「大和型、多すぎないか?」

「日本戦艦の究極形が大和型なんだ。日本海軍にはバダンの息がかかっていたから、大戦末期にヤケクソになって作ったと言われている」

「それにしては凄すぎるぞ……」

――ウィッチ世界に現れ、501基地を通過していく『ラ號』。坂本とバルクホルンが互いに感想を言い合う。それはバダンが日本海軍へその超テクノロジーを与える事で生まれ、今また、連邦軍の手で宇宙戦艦ヤマトの准同型艦として新生した。そして、ラ號の登場と同時に、ティターンズもその産物の一つを手に入れていた。



――ティターンズ宇宙軍のある拠点ドック

「よく確保出来たな。ソビエツキーソユーズ級」

「冷戦が終わる前、アイオワ級に対抗するために、極秘に日本とナチから盗んだ超技術で生み出した戦艦だそうだ。同様の計画は英仏伊独もあったそうだが、英国は国力減退で断念、独は戦後に再開されたものの、計画段階で冷戦が終わった、伊は1970年代に試作品が大爆発して頓挫した。米は当初、同種艦を『モンタナ級戦艦』として作る計画もあったが、アイオワ級の復帰で落ち着いた。実質、完成状態だったのはこの艦級だけで、ロシアの秘密ドックに秘匿されていたのを同志が発見し、現在の最新技術である波動エンジンをつけて送り出してくれた」

ティターンズには多くのシンパがいた。主に日本が世界の主導権を握る世界に苦々しい思いを持つ、旧アメリカ合衆国、旧ロシア連邦、旧フランス共和国などの統合戦争の『敗者』の国々に多く、本来は人類を守護すべき盾となるべきモノを『自らのイデオロギーや思想』の走狗とする。彼らの手に渡ってしまった超兵器『ソビエスキーソユーズ級戦艦』。旧ソビエト連邦最後の忘れ形見と言える超兵器は、ティターンズの旗のもと、エゥーゴ、ひいては旧日本国への米露仏の復讐の道具と化する。『ソビエツキー・ソユーズ』、『ソビエツカヤ・ベロルーシヤ』の二艦のみ(他の二艦は冷戦終結で完成せず)が現存していたが、それでもアンドロメダ級に匹敵する砲撃戦能力を持つ大戦艦を得たことは大きく、その戦艦の猛威が再建途上のガリア海軍に襲いかかる。




――ガリア近海。

「奴らに、そのソビエスキーソユーズの力を見せつけてくれよう!各砲塔は護衛艦を各個撃破!空母も持たぬガリアなど敵ではない!」

見るからにあり得ない形状の衝角を持つ風体のソビエスキーソユーズは、公試運転の段階ながら、ガリア海軍を襲撃した。衝角を除いた形状はリットリオ級に似ていたため、ガリア海軍は『ロマーニャ艦か?』と考えていたが、旗がリベリオンのそれと、ティターンズ軍旗だったため、すぐに応戦したのだが……。

「フン、枢機卿級の砲ごときで、このラ級戦艦の装甲が貫けるものか」

ラ級。それは冷戦期、旧ソビエトなどで、旧日本海軍が生み出した『ラ號』と同等の力を持つ戦艦という意味の造語で、かつてのド級のドと同じ意味である。そのため、この当時にガリア最強クラスの艦砲であった『1935年型正38cm(45口径)砲』と言えど、貫けるはずは無かった。


――ガリア海軍戦艦『クレマンソー』

「主砲、弾かれました!!』

「馬鹿な!艦首に当たったのなら、一発は貫けるはずだぞ!?」

ガリア艦隊はこの時、空母は無く、戦艦から駆逐艦までの打撃艦隊編成だが、その数は少なく、ル・アルディ級駆逐艦、ラドロア級駆逐艦と言った戦間期型駆逐艦が主体に、アルジェリー、シュフラン級重巡洋艦と言った巡洋艦が控えていたが、往時の世界有数の海軍というには、あまりにも寡兵であり、しかも旧式艦も多いので、ティターンズ海軍の艦長はガリアに同情する。

「あれが往時には世界トップ5を争ったおフランス海軍の末路か。哀れだな。連合軍でも『数合わせ』にも入れられていないのが理解出来た」

「ブーラスク級、1、撃沈」

「他愛もない。見事にまっ二つだな」

ショックカノンは見事な威力で、ガリア駆逐艦をまっ二つにへし折る。砲塔が各個に照準する戦法だが、護衛をほぼ必要としないラ級であるから実行可能な戦術である。

「魚雷、接近。回避しますか?」

「いや、受け止めてやれ」

「了解」

駆逐艦たちが決死の覚悟で放った魚雷はソビエツキーソユーズに命中するも、魚雷そのものが装甲板に弾かれたりして通じず、逆にパルスレーザーで蜂の巣にされる。更に、冷凍光線で『冷凍』される艦が出始め、ガリア海軍は次第に追い詰められていく。その間にも、攻撃は当たるが、全く通用せずに弾かれていく。装甲が23世紀兵器基準の防御であるため、20世紀の兵器では全く損傷しない。

「奴さんの希望である戦艦をやれ」

「了解」

ソビエツキー・ソユーズの主砲がガリア戦艦の一つのダンケルク級戦艦『ストラスブール』を狙い、放たれる。未来技術で強化されている扶桑の戦艦と異なり、ショックカノン基準の装甲を有さないガリア戦艦は一撃で、砲の光に貫かれ、炎上する。23世紀の兵器を20世紀の兵器に使用したらどうなるかのいい見本となったストラスブールは、キールがショックカノンの通過した後の熱で破断し、綺麗さっぱりまっ二つになっていく。

「命中!」

「あっさり片付いたな。枢機卿級は?」

「逃げていきます」

「怖気づいたか。他愛もない。撃沈と戦闘不能艦は?」

「戦艦、1、巡洋艦5、駆逐艦7。公試運転では上々でしょう」

「衝角の調整が終わっておれば、串刺しにしてやったが、惜しい事をした」

――ソビユスキーソユーズの戦闘能力の一端を示したティターンズ。連邦軍がラ號の投入を急ぎ決定した原因であり、グレートマジンガーをもティターンズが恐れない理由であった。将軍の訪問後に寝込んでいたミーナは、この大戦艦の登場に顔を曇らせた。

「ソビエツキー・ソユーズ?」

「こちらで言う、共産化したオラーシャの国名を頂く大戦艦だそうだ。ガリア海軍は泣きっ面に蜂で、再建がますます遅れると嘆いているそうだ」

「ペリーヌさんは?」

「ショックのあまり卒倒して、寝込んでしまったよ」

ペリーヌは愛国心が強い。そのため、ティターンズなどに目の敵にされている祖国を憂いていたのだが、ソビエツキーソユーズという化物が、祖国の誇る新戦艦をゴミ同然に屠ったのがショックであったらしく、卒倒してしまったのだ。これはド・ゴールも同様だが、彼の場合は卒倒しない代わりに、ヒステリックに周囲に当たり散らし、海軍を罵ったとの事。この時の醜態はアイゼンハワーが自ら怒鳴り込んでくるほどに凄まじく、ド・ゴールの権威が少なからず失墜する要因となった。

「ペリーヌさんにしてみれば、祖国が目の敵にされているのがショックなのに、ガリア海軍が雑兵同然の扱いなのが堪えたんでしょうね。だけど、美緒。ガリア海軍に輝しい時代あった?記憶が……」

「うーむ……あったっけ?トラファルガーも負けだろ?ナイルは負けてるし、チェサピークとポルト・プラヤの海戦くらいか?ここ数百年でガリアが輝かしい海戦をしたの。後は殆ど負け戦ばかりだ」

ガリア(仏)海軍は勝率が異常に低い。海の戦で負けやすい法則でもあるのかと言わんばかりの負け戦続きであり、地球連邦軍からも軽んじられている節がある。造船技術は高いのだが、それを活かせる者に恵まれず、ここ数百年はいいところ無しだ。そのため、ミーナと坂本も、いささか冷ややかである。扶桑のように『日本海海戦』、『扶桑海事変』のような輝かしい栄光があるわけでもない、カールスラントのように一芸に秀でるわけでもないので、伊よりマシ程度の扱いであった。そのため、連邦軍の援助を受けても、自前の鉱物資源の多くが怪異に食われた影響で、国家を食いつなぐので精一杯であり、海軍再建など夢物語な状況が数十年継続する。その惨状は、戦前にガリアが夢見た『欧州の大国』とは程遠い末路であり、海戦参戦が出来ないのもあり、ド・ゴールを大きく落胆させたのだった。


「ガリアも可哀想に。今回の海戦で、ガリア軍が弱体だって示されたから、敵占領地での求心力が低下してるそうよ」

「仕方がない。ガリアは占領されてから4年以上経っているんだ。金属資源貯蔵量も大きく目減りしているし、軍事的にも戦前の比でないんだ。今度の大戦(おおいくさ)には空軍が辛うじて参戦できる程度になるだろうしな。ペリーヌ、アメリー、ジョゼと、いいウィッチはいるんだが」

ペリーヌをトップエースに、ガリア空軍には優秀なウィッチがいるのだが、問題はトップ3を除くと、戦術レベルが落ちる場合が多い。そのため、此度の海戦に、トップ10レベルのエースを送り込んでいるのがガリアの栄光の残光であった。対する扶桑は、空軍設立準備と戦線整理の都合、ウィッチが余ったのもあり、501以外にも多くが派遣されており、更に最強レベルの二人を用意しているという贅沢ぶりであった。

「ん?電話だ。黒江か?こっちは色々あったよ。司令部からあの人達は派遣されるわ、ミーナは寝込むわで……。そっちはバダンと一戦交えてるって?休暇なのに、何しているんだ?」

「しゃーねーだろ?奴らの方から喧嘩売りやがったんだよ。ギャバンさんとシャリバンさん達と合流したから、これから作戦会議だ。あ、お前にいっとくことがある。えーと、343空にいた雁渕、覚えてるか?」

「ああ、343空で菅野をたしなめてた、アイツだろ?それがどうした?」

「その妹が今回の作戦に駆り出されてるみたいなんだよ」

「何?妹が?」

「なんでも、飛行学校出て間もないらしくてな。激戦になるからって、姉貴のほうがすごくアタフタしてるんだよ。私が戻る前に、一度、様子を見に行ってやってくれ。あいつが電話口でアタフタしてるから、なだめるの大変で」

「分かった。雁渕には私から一報入れておく。意外にアイツも妹に弱いな」

「そりゃ自分を目標にしてるくらいだってつーし、アイツにしてみれば、目に入れても痛くないくらい可愛いんだろ」

――雁淵孝美。芳佳と菅野の同僚のウィッチで、508在籍経験のあるエースだ。彼女には妹で、ウィッチ覚醒間もない妹「ひかり」がおり、いきなり激戦に駆り出されたのが心配であり、黒江の携帯に『先輩、助けてください〜!』と電話し、それを聞いた黒江の頭の上にアホウドリを鳴かせた。

「あいつもシスコン気味でな。坂本、暇があったら様子を見に行ってやれ。私も答えに困るし」

「分かった。こちらから先方に連絡を入れる。奴の自宅の電話番号分かるか?」

「佐世保の実家のなら聞いた。343空のホットラインの番号は覚えてるか?」

「おいおい、ホットラインはまずいだろ。基地業務隊か飛行隊事務室直通番号にしけおけ。いくらお前でも怒られるぞ」

と、電話でやり取りをする。黒江は面倒見の良い性格ゆえ、後輩に泣きつかれると、安請け合いしてしまう。今回の場合は坂本に代行を頼んだ。坂本も黒江への雁渕の電話の内容の察しはついたようで、了承する。雁渕が妹の最前線配属が心配な様子が目に浮かんだらしく、電話口で泣きつかれた黒江に同情した。

「お前も大変だな」

「後輩に泣きつかれると、ノーと言えなくてな。そんな感じで頼む」

「分かった」

「さて、ミーナ。ちょっと外出してくる。後輩が姉妹の様子を見に行ってくれと頼んできたんだ、3時間位で戻る」

坂本は黒江の頼みを聞き届け、雁渕の妹『ひかり』の様子を見に行く。その少女は別の世界においては、502に配属されるのだが、その線が消えたこの世界においては、任官後に扶桑皇国海軍基地航空隊の『第三三二海軍航空隊』に配属されていた。同隊が大海戦に回されたため、新501基地の近隣の航空基地におり、坂本は視察名目で同航空基地を訪れ、様子を確認した後に電話をかけた。

「雁渕か?私だ。黒江から頼まれて、お前の妹の様子を見に行ってきたが、元気な妹だな」

「坂本教官にそう評価してもらえるとは……ありがとうございます」

「ハハ、なあに、同じ釜の飯を食った仲だ。そうかしこまる必要はないぞ。源田司令にはご迷惑をかけたが、お前らと同僚になれてよかったよ。お前の妹は、昔の穴拭や黒江と似ているよ。常にポジティブなところが特に、な」

「お恥ずかしい限りです……。妹はがむしゃらですから」

「どこか、宮藤にも似ている。素養もある。運があれば、どこかの統合戦闘航空団に招聘されたやもしれん」

「坂本教官、それは……!?」

「ああ。時勢が許すのなら、どこかの統合戦闘航空団が目をつけただろうという意味だ。お前もできれば、508に呼びたかったんだろう?」

「は、はい」

「正直でよろしい。お前の妹は私達が守る。501の名誉にかけてもな」

「教官……!」

「私は次の戦が最後になる。お前の妹や宮藤にバトンを渡す事になるが、これからはお前たち若い世代の時代だ。頼んだぞ」

「……はい!」

坂本は最後に、自分は後輩にバトンを渡したい意図がある事を伝える。軍には留まるが、第一線から退くとこの時に明言する。坂本最後の闘いは刻一刻と近づいていた。



――501基地では、ミーナがベッドの上で、敵超兵器『ラ級戦艦・ソビエツキー・ソユーズ』の情報を閲覧する。ソビエト連邦というオラーシャの別の世界での国号を冠した大戦艦。伊戦艦の影響が見え隠れする艦容、不釣り合いなドリル型衝角。どう考えても普通ではない。ガリア軍の如何な攻撃も跳ね返す強靭な装甲。明らかにそれ以外の防御も備えていそうな様子も窺える事から、ウィッチの魔力攻撃にも耐性があると踏む。

「私達で落とせるの?こんな化物を……。明らかに宇宙戦艦に見えるし」

「連邦が同種の兵器を持ち出すほどの相手だ。ただの戦艦ではあるまい。私達の想像を超えた何かがあるのだろう」


「そうね。美緒なら、『ウィッチに不可能などない!』とか言って、突っ込むんでしょうね」

「あの自信はどこから来るんだ?」


「さあ」

「うーむ。黒江少佐やフェイトが黄金聖闘士だったんだ、あながち間違いでもないだろう。ルッキーニが聞いたら怒るぞ?」

「そうね。あの子は今回の闘いに命をかけてるもの。それと、ロマーニャの飛行隊に気になる名前があったの。ルッキーニさんの縁戚かしら?トリエラ・ルッキーニとあるのよ」

「アイツに親戚がいるとは聞いていないな……軍の情報漏れか?」

と、ミーナと坂本は気になるが、その『トリエラ』はルッキーニの実の孫であり、数十年後から、部隊ごと紛れ込んでいたのである。祖母のフランチェスカと似ているが、祖母より浅黒い肌色をしており、祖母の言うことが真実かどうか確かめるために、部隊ごと紛れ込んだのだ。そのため、ストライカーは数十年後のジェットである。そのトリエラは若かりし頃の祖母の様子を確認していた。

「あれが子供の頃のおばあちゃんか。確かにお母さんや私に似てるなぁ」

双眼鏡を駆使し、若き祖母の様子を確認する。

「あれがあなたのお祖母様?」

「そうよ、ヘンリエッタ」

トリエラ・ルッキーニ。生年月日は1980年代後半。冷戦後の統一ロマーニャ軍のトップエースである。気質は祖母と正反対に生真面目で、天真爛漫な祖母からは『固すぎる』とも言われているが、才能は祖母以上とされる。肌の色と背丈を除けば、祖母とよく似た容姿を持つため、過去のロマーニャ軍に潜り込む事はオールマイティーパスとの併用で容易であった。相棒はヘンリエッタ、エンリカで、彼女共々、冷戦後の時代に於ける赤ズボン隊でもあった。

「でも、いいの?お祖母様の時代の戦場に潜り込むなんて」

「この時代が一番激しい戦闘が体験できるし、ばあちゃんの知ってるエース達が現役だった頃でもあるし、翼達をギャフンと言わせたいのよ」

彼女は同年代の扶桑皇国のエースである、黒江の大姪『翼』をライバル視していたので、その先代に当たる黒江の動きを見てみたくなり、この時代に来たのだ。

「ああ、スエズの稲妻?あの魔のクロエの後継者と名高い」

「そうよ。彼女とは祖母世代が上司と部下の関係で、小さい頃からよく争って来たのよ」

「それでよく考えたわね、あなた」

「私達の時代、実戦なんてそうそう味わえないもの。それに、ケイコおば様がよく言ってるじゃない。『10回の訓練より、一回の実戦』って」

「確かに。ケイコおば様、参戦してたっけ?」

「ああ、トモコおば様か、アヤカおば様のバディだったと思うわ。記録によるとね」

スリーレイブンズの未来における教え子である三人。彼女らはルッキーニの様子を見つつ、赤ズボン隊の後継者である矜持を見せる。この時代の赤ズボン隊との邂逅も果たしており、フェルからは偽物扱いされるものの、模擬戦で返り討ちにし、21世紀に於けるトップエースの意地を見せた。

「待ちなさいよ、あんた達!なんで赤ズボン隊の印を持ってるのよ!?答えなさいよ!」

「それは私達も赤ズボン隊だからですよ、フェル隊長。ただし、あなた達から何代か代替わりした後の、ね」

「何、それじゃ、あんた達は私達の……?」

「遠い後継者ですよ。私はトリエラ、トリエラ・ルッキーニ。フランチェスカ・ルッキーニの孫娘です」

「ルッキーニの孫娘ぇ!?」

「おじいちゃん似なんですよ、私」

フェルは固まる。ルッキーニの孫娘とは思えないほど、性質は正反対だからだ。

「訳あって、タイムマシンで来たんですよ。私達の頃になると、怪異と戦うことも減って来てるので」

トリエラの時代になると、自衛隊との派閥抗争も絡むため、実戦経験を積める部隊は限られており、その解消のため、過去に紛れ込むことが許可されている。トリエラが行ったのも一応、任務の内に入る。冷戦後になると、如何に平和であるかが分かる。

「おばあちゃんの言うことが信用できなかったってのもありますね」

「んー、まぁ、あの子だしね」

フェルは呆れる。祖母の言うことを確かめるために、部隊ごと紛れ込んでくるなど、自分では考えつかないからだ。

「それじゃ、この時代の赤ズボン隊のお手並み拝見とさせてもらいますよ」

「やれやれ。孫世代の赤ズボン隊と会えるなんて、なんだか不思議ねぇ。今日の事はあんたのおばあちゃんには内緒にしておいてあげるわ、トリエラ」

「頼みます」

「いいんですか?フェル隊長」

「どうせ、言ったって信じないでしょ?これは、あの子がいつか結婚して、子供産んで、その子がまたあの子を産むって事の証明よ?その時にはあたしたちが望んだ未来があるって事じゃない。この残酷な世界に湧いた希望なのよ、あの子達は」

パンツの意匠に変化がある事などから、この時代のものでないと見抜いたフェルは、トリエラ達の存在に希望を見出し、迷っていた『戦うこと』への決意を固める。新旧赤ズボン隊の邂逅は、フェルに勇気を与えたのだった。



――この時、慌ただしかったため、意外に孫世代の紛れ込みは多く、トリエラ以外には、シャーリーの実の孫『クラエス』もいた。彼女は父方の血のせいか、髪の色は赤髪であり、気性は大らかなシャーリーと異なり、喧嘩っ早いという特徴を持っている。彼女はシャーリーの長女「ニナ」の子であるが、父親がリベリオンには珍しいほどに厳格な性格であり、親への反発により、この性格となった。

「ばーちゃんは休暇中かよ。まっ、いつか帰ってくんだろ」

声もシャーリーによく似ているが、クラエスは性格の都合上、荒っぽさを見せている。祖母に似ているので、祖母の私物で、21世紀には失われているのを取り戻すため、祖母の部屋からいくつか私物を持ち出していたりするが、祖母と髪型が同じな事、声もよく似ているので、寝ぼけているルッキーニを誤魔化して、いくつかの私物を持ち出している。

「さて、今日はどれを持ち出してこようか……ん。坂本大佐だ。ハーン。掃除に来た宮藤大佐が知らせたな?」

「まて。そこのお前。何者だ!」

「いいっ!?魔眼使うなんて反則ですぜ!?」

「シャーリーに変装しているようだが、魔眼など使わんともわかるわ、たわけ!!賊め!成敗してくれる!」


「仕方がねぇ。こっちも色々とややこしいから、捕まるわけにゃいかねー!」

「待てぇ!」

追う坂本だが、別人にしては、シャーリーに動きの癖が似過ぎていることに気づく。

「馬鹿な、シャーリーに動きが似過ぎている!貴様、シャーリーの縁者か!?」

「あたりねーだ!シャーロット・イェーガーは、あたしの母方のばーちゃんなんだよ!!」

「なに!?」

「ココで捕まったら、ばーちゃんに渡したいもんを手に入れられなくなるからな!悪いが、気絶してもらうぜ!『不知火流・忍法!!必殺忍蜂!!』」


彼女は父親に反発し、十代前半から半ばまで家出しており、旧・亡命リベリオン領域に滞在していた。その時に扶桑に伝わる忍法を身に着け、忍者になっており、その時に身に着けた技で坂本を撃退した。肘打ちをしつつ突進。そこから坂本を一瞬、炎に包む。

「悪いけど、ばーちゃんのためだ。許してくれよ」

衣装を忍者としてのそれに早着替えし、坂本を寝かせる。シャーリーの孫らしい、色っぽいナイスバディ、胸元強調の衣装から、シャーリーの孫らしさを感じさせる。坂本は思わず『待て……シャーリーの孫とやら……どうしてここに来た……」と問う。

「ばーちゃんの失くした思い出を取り戻すためさ」

と、いう。言うことは決まっているが、いささか衣装が衣装なので、危ない何かにも見える。もちろん、彼女も軍隊のウィッチであり、再統一後のリベリオン空軍にて、既に中佐の地位にある。同じ年頃の頃の祖母より出世が早いのは、再統一後のリベリオンでは、ウィッチが不足しており、21世紀頃では数少ない『軍生え抜きのウィッチ』であり、『シャーロットの実の孫』という血統も関係している。無論、叔母、祖母同様に優秀なウィッチであるが、イェーガー一族の中では異端と言える極端な『扶桑かぶれ』なため、リベリオンへの愛国心溢れる父親と喧嘩してばかりである。しかしながら、リベリオンへの愛国心がないわけでもないので、その辺はシャーリーの一族である。

「これから、ちょくちょく顔出させてもらうぜ、大佐。あんたの事はばーちゃんから聞いてるし。あんたなら口も固そうだし」

「まて、私はまだ少佐だぞ?」

「これからなんの。ん、じゃな」

ドロンと消えるクラエス。シャーリーと生き写しレベルで似ている。髪の色除けば。孫というのも嘘ではないと感じ取った坂本は、物音で様子を見に来た芳佳とミーナを誤魔化し、その場を取り繕った。


――孫世代ウィッチが様子を見に来ている事が知られたのは、後日、休暇明けの黒江(人格は聖闘士任命後)がクラエスの気配を小宇宙で感じ取り、『お〜い、私にはバレてんぞ、クラエス』と声をかけ、観念したクラエスが姿を現したからだ。

「アヤカオバさん、小宇宙で探すなんて卑怯だ!」

「卑怯もヘチマもあるか!何しにきたんだよ、お前。トリエラみたいに任務で来たわけじゃないだろ」

と、普通に会話したため、ミーナ達はパニックに陥った。同時に、シャーリーは孫が出来る事を知ったため、嬉しそうであった。ルッキーニは『あ〜!シャーリーの偽モン!よくもあたしを騙したなぁ〜!!』と怒り心頭だが、やはり胸を揉む衝動は抑えられず、いつものようにやる。

「シャーリーと同じだ〜!」

「おいおい、さっきの怒りはどこに行った」

で、あるため、シャーリーも呆れる。

「しっかし、あたしに瓜二つレベルでそっくりだなあ。」

「孫だからね。叔母さんもそっくりだから、ほら」

「こいつがお前のかーちゃんか?」

「いや、母さんの妹で、私の叔母さん。そっくりだろ、ばーちゃん」

「この歳でばーちゃんって言われるのは、変な気分だぜ。まだ17だぜ、あたし」

シャーリーは、自分が将来的に孫まで持つ事になるのを知り、嬉しさがある反面、年寄り扱いされたくない年相応の気持ちも滲ませる。

「トリエラの奴は任務だし、こっちにゃ顔出せないとか」

「トリエラって?」

「ああ、アンタの孫だよ。フランチェスカ・ルッキーニ」

「え〜!?あたしの孫ぉ!?」

「ほれ。あいつとは元の時代で同僚だし、写真がこれ」

「わ〜、ルッキーニちゃんそっくり〜!」

トリエラはルッキーニに似ているが、ルッキーニと正反対に生真面目であるため、ルッキーニの孫であるのを驚かれる。また、かつてのシャーリーが担っていた面倒見の良さを担っているため、第三世代の501でのポジションはルッキーニとシャーリーが逆転している。

「あ、第三世代の501の戦闘隊長は、アヤカおばさんの大姪だよ」

「翼だろ?あいつは真面目に仕事してるか?ったく、あいつがサボって怒られんのは私だぞ?誰に似たんだか」

「アンタでしょ」

ここでどっと笑いが起きる。黒江の大姪『翼』はズボラな面があるようで、優秀であるが、サボリ魔でもあった。そのため、書類仕事をハルトマンの大姪『アドルフィーネ』に丸投げするのも珍しい事ではない。

「ん?ミーナや私にはいないのか?」

「いるけど、まだ軍に入っていない年齢だったりしてるんだ。あんたは娘がキャリアウーマンだったから、子供作るの遅めだったしな」

坂本には北郷百合香がいるが、入隊前であったり、ミーナのヴィルケ家では、音楽家の一族から軍人が二代出た事を異端視する親戚と揉めていたりしていて、進路が決まっていない。(ミーナの時代のように、軍に入る事がウィッチの義務と捉えられなくなったためもある)音楽隊名目で入れることが画策されているとか。

「そうか。私は孫の勇姿を見れるのか?」

「いや、残念だけど、病気にかかって、孫が長じる前に死んじゃったとか聞いてる」

「何!?し、信じられん」

「病気の発見が遅くて、娘さんが病院に連れて行った時には、もう手遅れの状態だったそうだ」

「なんと……」

坂本は、孫の百合香の勇姿を拝むことは出来ない。それだけは教えるクラエス。落胆する坂本だが、意外にポジティブであり、『孫がいるのなら、その子が私の衣鉢を必ず継いでくれるだろう』とも言った。坂本はまだ見ぬ子や孫に、自分の血統を後世に残すことを託したと言っていい。やがて、坂本に訪れる『子との確執』を知る黒江とクラエスは複雑な表情だった。

(こんなんでいい?おばさん)

(ああ。あいつにゃ辛すぎる。ウィッチに覚醒した子が、ウィッチの才能を活かす事を嫌ったなんて……百合香が長じるまでに生きてれば……救われたろうに)

黒江は1960年代以後、両親を泣かせた『土方美優』(坂本の長女)に対し、良い感情を抱いていない。美優も両親とその友人を嫌って、別の世界で生きたため、坂本の訃報を元部下に伝えるのを嫌った。若かりし頃、周囲に後ろ指を指されたのを恨んでいたからだ。そのため、百合香が独断で黒江達に伝えたのを咎めた他、黒江達がタイムマシンで臨終の場に立ち会ったときも、不快感を顕にし、仮にも母親であるのに、『やっと死んでくれる』と邪険に扱っていて、それに激昂した智子に、「親を大事にしないなら自分も同じ扱い受けるわよ?覚悟しておきなさい」と冷たく言い放たれ、祖母を軽んじた事に怒る百合香からも軽蔑された。親孝行したい時には、その親が既に亡くなっていたスリーレイブンズにとって、親を顧みない美優は許せない人種だったのだ。やがて、百合香の軍入隊時に自分が坂本にしてきた事の因果応報が回って来た時、初めて彼女は母親の真意を理解し、かつて罵った黒江たちへ詫び状を書き、百合香に持たせたという。そして、美優は40代になった時、自分を『坂本美緒の娘でなく、土方美優という個人』として見てほしかったという懺悔をする。美優は自らの娘からさえ軽蔑された事で、ますます仕事にのめり込んでいく。それは自分のアイデンティティを弁護士という職業に求めたためだが、因果は周り、彼女は2007年。、運転中に暴走車に衝突されるという不幸な交通事故によりこの世を去る。夫も、百合香さえ悲しまなかったという彼女の死。死ぬ寸前によぎった光景は、子供の頃、若かりし頃の母親に褒められた時のものであり、『お母さん、どうして、自分の道を選んだ私を褒めてくれなかったの……?』という言葉と共に事切れたという。彼女の死後、弁護士事務所を継ぐものはおらず、閉鎖。青春時代に友人が少なかったのもあり、葬式の参列者は少なく、弁護士仲間の間でも『人間性に問題がある』と裏で避けられていた事が判明し、また、ウィッチに目覚めていながら、軍隊・自衛隊にも行かず、両者を軽蔑していたのが暴露された事もあり、『土方・北郷家の恥部』とさえ言われる事になり、百合香にも『母のことは人間として軽蔑しています』と公言されるという哀れな顛末を迎える。坂本なりに愛情深く育てたはずの娘の哀れな人生は、扶桑で有名になるのだった。


「しかし、黒江。どうして、会ってもいないはずの孫世代の事を知っている?」

「なあに、聖闘士ともなりゃ、時間軸の違いなんて些細な事なんだよ。残留思念で別の時間軸に現れた黄金聖闘士だって多いぞ」

実際、別の時間軸に残留思念だけで現れた『乙女座のシャカ』などがいるので、黒江が『別の時間軸の自分の肉体に宿る』ことなどは些細な事に入るのだ。

「黄金聖闘士っていうのは、恐ろしいな」

「まー、地球を守護するために、別の神を滅ぼすような集団だしな。それに、黄金聖闘士だからっていっても、実力にムラがあるし、下級の聖闘士が倒せないわけでもない」

黄金聖闘士といえどもピンキリで、童虎やサガ、シャカ、アイオロス、シオンと言った『無敵』を誇った者から、デスマスクやアフロディーテのように『油断慢心・相性』から星矢達に敗れた者までと、幅も多い。

「だが、黄金聖闘士の実力差は乙女座・双子座・天秤座・射手座の四強を除けば、ほぼ誤差の範囲内だ。そこまで行くと、手がつけられん」

「そうなのか?」

「場合にもよるが、基本、双子座と射手座が最高位になる。教皇候補になる常連だ」

「しかし、どうしてお前は『過去の自分』で遊ぶんだ?」

「バーロー、遊んでるわけじゃないさ。体づくりだよ、体づくり。付け焼き刃で聖闘士にはなれないから、こうして過去の自分の体を鍛えてるんだよ。だから、心の中じゃ喧嘩もするけどな」

「ややこしいな」

「あんまからかうと、宮藤にバラすぞ、お前がガキの頃――」

「わーわーわー!!わかったよ、もう!」

坂本の痛いところを突く黒江。坂本の酔っぱらいエピソードの当事者であるため、『まずいな……アレ知られたら威厳がなくなる』と思っているアレヤコレヤを知っている。坂本で時々遊ぶのも、ストレス発散の一環でもあった。なお、酔っぱらいエピソードは竹井が既にばらしていたので、後日、坂本はしょげたという。




――このように、孫の代の紛れ込みはかなりのもので、黒江が後日に把握しただけでも、菅野の孫『鷹子』、『良子』の双子姉妹などの存在が確認され、『孫世代多すぎだろ』と頭を抱えたという。ただ、これがきっかけで、黒江に『子孫呼んできて、手伝って貰おう』というアイデアを閃かせ、後日、黒江はタイム電話で大姪の翼に電話をかけ、『おい、面貸せ!』と二代目スリーレイブンズを連れてくる事になる。ロマーニャ決戦は、孫世代のウィッチ達の隠れた参陣もあり、連合軍は真の意味でティターンズに対抗するに値する布陣となったのだ。


「で、休暇はどうだったんだ?」

「ああ、実に面白かったぜ?ホームビデオ回してたから、あとで見せてやんよ」

――黒江と圭子の撮影していたホームビデオは如何な出来か?また、芳佳らの前に姿を見せた、シャーリーの孫『クラエス』はそのままなし崩し的に参陣する事になり、決戦の最前線に回されてしまったとか。

「ばーちゃん、なんでだよ!」

「お前があたしのを盗んだからだろ!」

「60年後のばーちゃん自身に渡してたんだからおあいこだろー!?」

「お前のせいじゃないかぁ!」

と、シャーリー親子(?)の漫才に笑いつつ、坂本と芳佳、ルッキーニは黒江達のホームビデオを見たいと懇願し、その場で映写したという。新501司令部に『孫世代の参陣』が伝えられたのはその日の夜だった。


――ミーナは「孫世代のウィッチが紛れ込んでいる!?」と素っ頓狂な声を出し、サーシャは唖然とし、ラルも『し、信じられん……孫だと!?』と驚き、竹井も戸惑いを隠せない。

「ルッキーニの孫とシャーリーの孫は確認した。つーか、シャーリーの孫ならここにいる」

「!?」

「タイムマシンがあるから、別に驚くこたぁないだろお前ら」

「し、しかしだ、少佐。孫だぞ、孫!下手したら、ココにいる全員の『孫』が見に来ている可能性が――」

ラルもこれには大いに狼狽える。子孫が見に来ている可能性が高いとなれば、当然だろう。

「子供が早くに生まれて、そいつが早くに子供をこさえた場合、下手すると曾孫かもしれん。21世紀の時点じゃ、生きていれば、私ら全員が曾孫いても不思議でない年代になるんだし」

「そうですね。21世紀じゃ私たち、生きていれば80代ですし」

サーシャが言う。21世紀まで生存していた場合、年長組は90に達する者も出て来る。

「でも、どうしてシャーリーさんの孫やルッキーニの孫がいると?」

「シャーリーの孫は私的な理由で来てたが、ルッキーニの孫は公的な任務で来てるし、それに、ルッキーニの孫は赤ズボン隊の隊長だ。見つけやすい」

「何故、公的な任務で?」

「21世紀にもなると、ティターンズとの冷戦も終わってるような平和な時代でな。練度向上の機会がそんなにないんだ。だから、過去の戦乱期に紛れ込ませて、実戦の空気を感じる教育がされているんだよ。もちろん、その頃には退役してるから、大姪達から聞いた情報だけど」

「この戦争が始まった頃の私達と似た状況に戻ったわけか?」

「ノウハウがあっても、実戦でそれの通りに動けるかと言えば、そうじゃないから、実質的にはそれ同然だ。一つ違うのは、戦争経験者が中枢にいたりする程度だな」

そう。21世紀を迎えるまでには長い年月があり、それまでには自分達が孫を持つに十分な時間がある。

「孫世代はあまり宛にするな。主に後方に紛れ込んでるだろうから、あまり前線には出てこんはずだ。むしろ、孫達にいいところ見せたけりゃ奮起しろよ。何十年後かに孫に自慢話したければ」

「あの、少佐。なんだが偉そうですよ」

「おっとスマンスマン。聖闘士としての癖がでちまった」

竹井からの指摘に、黒江は謝る。しかし、今までに比べて、纏う雰囲気に『凄み』があり、全員が流されていた。また、どこか更に大人びたような落ち着きもあり、会議の主導権を握っていた。

「ラ號も来ている。問題はソビエツキー・ソユーズが動くかどうかだな。アレに来られてはまずいことになる。思い切り、な」

「複雑ですね。王朝が滅んだ場合の国号を頂いた船が敵の切り札だなんて」

「その場合のソビエト連邦も、大抵は1991年に滅んでいる。言わば『ヨシフ・スターリンの亡霊』だよ、ソビエツキー・ソユーズは。赤化したロシア『ソビエト連邦』は、数十年で共産主義の限界に直面して滅んだ。事実上は中央集権の収奪国家だったのもあって、早晩に限界が来たしな。呪われた名前と言っていいな。だから、未来世界で王朝存続が羨ましがられてるんだ。ロシア連邦になっても、中央集権の独裁に等しい国家なのが続いてたしな」

ソ連からロシア連邦と、ロシアは実質的に中央集権国家である事が常態化していた。権威がソ連崩壊で衰えると、今度は『民主的手段』で中央集権を続けた。その滅びたソビエト連邦の名を持つ戦艦を『滅んだ軍隊』であるティターンズが使うという、滅びの連鎖でもありそうな皮肉たっぷりのゾンビとも思える光景に、ため息をつく黒江達であった。



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