短編『ジェノサイド・ソウ・ヘブン』
(ドラえもん×多重クロス)
箒達が野球に出場することになったのと同じ頃。扶桑では、連邦結成に伴う日本側からの矢のような批判を浴びていた。陸軍装備では、ミッドチルダ動乱を生き延びた精鋭外征部隊以外は戦前とさほど変わりない扶桑陸軍の装備の『チグハグさ』を指摘、自衛隊との統一を声高に叫んだ。これは扶桑軍の思考として『外征部隊に新装備をテストさせて、後方には旧来兵器を置いとけばいいんじゃなーい?』という思考があった事、重要な陸軍予算が無いことに尽きる。当時は新兵器が行き渡ったら旧式化するような時代なので、扶桑軍は急ぎ、64式小銃を公式の接触前に入手、コピーし、ミッドチルダ動乱で用いていたが、自衛隊は既に89式小銃が主力であった。連邦結成に伴い、自衛隊から純正の89式が大量に供与される事になったため、扶桑軍は更にパニックに陥った。これは99式短小銃への更新完了間近のところに、アサルトライフルである64をねじ込んだため、それへの統一を二年かけて準備して、軌道に乗り始めたところで89式が与えられたからだ。扶桑軍は基本的に射撃安定性を上げるために着剣状態で射撃するため、いざという時の銃剣戦闘に対応するために旧来の三十年式銃剣をつけている。これは自衛隊の最新型である89式多用途銃剣では短く、扶桑軍の銃剣術向けでないため、ミッドチルダ動乱では三十年式銃剣をつけた64式小銃が多く見られた。公的な接触後、それを見た自衛隊員は『三十年式銃剣をどうやって64につけたんだ?』と不思議がったという。元来、64は専用の銃剣を持つが、四式自動小銃設計メンバーが(ひいては64式小銃の設計メンバーでもある)が三十年式銃剣用の着剣アダプターを開発し、それが普及したため、扶桑軍は三十年式銃剣が未だ現役であった。加えて、銃剣術が未だに重要カリキュラムであるため、扶桑陸軍はアサルトライフルを持っても、銃剣格闘を好む傾向にある。もっとも、イラク戦争以後は銃剣術が見直されたため、扶桑軍の銃剣術を習えると、意外に好評であったという。
――クーデター事件を経た、市ヶ谷の国防省――
日本の防衛省と同じデザイン、同じ構造で作られた国防省。ここは21世紀の防衛省よりも進んだ性能のコンピュータ設備を有し、ウィッチたちの訓練設備を備えている。当時、ウィッチ世界では、日本からの移民の増加や、憲法で若年ウィッチの採用が封じられたための措置だった。既に軍にいた若年ウィッチ達を『軍人でなくする事』に猛反対があった(扶桑国民からの嘆願と文句もあった)ため、軍務が一年以上、階級が少尉〜中尉であった14歳以下の者は混乱を避けるため、勤務階級の維持と実階級の曹長での統一がなされた。ボーダーラインは『44年から45年に14歳以下だった者』で、それ以前の志願者は昇進速度などで入隊時の軍規が適応される。その辺りの相克も予想されたため、戦争直前のこの時期に前線勤務のウィッチはグランウィッチらであった。不測の事態にも対応できるため、今回、アドルフィーネ・ガランドは退役を遺留され、46年でも現役であった。総監の座はラルに譲ったが、空軍大将としては現役であるため、魔眼隊の結成のお膳立てをしており、武子を手足として使い、ルーデルを呼び寄せていた。今回においては『G機関』が皇帝直属のグランウィッチの受け皿となる秘密組織に格上げしているため、カールスラントの有力ウィッチの多くは、このG機関に属している。
「おばーちゃん、管理局の方は話しつけといたよ」
「ご苦労。これで管理局は大丈夫だな」
ガランドは義理の娘のクイントの子であり、自分から見れば、義理の孫であるスバル・ナカジマのツテで時空管理局にパイプを築いた。スバルからは24歳にして『おばーちゃん』と呼ばれており、ガランドはそれを面白がって許している。クイントがガランドの養子になっていたため、その夫のゲンヤは自分より遥かに若い義母を持った事になる。そのため、ゲンヤはほぼタメ口ながらも、ガランドを『お義母さん』と呼んでいるとのこと。
「ギンガの治療は?」
「仮面ライダーのみなさんがアタシと同じ体にしたって。肉体組織が限界だったから」
「仕方あるまい。あのスカ野郎、えげつない改造していたからな」
ギンガ・ナカジマは、ミッドチルダ動乱の折、洗脳された上で再改造されて投入され、扶桑軍部隊にかなりの損害を与えたが、スバルが止めた。その際、仮面ライダー三号こと、黒井響一郎によって処分されそうになった。その際に瀕死の状態に陥ったため、ギンガを回収した仮面ライダーらにより、助命目的での再改造が行われた。結果、ギンガも肉体的寿命を失くした『戦士』として再誕する事になったが、肉体の老いが無くなった事を嘆いている。
「オマケに三号に殺されそうになって、そこを再改造で助けたからな。生まれ持った体でなくなるのは当然だ。だが、ショックは大きいだろう。しばらくはお前に無理をさせてしまうな」
「ギンねぇは心の整理がついてないと思うんだ。だから、その分までアタシが頑張るよ」
スバルとギンガの助命には、スーパー1の技術が用いられており、中枢神経系の移植など、かなり高度な改造が施されている。神経系の移植などはスーパー1の技術の賜物で、意外に生身は残っている。カイゾーグの技術で生身と機械が高度に融合しており、時空管理局では手が出せないものになった。高度な自己修復能力を持ったため、小メンテナンスの必要はほぼ無くなった(歴代ライダーによるメンテナンスを数年に一度受ける程度)。これは肉体を機械のボディを包む器と考える戦闘機人と違い、生身と機械を融合させたカイゾーグの技術とスーパー1の技術の複合体となったた事を意味し、基礎メンテ技術の開示と引き換えに、なのはとフェイトのデザリアム戦役後の太平洋戦争参加を確約させた。
「管理局の状況は?」
「動乱でガタガタだから、もっぱら連邦の兵器の輸入に躍起になってる。魔導師に対する不信が高まってるしね」
「だろうな。事もあろうに、首都が制圧された上、他国の力を借りなくては防戦もままならなかったんだ。今までのご法度を破ってでも、組織を維持したがるのは当然のことだ」
「動乱以降は以前みたいな魔法至上主義も鳴りを潜めたし、そういう連中はバダンに入った。オマケに聖闘士とかの『肉体の限界を超えてる』のが出てきたもんだから……」
「それだけでもない。ニュータイプがマシンを媒介に起こした奇跡、人の手で作り出された『神』……。管理局が100年とちょっとかけて築き上げた秩序を揺るがすのには充分だ。
「本当、ミッドチルダこそが世界の中心なんて考えはぶっ飛ぶよ。評議会がナチスの将校だった事実なんてわかったら」
「ナチスはもはや次元を股にかけた組織に変容している。単なる敗残兵ではないよ。仮面ライダー三号の存在がその証明だ。あれだけの改造人間を生み出せる科学力……アドルフ・ヒトラーは、ジュドの意思の代弁者にすぎなかったのかも知れん」
一般的にヒトラーは極悪非道の輩とされているが、それには裏があり、彼はジュドの意思の代弁者に選ばれていたからで、ジュドの復活に必要なエネルギー『バダンニウム』に変換されていたというのが真実であり、通説よりオカルト風味が強い。ヒトラー亡き後の残党が組織だって行動していたのも、ジュドの指示によるものだ。仮面ライダー三号は強力な仮面ライダー型改造人間であり、スペックにおいては一号〜V3を遥かに凌ぎ、あのストロンガーとも互角である。ガランドはそれらを指摘する。
「あ、三号の過去だけど、分かったよ。改造される前、当時に結婚してた奥さんと子供を殺されてて、それをダブルライダーのせいだと思ってる。それが彼の行動の本当の理由だって、フェイトさんが」
「黒江大佐にも伝えてやれ。大佐は7人ライダーを慕っている。その気持ちが強いからこそ、ダブルライダーを倒したという彼を否定したいのだろう。彼が真実を知ってくれればいいんだがな、黒井響一郎というのだろう?彼の名は」
「だね。悪に加担してた以上、善に転向するには、ZXやライダーマンのような禊が必要だもの。彼は正統な仮面ライダーの系譜にはない『アナザーライダー』になるかもしれないけど」
スバルの言う通り、三号は正統な流れの三号であるV3の存在により生まれるはずのない仮面ライダーである。バダンでの『ホッパー・バージョン3』と言うコードは、バダンから見たボディの形式名のようなもので、彼の名そのものではない。黒江(と、その影響を受けた調)が三号を嫌うのは、ダブルライダーが倒れた歴史を何処かに作ってしまったという事実と、『本郷猛と一文字隼人を冥府に送り込んだ』と黒井が言ったからで、黒井からは『慕ってる誰かが死んだショックで、親に駄々をこねてる子供』の扱いをされている。彼は黒江の転生後に於けるミッド動乱での対面時、黒江に『世の中は単純には出来てないのさ、お嬢ちゃん。勝てば『正義』、負ければ『悪』になる。それだけだ」と告げており、彼独自の美学を垣間見せている。人間であった時に設けていた妻子を失った事で、ショッカー(バダン)に忠誠を誓った黒井。その更正を期待するスバル。
「大佐のそのところは、赤松に任せるしかないな。『あの子』は精神の再構築のために、子供っぽいところがあるからな」
「それがあの人の魅力でもあるんだけどね」
――黒江に子供っぽさがあるのは周知の事実であり、その側面が三号を嫌う最大の要因である。黒江は煮え湯を飲ませられた事、本郷と一文字をどこかの世界で殺された事への怨恨から、三号を毛嫌いしている。調が『マガイモノ』と口走ったのは、黒江の持つ、三号への強い怨恨の感情の影響である――
「バダンの首領がジュドなら、アドルフ・ヒトラーは現世でのジュドの代弁者にすぎない……。それもなんか凄いけれど、」
「ナチスは、ジュドの手足になる組織として組織されたのかも知れん。そして…、呼び寄せた尖兵達」
「ネオショッカー、ドグマ、ジンドグマ……」
「それらはバダンの兵力を整えるまでの時間稼ぎにすぎなかった。ZXが裏切りの際に倒した者もな」
「だね。おばーちゃんのほうは?」
「グランウィッチへの反発はある。だが、奴らも気づくだろうな。ウィッチの居場所と思っていた場所が国が容易に切り捨てるだけの『価値しかなかった』と。それは自分が思い込みでつけてた価値でしか無かった。私達『グランウィッチ』は国への忠誠心や愛国心では動いていないし、陳腐な正義感などの単純な考えでも動いていない。それは今の子供らの理解の及ばんところだろう」
グランウィッチは戦後、ウィッチ組織が国家から切り捨てられそうになったのを『体験』している。そのため、国家や軍に対する単純な忠誠心と愛国心は持ち合わせておらず、グランウィッチや転生者同士でなければ理解できない『目的』で動く。そうでない者達からすれば『不気味』な集団であろう。特に若年層の者から強い反発があるのは、グランウィッチの『経験を前提にした達観』である。だが、グランウィッチは『戦闘のプロ』であり、『非合法も行える』者達なので、軍から重宝されている。そこが若手の反発なのだろう。
「私達は非合法でも任務は実行するが、あいつらは街への爆撃任務さえも拒む。普通の倫理観で戦争ができるか?」
「確かに」
「奴らにとって、今の状況は『墓場の骸骨とタンゴってる』異常な状況らしい。が、私達にとっては、あいつらの『平常』こそが異常だよ」
ガランドを始めとするグランウィッチは、ウィッチ世界の平常から『はみ出した』集団である。それでいて、現役には不可能な『一騎当千』を実現した集団なので、現役ウィッチとは明確に別扱いされている。それに近い立場であるペリーヌ・クロステルマンは、若手ウィッチらの怠慢を糾弾し、ウィッチの居場所は兵器の進歩で『無くなる可能性が大きい』ものであると公言している。
「現場の若手は嫉妬してるのさ。自分らがどう頑張っても出せない戦果を持ち帰り、しかも人間相手でも安定した戦果を出せる。そこなんだよ」
「全てを一度『経験してる』からね」
グランウィッチの出現はウィッチ世界に限る話でもなく、なのはとフェイトがそれに該当する。生前に英雄と讃えられたほどの活躍を残した者達に与えられた特権とも取れるため、若手たちの反発はその点も大きかった。グランウィッチを一つにまとめる部隊が編成され、太平洋戦争で活躍するのは、グランウィッチの軍事的有用性が高く評価されての事だった。もっとも、当人達は『活躍せざるを得ない場所に飛び込む覚悟をしたからこそだ』と冷静であり、その温度差も双方の対立の原因だった。
――2016年の日本でも、当時に衰退の様相を見せていた左派は『扶桑軍人であることを隠していた』扶桑出身自衛官の排除ができなくなった事を苦々しく思っており、自衛隊の要職からの排除を目論んでいた。その要職とは、統合幕僚監部などの要員である。当時、後に扶桑軍軍人であったと判明した女性自衛官は相当数がおり、佐官級から尉官級将校になっていた。しかも、殆どが年ごとの広告塔に使っていたような者達であったのも、背広組の恐怖を煽った。背広組はここのところ、設立以来持っていた優位性を失いつつあり、『旧軍出身者』が第三勢力となり、自分たちの領域を侵すのでは無いかという強迫観念に囚われ、見苦しい派閥抗争の幻想を抱いていた。実際は連邦結成で、『自衛官としての籍を保有していた扶桑軍人達は自衛官を兼任できる』という方法で事後承諾がなされたのだが、それに納得しない背広組は大勢いた。これは扶桑軍の実戦ノウハウを欲しがった制服組の働きかけによるもので、上部組織の統一による統合運用を理由に自衛隊と扶桑軍は人材交流を進めていく。蚊帳の外に置かれ、再建も後回しにされた海保は不満を顕にしたが、当時、太平洋戦争を控えていると教えられた日本政府に海保を再建する興味は薄かった。そのため、治安維持に戦艦や超甲巡が駆り出される珍場面も続出した。2016年のある日の世界の珍ニュースに『密漁船が漁をしようとしたら、戦艦が止めに来た』というものが紹介され、海外のネットで『ジャパンは密漁船の監視にバトルシップを持ち出すのか??』と話題沸騰になったという。実際の事情としては、海保が対ロシア戦で死に体になっており、それもあり、自衛隊(扶桑軍)艦艇には海保の代行権限が付加されていた。海保が必死に追いかけていた不審船が、その海域を通りかかり、現れた戦艦土佐に狼狽え、降伏したというものだ。戦艦のビジュアルは不審船には凄まじい迫力である。旧式の土佐であっても、ポスト・ジュットランドタイプには代わりはなく、佐世保の在日米軍に好評だった。連邦結成に伴い、日本は戦艦を受け入れられる港を持つようになっており、概ね、かつて戦艦、空母を受け入れられた軍港が停泊地に使われていた。しかしながら、扶桑は超大和型戦艦を抱えているため、それら大和型ファミリーは沖に停泊する事も多く、大和姉妹が拡大改装で全長が290mに伸びていた事も話題になった。アイオワ級よりも20mも長く、更に幅も拡大していたのもあり、実際の艦影は史実よりストレッチされている。同年に停泊中の大和を取材にしに来たTV番組のクルーはその巨大さにど胆を抜かれた。今回は未来兵器が積み込まれていたため、側面が宇宙戦艦ヤマトに近いシルエットを持つのもあり、改装の威力が素人目にも分かった。主砲塔のデザインも宇宙戦艦ヤマトと同デザインになっているので、防衛省の説明『宇宙戦艦ヤマトの技術の改造が施された』というのは嘘では無いことは証明された。また、連邦軍がラ號を運用していることは伏せられていた――
――2000年では――
「よーし、打ち上げます」
暗部部隊の証拠を積み込んだ超小型ロケットを打ち上げ、太陽に向かわせ、処分する一同。
「これで証拠隠滅は完了か……。しずかには気づかれてないな?」
「大丈夫です。しずかちゃん、バイオリンのレッスンですから」
「しずかさんのバイオリン、この世の物とは思えないけど……」
調がズバッと言う。しずかのバイオリンは音波兵器の域であると。ジャイアンの歌と合わせると超音波兵器と化し、ガイアのスーパーロボット『勇者ライディーン』のゴッドボイス同様の破壊を周囲にもたらす。調はシンフォギア装者であるので、ジャイアンの歌としずかのバイオリンを『この世のモノじゃない』と言っており、明らかに引いている。
「あれは下手の横好きっていうんだよなぁ。ジャイアンもそう思うだろ?」
「うーむ……」
ジャイアンもしずかのバイオリンの『ギーコバーキー』という擬音を発する音色に参っていたらしく、スネ夫の言葉に同意した。が、ジャイアン以外の全員が『お前が言うな』状態である。全員が裏山を降り、河川敷のグラウンドで行われる野球の試合に参加したのはそれから30分ほどした時刻だった。隣町のチラノルズなるチームとの試合であり、9回・12回までの延長ありの本式の試合だった。シンフォギア姿でベンチに座る二人の姿はシュールだった。シンフォギアで守備につくと反則になるので、DHで登録している。さらに、どこからか話を聞きつけて駆けつけたガイちゃんが控えピッチャーになったため、ジャイアンズナインはのび太以外は充実したと言っていい。当然ながら、相手方のベンチでは。
「おい、コスプレねーちゃんが三人もいるぞ?」
「ジャイアンズの仲間の青狸の関係者だろ、気にすんな」
「あの青狸も顔広いよな〜」
ドラえもんが時々加わっては『のび太よりはマシだが、スネ夫より落ちる』選手ぶりを発揮していたため、チラノルズナインは三人の格好よりも、ドラえもんの顔の広さを話題にする。青狸と言っているあたり、彼らから見ても、ドラえもんは青狸にしか見えないらしい。
―試合が開始される。ガイちゃんと違い、二人は野球はあまりした経験がないが、シンフォギアの身体能力向上により、ヒット性の当たりを初っ端からかっ飛ばした―
「ハァッ!」
ミートは遅れ気味だったが、それを流し打ちでレフトに向けて弾丸ライナーをかっ飛ばす箒。アガートラーム姿で打席に立ったためか、左打ちだ。しかし、敵方にも凄いメンバーがおり、箒がサードに向かっているところで、ものすごい返球が帰ってきた。
「なにィ!?こ、これは……!」
箒はとっさにスライディングを行い、それでギリギリセーフだった。足の速さがシンフォギアで強化されている自分に追いつくほどの速度の送球を行った、レフトを守備する選手を警戒する。その次の打順は調である。のび太の打順だが、のび太では役に立たないので、ジャイアンが代打に送ったのだ。箒は次の回から解除して守備に入る事になった。(そのため、箒はショートの守備についた)アメリカ在住中、メジャーリーグの試合を見に行っており、箒よりは野球に詳しかった。ぎこちなさを感じさせた箒よりは手慣れた様子で、バットを試し打ちしている。
(ランナー三塁。私が打てば一点取れる。ライトに引っ張って無難に…。いや、クロス気味だから、深いところに打ち込もう)
ヨーヨーをアームドギアにしていたためにスイッチヒッターーのようで、振り子打法で左打ち打ちから行い、柔らかめのミートし、全力で振り抜いての弾丸ライナーを叩き込んだ。ボールがC文字状に歪むほどのパワーであったため、プロ選手でも反応できないほどの速度でかっとび、ランニングホームランになる。
(いけない、つい本気で。まっ、いいか。あのスピードだと子供じゃ反応できないし、まずは二点)
二点を先取したジャイアンズだが、選手層はジャイアンのワンマンチームに近いほどに薄く、ジャイアンの投球バリエーションが単調なため、打たれ弱いという特徴がある。弱点がのび太であるため、のび太の守備範囲を狙うのがチラノルズの戦術であるが、今回のピッチャーは開始直前にガイちゃんに変わっているため、ガイちゃんの投球に翻弄され、1回裏のチラノルズの攻撃は三者凡退に終わった。次の回の攻撃は安雄、はる夫(のび太らと比較的つるむ学友)、スネ夫の打順だが、これは連続三振に打ち取られる。ガイちゃんが最初の死闘を味わうのは、その裏の事だった。
「ふふ、ゲドゲドの絶望顔に変えてやんよ」
そのバッターは小学生にしては長身の体つきであった。ガイちゃんが投げた玉(手加減しているため、130kmの球速)を容易くミートしたのだ。
「何!?」
幸いにもファールだが、130kmの玉を軽くミートすると分かり、ガイちゃんは球速を上げたのだが。
(145kmをミートしやがった!?プロでも通用する球速だぞ!?)
「ふふ、さあて、お前の玉が不規則回転なら、それを補正させてもらうぞ」
バッターはなんと、ウィッチであった。その固有魔法は『触れたモノの軌道を制御する』もので、野球のボールの回転であろうと、回転を補正し、自分の打ちやすい回転にしてしまう。ウィッチ世界に生まれていれば、エースに成り得ただろう。その発動に伴い、オーラを纏う。ガイちゃんは更に念動力で対抗し、打球を制御し、四球目で打ち取る。
「お互い小細工は止めない?それともとことんまでやる?そっちのチーム、アンタ以外死んでもしらないよ?」
「悪いが、この力を持つのは私だけじゃないんでな」
と、互いにニヤリと笑いあう。その言葉通り、その次のバッターもウィッチであり、『物体の再加速』の固有魔法を持っており、力技でガイちゃんの打球をショート方面に打ち、打球を再加速させ、それを取ろうとした箒のブローブを弾き、ヒットにしてのけた。
「ぐぬぬ……ア○ッチ野球軍だか、アス○ロ球団みたいな真似しやがる……これ以上球速上げると、スネ夫じゃ取れないし…」
悩むガイちゃんだが、のび太の妙案でタイムが取られ、スネ夫を外し、ギアを展開している調をキャッチャーに起用する事になった。スネ夫が『手が痛いよ、もう…ママぁ〜』と半泣きであるための起用だった。
「え?そのギアだと、踏ん張り効かないんじゃ」
「野球のキャッチャーくらいなら大丈夫。それに、ガイちゃんのハイドロブレイザーを取れるの私と箒さんくらいだし。それと、膝つけば踏ん張りは問題ないよ?」
「そっか。なら、アタシも変身して、トリプルになるよ。リミッターカットできるし」
ガイちゃんは普通の格好からトリプルガイキング姿になる。リミッターをカットするためだ。この姿であれば、気兼ねなくハイドロブレイザーを投げられるからだ。
「お色直しのつもりか?」
「ハッハッハ〜。見てろよ、チラノルズ!吠え面かかせてやんよ!」
と、ご機嫌の様子で投球練習を終え、試合が再開される。リミッターカットしたガイちゃんの全力投球は先程の二人以外は全く対抗できないものであった。更に決め球としてハイドロブレイザーを用いるようになったため、小学生では棒立ち状態が普通であり、ジャイアンズナインを狂喜乱舞させる。そして、キャッチャーながら六番となった(スネ夫のポジションとなったので)調の技巧派な打撃による援護もあり、合計で五点を六回までに稼ぐ。が、二人の強打者がガイちゃんに対抗できるため、思ったよりは点差は開かず、七回裏を迎える時点では五対三と互角のスコアであった。ここでガイちゃんはハイドロブレイザーを超えるハイドロブレイザー『真龍ハイドロブレイザー』を使った。
「打てるもんなら打ってみやがれ!『真龍!!ハイドロォォォォブレイザァァァァ!』」
この超魔球はア○トロ球団級の殺人魔球でもあり、調と箒、それとガイちゃんの親友『バルちゃん』以外にはキャッチ不可能である。球速はガイちゃんの全力により、メジャーリーガー顔負けの時速180km(!!)に達しており、ウィッチの一人が身体強化を全力にする事でミートしようとするが。
「うおおおおおお!!」
「真龍ハイドロブレイザーはお前なんかに打たれねーんだぁ!いけぇぇぇッ!」
ガイちゃんの念動力とベクトル操作の固有魔法がぶつかり合う。ガイちゃんは念動力を全力で使い、ベクトル操作の固有魔法をねじ伏せるようとする。二つの力がぶつかりあった影響で、金属バットがねじ曲がり、ミートができず、ピッチャーゴロに終わる。ボールは裂けていたが、バットには当たっていたので、とっさに掴めた。
――いつしか、グラウンドの周りにはギャラリーの人だかりが出来ていた。その中には様子を見に来たドラミとドラ・ザ・キッド(偶々、デート中だった)の姿もあった。
「ヒュウ、草野球なのにえらく盛り上がってんな」
「お兄ちゃんに言われて、様子を見に来たけれど、のび太さん、案の定ベンチなのね」
「アイツはベンチウォーマーだからな」
草野球のレベルを超越した技巧対決だったのが、どこかの球団スカウトの目にも留まった。球団のスカウト担当者はガイちゃんのハイドロブレイザーに目を奪われ、『あれで男なら……』と唸ったという。
「あら、キャッチャーの子、新顔ね」
「ああ、アヤカのやつが最近に連れてきた『魔法少女』だよ。たしか、2015年で15歳になるから、この時代じゃ0歳だぜ」
キッドがドラミに説明する。キッドはダイ・アナザー・デイ作戦の折に会っており、調と面識があった。
「あの人も色々な世界に行ってるのね」
「アヤカは年の割には付き合いやすいぜ?のび太達をガキと見ないで対等に付き合ってるし」
黒江は素の精神年齢がのび太達とそれほど変わりない事もあり、のび太達とつるむ事が多い。良く言えば、誰にでも気さく、悪く言えば子供っぽいところがあるが、その性格が魅力である。キッドはタイムパトロールでの仕事柄、連邦軍とも仕事をすることがあるが、黒江ほど気さくな軍人は見たことがない。
「確かに、あの人、大人っぽいけど」
「ああ、外見で判断すんなよ?外見は変えられるようになったらしくてな。どういう姿になってるかは気分しだいだそうだ」
「何よそれ」
「俺に聞くなって、へちゃむくれ。俺もドラえもんから聞いたばっかなんだって」
「あの三人とお兄ちゃんは、どういう関係なの?」
「戦友だとさ。その直系の弟子だそうだけど、あの子は」
キッドの言う通り、黒江を含めたレイブンズの三人の容姿は時と場合によって変化するモノになっており、黒江は調、箒、美琴の三人を主に用い、(マリアの外見も用いる)圭子は最近、ブラッ○ラグーンのレヴィの外見を気に入っており、それで普段は通している。外見も然ることながら、ゲッターの使者になったための戦闘狂ぶりと重なり、『トゥーハンド』の渾名を用いるお茶目な側面がある。黒江が外見に引っ張られがちなのに対し、圭子は自然に地とキャラをすぐに切り替えられるため、圭子としての優しさと『レヴィ』としてのガンクレイジーを両立させている。また、レヴィとしては大酒飲みであるが、圭子としては酒を控えているという生活面の工夫もしている。その事もあり、圭子は戦闘面ではガンクレイジーな振る舞いをする一方、普段の生活では母性を多めに表に出している。(とはいうものの、変身能力のために口調は荒いが)圭子はレヴィとして裏社会で活動して、相応の名声を得た上で、諜報活動に活用している。そのため、レヴィの姿である時は『ハジキ』などの単語を積極的に用いている。黒江は変則的にシンフォギア装者(シュルシャガナ/アガートラーム)となった影響もあって、正統派主人公属性を強めたが、圭子はガンクレイジー属性が加わった事で、芯がバイオレンス系になった。元から変化がそれほどないのは、智子くらいなものだ。また、黒江は変身時に凡ミスをする事もあり、箒の姿でIS学園に行き、アガートラームを纏って模擬戦を何度か戦った際に『My turn!』(これは箒でなくマリアの口癖で、『私の番』という意味)と口走ってしまい、そこから一夏に感づかれている(戦いの中で英語を口走ることはまずないため。後に、箒もマリアとの魂の共鳴でそれを言うようになったが)。帰る際に、一夏からは『本当の姿で入ればいいだろう!』と激怒されているが、部外者には厳しい姿勢のIS学園に入るために、箒の姿を使ったことは、千冬が不問に付した。これは地球連邦の事情を考慮しての事である。一夏はISを進化させてもらったが、心が折れたため、しばらく立ち直れなかったという。
「戦友……」
ドラミがその意味を知るのは、もう少し後のこと。野球の試合がクライマックスを迎え、ガイちゃんが死闘を展開する。それを見つめる某飲料水の球団のスカウト。ガイちゃんは類稀な才能があるため、調共々、2004〜2008年の五輪ソフトボール代表チームに招聘され、連覇の立役者になったとか。
――ドラえもんは箒とマリアの関係について、如何のような見解を述べている。二人は共通の過去生を持ち、同じ魂から派生した存在である事。その『ある人物』(黒江の推測では、日本のとある高校の軽音部部員だとの事)の優しさを主体にして生まれたのがマリア、激しいところが主体になったのが箒ではないか?と。箒が難なくアガートラームを纏えたのは、マリアと同じ魂を持つのも要因の一つではないかと。出木杉の推測は正しかった事になる――
『ハイドロォォォォ!!ブレイザァアアア!!』
『来い!!』
ガイちゃんの投げたハイドロブレイザーがチラノルズのウィッチを打ち取るべく、不規則変化を起こす。だが、彼女の目がギラリと光り…。
ハイドロブレイザーに忍び寄る、ある二文字。バッターの意気込みが込められた目に気づいた箒は、安雄、はる夫にアイコンタクトをし、守備を固める。それはどういう意味か。ガイちゃん必殺のハイドロブレイザーの……。
「でりゃあああああ!!」
彼女の全力によるミートにより、砂が巻き上がり、彼女自身の体を傷つけていく。彼女の最大最後の『必殺打法』。その名も。
「水爆打法ぉぉぉ!!」
のび太はすぐにその意味を思い出し、ナインに警告する。
「みんな、急いで外野にいって!!早く!」
「どうした、のび太」
「ぼくの記憶が正しければ、今の打法の名前は……アス○ロ球団の殺人打法だ!」
のび太の警告も虚しく、ハイドロブレイザーは水爆打法(水爆の如きパワーで人間ごとホームランとし、人間ごとスコアボードやフェンスを粉砕する殺人打法)ガイちゃんは受け止めようとしたが、ボールはガイちゃんを捕球したグローブごと大ホームランとならんと、かっ飛ぶ。ガイちゃんはグローブを犠牲に、背中のスラスターを吹かすことで脱出には成功したが、ハイドロブレイザーを大ホームランにされたショックで放心状態に陥っていた。スコアもこれで五対四の瀬戸際に追い込まれるジャイアンズ。
「そんな……ハイドロブレイザーが……。決め球なのに……」
「狼狽えるな!相手がアス○ロ球団なら、こちらはミラクルジャイ○ンツ童夢くんって手がある!!」
「ジャイアン、慰めになってないし、マニアックだって」
「いいや、ここはあたしに任せろ!」
「な、なのはちゃん。どうしてここに?」
「ちょうど休暇取れてね。ガイちゃんを下がらせて。あとはアタシの魔球でどうにかする」
なのはが乱入してきた。なんと魔球が投げられると豪語し、ホームランボールをキャッチしての派手な登場だった。
「なのはさん、どこのマグ○ムエースですか?」
「なーに。前に仕事でカラオケ大会で歌ってから、アニメ見てさ」
調にそう返し、ニィっと笑うなのは。野球を覚えたらしく、さっそく投球練習を終え、次のバッターへ見舞った。
「行くぞ!44(フォーティフォー)マグナム!!」
なのはが投げた44(フォーティフォー)マグナム。元ネタのアニメに於ける44ソニックを自分なりのアレンジで強化したもの。なのはが投げると、桜色の閃光を纏っている。速度はガイちゃんの全力をも凌ぐ。そのため、小学生相手に放つ球ではないが、ある意味ではなのはのホリシーの発露だった。
(なのはさんの魔球、メジャーリーガーも裸足で逃げ出すよ……これ。私がギアでギリギリなんだから)
調も流石に、ハイドロブレイザーをも凌ぐ超魔球『44(フォーティフォー)マグナム』には冷や汗をかいていた。ギアを纏っていても、衝撃がズシンと来るのだ。とても子持ちのやることとは思えない。なのはの介入で態勢を立て直すジャイアンズ。ベンチでは。
「な、ナニあれ!?何あれ、ねぇ、のび太!」
「なのはちゃんの必殺魔球『44(フォーティフォー)マグナム』。たしかアイ○ンリーガーの……」
「ふぇ!?たしかあれって44スクエアじゃ?」
「あれ?そうだっけ?」
ガイちゃんとのび太の会話は、なのはが投げた魔球を当てる事に集中していた。が、次に投げたなのはの魔球がこれ。44(フォーティフォー)マグナムすら超える威力の魔球。
「アステノイド・キャノォォン!!」
地面を抉り取るほどの球威。打とうとしたバッターが弾き飛ばされ、調が咄嗟に足のローラーをフル回転させても数センチは後退したほどのパワーだった。が、審判は判断に迷った。地面を抉り取る過程で、低く飛んでいたからだ。
「す、ストラーイク!」
バットは振られていたので、そこを重視したらしい。調はタイムを取り、なのはにその事を告げる。
「なのはさん、球の軌道をもうちょっと上げて下さい。ボールになっちゃいますよ」
「ちょっと低く投げすぎたか?」
「ええ。あれじゃボールになるんで、せめてもうちょっと」
「分かった」
もはや子供の草野球の範疇を超えた領域なため、ギャラリーが増えていた。もう10年先であれば、即座にネットに上げられていただろう。2000年とは、21世紀に入っていた2007年以降とはこの点で違う時代なのだ。この激闘は少年野球史上最大の死闘として、のび太達の次の世代にまで語り継がれてゆく……。
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