短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――西暦2000年。2016年から連絡を受けた調は思いっきりぶーたれていた。

「いやあ〜事後報告になるけど、悪い。お前の姿で歌ってきたわ」

「なぁッ!?師匠、私の姿で何してるんですか〜〜!?」

「基地祭でライブしたんだが、そっちに黒田からの添付メールが届いてないか?」

「……届いてますよ、バッチリ」

「それなら良かった」

「って、シュルシャガナ使ってるじゃないですか!呼んでくれれば歌ったのに〜!」

「って、ツッコむのそこかよ!?」

と、黒江も驚きの反応であった。黒江は、調が野比家滞在中の幾分かの期間、2016年に滞在しており、日本連邦樹立記念の基地祭でライブをした。その動画がシュルシャガナを使って(変身して)歌う様子を撮影したものなので、調はぶーたれたわけだ。黒江は予測より明後日の方向に怒られたため、頭の上で閑古鳥が鳴く。

「って、師匠!私の声じゃないですか!」

「こっちは今、それが終わったとこなんだよ。盛り上がったぜ。お前の姿にも慣れてきたから、精度上がったし」

「そんなことじゃありませ〜ん!」

「そう怒るな。確か、そっちの9月にドラえもんの誕生日パーティーやるついでに旅行行くから、それには連れてってやるから、な?」

「……本当ですね?」

「わーったわーった、まっつぁんに頼んで、そっちにお前が食べたがってた菓子送ってやるから」

――と、黒江はそれでなんとか宥める事に成功し、今回は調がドラえもんの誕生日パーティー兼旅行に加わる事になった。前史との変化はシャリバンがスピルバンになっている、調がメンバーに加わっている、下原がGウィッチとなったなどであった――


――ドラえもんの誕生日パーティーにて――

「今回はお前が覚醒するとは思わなかったぜ、下原」

「は、はい。大佐の娘さん達が持ってきていたジェットストライカーに触れたら、自我意識も記憶も走馬灯のように脳裏に……」

Gウィッチ化した下原定子。自我意識は前史での死の時点のそれになっている。退役時点の階級は大佐で、菅野より数年ほど早く退役している。子孫は死の時点で孫がおり、その記憶が蘇ったためか、妙な気分らしい。

「融合型の転生だな。まぁ、どうだ定子。一杯」

「加東先輩、どうして変身しておられるんですか?」

「こっちの姿のほうが気楽なんでな。気遣いばっかしてると、ストレス溜まるって言ったろう?」

圭子は前史では素顔で参加したが、今回はレヴィとして参加している。その為、振る舞いは圭子としての落ち着いたものではなく、レヴィとしての粗野なそれであり、缶ビールを開けている。

「先輩、飲んでますね?」

「一杯で酔うほど、あたしはヤワじゃねぇよ」

「マルセイユ大佐、どう思います?」

「いや、私もこの姿のケイを見た時はぶったまげたよ。ただ、あの姿だと色々、私にとっては面倒でな」

「?」

「書類仕事押し付けられないんだよ。それでいて、闘争本能全開だから恐ろしいくらいの戦果上げるから、私も文句言えなくてな」

「文句言われてたまるか、デスクワークだってこなしてるぜ!」

「おわぁ、聞いてたのか!?」

「たりめーだ、アホ」

レヴィ(ケイ)はほろ酔いだが、ちゃんと聞いているらしい。今回は色々ぶっちゃけているので、子供の前でも飲酒している。

「子供の教育には悪いが、あれがケイの素の姿なんだよなぁ」

「ティアに隠れて、水タバコ吸いまくってニコチン中毒のお前には言われたたぁねー!」

「うぅ……これだから面倒なんだぁ〜!」

マルセイユは痛いところをオブラートに包まないでハッキリ言う、レヴィとしての圭子は苦手なようである。

「しかし、大佐。今回はどうするつもりなのじゃ?」

「スピルバンさんとギャバンさんが先行して偵察に行ってくれている。前史での記憶でバダンの北海道支部の戦力はダメダメなのもわかってるから、慌てる事はないぜ、ハインリーケ少佐」

レヴィは至って冷静である。戦以外はマルセイユよりはマシ程度の飲ん兵衛だが、戦では水を得た魚のように働く。また、ケイとしてのゲッターロボの操縦技術もあるので、機動兵器も問題なく動かせる。それが自信のもとだろう。

「そういえば、まだ聞いてなかったな、定子」

「なんですか?」

「お前、どうして502に?」

「ああ、それはですね。ラル隊長が引っ張って来たんですよ。本当は私、坂本さんの招聘で501に回される予定だったんです。まぁ、今から考えれば、それは実現しましたけど」

「そうか、その埋め合わせに坂本は芳佳をスカウトしに行ってたのか」

ラルも告白しているが、下原は当初、坂本が自分の僚機になる弟子を欲しがり、リバウ時代の後輩に当たる下原を招聘した。しかし、502結成の際、ラルが強引に引き抜いたため、ミーナには電話で愚痴られ、坂本にもぶーたれられるなど、苦労した。ラルはGウィッチ覚醒後の坂本に『いいじゃないか。合併したんだし、宮藤が来たんだし、結果オーライだろ?』と笑い飛ばしている。ラルは坂本とも元から知己だったので、Gウィッチへの覚醒後は気さくな付き合いをしている。その為、下原を引き抜いた事は侘びつつも、黒江達の来訪が引き金となり、Gウィッチの覚醒が始まった事を、坂本に知らせている。

「そうです。ラル隊長からはそうと」

「なるほどな。あたしらが来たのが覚醒の引き金だな?ミーナはなんで覚醒しなかったと思う?」

「おそらくじゃが、前史でお主らとミーナ大佐の繋がりが薄かったからじゃあるまいか?お主ら、前史でトラブルを起こしておったろ?」

「それか?坂本が覚醒してくれたおかげで、今回は避けられたが、前史はミーナが百合なせいだろ、あれ」

「それは否定せん」

ハインリーケも前史でミーナが黒江らにやきもちを焼いたがため、その事は否定しない。

「坂本を神格まで修行で引き上げて、その縁で覚醒させちまえ」

「黒江大佐に言っておく」

Gウィッチの覚醒条件は存外に緩い。同位体の力も含めるため、中途覚醒も比較的容易だ。そこから神格に至るのは相応の修行がいるので、神格の力であり、属性である『不老不死』を当初から会得している者は黒江達と特に縁深い者らに限られる。(例・黒田や芳佳など)

「さて、バダンの連中はどう動くか」

「今は東北あたりか?」

「ああ。もうじき青函トンネルのはずだ。そろそろ襲ってくるはずだな」

「今回は人数がもっと増えておるから、戦闘員くらいなら問題なかろう」

「そうだな。のび太、どうだ?」

「こちら、のび太。来ました」

「よし、全員を配置につかせろ。今回は走るルートは同じだが、どう転ぶかは分からん。気をつけろ。あたしも今回は行く」

「やるのか、大佐」

「パーティーの時間らしいからな。それに敵の戦力配置が同じとも限らねぇしな」

レベッカ・リーのロールプレイをしている内に、押さえ込んでいた自己顕示欲や闘争本能の枷が外れたらしい圭子。その顔は微笑っており、Gウィッチでなければ、怖がること必至の顔だ。ここからが『パーティ』の時間だった。


――今回も撃ち合いとなり、ドミニカ、のび太、スネ夫が最初に対応した。

「おい、大丈夫だろうな?前の時も言ったが、途中でヘタれて、『ママァ――ッ!』はごめんだぞ」

「見くびらないでくださいよ、大尉。これでもいざという時はスイッチ入りますから」

スネ夫はコンバットマグナムを撃ちながら、ドミニカに言い返す。なのはやフェイトもだが、スネ夫は『ママァ―ッ』のイメージが強く、知り合った者の多くに『マザコンのヘタレ』という印象を持たれる。仕方がないが、冒険の際に、いつも尻込みをしたりする事が、次元世界を超えて有名なためだ。その風評被害を受ける当人はたまったものではないが、冒険のお約束なため、部隊指揮経験者は煽る事で、潜在能力を引き出させている。ドミニカは今回もそうやって煽る事で、スネ夫の潜在能力を引き出した。

「さて、今回はどうする?」

「レヴィさんがドラミちゃんに頼んで、爆弾の準備してるみたいなんで、その時間稼ぎですね」

「なるほど。そりゃいいアイデアだ。あ、クソ、乗り移ろうとして、ジャンプして来たぞ!」

「あ、まずい!あの位置だとのび太が襲われる!」

「援護しろ!」

「あの位置だと、こっちから狙いにくいですよ!」

「クソ、ロケランでも用意すべきだったか!」

「空気砲で投網をぶつけます!?」

「投網をどこから持ってくるんだよ!」

と、言い合う内に、のび太に戦闘員(ゲルショッカーの残党)が迫るが、それは駆けつけた調が阻止した。予めシンフォギアを展開していたのが吉と出たのだ。

「のび太君、頭を下げて!」

調は咄嗟に屋根の上から跳躍し、そのまま、元々のアームドギアであるヨーヨーで吹き飛ばす。そのまま、次に来たゲルショッカー戦闘員の脳天からヨーヨーで切り裂く。

(コン・バトラーの戦闘データ見ておいてよかった〜!)

「あれ、君、ヨーヨーできたの?」

「あ、私、本当はヨーヨー使いなんだ」

「昔、ハイ◯ーヨーヨー流行ってた時期、『スピナー』って言葉が出来たけど、すぐ廃れたなぁ、そう言えば」

「それ、ここから何年前?」

「えーと、3年くらい前だったかなぁ」

のび太が言うのは、2000年から見て、近い過去にあったヨーヨーブームの事だ。当時、月刊コロコ◯コミックを買っていたので、ブームに乗っていたこともある。世代的にそのブームは知らない調なので、影響を受けたのは『ス◯バン刑事』ではないか?とはドラえもんの推測だ。

「お前ら、話してる場合か!次が来るぞ、次!」

「分かってます、大尉!」

調は元々の技能であるヨーヨー捌きを応用した攻撃を繰り出し、戦闘員を捌く。レヴィが爆弾を持ってくるまでの時間稼ぎなので、剣や鋸は使用する必要はない。

「奴等、ゲルショッカーの戦闘員を使って来たな!」

「ゲルショッカー?」

「ゲルダム団とショッカーを合併、再編成した組織で、デストロンの態勢が整うまでの時間稼ぎも兼ねて活動していた暗黒組織だよ。ショッカーより強いけど、戦闘員の裏切り抑制で、薬がないと体の維持ができないし、倒されても、体が溶ける仕組みに改造されてる」

「なんて悪どい……!」

ゲルショッカー戦闘員の解説をのび太から聞き、一気に怒りの炎が燃え上がる調。黒江の情報クローン化したせいか、熱血漢になっているのを垣間見せる。

「彼らは好き好んでそんなの受け入れてる悪人さ。ゲルショッカーは活動時期を短く想定していたか、戦闘員は悪人ベースのホムンクルスらしいって資料をライダー二号さんから見せられた事あるよ」

「ほ、ホムンクルス!?」

「見て。君が吹き飛ばした戦闘員の死骸が燃え上がて、溶けていくだろう?ゲルショッカーはそこが歴代でも怖い組織なのさ」

以後の組織も、戦闘員の行動抑制は良くないと踏んだか、デストロン以降は普通の人間ベースに戻っている。ゲルショッカーの目的の一つ『デストロンまでの時間稼ぎ』なら、人件費削減には理に叶ってはいる。

「そんなモノを生み出すなんて……。私の怒りは……爆発寸前ッ!」

「綾香さんに似てきたねぇ」

と、黒江に似たらしく、怒りの炎を燃え上がらす調。乗り移って来た戦闘員に回し蹴りを食らわせ、吹き飛ばす。かつてと明確に違う思考回路になり、黒江譲りの熱血回路になっている。元々、シュルシャガナのギアは格闘戦向けではないギアだが、黒江からの情報で立ち回り方を覚えたのだ。

「レヴィさんはまだなの?」

「そう急かすな、ガキンチョ共。用意終わったぜ」

片手にベレッタ、片手に爆弾と、珍しい組み合わせで、レヴィは乗り移ってきた戦闘員の頭を打ち抜きつつ、登場した。ベレッタを連射しつ、のび太に言う。

「のび太、こいつを奴らの足下に転がすからショックガンで真下に押し込めろ、出来るな?」

「がってん!」

レヴィは爆弾のスイッチを入れ、敵のディーゼル機関車の進路上に転がす。そこをのび太がショックガンを撃ち、爆弾を機関車の真下に衝撃波を用いて押し込む。そして、爆弾が起爆し、機関車はド派手に横転していく。

「のび太、しずかに言って、スピードを上げさせろ!振り切るぞ!」

「はい!」

横転から難を逃れた戦闘員らが追ってくるが、のび太からの指示を受けたしずかが野比家トレインのスピードを上げる。銃で戦闘員を撃ち倒しつつ、逃走する。

「まるで、GジェンマかFネロみたいな気分だぜ、これ」

「ウエスタンものに、列車のアクションはつきものですからね。ウェインのやつにもあったような気が」

「いや、レヴィさん的にはケイシー・ライバックの女版じゃ」

「ああ、セ◯ールか。たしかにそうかもな」

調がツッコむ。西部劇かぶれののび太と違い、レヴィはファッションもそうだが、アクション的に沈黙シリーズである。ふてぶてしい態度もあり、本当の姿である『加東圭子』と同一人物である事を推察するのは不可能である。

「元の姿と関連性がないな、その姿」

「当たり前だ。バイオレンス上等のアクション漫画から頂いたものだからな」

ドミニカに言う。加東圭子としての姿と関連性が全くないし、性格も粗野な銃撃狂であるのは、ロールプレイも兼ねていた事を。

「最初はストレス解消も兼ねてたんだが、なかなかどうして、『ハマって』な。今じゃ滅多に戻らねぇようになった」

「マルセイユ大佐は怖がってるぞ?」

「あいつにはわりぃが、案外、素の自分も『斯く有るべき自分』を演じてることに気付いちまった、でもそれも自分、今のこれも習い性になって自分の一部さ。あいつにはいいお灸だろうよ」

レヴィは加東圭子としての自分も『周囲から求められている理想の自分』を演じている内に確立された人物像である事に気づいてしまい、レベッカ・リーのロールプレイをしている内に、自分のありのままの姿はレベッカに近い事に気づき、今ではレヴィとしている事が常態化している。

「なるほどな。大佐にはいい薬かも知れん」

「あいつはアフリカじゃ飲ん兵衛で、任務以外は飲んでやがったしな。まぁ、偶にはお灸を据えないとな」

マルセイユはこの時、圭子の不在中、アフリカを支えようとした功績により、圭子と同等の大佐に登り詰めていた。マルセイユは前史よりも早く、クスィーガンダムまでも用いたが、今回もアフリカの失陥は避けられず、その悲しみでGウィッチとなった。同時にニュータイプにも完全覚醒したので、マルセイユはGウィッチでも珍しい『ニュータイプ能力保持者』である。Gウィッチ化の副作用で酔えなくなったが、飲むことは趣味で続けている。そのことに触れた。

「さて、この分だと、函館にはもう20分もあればつくな。交代で見張りを立てろ。ついたら歩哨も立たせる。現地にはG機関員の自衛官がいるから、そいつらを駆り出す」

「了解」

レヴィは風貌もさることながら、サバサバした戦闘狂と言える言動から、人気が高い。彼女の背中はゲッターの使者としての使命よりも黒江への友情を優先した事で生じた姉御肌を感じさせた。それを許容した竜馬は、友情に寛容なのが分かる。転生した瞬間、『ダチは大切にしてやれ』と忠告もしており、レヴィ(圭子)は明確に独自の道を歩む事になる。黒江は自分の死を引きずって二度目の人生を終え、三度目を始めた。それが圭子に罪悪感を抱かせた。圭子は転生に当たり、B世界の自分自身の肉体を取り込む事で転生したため、Bの記憶も引き継いでいる。また、黒江の奥底にある『少女』の一面が再会の瞬間に垣間見えたことから、圭子は黒江を裏切る気にはなれなかった。それが今回もレイブンズであり続けた本当の理由だ。ゲッターエンペラーと一体化した未来の竜馬は、圭子が使命を優先しようとするあまり、黒江を裏切る事を懸念しており、ちょっとだけ黒江を操り、あーやの一部を引き出し、演出した。竜馬もなんだかんだで隼人を傍観者にしてきた事に罪悪感を感じていたらしく、それと同様に、圭子をゲッターの使者にした事で、黒江から奪った形になった事の償いとばかりに、黒江の思いに応えたのだ。言わば、圭子をウィッチ世界に留ませたのは、竜馬の、ゲッターエンペラーの意思でもあった。『友情は裏切るな』。それがゲッターの皇帝直々の忠告であった。黒江を操ったのは、その一瞬だけだが、圭子に逃げ道を与えぬためであり、確実性を得るための竜馬の手助けだった。手法は単純明快。あーやとしての面を引き出し、思い切り泣きじゃくるように仕向け、周囲の注目を集めさせたのだ。そのため、慌てた圭子は隊舎の自室に慌てて連行したものの、事態を誤解した江藤の査問を受ける羽目となったとか。まさか、智子はともかく、黒江に大泣きされるとは思わなかったのだ。江藤には『私闘したのか?』と査問され、圭子は必死に言い訳したが、状況が不利であり、営倉行きかと思ったが、赤松が『ちょーっと待ったぁ!』と介入、場を収めた。『ボウズは儂が預かる。なーにちょっとした事だ。江藤、儂に免じて、加東の娘っ子は不問にしてやれ』と、Gウィッチである事を圭子に示唆して。赤松はその日、隊に滞在し、三人を集めてこういった。『儂もお前らと同じ立場だ』と告げ、Gウィッチである事を明確に示した。黒江をボウズと呼ぶことを、転生の証拠とした。黒江はこの事もあり、赤松を慕う心が揺るぎないものになった。気になって、後で圭子が『赤松が黒江をボウズと呼ぶきっかけの出来事』を調べたが、似た出来事はあったが、ボウズになるほどの怪我はしていない。黒江もそれを知り、大喜び。前史では孤独感を味わったため、赤松という理解者の登場は『砂漠を彷徨って、オアシスを見つけた』ような感激だったのだろう。また、黒江はその日、添い寝をしてくるほどに圭子にべったりであった。それを回想したのか、苦笑いのレヴィだった。

(……そいやそんな事あったっけな。元に戻った時に、ノートに書くかな。この姿じゃ柄じゃねーし)

圭子はジャーナリストとしての自分と、戦闘者としての自分とを分けるようになっていた。レヴィとなっているのは、戦闘者としての自分を出すことが多い局面で、変身能力会得前でも、レヴィを完璧に演じられるだけのガンクレイジーだった。今回においては『銃撃狂のケイ』とも内輪で恐れられており、レヴィの正体がケイであると分かっても、同期と事変経験者は驚かない。圭子の同期であった『篠原』少尉(当時。後に空軍参謀)は、レヴィとして会った際、『話を聞いて、お前だと思ったよ』と、豪速球でぶち抜く様一言を言ったという。





――数時間後、北海道につき、一同はくつろぐ。のび太は昼寝、レヴィは一端、圭子に戻って、ノートにさ先程の回想を書き始め、スネ夫とジャイアンはTVゲーム、しずかと調、下原は料理、マルセイユとハインリーケはトレーニング、リベリオン勢はトランプでポーカー、ドラえもんとドラミは各部の点検、とりあえずの歩哨は今回も参加したキッドが引き受けた。圭子は久しぶりに本来の姿に戻っているので、逆に驚かれる。

「ケイさん、食事を持ってきました」

「あー、そこ置いといてくれる?」

「は、はい。……本当に性格違うんですね」

調に驚かれる圭子。

「まー、どっちも私だしね。人当たりはこっちのほうがいいし、アレは基本、お遊びモードで力一杯馬鹿やる為の姿、デリケートな仕事や手続きとかの生活で必要なところはこっちって切り換えてるからね」

「そうなんですか……」

温和な印象を与える素顔。レヴィが戦闘やストレス解消のための姿なら、穏やかな振る舞いの圭子が本来の姿だ。

「マルセイユには悪いけど、あっちの馬鹿やってるのも楽しいんで、ついそのままってのが増えちゃってねー」

苦笑する。大人な振る舞いであり、レヴィより遥かに人当たりがいい印象だ。だが、圭子に取っては、黒江達のように、馬鹿をやれないのが最大の難点であり、レヴィという姿は圭子に取っての『馬鹿をやれる』姿なのだろう。

「あれ、ケイさん。元から銃を?」

「銃使いなのは元からよ。この姿だと、狙撃手って体裁が強かったけど、レヴィの時の立ち回りも出来るわよ。ま、同期の連中には知られてるけどね」

扶桑海事変で、九七式自動砲を抱え、ポーズを取る写真を調が見つけ、圭子は銃撃狂の理由を説明した。圭子がガンクレイジーと言われるようになったのは、基地に直接空挺降下する怪異が隊舎に侵入するという、前史にもなかったピンチを脱するため、レヴィの時に行う立ち回りを初披露した事が原因だ。対人用の立ち回りであったが、前史から引き継いだ身体能力で効力を発揮、それをGウィッチとなったガランドがその場に居合わせ、北郷と江藤も驚愕し、恐怖でへたり込んだ11歳当時の竹井を救出した。その武功から、『銃撃狂』と畏れられるようになったのだ。ガランドはその動きを『バレットダンス』と名付けた。帰国後、ガランドはそれを訓練に盛り込もうとしたが、却下された経緯がある。しかし、真501はそれを実行できるGウィッチが豊富であることから、有効性が実証されている。(芳佳も、リーネを護衛する際に使用し、敵を負傷に留めて撤退させている)

「いやさ、その写真の頃は狙撃の名手で鳴らしててね。今みたいなガン=ガタもガンフーもこなすオールラウンダーって言われてなかったのよね。黒江ちゃんの記憶で知ってるでしょ?」

「師匠のこと、そう呼んでるんですね」

「ああ、昔の癖よ。やり直す前の名残りって奴。黒江ちゃん、私より三歳下で、当時は妹みたいなもんって考えてたから」

圭子としては『黒江ちゃん』と呼ぶ。それが明確な差異である。

「最近はほぼ娘だけど」

「確かに。師匠、意外に理解者得にくい性格ですからね」

「敵対関係になると、情け容赦なく潰しにかかり、仲間には慈愛を見せるっていう面が、精神崩壊で顕著になってね。ダイ・アナザー・デイの時は大変だったわ、怒ったのを抑えるのが。子供達にエクスカリバーやりかけたし」

―ー今回はミーナが中立的に事を裁決したため、表ざたにはならなかったが、ガランドはケイにレヴィに変身しろといい、それで決着させると指示し、結果、レヴィとなる事であっさり決着した。二度目の『やり直し』においては、この旅行はダイ・アナザー・デイ作戦の後に起こっているという事になっている。作戦の際の『圭子』の姿であっても胸クソ悪いような対立、黒江に至ってはエクスカリバーを使いかけるほどであったが、圭子がレヴィとなる事であっさりと幕切れとなった。変身能力を見せることで、転生の実在、地力の差が否応なしに示されたからだった。サーニャの扶桑への亡命を仲介していた事も重なり、エイラはすぐに恭順。ロスマンはレヴィが『雁渕ひかり』(他世界では『雁斑』)への厳しさをネタにし、ハルトマンからの『陽気な享楽家の面をバラすよ〜?』との脅しが効き、数日後に恭順の意を伝えた。しかし、やはり全ては隠せず、対立の事が二度、査問委員会にかけられ、その(一度目は作戦前、圭子の指示で三将軍が開いたもの。二度目は作戦後に『対立』を目撃した兵からの通報による形式上のものだが)際に、公的に詫びている――

「まぁ、大変だったわ。子供達をどう諌め、手綱を引くか。ミーナにこう言ってもらったわ。『戦う者が自分の立ち位置を見極められないならそのまま気が付かないうちに滅ぶだけでしょ。 少しは目先の戦いだけではなく自らの立場を見直すべきなのよ』って。あの子、前史での対立を坂本や竹井から聞かされて悩んでたみたいで、私達を擁護することで、前史の禊をしたのよ」

「ご苦労様です」

「そうなの。だから、レヴィになるのよ。ストレス溜まるから。何か用があったら呼んで。変身してから行くから」

「分かりました」

――と、ノートを書き始める圭子。本来の姿を垣間見た調は、圭子という人間に惹かれるのだった――



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