短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)
――調は旅行でも、黒江の言いつけに従い、シンフォギアは解いておらず、そのおかげで、ゲルショッカー戦闘員の襲撃に迅速に対応できた。セブンセンシズでバックファイアと装着維持時間の制限が消えた事もあり、『風呂と用を足す』以外は体を『慣らす』修行も兼ねて、三ヶ月ほどシンフォギア展開生活を続けている。そのため、6月から8月までの夏季をシンフォギア姿で過ごした事になる――
「うん。私は師匠の言いつけもあるから、師匠に呼ばれるまでは、のび太君のところにいるよ。切ちゃんも修行、頑張って」
「ありがとうデス、調。でも、なんだか不思議デス。別の世界に行けるなんて」
「私と師匠とに繋がりが出来たのが、そもそもの始まりだから。師匠が私の姿だった時、色々とやったのは詫びてたでしょ?」
「う〜、まさかあの時は別人が成り代わったなんて思わなかったデスよ。確かに、冷静になって考えてみれば、確かに別人って分かる事多いけど……」
「本当、師匠から話聞いた時、失望しかけたんだから。アトミックサンダーボルトやケイロンズライトインパルス撃ってたんだよ?それに……背丈が全然違うのに」
「後で響さん達に聞いたら、石破天驚拳も使ってたそうデス……。一生の不覚デス!」
野比家の電話で連絡を取り合う二人。切歌は正気に戻って考えてみれば、分かりやすい違いがあるのに、全くもって見抜けなかった。どうしてなのか。全ては切歌自身の勘違いと早とちりが原因であり、黒江も災難だった。黒江は切歌には本気で刃を向けられ、当時のマリアからは矛先を、響からは拳を向けられた。切歌のヒステリックな嘆きも、誤解を招く原因だった。ただし、装者達の中では響がスタンスが120度ほど違う(技の前口上で正義を淀み無く言う、ギアの配色が初めて出会った時と根本的に異なるヒロイックなものだったり)事から、別人ではないかという疑惑を抱いていたし、クリスは直接対決で明かされている。勿論、黒江は自衛のため、響にはローリングクラッシュを食らわせた経験がある。また、戦闘に巻き込まれた小日向未来(響の親友)を米軍から救うため、ギア姿でレヴィと同等のガンプレイも披露している。響、クリスが、調が別人であると看破したのは、このガンプレイである。
「未来さんから聞いたデス……。あの人、米軍から未来さんを守るために、米兵を拳銃でなぎ倒したそうデスね?」
「レヴィさんの戦友だし、同じことは出来る。最も、剣技こそが真骨頂だって言ってたけどね」
クリスが目撃したのは、ベレッタを両手で二丁拳銃で構え、米軍を片付けていく姿。その時の目が完全に『水を得た魚のように、血と硝煙の匂いを愉しむ』目であったため、凄まじいギャップに戸惑いつつも、確信を得た。黒江は正体をさらけ出す事を、途中から確信犯的に行っており、実のところ、フロンティア事変が最終局面を向かい始める頃には、目の前で振り込め詐欺したグループの元締めの893の事務所をギア姿で殴り込み、潰しており、裏社会で噂が立つほどの暴れぶりだった。その際にガンクレイジーと噂をわざと立てたのだが、そのおかげで、調自身が帳尻合わせの訓練に苦労したのは言うまでもない。
「師匠、レヴィさんを意識して、ガンフーなんてやって893の事務所潰したもんだから、あとで私が苦労したよ。銃の訓練したのは、その矛盾解消のためだよ」
「な、なぁ!?」
「なんてたって、シンフォギアを公にするわけにはいかないし、師匠、転移前にガンカメラつけてたから、それを使って、護身のためだって通したそうな。で、二課に保護された時に証拠映像出して、お咎めなし。たしか三つくらい潰したとか?」
「……。あの人、よくそんなアクションがシュルシャガナで…」
「師匠はプロの軍人で、それに聖闘士だよ?ギアの違いは些細なものだよ。アガートラームであろうと、シュルシャガナだろうと」
黒江達の領域になると、身につけているものが何であろうと、最大戦闘能力を発揮できる。黒江にとっては、身につけているのが黄金聖衣であろうが、シンフォギアであろうが同じことだ。これが黄金聖闘士の領域に達し、神域に達した者の力だ。
「……力の違いデスね。ワタシとマリアはまだ至ってない。でも、あの人との同調をした調は早くにセブンセンシズに……」
「その辺りは努力しだいってしか言えないよ…切ちゃん。師匠だって知ってから至るまで苦労はしたけど時間はそんなにかかってないから、体力はいるみたいだけど」
「うへぇ……」
「それじゃ、切ちゃん。北海道につくから。一筋縄じゃいかないし、今度の相手」
「え、ちょっとぉ!?」
こういうやや、強引なところも黒江の影響だ。黒江は強引に、自分の流れに引き込むのを得意とするが、彼女は慣れていないため、やや唐突な印象である。作戦会議があるためだった。スピルバンとギャバンの偵察で、今回はそれなりに増援を呼んだことが分かったからだ。
――作戦会議――
「よーし、よく聞けガキ共。スピルバンとギャバンの調査で、『今回』は北海道にある程度の増援を送ってたみたいだ」
レヴィとなって、圭子が場を仕切る。戦いが戦闘主体であると、レヴィとなる。圭子の特徴は鳴りを潜めるが、レヴィとなっても、統率力はそのままであるので、ある意味では『協調性がマシになり、統率力を得たレベッカ・リー』と言える。圭子はジャーナリストとしての原稿は本来の姿で、戦闘でのバイオレンスさはレヴィという形で発露してゆく。今は両者の中間、姿はレヴィ、口調は圭子寄りの軍人モードであるので、黒江が見れば『クランじゃねーか!』とツッコむだろう。
「敵は地下に秘密基地を作ったのは、先刻承知だが、これを見ろ」
「これは……ドイツ海軍の艦艇?」
「戦艦だ。ビスマルク級の改良型が二隻停泊している。ギャバンはここを奪取、出来れば多くの敵艦艇を拿捕したいと言って来てる」
「なんで戦艦を置いてるんだ?」
「それは恐らく、今回はこの世界の北海道が奴等の修理港の一つなんだろう。地下に人口湖を作り、そこに海軍基地を築いた。戦艦を二隻停泊させても、まだ余裕がある規模だから、それなりにでかいぞ」
ジャイアンに言う。敵の海軍基地は地下に構築されたにしては大規模で、Uボートが複数、グラーフ・ツェッペリン級空母が一隻(アクイラ級空母もいた)、駆逐艦10隻、巡洋艦4隻が停泊している。
「戦艦が二隻、水雷戦隊が二個あまり、空母は二隻くらい、潜水艦は20隻あまり。どっかのイタリアからぶんどったのもいやがる。こりゃこの時代に使われたら、大事になる」
「どうしてですか」
「この時代、まだ有事法制が出来てねぇ日本じゃ、海保を行かせるだろう?そうしたら大砲の弾が降ってくる。海保のメンツ丸つぶれだぜ、しずか」
レヴィの言う通り、西暦2000年当時では、有事法制が出来上がっていないので、海保が矢面に立つ。まだ不審船事件が控えている時代の海保の装備では、正規軍の攻撃を捌けるはずがない。ましてや、想定外である戦艦の攻撃などは海自でも困難だ。テロ攻撃に使われたら、海保の死者続出、海自が出る前に米軍が出るだろう。海自を動かすには柵が多い時代、バダンはこうやって日本を荒らしていたのだろう。
「恐らく、この基地は、この時代の海保もマークしているはずだ。綾香に2016年以降の時代から資料を送ってもらったが、『往年のドイツ海軍を模した不審船がうろついている』という通達が98年頃から出始めている」
「でも、なんで手を出していないんですか?」
「軍艦を模した不審船、というのがネックになったそうだ。機能を持つかどうか、遠目からでは判別は困難だし、どこかの成金野郎の趣味かもしれないとも推察されたからだ」
往年のドイツ海軍の塗装を再現して、20世紀末の海を駆けるのは、ドイツ海軍かぶれの馬鹿成金のオタク。当時の海保での意見はこの事を掲げる者と、そうでない者とに分かれ、表立った行動は避けている。むしろ、米軍はドイツ海軍の亡霊が蘇ったのかと驚き、その行方を独自に追っており、日本政府には通告せずに水上部隊が一戦を交えた極秘記録が残されている。それによると、近付いてQ発信したところ、砲弾を打ち込まれ、現用兵器で応戦したが、戦艦に主砲を威嚇で至近に打ち込まれたショックで、戦意を挫かれたアーレイ・バーク級の一隻が敵前逃亡をやりそうになったという。この屈辱はアメリカ海軍に刻み込まれ、後に日本連邦への対抗で戦艦の新造に踏み切る贅沢をやらかす原因となった。
「綾香からの報告によると、信号灯によるモールスとかもやってたら返信が『俺のケツを舐めろ』で、怒ったメリケン野郎どもが追いかけたそうだが、振り切られたそうだ。それも駆逐艦程度じゃ、戦艦や巡洋艦の主砲弾が海面で水しぶきを立てる度に船が揺れて、操艦が困難になった。至近に落ちたら、衝撃と破片で穴が開く危険性も現用艦艇にはあるからな」
「現用艦艇ってそんなに脆いんですか?」
「この時代の船は直接撃ち合うよりも、当たる前にどうにかする思考の下に設計されている。装甲は殆どない。空母にある程度だ」
アーレイ・バーク級駆逐艦もそうだが、戦後の現用艦艇には、第二次世界大戦当時のような装甲は弾薬庫隔壁などの防御に使われている程度だ。そもそも艦艇同士の艦隊戦が過去のものとされていたからだ。装甲板を船体などに持つ設計思想が復活するのは、有視界戦闘が当たり前に戻った時代のことだ。
「だから、米軍も迂闊に追えなかったんだ。戦艦の主砲弾を撃ち込まれたら、空母でもただではすまないし、駆逐艦程度はまっ二つだしな」
当時、アイオワ級戦艦が既に予備役に戻り、また、第二次世界大戦中までの艦隊戦ノウハウが失われて久しい、米海軍は『ドイツ海軍の亡霊』に手を焼いていた。日本の海保は楽観的憶測で動かず、海自は法制の問題で出ない。これが米国が日本連邦結成に裏で協力した理由の一つでもある。扶桑からの要請に応え、日本連邦の軍制などに助言し、『自らの負担軽減』のため、祖先が日本へ被せた枷を外し始める。これは世界大戦世代から、ベトナム戦争で辛酸を嘗めた世代へ中枢部が世代交代した米国人の思惑に適ってもいた。日本連邦の結成に米国から異論が出なかったのは、日本への大兵力の駐留に異論が生じ始めていた事、敵国が旧ソ連から中国へ移行し始めていたからだ。
「この時代、日本はベビーブーム世代の引退が目前に迫っていたから、そろそろ国際情勢に敏感になり始める。世代交代が進んで、軍事への嫌悪も薄れてくるからな。日本は半世紀以上の平和で、楽観論と現実論がぶつかり合うようになる。多分、現場単位では、不審船に迅速に対応出来ないことに歯噛みしてるだろうな」
「日本は何故、自分達にも利益があるはずの連邦結成を渋った?」
「多分に、戦前期の大日本帝国への回帰を、この時代に中枢部にいる世代や、戦争経験者達の多くが嫌悪したんだろう。扶桑皇国の中枢部にいるのは、東條英機や近衛文麿とかの世代だ。年代的に軍国主義と勘違いしてる連中が多いんだろう。2009年に首相になった、鳩山一郎老の孫なんて、祖父が嘆くくらいの楽天家だぜ」
レヴィは鳩山一郎の孫にあたる、日本の革新政権の初代首相の事に触れた。彼もそうだが、戦争終結直後生まれは『戦争を知らない子供たち』の第一世代にあたるため、扶桑皇国を軍国主義国と勘違いしているし、戦争経験者の多くは『東條英機を追放しろ』である。東條英機は扶桑皇国では、事変の際に『軍事官僚』というだけで、永田鉄山亡き後の統制派の長という経歴もあり、首相にさせられ、戦争指導で失態を犯したため、早期に失脚している。そのため、扶桑皇国ではもはや、何の影響力はないのだが、日本人には『復帰の芽を摘め!』と言わんばかりに断罪し、シンパに至るまで社会的抹殺せんとする独善を働く者は大勢いる。日本が2005年以後、扶桑皇国への渡航者の犯罪行為の取り締まりに苦労するのは、過激派のみならず、戦争経験者の少なからずが1945年次に国家中枢にいた人物らを恨んでいる事での殺人も何件か起こったからだ。扶桑皇国も手を焼いたのは、こういう案件だった。
「綾香からの報告だが、日本連邦結成までに、日本人の老年層の内、比較的若い層が『親を奪った』扶桑にいる、当時の国家指導層世代を襲撃する事件も何件か起こったし、韓国/朝鮮系に至っては殺人、あるいは殺人未遂や強姦に至ったケースが多い。それで韓国人らのテロ行為を見過ごすのに憤慨した扶桑が、韓国への軍事攻撃に踏み切るわけだ」
「なんで、彼らは日本帝国と扶桑を混同したんですか?」
「日本人もそうだが、国家指導者が自分達の過去にいた人間達と同じ姿と名前を持っているんだ。それに、東京も大阪も京都もある。一般人のレベルじゃ混同しちまうよ」
「でも、安土があって、関東大震災が起こって無いから、浅草に十二階もあるはずですよね?」
「そうなんだよ。奴等はそこに気づいていない。まぁ、昭和に入る頃には、鉄筋コンクリート製のビルが増えて来てるけどな。防火と防空のために」
扶桑皇国は関東大震災が起きず、東南海大地震が44年に起きた世界に存在するため、鉄筋コンクリート製のビルはそれまでの微増から急激な増加はそれ以後の事になる。また、南洋島を鉄筋コンクリート製ビル街のテストケースにしてから本土に導入していたりしたため、扶桑皇国の東京は大正の名残りが色濃い。日本連邦結成後は日本と同じように、ビル街の建設ラッシュとなるが、扶桑の要望でビル街の建設区間は当初、新宿、池袋、町田などの当時の郊外が指定されたので、それらがビル街に変貌する最初のケースとなる。
「だから、5年後に国交が出来てからというものの、大正時代が舞台のドラマの撮影場所にされてるんだよ、扶桑の東京は」
「この時代はまだ、交渉し始めって事ですね?」
「綾香を皮切りに、自衛隊に軍人を送り込み始めた段階でもあるからな。2003年頃だったか、綾香が靖国神社に行ったのを公安警察にチェックされて、要注意人物ってされた事もある。手柄を焦った若い公安警察官がスパイと思って逮捕しに来て、返り討ちにした事もある。確か、綾香の一件が総理に報告されて、総理が公安警察を怒鳴りつけて、慌てた公安警察が任務を撤回させて、うちら扶桑出身者へのマークが外されたって聞いたな」
扶桑皇国の存在が公安警察に知れ渡り、黒江がそこの軍人である事が認知されたのも、2003年の事だ。統合を交渉していた当時の総理『ジュンイチロー』は、公安警察が黒江をマークしていた事を知り、激怒。外交問題になるのを恐れ、当時の公安警察トップの交代、幹部を減俸し、左遷させた。事を知らされた公安警察は混乱した。不意打ちされた黒江が怒り、公安警察官を死なない程度にボコボコにし、通常の警察に暴漢として突き出した事もあり、現場は報復を叫んだ。だが、公安警察官は身分を明かすことは、任務であろうとほぼタブーである事、自分達に非があるのは明らかだったからだ。黒江曰く、『死なない程度には手加減はしたぜ?不意打ちされたんだし』との事。扶桑皇国の存在が改めて通告された後、公安警察は扶桑皇国出身者と判明した全人物へつけていたマークを撤回させ、下手な行動を取らないようになった。ただし、要望として、『彼女らが他国の軍人であるなら、そうと通告してほしい。数年間の労苦が空振りになったのだから…』と総理大臣に告げたという。後日、ジュンイチローは当時の官庁幹部や当時の与党長老や三役、三自衛隊最高幹部級を集め、扶桑皇国の存在を告げ、極秘事項としての連邦結成目標を通告した。この事で、日本政府は本格的に扶桑皇国との交渉に乗り出し、2005年の段階で、条約締結寸前にこぎつけた。だが、数年間の野党の攻勢で伸び伸びとなり、政権交代で鳩山一郎の孫が盛大なちゃぶ台返しを行い、革新政権が早くも瓦解する伏線を貼ってしまう。野党が問題視したのは、扶桑に存在する巨大な軍事力と外地であった。彼らが責め立てたのは、軍人の多さだったし、『1000万人近くの軍人は、現在の軍事組織には要らない!!』とする『付け焼き刃かつ、現在の常識が前提の知識』だったし、植民地と解釈した外地だった。
「で、鳩山のジジイの孫のユキヲ君がトンチンカンな事いうもんだから、鳩山のジジイも顔面蒼白よ。外地にまでケチつけたんだぜ」
鳩山一郎が健康を害し、吉田茂の後継総理の座を逃す原因は、皮肉な事に、彼の実孫の楽天家ぶりだった。あまりの凄さに血圧が上がり、脳血管破裂を起こし、入院を余儀なくされた事で、大命降下の機会を逃し、吉田茂が結局、池田勇人が相応の年齢に成熟するまで総理大臣であり続ける羽目となる。扶桑では、大命降下は総理大臣使命の際の任命式という形で儀式が存続したため、扶桑では大命降下は総理指名の任命式という認識になった。任命式こそ『大命降下』に当たるという解釈を捻り出し、新憲法下でも残すことに成功したわけだ。そのため、吉田茂が池田勇人の成熟までずっと総理大臣であったのだ。また、吉田茂が一貫して戦争終わりまで総理大臣であったのは、日本側が近衛文麿などの無能な政治家の台頭を恐れた事、ウィッチ出身の元軍人(第一次大戦世代であり、当時に相応の戦功を上げている者)の議員が有力候補と見なされていたが、当時としては若すぎた事、日本側が強硬に池田勇人を推したなどの理由でお流れとなった。結局、池田勇人を総理大臣にいずれ指名するのを約束した扶桑は、戦争が始まる段階で、軍事顧問も兼ねて、軍令部総長経験者の『永野修身』を入閣させた。吉田茂の後継&池田勇人までの中継ぎも兼ねていたが、日本ではA級戦犯として名が残っていたため、一部から猛抗議がなされた。だが、実は親米派であった事や、日本にとっては『A級戦犯』であろうと、扶桑にとっては単なる元・軍令部総長でしかないという事実で押し黙らせた。また、単に真珠湾攻撃の際に軍令部総長というだけで入閣を妨害するのは、結成前では外交問題になるし、結成後も大問題だ。また、同じ軍令部総長経験者でも、小沢治三郎(扶桑でも、統合幕僚会議設立前は、軍令部総長として残務整理を行っていた)を推されたが、現場の提督である小沢に政治は無理だと、井上成美、山本五十六が一致していたので、結局、永野が拝命した。その際には、『軍経験者に政治を覚えさせるための中継ぎでもあるので、軍経験者が適当である』と説明し、扶桑政府は 『戦犯といっても、事後法で裁かれた罪に問うのは疑問なものであり、加えて言うなら、次元を越えた同位体と言っても、実質的には別人であり、罪を犯していない者に罪を償わせようなどナンセンスでは無いのか、御熟孝いただきたい』と抗議し、いずれ池田勇人の大命降下をするのと交換で呑ませた。日本の国民の少なからずがかつての国家指導層の同位体へ持つ持つ『次元を超えても、同位体の罪を背負え!』という無茶苦茶な理論は、扶桑が太平洋戦争間近の段階に至って、ようやく鎮められた事になる。
「で、その事もあって、哀れ、鳩山のジジイは血圧上がって、脳血管破裂で入院。結局、軍令部総長だった永野さんを中継ぎにする準備も兼ねて入閣(山本五十六の後釜)させる事にした。これも揉めたが、近衛文麿の台頭を恐れた双方が妥協したよ」
「嫌われ者なんですね……近衛文麿って」
「自殺やらかしたことで有名だし、井上さんは五目飯みたいな政治家、軍人だったら大佐止まりの無能って言ってる。不幸は、政治家にならないでいいのに、近衛家当主なだけでならざるを得なかった事だ。その孫も有能じゃない総理だったしな…」
レヴィは、近衛家は近代の政治家向けの気質ではないことをY委員会で具申した。それを聞いた史麿が、同位体の末路に恐れを為し、政界からいずれ身を引くことを表明したのを最後に、近衛家は、扶桑の政治の世界から姿を消す。レヴィは近衛文麿に第二の人生を与えることで、彼に天寿を全うしろと示し、彼から感謝される事になる。
「日本は近衛師団の連隊への改編も強く希望したのは何故ですか?」
「宮城事件の首謀者が近衛師団の若手参謀だったからな。反乱されたら大事になるから、縮小して監視しろっていう、警察からの圧力だよ」
「なんで警察が軍隊の事に口出しを?」
「そうか、定子。お前はあまりこっちに来たことなかったな。警察は軍部のクーデター事件で殉職者を出してるから、軍部を監視したがってるんだよ」
「なんだか馬鹿らしいですね」
「扶桑も軍事クーデターは前例があるが、だからって、軍編成にまでケチつけるのはやりすぎだろ?」
日本警察は近衛師団の縮小か廃止を、宮城事件を大義名分にして迫ったが、扶桑では陸軍よりも海軍が艦隊規模で反乱行為を起こした事から、海軍予算の確保が難しくなった(嶋田繁太郎のせいである)過去がある。また、黒江達がその当時、陸軍に属していた事もあり、国民には陸軍飛行戦隊のほうが人気があり、志願数も多い。その事もあり、空軍の空中勤務者は陸軍出身者が大勢を占めている。特に最精鋭部隊の幹部がレイブンズ含めて、殆どが陸軍出身者であるのも、日本警察は気に入らなかった。最も、64Fの組織概要は剣部隊のそれであるし、源田実が最高指揮官であるという事実もあるが。警察関係者が唸ったのは、64Fの名前とは裏腹に、剣部隊の組織概要が充てがわれ、実戦部隊の中隊名も新撰組、維新隊、天誅組、極天隊とそのまま剣部隊である事だ。また、編成番号も剣部隊当時の番号が引き継がれているため、双方の折衷的な事になっているのが驚かれた。また、志賀少佐が撃墜王制度に反対して隊を去ったため、坂本が飛行長として復帰している。これに日本側は理解を示さなかったので、志賀少佐はテストパイロットとしての道に専念する事で自らの意思で異動、事実上の左遷で、飛行長の職務は先輩の坂本に託した。後年には、『英雄ともてはやされていた先輩方に反発心があり、当時は若かったから』と述懐し、名の無き英雄と言われたかった事を吐露したという。撃墜王制度はリベリオン/米軍、自衛隊との褒章均衡のために創設されたものであり、志賀少佐はその点の理解が足りなかったのだ。(戦前期は黒江達や坂本達がプロパガンダされていたため、志賀少佐の反発の原因は主にプロパガンダへの反発だったとの事)
「で、日本側を黙らせたはいいが、今度は内部から不和のもとができやがる。志賀の野郎、撃墜王制度が出来るのに文句いいやがって、親父さんが苦労したんだぜ、定子よぉ」
「ああ、それは菅野さんが言ってます。志賀さん、私の二個上なのに、昔気質でしたから」
志賀の反発は強く、源田にも食ってかかったため、レヴィとして説教しろとの特命を受け、レヴィの姿で説教した圭子。『正しい事をやっていれば理解されるんじゃねぇ、正しい事をやっていますと知らしめる事が重要なんだ』と告げ、隊を去る前の志賀に事実を告げた。感銘を受けたらしく、彼女は『肝に銘じておきます、先輩』と言い残している。そのことからか、火種になりかねない事をやらかした事については怒っている。
「ったく、あいつみたいな昔気質はめんどいぜ。まっつぁんの姉御も呆れとるぞ」
「村意識みたいなものですよ、レヴィさん。海軍航空隊はへそ曲げやすいし、私は坂本さんからプロパガンダの大切さを、あなた方を例に取って、仕込まれてましたから、広報にも気配ってましたから」
「坂本、今回はGだしな。どんなだった?」
「貴方方が戦中戦後のすぐまでプロパガンダに使われてた事を引き合いに出してました。若本さんをおもちゃにしてた事を笑ってましたよ」
「あいつは覚醒が遅れてたしな。その分、おもちゃにしやすくてな。坂本は、さんづけであたしらを呼び始めたから、問い詰めて分かって、竹井はあたしがやらかして助けた後で覚醒したから、やりにくくてな」
「どんな感じだったんですか?」
「坂本は今と同じになったから、隊長達の見てねぇところじゃ、今やってるやり取りだよ。竹井はあたしのガンフーが引き金だったらしくてな。後で怒られた」
竹井は物言いが一気に大人っぽくなるため、違いが坂本以上に分かりやすく、黒江達も怒れる胆力を持つようになる。当時の隊長陣が見てないところでは、やらかしまくりの黒江達を怒る胆力を見せ、逆に事情を知らない若本が咎める一幕もあった。そのため、竹井自身、『若い内に覚醒しちゃったから、色々とやりにくくて』と愚痴っており、当時は末席だった事もあり、黒江達を叱るのは自分達のみの時にするなど、苦労を重ねている。また、覚醒すると、飛行技能が最終時のそれになるため、それまで満足に着陸もできなかったのが、智子に見事、食いつけるほどの空戦技能を見せる事となるので、北郷を驚かせてしまっている。
「あいつ、事変中が一番やりにくかったそうな。最若年だったし、おまけに当時は下手っぴで通ってたから、いきなりリバウの貴婦人の時の空戦術を見せたもんだから、北郷さんの顎が外れかけたそうな」
「でしょうねぇ」
「智子や綾香にまともに食いつける技能があったのは、あの当時は邦佳以外には坂本と竹井だけだった。隊長達も実戦経験がないから、私達には及ばないところあったし。」
「あれ、赤松さんと若松さんは」
「あのお二方は別格だよ、別格」
レヴィ(圭子)の回想によれば、再度のやり直しでの事変中、赤松と若松の二巨頭を除けば、個人で最強を誇ったという。武子の覚醒は44年以後になるため、当時の最強枠は別格の二人を省けば、紛れもなくレイブンズだったと自負するレヴィ。
「そう言えば、私が志願して、士官学校にいた時、あんたらの噂は先輩達から聞かされてたよ。それがウィッチ万能論の台頭に使われたのは皮肉だな?」
「だから今回の事はウィッチ閥には効いたのさ、ドミニカ大尉」
レイブンズの伝説は国内よりも国外の方が大きく取り扱われた。ガランドが持ち帰ったデータにより、ウィッチの増長が始まった。カールスラントで通常兵器研究が停滞したのもこの時の増長が原因だ。扶桑もレイブンズに続くクロウズの台頭もあり、ウィッチ運用母艦整備に傾倒し、防御の研究が立ち遅れた。そのツケは紀伊のあっけない戦没や、ミッド動乱での駆逐艦大量喪失で支払われた。特に効いたのは紀伊だ。紀伊型は『ワークホース』として整備されたはずが、モンタナの前には無力だった。つまり、大和型以外の全戦艦が陳腐化してしまったのだから、建艦運動が起こったのも当然だ。紀伊は公衆の面前で黒煙と共に没し去ったものだから、扶桑海軍を最も顔面蒼白にさせた。扶桑海軍が大和型を重防御艦にしたのは、事変の戦訓で『当時最高の防御を持つ移動司令部』を持つためで、大和建造開始時は量産の計画は無く、武蔵で打ち止めのはずだった。ところが、リベリオンの造船技術の生み出した巨獣『モンタナ級戦艦』の颯爽たる登場と、紀伊を撃沈する華々しい戦果は、ティターンズによるラジオでのプロパガンダもあり、『我が扶桑には対抗できる艦がない!』と、扶桑国民を震え上がらせた。当時、大和型はすでにあったが、移動司令部という認識だったため、国民には戦力と数えられていなかった。顔面蒼白に陥った海軍は、ウィッチ派の圧力で空母になりかけていた信濃と甲斐を地球連邦軍に依頼し、『FARM型戦艦のテストケース』という形で、戦艦として完成させた。また、紀伊含めた前世代戦艦の陳腐化を理由に、大和型ファミリーに全面的に更新する意思を確固たるものとした。これはローテーションの都合もあり、戦艦の生産は四隻から六隻としたのも大きい。だが、大和型のFARM改装型、播磨型、三笠型の無闇な生産は予算の圧迫にも繋がるので、超甲巡が脚光を浴びた。大和型の線図を修正・流用し、FARMを施した小艦隊旗艦〜大規模水雷戦隊旗艦、空母の護衛艦として量産する艦として、また、デ・モイン級を止められる手軽な手段と言うことで計画が復活した。結果、甲巡の陳腐化もあり、超甲巡は復活し、未来技術で45年から46年にかけて次々と竣工している。他国では、分類上は戦艦に準ずる防御構造や任務、高速力から、巡洋戦艦とされている。扶桑は基本、軽防御、重火力を巡洋艦には選んでいたが、戦艦に準ずる攻撃力と防御を持つ超甲巡を持った事は、デ・モインへの回答だった。ウィッチは通常兵器には通常兵器と大差ない攻撃力しか持たないのが当たり前であったため、これらの施策を止めるだけの政治力はなかった。また、統合戦闘航空団も各地で敗北した事もあり、44年後半を境に、ウィッチ万能論は衰退し始めた。それを知る黒江達は『ウィッチは独立兵科としてやっていくには、近代兵器に対して脆弱すぎる』とし、ウィッチを特技兵として生き延びさせる方策を選び、ウィッチ万能論とは一線を画する派閥を形成している。黒江達自身が前史での大戦後、三輪の台頭で軍から放逐されそうになったことの教訓も加味されての事だ。
「あたしらが非合法任務もこなすのは、お前らも知っての通り、ガイアにいた三輪防人のそっくりさんの事があるからだ」
「あいつだろう?ガイアにいた軍国主義者のキ◯ガイ軍人の世界を超えた双生児」
「そそ。あいつが台頭するのは避けられんから、今回は変身した姿で10年くらいごまかすつもりだ。あー、調。お前の姿、その時には使うと言ってたぞ、綾香」
「え〜〜〜〜!?」
調は驚きのあまり、椅子から転げ落ちそうになった。自分の姿を忍者のように使われるのは困るのだ。しかし、黒江は政治力を三輪から『最大の障害』と見なされているので、三輪の陰謀に家族を否応なしに巻き込んでしまう。折角、転生してまで掴み取ったモノを壊されたくはないので、調の姿と名を使うことで姿を晦ます(1950年代後半から1960年代初頭の予定)つもりだった。それを調には言ってなかったらしい。
「あたし達は強い政治力があるが、40年代の時点で野心を抱いてた参謀に疎まれててな。綾香は特に危険視されてるから、お前の姿を取ることで、家族を守りたいのさ」
「う〜ん……理屈は分かるんですが……」
「しゃーねーだろ?お前の姿が一番使い勝手いいそうだし」
黒江は成り代わっていた事もあり、調の姿が『一番使い勝手が良い』と公言し、数ある変身の中でも、最も回数が多い。未来世界で目撃された『調』の何割かは黒江の変身である。そのため、のび太の成人後の日本で放映されたアニメでの彼女のキャラは当人より黒江の変身寄りになったという、当人苦笑いの出来事もあった。
「気持ちは分かりますよ?だけど、アニメにまで影響与えなくてもいいじゃないですかぁ――ッ!」
「知らねーよ!それはその時代のアニメ制作会社に言え!」
これは黒江がそのアニメ放映時期の前後(2012年からに16年)、調の姿で基地祭などではっちゃっけたのが大いに影響したためで、黒江も思わぬ影響に困惑したという。また、調当人の当初のキャラはフィーネの影響もあって、大人びていた(フィーネの影響が無くなってからは声のトーンが明るくなり、年相応の感情を露にする事が多くなり、黒江の情報クローン化後はギャグ顔もこなせる)のも、アニメとして描くには面倒臭いとされたのだろう。また、黒江は分かりやすい熱血漢であるのもあり、その点が、この世界においては反映されてしまい、なのは世界で放映されたアニメとは異なったキャラとなった。調当人がぶーたれたのも分かる。
「あれじゃ、師匠成分のほうが多いじゃないですかぁ!」
「知らねーって!アニメにすんには、お前の性格ややこしーんだよ!」
黒江成分が入ったため、レヴィにハッキリと抗議する調。元来の黒江の性格に近い振る舞いだ。
「うぅ、切ちゃんが見たら怒りますよぉ、あれぇ!」
「そうやってがなってると、綾香そっくりだぜ」
腹を抱えて笑うレヴィ。レヴィとしては『綾香』と呼んでいるので、切り替えが分かりやすい。語尾も圭子の時と違い、粗野でガサツ、尚且つ荒くれ者のそれなので、圭子との関連性は無きに等しい。それは母性という属性を元から持つ圭子が憧れていた『荒くれ者』の振る舞いでもあり、ある意味では、成熟する前の若き日の振る舞いでもあった。
「しかし、ケ……いや、レヴィ。どうしてそんなガサツな物言いなんだ?」
「『若い頃』はな、マルセイユ。お前みたいだった事もあるからな。昔の話だ。あたしにとっては何百年も昔のな。懐かしくなったんだよ」
レヴィとしては、マルセイユから畏れられている事を示す一幕だった。ケイとしては振り回されているマルセイユも、レヴィとしてなら、容易に言うことを聞かせられる。いや、流石のマルセイユもガンクレイジーぶりに圧倒されていると言うべきか。圭子の若き日を正確に知るのは、今や長老格だけだ。
「ヤンチャなら貴様には負けんぞ」
と、ドヤ顔のレヴィ。
「あ――っー!!それ、私の専売特許だぞ――!」
「お前、飲んだな?酒くせーぞ」
「どうせシラフなんだし、いいだろー!」
「お前なぁ」
マルセイユは飲酒しているが、体質上、酔えなくなったので、シラフである。シラフでこれなので、周囲の笑いを誘う。
「よし、作戦の決行は明朝だ。解散!それまで休んでおけ」
作戦会議は笑いの内に終了した。その後、下原が食料品の不足に気づき、ドラえもんのグルメテーブルかけが故障したため、急遽、手分けして食料品の調達に向かった。
「まさか、函館の街をシンフォギアで出歩くなんて思わなかった……」
「貴方のそれは『魔法少女』だから……。旧帝国海軍の軍服来て出歩いてる私が言うことじゃないけど」
「大丈夫なんですか?」
「この時代だとコスプレって解釈されるから、大丈夫だって」
下原は普段の軍服姿にズボンを履いた真っ当な格好である。旧帝国海軍の第一種軍装(扶桑でも同様)で、階級章もつけている。紺の第一種軍装はマニアックで、後世には意外に知られていない(元軍人はともかく)。下原は寒冷地に勤務していたので、第一種軍装を着る姿が有名である。また、下原は可愛いものに目がない。調の引率役を買って出たのは、その趣向が由来だ。
「あれ?黒じゃないんですか?」
「ウチは学者の家系で、軍人は私が初めてだから、そういうおしゃれに疎いんだ」
下原は制式の紺詰ジャケットを規定通りに着ている。家から軍人は彼女が初めてであり、軍人のお洒落文化には疎い。そのため、元日本帝国軍人から見れば、予科練などの練習生にも見えるが、少尉の階級章がある割に、お洒落文化に疎いのが丸わかりなので、軍歴が浅い事が分かるだろう。
「軍隊の軍服の規定を覚えてる人達も、この時代だと80越えてるでしょう?おじいさんとかに敬礼されたら、元軍人って事かな?」
「むしろ懐かしくなって、話しかけてくるんじゃ?定子さんのその格好、師匠曰く、新米士官にありがちな格好ですし」
「おじいさんの認知症が治るかもね」
「師匠が前、陸軍軍服で出歩いてたら、見知らぬおじいさんに敬礼されたりしたそうだから、ありえますって」
下原の軍服に少尉の階級章が輝く。最も、自衛隊関係者か、元軍人でもなければ、それが何か判別出来ないだろう。(袖章でもわかる)黒江の場合は自衛隊入隊前の時だが、少佐(当時)と分かる従軍経験者が多かった事もあり、将棋の差し合いに混ざり、大いに盛り上がった事もある。二人で話している内に、とある地区の商店街に入り、ある80過ぎの老人が営む、ある肉屋で肉を買い求めていたところ、さっそくその案件に出くわした。店主は80歳を有に超えていたが、日本海軍に若き日に属していた経験を持っていた。それでいて、シャンとしていたので、定子の着ている服が懐かしの帝国海軍の軍服である事に気づいた。
「失礼します、袖章からすると、少尉とお見受けしますが?」
店主の口調が軍人としてのそれに立ち戻る。下原の服装でスイッチが入ったようだった。
(さっそく来た!)「はい。下原定子少尉です。343空」
店主は下原の動きが訓練されている軍人のそれであった事を見抜く慧眼を持っており、久しい感慨に浸っていた。下原は咄嗟に、いつものくせで、海軍在籍時の所属部隊まで言ってしまったが、元軍人にとっては懐かしい思い出であるので、付き合うことにしたらしいが…
「お嬢さん、もしかして扶桑の軍人で?」
「ええ。ウィッチです……えぇ!?ご、ご存知なのですか?」
「倅が防衛省にいましてな。いやあ、懐かしい。その第一種軍装!若い頃は芸者にもてたモノです」
なんと、その店主、息子が防衛省に勤めているらしかった。自身も自衛隊OBでもあったらしく、バリバリの軍人である。退官後は家業を継いだとのこと。
「倅が防衛省にいるおかげと、現役の頃のツテで扶桑のことは知っております。それに、お嬢さんなのと、袖章の兵科記章が違っておりますからの」
「わかりましたか」
「自分はお嬢さんのような兵学校卒のエリートではなく、特務士官でしたが、帝国軍人の端くれでしたので」
店主は1943年までに特務士官に任ぜられ、凋落前の連合艦隊を目にした世代である。そのため、2000年時点で90に手が届きそうな高齢者だったが、依然として元気そのものだった。世代的に帝国海軍と海自黎明期の双方を知るため、自衛隊第一世代の幹部自衛官であり、帝国海軍最末期の特務士官であった貴重な経歴の持ち虫だ。
「お嬢さんの国に行ってみたいものですが、あいにく、この老体。もう30は若ければ」
と、笑う店主。店主は帝国軍人時代は主要な海戦の幾つかに乗艦が参加していたと笑い、扶桑で健在な連合艦隊を見てみたいとも願望を漏らす。
「私が子供の頃は、長門に憧れたものでね。死んだ兄貴達とはよく言い合いしたものです。貴方方にとっては大和か武蔵ですかな」
「私は航空畑ですけど、親戚の子たちは大和ですねぇ。扶桑では機密になってないので」
「大和も死した後で国民的人気を得るとは思わんかったでしょう。私は大和と武蔵をトラックで見た事がありますが、たらいみたいな印象を受けたものですよ」
大和は『たらい』のようにぶっ格好と、よく引き合いに出される。大和は長門のようなスマートな艦型ではないので、チャーチルも『タライ』の表現で表現するように、長門を知る者はぶっ格好という場合が多い。
「最近のコンテナ船に少し面影を見ることがあります。大和は日本に造船技術を遺しましたが、戦前の計画のように、大和型が連合艦隊の主力になっている光景はお目にかかりたい」
「貴方方の過去では?」
「温存しすぎて、出す時には使い所が無くなっていた船ですからね。前線で戦わせてやりたかったというのは後知恵ですが、もったいなかったのは事実ですねぇ」
彼は下原に、大和が戦前の想定通りに、栄光ある連合艦隊の中枢を担う戦艦である光景を見たいと漏らした。それが大和と武蔵の最期を看取った軍人としての思いだったのかも知れない。
「坊ノ岬では、大和がボカチンしたのを目にしましてね。日本海軍が終わる。そんな実感が湧きました。三笠が日本海軍旭日の象徴なら、大和は落日のシンボル。そう扱われるのは不憫でねぇ。同期が大和に乗っとって死んだせいでしょう」
彼は特務士官として、戦中は海上勤務続きだったためもあるのか、戦艦としての死に場所すら満足に得れずに坊ノ岬沖に散った大和、シブヤン海に沈んだ武蔵の悲劇をよく理解していた。また、大和が落日の象徴と言われる事に腹を立てているあたり、砲術、あるいは水雷畑だったのが伺える。
「お嬢さんの
国に行ければ良いんじゃが、それまで寿命が間に合うか」
彼はその気持ちを漏らす。その願いが通じたか、幸運にも彼は2010年代まで長命を保ち、後に義勇兵として、扶桑皇国軍に若返って入隊する事となり、そこで扶桑皇国海軍士官として、下原と再会を果たしたという。思わぬ人と出会った二人は、話し込んでいたが、買い物を済ませ、次の店へ向かう。
「まさか、元軍人さんがいるなんて」
「まぁ、戦後は別の職についた人も多いですから」
「本当、日本って治安対策で自衛隊置いただけなんだなぁ」
「終戦の時の軍人の数に比べると、自衛隊が旧軍人に開いた門戸はものすごく狭かったそうです。英語教育受けてた世代の軍人しか入れなかったとか、陸軍軍人の参謀級の多くは弾かれたとか、幼年学校卒は弾かれたとか」
「どうして、そこまで拒否反応を?」
「師匠の自衛隊での記憶だと、米軍と警察官僚の影響力が強くて、旧軍人を使い走りにしたい警察官僚は見下してたそうです。それに、国民も旧軍、とりわけ陸軍軍人の復権は嫌がりましたからね。日本が扶桑と連邦組んだ時も、警察官僚出身の背広組が、扶桑出身自衛官を将官にはしても、幕僚長にはしない内規を作ってたのがバレて、それで統括官ってポストに師匠を添えて、なんとか扶桑への体裁を整えたそうです」
「つまり、問題にしない代わりの埋め合わせ?」
「師匠曰く、そちらの将官達が師匠の扱いを不問に付す代わりの交換条件だそうです」
自衛官として、他に比して短時間で出世した黒江の処遇は、防衛省にとっては火種だった。革新政権は自衛隊を支配される事への恐れ、年齢の若さを理由に、扶桑出身者を幕僚長にはしない内規を作った。だが、黒江が自衛隊、扶桑、地球連邦での戦功で扶桑での階級が将官に上がった事で急速に現実問題化した。まさか、扶桑では20代前半と、若い黒江が将官に任ぜられるとは思わなかったのだ。しかも昭和天皇の信も篤く、叙爵をするほどに入れ込んでいる『お気に入り』。これは黒江を粗末に扱えなくなったことでもある。東條の一件で、人を見る目がないとも揶揄されている昭和天皇だが、扶桑では、黒江達を若手軍人の中で最も『忠篤き者』と高く評価しており、何かと手助けをしている。黒江が鬱病になりかけた一件では、陸軍航空行政の高官がまとめて自刃しようとするほどのショックを与えるほど怒った事もあるので、黒江の人事は扶桑ではデリケート中のデリケート事項と位置づけられている。なので、黒江が『心酔している』とされる源田実の配下に置かれたのは当然の流れとされている。扶桑軍の大多数は『戦功もあり、天皇陛下のお気に入り』たる、レイブンズの扱いに実は困っており、続々と現れてゆくGウィッチの扱いにも、そうでない者との軋轢が容易に生じるのが、『501の一件』で判明したので、64FがGウィッチの運用管理部署の意味も実は編成復活にはこめられている。これはGウィッチに理解のある一部将官達より圧倒的に数が多い『Gウィッチを恐れる軍人』達に配慮した人事でもあった。Gウィッチは軍人として、戦士として『完成している』。言わば、戦闘員として『究極のウィッチ』に相当するが、ウィッチ内部では実のところ『突然変異の異端者』と見られてもいる。赤ズボン隊のフェル、中島錦などからは『墓場から未練がましく這い出てきた連中』と反発を受けている。無論、戦闘力では通常ウィッチはGウィッチに遠く及ばないし、咄嗟の判断力も劣る。通常ウィッチ達は気づいていない。23世紀のブレイクスルーを挟んだ兵器はもちろん、21世紀水準の兵器にも不利であると。視界外交戦能力があるからだ。更に言えば、レヴィ(圭子)は『お前らの優位性なんぞ、1970年代水準の時点で消えてるわ、ボケ』と辛辣な事実を叩きつけている。これは奇しくも、通常兵器の急激な発達がウィッチ兵科の持っていたアドバンテージを帳消しにしてしまったからだ。錦や天姫には、『試しに陸自のコブラと模擬戦闘してみ、ボッコボコにされっから、レシプロストライカーなら』と誘い、本当にボコボコに叩きのめしてもらっている。この時のコブラのパイロットは黒江の防大同期であった者で、陸自に配属されていった。レヴィ(圭子)とも旧知の仲である。Gウィッチ達はこうした荒っぽい手段で敵対関係にある者の心を砕きに行くため、通常ウィッチからは『厄介者』と見られる。錦と天姫も戦闘機顔負け戦闘機動を見せた『コブラ』に自信を砕かれているからだ。
「私達、他のウィッチから厄介者扱いでね、343空に異動したのもそれなんだ。原隊の皆が居場所を奪ってね…」
下原は覚醒で原隊から追い出され、その下衆さに怒った源田が引っ張ってきた事を、調に明かした。『突然変異』と見られ、原隊でいじめられ始めた事を、黒江を通して源田に告げて助けを求め、源田は『俺に任せろ』と言い、下原を空軍設立の数週間前に343空に異動させている。これは海軍基地航空最後の不祥事として歴史に残った。隊ぐるみでいじめを行っていたからで、事を聞いた源田が凄まじい剣幕で201に殴り込みをかけた他、小園大佐も赤松とその子分らを引き連れて出入りを起こすほどの事態となった。山本五十六は事の収拾をつけるため、201のいじめを厳しく断罪、同隊の解散をちらつかせる一方、源田の要請を承認した。下原は異動後、戦功により、海軍基地航空の最後を飾る『個人感状』の名誉に預かった。
「だから、今は前の隊に未練はないよ。同じ仲間がいるのは64Fだけだもの」
下原は覚醒により、201に居場所を無くし、空軍設立直後の時間軸のこの日までには、64Fにいる事でようやく心の平穏を得た。この不祥事により、空軍の勢力図は確定した。海軍出身者が将官や司令級ポスト任ぜられたものの、戦闘機部隊での主導権は陸軍飛行戦隊出身者が握った。海軍出身者が主導権を握ったのは、富嶽や連山のおかげで爆撃部隊であった。偵察部隊も海軍寄りであり、空軍の勢力争いは、政治的には痛み分けという形になった。なんだかんだで当時、世界でも指折りの強さのGウィッチを多数有する64F(新)は『源田サーカス』と渾名された。また、米国軍、三自衛隊とも密に連携した『最優良部隊』である事から、最近はプロパガンダの常連である。扶桑軍は『日本軍の同位体である』ため、強い色眼鏡で見られる。それへの対策もあり、空軍ではエースを積極的に宣伝し、武功章もバンバン発行している。志賀少佐らがなんと言おうと、友軍との褒章均衡は大事なのだ。金鵄勲章の無闇な授与は財政の圧迫に繋がるので、武功章は手っ取り早く名誉が与えられる(同時に、将来的な金鵄勲章の授与の権利も得られる)ので、それに値する戦功がある者が多数の空軍では特に重宝された。また、エースパイロットの80%は空軍に移籍したため、海軍が慌てて『航空戦技特』という栄章をエースパイロット用に制定する事態になっていた。これは赤松までもが空軍に引っ張られたため、残留した若本や坂本らを活用しなければならなくなったためでもあった。
「海軍は大変なんだよね。陸に上げてた実力者が根こそぎ空軍に引っ張られたものだから、エースパイロット用の栄章の制定と、個人感状の授与基準の緩和、空母航空隊の建て直し…やること多すぎて、予算の半分はそれに消えたそうな。新造艦の整備どころでないとか」
井上が海軍の主戦力を基地航空隊に位置づけていたため、基地航空隊を重視していた扶桑海軍だが、空母航空団の育成がおざなりにされていると、地球連邦軍、更には航空自衛隊、米空海軍にもダメ出しを食らった。そして、源田が井上の思惑を更に超えた『陸海基地航空隊は空軍に改編』を実行してしまった事から、当時、機種転換中でもあった海軍空母航空団は見るも無残な様相に転落した。その埋め合わせが空軍部隊の空母運用である。そのため、本来の空母航空団に属する飛行隊は本土で再訓練中という有様であった。これは海軍としては大問題だが、64Fには海軍出身者も多数在籍しているので、一応の面子は保たれた。(赤松、竹井、雁渕、宮藤、西沢、菅野など)
「それで、ウチの隊、人員の組み合わせはスムーズにいったんだけど、問題が出たんだ。エース級の人員を集めたら、誰が誰を束ねるのかって問題になったんだけど、大先輩を先任飛行隊長にして、黒江先輩達を中隊長にしたんだ。黒江先輩達は加藤先輩の直接配下になるけど、中隊長は必要だしね」
赤松は階級は旧・特務中尉だが、戦歴が長いこともあり、黒江たちを更に束ねる地位で落ち着いた事、レイブンズは隊本部付きの小隊と、先任中隊長を兼任する事を話す下原。黒江は配下に腐れ縁の黒田や宮藤、菅野、西沢、雁渕(姉)が属しているので、戦闘向きの中隊である。圭子(レヴィ)は竹井、雁渕(妹)、服部、真美、ティアナを要する。智子は主に旧50F時代の同期や戦友で固めており、黒江(バリバリの制空)、圭子/レヴィ(近接航空支援も兼任するバランス型)との中間の特性の中隊を率いる。
「少尉は誰の中隊に?」
「菅野さんがいるから、自動的に黒江先輩の中隊。お守り担当だって」
「ご、ご苦労様です…」
下原は菅野の面倒を見れるので、自動的に黒江の配下になった。雁渕(姉)は着艦誘導士官も兼任する。バリバリの制空部隊だが、菅野や自分でも経験が浅い部類に入るので、緊張していると、調に告白した。
「うぅ。緊張してるんだ、実は。菅野さんや私は中隊の中じゃ『青二才』だもの」
「実戦経験、ですか?」
「私は志願から数年しか経ってないもの。一昔前じゃ、数年で中堅どころって言われるんだけど、Rウィッチ(リウィッチ)とGウィッチが生まれた今じゃ、若造だもの、まだ」
「Gウィッチの覚醒条件は?」
「先輩方と縁があって、戦友と認識されてるかどうか。あとは、修行で神格に至るか。先輩達、スーパーロボット動かせるせいで、火力教の信者でね。後の世代の人達に『贅沢だ!』とか言われてるの」
「まぁ、師匠達、出合い頭にエクスカリバーやらギャラクシアンエクスプロージョンぶち込むような人達ですから」
「今回のやり直しの初日からそれだよ?江藤参謀、心臓がいくつあっても足りないって」
「あ、あはは…」
黒江は初日からギャラクシアンエクスプロージョンやらエクスカリバー、アトミックサンダーボルトなど、大技の大盤振る舞いをやらかし、江藤の心臓を停止させかねないショックを初っ端から与えた。更に、圭子がバレットダンスを見せたので、江藤は胃薬が事変中は常備薬となり、赤松に『もう諦めました。 そろそろ心臓に毛が生えてくれないかな……』と嘆いている。また、圭子の銃撃狂ぶりにも頭を抱え、『あいつになんと渾名つけるべきか?』と先輩の若松に問いたところ、『トゥーハンドでいいだろう、童?』と返され、当時、19歳にして、頭に白髪が生えたという。後に、江藤はそれらの苦悩を、パルチザンに招かれた際、沖田十三に明かし、『己が見たものが信じられなければ指揮官の資質はない。状況をあるがままに受け入れ、自分なりの答えを導くことが指揮官には必要な事だ』と、彼に諭されたという。また、圭子(レヴィ)は、デザリアム戦役までに技能を高め、二闘流(トゥーソードトゥーガン) を新たに渾名とする事になる。ナイフ(脇差しサイズ)二本で二刀流、ハンドガン二丁でガンカタ、故に「二闘流」。この戦法に開眼した圭子/レヴィはレイブンズ一の武闘派となり、『レイブンズ最凶』と評されるのだった。
「でも、調ちゃんも先輩の剣の技能受け継いだんでしょう?その内、渾名与えられるよ」
「うーん。私の学校の先輩で、フェイトさんと天命を同じくする『風鳴翼』って人がいるんですけど、師匠に散々におもちゃにされてたらしくて、勝負挑んで来たんですよ、のび太くんち行く前」
「それでどうしたの?」
「師匠の剣技の秘剣・雲耀で、翼さんの剣を斬ったんですよ。ズバッと。そうしたら『反則だ、反則だぞ、月詠!!』って半泣きに」
「あー……確か、天羽々斬だっけ、その子の剣」
「師匠は娘さんが目覚めてるおかげで『草薙』をエアの代用で撃てるようになったとか言ってますから、当然、私も」
「天羽々斬じゃ、草薙には勝てないよねぇ、やっぱり」
「はい。エクスカリバーじゃ読まれてるだろうと思ったら、草薙の発動ルーティンが思い浮かんで」
「でも、発動ルーティンを変えると、聖剣を変えられるの?」
「剣に熟練し、尚且つ、血族がその剣を持っていて、発動ルーティンを知っているかって条件がありますけどね。師匠は義理の娘さんが覚醒してるので」
風鳴翼は黒江に散々、おもちゃにされたため、その技能を継いだ調に挑んだが、黒江が新たに開眼した技能である神剣・草薙の情報が流れ込み、それを発動されて、天羽々斬の『天ノ逆鱗』を一刀両断され、半泣きになったというエピソードを知らないところでバラされる。何気に、調も黒江成分率が次第に増加しているのが分かる。
――二人は市街の商店街を歩きながら、会話を続ける。風鳴翼は異世界で、そんな恥ずかしい話をバラされているとは露知らず、アーティスト活動をしているのだが、なんとなく嫌な予感がし、その予感が的中した時には、シンフォギア姿で、調を追っかけまわした(そして、レヴィに仲裁される)という――
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