短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)
――次元震パニックにより、転移してきた者は原則的にホテルで待機を命じられていた。同一人物でも、経歴が違ったりするためで、黒江や調がその最たる例だった。微妙に異なる存在に分かれた圭子は、比較的に自由行動が許されたが、その他は原則的にホテルに缶詰だった――
――今のところ、ホテルの缶詰になっていない唯一の存在である調Bは監視下のもとでだが、基地内での行動が許されていた。響達が来た場合に備えての保険とされたのだ――
「私は人質って事?」
「こっちを攻撃されたら、たまったものじゃないし、保険をかけておくのは当然のことだよ」
調AはBに『監視に自分が命じられた』理由を説明する。もし戦闘になれば、こちらの基地に損害を与える事は予想されるし、地下に隠された秘密を暴かれ、破壊されたら溜まったものではないからだ。
「あなたが私たちに『捕まってる』のを、みんなが見過ごすと思う?地下には知られたら一巻の終わりな超兵器の工場があるんだ。それを誤解で破壊されたらどうする?シンフォギアじゃ釣り合わないよ」
「シンフォギアで釣り合わないくらいの力を持つ兵器がこの世に?」
「超戦艦だよ。その建造ドックが地下にあるんだ。核以上の悲劇になるかも知れない力を持つ動力を持つ、ね」
「超戦艦……?」
「宇宙戦艦と言った方がいいね。戦局を一気に決着させるためのスーパーウェポン。シンフォギアも目じゃない、ね」
ラ級戦艦は反応兵器であろうとも耐える装甲を持ち、波動エンジンで宇宙を航行出来る能力が新たに条件に加わったのもあり、超兵器としばしば形容される。
「シンフォギアの最大火力を地球に1ダースぶち込めば、バリアをカチ割れるかもしれないくらいのバリア出力。それを破ったとしても、多重構造の複合装甲が300ミリ以上の厚さで張られてる。しかもシンフォギアの刃でも通らない強度のね」
装甲厚そのものはベースとなる戦艦に依存するため、過去のドラえもん世界の日本は超大和としてラ號を作ったのだ。しかしながら、ラ級は空中を飛ぶため、モンタナのように、動力パイプなどの都合で船底が薄くなっていたところをぶち抜かれ、不時着に追い込まれ、鹵獲されたケースが有る。アメリカ技術陣の知見は意外に甘いところがあった。日本は魚雷が船底の真下で爆発する危険を鑑み、大和型の二重底を三重に強化している。そこが明暗を分け、空中戦での勝敗を分けたのだ。(船体そのものの装甲は互角だったが)
「宇宙戦艦って。この時代にそんなのが造れるはずが」
「元の世界で遺失技術を見てきて、それはないね。何らかの外的要因があれば、人工知能持つロボットも造れるよ、日本軍」
超人機メタルダーである。松代大本営跡で眠っていたメタルダーが格納されていた秘密区画は、目覚めた時代ですら実現していなかった性能のコンピュータを実現している。メタルダーやラ號の存在を米軍が恐れ、探し求めたのも分かるほどのオーパーツであった。シンフォギアもそれに当たるので、今更というのが、Aの本音であった。
「それに、いろんな世界の思惑が入り乱れてる状況だから、もう一人の自分くらいじゃ驚かないよ」
ウィッチ世界は21世紀、23世紀、時空管理局などの各勢力が入り乱れているため、世界本来の秩序は崩れ始めていた。歪に遅れ気味だったはずの通常兵器は、その遅れを取り戻すかのように加速度的に進歩している。また、自分達の思うがままに、ある国の進歩をコントロールしようとし、別の勢力が阻止したケースも多い。最も国際問題になったのが、オラーシャ帝国の解体目前にまで行ったオラーシャ動乱である。同位国であるロシアは関わっていなかったが、日本などの各国に潜んでいた共産主義者やソ連邦残党などが皇室の打倒一歩手前にこぎつけ、内乱を起こさせ、意図的に人口を間引きさせた。その結果、向こう120年は立ち直れないダメージを領土的にも、人的にも負った。首謀者の国籍が日本であった事から、日本に抗議が行われたが、日本の国内には『狡猾なロシア』のイメージが強く、詫びる必要なしとする論調すら存在した。オラーシャとしては、動乱で荒れ果てた国内の復興資金が欲しかった。太平洋戦争が始まった年には、オラーシャ帝国はもはや、帝国と名ばかりの状況であった。貴族は亡命し、多くのウィッチは虐殺か亡命。あのサーニャすら亡命してしまった。サーシャはレヴィに仲裁されたものの、サーニャと気まずい状況は続いており、殆ど無我夢中で軍の再建に奔走していた。しかし、日本もロシア相当の国への援助を渋る世論があり、オラーシャは資金難で復興もままならず、日本に誠意を見せる必要に迫られた。これを支援したのが帝政ロシアの亡命者の系譜を持つ日本人で、オラーシャはウクライナが独立したものの、それを補って余りある支援を得た。オラーシャは誠意を見せる事でソ連邦や現ロシアと違う誠実な国家である事を示し、国際条約は過敏な程に守った。そのため、同位国のロシア連邦からの援助は形式的なものに留まったという。
「21世紀の世界、私達とは別の世界だけど、この世界を振り回してるんだよね、共産主義者、反戦左翼、極右勢力……。何でもありだよ」
調Aは、ドラえもんの世界の21世紀の人間達が自分達のエゴでウィッチ世界を振り回し、混乱させている状況に呆れているようで、ため息をつく。日本が旅行者の規制に踏み切ったのも、表向きは『戦争』、実際はテロ行為が多かったからでもある。扶桑で犯罪行為を働いたりした日本人は網走刑務所などに収監されていたが、あまりにも多すぎ、刑務所が数個は満杯になってしまったのも要因だ。これは『夢よもう一度』、『スターリンも毛沢東もヒトラーもいないのなら』、『皇国打倒』という理由でテロ行為を働いた極左暴力集団のまるごと、認知症となった高齢者が家族に連れられた旅行先で戦時中のトラウマが蘇り、軍人を過去の怨嗟が蘇り、無意識に金属バットで暴行を加えていたケース(被害者は警務隊や陸軍軍人に多い)も散見され、警務隊は慎重な動きが求められ、背広姿での勤務も推奨された。(軍服姿だと、戦時を経験している老人の反感を書いやすいため)この通達が警務隊の心労となっているのも事実だ。また、対応策として、警務隊の軍服を自衛隊と統一し、腕章を『憲兵』から『警備』に変える事、振る舞いの再教育などがされた。認知症を発症した戦時経験者は警察/警務隊の尋問に耐え得ないため、これも始末が悪く、扶桑の警務隊/警察から嫌われている。しょうがないが、警務隊はその任務の性質上、前身の憲兵からは数千人は人員整理されているのだ。これは司法警察権で日本警察と揉めた末の事で、日本警察は憲兵の後身である警務隊を危険視し、押さえ込もうとしていた。そのため、警備と法務を分離させる事でなんとか日本警察を納得させた。元々、日本(扶桑)の憲兵は仏式であったのだが、それを全て米式にしようとするのも、ちゃんちゃらおかしい。日本警察などが吉田茂を逮捕したという例を引き合いに出し、警務隊を押さえ込もうとするのは縄張り争い以外の何物でもない。連邦化した扶桑でさえ、軍部をなんとしても押さえ込もうとする動きに苦労している。戦時中なのに、だ。そのため、領海警備などで海援隊が重要となっているが、装備の旧式ぶりを海保の長が詰って騒動を起こしたため、海保の現場が白い目で見られ、苦労している。海保は長官のせいで、扶桑で警備活動の主導権を握れなくなったからだ。現場は現場で円滑なやり取りが交わされていたので、学園都市の独自行動以来、まさに踏んだり蹴ったりの状況の海保は『上がああだと苦労してるでしょ?』と生暖かい目で見守られていたりする。
「あなた、考えが軍人じみてきてるよ?」
「実際に軍人だしね、一応。それに、年を取ったしね。肉体年齢はどうにかしても、感覚的には24年生きたから、相応の精神年齢にはなってるよ」
調Aは数度の戦乱と聖闘士への叙任で、精神年齢は相応に成長しているところをBへ見せる。大人として成長したところとしては、護身用に銃を携帯しているところや、黒江から受け継いだ能力で、いつでも武器は空中元素固定で作り出せるという強さが自信につながっているところだろう。
「シンフォギアは返してくれないの?」
「言ったはずだよ。ここは軍隊の基地なんだ。しかも、妙な真似起こされると困るのを抱えてる。当分は無理だよ」
Bはシンフォギアがなければ、華奢な体躯の少女にすぎないが、Aは聖闘士である。万が一ではあるが、生身でも装者を拘束できるが、一応は言っておく。
(師匠もたぶん、成り代わってた時には苦労してたんだなぁ。響さんは人間相手だと、無理でも話をしようとしてくるし、タフだから、食い下がるし。ここにいるのが私自身で良かったかも)
立花響は対話を第一に考え、黒江が成り代わっている事がバレていなかった頃、黒江に必死に食い下がってきた。それを共有記憶で知っているため、響には苦手意識がある調A。黒江が『しつけーなお前!』と呆れるほど、噛み合わないと面倒なタイプだからだろう。また、エクスカリバーを宿しているという点で絶対的なアドバンテージがある事をブラフにしても、実際に奮われるまで、『だとしても!』と挑みかかってくるため、敵に回すと面倒な人間であるというのは黒江と調の共通認識だ。(響のギアがガンニグールであるのも大きい。シンフォギア世界限定だが、ロンギヌスの槍と同一存在であるが故の強さがあることがガンニグールの強さの理由であるが、別世界の聖剣であるエクスカリバーには通じないので、エクスカリバーのエネルギーがガンニグールで受け止められなかった事にショックを受けていた)
「誰が転移してくるか。響さん、タフだから相手にはしたくないな。切ちゃんやクリス先輩なら、一発で叩きのめす自信あるけど」
「何それ……」
「神の闘士になったからね。下手な装者なら一発で気絶させられるよ」
黒江の思考がだいぶ入った上、なのはの教えの効果か、『全力全開』である。Bは思い切り引いている。Bは好戦的な別の自分に対し、呆れと驚きが入り混じった表情だ。二人が基地を歩いていると、圭子から通信が入る。
『調か?あたしだ。風鳴翼が転移してきていた。どうも、Bをお前が運んでいくのを見たらしく、話が通じん。今はアルトリアが奴を引きつけている」
「あーもう!!翼さんもこうだとなると面倒な性格なんだった!」
「そっちに映像を送る。向こうも相当テンパってるのか、アルトリアも苦労している」
送られた映像をみると、物資搬入用の線路を守ろうとするアルトリアと、調を助けようとしている風鳴翼が戦闘を行っている。剣技は当然ながら、騎士王であったアルトリアが若干優勢である。アルトリアは日本刀の達人であるハルトマンに日本刀を持つ相手への対処方法も聞いていたらしく、天羽々斬を上手くあしらう。
『くっ!!太刀筋を読まれているだと…!?』
『中々の太刀筋。ですが、見切れないものではありません。こちらの話を聞く気になりましたか?』
『月詠の居場所を教えてもらおう。こちらとしても、安々と引き下げるわけにはいかないのでな』
『……残念です。風王鉄槌!!』
アルトリアは風王鉄槌を放ち、翼を吹き飛ばす。あまりの暴風なため、脚部のバーニアでは推力不足で姿勢制御もままならない。もみくちゃにされた翼は地面に叩きつけられ、天羽々斬のアームドギアを支えに立ち上がる。
「馬鹿な……天羽々斬の推力で抗えない風だと……き、貴様は一体……」
「私が何者か、など、今はどうでもいいことですよ、ツバサ」
「何!?な、なぜ私の名を…」
「言ったはずです。話を聞いてくれと」
ため息をつくアルトリア。青い騎士服と甲冑と、時代がかっている服装。そして、いつの間にか、右腕に驚くべき剣が握られている事に気づく翼。
「黄金の輝きの剣……だと……!?」
「貴方のそのアームドギアが天羽々斬であるのは知っています。私はある目的のもと、剣を風の結界で隠していたのですよ」
その剣は完全聖遺物。そうとしか思えなかった。別世界には、装者の歌を必要としないで、聖なる力を発揮できるという理がある世界が存在し得る。その可能性に思い至る翼。相手の騎士のような落ち着いた佇まい、まるで一国の王のような風格。
「風鳴翼。貴方の事は調から聞いています。その剣に誇りがあるのなら、私の話を今一度、聞いてみませんか?」
アルトリアは生前に備えていたカリスマ性をここで発揮した。ハインリーケと融合し、二度目の生を得た身であるが、その姿は紛れもなく『アルトリア・ペンドラゴン』そのもの。地面にエクスカリバーを突き立てている、カリスマ性溢れるその姿に、思わず剣を収める翼。それがアルトリアのアルビオン王としての不思議な力だった。
「今更、失礼だとは思いますが、貴方のお名前を伺ってませんでした。お名前は」
「私はアルトリア・H・P・ツーザイン・ウィトゲンシュタイン。ドイツの軍人ですよ」
改名後はファーストネームがアルトリアになっているので、相変わらず長いフルネームとなる。『プリンツェシン』が生前の性である『ペンドラゴン』に変わっており、王女の称号を持っているが、それ名乗らないのは、アルトリア個人のものではない事の表れである。
「ドイツの軍人……。と、なるとその剣はバルムンク?」
「いえ、なんと言えば良いでしょうか。この剣は『エクスカリバー』です」
「エクスカリバー!?」
アルトリアはその存在故、便宜的にカールスラントに国籍を持つが、元はアルビオン王であるので、剣はエクスカリバーである。その説明はややこしいため、調(A)に一報を知らせてから、黒田に迎えの車両を出してもらうのだった。自分の出自、そしてその器となったハインリーケの存在。どこまで説明していいものか。武子にもメールで知らせ、相談を持ちかけるアルトリアだった。
――基地――
「ふう。なんとか穏便に済んで良かった」
「翼さんに優勢なんて、あの人は何者?」
「あの人はなんていおうか……、選定の剣の騎士王?」
「選定の剣の騎士王?」
「それの意味を知ってると、うち震えるものだけどね」
調Aは、アルトリアとも数年の付き合いであるため、映像でのアルトリアの優勢ぶりにも動じていない。また、Bの『世界』への無知ぶりに、自分が如何なる教育を施されたかを再認識する。『戦闘教育を施されたが、普通の教育は殆ど施されていないため、表社会で生きていくのは難しい』と。皮肉なことだが、Aは戦闘者としての道を歩む事で、自分の居場所を明確に得たことでもある。また、切歌への依存心を『真なる友情』へ昇華させた事で、切歌から独り立ちした証でもある。BがAに、どこか異質なものを感じるのは、行動の端々に滲み出ていた、切歌への依存心が消えているためだろう。
「まっ、しょうがないか。まともな教育は、リディアン行くまで施されていなかったし」
「……貴方は軍人だからそうだと思うけど、私はまだ高校生だからね?」
「リディアンには私も通ったんだけど、馴染めなくてね。その後に軍隊に行ったんだ。騎士してる時期も長かったし、軍隊に行くのに抵抗感はなかったよ」
10年の騎士生活の影響で学生生活に馴染めず、間もなく地球連邦軍に入隊した調A。リディアンの学籍は保持したままだが、馴染めなかったと明言する。タイムマシンを駆使し、高卒認定を得て、通信大学の卒業認定が出た後、黒江の知識を使い、軍に志願。士官候補生としての曹長の階級を得た。のび太の家にいる間も、のび太が小学校に通っている間に図書館で勉強し、高卒認定を取り、野比家にいる最後の数ヶ月で通信大学の単位を取った。野比家へは常駐期間を終えた後も、帰るべき場所と認識しており、戦争が終われば『戻る』つもりである。なお、デザリアム戦役後の現在、この戦争の開戦前までは黒江が南洋島に構えた邸宅に居候していた。(現在は基地に常駐)
「暑くない?」
「ここは南方だしね。もう30度に届いてるよ」
南洋島はマリアナとポリネシアの間であるため、最前線であると同時に、平時は常夏リゾート地として開発されていた。日本の資本が入り込んでからは、バブル期に頓挫したリゾートプランの実践地と見なされたため、軍用地の多くが合法的に購入され、リゾート地に変わったりした。開戦前までにリゾート地として整備されていた都市は複数あり、日本企業は多くの観光収入を見込んでいた。しかし、誤算も多くあった。当然ながら、扶桑の一般層には『冬や秋を南洋島で静養する』考えは殆ど存在しなかった。当時は南洋島への船代を観光目的で出せる者は富裕層に限られていた。その上、一般人は戦時になると、旅行を自粛する動きを見せたり、一家の長である老人が『国家の一大事に旅行など!』と行かせないケースもあったので、日本企業は完全に当てが外れた。扶桑国民は、明治生まれがまだ多数生きている時代である故、『滅私奉公』の概念が根付いていた。そのため、21世紀日本のアメリカ流個人主義を批判する動きもあった。日本企業は起死回生の手段として、『戦争中こそ、経済を回さないとじり貧になる!働き、使い、物を作る余裕を企業に与えなければ戦争が終わった後に貧困が襲うことになる』とする経済論を扶桑各新聞の一面に大きく掲載した。ラジオやTVでも放送し、キャンペーンを貼った。これはアメリカの世界恐慌、大戦景気からの不況などの実例を例にしたかなり具体的な経済論であり、貧困がもとで内乱になりかけたこともある日本のことも書かれてあり、明治生まれの使命感に訴える内容だった。配給の苦しさを知る日本の老人達が扶桑の各企業人を説き伏せて行ったこのキャンペーンは『働き、その分を使い生活の維持と多少の軍への寄付、無理に生活を切り詰めても将来性が無くなるだけ』とする、日本の経験が多分に反映されており、国家総力戦を遂行しているとは思えぬほどに寛容な戦時社会の構築に役立つことになる。
「今は戦時中だけど、前線以外は穏やかに過ごしてる。空襲も未然に防いでるし、敵もハワイへの戦略爆撃を恐れて、めったに大型爆撃機は出してこない」
「それじゃ、ここは戦時中の日本なの?」
「『日本に限りなく近く、極めて遠い国』だよ。名前は扶桑皇国。そこの南洋領土」
「平行世界を行き交ってるの、この世界は」
「第三者の援助あっての事だけどね。だから、時代相応の装備もある」
ドアが開き、外にデコイも兼ねて駐機されているレシプロ戦闘機の駐機場に出た。前身組織から引き継いだ機材が置かれている。零戦以降の世代のレシプロ戦闘機達だ。零戦/紫電改/烈風/隼/疾風/キ100など。前身組織の保有物をそのまま置いている。これは連絡機代わりでもあり、343空が保有していた彩雲が日本の博物館に引き取られていったため、余ったレシプロ戦闘機を転用した。しかし、間に合わせなので、T-4を調達する予定である。他にも、陸軍各飛行戦隊が有していた新司令部偵察機が転用されている。日本がレシプロ機の現存機を少なくない数をダイ・アナザー・デイ後に購入していったので、自衛隊に連絡機の融通を依頼している。自衛隊はT-4の扶桑仕様を新造し、48年度から扶桑空軍に引き渡しの予定だ。
「ゼロ戦?」
「……やその後継機達や、陸軍機。残ったのは連絡機に使ってるんだ。これが前線で使われてるところもまだ多いよ。ここは最優秀装備部隊だし」
「それが当たり前じゃ?時代がおかしい装備が見えるし。あれなんて、トム・ク◯ーズが若い頃の映画で見た『F-14』だよね?」
「どっちかというと、エ◯ア88のミッキー仕様に近いかな?」
「どういう事?」
「一人乗り出来る様に改修されてる。海軍の戦闘機乗り連中にその前のファントムが不評でね。あのへんの時代の米海軍の艦載機、レーダー要員を乗せるためとかで複座なんだ。それで、単座レシプロ戦闘機出身の連中にものすごく不評で、F-8が人気なんだ。艦爆出身には好評なんだけどね。だから、その次の主力のテストもしてるってわけ」
扶桑はF-14改を海軍の次々期主力戦闘機に選定したが、日本側から価格の高価さが指摘されている状況である。その為、評議会での財務省の横槍や、日本が45000トン級空母ではトムキャットは載らないことを指摘。米軍同様、ハイローミックスのロー相当に当たる『F/A-18C/D』が追加導入されたという。チタン合金の値段は扶桑では、地球連邦からの輸入や自前の資源での精錬で安いのだが、南洋島の資源構成を日本財務省が信用しなかった事がF/A-18の導入の理由の一端だった。F-4EJ改からの機種転換は1949年以降を予定しており、日本への魅せ装備の面も大きいのがレガシーホーネットである。第4世代への性急な機種変更は空自にも反対論があったが、戦時の戦闘機の機種変更スピードを鑑み、承認された。わずか数年で第3世代ジェット機にまで進歩したのは、日本やアメリカから驚嘆されているが、依然としてレシプロ機も使用されている。これは余りにも機種変更が早すぎたので、船や設備更新が間に合わっていないのが本当のところ。そのため、15隻も作った雲龍型が何ほども経たずに旧式化し、攻撃空母の任を解かれる珍事が発生、扶桑海軍を狼狽させた。これはレシプロ基準で造られていた故に、ジェット機には小さすぎるためで、扶桑としては『ウィッチーズ用と兼用できるコンパクトな艦艇』を設計の主眼にしていたので、超大型空母の出現自体が予想外だった。そのため、前史がそうであったように、それらの役目を果たしてくれる大型空母の出現は1950年以降の予定である。扶桑皇国海軍の誤算はそこにあった。雲龍型を長く使うつもりが、技術革新で予定が狂い、寸法が大きく拡大した空母の建造に踏み切る事となった事に、艦政本部は困惑したという。また、ウィッチ搭載の機会が減ったのもあり、ウィッチ専用エレベーターの設置はされなかった。これはウィッチ装備を設置すると、大きく艦載機数が減少するというデメリットがエセックスの登場以降は大きくクローズアップされた事、MATの登場で大きく軍ウィッチが減少したことが理由だった。ウィッチがいなくなったわけではないが、超大型空母ではウィッチ装備はジェット機搭載の邪魔になるため、儀礼的に一番端のカタパルトが宛てがわれた。軍にも、MAT用の高機動車搭載ウィッチ発進促進装置が配備されて、空母にもそれが搭載される事でウィッチの運用が可能になるが、専用装備が与えられなくなったという点では、ウィッチの立場を表していた。また、スーパー戦隊や宇宙刑事達が未然に巣を潰すという対策を講じ、海上で怪異に遭遇する可能性そのものが大きく減少したためでもある。そのため、怪異はこの時期にはほぼ駆逐され、国家間戦争のみが人々に伸し掛かる恐怖だった。
――ダイ・アナザー・デイに前後して、スエズはティターンズとの攻防戦の舞台となっており、ウィッチ兵科の歴史的役目はそこで終えたとする者が多数派だった。ウィッチ兵科、特に航空ウィッチ兵科はティターンズの台頭でその存在意義の殆どを喪失、扶桑でも、航空科の『特技』という形での存続が予定されている。これは三輪の台頭前に、航空ウィッチ兵科を航空科に統合し、ウィッチ出身者の居場所を確保しておく狙いのもと、山本五十六が急がせた事項である。ウィッチとしてのウインクマークは無くなるわけではないが、三輪が出てくる前に、とにかくウィッチ出身者をパイロットの中に隠すのが真意である。山本五十六は黒江から三輪の横暴と、次の戦争での空軍の体たらくを聞かされており、未然に対策を講じる事を選択したのだ。その事は黒江の日誌に綴られており、『山本は数十年後の空軍の未来のために、現在の反感を選んだ』とある。山本は現在における反感を買ってでも、長期的展望のもとにウィッチの居場所の守護を選んだ。そのような選択が出来るという点では、彼は軍政向きの将であった――
「でも、どうしてそこまでこの国は武器、いや、兵器の取替えを急ぐの?」
「日本は太平洋戦争で軍事力でも、科学力でも負けたからね。向こう50年はどんなに向こうが努力しても追いつけないくらいの差を見せつけないと気が済まない。日本はこの国にそれを促してる。色々とやらかしも多いから、その償いも兼ねてね」
日本連邦は科学力で敵を圧倒せんとしているが、防衛省の警察系官僚達が『飢餓作戦』をハワイやリベリオン西海岸へ行おうともしている辺り、史実への怨念返しの意図が多分にあるのが見え見えである。自分達が21世紀まで処理に苦しんだ機雷を『22世紀まで苦しむ量を落としてやる』と言わんばかりに富嶽で落としまくる素案を見た海上幕僚長は『馬鹿げてる』と一笑に付した。アメリカは機雷戦を重視し、大量生産していたが、扶桑は日本軍よりも更に少ない数しか保有していない。機雷をそれこそ大量に散布したら、したで今度はその処理に手間取るし、占領後に苦労するのがオチである。米軍のような複合式機雷原を構築した場合、自分達が1945年から2017年までかけての時間を費やしても、まだ完全に終わっていないのだ。その倍をばら撒こうなど、敵も味方もあったものではない。その為、飢餓作戦はハワイならともかく、西海岸全体は億や兆の機雷があろうとも有効ではないため、見送られる。潜水艦での襲撃のほうが現実的だからだ。
「むこう50年って、大げさ過ぎない?」
「太平洋戦争が終わった後、科学力で差があったと分かった時の軍隊や軍需産業の人達の落胆は大きかったからね。大きな戦争は科学力を進歩させるけど、基礎の時点で差がね」
「日本とアメリカの国力に差があったのは聞くけど、そこまでなの?」
「多くの場合はね。私達の世界線だって、枢軸国は聖遺物に一発逆転をかけてたわけじゃない?私が通ってる世界でも、オーバーテクノロジーで逆転勝利を狙ってたからね、日本軍」
「オーバーテクノロジー……」
「私達の世界線との違いは、古くの遺失技術か、当時の水準を超えてる超未来技術かって事。縋ったのがね」
調Aは超人機メタルダーやラ級戦艦の事を指して、オーパーツと言った。東條英機はオーパーツに縋ることを良しとしなかったが、サイパンに多くの兵や一般市民の命が消え、連合艦隊の落日が示されたサイパンの失陥で腰を上げたものの、『時既に遅し』であったのが、ドラえもん世界での大日本帝国の末路であった。東條は軍閥の長にはなれても、国の長の器ではなかった。オーパーツの扱いで石原莞爾と大いに揉め、活用派の彼を予備役に入れたのも大いなる間違いだと、オーパーツ開発担当者からは揶揄された。東條英機は良くも悪くも『昔の正々堂々たる戦』を夢見る男だったのだ。石原莞爾は『米国を倒すには、オーパーツの力を使うべきだ』と説いた。そこが権力を握った東條に予備役へと追いやられた理由だが、東條は自国の地力を買いかぶりすぎていたのである。東京が空襲で焼かれた報を聞いた東條は、在任中に選択を誤った事を後悔していたという証言も残されているように、アメリカとの力の差を知るのがあまりにも遅すぎた。これはドイツびいきだった陸軍の全体の間違いでもあった。背後にジュドが控えていたナチスに惹かれた者があまりにも多すぎたのだ。日本が扶桑皇国にカールスラントへの深入りを戒めるのは、自らの過去の経験からだろう。カールスラントとしては困るので、ラルを含めた人員を送り込んでいるのだが。ラルは空軍総監である。そのラルを南洋に常駐させるのも、カールスラントの誠意であった。カールスラントのナチ化を異常に恐れる日本、扶桑皇国との繋がりを保ちたい一心で、空軍のエースを尽く南洋に送り込むカールスラント。両者のすれ違いであった。
「おまけに、日本はナチの事があるから、ドイツ贔屓のくせに、異常に怖がるときてる。ああいうの厄介なんだよね」
「厄介?」
「エースとかの人材は有難がるくせに、組織的援助は断ってくるんだって、ドイツ軍の人達は困惑してるんだよね」
「どうしてそんな事を?」
「ドイツ軍は歴史的には、精強で慣らしてる割には、最終的に負けてる事が多い軍隊だしね。縁起が悪いとかって嫌われてるんだ。それに史実でもあんまり協力関係じゃなかったところあるし、そこがネックなんだよね」
ドイツと日本は史実だと互いが遠すぎて、意味を成さなかった同盟を結んでいた過去があるので、ドイツ(カールスラント)の妙な共和制化とヒトラーの役目を果たすアジテーターの出現を異常に恐れている節があり、カールスラントは実に困惑している。そこがカールスラントのエースの大量派遣の真意を日本の防衛省が掴めない理由だった。空軍のエースを太平洋戦争に関わせるのなら、中堅を少数派遣すればいいはず。それを大エースばかりを送るのか?防衛省が首を傾げる理由だった。実際はトップ20の大エースに、Gウィッチが集中していた事や、人類同士の戦争に関わる意思を持つ者達がその大エースだけだったのだが、そのような事を知る由もない防衛省は『JG44の自慢だろう』と思っていた。これは三桁撃墜王を複数要する同部隊の威容を踏まえた上での事だが、若干の的外れがあった。実際は彼女たちよりも更に若い世代を送り込もうとしたが、その若手が辞退したので、太平洋戦争開戦当時にあがりを迎えようとしている(迎えた)世代で固めただけである。バルクホルンもハルトマンも、若手に経験を積ませようと、当初はメンバーの折衝にだけタッチするつもりだった。しかし、その若手がMATに土壇場で移籍を発表し、現場を混乱に陥らせたため、南洋島滞在であったのを良いことに、ラルが自分共々、『メンバー』に仕立て上げたのだ。その為、64Fの魔弾隊、魔眼隊、魔刃隊の陣容が異常に豪華になったというのが真相だ。これはカールスラントも若手ウィッチがMATにこぞって移籍したため、ウィッチの世代バランスの崩れが生じ、現場の混乱が甚だしい事で、G機関に属するようになったGウィッチ達を書類上、現場復帰させたというのが組織的事情だ。『G機関』は今回においては、ガランドが自由行動を許される代わりに、ダイ・アナザー・デイで生じた軋轢を避けるため、カールスラント流の元帥府代わりに、Gウィッチを扶桑の元帥と似た役目に任命している組織だ。扶桑は日本との連邦化で元帥を階級として復活させる羽目となったが、カールスラントはそれとは別に、G/Rウィッチたちを通常ウィッチと分けるためにG機関に配属させ、軍階級は佐官以上にするという扱いとしていた。メンバーが大エースであった事もあり、これを指して『元帥府』と言う渾名がついた。501の軋轢が如何に、カールスラントで問題視されたかが分かる。これを受け、扶桑も元帥府を連邦軍の正式な機関として存続させ、Gウィッチ達の表向きの所属先に充てる案が検討されている。(日本には、現在の元帥達を『戦犯』と敵視する論調があるので、世代交代の名目で、人気がある山本五十六、小沢治三郎、山口多聞、今村均などの改革派に挿げ替える案の延長線に位置する。これはウィッチという存在が如何に異端視されているかの証であり、正式に元帥に昇進した山本五十六が『いや、連邦軍のウィッチ総監にGを充てている事で解決してるのではないか?』と述べた事で立ち消えとなったが、元帥府のメンバーの増員が図られたのは事実だ。元帥が階級として復活した事は形骸化していた元帥府の活性化に良いという事もあり、連邦軍総司令幕僚部を事実上の後身とする形で決着し、四人の元帥の名誉は守られたのだった。こうした、政治的な話題をBに話すあたり、調Aはすっかり軍隊組織に馴染んでいる分、思考がそれらしくなっているし、戦闘力でもBとは隔絶した差がある。Bには隠しているが、万が一に備え、ダイ・アナザー・デイの際に試行した『龍王破山剣・逆鱗断』を完全に身に着けている。その為、黒江の剣士としての側面を受け継いだ節も見られた。
――こうして、懸念材料の一つであった風鳴翼が、アルトリアのカリスマ性でとりあえずは話し合いのテーブルについてくれるが、残るはクリス、切歌、響、マリアの4人。マリアは話が通じると考えられるが、切歌や響が単独で転移してきた場合、戦闘になることは充分にありえる。その時には最悪の場合、ギアを龍王破山剣・逆鱗断で解除させた上で話をするしかないだろうと考えている。元は黒江が、『好きでやっているゲームの技を空中元素固定装能力と小宇宙を使うことで再現する』という試みをしたのがきっかけだが、それを自分も行うことになった。英霊の宝具とは違う『模倣』にすぎないが、威力は『本物』に遜色ないという不思議な自信がある調A。アルトリアと翼Bを乗せたジープが基地に入るのを視認し、そっとため息をつくのだった。――
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