短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)
――B世界の501の面々に、待機組であるケイから改めての説明がなされたのは、それから間もなくの事であった。メンバーが補給のためと、続々と着艦してきたためだった。ただし、特殊な機体があった。芳佳Bは震電を履いているのだ。それの補給は筑柴飛行機に直接問い合わせての整備となった。だが、規格が微妙に違うのと、A世界の震電はジェット化のテストに回され、レシプロ状態では現存していないという難点があった――
――飛行甲板の真下の層にある第一格納庫――
「何だって!ここでは震電は実用化されていない!?どうしてだ!」
「ここだと、震電のエンジン策定が揉めてたんだよ。誉二一型か、マ43の特別仕様かで。で、局地戦だからって、マ43ル特(マ43魔導エンジンの排気タービンとブースト装置を装備したチューン仕様)になったんだが、横空の連中だとエンジンがうんともすんとも言わなくてな」
マ43ル特は宮藤博士が最後に残した図面から実用化されたエンジンだが、実用エンジンとしては技術の限界による欠陥があった。それは『Gウィッチ級の強大な魔力でなければ、エンジン始動が不可能であった』事で、量産性が極めて悪かった。震電は雷電の後継機種としての量産を見込んでいたため、高性能と引き換えに使用ウィッチの制限はよろしくないと判断した44年当時の海軍航空本部の命で開発が凍結された。そして、メッサーMe262の登場と、未来世界との接触でジェットストライカーの素体に選定されたという経緯がある。言わば、マ43ル特はレシプロエンジンとしては極限に至ったが、始動必要魔力値が当時の平均的ウィッチがいくら頑張っても叩き出せる数値ではなく、専用スターターの開発は手間がかかる。(メーカー側が火薬式スターターの使用に難色を示した上、飛行魔法の発生護符を元来の6翅から4翅に簡略化すると、性能が下がる試算が出た)それよりも高性能かつ、工程が簡単なジェットエンジンの素体にしたほうが安上がりとされ、ジェット化の素体となったが、横空事件でそのベース機が焼失してしまったため、別機になっており、B世界の芳佳の予備パーツにはできない。
「…と、言うわけ。いっそこっちの震電改に乗り換えてみるように言えば?ジェットストライカーの試作機上がってるらしいしよ」
「こちらのジェットにか?しかし欠陥が……」
「あのなぁ。メッサーのデータをもとに独自改良されたんだぜ?それ言ったら、メーカーに殺されるぞ?」
「しかしだ、バルクホルンの事があって、ジェット嫌いだぞ」
「なら、こちら側の替えが効くエンジンに変えるか?DBとか、こちらのマ44とか」
「マ44?」
「開発中止されてたんだが、長島が執念で完成させた最後のレシプロエンジンで、2500を叩き出す化け物だ」
長島飛行機が最後に完成させたレシプロ魔導エンジン『マ44』。キ99の異常な高性能の秘密ではないかと一時は噂されていた高性能エンジンで、そのパワーはマ43を更に上回る。これは既存レシプロ機の安価な延命策の一つと見なされている。
「民生用のアツタ42型ルでもいいぜ?液冷になるからカウルとか作り直しになるぜ?」
「うーむ……。空冷機を液冷にするのは手間がかかるから、やはりマ44に載せ替えておいてくれんか?」
「震電の開発主務者に問い合わせる。二案を聞いて、最も良いのを選ばせる。それと、ラジエターはP51のポン付けで配管すりゃ熱田でも載るし、空冷よりトルク出るぜ?」
「問題は宮藤の魔力が大きすぎて、1000馬力級ではリミッターがかかって動かないってところなんだよ。アツタは所詮は1400hp/だろう?」
「お前なぁ。金星だって、1560hp/だろうが」
坂本が2000馬力に拘っているのは、芳佳の魔力が強大化しすぎて、魔導エンジンが1000馬力級ではリミッターが働いてお釈迦になるからで、2200のマ43特なら受け止められるとして要望したためだ。そのため、アツタの1400馬力では不足と見ているらしい。
「なんとかそちらの43の部品は使えんのか?」
「無茶言うな。微妙に規格が合わないんだよ。微妙にも違うって整備が言っとるんだけど」
「こちらの備蓄では、一回の大規模戦があれば尽きる程度しかないんだ、なんとかしてくれ」
「うーむ。こうなれば、扶桑純正じゃない独自改良型のアツタ五三型でも載せるか。さる筋が独自改良して、2000馬力級にパワーアップさせたというし」
「だから、なんでアツタなんだ」
「43まるっと載せ換えるのも手なんだけど、こっちのタマ数が無いんだよ。ジェットの配備が始まって、レシプロは数減らしてるからな」
「何ぃ!?まだ三年だろう?そちらでは」
「もう三年と言え。戦時じゃ、一年半でモデル寿命尽きるんだよ」
「うーむ……」
「紫電改も退役し始めてるし、烈風は戦闘爆撃機扱いで使われてるだけだからな。だから、こっちも困るんだ。こっちから見れば一世代前だし」
ジェットストライカー『旭光』の配備が進み、次の栄光のテストが進んでいる47年の段階では、レシプロストライカーは数を減らし、MATがラインの一部の管理権を取得した事もあり、軍内のレシプロの供給量は44年次の半分以下に下がっていた。圭子もこちらでのマ43を載せ替える案を推奨しないのは、レシプロストライカーは近い将来に全廃の予定があるのを知っているからだ。
「しょうがない。アツタのその改良型にしてくれ。外したマ43ル特はどうする?」
「そちらの基地に置いとけ。いずれ戻った時に使うだろうしな」
こうして、坂本の要望により、B世界震電は日本の規格で造られたアツタの独自改良型に換装され、液冷ストライカーに生まれ変わる。坂本が懸念した出力低下は殆ど無く(2300hp/→2150hp)、むしろトルクが上昇した事による恩恵が生じた。水平面の速度は若干低下したが、高高度性能が数千mも上昇するなどの性能特性の変化が起こった。A世界では液冷エンジンの整備性は尾張航空機(愛知航空機相当)の不断の努力で改善されており、整備性の面でも恩恵があった。B世界ではジェットはその初期不良で501に嫌われていた(バルクホルンは惚れているが)ため、坂本が妥協したことで、仮称・震電B型(液冷エンジン搭載改造型)がA世界の機材を使うことで生まれいでた事になる。A世界ではジェットが普及しつつあるが、B世界は時間軸がA世界から見れば『2年前』である上、ジェットがバルクホルンの一件以来、嫌われている故の妥協策であった。
――それから半日後、戦闘が落ち着き、B世界の501が全員集合したのを見計らって、A世界の64Fの幹部が集合した。B世界では坂本と繋がりがない者も大勢いた。A側はレイブンズ、菅野、芳佳A、雁渕姉、黒田、西沢、武子と、この時に非番であった者達中心であるが、主だった幹部が姿を見せた。坂本Bは自分の知る彼女たちとは『出自が同じ別人』と聞かされても、ピンと来ない者も多かった。多少の違いはあるので、見分けは簡単だが、坂本が『自分が後輩になる』関係の代表的な者としては黒田がいる。B世界では『後輩』に当たるが、A世界では『先輩』である。黒田が『やっほ〜坂本』と声をかけたので、坂本Bは面食らい、ペリーヌBが眉を顰める――
「君は確か、506の黒田中尉?私とこの世界では関係が?」
「あるも何も、同じ釜の飯を食ってたし、あたしの方が先輩だよ」
「!?え、どう言うことだ?」
「あ、ごめん、こっちじゃ一桁から飛んでたから先輩なんだ。幼年学校の時に黒江先輩に引き抜かれて」
「……なるほど。で、義子、お前、何の冗談だ?士官服なんて着込んで」
「アホ、こっちじゃ中尉だっつーの」
西沢はA世界では口調が立場相応に変化しており、幼さを残すB世界の彼女自身とは雲泥の差であった。
「お前が士官?ハハハ、何かの…」
「お前、ボコられてぇのか?」
「姉御、まっつぁんに怒られますぜ」
「わーっとる」
「痕を残さず痛い目だけ見せる手管は幾らでも有るんだがどの辺までいけるかな?」
「赤松さんの手を煩わせるんじゃないの、義子。坂本、口の利き方に気をつけなさい?」
「す、すみません。義子とはリバウ三羽烏なもので…」
武子が坂本Bの軽率さを諌める。西沢はA世界では部下に厳しく、空戦では一級の指揮官にして、戦士というB世界とは根本的に違う方向性に行ったため、坂本Bに怒るのも無理はない。
「……いや、構わねーよ、美緒に比べりゃ階級は下で、あたしゃ、兵学校は出てない特務の成り上がりだしな」
「す、すまん。昔と同じ感覚で…」
「なあに、同じ『クロウズ』の仲だしな。気にすんな」
「クロウズ?」
「あなた達『リバウ三羽烏』の他国での呼び名よ。こちらでのね」
「たいしてかわんねーよ、上(空)じゃコールサインか名前呼びだしな」
「まー、それは私達もだがな」
「お前がこの世界での……黒江なのか?」
「ああ。声のトーンが高めだから、お前に取っちゃ妙な感じだろう?子供の頃の声色を保ったから、こうなった」
「ふむ……お前の声に思えないのは、トーンが高めなせいだな?これも驚きだな」
「扶桑海事変の陸軍三羽烏が英訳でスリーレイブンズ、リバウの海軍三羽烏はレイブンズがやり過ぎてくれたおかげで、レイブンより小ぶりだって言うんでクロウって事になっちまったんだ」
「ああ、映像で見させられたよ。義子、お前が真面目な事言うのはこそばゆい気分だ」
「ぐぬぬ……、雪でも降るってか?もう、この三年でさんざ言われたんで、気にもならねぇよ」
「まっ、それは置いといて、だ。私らが戦況変えたから、海軍はお前らに過剰に期待かけてたんだよなー、なっ、西沢」
「おう。このご三方が暴れてくれたおかげで、あたし達がどう頑張っても比べられるから、若い頃は対抗意識あったぜ。あたしは若の野郎と違ってよ、事変後の志願だし」
「そうか、お前はリバウが初陣だったな」
「若なんて、この世界だと300機落とすとか息巻いてたぜ?あたしはまだ176くらいだが」
「あたしら『レイブンズ』に比べりゃ『青い』けどね」
「穴拭か。お前、妙に自信満々だな」
「まー、こっちだと派閥持ってるしね、あたし」
「お前が派閥だと?信じられん。いつも武子さんに怒られてばかりのお前が」
「自信持って飛ばなきゃ生きて帰ってこられないわ、過信は禁物だけど自信はもたなきゃ、ね。わかりやすい違いだから、見せるわ」
智子が指を鳴らすと、ハルカが報告しに現れた。口調は遊撃隊としての真面目なもので。
「閣下、ご報告します。敵は一旦、態勢を立て直すために戦域を離脱したとの事です」
「ご苦労、大尉。引き続き監視を続けろ」
「了解いたしました」
敬礼し、ハルカは部屋を出てゆく。智子は遊撃隊の長としての威厳のある口調や態度を見せ、ある種のカッコよさからか、B世界の501メンバーに拍手される。
「どう?坂本」
「……なんと言おうか……お前とは思えんほどに威厳を感じた……まるで師団か旅団を率いているような…」
「この子も色々あってね。階級だけなら旅団長の資格あるのよね、扶桑海のレイブンズと私は」
「どういう事です?」
「私たち四人は『准将』になってるの。戦功で。それと叙爵もされているのよ」
「少将ではないのですか?」
「私たち、まだ20代でしょう?陸士や海兵の連中が反発したのよ。若すぎるって。お上がそいつらを黙らせたけど、年齢の事もあって、准将を作ったのよ」
「そう言えば……」
「そそ。だから、子爵とセットで任ぜられたよ。国家功労者だけど、若すぎるんでって事で准将に落ち着いた」
「そうか、忘れていたが、貴方方はまだ20そこそこなんだった」
「そう。ウィッチとしてはロートルとか言われそうだけど、軍人としては若いのよ」
武子や智子、黒江は坂本と3、4歳ほどしか差がないため、軍人としては非常に若く、圭子のみが『油が乗り始める』20代後半である。黒江でこの時期に20代半ばに差し掛かると言えば、その若さが分かる。叙爵が検討されていた段階ではまだ、22歳から23歳だったのだ。叙爵も反対論があるほどなので、少将昇進は陸士や海兵(後の統合士官学校)の教員などが更に反発したので、准将をわざわざ新設した。
――似たような例はカールスラントで、ロスマンが少尉任官と士官学校入学を余りにも拒否するため、皇帝が扶桑の制度を真似、特務少尉に任じたという例だろう。この場合はロスマンが頑なにヘ育係の曹長という教育係の下士官の立場に拘っていたためで、結果としては、ラルとレイブンズが別世界での雁斑ひかりへの接し方でかなりの釘を刺した事で、自分のやってきた教育を見つめ直した結果、特務少尉任官の話を引き受けたが、当人は同期から『お前のせいで昇進できない』と誹謗中傷されたので、士官学校入学を断った事を後悔する素振りや、父親を異常に恐れる様子も見せた。前史では銃撃までされた事を知るラルは今回、手を打ち、ロスマンの後身育成への熱意を空軍の次期総監として、ロスマンの父親に話す事で、どうにか回避に成功した。しかし今度は、同期らからの誹謗中傷なので、ラルも苦労続きであった。そのため、武子とは苦労人属性から馬が合い、今回は親交が深くなっている――
――ロスマンが受けた誹謗中傷を例に上げると。このようなものが多かった――
「コネでいい仕事もらいやがって!」
「お前がいつまでも曹長だから、私は昇進できないまま上がったんだぞ!」
「伝統ある階級制度をお前一人のわがままで…」
この『伝統ある〜』がロスマンには特に堪えたらしい。父親が前大戦で佐官であった彼女が特に恐れたのが、新制度の第一号が自分である事だった。そのため、厳格な父の発言を異常に恐れており、特務階級が新設される前、ラル、ガランド、皇帝の前で『士官学校に入るから、やめてくれ』と懇願したほど、父親を恐れていた。それもあるが、士官になると、教育に専念できなくなる事を懸念していたのも理由だろう。しかし、ロスマンの教育熱心さは皇帝の耳にも届いており、300機撃墜記念で皇帝に謁見したエーリカが、『ロスマン曹長は自分の恩師であります』と発言した事も大きかった。当時、カールスラントもウィッチの新規志願数減少とMATとの喰い合いを懸念しており、ロスマンはそれを防止するための『質のいい教育』にうってつけで、エーリカの恩師というネームバリューも使える。そのための教育総監への任命と特務階級創設であったが、階級制度の変革をロスマン自身が怯え、皇帝自らが『君の父は私が説得する』とまでいう事態になった。ラルから話を聞いた皇帝は実際にロスマン家を訪ね、皇室の信奉者であるロスマンの父を説得した。これは扶桑の昭和天皇が黒田のお家騒動の仲裁に動いたのと同時期であるため、この二大事件はウィッチ世界では『王室や皇室の権威は健在』であることを日本らへ示す格好の材料として使われたのだった。
「――似たような事はカールスラントでもあったけど、ウチの場合は若手の功労者の放り込み先と、旅団長の長を調整するために設けたようなものね。まぁ、陸士と海兵連中の面子って奴ね」
「面子か……。確かにこのメンバーは扶桑の歴代撃墜王を網羅していますね。しかし、宮藤が少佐?信じられんな」
「まー、ここだと戦功立ててますし、菅野さんとペアで暴れてますから」
「お前、医務官と航空兵を兼任したのか」
「医務官になるのに勉強しましたよ。留学がポシャったんで、本土の軍学校で資格取りました」
欧州留学が扶桑のとある参謀が恐慌状態に陥ったためにポシャった芳佳Aは、その参謀の行為が国際問題になるのを懸念した山口多聞が手を回し、扶桑の医療学校に入学させた。その期をトップレベルで卒業したのもあり、軍医少佐の地位を得ている。
「カンノはやりすぎて、兵学校出だけど、大して上がってないけどな」
「少佐にはなりましたよ、やっと」
「まー、菅野さんは飛んでるほうが合ってますから」
「お前、随分と捌けた態度になったな……」
「色々あったんですよ。お陰で、『空の宮本武蔵』なんて渾名もらいましたよ」
「お前が『空の宮本武蔵』か…随分と違うものだな……」
「いや、私とお前も全く違うぞ?フフ……」
「あ、坂本さん。休憩ですか?」
「ああ。シフトが下原に交代したからな。それに私自身が来たとあれば、顔を見せていこうと思ってな」
坂本Aが現れた。これについては纏う雰囲気以外の違いは殆ど無い。違うのは、Aは魔力がG化によって絶頂の頃のポテンシャルで維持されているが、公には『引退』とし、空母飛行長の任についている事、下原を個人的に副官にしている事くらいだ。階級は中佐だが、前史の記憶があるため、温和さが強まっており、厳しさを見せる事が多いBと違い、温和な表情だった。また、黒江との悲劇のために、黒江には格別に優しい。それは坂本なりの娘の分も兼ねての償いであった。
「ほれ、黒江。お前が頼んでたコーラだ」
「バカ、投げんな」
コーラを放り投げ、それをキャッチボールするかのように受け取る黒江。黒江への気遣いが多いのは、前史の事を坂本が気に病んでいる証であり、黒江に心の傷を残した自分への戒めでもある。坂本は赤松にも『償いのために転生した』と公言しており、黒江のことを常に気遣うようになっている。それは前史での事の恩返しであり、坂本なりの償いである。
「お前、眼帯をまだ?」
「ああ、魔力は維持しているが、戦士としてやりたいことはやり尽くしたからな。今は皆を導く事が生きがいさ」
坂本Aの表情は安らぎに満ちていた。戦士としての使命を終え、後進育成や、空母の飛行長に生きがいを感じる『第二の人生』を送る自分自身。Bは直視できない。禁忌に手を染めてしまってるためだろう。後ろめたい気持ちが湧き出たらしい。
「私は……お前のようなウィッチとしての第二の人生は送れんな……禁忌の技に手を出した。飛べるのも、ウィッチでいられるのも……」
「私も『一時』は考えたさ。だが、ある事で自分を見つめ直し、この道を選んだ。だが、いざとなれば飛ぶさ。私は『クロウズが筆頭』だからな。それと、ウィッチとして前線で戦う以外にも戦う事が出来る。ついてこい。今の立場を見せてやる」
と、坂本AはBを連れ出す。W坂本にペリーヌBは感激していたが、その感激はすぐに吹き飛ぶ。それはモードレッドがペリーヌの服のままで顔を見せたからだ。
「501がそろったってー?」
「モードレッド、着替えてなかったの?」
「おう。ペリーヌがB部隊と話してたからな。別にショック与えるつもりはないぜ?武子」
「あの、貴方は?」
「えーと、なんと言おうか。ペリーヌ。ここでのお前の第二人格つーか、まぁ、そんな感じ?」
モードレッドの説明はとんでもなく下手だが、ウソではない。
「私の別人格……!?」
「あー、私が補足するわ。彼女はね、ペリーヌ。貴方の肉体を使っている第二人格の位置づけにあたる英霊『モードレッド卿』よ。円卓の騎士で、アーサー王の子と言えばいいかしらね?」
武子の説明でようやく事を飲み込めたペリーヌB。ペリーヌ自身の肉体を使っているとは言え、声はペリーヌのそれよりドスが効いたような感じのトーンの低いものであるし、華奢であるはずのペリーヌの体躯からかけ離れた、『騎士らしい、見かけによらずにがっちりした体躯』なので、とても自分自身の肉体を使っているとは思えない。『燦然と輝く王剣』を公然と持ち歩いているあたり、モードレッドは剣の取扱いは意外と雑である。
「と、まぁ。そんな感じだ。お前にゃショックかもしんねーが、オレはアーサー王の子供に当たる円卓の騎士だったモンだ。今じゃ、ガリアの騎士してるけどなー」
モードレッドは母親と違って、性格が粗野であるために、口調は21世紀の若者と大して変わらない。そのギャップが人気のもとでもあるのだが。
「え、円卓の騎士なら、もっと堂々として貰いたいものですわ!」
「ワリィけど、オレ、正々堂々って言葉と余り縁がねーんだ、これが。オレの立ち位置知ってると、必ず突っ込まれるんだよなー。まっ、慣れたけど」
ペリーヌBへ言う。一応は騎士としての礼節は一通りあるが、生前に卑怯と言われる行為や策略を張り巡らせた事もあって、正々堂々という言葉へは余り縁がない。生前のこだわりが転生で解決された事もあり、ペリーヌと本質はあまり変わらない、所謂『ツンデレ』キャラとなったのだが、生来の『勝てば官軍』的な気性は残っているので、騎士と言うよりは、むしろ近代軍の兵士に近い性質と言える。生まれる時代を1400年は間違ったとも言われる英霊。それがモードレッドだ。そのモードレッドが近代軍の中で騎士への懐古の意味を込められた部隊をペリーヌとして率いるのも、ノーブルの再建に拘っているガリアへのスパイスになっていた。
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