短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――次元震パニックで浮き彫りになった、それぞれの違い。芳佳と坂本、ミーナ、そしてペリーヌが最も顕著に違いが出ていた。ペリーヌに至っては別人格が出現していて、その人格がかつての英霊である事に、ペリーヌBは泡を吹きそうになる。

「ったく、体格が違うから、お前の服、サイズきついんだよなー」

「貴方、軍内ではどういう扱いですの!?」

「共存してるから、基本的にゃお前と同じだよ。少佐だったかな」

モードレッドはペリーヌから変化をした直後はペリーヌの衣服をそのまま着ているが、体格が違うこともあり、思い切りキツキツである。

「お前、確か、501が再結成される前、ノーブルの隊長職を断ったろ?」

「え、ええ。ガリアの復興のほうが急務でしたし、政治に付き合うつもりはありませんでしたし……。それが何か?」

「いや、お前にゃ酷だと思うんだけどよ。ノーブルさ、こっちだと空中分解したんだわ、組織が」

「えぇ!?」

「おい、クニカ。お前の方が詳しいだろ?経緯を教えてやれ」

「はいな。ペリーヌ、貴方が隊長職を断った後、ロザリー少佐に話が行ったのはたぶん同じだと思うんだけど、ここからが問題で、ガリア王党派の策略に、B部隊で疎外感を感じてた『ジェニファー・J・デ・ブランク』大尉が乗ってて、悪い事に、基地にも内通者がいて、基地がテロられた。ロザリー隊長が瀕死になるわ、あたしも負傷したんです。」

「内輪でテロ!?」

「ノーブルの目的に反する平民がいるのが許せなかった王党派残党のテロリズムでした。彼らは訓練した子供を実行役にしてて、下手したら、あたしも腕が吹き飛んでました」

黒田は話す。今回におけるノーブルウィッチーズ運用凍結のきっかけとなった内輪もめと、凄惨なテロリズムの顛末を。子供をテロリズムの実行役に仕立てる事は民族紛争ではよくあるが、ウィッチ世界では『史上初』であった。幸い、黒田は前史の記憶でなんとか直撃は避け、軽度の負傷で済んだが、ロザリーは基地格納庫が吹き飛んだ大爆発でもみくちゃにされて瀕死に陥った。この時、ハインリーケが黒田を除く、506メンバーへ明確に『アルトリア』としての片鱗を見せた。

「ハインリーケさん、いえ、アルトリアさんがこの時に始めて動き始めたんです。指揮系統はめちゃくちゃにされた上、ジーナ中佐も医務室に担ぎ込まれてたし」


――数年前 旧ノーブルウィッチーズ基地――

「自爆テロか!?おのれガリア王党派!権威にすがりながら、民草の犠牲を顧みぬとは……外道め!」

ハインリーケ(アルトリアとしての活動開始前であるため)は黒田以外には隠している真の姿の片鱗を垣間見せた。

「ハインリーケさん!」

「狼狽えるな!各員は被害の把握を急げ!!これがテロリズムなら、次があるやもしれん。警戒を怠るな!」

ハインリーケらしくない言葉づかいで指示を飛ばす。このテロリズムを目の当たりにした『彼女』は遂に動きだした。かつて『選定の剣の騎士王』と謳われたその存在の矜持のもと。

「ロザリー少佐は?」

「意識不明だそうです。従って、今は部隊の指揮権はハインリーケさんに」

「分かった」

黒田から報告された自分の執務室から放送をかけたハインリーケは、部隊の次席指揮官としての放送を行う。ここで幾人かは言葉づかいで違和感を持った。出自からやや世間知らずで幼かったはずの彼女とは思えないほどに凛として堂々たる放送だった。

「506各員へ司令。私はハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン大尉である。ロザリー少佐は敵の卑劣なるテロリズムにより、負傷なされた。これより部隊の指揮は小官が代行する。以後、ロザリー少佐の意識が回復するまでは、小官に連絡事項等の報告をするように。……以上」

これまでのハインリーケとは一線を画する、堂々たる放送だった。『妾』を用いず、『私』、『小官』を用いて放送を行った事自体が大事件なのに、言葉づかいもまるで別人のようなので、放送を聞いた、B部隊隊員で、ハインリーケのライバルだった『マリアン・E・カール』は聞いた瞬間に飲み物を吹き出してしまった。

「ウィトゲンシュタイン大尉!!」

「貴方でしたか、ヴィスコンティ大尉。報告ですか?」

「い、いや、その、なんだ……。何か悪いものでも食べたのか?」

アドリアーナが駆け込んできて、開口一番に真顔で言うので、ハインリーケ(アルトリア)も苦笑いである。

「アドリアーナさん、医者の診察では健康そのものだそうですよ、ハインリーケ大尉」

「ハハハ、その軍医はヤブだな。絶対に何か悪いものでも食わせたんだろう?黒田中尉」

アドリアーナはハインリーケの性格を熟知していたため、いきなり普段と90度は違う方向性のキャラになっているのを『扶桑の秘薬でも食わせたか?』となるのも当然のことであった。

「そんなんじゃないですって〜!」

「なら、このキャラはどうなんだ?強い酒でも飲んだか、扶桑の秘薬でも飲ませたのか?」

「いーや、あれはハインリーケさんの隠していたところですって」

「黒田中尉、冗談が上手いな」

アドリアーナは本気と受け取らないが、あまりにも、アルトリアの性格が本当のハインリーケとはかけ離れていた故の言葉だった。

「単にスイッチが入っただけでしょ?偉い人には突然、印象が変わる人多いって聞きますし」

「いーや、姫に限って、それはないね」

「あ、アイザック君」

イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール中尉が入ってきた。彼女はベルギカ(ベルギー)の男爵家だか子爵家の息女で、ブリタニアに家族ごと亡命した経緯を持つボーイッシュな少女だが、両親が『何かと本人の意志より国家の意向に左右されがちなウィッチという立場』に不安を抱き、男子として育成していたからボーイッシュであるという過去がある。(その父親が元警察官かつ、現在は『灰色の脳細胞が〜』というどこかで聞いたフレーズを用いて探偵業を営んでいるため、黒田は『名探偵ポ○ロ?』と大笑いである)黒田は第一印象と、ボーイッシュになった経緯を聞いた事から、『アイザック君』と呼んでいる。また、その父親は自分と妻の勘違いを償おうと、今度は過保護になったので、イザベルからは疎んじられていたりする。

「ハインリーケ大尉は韜晦していたかもしれませんよ、アドリアーナさん。扶桑の統一を果たした武将が若いころはうつけとして有名でしたし」

「うーむ。それにしても、変わりすぎだろ?」

「うん。韜晦って域かなぁ、あれ」

「は、ははは…」

黒田もそこまでは弁護のしようがない。アルトリア当人は『ハインリーケの幼さ』に苦虫を噛み潰すような思いを抱き、思わず手元に、『勝利すべき黄金の剣』を召喚したほどだった。

(あ、不味いですって。勝利すべき黄金の剣は!みんなの前ですってば)

(この苛つき……なんとも言えません)

(だからって、カリバーン召喚します?見られてなかったから良いようなもの……)

一瞬でハインリーケの手元に、鞘に収められている西洋剣が一陣の風と光と共に出現した。見られていたら不味い光景だ。宝具の使用は前世を明らかにするものであるので、アルトリアにしては軽率であった。

(家伝の剣といって誤魔化しますよ。ですが、いい加減、ちょっと)

(まさかオルタ化してエクスカリバー・モルガン撃つ気じゃ)

(まさか。あれはちょっと威力が。風王結界でもみくちゃにしようかと)

(あ、今のはカリバーンでしたっけ)

「貴方方、さっきから聞いていればなんですか。いい加減に堪忍袋の尾が切れましたよ……」

「ま、待て大尉!その剣、どこから出してきた!?」

「問答無用!風王鉄槌(ストライク・エア)ッ!!」

その瞬間、黒田は思わず目をつぶった。イザベルとアドリアーナは風王鉄槌の暴風に、思い切りもみくちゃにされ、彼女たちは死すら覚悟した。一瞬の出来事であるので、シールドも張る間すら無かった。事件そのものよりも、隊員の間ではこの事が語り草となった。この時にストライクエアを用いたのが、他の隊員にハインリーケの変質を、半ば見抜かれる要因になった。


「――ってなわけです。それでそのテロの主犯格がガリア内部の王党派である事が分かって、ジェニファーさんが内通者ってわかった後、ジェニファーさんが情報漏れ防止の為に始末されそうになって…」

この辺りは前史と共通しているが、今回はハインリーケがアルトリアとして動き出した事で状況が変わり、ハインリーケの容姿のままでカリバーンを使用し、Uボートをたたっ斬っている。公の場でハインリーケとして最後に言った言葉は、その時の『湖に沈められたら綺麗になって帰ってきたかしら?』という一言である。これ以後はアルトリアとして活動しているため、ハインリーケにアルトリアが扮した時期は、実は現界からの僅かな期間であった。これ以降は公的にも『アルトリア・H・P・ツーザイン・ウィトゲンシュタイン』と名乗り、アルトリア・ペンドラゴンであった過去も公にしてゆくが、彼女の融合と現界のタイミングは1944年の未来世界との接触の前後ではないか、とは圭子の推測だ。

「――それで、ハインリーケさんがアーサー王の生まれ変わりである事を公にしたんです。勝利すべき黄金の剣も、約束された勝利の剣も持ってるから。まー、ブリタニアとカールスラントが喧嘩しましたけど」

「それはそうですよ。それはブリタニアの喪われた伝説の聖剣。しかもアーサー王はブリタニアで多分、歴代有数に人気がある王ですよ」

「伝説は虚実入り混じってるけどね、リーネ。物としての剣ではなく、霊格としての聖剣だからその場で必要な形に呼び出しているだけなんだよね、カリバーンもエクスカリバーも」

「え!?」

「ああ。だから、私もエクスカリバー撃てるぜ?だから、この世界で伝説になったんだ」

「お前がエクスカリバーを!?」

「エクスカリバーよりも上の霊格、剣の原型とも言える『エア』も持ってるから、エクスカリバーは普段使いだけどな」

「だから意識を切り離すと霊格が霧散して単なる剣になっちゃうし、送還して消滅させる事も出来る。あたしも集中すればエクスカリバーは撃てますよ。ただ、疲れるんですが」

レイブンズと関係が深く、更にアルトリアにも仕えた黒田はこの時期までに『約束された勝利の剣』を使えるようになっていた。レイブンズに長年仕え、アルトリアに信を置かれた成果だろう。

「エア出すのはまずいから、形状が近いのはこれかなぁ?」

黒江はミラクルドリルランスを召喚する。エアの媒介に使える槍だからだ。

「これは?」

「私がダチから借りてる武器で、ドリルとランスの機能を兼任できる武器だ。これ結構凄いんだぞ」

ガイちゃんはこの時期は多忙で、Zちゃんのお目付け役や調の指導役などを兼ねていた。黒江があーや呼びを許すほどに信頼されているのもあり、最近は不在であることも多い。ロボットガールズの中では一番に自由に動ける立場なのもあって、Z神からもデュランダルを与えられるなど、ロボットガールズのメンバーで一番に黒江に近しい立場にいた。また、調が切歌が不在でも修行に身を入れる理由の一つがガイちゃんが指導し、のび太が兄的な役目を果たしているからでもある。ミラクルドリルランスは剣としても使えるため、エアの媒介に丁度良く、アルトリアやモードレッドも驚きの逸品である。


「閣下から聞いたけど、アンタ、この世界だと最速だって?どんくらいなんだよ」

「何って、光より速くて、時間の流れも逆らえるけど?」

「なぁ!?」

シャーリーBが腰を抜かした。

「光速移動の応用で分身も出来るぞ」

「おいおいおい!まるで神様じゃ」

「実際、そうだ。従神とは言え、神だからそれくらいは朝飯前だ。オリンポス十二神に仕えてるしな、私ら三人」

「えぇー!?だったら、なんで現世にいて、普通に軍人してるんだ!?」

「元々は普通のウィッチだったからだよ。お前よりだいぶ前の世代の。坂本がまだガキンチョだった頃に、私は15か16くらいだったし」

シャーリーはウィッチ歴そのものは12歳前後からだが、軍歴は1943年からで、意外と年数が少ない。これは前職がレーサーだったからで、これはA世界でも同じだ。黒江は細かな違いがあるものの、概ね『航空士官学校設立初期の卒業』の戦間期世代に分類される。世代的にはシャーリーとだいぶ離れているのは事実だ。坂本が12歳時に15歳前後の黒江は、大戦世代からすれば、『大先輩』である。

「すると、私達が元いた頃にはとっくに……」

「ああ。あがってるはずの世代の人間さ。普通ならロートルとか言われてるよ」

黒江は大笑してみせた。見かけはシャーリーBよりも若々しいのに、実年齢は1945年時点でも22歳と、ウィッチとしての能力は既に一線級ではなくなったはずの年齢である。この事実は、黒江が神格になった事の証明だった。元々、上がった後も飛べる体質だったため、Rウィッチを経て、G化した後は概ね転生前の絶頂の頃(15〜18歳)のポテンシャルをとっくに超え、ミッドチルダとベルカの高位魔法も苦もなく扱えるほどになった。そのため、黒江はGに進化した後は、外見上、転生前で絶頂期と自負している15歳前後を維持している。これはレイブンズの中では最も若々しい外見である。声についても、声帯の状態を志願以前のものに変えているため、素で調と瓜二つである。シンフォギア(シュルシャガナ)使用時にも、声帯を弄る必要がなくなる(軍隊で声質が変わっているため)ため、声質については子供時代に戻している。一方、圭子は性格が変化しただけなので、声質は殆ど変えていない。トーンを低くしているくらいだ。実のところ、智子が派閥の統率のために一番、声質を変える頻度が高いのだ。智子は凛々しい見かけに反して、声が割に高めと、入隊後にトーンが低くなった黒江とは対照的であった。地の声は吹雪やグラーフ・ツェッペリンに声質が近いとは、黒江の談。

「声質は何らかの要因で変化するもんだからな。だけど、こうなると変えられるようになる。だから、割に便利に使ってるんだ。声質の変化能力」

「チートすぎるー!」

「あ!もしかして貴方、あの人形の!?」

「やっと気づいた?芳佳、ニブチンじゃない?」

「す、すみません。私、みっちゃんが見たっていう、その映画見てないんです」

「こっちでも言ってたわ。ったく、公開当時はアイドルみたいに人気あったのに」

ぶーたれる智子。扶桑海の閃光が公開された当時はいつもアイドル的な人気を誇ったため、その落差に耐えきれなかったのも、転生前に力を取り戻せるチャンスにすがった理由であり、今回も同じような思いは抱いていた。Gへの覚醒後も(お局様扱いされた)その事は地味に根に持っている。そのため、また『英雄扱い』されだしてからは広報の要請に厳しくなっている。(そのため、圭子が代わりに広報に露出する機会が増えた。黒江も、日本でマスメディアの事で訴訟を抱えるなど、散々な目にあったからである。黒江と智子の広報への顔出しが珍しくなったため、圭子と武子が広報関連の仕事を多めに引き受けている)一説によれば、広報関連部署に勤務している軍人らは、智子については第一次現役時代の最終所属先『飛行50戦隊』の当時在籍していた隊員の誰かに恨み節を吐いていたし、黒江についても、日本の週刊誌に怨み骨髄であったとかいう。智子はいらん子中隊から帰り、同隊に在籍した時期は、今は敵対し、神闘士となっていた一人と、自分を慕うもう一人とで『50F三羽烏』を組んでいた事があるので、その時代の事は影でのお局様扱い以外は悪く思っていない。

「ブームは辛いよなぁ」

「だからって数年くらいで手のひら返し!?あれは一番ムカついてんのよ!!たま○っちの全盛期とかエア○ョーダンじゃあるまいし」

智子が引き合いに出したのは、のび太の時代にブームになったが、数年後には人気が落ち着き、一時の狂想曲が嘘のようだったグッズたちだった。智子の第一次時代の熱狂的人気もその類で、現在も広報を度々泣かせているのは、その時の事を根に持っているからである。

「私だって、向こうで何年間か、裁判所とか弁護士事務所に通い詰めだったんだぞ?週刊誌連中は煽るわ、無知な連中が馬鹿な訴訟起こすからよ」

黒江も日本で2006年からの数年間は訴訟を多く抱えていたため、マスメディアには厳しくなっている。黒江は転生前、マスメディアに優しいことで知られていたが、今回は日本の自衛隊に旧軍人の経歴を公にしないで属していた事を槍玉に挙げられ、国会などでも問題に取り上げられた事すらある。自衛隊内部でも、旧軍高級将校である経歴を隠して防大に入って、三尉から勤務していた事が問題にされたのだ。

「裁判ってマスゴミしか来やがらねぇ。旧軍人の何がいけねーんだよぉ!陸軍の青年将校だからって軍国主義者扱いかよぉ!」

黒江は不運にも、戦後日本の『嫌われ者』である旧帝国陸軍の同位軍航空部隊の青年将校であったことから、色々な訴訟が起き、国会の沈静化にも時間がかかった。帝国陸軍軍人は多くが戦後に自衛隊へ再入隊しているし、警察に流れた例も多い。その事実の周知には時間がかかった。(事実、元帝国陸軍少佐の黒江の同位体である黒江保彦は生前、空将補に登りつめており、次代の空将候補と言われていた)当時の攻め手の一人であったある女議員が押し黙ったのも、防衛庁(後に防衛省)が『旧軍人たちが実質的に創設期からしばらくの間、自衛隊の幹部や現場を回していた』事を示し、歴代幕僚長の多くは旧軍の佐官から尉官だった層の世代だった事を示したからだ。

「あんたも災難ねぇ」

「言ってやったよ、『お前ら暇そうだな?機密事項って解るか?そういう事でやってたのに何故私だけが槍玉に挙げられるとかどういう了見なんだか解らんので、キッチリ話を付けようと考えている』って。で、ある時に国会に呼ばれた時に当時の野党の有力議員から『元軍人なら、基礎課程覚える必要ないじゃないか!』と愚痴みたいに言われた時にゃ呆れて物が言えなかったよ。源田の親父さんでも呼んでこようかと言ったら、青くなってたけどな」

「まぁ、下士官以下ならともかく、あんたは潜り込んだ当時でも佐官だったし、『理由言って、幹部学校から始めればよかっただろう』ってのは、背広組や防衛大臣経験者の愚痴かもね」

「だからって証人喚問までして晒し者にするか?扶桑と国際問題になる事が分かった途端に手のひら返しやがって。だから嫌いになったんだよ、マスゴミ連中や政治屋共」

黒江も愚痴る。黒江の場合は野党が証人喚問で晒し者にして、国際問題化を恐れて追及が収まっても、大した詫びも入れないまま、その政党は政権与党になって、扶桑出身者を冷遇したことから、マスメディア嫌いになってしまい、扶桑軍広報部はとんだとばっちりを受けた。黒江を社会的に抹殺しようとし、失敗した出来事は当時の日本の野党が、後に政権与党の座から短時間で滑り落ちた原因の一つだったともされる。つまり黒江を慕う多くの自衛隊員の不信を買ってしまった上、日本の国際的信用度を貶めるような行為であるのが、当時の若者から嫌われたためともされる。彼らの統治下で学園都市が戦争を起こし、黒江達の冷遇を緩和しだしたが、時既に遅しは否めない。彼らが政権から滑り落ちた後、黒江の統括官への就任人事に反対しなかったのも、黒江が扶桑で加速度的に昇進し、遂には戦功で爵位を得た事に恐れをなしたからでもある。そのため、彼らは2018年に入る頃にはいい加減、『扶桑の連中と関わると、政治生命が危うくなる』と学び、君子危うきに近寄らずの言葉通り、扶桑が絡む事項には形式的に『反対』しても、最終的には認める事が常態となった。それは扶桑と連邦を組んだ故の日本政治界の選択でもあった。

「私が単なる一軍人なら社会的に抹殺されてたところだが、幸いにして、立場的にも色々と対抗手段があったし、扶桑最高峰のウィッチの名誉もあった。それが救ってくれたよ。仮面ライダーのみなさんも呼ぼうかと思ったんだよなー」

「あんたほどの軍人でそれだものね。それが他の連中なら社会的抹殺されてたでしょうね」

「マスゴミ連中と左の政治屋は旧軍人を軍国主義者だって思ってやがるからな。私が子爵になった途端に媚びて来やがった。私もキレそうになった」

「あんたがキレたら、大変な事になるからねぇ。日本の野党は自分の非を認めないで、論点のすり替えやらかすから」

黒江がマスコミ嫌いになったのは、日本の野党は大手メディアがこぞって擁護するのに、自分を擁護する大手メディアは殆ど無かったが、首相が『国際問題になる』と示唆したら、野党はパニックになり、論点のすり替えをしだし、TVなども潮が引くように手を引いた事が原因だった。2012年の統括官就任を容認したことを禊とする野党議員もかなりに登る。そのため、扶桑軍広報部は恨み節全開で、自衛隊からかなり黒江の写真は流してもらっている。そのため、黒江の空将(統括官)就任後の写真は日本側が主に供給している。また、黒江は証人喚問されても、逆に軍人としての高潔さがアピールされた形となり、口コミや自衛隊方面からの擁護の声が起こっていった。その当時の防衛省の答弁は『当時は正式国交が当時無かったものの並行世界の同位国で、日本国民と見なしても問題ないと判断でき、生徒として日本の教育を体験、学習したいという要望、時間制御による勤務の調整が可能という条件から、表向きは日本人扱いで、幹部以上の人員には扶桑皇国からの留学生徒として通達されておりました。 幹部任官後は書類上は扶桑皇国からの出向隊員としての登録になっておりますが、扶桑皇国との国交樹立までは部外秘としておりました。これは全ての扶桑出身者に当てはまります。また、検討中の連邦化により、日本国籍が与えられる見通しであり……』というものであった。つまり、彼らが問題視した『日本国籍は日本連邦の樹立と同時に付加されるし、自衛隊員の身分もこれで正式に与えられる』。内規で統合幕僚監部へは入れないことが決められており、侵食の恐れはなく、むしろこれからできる『日本連邦軍』での自衛隊の立場の確立が問題と答弁した。扶桑は1000万人近い三軍軍人がおり、三自衛隊合わせても50万人いかない自衛隊は人数的に日本連邦軍では不利である。そのため、2012年から16年まではひたすら軍関連で交渉が進められた。最後の課題だからだ。政権が交代していた頃に、当時の与党が問題視したのはその多さで、鳩山ユキヲはどうしても軍の8割削減に拘っていたし、その後の二代の総理も陸軍には冷酷だった。これは扶桑の領土の広さを考慮していないので、当然ながら連合軍が圧力をかける。また、国民の数も領土に比例して多く、1945年当時には二億六千万と、史実日本の最盛期の倍以上の人数がいた。南洋島やウラジオストク居住者、旧明国や李氏朝鮮の末裔らも入れると、そのくらいの人数に登るからで、必然的に軍の必要人数が多くなる。扶桑軍は史実日本軍よりも数十万人は多いが、扶桑の国力からして、動員限界ではない。これが扶桑が大国たる所以だが、扶桑は徐々に志願制に移行し始めていた。

「そうなんだよ。それが私が中に入ってみて、呆れた理由だ。ことさら軍事に拒否反応起こしやがる。未来には軍事力で覇権握る国になるくせに」

「まー、いくら22世紀にそうなるったって、21世紀の初めは『負けた戦争のトラウマ』背負ってるし」

「それが面倒だってんだ。海軍も陸軍もパニックだぞ?今回の旧型兵器のライン止め」

「まぁ、史実の進歩スピード前提でのことだし、圭子が防衛官僚に塹壕戦の写真流したから、これで見直されるでしょ」

塹壕戦。いつの時代も起こる事だが、21世紀の日本人の一般人は塹壕戦=第一次世界大戦の印象がある。そのため、扶桑の要請という形で、1945年当時に試作、あるいは部隊配備開始段階であった比較的新し目の兵器は『改善型』が作られる事になった。それが実行されるのは、1948年のことである。これは自衛隊基準の最新兵器は単価が高価であり、第二次世界大戦のような国家総力戦では高価過ぎると財務省が難色を示したからであった。国家総力戦は消耗戦を意味するが、21世紀の兵器は23世紀の時代や第二次世界大戦のような大消耗戦となる事が前提の数は生産されないため、強力であっても数が足りない。その事が日本に『時代相応からちょっと進んだ』(とは言うものの、冷戦時の技術中心だが…)兵器を『改善した』という触れ込みで生産させる要因となる。

「そうだといいけどよ。問題は今の状況をどう伝えるか、だぜ?」

「そうね。バルキリーを使ってるから、自ずと分かるかと思うけどね」

「それだけじゃ分かりにくいぜ?こいつらにもわかりやすいモンがいるぜ。マジンカイザーとか真ゲとかよ〜」

「エンペラーいるんだし、エイラやサーニャは遭遇したはずよ」

「あれって、この世界のモノなのか?」

「また別の世界の23世紀が生み出した魔神皇帝の一体だ、あれは」

「魔神皇帝?」

「話せば長くなるが、ある平行世界は人型ロボット主体の戦争形態に移行していて、その世界の最高峰の技術で生み出された、特に強力で、特殊な動力を積んだ『特機』、一般にはスーパーロボットで通じる。そのカテゴリの中でも『機神』に相応しいくらいの力を持つのがあれだ」

スーパーロボットの説明に入る黒江。鉄也から借りたマジンガーやゲッターなどの戦闘の記録映像を見せる形で説明する。マジンガーZや初代ゲッターの時点で21世紀時点の空母機動部隊の全力と同等の破壊力を持っており、それが次第に発達していくとどうなるか。破壊力は飛躍し、グレートマジンガーとゲッタードラゴンの時点で軍事的には過剰といえるほどの破壊力となる。

「スーパーロボットはその元祖って言える、この『マジンガーZ』の時点で『戦艦の攻撃力と装甲と戦闘機の機動性を併せ持つ』存在なんだ。見てみろ。戦車や他のロボットがいくら攻撃しても傷ついてないだろ?」

「ほ、本当だ」

「で、それの後継機達の世代になると、敵もそれに比例して強力になっていく。当たり前だけどな」

グレートマジンガーやゲッタードラゴンの代に入ると、敵味方共に強大な破壊力を振るうようになり、グレートマジンガーもゲッタードラゴンも当初の絶対性が薄れたため、更なる飛躍を目指し始める。その研究の成果が真ゲッターロボであり、マジンエンペラーGやゴッドマジンガー、更に偶発的に生まれたマジンカイザーであった。マジンカイザーと真ゲッターロボは同時期の登場であるが、マジンカイザーは現在と登場当初の姿は異なる。派生存在のGカイザーがそうであるように、胸に金の装飾があり、手足は黒かった。マジンカイザーはカイザースクランダーのような後付装備にも対応して見せたが、マジンガーZEROがマジンカイザーを破壊するビジョンを幻視した甲児は、マジンカイザーにゲッターの技術を入れて強化改造する案を数回ほど提出したが、弓博士が却下してきた。これは弓教授が『ゲッター線で進化したマジンガーであるカイザーにゲッターの技術を入れても、プラス要素があるとは思えない』と懐疑的であった事が原因で、弓教授は良くも悪くも堅実派だった。ZEROの偏執的な『自分以外のマジンガーは消し去る』意識に危機感を持つ甲児は宇門博士に相談し、そのラインで実父の剣造が動き出したという経緯がある。Z神が『ライオネル』という姿で剣造に助力したのも、その時だ。マジンカイザーの更なる強化は神隼人も絡んでの一大プロジェクトとなったが、ここで議論が起こった。ゴッドマジンガーの時もそうだが、例によって兜剣造と弓弦之助がカイザースクランダーの小型・内蔵化で議論を起こしたのだ。これはひらめき型の剣造と十蔵の系譜であるが、堅実派の弓の持論の衝突でもあるので、いつものパターンで、宇門博士の仲裁(宇門は剣造の大学の先輩である)を必要とした。そのため、カイザースクランダーの内蔵式への改造には、ゲッターの技術での改良がなされた上で、ネイサーでテストが行われたほど、弓教授の堅実性が際立った。そのため、マジンカイザーの改造は弓弦之助がテスト期間を長めにしていた事もあって、予定より進捗度が遅く、ZERO戦には間に合わなかった。甲児は結局、Z神の勧めでゴッドマジンガーを対ZERO戦で使用、『ビッグバンパンチ』で勝利を収めている。結果としては間に合わなかったものの、テストを重ねた分、確実性はあった。甲児が咄嗟に考えて使用した『スクランダーブーメラン』は『ジェットブーメラン』として昇華されたり、胸のファイナルカイザーブレードと機能を兼任していたので、どちらか片方しか使用できなかった肩部の剣は新たに『ショルダースライサー』としてカイザーブレードと別個に設けられ、カイザーブレードとショルダースライサーで機能を分担させることで汎用性を確保した。また、ゲッターの技術が本格的に入った事で目に黒目ができ、金のモールドも無くなり、グレートマジンガーと同じカラーリングになるなどの改造が施され、ダイ・アナザー・デイ作戦の後半から投入されている。それは甲児が要望したプランに沿った改造であり、弓弦之助もライオネルや剣造からZEROの脅威を聞かされ、その対策に乗り出したのが分かる。


――従って、マジンカイザーはこの時点では、マジンエンペラーG同様、『グレートマジンガーの後継機種に見えるシルエットを持つマジンガーとゲッターロボのハイブリット機』と言える状態であり、シルエットは以前よりも従来のマジンガーに一歩近づいている。そのシルエットが映し出される――

「この機体は?」

「マジンガーZ、グレートマジンガーの双方を遥かに超え、王の中の王、魔神の中の神と謳われている、スーパーロボットの上位機種のカテゴリ『魔神皇帝』の名の由来になった最初のマジンガーだ。名前は『マジンカイザー』」

「マジンカイザー……」

「そう。これが元祖『魔神皇帝』にして、マジンガーZの魂を受け継ぐ存在。マジンカイザーだ」

マジンカイザーの現在のシルエットが映し出される。大仰だが、スーパーロボットはインパクトあっての物種。そのシルエットは魔神皇帝と畏れられるだけの威圧感を501Bの面々に与えていた。



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