短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)
――魔神皇帝。その名はマジンガーZEROが『紛い物』と忌み嫌う名だが、マジンガーZEROはマジンエンペラーの前に屈した。それを以て、マジンガーZEROは自分こそがマジンガーの紛い物という烙印を押されたという事になった。甲児は数多の平行世界でマジンガーZが生まれてゆく内に、兜十蔵の願いが歪んでしまった事に畏怖し、その事もあり、マジンカイザーやゴッドマジンガーを『Zの魂を受け継ぐ者』と公言していた。これはZEROの体内に残されていた数百体のZの残骸から甲児が感じ取った思いでもある――
――回収されたそのマジンガーZ達は何らかの要因で機械獣軍団や戦闘獣に破れ、それを引き金にZEROが顕現し、それと分裂した良心であるマジンガーZが最終決戦を行い、敗れたケースで捕食されたものも数十に登った。そして、初期のそれになるほど、グレートマジンガーに救われたり、甲児がマジンカイザーに乗り換えるケースが多くなっていた。最終的にZEROとなった個体に取り込まれた甲児はそのどれかのZに乗っていたと思われる。つまるところ、マジンガーZは数多の平行世界で後継機達に押されて忘れ去られる事を憂い、それが『マジンガーZこそが最強である』という強烈なエゴとなってしまい、ウィッチ世界もいくつかを滅亡に追い込んだ。それ故にGウィッチ達はZEROに対して強烈な敵愾心を持つ。甲児は自分がZEROを止められなかった事で、彼女たちに辛苦の記憶を持たせてしまった事を気に病んでおり、それが鉄也を介しての協力であった。黒江は甲児のその献身の理由に気づいており、互いに持たれ持たれつの関係となっていた。そして、Z神の正体が遥かなる年月でZと融合し、神になった甲児そのものである事も気づいている。従って、黒江は甲児といずれ肉体関係を持つ事になる。もっとも、それは遥かに遠い未来でのことだが――
「これが今、この世界と国交結んでいる世界の最終兵器だ。元はその世界の戦争に巻き込まれただけだが、事が次第に大きくなったんだ」
「事が大きくなったとは?」
「リベリオンがそいつらに屈伏したんだ。この攻撃でな」
ティターンズの核攻撃でサンフランシスコとサンディエゴが吹き飛ぶキノコ雲が起こる場面が映しだされる。ティターンズの見せしめ的核攻撃は、リベリオン国民を恐怖のどん底に陥れ、政府首脳部などは直感的に『マンハッタン計画の成果』である事を見抜き、絶句したという。
「なんですか、これ!」
「アトミックボム、物質を可能な限り効率的にエネルギーに転換してその熱量をぶつける物だ。その破壊力は原始的なものでも、20万都市を一瞬で吹き飛ばすほどのエネルギーを起こす。この世界でリベリオンが一発か二発完成させていた爆弾だよ。原始的なものだと、大量に放射線が出るから直撃しなくても生物はその細胞を破壊されて死に至る場合もある」
黒江は核兵器に触れる。A世界では放射能による汚染よりも『怪異の定着による土地の荒廃』のほうを危険視していたのもあり、フランクリン・ルーズベルトが扶桑を撃滅するための最終兵器と見込んでいた。だが、軍部は怪異を一発で吹き飛ばすために開発していたし、作っていたアインシュタインやオッペンハイマーも永続的な土地の荒廃よりも『目処の立つ放射能汚染』のほうがマシと考えていた。そのためもあり、史実通りにリトルボーイは完成したが、アインシュタイン達はそれを持ち出し、手土産という事で亡命した。が、亡命したら『悪魔』のように言われたと憤慨する科学者が続出したため、扶桑は熱核タービンエンジンの自主製造などを目指す都合上、原子力技術は必須であるためもあって、地下で研究させている。そのため、日本の強烈な反核運動は連合軍には『厄介な連中』として見られていた。
「これはその中でも世代が進んだモノで、放射能を残さなタイプだが、威力はサンディエゴとサンフランシスコを一撃でクレーターに変えるほどだ。リベリオンが政変起こすのも当然の事だ。中心温度は10000℃近いし、どんな鉄筋ビルも溶けて消える」
「これをワシントンやニューヨークに打ち込まれたら……という恐怖ですか」
「そうだ。リベリオンはこの世界じゃ敵国になったんだ。もののついでのヴェネツィアも」
「ものはついでって」
「ヴェネツィアはロマーニャに飲み込まれる運命を悟って発狂した挙句に裏切った。ロマーニャより微妙に海軍は強いが、取るに足らない相手だ」
「うじゅ!ロマーニャもヴェネツィアも海はたくさん戦艦あるのに」
「あのなぁ、数よりも質の問題なんだよ、戦艦は」
ヴェネツィアは元々の立地条件等で、ロマーニャよりも数が多い海軍を有し、ロマーニャよりも新鋭艦の割合が多く、そこそこは強力と見なされていた。未来世界との接触により、頼みの綱である『リットリオ級戦艦』の性能が理論倒れである事が分かり、扶桑やリベリオンが大和型とモンタナ級を量産しだした事も重なって、リベリオンから『地中海の門番』と笑われている。もっとも、リットリオは額面上は『近距離なら510ミリ装甲も抜ける』とされるが、太平洋での平均的交戦距離では380ミリを抜けるか否かというところに貫通力は落ちるので、概ねアイオワやサウスダコタ級には対抗は可能とされる。しかし、大和型以上の化物相手は荷が重く、ロマーニャのそれは『大和型に対抗できる艦がいる戦場では露払いがせいぜい』という辛辣な評価を頂いていた。
「この戦艦がなんか分かるか、ルッキーニ?」
「え?扶桑の船だよね?えーと、ヤマト?」
「そうだ。扶桑の誇る新鋭戦艦。大和、武蔵とかがいる事は扶桑の軍人でなくても分かるな?」
「うん。二隻だけでしょ、それって」
「この世界じゃそうはなんなかったんだ、これが。リベリオンがこんなのを出して来たからな」
「あれ?アイオワにしてはデブく見えないか?」
「これがこの世界でのリベリオン最新最強の戦艦『モンタナ級』だ。大和に対抗するための『低速』戦艦だ」
リベリオンはA世界では、大和型の主砲が18インチ砲である確証がなく、キング提督の鶴の一声もあって、アイオワと規格統一されたが、結局は改良型で18インチ砲を積むことになった。これは大和型の18インチ砲が実際に対峙した頃にはM動乱で強化されていた事もあるが、一発あたりの威力はやはり上であった事で、設計の欠陥で船底が薄かったモンタナの敗北になった事を強く意識したのだろう。しかし、これは例外的な事例なので、やはり普通の船としては大和型に比肩する防御力で扶桑連合艦隊を手こずらせている。また、大和型の増強を決定づけたのも同艦級の呉での華々しい戦果であった。
「これはこちらでの数年前、リベリオン艦隊が呉軍港を襲った時の映像だ」
呉軍港に停泊していた艦は空襲や砲撃で無力化されていき、潜水艦の奇襲で無残に鎌首をもたげて消えていく戦艦の姿も映る。その中で果敢に挑んだ扶桑皇国海軍第二艦隊の第三戦隊(当時)の紀伊型戦艦の二隻の姿が映る。二隻は大和型に次ぐ主力と見なされており、扶桑海軍は逆襲を狙ったが、結果は無残だった。紀伊と打ちあったのは最新鋭のモンタナ級。年式の差もあり、紀伊は嬲り殺しに逢い、遂には乗員の練度不足もあり、一矢報いることもできずに、巨大な爆炎と共に没し去った。紀伊はポストジュットランドタイプで、極端に古いわけではない。だが、その差がモロに悪い方に出てしまい、紀伊が無残に爆沈する瞬間は呉の住人を絶望の淵に叩き落とした。
――映像の中で、轟音と共に爆沈する紀伊。紀伊が史実のフッドの役回りを負ったような無残な最期を遂げてゆく光景は芳佳Bの胸を締め付けた。みっちゃんが好きだと言っていた戦艦だったらしい。自分の世界での出来事ではないにしろ、爆炎と共に一瞬で沈む姿は痛々しく感じたのか、バルクホルンが支えなくては立ってられないほどだったらしい――
「紀伊って強い戦艦じゃ……?」
「あくまで、長門の世代の中での話だよ。紀伊は基礎設計が長門と同時期だもの。建造が設計から10年近く後になれば、古くなるよ」
芳佳Aは冷静に批評する。お互いの違いがはっきり出た出来事である。
「で、これで確か、建艦運動が起きたんですよね、黒江さん、隊長」
「おう。信濃の空母改装がぶっ飛んだからなー。それで」
「正確には搭載機の策定の段階には達していたのだけど、信濃を空母にしても、ジェット機には小型なのと、工事がもう砲架取り付けの段階にまで進んでいたのが真相よ、芳佳」
「砲架の取り付け?」
「ええ。そこまで行くと、そのまま作ったほうが安上がりなのよ。視察に行ったウィッチが愕然としたそうよ」
「私らが規格部品と品質管理のネタをぶっ込んだ結果なんだよ、信濃と甲斐。今みてーな運用はモンタナの登場まで想定外だったし、外部と内からも文句でたんだ、特にあいつだ」
「あー、あの人ですね。神がかり参謀も可哀想に」
「私、統合幕僚会議で小沢議長の護衛で出席したんですけど、やつれてましたよ、参謀」
「そりゃあいつに責められればなぁ。多摩しか味方いないし」
雁渕が話に入って来た。その場面を見たらしい。つまり神参謀は大和に嫌われているのだ。多摩の擁護で大和は引き下がったが、かなりの精神ダメージを負ったのを目撃しており、芳佳や雁渕の同情をもらうほどに憔悴している。大和型が前線で運用されるようになったのは、前線で戦う事への異常な執着を、大和が見せたのも原因に含んでいる。山本、古賀、豊田の三代の連合艦隊司令長官を悩ませていた。結果、大和は豊田の次の小沢の代の頃に彼の指揮下で、戦闘の幸せを得たが、戦間期の抑止力としての働きの記憶がある長門型戦艦の二人は複雑な心境であった。大和型の史実での悲劇を思えば、同意できるが、長門型戦艦の二人は抑止力としての期間のほうが長いので、大和より精神的意味で大人であり、実艦のことには口を挟んでいない。大和は史実の撃沈が現在の心境に深く関係しており、武蔵も引くほどの『ウォーモンガー』と化している。艦娘の提言で実艦の運用を変えさせたのは大和だけであるので、大和型に戦艦としての幸福の記憶がないこその悲劇だと、長門は見ている。
「長門さんが言ってましたが、『実艦の運用にも口を挟むとは。大和の奴め、まるで小僧だ』と困ってました」
「まぁ、大和は大抵、坊ノ岬で敢え無く玉砕だから、気持ちは分かる。レイテ沖海戦でアイオワを打ち砕いて、一撃講和が成る世界なんて私も見たことないんだよなあ」
神となり、平行世界を行き交うようになっても、大和が望んだような場面が太平洋戦争で起きる世界線はまずなかったと証言する黒江。大和型が戦後に生き残っているには、多くの複雑な条件を満たした上で、ビキニ環礁での実験艦から外される必要もあり、世界線そのものが貴重らしい。その事もあるのか、大和はウォーモンガーであることを隠さず、清楚な外見と一致しない戦闘狂が定着した。圭子に似た狂気すら感じさせているため、海軍関係者も持て余し気味なのが大和だ。
「で、それで信濃、甲斐のペアが生まれて、投入された頃には、今度は別世界のカールスラントが生み出した化物と対峙したわけで……」
大艦巨砲主義バンザイと言うべき、バダンの化物戦艦達はバルクホルンBを唸らせ、珍しく興奮気味の様子を見せた。バルクホルンBは、AがGとしての記憶から、戦艦達に冷静な目を持っているのと対照的に、大和型に対抗心を持っていたらしい。これはAが見たら、『やめろ!恥ずかしい!!』と止めていただろうが、年齢を考えれば当然の事ではある。大艦巨砲主義が未来技術で命脈を保ったこの世界では、遂に61cm砲搭載の800m級戦艦すら俎上に載せられている。その要因がカールスラントであり、カールスラントはけして、大洋艦隊だった頃の栄光を忘れていない。その事が嬉しかったのか、普段のキャラが崩壊寸前なほど嬉しがり、小躍りまでしたので、A側は爆笑の渦で、B側は困惑した。
「ブハハ!!こっちのバルクホルンに見せてやりたいよ、その動き!」
黒江は床をバンバン叩き、腹がよじれるほど大笑いしている。A側は武子さえも大笑いで、如何にバルクホルンが生真面目キャラを通してきたかが分かる。
「ブハハホヘ…こんなところに女シュ○ロハイムが居やがった〜!『最新型の超弩級戦艦を揃えるのは出来んことはないィィィーーーッ!!』だって!」
黒江はもうこれである。思い切り爆笑しており、Aがいたら恥ずかしさで赤面するのは間違いない。
『我がカールスラントの造船科学は世界一ィィィィーーーーッ!できんことはないイイィーーーーーーッ!!』
芳佳Aは角谷杏の側面からのコメントで、『完全にシュ○ロハイムだねー、バルクホルンさん』とコメントし、レイブンズは完全に笑い転げている。これで制帽をかぶっていれば完璧にそのままの動きであった事もあって、レイブンズは大笑いし、西沢も菅野も芳佳Aも同じように爆笑の渦である。キャラが明後日の方角に大崩壊のバルクホルンBに、B側の全員が困惑する。
「あの、バルクホルンさん?」
「ほっとけ、ほっとけ。しばらく収まんねぇよ。で、どうだルッキーニ。大艦巨砲主義は」
「ぶ〜〜!リットリオがまるでおもちゃじゃん〜!!」
「だって、地中海しか走れねぇだろ」
「ぐぬぬ〜」
「まっ、お前らの身分は私らが保証する。戦闘などについてはこちらの指揮下で行動するように。宮藤。お前の震電はこっちのエンジンに載せ替えてるから、後で見ておけよ」
「は、はい」
「あ、あの。」
「サーニャか。お前についての説明はややこしいんだよな。後で説明する。私の部屋に来てくれ。みんなの前だと混乱を招く」
「わ、分かりました」
「おい、それどういうことだよ!」
「エイラ、これはサーニャ個人に関わることなんだ。如何にお前でも同席はだな」
「私はサーニャの……サーニャが好きなんだよ、パートナーなんだよ!!」
「お前、ガチでそうなのか……」
突如のパートナー宣言に唖然の黒江。エイラBにこう言うのが精一杯だった
「お前、性転換か、同性婚しちまえよ、もう」
「な、な、なぁ!?」
「往生際が悪いですよ、エイラさん」
芳佳Aも煽るので、エイラBは頭から湯気を出して思考停止する。その表情は晴れやかだった。サーニャBは赤面しながらもじもじしている。
「あー、こりゃ完全に気絶してますよ」
「晴れやかな顔で気絶しやがって。しかも興奮して鼻血吹いてやがる」
「どーします」
「雁渕、西沢。こいつを医務室に運んでおけ」
「了解」
「ミーナは武子とよく相談してくれ。機材とかは武子が管理している。バルクホルンが興奮から収まったら、智子と私のとこに来るように言ってくれ。坂本はあの様子だと、冷静に指揮できんだろう」
「了解致しました、閣下」
黒江は指示を飛ばす。B側はミーナでも中佐であるため、『准将』のレイブンズには従う義務がある。レイブンズはこの世界では『世界最強のウィッチ』。従ったほうが得策とミーナは見た。ミーナBはガランドの部下であるが、必ずしもガランドに従っておらず、501の居場所を得るためにガランドの権威を利用していた。そのため、レイブンズと渡り合おうとしていたが、レイブンズはB側に探りを入れている状態であった。B側はレイブンズの力を見させられても、世代交代の摂理が生きているため、ミーナでも『ロートル達の時代ではない』と心の中で考えるなど、現役世代の自負が強かった。従って、レイブンズに敬意を払っているのはごくわずかと言えた。
「いいんですか?」
「ミーナはここでもそうだが、まだまだ卵の殻が取れてねぇガキだ。あれで私らの反応を探ってたんだろう。あいつの常套手段だ」
芳佳Aに言う。ミーナは元々歌手を目指していたため、作り笑顔が上手い。それで優しい人物像を周囲に印象づけているが、A世界での前史のように、恋人を失った悲しみを忘れられず、整備兵に冷淡に接する二面性があった。その不満でサボタージュを起こさせないよう、坂本やラルがリバウ時代から心を砕いていたのが今回だ。(ある整備兵がミーナの態度に不満を漏らし、ミーナがその整備兵に制裁をしようとしたので、ラルが電撃で制裁を加えた事もあったという)
「あいつ、ラルの話だと、こっちの世界では、整備の連中にはウィッチと必要最低限の会話を許さなかったくせに、咎めた同僚も制裁しようとしたから、超電磁砲で脅した事があるらしい」
「隊長、整備のモチベーション全く考えてないところあったから。ルーデル大佐とかいてよかったですよ、ローマで」
「坂本や私達が取り持ってたから良かったよ。ケイのところの連中もいたから、迂闊に手を出せないってあれもあったんだろう。まほになってくれてよかったよ、本当」
「あれは僥倖でしたね。まほになってくれれば、ティーガー乗ってるから、整備とのコミュニケーションを大事にしないといけない事を分かってくれるから」
「あっちだとどうなんだろうな。私らがいない場合の世界線だから、坂本の抑えも大きくないし」
「わかりませんね。シャーリーさんが仲介なのは確実でしょうけど。ミーナ隊長はラルさんも言ってるけど、恋人の一件から整備兵とのコミュニケーションを怖がってる節がありましたからね」
「うーむ。とりあえず訓練ん時に全員で水斬りでも見せっか?」
「それでいきましょう。実力差を骨身に染みさせないと、隊長とかは納得しないでしょうし。それに、私が空の武蔵って呼ばれてる理由を見せないと、リーネちゃんも納得しないだろうから」
「だな。お前はあっちのお前とは違うからな。それを見せてやれ」
「元大洗女子生徒会長、343空の撃墜王は伊達じゃないですよ」
二人の芳佳の違いは明確である。レイブンズが幼少期の頃に剣技の土台を作り、竹井が見出し、坂本が下原に次ぐ最後の弟子として育成した。それがA世界での芳佳だ。B世界の自分が些か自分の力がどのようにして世界の役に立つのかを掴みきれていないのと対照的に、A世界では、大局を見据えての政治的な動きも躊躇わないのも、大きな違いだった。数時間後、501基地付近に着水した空母から、基地の敷地に入った新撰組は501Bを駆り出し、訓練に入った。新撰組はいつもの訓練コースだが、501B側に取ってはハードすぎるメニューであった。その内の一つが炎天下33℃の中でビーチバレーを行った。
「さーて、手加減無しでいくか!」
黒江はそのハイパワーでバレーボールをはたくため、打ち出されるスマッシュの威力はリーネとルッキーニのBが怯えだすレベルだった。服装は年齢相応のビキニ水着であるので、坂本Bは眉を顰める。そして、スマッシュのあまりの威力に。
「んなもん打ち返せるかー!」
「あ?軽いウォーミングアップだぜ?」
「お・ま・えという奴は……」
「あたしが打とうか?」
「おー、加東。頼む。代わってやれ」
審判役の坂本はサーブ役を圭子に変えてみたが、結果は先程と似たような事になった。しかもルッキーニが巻き上げられた砂に埋まる威力を見せた。
「バカモン、殺す気か!」
「うーむ。わりぃ、力加減間違った」
「くそぉ、こんな化物相手にバレーボールなんて、生きた心地しねー!!なんとかしてワンゲーム終わらせないと」
シャーリーBは生き残りをかけて頑張ろうとするが、圭子が今度はボールを割ったので、その威力を悟って戦意喪失。ゲームにならなかった。
「まともにゲームになりそうもないし、水斬りでもするか?」
「水切り?」
「取り合えず腰まで水に浸かれる所まで行こうか?」
彼女たちはそこでも凄まじい光景を目にした。手刀や足刀で海を叩き斬る光景が次々と発生したのだ。
「あらよっと!」
坂本が烈風斬で引き起こしたような光景を、普通の手刀や足刀で引き起こしていく新撰組のメンバー。
「この辺は力より技の部分が大きいんだぜ?」
「螺旋や円の動きで無駄無く力を乗せてやるんだ」
とは言うものの、新撰組の幹部は全員が人外であるので、格闘技の素人だったりする501Bの隊員たちには殆ど宛にならないアドバイスだったりする。
「って、殆ど宛になりませんわ……これ」
「取り合えず手刀で膝まで水を割るくらいまで鍛えてやるか?」
と、新撰組隊員たちが末端に至るまでが501Bを鍛え始める。その最中、サーニャBはハインリーケ(アルトリア)が水面に立っているのを目撃する。
「あれはハインリーケ少佐?」
「ああ、あの人か。あの人は厳密に言うと、ハインリーケじゃないんだ」
「よく見てみろ。水面に立ってるだろう?」
黒江と圭子が指を指している先にいるハインリーケは水面に素足で立っている。これは湖の精霊の加護が覚醒で蘇ったので、水面に立てるようになったからだ。水着姿だが、得物が黄金の剣であった事がサーニャBを惹きつけた。
「!!」
ハインリーケの振るった剣は海を切り裂くほどの威力を見せた。話に聞く、幼い印象は全く無く、むしろ凛とした雰囲気と高潔さを感じさせた。
「待って下さい〜!』
「雁渕大尉。よく来られましたね」
「私もGウィッチです。水面歩行なら転生前からやってますし」
孝美は魔力を発動させないと水面歩行はできないが、ハインリーケ(アルトリア)は普通に歩ける。そのため、孝美は軽く息が上がっている。
「息あがってますよ?」
「これ、神経使うんですよ。気を抜くと沈んじゃうんで。妹にも仕込んでるんですよ、これ」
「貴方、妹さんの事が好きですね」
「妹には前史で可哀想な事をしたんで、今回はシスコンと言われても、可愛がってます」
孝美は前史の頃や、黒江から聞いた別世界の自分の突き放しの行為が妹を傷つけた事を気に病んだ結果、今回はシスコン度が突き抜けている。
「バルクホルンと自慢大会になりそうだ」
「よく言われます。前史や平行世界の自分の行いを聞いたりすると、自分は不器用だなって思ったんです。妹は後方にいてほしい。そんな身勝手で妹を傷つけた。だから今回は343空への志願を許したんです」
「やれやれ。まぁ、私もあの子を歪めた責任はあると思っています。あの子を歪めさせた原因は私の形式上の妻の憎悪、あの子の強い承認欲求を読み取れなかった。それ故、私は今回の生では、いい母親であろうと思ってますよ」
お互いに妹や子に苦痛や歪みを与えてしまった身同士で波長が合ったのか、この時から孝美はアルトリアと友人関係を築いていく。剣技は孝美は前史では全くの素人であったが、今回は覚醒した智子にすぐに弟子入りし、それなりの能力を得た。また、前史での最終的な地位『鷲座の白銀聖闘士』の地位も今回はアクイラとして、魔鈴とは別の星座の白銀聖闘士という形で保持している。そのため、聖闘士としてはそこそこの実力レベルにある。(Gウィッチとしては発展途上である故だ)無論、同じ鷲座の魔鈴から『イーグルトゥフラッシュ』は餞別という形で継承している。
「さて、久しぶりにやってみようかな?『イーグルトゥフラァァシュ!!』」
要するに、マッハ5での飛び蹴りだが、破壊力は下手な仮面ライダーが霞む威力である。
「あ、馬鹿!!イーグルトゥフラッシュなんかやりやがって!津波が起こったぞ!!しゃーない。私が流星拳で押し返す」
「すみません、先輩」
「海の上であれやるなよ。地域住民がパニクるだろうが」
愚痴る黒江。そういいつつも、流星拳を放ち、そのエネルギーで押し戻し、掻き消す。黒江の周りにいた501Bのメンバーは殆どが乾いた笑いしかでない。余りにも現実離れしているからだ。
「やれやれ。お前らも自分がやってることに集中しろよー」
「できませんわ!貴方達は本当にエクス……」
「エクスじゃない。Gだ。Gウィッチ。そう呼べ」
水場で牙突をやらかし、ペリーヌBの首の目の前で寸止めする。
「お、牙突、覚えたんだ」
「おう。お前の方はどうだ、エーリカ」
「零式を覚えたとこさ」
「ハルトマン中尉?先ほどまで」
「違うよ。あたしは『この世界のエーリカ』さ。64Fの魔弾隊の隊員さ」
「この世界の……!それでは」
「階級は一応、少佐くらいになったかな?まっ、別のあたしと会ってきたところさ。驚いてたけど、同じあたし同士だから、意気投合したよ」
「やはり」
「さて、ペリーヌ。こっちだとモードレッドになってるから、久しぶりに弄りたいんだよね」
「ち、ちょっとぉ〜!お待ちに…」
ペリーヌBは哀れ、黒江とハルトマンAの実験材にされてしまった。Aが英霊化している事もあって、こういう機会が減ったための実験だった。モードレッド化している方のペリーヌはと言うと、モードレッドが顕現しているためにこの場におり、ペリーヌの体を鍛えていた。
「なるほど、そっちでも一応、それなりに鍛えてたな、少佐」
「英霊にそのように言ってもらえるのは嬉しいな。しかし、こちらの私はいったいどんな事をしてきたのだ?」
「リバウ撤退戦に、病気を理由に居残って参戦してたらしーぞ。オレも人伝に聞いただけだけど」
「どういう事だ?」
「なんでも、リバウ撤退戦に参加するために病気を理由に居残ってたらしい。501への召集を遅らせたらしいが」
坂本Aはリバウ撤退戦に参陣するため、病気を理由にリバウに留まり、そこで現役時代の絶頂期最後の華を咲かせた。これがこの世界での公式記録だ。その時に坂本は『海鷲』を初披露し、扶桑海軍も大和型の秘密のベールを脱いだとされ、にわかにヤマトショックによる建艦競争が激しくなった頃である。しかしながら、その頃にはロマーニャもガリアもその技術力の限界と予算の都合で、大和型に対抗可能なスペックは本当に確保は出来なくなり、ブリタニアもセントジョージ級の計画が持ち上がっていたが、建造予算が確保出来ずにいた。未来世界の援助が入りだした頃に、扶桑はかねてからの秘密兵器として、110号艦と111号艦を進捗させていたが、44年の段階では空母にするかで揉めていた。呉の壊滅とモンタナの登場を大義名分に、信濃(110号)、甲斐(111号)は戦艦として生まれる事を認められた。超大和型戦艦(第二期)、超甲巡が計画されたのもその頃だ。空母はスーパーキャリア(改良型プロメテウス級空母が今回は供与された)の二隻が供与される事が決定されたが、500m超えの大艦なため、艦上機も相応のものが予定された。それが遅延中の震電改二であったが、戦局の都合もあり、F-14改の最初の母艦となる予定である。そのため、雲龍型が余剰となり、他用途転用が45年から始まった。扶桑は自前の空母は大鳳改型を88艦隊の竜骨流用改装空母に切り替え、旧式小型空母の払い下げを推進するなど、財政的なバランスを取るよう努めた。扶桑は海軍人口は300万人を超えるが、海援隊を加えて、おおよそ400万を超えるほど。これに海自を加える事になる。ブリタニアの当時の海軍人口が数十万人規模であったのに比べると、扶桑は余裕がある事になる。キングスユニオンとしても、それに英国海軍数万を加えるだけになるので、キングス・ユニオンは日本連邦より海軍力で遅れを取っていると言える。扶桑は軍事優先の政策が織田幕府以来の慣習で続いていたのもあり、予備要員も含め、連合軍で一番に余裕がある。あくまで、通常の軍人が、だが。それに加え、未来技術での省力化と低燃費化も重なり、従来よりも多くの艦を維持可能となっていた。また、ちょうど大正期建造の艦艇が耐用年数の限界に達していたのもあり、艦艇の更新が促進され、47年までに第一艦隊から第三艦隊(空母機動部隊)までは更新が終わりつつあった。空母機動部隊は44年当時はもう二個程度が組織されていたが、雲龍型の旧式化(そもそも、雲龍型は紫電改や烈風の運用にも四苦八苦する程度の規模なのだが)で解散している。また、史実での集中運用は考慮されていなかったため、第3艦隊が現有の五隻の大型空母を集中運用をするのには反対も多い。司令長官が小沢治三郎の頃にようやく実践され、効果を上げたのだが、ウィッチ閥は反対論も根強い。リベリオンが集中運用をしだした事もあり、ウィッチの軍事的利点が薄れたため、超大型空母は通常兵器主体の編成で航空隊を編成している。スーパーキャリアは虎の子であるが、複数の空母を代替するものであるため、ジェット時代の教育用途が主であったりする。一隻で翔鶴型二隻以上の軍事的価値があるため、ティターンズへの抑止力としても作用している。特に『史上最後のスーパーキャリア』として名高い改良型プロメテウス級空母は、二代目ニミッツ級航空母艦(地球連邦軍が一年戦争以前に整備していた航空母艦)よりも強力であるので、扶桑はこの空母で安全を確保していた。
「なるほど、あの艦隊は?」
「この世界での扶桑海軍の第一艦隊だ。大型空母を教育実習代わりに帯同させてるが、それ以外はお前んとこの編成とあまり変わらねぇよ」
モードレッドが説明する。沖に停泊している大和型(とは言うものの、B世界での大和型より大型化しているが)が三隻、その護衛艦と空母が停泊している。どの艦も芳佳Bが『大漁旗』と言った旭日旗がはためいている。
「あれは旭日旗?こちらでは旭日旗と日の丸が海軍の識別マークなのか?」
「別世界との交流が始まった段階で、旭日旗と日の丸に海軍の使用するマークや旗が変わったんだ」
「別世界か……なんだか、別世界と実感するよ。あれだと違和感がある」
「それはここでも同じだ。別世界の連中が『旭日旗じゃないと違和感がある』とか言うから、扶桑が配慮したそうだし、世界間連邦を組む関係もあってな、それで旭日旗と日の丸で統一された」
日本連邦は旭日旗と日の丸を軍旗や国旗に採用している。これは日本側への扶桑の配慮も大きかったが、旭日旗の勇壮さも手伝って、数年で一般にも浸透している。因みに、日本連邦の英訳は『The Federation of Japan』で、キングス・ユニオンの公文書にそう記されたのを皮切りに、日本や扶桑がそれを使用し始めたのが始まりで、23世紀の再接触後もその名は使用されており、日本連邦は23世紀の接触で『第二期』を迎えた事になる。そのため、地球連邦の飛び地扱いと言うことで、45年以降は大っぴらに地球連邦軍が行動している。
「その連邦の名は?」
「The Federation of Japan』。扶桑の言葉で『日本連邦』になる。扶桑の別名に日本ってあるだろう?それが大抵の世界では正式名なんだ」
「日本……。確か大昔にそういうこと言った人がいたような」
「聖徳太子だろ。少佐、こんなの小学生でも知ってるぜ」
「そうだったか?うーむ。小学生時代しか普通教育受けてないからなぁ」
日本のことは知っているモードレッドだが、日本の国号の由来については、些かあやふやであった。自分の国でないからだが、ガリアの知識はあるが、扶桑/日本はあやふやな面が多い。聖徳太子が日本という国号を決めたのかは実際のところはわからないので、モードレッドは内心では疑問があったりする。扶桑は『大和』を大昔は名乗り、一時、聖徳太子の手紙から平安時代までの時期は『日ノ本』を名乗った。因みに、近代の国号は南洋島開拓が始まった頃に、時の織田家当主が『更に東の地が有るのに日の出る国を名乗るわけにもいくまい』と考えており、安土幕府として、皇室と相談の上で決定された。が、時が流れた1946年以降、日本連邦の一員という形で、再び『日本』という言葉を使うことになる。一時でも名乗った前列があるため、扶桑国民も反対せず、日本連邦は始まっていく。扶桑と日本の一体化とその意味という点で、大きく影響を与えていくのである。それを坂本Bという第三者の目を通すことで、モードレッドは考えるのだった。
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