「シンフォギア世界の一つのIF」編 4
(ドラえもん×多重クロス)



――黒江がなぜ、シンフォギア世界で早期に二課に合流しなかったのか?それには理由がある。黒江は情報はある程度持っていた事は会話をしていくうちに分かったものの、確証を得たかったり、『身分を偽装していた』都合、それが何らかの理由でばれ、自分に自衛隊と米軍が追手を差し向けることを避けたかったからだ。さらに、フロンティア事変当時のマリア・カデンツァヴナ・イヴは二課からすれば、『敵』であるので、事態がややこしくなる危険が大きいのもあった――

――街の何処かのネット喫茶――


「あなたはなぜ……それほどの力を持っていながら、こそこそ隠れてるの?」

「未来に仲介してもらって、向こうに協力するという選択肢はあるが、『こいつ』とお前、それとあのガキはそもそも、米国にとってのお尋ね者だろ?事態がこんがらがる危険がある。その上、お前が戻るまでには、あと二週間と数日の予定だろう?その間に、この世界のことを知っておく必要がある。ハッキングばかりもやってられんし、お前のバックも気になるんでな」

「光明結社の存在を?」

「面倒見てる奴のスマホゲを見ただけだから、その辺はあやふやでな。未来には、二課との仲介をしてもらうように頼んである。実力のある俺が、こうして隠れてるのは『間違ってる』ことの自覚はあるさ。だから、お前が戻る時には『一芝居打つ』。協力してくれ」

「一芝居?」

「ああ。俺が向こうの連中と一緒になるには、何かかしらの理由はいるだろう?向こうとの出会い方は考えとくが、一戦交えていかんと、説得力ないだろ?」

「それは言えてるわね。名目上は『偵察』だもの。嘘の報告を考えるのも一苦労よ?」

「それはすまんな。だが、おかげで状況は掴めてきた。未来はそろそろ、向こうに帰す。俺のことを『敵』じゃないと教えてもらう必要もあるし、あまり休学させても不味いしな、学生生活的意味でな」

「進級に必要な単位の問題があるものね」

「そういうことだ。お前はあと二週間くらいは俺に付き合ってくれ。未来は一両日中に向こうに帰す。あの子を米軍が追ってないことを確かめたかっただけだからな」

小日向未来は一ヶ月近くの間、黒江に匿われたが、それは米軍の特殊部隊が日本国内で非公然の活動をしていることを目撃してしまったため、米軍の特殊部隊が口封じに動くことを警戒した黒江が『安心だと確信できるまで』匿わったからだ。

「俺の持つ情報を、向こうの司令への手土産にする。あのメガネ博士の言動は英雄願望持ちのイカレポンチだから、何かやらかす。ナスターシャ教授の想定を超える何かをな。もっとよく見とくんだったぜ。完全にうろ覚えだしな。気が付いたの、お前らから話を聞いた後だし、すまねぇことをした」

と、謝罪する黒江。

「いえ、かなりの精度よ?私達が米国に拉致された孤児だってことや、妹が使っていたシンフォギアの名まで……。なぜ、アガートラームの事を……?」

「言ったろ?どこかの平行世界で、ちらっとスマホゲを見たっきりだし、アニメはつまみ食い程度にしか見てないが、俺は記憶力はいいほうだしな。そうでないと、部隊の機材の整備状況を事細かに把握できんよ。……そうだ、お前の妹のギアはしばらく預かっとくよ。構造を把握できれば、シンフォギア形成機能の修復も可能なはずだ」

「……。でも、セレナがそれを許してくれるかしら」

「その子が命と引換えに、お前たちを守ったんなら、姉のお前には、そのギアを受け継ぐ資格があるよ。聖闘士も前任者が死んでるケースが当たり前でな。前任者の想いを背負う必要もあるように、お前の妹はきっと許してくれるさ」

黒江はマリアがセレナの形見として持っていた『アガートラーム』のシンフォギア(待機状態。ただし、コンバーター部などが破損している)を預かる。マリアはうろ覚えとはいえ、黒江から『史実のおおよその流れ』を知らされたこと、輪廻転生を知り、ある種の希望を見出した(そのセレナ・カデンツァヴナ・イヴは死後に十六夜リコ/キュアマジカルに転生していたわけだが、当然ながら、この時の二人は知る由もない)のか、その表情はどこか穏やかになっていた。妹は自分を許してくれる。そんな奇妙な確信がマリアにはあった。

「あの子はそういう子だったわ…。どこかで会えるかしら」

「どこかで、きっと会えるさ」

黒江はマリアを元気づけるつもりで言ったのだが、ここからそう遠くない未来、マリアは生まれ変わっていた妹と本当に再会を果たす。そして、妹が『プリキュア戦士』としての宿命を背負ったことに動揺するが、妹が前世の記憶を有し、姿は違っていても、自分を『姉』として見てくれることに感涙に咽ぶことになる。そして、マリア、セレナ(リコ)の姉妹はシンフォギア世界と他世界の仲介役を引き受けることになるのだった。




――数日後、小日向未来をリディアンの寮まで送った黒江。未来にあれこれ心配されたが、黒江は『おりゃな、生活力あるし、マリアもいるんだぞ?』と笑った。未来は寮への帰宅後、復学届を書く作業に取りかかりつつ、短い間の奇妙な共同生活についての情報を取りまとめたノートを二課に渡すための準備を始める。『シュルシャガナの装者』についての情報をある程度まとめておけば、二課も調(黒江)を敵だとは認識しなくなるはずだと。響は任務でその日は帰らず、翌日に寮に帰れたのだが、未来が帰ってきていたことに大はしゃぎした。また、二人の学友たちも普通に調がシンフォギアで未来を送って来ていたのを目撃しており、未来が親しげに話していたことを教え、未来も『あの人は悪い人じゃないよ』と肯定した。ただし、『あの子』と言わずに『あの人』と言ったので、ちょっとしたパニックが起こった(調は響とクリスよりも若く見えたため)のは言うまでもない。また、黒江の行動の噂は市井に流れており、自由気ままなようだが、ある種の『昭和の古い映画に出てくる風来坊』的な義理人情に溢れていたために世間の評判は良く、日本政府がそれに目をつけ、二課の装者として、他国向けのプロパガンダを始めた。これは二課にとっても想定外の出来事だが、『謎の装者』の思惑が読めないこと、日本の組織(当時)である以上は政府の意向には逆らえないので、日本政府の為すがままであった。そんな時に、無事が確認された小日向未来から、黒江の手紙が風鳴弦十郎へと渡された。同時に、未来を仲介役とする形での対談を希望するとも。数日後、小日向未来を仲介役にする形で、風鳴弦十郎は街のある場所で対談に臨んだ――





――対談場所――

「俺が特異災害対策機動部二課司令、風鳴弦十郎だ」

「君があの子供達の上司ってことでいいか?私は黒江綾香。君の知る歴史における日本陸軍の陸士五十期卒の陸軍将校で、空中勤務者。要はパイロットだ」

黒江は当時の所属先であった陸軍の敬礼を見せた。シンフォギア姿で見せたので、奇異なようだが、素性を示すための手段であった。

「君……いや、貴方は二次大戦中の陸軍将校だというのか?」

「貴方の知る日本とは別の歴史を辿った場合の世界からやってきたんでね。こんななりなのはご容赦願いたい。これから話すが、手紙は読んでくれたかね?」

「うむ……。しかし、俄には信じがたい。その姿なのに、こちらの探知機器を反応させんとは」

「私は特殊な訓練を受け、一種の超能力を持ったので、シンフォギアの発するエネルギー反応を意図的に抑えられるんでね。もっと言えば、私は『現世での肉体はあるが、存在としては神格』だ。信じられんのは当然だが、そうだな……『亜神』に近い存在だな」

「神……だとッ!?」

「正確には、オリンポス十二神の一人『アテナ』の率いる軍団に加わり、その一員として戦う内にそうなったというのが適切だな」

聖闘士はアテナ軍の上位の闘士たちの総称でもあり、『拳は空を裂き、蹴りは大地を割る』と言い伝えられている。原子を砕くという破壊の究極を身に付けているため、最下位の青銅聖闘士でさえ、シンフォギアが史実で到達した決戦機能『アマルガム』の防御特化形態『コクーン』を突破し、強制解除に持っていく事が可能である。黒江はその内の最高位『黄金聖闘士』の山羊座の闘士である。本気でその力を振るえば、黄金聖闘士随一の攻撃力を持つ。

「そうなったとは?」

「軍人として、靖国で祀られる内にそうなったと言うべきかな。本来は君の祖母でいいくらいの世代なのでね」

「太平洋戦争の時期の青年将校なら……そうなりますね……」

「私がいる本来の時間は1945年。太平洋戦争が終わる年だ」

「それでは、貴方は本来なら、90代の老婆だというのですか?」

「普通にこの時代まで生きていればな。1945年時点ですでに将校だから、この時代だと、齢100を突破してもおかしくなかろう?この姿の元の持ち主には悪いが、道具を含めて、色々と使わせてもらっている。戸籍その他はハッキングで偽装して作ったから、そちらで調べても、デタラメなデータしか出んよ」

「1945年にいるにしては、手慣れてますね?」

「故郷の世界がその時代なだけで、俺自身は色々と平行世界に行く事が仕事でね。今度のことも、その仕事でトチって起こったと言えるが、不穏な気配もこの世界に感じる。故に呼ばれたのかもしれん。その真偽の確かめようはないがな」

黒江は風鳴弦十郎に事のあらましを話した。また、ここで、シンフォギアは異世界では『アニメ』という形で存在し、自分もおぼろげに知っているが、記憶が飛び飛びな上に、全てを見たわけでないので、当てにならないと語った。

「すまんね。そう都合のいいことにはならん。だが、戦闘では宛にしてくれていいと断言するよ。」

「貴方の戦闘レベルは観察していますが、シンフォギアの恒常的なポテンシャルを遥かに超えている。何故なのです」

「君のほうがよほど凄いと思うがね。往年のカンフー映画を見ただけで、そんなに強くなれるとは」

「お恥ずかしい。ところで、その姿の持ち主の名は?」

「伝聞だからな。合っているとは限らんが、月詠調と言う名らしい」

黒江がその字を充てて、パーソナルデータ一式を偽装した結果、本人も帰還後はその名義で活動する事になる。この時に交わされた密約の中には『調本人の身元調査』も入っていた。調査の結果、現在に生存中とされる人物に一致する人物はおらず、すでに死亡扱いの人物にも手を広げていく。やがて、月読神社の当代の宮司の孫娘(幼少期に事故で死亡扱い。死体は発見されず)が似た特徴を持っていた事がわかり、後々に調本人も知ることになる。黒江が姿を借りる事になったが、黒江の肉体を変化させたため、転移前の本人よりかなり長身(10cm以上も背丈が高い)である。ギアの外見も異なり、(心象と適合率の違いなどの要因によるもの)明瞭かつヒロイックな配色になっている(史実での魔法少女事変以降のカラーリング)。

「しばらくは自分の勝手で行動させてもらうが、お宅の政府はどういう方針だ?ニュースを見たんだが」

「あれ(プロパガンダ)は首相の意向です。アメリカからの圧力に嫌気が差しているのでしょうな。兼ねてから、首相は米国依存の解消を図っていましたから」

「シンフォギアのことは秘匿していると聞いているが?」

「本来はそうでしたが、国連や野党の圧力で開示する事になったのです。ノイズ災害の生存者へのヘイトが目に余るレベルになっているので……。」

「なるほどな…」

シンフォギア世界は全世界でノイズの襲撃が起こり、各国はかなりのダメージを既に負っていた。アメリカも、ノイズには頼みの軍事力がほぼ通用しないため、その威信が大きく低下していた。(故に、フィーネに乗せられて、非合法な研究を行っていた)ノイズからの生存者はもれなく、社会的迫害で生活が崩壊する。これは全世界で共通。この世界における日本国総理大臣は『前政権の官僚からの転身者』。ノイズ災害で愛妻を失っており、自身もヘイトクライムの被害者であった。そのため、シンフォギアの公表を以て、ノイズ災害で起こるヘイトを撲滅しようとした。そのプロパガンダに黒江は利用されたわけだ。

「しかし、既に起こったヘイトクライムへの処罰はしにくいと思うが?」

「それに走った人々が事後に『犯罪と認定される』事を恐れ、一様に口を噤みますからな。響くん……こちら側の装者の一人ですが……も被害者の一人で、家庭を崩壊同然の状態にさせられましたから」

響もその被害者の一人であるがため、かなり精神的に不安定化したところがあり、『壊れかかった関係を元鞘に収めたい』という気持ちがかなり強まっていた。(それしか、切歌の精神の安定を保てなかったなどの状況もあったが)結果的に、黒江が話を引き受けることが調の出奔の伏線となったわけだ。なお、転移の際、黒江は日常的にシンフォギアを使っていたが、後に、調本人も実践してみた結果、(聖闘士転向もあって)半ば仕事着として定着するに至る。

「やれやれ。いつの時代も、日本人は変わらんな。集団の和を乱したと見なしたか、はみ出し者を叩きたがる」

「21世紀では、より陰湿になったと言わざるを得ませんが」

「人間、誰かの陰口を叩くのは経験があるもんだが、過剰な正義感ぶった態度で相手を社会的に追い詰めるのは、日本人の悪い癖だ。俺も、母親の教育ママぶりに嫌気が差して、三人の兄貴達に愚痴を垂れた事があるし、品行方正って言われてる連中も、どこかで不満を発散させてるが、理不尽なことへの正義感が変な方向に暴走すると、どこもろくなことをしないもんだ。中世の魔女狩り、近代以降のリンチ殺人、子供のいじめ然り」

黒江は自身の過去の経験(母親からの精神的暴力や、部隊でのいじめなど)や未来世界での『ジオン残党などへの地球至上主義者による集団リンチ』などを見てきた。その一方で、子供時代、影で兄たちに母親への愚痴を垂れ、それで教育ママへのストレスを発散させていた経験もあると漏らし、『品行方正に生きてきたわけではない』と明言するなど、人間臭さを見せた。

「約束は実行しよう。がが、どこでどうなるかはわからんよ。私はけして品行方正じゃない、はなたれ小僧が、軍隊で手柄を立てて、20そこそこで大佐に栄達したように。君も品行方正ではなかった自覚はあるだろう?」

「私も、父が厳格でしてね。他の兄弟たちとは歳が離れていまして、子供の頃は仕事一辺倒の父を嫌いましたよ。今でも快くは思っていませんがね。一言で言えば、外道です」

風鳴弦十郎は父を裏で『外道』と忌み嫌っているようで、父を『超える』ために、半生を費やしたとも漏らす。100歳を超えて尚も、大日本帝国の暗黒期(支那事変〜太平洋戦争期か?)の超国家主義/軍国主義的な価値観で国と一族を振り回す父の姿(実は、風鳴弦十郎には腹違いも含めて、九人もの兄たちがいのでは?という疑惑がある)に憎悪を覚えている。

「教えてあげよう。昭和10年代に流行った『国粋主義』を信奉する連中は軍隊の階級が高く、戦功もある人間をいの一番に尊敬する。意外に容易いものさ、国粋主義者を御するのはな」

風鳴訃堂は太平洋戦争での日本が戦略爆撃に対し、あまりに微力であった事を嘆いている。また、米国が戦後の日本をいいようにしてきた事も嫌うなど、極端な国粋主義に染まっている。黒江はこう言ったが、実際には予想以上に『イッていた』ため、アテナの命でやってきた乙女座のシャカの制裁で五感剥奪の上で廃人にされるのだ。シャカには『郷土を愛しすぎたために、他人を顧みなくなった哀れな男』と評された。子供の頃から軍入隊前までは現在が嘘のように慈愛に満ちていた事、太平洋戦争時にアジア最強の大日本帝国が為す術もなく米国にまたたく間に敗れていく光景を目の当たりにした事、高級軍人であった彼の父祖達の課していた『英才教育』が人格を歪ませてしまっていたと、弦十郎は嘆いた。国を愛しすぎた事が『風鳴家の悲劇を招いた』と。
「もし、できることなら……父を止めてくれますか?」

「法で裁きたいのなら、いきなり俺に頼むべきではないぞ。普通はな」

「私も公安警察におりましたから、分かるのです。父は『この世界の日本のフィクサー』法規など、父の政治力なら、いくらでもくぐり抜けられます。ましてや、父は百を超えているのに、筋肉隆々の肉体を維持しているのです。装者を逆に倒しかねません」

「そこまで言うのなら、仕方あるまい。引き受けよう。俺、もしくは迎えに来るだろう仲間が、何らかの手段で、君の父を止める」

「……貴方は我々に協力する。今の一言はその確約と受け取っていいのでしょうか」

「構まんよ。ただ、こちらも都合と言うものがある。しばらくは一芝居打たせてもらうよ」

「一芝居?」

「この姿の元の持ち主は向こう側に属すはずだったようでな。色々と『取り繕う』必要があるのだ。」

「なるほど」

「従って、そちらにつくには、今しばらくの時間が必要となる。あの子に託した手紙は見たかね?」

「ええ……。俄には信じがたいが、その姿の元の持ち主と思われる子との差異は聞き及んでいたので、手紙で察しはつきました」

「気がついていたのか?」

「確証はなかったが。これからどうなさるのです?」

「君たちとの共闘は約束しよう。ただし、向こう側のガングニールの装者と示し合わせてからになるが」

「わかりました。『商談成立』、ですな」

くろえがその言葉を言い終えると同時に、ほっと胸を撫で下ろす風鳴弦十郎。見かけが小娘そのものの人物が『遥かに年上かつ、社会的地位も上』という特異なケースの交渉は初めてであったからだ。とはいえ、敵ではない事は確かめられたので、一安心といったところであった。










と、いうわけで、黒江はマリアを引き連れて、世界の情報を収集しつつ、自身は武装組織『フィーネ』が出現させたノイズをその闘技で蹴散らす生活を続けた。元の調より背丈が10cmは伸びていたりしているという外見的差異もあるが、聖闘士として、戦士として既に完成された黒江の動きはこの時点で風鳴弦十郎をも唸らせるものであった。


「当面はこの世界にこの姿でいなきゃならんようだし、せっかくだ。この世界を守ってやるか」

黒江は纏っているシュルシャガナのギア(適合率がこの当時の調本人とは比較にならないため、ギアの形状とカラーリングは史実の魔法少女事変時点以降のものとなっている)の機能は使わず、手慣れている攻撃で対処し、縦横無尽に戦場を飛翔した。シンフォギアは機能ロックが解除されない限りは『陸戦用強化服』の粋を出ない(スラスターによる高速移動が物によっては可能だが)。だが、黒江は転移時点で既にゲッター線の力をある程度は制御できるようになっていたため、ギアの形状がノーマルのままで飛行し、体格が(黒江本来の背丈よりは小柄だが)元になった人物よりかなり大柄であるため、真ゲッターが使うような『ハルバードタイプのトマホーク』を難なく扱える。そのため、ノイズなどは敵ではない。そして、この様子は二課もキャッチしていた。


――二課 移動本部――

「例のシュルシャガナの装者が現れました!」

「状況は?」

「圧倒的です。有象無象のように、ノイズを蹴散らしています」

「すごい。物理法則を無視している……」

二課は衛星からの映像中継で情報を得ていたが、黒江の圧倒的動きを捉えきれていない。更に、如何に熟練の装者であろうと、ハルバードを一振りするだけで、多数のノイズを蹴散らす事は不可能なはずだが、黒江はそれを可能にしていた。更にいえば、動きが完全に慣性の法則を無視した『幾何学的なもの』であったため、21世紀水準の映像技術では、黒江の動きは捉えきれないのである。

「司令、これは……」

「お、おい!こりゃ…!?」

「来たか、お前たち」

その日に本部にいた『二課の装者たち』がやってきた。風鳴弦十郎は状況を説明する。前回のノイズ出現から間が空いているが、『彼女』が現れ、対処していること、歌う様子がまったくないため、ギアを維持はできても、フォニックゲインは高まっていないはずが、二課の装者全員を『圧倒的に』上回る戦闘能力を発揮している。明らかにシンフォギアの基本原則を無視している戦い方である。

『ムウン!!』

調(黒江)が背中に10枚のウイングを出現させ、周囲に強力な電流を放出し、一気にノイズを焼き払う。その技の名は。

『サンダァァァ!!ボンッバァァァ!!!』

サンダーボンバー。この時の二課の面々は知る由もないが、元々はゲッターロボアークの最大必殺技である。ゲッターアークは『真ゲッターの戦闘力を維持しつつ、人の制御が効くレベルに収めた』ある意味、ゲッターロボGまでの『大人しめ』の特性を持つものの、基礎戦闘力を真ゲッターレベルに引き上げた優等生的ゲッターロボである。黒江達は転生を繰り返し、ゲッターロボそのものに搭乗した経験と、ゲッターに見いだされた影響で、技の再現が可能となっていた。その発露だった。

「凄まじい電流の奔流です!エネルギー量は……計り知れません!!自然界で起こる雷のそれを超えています!!」

二人のオペレーターが血相を変えて報告する。エネルギー量が自然に発生する雷のそれをも超えており、雷神と形容すべきパワーである事が見るからにわかるからだ。

「あ、シュルシャガナの装者の反応が……消失!?」

「嘘でしょ……!?」

「どうした?」

「見てください!!これは完全に、慣性の法則を無視した動きです!!ギアを纏っていたとしても……こんな機動に人が耐えられるはずがありません!!まるでUFOのようとしか……!」

「全ての監視網を調べましたが……。音速どころじゃありませんよ……」

二人の驚愕と畏怖に満ちた声が、状況をこれ以上無いほどに装者たちに示していた。『シュルシャガナの装者』は予想を遥かに超えて強大である事が否応なしに示されたからだ。

「いったいどうなってやがるんだ……あいつ……」

「奴はもう一人の装者と仲間割れを起こしていた。司令、小日向未来の仲介で、彼女と会ったそうですね?」

「ああ。彼女は何かかしらの事情を抱えているようでな。我々と積極的に敵対する意思は無いとも…。彼女の真意は見極める必要はあるが、我々の敵になる気はないようだ」

会談の大まかな結果だけを伝える風鳴弦十郎。黒江に二課と敵対する意思はない。それは最大の安堵である。先程の映像からもわかるが、二課の装者達が束になってかかっても、太刀打ちできるかは未知数である。更に、弦十郎が小日向未来と本人から聞いた話を聞く限り、『平行世界の太平洋戦争期の日本陸軍航空部隊の将校で、現役の航空兵。更に、神の軍団に仕えし戦士でもある』。この時は確証に欠ける面があるので、弦十郎は装者たちに詳細を明かさなかった。だが、これでも、黒江の能力の真価ではない。


『プリキュア・シューティングスター!!』

先程とは別の日に撮影された映像では、黒江はキュアドリームの技である『プリキュア・シューティングスター』を自分の技能の範囲で再現しており、その映像が撮影されていた。元々、黒江は、なのはが子供の頃にプリキュアの映画を見に行くほどのファンであったことを知っており、『YES!プリキュア5』を見させられた事がある。その関係で再現してみせた『お遊び』であった。後日、そのプリキュア5の筆頭たるキュアドリーム/夢原のぞみが中島錦を素体とする形で転生し、自分の配下になるとは、(この時は、だが)夢にも思わなかったのである。後日、のぞみはいつの間にか、高町なのはになつかれている理由が気になり、黒江に聞いてみると『子供の頃に自分たちをアニメとして見ていたから』と教えられ、のぞみ本人も大いに困惑することになる。

「この少女は……何者なんだ…?」

二課の臨時本部の管制室で風鳴弦十郎は困惑する顔でモニターを見つめる。響の話ではイガリマの装者やマリア・カデンツァヴナ・イヴと行動を共にしていたはずだというが、何らかの理由で決裂したのか、風来坊とも取れる振る舞いで、ふらっと現れては去っていくという。(結果的に)自分たちに利となる行為を働いているので、敵ではないと思いたいが、恐るべき戦闘力を秘めていると思われる。

「わかりません。聖遺物が存在するかどうかさえわからない『アーサー王伝説』の聖剣エクスカリバー……。それを完全な形で有し、奮える。それでいて、シンフォギアを纏っていながら、その機能を活用しない……謎が多すぎます」

そばに立つ『天羽々斬の装者』である風鳴翼は(名目上は)弦十郎の姪である。公私混同はしない気質であるが、エクスカリバーという存在の謎が気になるあたり、剣術使いである故の矜持が見え隠れしている。

「彼女を見つけ次第、接触を試みるしかあるまい。映像を分析した結果、暴走状態のイガリマの装者を一瞬でねじ伏せている。できるなら、戦闘は避けろ。かなりの手練である事は明らかだ。最悪、俺が立ち合うことになるやもしれん」

「叔父様……いえ、司令が自ら?」

「彼女が敵なら、俺が出ることもありうるということだ。できることなら……そうならないことを願いたい。接種の感触は悪くなかったからな…」

それは装者単独では『謎の少女』に太刀打ち出来ないだろうとする推測からだが、(小日向未来の『失踪』で立花響は『心ここにあらず』であり、最近は『上の空』気味。生活に支障が生じ始めている)立花響が現在は精神状態の関係で、戦力として数えられない以上、頼りになる相棒は雪音クリスのみ。小日向未来が不在なことで不安になるのはわかるのだが。監視カメラなどに、この少女と一緒にいるところは確認されているが、どういう流れでそうなったのか?何故、身を隠していたのか?その理由への確証はまだ存在していない。そのため、詳しい経緯は響には知らせていない。

「立花に先走られても困ると?」

「そうだ。最初に遭遇したという時とギアの形状が異なる上、明らかにかけ離れているという……。話を聞く限り、その子とこの少女が同一人物とは思えんのだ」

弦十郎一流のカンである。(と、言うように装ったというのが正解だったが。それは殆ど的中していたが、黒江が偽装の身分証データをデータバンクに入れていたこともあり、確証を得られないままに時をいたずらに浪費する。この時に黒江は『月読』を『月詠』と誤表記していたが、帰還後の調が出奔後にその表記を使用して生活したことで定着。やがて、野比のび太や花海ことはという出奔先での『家族』との生活を手に入れたことで、切歌とは歩む道を違えることになる。

「あたしのカンだけどよ……。あいつは……あたし達が最初に出会った『ヤツじゃない気がするんだ」

「どうして?」

「考えてみろ。10cmもいきなり背が伸びるわけはねぇし、口調も全然違ってたろ?」

「言われてみれば、そうだな……それに、積極的に接近戦を行ってみせた。奴は……できる。ギアの性能に頼っていない。最初に遭遇した時とは、まるで別人のようだ」

風鳴翼は黒江の能力を目の当たりにし、その実力を感じ取った。それ故か、真剣な声であった。(後に判明するが、翼は青年期以降のフェイト・T・ハラオウンと声色が酷似しており、フェイト当人も苦笑交じりの感想を述べたとか)

「それと、私達の攻撃は奴には通じない。私たちが記憶している『奴』は『ギアの機能に頼った戦い方』しかできんはずだ。それに、ギアの色合いが『あの時』とは全く異なるだろう?」

「ああ。あの時は全体的に暗めの色だったはずだぞ。今は白とピンク。まるで別の……別の……?どういうことだよ」

「……今はなんとも言えん。だが、敵ではないという、司令と小日向の言葉を信じよう」

翼も、ある種の確信を抱いていたようだ。短時間にギアの色合いや形状が変化することは、聖遺物への適合率が高い者であってもありえない。ましてや、敵対側の装者たちはLINKERを服用していたはずだ。それがいきなり『ギアを常に纏っている』ようになることは不可能である。それは翼のかつての相棒で、戦死した『天羽奏』の例で充分に証明されている。響はその事がどういうことかはおぼろげにしかわからない。だが、調の何かに違和感が強くあったのは同じである。多くの謎が新たに示され、今後の接触などの行動に悩む二課の面々であった。



――黒江がどのように動くにしろ、二課側につくには、改めての『一芝居』が必要なのは確かである。マリアと示し合わしての一芝居を打つのだが、その一芝居が結果として、大きな誤解を招くのも事実である。事態はこうして、少しづつ動いていく――




※あとがき 今回の話は私がハーメルンに掲載中の『ドラえもん対スーパーロボット軍団 出張版』にて掲載中の『回想〜シンフォギア世界改変編』をシルフェニア向けに校正したものとなります。


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