―さて、ミッドチルダの次元航行部隊は決してナチス・ドイツに対し無力というわけではなく、むしろ艦隊戦では戦力比では上回っていたし、全体的な質もグロースドイッチュラントを除けば、次元航行艦である故、当然ながら時空管理局側に分があったもの、上層部が戦闘による消耗による艦の損失と、いくら第一世界の防衛の為とは言え、強力な戦闘要員である局員が一気に出払う事によって各世界の治安を保てるのかという不安要素があった、それと聖王のゆりかごを恐れたためであった。これは武蔵が艦隊を率いて戦闘を行なった日、小沢治三郎連合艦隊司令長官の勅命を受けた参謀の一人、菊池朝三大佐が司令部から一時離れ、時空管理局本局へ出向き、次元航行艦隊に行動を起こさせるための説得と、これまでの事態へ対応が遅れたことへの説明を求めた際に説明がなされた。本局トップは地上本部と連絡が取れなくなった時点で動くべきであったと判断の誤りを認め、公式に謝罪した。
――時空管理局本局
「つまり、あなた方は決してナチスの質量兵器……フリッツXやV2に恐れをなしたわけではないと、そう小官は理解してよろしいですな」
「ええ。あれは確かに強力ではありますが、決して想定外、という訳ではありません。あのような兵器を持つ世界を我々はいくつも見てきましたから。確かにロケット兵器による爆撃は驚嘆に値しますが、それだけです。問題は“ゆりかご”です」
「あの空中戦艦ですか?」
「そうです。あれについては古い記録に“一度は世界を滅ぼした”とされています。我々、とりわけ造船部や私が恐れたのはその戦闘能力です。何せ旧暦以前の記録に加え、民間の言い伝えも混じっているので、本当かどうかは分かりかねますが……新鋭艦が血祭りにあげられたせいで臆病風に吹かれてしまった。今となっては判断が甘かったとしか言いようがありません。艦隊の統制も取れず、脱走者を部隊から少なからず出してしまった事、現在、貴軍に負担を強いているのも全て私の責任です。誠に申し訳ない」
管理局本局のトップであるこの将官はトップとして、初めて公式に謝罪した。配下の部隊から“永遠の命”という美辞麗句に唆されて裏切り者を少なからず出してしまった事、過度にゆりかごを恐れるあまり、対応を謝った事なども全てひっくるめての謝罪であった。それを菊池大佐は「分かりました」とだけ言い、頷いた。連合艦隊の参謀副長として、一人の武人として彼の謝罪が上辺だけのモノでなく、彼の本心からのモノである事を悟ったからだ。
「大佐。連合艦隊司令部に伝えてください。我が次元航行部隊は貴軍に全面的に協力すると」
「小沢司令長官にしかと伝えます」
二人は握手し合った。それはミッドチルダを守りたいという心は、出身世界が違っても同じである事、友の危機は自らの危機でもある事が菊池大佐と彼によって再確認された事で、次元航行部隊は晴れて公式に行動を認められ、翌日付で討伐艦隊が組織される運びとなった。
――同日 戦艦武蔵 艦橋
「うぉぇえっぷ!」
なのはは大和型戦艦の性能がイマイチなエベレータによって胃が盛大にシェイクされてしまい、エチケット袋に向けて吐いていた。これは大和型戦艦では毎度おなじみな事なので、士官や艦隊司令部の人員らも慣れたもので、なのはを介抱する。
「大丈夫かね」
「も、申し訳ありません。こんな時に……」
「なぁに。あのエベレータは性能が悪いからな。慣れてても気持ち悪くなるし、今度の改装で取り替えてもらうように頼むよ」
士官の一人がそう笑い飛ばす。この瞬間にも、武蔵は46cm砲を発砲し続けているのだが、艦橋の安定性は扶桑戦艦中随一なため、全く振動を感じない。この辺は65000トン級の船体の持つ安定性が発揮されていた。
「……はぁ、はぁ……。ん!?あれぇ!?ドイツってこんなに戦艦とか持ってました??本当に“残党”なの?」
なのははゲロからようやく立ち直り、ツッコミを入れられる余裕を得た。連合艦隊が世界有数の海軍力を誇ったといっても、戦艦の保有数は決して多くはなかったと聞く。扶桑皇国が高い国力を持ち、連合艦隊にも日本より戦艦が多く在籍していると言っても、最大でも20隻に届かないのは聞いている。それに空母が第二次世界大戦で台頭する以前の戦艦は最新鋭艦を保有する事が戦争抑止力であったという、ある意味で核兵器のようなものだったのは子供時代に連邦軍の士官学校で習っている。なので、ドイツが戦艦を連合艦隊張りに持っている事が気になっていた。彼らは仮にも敗残兵の集まりである、“残党”なのに、だ。
「それについては仮面ライダーらから聞いている。敵はあらうる並行時空から戦力を呼び集めたというのが彼らの予想だ。だから我が連合艦隊と渡り合える戦艦部隊を保有していても何ら不思議ではない」
「あらうる並行時空から……確かにそれで一応説明はできますが……」
「儂とて信じられんが、こうして敵は我々と共にガップリと土俵に入ってやり合っているからな。あながち間違いではないだろう」
小沢もドイツ海軍の陣容が予想より充実している事に驚いているようだ。しかしあくまで彼は冷静沈着である。着々と入ってくる報告にも毅然とした態度で対応している。
「陸奥、被弾!」
「被害はどうか?」
「副砲数門破壊も、戦闘継続に問題無しとのことです」
今、連合艦隊はドイツ海軍を迎え撃つため、縦一列に整列した単純陣を、変針しつつ維持している。それを押さえこもうとドイツ海軍が進路をとっている。距離は連合艦隊が決戦距離と定める、20000mを少し切った程度。その距離で砲弾をお互いに撃ちまくっているのだ。電子装備は互角、レーダー射撃であるが、戦艦などの大口径砲の軌道などは山なりになる。そのため、レーダーを用いても意外に当たらないのだ。
「敵の射撃は流石に正確だな」
「流石に科学力のドイツと言ったところですな」
小沢は武蔵艦長の猪口敏平大佐に敵側の砲撃が正確である事への感想を漏らす。猪口もそれに同意し、砲術長に敵一番艦に砲火を集中させろと下令する。彼としては敵の中で最強を誇ると思われる一番艦に打撃を与えて、艦隊戦力を半減させたいようだった。
――それはドイツ側も同様であった。エーリヒ・レーダー元帥は敵旗艦のヤマトクラスが自艦を狙ってきた事に喜びを感じていた。
「嬉しそうですな、閣下」
「ウム。これぞ海軍の誉というものだよ。各員、ヤマトクラスを“歓迎”してやれ!手厚く、な」
レーダーは戦艦砲術を“海軍の誉”と例えた。ミサイルや誘導爆弾、航空機などの兵器が戦場の花形として君臨する以前、海軍軍人の花形とされたのは戦艦の大砲に携わる事であった。戦艦こそが花形だという常識が航空機の台頭前は普通に存在し、各国とも戦艦を持つことこそが国威発揚であり、戦争抑止力と考えていた。高価な兵器故に、レーダーのいた世界でも戦艦同士の海戦はそんなに起きていなかった。が、今。ここでユトランド沖海戦、あるいは日本海海戦を思わせるガチンコ対決が自身の夢見たドイツ大海艦隊で、相手が日本海海戦の勝者たる日本海軍で行われている。こんなうれしい事は無かった。
「撃てぇ―――ッ!!」
号令に従って、グロースドイッチュラントの誇る巨砲「48cm砲」が斉射される。その轟音、爆風、爆炎共に大和型戦艦の主砲を上回っていた。そしてその砲弾は武蔵の防御装甲をぶち抜いた……。グロースドイッチュラント艦橋は歓喜に湧いた。
――こちらは武蔵。
「きゃああっ!?」
「おわっ!」
65000トンの巨体が激震し、爆発音が響く。敵砲弾が遂に武蔵に命中したのだ。格上の敵艦の砲撃に大和型の防御装甲はどれだけダメージを受けるのかは正直言って連合艦隊の面々にとっても未知数だったが、被害が報告されていくに連れ、予想以上に深刻なものだった。
「被害報告!!」
「か、艦長!」
「どうした!」
「装甲を抜かれた上に、周囲のリベットが緩んだり、跳ねまわって死傷者が続出しております!!浸水もしてます!!」
伝声管を通して伝えられた報告は予想以上に深刻。浸水も発生したのである。
「何!ダメージコントロール!浸水を止めろ!!」
武蔵のダメージは予想以上であった。なんと砲弾の内の一発が200mmの舷側下部装甲をぶち抜いていたのだ。そこから浸水し、武蔵が傾き始める。直ちに応急処置が施され、注排水システムも稼働を始める。
「リベットの装甲部位に当たったのか…運が悪いな」
「ええ」
連合艦隊司令部の誰もがこれに同意するが、当然ながらなのははついていけない。なので、猪口艦長が補足を入れる。
「リベットというのは巨大な釘みたいなものだ。航空機の外板、戦艦や戦車の装甲などに使われているんだが、装甲に使うにはまずかった」
「まずかったって……」
「溶接装甲に比べてダメージや衝撃に弱いんだよリベットは。被害が他に波及しやすいから我々は1943年以降に完成した艦は溶接構造と装甲に切り替えたんだが、まずいことにこの武蔵はその一年前の完成で、リベットと溶接が入り混じってる過渡期の構造なんだよ」
「えぇ〜〜それじゃまずいどころじゃないですか!」
「ああ、そうなんだが……」
「艦長!機関が一部故障!速力低下します!」
「何っ!?ええいくそ!」
なのはがそういうのも無理は無いが、それだけ事態は深刻だった。幸いな事に主砲を撃つのに必要な測距儀の機能に支障は無いもの、駐排水システムが稼働する都合上、隙が生じる。それをカバーすべく、僚艦の信濃と陸奥が武蔵を守るべく、前に出る。信濃は1943年以降の竣工なので、溶接箇所は武蔵より多く、装甲に部分的に未来技術が使われたために防御力は武蔵を上回る。なので、機関故障により速力低下を来たした武蔵に変わり、信濃が艦隊の先頭に立ち、グロースドイッチュラントの攻撃を引き受ける。
「目標、グロースドイッチュラント!撃て!!」
信濃の長砲身50口径46cm砲が吠える。武蔵が竣工時の45口径のままであるのに対し、信濃は予算要求時に“改大和型戦艦”として記されている通りに、信濃は大和と武蔵の不具合解消と総合的戦闘能力向上が成された艦として生まれた最初の戦艦である。そのために最強という観点から言えば、信濃はそれに当てはまった。50口径46cm砲の砲弾はグロースドイッチュラントのバイタルパートに一発が命中する。
「やった!高角砲をぶっ飛ばした!」
46cm砲弾はグロースドイッチュラントの高角砲を何門かぶっ飛ばしたようである。堪えないのは流石である。その瞬間、陸奥に爆炎が上がり、第二主砲塔の砲身が片方無くなっていた。が、それもつかの間、戦艦陸奥は苦闘を演じていた。
「クソッ、敵は本艦を狙い撃ちしてきたぞ!乙字運動、厳に!!」
「艦長!第二主砲は射撃不能であります。砲身がぶっ飛んで機構も故障しました」
「ううむ。旧型な上に大和型に比べて速力が低いのが仇となったか!」
陸奥はビスマルクとティルピッツに「御しやすい」とされ、集中砲火を受けていた。世界初の40cm砲搭載艦の一つであるが、第二次世界大戦当時においてでさえ20年物―長門型戦艦の建艦は大正年代―であり、第二次世界大戦当時の建艦のビスマルク級に比べ、基本設計で優れているとは言え、相対的な旧式化は否めなかった。が、ビスマルクとティルピッツの砲撃の精度はグロースドイッチュラントのそれと比べて低かった。装備の差ではなく、砲撃手の腕の違いだと思われるもの、その差が陸奥にはせめてもの救いであった。
――第二次世界大戦の終戦から既に100年近く経った時代で青春を送っていたなのはにとって、無線などではなく、伝声管によって事を艦内の各部署に通達し、大砲を撃ちあうというのは戦争モノの映画でしか目にしなかった光景であった。そのため、妙に現実感が無いのだ。しかも自分が往年の日本海軍の名だたる提督と共に戦艦武蔵の艦橋に身をおいているという、普通ではとても考えられない状況に身を置いているのも、それを余計に加速させていた。
――うぅん。酔いは収まったけど……なんかこう……現実感が無いんだよね。戦艦武蔵にあたしが乗ってて、しかも往年の日本海軍の提督さん達と同席してるって状況だし、こんな事なら軍服来てくりゃ良かったよ……。
なのはは戦闘態勢のままなのでBJを展開したままで、凄く「場違い」な感が強いのだ。こんな事なら連邦軍の軍服でも来てくれば良かったと、今様ながら後悔していた。
「一尉」
「は、はいっ!」
「陸奥が砲撃力を減じ、本艦もこの様だ。
信濃だけでは不利だ。君のバリアジャケットは温度変化や被弾にはどのくらい耐えられる?」
「はっ……温度変化は北極でもOKですし、通常の銃弾程度なら軽いものです。ただ、砲弾などには未知数ですが」
「ならよろしい。敵旗艦に打撃を与えてもらいたい。できるか」
「……はいっ!やります、やってみせます!」
なのはは連合艦隊司令部直々の要請により、武蔵の防空指揮所の屋根に立ち、46cm砲の砲撃を一時中止してもらった上で、ニキロ先のグロースドイッチュラントを狙い打つ。砲撃態勢をきっちりとった上、でだ。
「レイジングハート、準備はいい?」
――全て問題ありません、マスター。必ず敵に一泡吹かせましょう
「うん。ありがとうレイジングハート」
10年内の相棒の心強い言葉に改めて安堵すると、なのははレイジングハートを構える。そしてカートリッジをロードし、エネルギーをチャージする。
「ディバイン……バスター!!」
なのはのこの時の発声は子供時代のそれに比べると幾分叫びを抑えていたが、声のトーンが歳相応のものになった分、迫力と凄みを増している。それに加え、魔力運用の熟練度が子供時代より遥かに増し、貫通力が強化されたため、理論上は戦艦の重装甲も打ち抜けるはず。それ故になのはは自信を持っていた。
――グロースドイッチュラント
「艦長!」
「どうした!」
「日本艦隊の方角より強力な魔力反応!!これは砲撃です!」
「何ィ!?全艦、緊急回頭!急げ!!」
レーダーは全艦に緊急回避を命じた。時空管理局の魔導師の中には稀に“辺りの地形を変えうる”ほどの戦略兵器級の力を持つ魔力を誇る人材が出現するのを彼らは知っていた。この時代では地球の日本出身の「高町なのは」、「八神はやて」が該当する事も。それ故に警戒していたのだが……。
「現在の速度は!」
「23ノットです!」
「緊急だ、サイドスラスターも使え!あれに当たると砲塔の1つか2つは持ってかれるぞ!!」
グロースドイッチュラントは出自が戦後の完成なので、サイドスラスターを装備していた。それを緊急作動させ、大型船とは思えぬ旋回を見せた。それにビスマルクとティルピッツが続く。が、ティルピッツは回避が間に合わなかった。轟音と共にティルピッツの後部第3、第4主塔塔が消滅し、後部甲板を黒こげにした。中の人員は幸いサイボーグ化していたので、とっさに脱出していて人員の損害自体は無かったもの、これはドイツ側にとっては痛い損害だ。
「提督!ムサシの防空指揮所の上を!」
「ぬぅぅ……」
なんとか回避に成功したグロースドイッチュラントの艦橋でレーダーは艦隊司令部の参謀と共に特別仕様の双眼鏡で武蔵の艦橋付近を見、双眼越しになのはの姿を確認した。
「ええい……小娘め!味な真似をしおる……。」
「いかが致します、提督」
「こうなればムツに全艦攻撃を集中!大首領へのせめての土産を頂く!」
レーダーはここで“大首領”とハッキリ言った。大首領とはバダン帝国の大首領である“JUDO”であり、彼らがナチス・ドイツ亡き後、JUDOに忠誠を誓っている事がここで明らかとなった。その言葉の通り、陸奥に48〜30cmまでの艦砲、更には魚雷までもが集中的に放たれた。それは陸奥艦長の三好輝彦大佐の運命をも決するものであった。大爆発とともに陸奥の艦橋付近が炎に包まれる。48cm砲弾が陸奥の司令塔に飛び込んで、装甲を貫通、内部で爆発を起こしたのだ。当然ながら内部は阿鼻叫喚の地獄絵図で、陸奥は一時的にその戦闘能力を失った。艦長以下、指令を出せる要員の大半が戦死したのである。追い打ちに魚雷も命中してしまう。
「陸奥が……!」
なのはから見て、前方を航行していた陸奥が「ゴォッ」と 大炎上しながら爆発を起こし、艦隊から落伍する。荘厳でさえあった艦橋はなんとか立ってはいたもの、無残な様相を呈していた。あれでは艦長以下の要因は生きてはいないだろう。
「え……発砲し続けてるの!?なんでそこまで……!」
それでも陸奥の艦砲は発砲を続けていた。海の古強者としての陸奥乗員の意地が彼らにそうさせていた。その敢闘精神は敵から「天晴」と評価された。その行動のおかげで陸奥はなんとか致命的損傷は避けられたもの、艦長以下の首脳陣はたまたま別室にいた副長除いて全員が戦死という、大損害を被ってしまった。その仇を取るかのように……
「陸奥の仇を取るぞ!一番、二番主砲撃て!!」
新米艦とされた信濃の意外な奮戦により連合艦隊の戦果は拡大し、更にはなのはの支援砲撃が効いた。信濃がカイザー級の一隻を撃沈、なのはがバイエルン級のバーデンをスターライトブレイカーで機関部をぶち抜いて、落伍させた―後に鹵獲―が、グロースドイッチュラントを取り逃がし、陸奥を戦闘不能にされたので、この海戦は連合艦隊に若干分のある痛み分けに終わった。
――この主力艦同士の小競り合いの海戦は後に第一次ミッドチルダ沖海戦として歴史に刻まれ、双方に戦訓を残す事になった。
「一尉、ご苦労だった。君のおかげで損害を最小限に抑える事ができた」
「でも陸奥を守りきれませんでした……悔しいです」
「いや、戦う以上、損害は仕方のない事だ。陸奥の三好君のことは残念だが、この戦訓を次に生かさなくてはならん。辛いが、これは戦争だ。彼の死を無駄にせぬためにも、我々は戦うしかないのだ。」
「はい……」
なのははこの功績により後日、内定状態であった三佐へ正式に昇進。それと同時に予てより教導隊の同僚らと共に温めていた意見である、魔導師の戦闘装備の強化を具申。これは後々に魔力駆動の兵器群のAEC武装として結実していく……。
――スカイライダー=筑波洋はなぜ、先の電撃戦で何故ナチス・ドイツの兵士の銃弾がバリアジャケットを貫通し、効果を発揮したのかを調べるため、戦場から回収した銃弾を技術部に提出していた。その解析結果が出たのだ。
「弾丸に魔力が込められていますね……当たる瞬間に魔力を開放して、打撃を与えられるようになっています。これが彼らの銃が効果を発揮したカラクリです」
「なるほど。これが奴らの強さの秘密だな……それで飛行魔法の封印のカラクリはどうです」
「おそらく、AMF……Anti Magilink-Fieldを応用したか、あるいは独自の理論か何かで似たモノを実用化したか……いずれにせよそれに対抗できる手段の研究には時間がかかるでしょうな」
「それまでは俺たちがどうにかしますよ。そのために来たんですから」
筑波洋はクスっと笑ってみせる。この空は自分が守ってみせるという決意を垣間見せ、それがスカイライダーの名を持つ彼ができる事なのだから。
――聖王のゆりかご 中枢部
「暗闇大使、作戦成功であります。補給体制が整い次第、第二段階に移ります」
「ウム……楽しみにしている。我々の方からも増援を送る。万全を期せ」
「ハッ。それと彼奴らが現れました。いかが致しますか」
「ライダー共か……よろしい。こちらで人材を検討する」
「御願いたします、大使」
バダン帝国最高幹部の暗闇大使にそう報告するのは軍の司令官の一人のヘルマン・ホト大将である。彼はこの日、機甲師団の訓練を視察した後に連絡機で聖王のゆりかごに赴いた。マンシュタイン元帥は占領関連業務で多忙なので、その代わりに彼が来たのだ。彼らの指揮系統は最終的にバダン帝国に行き着く事を妙実に現していた。
「大変なようですな」
「スカリエッティか。君も戦う事になるやもしれんぞ。覚悟はしておけ」
「それはもちろん」
「前線部隊がさらって来たあの子供はどうか」
「アレは実に面白い研究対象ですよ。遺伝子を解析したら興味深い結果が出たところで」
「ほう。聞かせてもらおうか」
ホト大将はスカリエッティの行う実験への興味はそんなに無かったもの、前線部隊がさらって来た子供の遺伝子解析が完了した事は彼の興味を引いたようである。スカリエッティが持ってきた書類にはこう記されていた。
――遺伝子から解析した結果、旧・ベルカの最後のゆりかごの聖王であったオリヴィエ・ゼーゲブレヒトとDNAが一致……。
――つまりこの戦いが起きる前になのはが保護していた少女“ヴィヴィオ”はこの世界にかつて存在した国「ベルカ」の王族のクローンであったのだ。そしてそのヴィヴィオは研究室のベットに寝かされていた。その寝顔は普通の子供そのものであった。戦い一辺倒の青春を送っていたなのはの母性を目覚めさせたのも頷ける。そして……不意に彼らの元に銀の体を持つ一人の改造人間が現れた。
「お前は……シャドームーン……生きていたのか」
ヘルマン・ホトは現れた男に対し、その名を言った。シャドームーンと。クライシス帝国やバダン帝国にとって、パワーアップを重ね、もはや並大抵の怪人では歯が立たなくなった仮面ライダーBLACKRXを倒せる可能性がある唯一にして、同格の存在。RXが太陽のキングストーンを持つのに対し、月のキングストーンを持つ、もう一人のゴルゴムの元世紀王。レッグトリガーを響かせながら歩み寄ってくるその姿はどことなく圧倒される何かがある。
「お前たちと共にいればRXと戦えるのだろう?だから俺はここに来た」
シャドームーンの闘争本能は未だにBLACK、いやRXと戦う事を渇望しているようだった。ホトはその闘争本能を理解し、シャドームーンの言葉に乗り、シャドームーンを見方ので迎えたのであった。RXとシャドームーンの宿命もまた、動き出す。ゴルゴムの世紀王であった者として避けられぬ戦いの……。
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