――ミッドチルダにその姿を現した往年のドイツ軍戦車群。その解析にミッドチルダ各部隊は追われていた。機動六課もそうであった。歴代仮面ライダーらが取ってきた写真を元に資料を漁って調べていた。

「あったぞ、綾香ちゃん。奴らの主力はⅣ号戦車のH型の精度がいいのとパンター戦車のG型だ」

「Ⅳ号とパンターですか?バランス重視ッスね、奴ら」

機動六課の護衛についている筑波洋=スカイライダーは写真の戦車がどれであるか突き止め、黒江に知らせた。黒江は攻勢に使われた戦車が第二次世界大戦中の基準で言えば中戦車に分類されるモノであることを差して“バランス重視”といったが、正にその通りで、ティーガーやケーニヒスティーガーなどの重戦車はむしろ少数だった。

「重戦車は少数なのは驚きです。ドイツ軍っていうと重戦車のイメージありますから」

「重戦車はヒトラーの指令で造られたみたいなところあるからねぇ。ティーガーは前線の火消し役みたいなもんだと子供の時に誰かから聞いた覚えがある」

ドイツ軍はティーガー重戦車が象徴のように扱われるが、攻勢にはもっぱら中戦車が用いられていたと筑波洋は説明する。重戦車は「重くて遅い」のが難点だから、戦後に淘汰された分別だとも。

「君、確か陸軍だろ?意外な感じだね」

「戦車はあんまり詳しくないんですよ。モビルスーツとかなら詳しいんだけどなぁ」

黒江は通常兵器の発達が遅れていた世界の住人である。特に扶桑はここ数年で慌てて機甲戦力が整備された軍隊で、戦車は特に最近までチハ車を主力としていたのをネウロイへの、そして主要各国への対抗心から近代化が検討され始めていた。四式と五式中戦車はその一環で開発されていた。……が、ティターンズの出現は扶桑皇国陸軍の既存戦車が“時代遅れ”である事を露呈させた。黒江は潤沢な予算と機材を持つ航空部隊の人間なので、陸の現状は噂に聞く程度だったからだ。

「ドイツは戦車王国だったからな。装甲師団はドイツ陸軍の花形で、大戦の時のドイツ陸軍=戦車ってイメージがあるんだよ。奴らはそれを更に推し進めたらしい」

写真のドイツ軍は大戦中より機械化が進んでいるようで、戦後に概念が確立された歩兵戦闘車や装甲を持つ輸送車両の姿も見受けられる。大戦中の戦術研究を続けたらしく、戦後の戦術に近くなっている。戦車の運用法にも戦時中と一致しない点も多いというのがなのはから指摘されている。その辺はナチスドイツも戦後の戦車戦戦術や機甲師団の熟成された概念をどこかで学んだという事だろう。

「おまけにミッドチルダの占領軍司令官はあのエーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥らしい」

「何ィィィ――ッ!?マンシュタイン元帥!?ドイツ軍きっての名将のぉ!?」

ミッドチルダ侵攻軍の司令官がかつて、ドイツ軍きっての名将と謳われた御仁である事に黒江は仰天してしまった。戦史を見ていると、彼が如何に凄いかを思い知らされるからだ。彼は黒江の世界ではそれほど有名でないが、第二次世界大戦が起こった世界での高評価は聞いているからだ。

「おまけに見てくださいよ、少佐。この写真」

「ん?コイツはヘルマン・ホト大将!?大物じゃないか!!この人まで……クソッ、管理局の奴らじゃこの人達とやりあうのは無理だ……器が足りない。向こうは百戦錬磨の兵隊と名将、こっちは実戦経験が殆ど皆無の陸戦兵力と大将じゃ結果は見えとる」

スバルがRXから渡されていた一枚の写真を手渡すと、黒江は思わずため息をついて肩を落とす。ナチス・ドイツ残党は元将官クラスまでも豊富に在籍していた。しかも着任した男達は名将の誉れ高い人物らというのだから驚きである。ヒトラーという足かせが無い以上、彼らは軍隊を手足の如く好きに動かせるだろう。兵站上の理由でしばらくはこれ以上の進撃は行わないだろうが、強敵である。

「ところでフジ達の出迎えは誰が行ってる?」

「ヴィータ副隊長とシグナム副隊長が行ってます。ティアのこと、どうはやてさんに説明するんです?あたしたちと違ってバリバリに第一線任務についてるんですよ?」

「扶桑陸軍からの派遣っー形で収める。今回は管理局の復隊は無理だし。ティアナにもその旨は伝えてある」

「はやてさん、怒りそうですけどね。なのはさん達があたしのこと、10年間黙ってたんですっかりショック受けてますから」

「しゃーない。事情が事情だったからな。はやての奴にはあとでメシでもおごってやるよ」


――車が止まる音が響く。どうやら到着したようだ。

「とりあえず挨拶としゃれこむか」

黒江とスバルは情報分析を洋に任せ、出迎えのため外に出る。ティアナと久しぶりに会ったスバルははしゃぎつつも、事情を説明する。ティアナもため息ついて、「アンタもいろいろややこしかったのね」と互いの事情を理解しあった。

「ヴィータ副隊長に一発やられたわ。まぁ当然だけど」

「確かに」

と、久しぶりの会話を楽しみつつ、隊舎に入った。


飛行第64戦隊の面々のまずは主要メンバーが到着した。加藤武子が代表して、はやてに着任の挨拶をする。そしてはやてが驚いたのは……。

「飛行第64戦隊所属、ティアナ・ランスター曹長であります。お久しぶりです、はやて部隊長」

「て、ティアナ!?無事やったん!?、そ、それよりその格好は!?」

「落ち着け。私達が説明してやる」

「で、でも少佐!行方不明になってた部下が“航空ウィッチ”になって帰ってきたんやで!?驚くなってのが無理……」

はやての気持ちも最もである。「部下がウィッチに転向してました」など前代未聞だからだ。はやてを落ち着かせると黒江は事情を説明する。


「コイツをウィッチにしたのは私と穴拭だ。人事部をちょろまかして入隊させて、訓練校にねじ込んでやった。それで卒業後に送られた部隊が……」

「私の部隊“ストームウィッチーズ”だった訳。一年間アフリカにいたのよ、この子は」

次いで、圭子が補足を入れる。圭子の言う通り、ティアナの肌は僅かに焼けていて、さらにオレンジ色であった髪の毛は、色素が抜けて色が薄くなっている。戦闘服に身を包み、日本刀を持ち、飛行眼鏡を額につけたその姿は時空管理局の認定とは裏腹にティアナに航空部隊の要員としての素養があったということだ。


――誰や!!ティアナに航空要員の素養がないって言ったの!!思い切りあったやん~!!

当時の訓練校の教員をとっちめたくなったはやてであった。今回は扶桑陸軍からの派遣という形なので、管理局への復隊ではない。それははやてにはきつい事実だった。元から人手不足だった管理局が、今回の事態で更に多くの人材を失ってしまったがために威信は大きく揺らぎ、優秀な人材が一人でも多く欲しい時勢、元々部下であったティアナが別組織に属していて、第一線任務についているという事実は「ティアナの管理局への復隊の可能性は低い」という事を表しているがため、はやては落胆した。なのはやスバルと違うのは“第一線任務についているか、予備役であるか”であるが、その違いは大きい。


「では二佐、自分たちは早速活動を開始させて頂きます」

「了解しました」

武子のこの一言を了承したはやてだが、ティアナのことを考えると複雑にならざるをえなかった。何せティアナはもう“自分の部下ではない”のだから。内心では喜びと落ち込みが交錯しているのであった。









――ミッドチルダ ナチス・ドイツ占領軍行政区


ここにはナチス・ドイツ軍の陸上兵力が所狭しと鎮座していた。戦車はⅤ号戦車パンターの改良型と思われる中戦車が多数存在する。戦後に極秘に改良を重ねたらしく、中には明らかに戦後世代と思われる戦車の姿も見える。

「ヘルマン君、ご苦労だった。どうだね“パンターⅢ”型は?」

「元帥殿、アレの出来はいいですな。シンパ共に流させたレオパルド2以降のMBTのデータでE-50を再設計させたのは正解だったようです」

ヘルマン・ホト大将はマンシュタイン元帥に、彼らが新たに“調達”し始めた主力戦車の感想を述べる。第二次世界大戦型戦車に混じって少数存在する戦後世代戦車は戦後のドイツ連邦軍が70年代末に装備したレオパルト2に似ていたが、Ⅴ号戦車パンターの血を受け継ぐ側面も垣間見える。そして名がパンターⅢというのは、頓挫した戦中のパンターⅡに続くモノである事を示すための、ひいては戦中のドイツ軍戦車の血脈の相承を示すための血統書なのだろう。第二次世界大戦から使い続けている戦車の更新用であろうが、その数は少ないようで、、第二次世界大戦中の戦車、もしくはそのマイナーチェンジ型がまだまだ多数占めていることからも分かる。

「旧型のⅣ号は数合わせと支援用に用途変更する。元々アレは支援用だったしな。パンターやティーガーの数も、生産ラインも確保できたので、来月以降は順次、生産配備を始める」

マンシュタイン元帥はミッドチルダの首都・クラナガンにて自動車・重機の生産ラインを軍用に接収、改造する形でⅣ号戦車を代換するパンター戦車やそれ以降の戦車の車体を、装甲車両を、戦車の砲塔は管理局が過去に導入した戦車の保守点検を行なっていた工場を再稼働させてラインを確保するのに一定の目処をつけた事を伝える。これで持ってきた戦車の補充は目処が経ったようだ。

「Ⅳ号は大戦中に性能限界が見え見えでしたからね。せめてパンターの数を揃えたいですな」

「ウム……。パンターはⅣ号を更新するにはまだまだ数が足りん。新型は生産の立ち上がりが遅い。まだまだアレには頑張ってもらわなくてはな。一部の旧型車は現有のラインで突撃砲と駆逐戦車に改造するが、よろしいか?」

「わかりました。それと警察機構の整備はどうでしょうか

「親衛隊や警察の前歴を持ってる人員らに高官を兼任させ、近日中に発足させる。管理局の奴らはそこに回す。志願者は教育をきっちりと行う。あのままでは“前大戦の老兵”の方がマシだからな」

ナチス・ドイツは陸軍戦力の整備と占領統治の準備を行なっていた。電撃戦で首都を制圧したが、占領統治ともなると軍隊の他に警察機構が必要なのだ。マンシュタイン元帥は元管理局の人員らは警察機構に配分し、志願者はドイツ軍人として相応しい教育を受けさせてから部隊に送る方針のようだ。

「銃も持ったこと無い輩が多いですからな、奴らは。使えるんですか?」

「それなりの訓練は受けている分、国民突撃隊とかよりは遙かに使える。警察機構にはうってつけだよ」

マンシュタイン元帥は元・時空管理局の人員を指して、“警察機構にはうってつけ”と評した。これは管理局の人員の気質が軍隊向けではない者も多数を占めているという点を見抜いていたからかも知れない。










――ミッドチルダ戦線 臨時編成、第3装甲師団司令部

「ゴットハルト・ハインリツィ閣下、管理局の残存部隊の制圧を只今完了いたしました事を報告いたします」

「ウム。思いの外早かったな」

――時空管理局の統制は崩れていた。はやてが撤退を呼びかけたあとも一部の部隊は抵抗をなおも続け、装甲師団に踏み潰されていた。管理局の局員の攻撃は場合によっては旧型のⅢ号戦車、Ⅳ号戦車の初期型を撃破できたが、ナチス・ドイツ側が旧型戦車の在庫処分を終え、主力である、Ⅳ号戦車H型やパンター、ティーガー戦車の装甲に“対魔法処理”を施した型を全面投入すると均衡を保っていた戦局は一気に傾き、ナチス・ドイツの勝利に終わったわけである。この方面の指揮官のゴットハルト・ハインリツィ大将もドイツ軍の誇った名将の一人。主に防御戦で力を発揮し、かつてのソ連軍相手に奮戦した。ちなみにこのミッドチルダ侵攻戦の折、彼の配下には戦中は武装親衛隊の戦車兵で、歴史上では戦死したとされた戦車エースのミハエル・ヴィットマン大尉がいたという。


「投降者は非魔導師と下っ端の魔導師およそ30名かね」

「ハッ。そこそこ強い魔導師らは我が方のティーガーの砲撃で寝てる所を掃除されたようで」

「そうか。それは痛快だな。戦闘終了を中央司令部に打電し給え」

「了解」

ハインリツィは久しく味わえなかった勝利の美酒に酔いしれた。往年の電撃戦による勝利から数えれば100年ぶりくらいになる。そして外では。

「こんなでかい砲と戦うのは不公平だ!!」

「ブハハッ!そりゃそーだ」

捕虜になった管理局の局員がドイツ軍の戦車兵らを笑わせていた。これは二次大戦中に連合国軍の兵士らが言った事と同じであり、管理局はかつての連合国同様の屈辱を味わったのだ。実際、優秀な人材の多くがナチス・ドイツ側に就くなりした時空管理局の部隊では質的にナチス・ドイツの誇る、百戦錬磨の機甲戦力には対抗しきれなかったのだ。なのはやフェイトクラス、あるいはそれ以上の人材は全体で言えば数%に過ぎない。それらが四分の一でも裏切ったりしたりすれば尚更であった。そして管理局の局員らは、ティーガー戦車の主砲に思わず悔恨のため息を漏らすのであった。







――ちょうどなのは達が首都から脱出した日の時空管理局本局 

「地上本部が堕ちたか……しかも地球で過去に猛威を振るった軍隊によってか……これでは管理局の威信の低下は免れないな……」

クロノ・ハラオウンは執務室で次元航行部隊の出撃が上層部によって差止められた結果、地上本部のあっけない失陥を招いた事に憤っていた。地球で言う、第二次世界大戦中の装備が大半の軍隊など次元航行部隊の敵では無いはずだが、どういう訳か、上層部は出撃を差止めた。あの旧時代の遺物である、空中戦艦を恐れているのだろうか。おまけに最新鋭のXV級大型次元航行船が複数、「示し合わせた」かのように交信を断ったという報告が真実であると確認され、てんやわんやだ。

 
「地上本部がこうもあっさりと堕ちたのなら、陸士部隊の威信は地に落ちる。二次大戦型の兵器に捻られたのであれば、尚更だ」

「何故ですか、提督」

「第二次世界大戦の頃の文明レベルにさえ達していれば陸士部隊を捻られる事が明らかになった以上、それ以上の科学レベルの文明に我々が駐留する意味は薄れる。第二次世界大戦中の地球と同等の文明レベルの世界は管理世界だけでもかなりあるからな……」

クロノは思わず嘆くが、この時、クロノを含めた次元航行部隊の誰もが第二次世界大戦中の兵器は彼らの有する兵力の全てでは無いことなど、予想だにしていなかった。それを仮面ライダー達は見抜いていた。






――時間は戻って、機動六課臨時隊舎

「あの時、ナチスの奴らが使った兵器は多分、デコイだろうな。二次大戦型のドイツ軍兵器のマイナーチェンジ型は俺達も毎度遭遇しているしな」

「ええ。あたしとティアが地球にいた時に戦った、サイボーグとかの最新技術の兵器を使ってませんでしたし……通常兵器部隊でしょうね」

「奴らは単なる残党じゃあないってことだ。その辺は十分認識してくれ」

筑波洋が援軍の第一陣である飛行64戦隊、六課のメンバーにバダンの恐ろしさを説明する。子供であるエリオとキャロはその恐ろしさがいまいち飲み込めないようだったが、「とんでもない敵」であるという認識は持ったようだ。

「そういや捕虜にしたっつー戦闘機人はどうしたんだよ、筑波さん」

ヴィータが捕虜にした戦闘機人のことを尋ねる。洋はちょっとバツの悪そうな顔で、「ああ、あの女の子たちなら光太郎が治療と尋問も兼ねてライドロンで地球に運んでいったよ。今頃、先輩達に尋問されてるかもな」と漏らした。ヴィータはそれを聞くと、同情したように、「ああ~かわいそうにな」と漏らした。それを聞いた圭子も同様の気持ちなようだった。実際そうであったのだが。

「はやて、私達の機材の整備のスペースは確保できてる?」

「は、はい。ヘリ用の第3格納庫を開けてます」

「サンキュー」

意外に現在人ナイズされた受け答えにはやては面食らう。住んでいる時代の割には言葉使いは21世紀の日本人と変わりのない圭子の姿に、ツッコミを入れたくなったはやてであった。














――23世紀地球 日本 城茂がかつての恩師の立花藤兵衛の一族から経営を引き継いだオートバイクラブ


「……それで、君はジェイル・スカリエッティによって造られた戦闘機人なんだね?」

「……そうっス」

――ひぃぃ~~!!なんなんっスかこれぇ~!何でアタシ、体育会系のおにーさん方に囲まれてるんッスか~!!

本郷猛、神敬介、沖一也ら“いかにも体育会系です”を地で行くような体格の良い青年らに尋問を受けているのはジェイル・スカリエッティの造った戦闘機人の11番目のウェンディであった。彼女はスカイライダーの愛車「スカイターボ」の音速によるひき逃げ……もといライダーブレイクの直撃によって重傷を負って治療中なので、ベットに身を横たえながら尋問を受けている。尋問を早く終えたいウェンディは他の姉妹よりは素直にライダー達の質問に答えていた。ちなみに他のメンバーの内、同時に捕虜になったノーヴェはライダーマン=結城丈二によるDNA鑑定の結果、スバルと遺伝情報が一致したとの事で、ストロンガーの予測が的中した形となったが、ノーヴェはストロンガーの電ショックによって体の回路が一部焼き切れていたので、ただ今治療中だ。今回、捕虜になった面々の中のリーダー格のチンクは手術が終わって寝ているところだが、その姿は他人の空似であろうか、宇宙科学研究所からライダー達に差し入れを持ってきた篠ノ之箒がラウラ・ボーデヴィッヒと思わず見間違えそうになるほど似ていたとの事で、「ラウラを幼くすればたぶんこんな感じです」と関心していたそうな。ライダー達による戦闘機人らの治療と尋問は夜になっても続きそうだ。



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