――時空管理局は建前と本音で、部隊単位や個人単位での兵器購入や保有は黙認し、はやてはロンド・ベルのツテでアナハイム・エレクトロニクスから先行して兵器を購入した。ZZガンダムとZガンダムである。

「はやて、これ、アナハイム・エレクトロニクスのツテで用意したろ」

「そうや。せっかく、なのはちゃんやフェイトちゃんがロンド・ベルにいるんやし、アナハイム・エレクトロニクスに頼み込んだんや。それでポンと」

「アナハイムもあこぎな商売してんなぁ。しかもZは『ストライクZ』仕様だし」

「ZZはフルアーマーか。これ、乗りこなすのは骨折れるなぁ」

「本当はもっと新しいνガンダム系を買おうと思ったけど、あれ、よく考えたらアムロ少佐専用機やし」

「Sガンダムは考えなかったのか?」

「ウチの予算じゃ、Sガンダムは買えへん。あれはオプションセットで買ったら、数ヶ月分の予算がパーやで。操作性は魅力やったけど」

Sガンダムは確かに導入後の費用対効果は高いが、導入コストは歴代最高に高い。操作系の簡便さは魅力だが、それを相殺して余りある導入コストは、ZZとZを足してもまだ余る。そのため、はやてはSガンダムを断念し、両機の導入に踏み切ったのだ。ただし、両機は操縦難度が歴代トップ3級のピーキーさを持つ機体である故、乗りこなすのは難儀であると、フェイトはため息を付いた。

――その日の内に訓練を始めたなのはとフェイトは、来る『第三次ミッドチルダ沖海戦』に向けて、MSの慣熟訓練に入った。可変機なので、これまでに習っていたVFのノウハウを活かせるのが大きく、数週間で一応の動作はこなせるようになったが、Zはまだしも、ZZはZよりも操縦難度が高いため、なのはは火器管制システムに難儀していた。

「ジュドーさんはよく、こんな複雑なの扱えるよなあ。見直しちゃう」

おちゃらけた雰囲気さえあるジュドーだが、第一次ネオ・ジオン戦争を終結させた実績は確かで、Z、ZZ、百式などの歴代でも乗り手を選ぶガンダムを苦もなく乗りこなす才覚を持つ。なのははレイジングハートの補助を入れてなおも難儀する火器管制システムの複雑さにうんざりした。そして、そのシステムの真価を発揮させていたジュドーの技量に舌を巻き、彼を見なおしたのであった。(因みに機体の塗装はVF同様に、パーソナルカラーである)この、はやてが大枚はたいて導入したダブルゼータとゼータ。提出された帳簿を見て面食らったのは、今や彼女の直属の上官となったクロノ・ハラオウンだった。

「う〜む。……地球連邦から、なんてものかったんだはやては」

クロノは帳簿に記されていた兵器に頭を悩ましていた。地球連邦最大の軍需産業であるアナハイム・エレクトロニクスから、『お高い』兵器を購入したのが記されていたのだ。それも地球連邦軍のシンボルになっている超高性能機『ガンダム』の血統の機体であるのがハッキリ記されていた。

「ゼータガンダムに、ダブルゼータガンダム……。いずれも向こうの地球で比類なき活躍をした『時代を変えた』超兵器。上は難色を示すだろう。だが、こうもしなければミッドチルダの奪還はならないという現実……皮肉なものだな」

クロノははやての今回の行いを快くは思ってはいないらしく、渋い表情を浮かべる。だが、はやての対応は現実に即した判断ではあるのは分かっている。ミッドチルダを急襲した敵は管理局の取る動きを逆手に取って、質量兵器で攻めてきた。質量兵器に対する対策を軽視していた管理局は失態を重ね、遂には首都周辺区域及び、重要港湾の失陥という事態にまで悪化した。ただでさえ『万年人不足』と揶揄されてきた管理局は、裏切りも複数起こった結果、一部の部隊を除けば、『烏合の衆としか言いようが無い部隊しかいないという情けなさだ。友軍の援助がなければ、戦線維持すら覚束ない。その現状故に、はやてはガンダムの購入に踏み切ったのだろうが……。

「しかし、ガンダムを買うとは思わなかった……平時なら右派が評議会の議題にしかねない行為だぞ、はやて……」

クロノもガンダムの勇名は聞き及んでいた。一年戦争以来の数多くの戦乱で名を馳せた超高性能モビルスーツ。時代を変えたほどの超兵器を購入したとあれば、平時なら評議会の議題にでもなりそうな事項だが、戦時のゴタゴタにかこつけて、通すつもりなのだろう。確かに数年前に地球連邦とミッドチルダ政府が結んだ通商条約は生きているので(政府が存続しているので)、兵器を買ってはいけない決まりはない。クロノは黙認することにし、後日、正式に時空管理局から、アナハイム・エレクトロニクスへ保守整備代金込みの金額が支払いされたとか。そのため、機動六課の整備班は全員がロンド・ベルで研修する事になったという。特に、シャリオ・フィニーノはロンド・ベルが持ち込んだ歴代ガンダム(Z、ZZ、S、HI-ν、F91、V2など)を見て大はしゃぎであり、フェイトに『シャーリー、お前は空気を読め!』をお叱りを受け、居合わせたウッソ・エヴィンには「元気なお姉さんですねぇ」と言われたそうな。







――はやてが両機の購入に踏み切った背景に、バダンもMSの導入を進めている背景がある。旧ジオン軍やティターンズに潜り込ませておいた人員が中心となっており、機体も同組織の系統が多く配置されていた。ティターンズ最後の量産機であり、流通数が多くないとされた『バーザム』は少なくない数が彼らの手にあった。横流しされた数はかなりに登っていたのだ。


「壮観ですな、大使」

「うむ。ティターンズに潜り込ませていた構成員に横流しさせた甲斐があるものだ」

暗闇大使は視察中の倉庫内部でほくそ笑む。バーザムは優に一個師団級の数がある。この頃には、バダンからの裏切りを画策し始めた彼だが、同時に大首領の制裁を恐れているという小物臭い側面もある。そのため、しばしは大首領の忠実な下僕を演じつつ、裏切る機運を伺っていた。そのため、人前では大首領の命に忠実なところをアピールするかの如き言動をするなど、かなり気を使っていた。だが、それはデルザー軍団に感づかれており、その命を受けた男が監視についていた。名を黒井響一郎。またの名を仮面ライダー三号である。某有名ドラマに出演していた俳優に激似な風貌を持つ青年だが、生まれは1950年代である。出身時空の本郷猛と一文字隼人を屠った経歴を持つこの彼は、大首領からも『幹部候補』として招来を嘱望されており、デルザー軍団からも敬意を払われている。暗闇大使を監視する役目を負った彼は、ナチス陸軍軍服を着込んだ姿を見せ、副官として振舞っていた。

(暗闇大使はどこかで裏切ろうと画策している。それを掴むまでは動けんな)

「大使、この次は小銃製造ラインの視察です」

「分かった。車を待たせておけ」

暗闇大使は大首領が招来を期待する黒井を寄越してきた事に、『単なる自分への当て付け』と解釈しているらしく、不機嫌そうな顔を見せる。裏切ろうとする割に、なんだかんだで地位に執着する辺りは、大物ぶっている割に、従兄の地獄大使のような人間性がなく、従兄のカリスマ性に嫉妬する哀れな壮年男であるのが暗闇大使の本質であると言えた。

――ただし、黒井は元は既婚者であり、妻子を亡くした過去がある。元の世界ではショッカーに、今はバダンに自発的に忠誠を誓っているので、脳改造を免れている。亡くした妻子の殺害の犯人を本郷猛らであるとし、彼らを倒した。だが、残ったのは虚しさだけであった。それを自覚している故、心の何処かでは本郷猛と一文字隼人の意志を継ぐ者らに倒されたいという贖罪意識も持ち合わせている。この時は暗闇大使の動きを監視するだけであったので、彼にとっての平行時空の一号と二号や、その正統後継者であるV3と顔を合わせることはなかった。だが、暗闇大使は彼に続く戦士を早くも用意していたりするが、それはまた別の話。



――はやてが両機の購入に踏み切った背景には、『小競り合いにまで、ロンド・ベルにいちいち歴代ガンダムを出してもらうのも悪くて……』という気持ちがあり、独自の迎撃能力を高めたいという面子的問題も多分に含まれていた。ただし、いくらガンダムタイプと言えど、少数では不利なので、はやてはその次の月に、ニナ・パープルトンの仲介で、ネロシリーズやネモUなどを調達し、一個中隊を編成するに至る。パイロットは機動六課の中でもメカの操縦が可能な人物が選定され、ローテーションで一個小隊が稼働するに至る。そんなある日、機動六課を訪れた兜甲児は、なのはとフェイトに、予てからの『鉄の神』計画が完成間近であると伝えた。

「完成するんですか、ゴッドマジンガーが」

「ああ。君らのおかげで、反物質の制御に関する技術でブレイクスルーが起こったから、ようやく外装の組み立てに入ったと、弓先生から連絡が入ったよ。父さんが基本設計を完成させてはいたが、動力源がどうしても関門だったからね」

「反陽子炉でしたっけ。なんで光子力反応炉じゃないんです?」

「マジンカイザーのあれは、あくまでイレギュラーなケースだ。あれだけのものをもう一個作れと言われても無理だ。やっと超合金ニューZαの精製法がわかってきたところで、生産ラインは軌道に乗ってないんだ。それに引き換え、ゴッドZは既存の超合金Zに反陽子エネルギーを浴びせれば完成するから、作るのは楽なんだ。今の光子力エンジンで、出力を上げられる限界は180万馬力までなんだ」


その数値はグレンダイザーのエンジン出力の数値である。グレンダイザーの来訪で齎されたエネルギー制御技術により、光子力エンジンの出力上限は飛躍したが、それでも180万馬力を捻り出すのが限界なのだ。光子力の力を最大限引き出せるのはマジンカイザーだけだが、カイザーはゲッターエネルギーとの相乗効果で生まれた『イレギュラー』。暴走の危険もある代物であり、甲児の身体への負担も大きい。それ故に、弓教授はゴッドマジンガーを生み出す事に邁進したのである。

「弓先生はカイザーを動かす事でかかる負担に、俺の肉体が耐えきれるか心配でね。グレートマジンガーの純粋な後継機であり、Zを改造したゴッドを作るのに邁進している」

カイザーには自立モード『魔』があり、それが起動すれば破壊の権化となる。元々がプロトタイプだった故の不安定さの具現化とも言え、カイザーが危険視される要因なのだ。甲児はカイザーを「神と悪魔の力を持つ魔神」と称し、ゴッドマジンガーは『正義の神』となり、デビルマジンガーを倒すために生み出されし神であると示唆した。

「でも、甲児さんはカイザーを信頼してるんですよね?」

「そうだ、おじいちゃんの最後の遺産だからね。おじいちゃんはマジンガーを作る過程でいくつも試作機を作った。だが、その過程で俺と弟のシローから両親を奪う結果になった事を死ぬまで気に病んでいた。その心が試作機の一体『エネルガーZ』をマジンカイザーへ進化させたんだろう。だから、カイザーはじいちゃんが俺へ残した最後のスーパーロボットと解釈してる。万が一のために持ってきたけど、カイザー使うと、政治屋がうるさいしな」

「なんでです?」

「新早乙女研究所の事故以来、政治屋がスーパーロボットの運用にケチつけるようになってね。サイコガンダムとかのほうがよほど非人道的だぜ、まったく」

「確かに。でも、使うつもりでしょ?」

「大介さんにも来てもらってるし、鉄也さんのグレートマジンガーもいる。カイザーを使うようなことはないと思うけどね」

「官僚ってのは、どこも危機意識ないんですか?全く……」

なのはも甲児が政治屋と揶揄する政府官僚、官僚タイプの軍人らを嫌っている事をハッキリ口に出す。官僚が他国軍との約束事を覆したりしたため、大いに悪影響を与えたりした事は古今東西の近代軍隊にはよくあるし、政治的配慮のせいで、劣勢の軍備で迎え撃つ必要に駆られた事も古今東西、ままある。なのはは、今次動乱で軍隊が官僚に振り回される事に嫌悪感を抱いたようで、呆れている様子だ。

「仕方がない。最前線で命張ってる俺達と違って、官僚はクーラー効いてる温室の中で帳簿見たり、書類と格闘してるする奴らが大半だ。危機意識なんてのは、はなっからないか、兵士たちの命を数字で考えるしかできない。かと言って、あいつらいないと組織はまわんねーからな。議長も官僚軍人閥だけど、俺達に優先的に物資や人員回してくれてるだろ?」

そう。官僚にも優秀なものはいる。ゴップなどがそうだ。そのおかげでロンド・ベルのような特別、装備がバラバラな部隊も豊富な支援を受けられるのだ。良くも悪くも官僚と現場の連携は大事なのだ。

「確かに」

「はやてちゃんも大変と思うぜ?何せ、戦局を覆したりした経歴持ちのガンダムタイプを買っちまったんだぜ?管理局って、これまでは建前上、質量兵器根絶を目的の一つにしてきたからな。人手不足が極まったからって、いきなり一個艦隊を返り討ちに出来るガンダムタイプを個人名義でとは言え、買うんだから。右派は絶対に許さないだろうし、最悪、内紛の火種になりかねないよ」

「なんでですか?」

「建前とは言え、設立の時に掲げた理念を曲げるってのは大変なことなんだよ。それを信仰して、組織にいる奴も大勢いる。だから、失望して新組織を作る動きが水面下であっても不思議じゃないさ」

「原理主義者ってやつは……始末に終えない奴らなんだから、全くっ!」

甲児は留学帰りなので、イメージとは打って変わっての博識ぶりである。確かに、管理局でレジアス・ゲイスが実権を握っていた際の『魔力の素養がない人間でも戦力にする』動きは魔法市場主義論者には嫌われている。なのはも、その真意を地球連邦軍に属することで知り、今は彼に一定の評価を下している。だが、あくまで理念を追求すべきという原理主義者達は少なからずおり、それが今次動乱で管理局に悪影響を与え、管理局は『体制が崩壊することで生じる無法地帯化』を避けるために存続させて『もらっている』に等しい状態に落ちぶれている。それを理解できない原理主義者を罵らずにはいられない、なのはだった。

「はやてちゃんの決断は波紋を呼ぶだろうが、後世では認められるさ。誰だって、時空管理局の崩壊は望んでいないはずだからね。だから、こうして戦っているわけだし」

「ええ。あたしもそう思ってます」

甲児ははやての決断を応援すると、はっきり口にした。はやての決断も、『管理局のそもそもの理念』と現実論との激しい競り合いがあった末のものだ。当人としても苦渋の決断なのは容易に想像できるからだ。と、そこへ、リインフォースUがやってくる。彼女は友軍との交渉に付き添う都合上、最近は人間サイズで活動していた。

「なのはさーん」

「リインか。どうした?」

「シャーリーがZZの合体時の様子を確認したいそうです。すぐに格納庫へ」

「あいつはいつもこうなんですよ、甲児さん」

シャーリー(シャリオ・フィニーノ)のメカヲタぶりにため息をつくなのは。甲児は笑いながらなのはにこう切り返す。

「中々、面白い子じゃねーか。俺が立会人になるから、ネオコアファイターに乗ってやりなよ」

――甲児が立会人になり、なのはは格納庫へ行き、駐機されているネオコアファイターに乗り込み、核融合炉を起動させた。シャーリーからのデータ取りの通信に返事を返しつつ、コアトップとコアベースを引き連れて、ドッキング態勢に入る。

「ZZにドッキングする!」

合体スイッチとなるレバーを引き、ドッキングする。過程としては、コアトップとコアベースの余るコアブロックが分離し、なのはのコアブロックが両機に挟み込まれる形でドッキングと変形を完了する。その動きは一瞬であり、シャーリーは思わず、『こんな兵器が、世の中にはあるんですね……』と圧倒された。その様子に、甲児はゲッタードラゴンや真ゲッターの変形合体を見せてやりたい衝動に駆られたのは言うまでもない。

――機体塗装はなのはのパーソナルカラーに塗られているが、各部マーキングは時空管理局と地球連邦軍のそれが入り混ざっている辺り、はやての苦しい上層部への建前が窺える。武装はジュドー機とほぼ同じだが、違う点に、ZプラスやSガンダム用のビームスマートガンがオプションでついていることである(ダブルビームライフルでは、精密狙撃にあまり向かない)。輝く頭部ツインアイカメラ、そして腕に携行しているダブルビームライフル。その雄姿にシャーリーとリインは圧倒され、しばし言葉を失った。20m級の巨人と言ったほうが正しい巨体と、そのマッシブな姿(強化型相当で新造されたため)と裏腹の軽快さ。地球の高い技術力に、六課ロングアーチの面々は舌を巻いたという。

「不本意ながら……高町なのは、ダブルゼータ、行きまーす!」


なのはとしては、本当はスタイリッシュなSガンダムに乗りたかったらしい事がわかる。贅沢は言ってられないが、ダブルゼータもガンダムタイプである。そこは我慢である。スロットルを開き、その推力で持って、ミッドチルダの空を駆けた。



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