――地球連邦軍の超兵器は、ウィッチ世界より文明レベルがグンと高いミッドチルダにおいても『超兵器』と言えた。それは、MSなどの兵器の平均火力が魔導師の平均火力の有に倍はあり、MSなどは『訓練すれば、子供でも、老人でも平均的な戦力にはなる』という点が大きかった。なのはたちのような大魔導師であれば、MS旅団程度であれば互角に渡り合えるが、そのような大魔導師はごく少数。ミッド動乱では、その少数の大魔導師の多くが裏切ったため、管理局に残された魔導師の内、エース級はなのはを含め、なのは達と関係がある部隊なり、原隊の要員のみ。なのはが佐官になったのは、それらを補うためであり、武装隊が司法武門から独立したからだった。
――ミッドチルダのある日
「〜!なんでこんな事せねばならんのだ!箒さん達はウィッチ世界で火消し、私たちはなんで、延々とナチと睨み合いしてるんだろうか」
なのはは、膠着状態のミッドチルダ戦線にうんざりしていた。他の次元の当人よりかなりずぼら成分が増えているため、タンクトップ姿で、隊舎をうろついている。
「ん?武子さん、結局、エース制度認めたんだ」
「ああ、それは未来世界の過去の日本や連邦、同盟国から憐れまれたのが原因なんやて。ほら、連邦も含めて、5機落とせばエースって認められるけど、戦前日本の同位国な扶桑軍にはその習慣が無かった。それを色々なところから憐れに見られたそうや」
――ブリタニア空軍の高官A氏
『貴国は貴国は闘う者にろくな褒美も出さんのかね?』
――リベリオン空軍(亡命側)高官B氏
『そうか、制度無いのか、かわいそうに…』
――カールスラント皇帝の顧問の高官C氏『うちはエースは鉄十字章、200撃墜で最高勲章出してるけどオタクは?え、無いの?www』
――連邦軍高官D氏
『これだから、旧日本軍は個人軽視と言われるんだよな。ワシの先祖、金鵄勲章貰う前に終戦だったんだぞ』
――自衛隊人事官E氏
『馬の前に吊るすニンジンみたいなものさ、勲章一つでも貰えるもん有れば士気がだいぶ変わるからね』
という具合に、である。扶桑皇国は陸海軍共に撃墜王への考えは異なり、海軍は、武功を称える勲章であった金鵄勲章の授与を確約し、軍刀などを与える方法で、陸軍は『陸軍武功徽章』を1944年に作って対処していた。だが、リベリオン軍が大量に亡命し、表彰制度を運用再開しだすと、問題が発生した。リベリオン軍より遥かに多量撃墜を達成している者が多いと指摘された時、『扶桑は自己申告だから、宛にならねーよww』と、リベリオン海軍のある若手ウィッチが小馬鹿にしたのが止めとなった。これにより、現場から統合参謀本部に苦情が殺到した。突然の事態に慌てたのが、まずは海軍航空隊統括部署だった。航空従事者勲功章の制定を慌てて行おうとしたが、当時、エースの最低条件を満たす者が余りにも多かった事、風土的に『個人を称える制度を今更作るなど!』という古参ウィッチの反発も大きく、海軍は喧々諤々となった。対する旧陸軍航空出身者が多い空軍は、扶桑海当時からプロパガンダに力を入れていた都合上、撃墜王に理解があったため、空軍はすんなりと制定がされた。(反発が無かったわけではなく、江藤敏子やその弟子の加藤武子は難色を示した。二人は部隊全体の練度を重視するので、突出した個人を歓迎していないからだ。)
その時の会話は以下の通り。
「うーむ。エース制度の制定は仕方がない事だが、部隊全体の練度向上に繋がらないんじゃないですかね?源田さん」
「君や加藤が、部隊全体の練度向上を重視するのは知っとるよ。しかしだ、俺が海軍時代に343空を作った意図がわからんわけでもないだろう?」
「はい。ですが、いいんですか?大げさに祝う事を奨励してしまって」
「突出した個人が嫌なら、全員エースに育てれば良いのだ、江藤。未来世界には、全員が撃墜王という部隊がいくつもある。例えば、宇宙戦艦ヤマトの艦載機隊など、全員が凄まじいエースだが、飛行時間が浅い者も大勢いる」
「それに、大袈裟に祝うんじゃなく、普通に誉めてやるだけだ。それだけでもモチベーションは大きく違う。スコア5などは通過点だ。俺はそれをよく、黒江と穴拭に言い聞かせている」
源田は、江藤にヤマトのブラックタイガー隊(コスモタイガー隊)を引き合いに出し、説得する。彼らも全員が撃墜王になるまでには、苦労もあったし、ガトランティス戦役でほぼ壊滅し、そこから再建した古代の手腕と苦労。
「加藤にも言ったが、全員をエースにするのは並大抵のことではない。熟練者同士を組ませての切歯琢磨、熟練者から新人への指導によるボトムアップ……。それにより、部隊の戦力は上がる。他にも、連邦軍にはそんな部隊がいるし、民間軍事会社さえもコツは知る『常識』だ。怒るより、褒めるのを覚えろ。特に黒江や穴拭のような血気盛んな若い者は」
「うーん。あいつら、若いですかね?」
「肉体的にはな。君だって、戸籍上は30代間近だろう」
「源田さんには負けます……」
「ハハハ、君も若返っているんだ。何なら、俺が直接、指揮を取っている時に出たらどうだ?」
「ブランクがあるから、特訓する必要はありますがね」
「自転車の要領だ。乗れば思い出すよ」
さしもの江藤も、源田には頭が上がらないようだ。江藤は喫茶店のマスターから軍に戻ったため、実戦のカンが鈍っている事を危惧し、最近は部下たちに黙って、実戦のカンを取り戻す特訓をしていた。会話しつつ、源田に感服する江藤だった。
――話は戻って。
「なのは。ゆりかごのことだけど、波動エネルギーが微弱だけど感知されたよ」
「波動エネルギーが!?本当ですか、那佳さん」
「うん。連邦のレーダーピケット艦が、波動エネルギーの反応を、飛んでるゆりかごから感知したんだって。詳しく解析したら、ヤマトとアンドロメダの中間点の1.5世代型波動エンジンに見られる波長だったって」
「んじゃ、ゆりかごのあの外装は?」
「コアに使った波動エンジン搭載の地球艦をカモフラージュするための外殻じゃないかな?ベルカに波動エンジンは作れないはずだしね」
「でも、なんで古代ベルカに波動エンジン艦が?」
「噂に聞いたんだけど、ヤマトがイスカンダルに行ったじゃん?その後に、波動エンジンと次期戦艦の模索で、ヤマトの簡易型がこんな感じで作られたんだって。6隻くらい」
「波動砲周りが簡素になってますね?副砲もないし、側面のミサイルもないし、パルスレーザーもあまりない」
「『飛鳥型』って名前の試験艦。ヤマト型の資材を使ってるから、ヤマト型の基本ライン持ってるけど、主力戦艦級のプロトタイプなんだって。で、そのうちの4番目の吉野がワープテスト中に行方不明になったんだけど、その吉野が流れ着いた後に、ベルカに鹵獲されて、ゆりかごの中枢部で動力炉になったんじゃ?」
その飛鳥型試験戦艦は、ヤマトのプロトマスプロダクトモデルとして作られた一方、主力戦艦級のプロトタイプという側面もある。当然ながらかなりの大戦艦だが、この世界のゆりかごは、完成時のヤマト級がすっぽり入る巨艦なので、内部にあると言われても説得力がある。
「ベルカがよく、波動エネルギーを受け止められるエネルギーバイパスとかを作れましたね」
「その当時で一番頑丈な魔力炉用の部品を使ったんだろうね。波動エンジンを本格稼働させた時のエネルギー伝授に必要な強度の部品はベルカにあっただろうし。次元世界最強を謳われたのは、波動エネルギーを聖王の生命エネルギーとシンクロさせてたからじゃ?この世界だと」
「そうですね。他の世界は、今の管理局の武器で集中砲火すれば破壊できる強度の装甲だし、聖王がなければガラクタに等しいけど、この世界だと、一筋縄ではいきませんね」
「スカリエッティ、知ってるかもね。もし、吉野が鎖から解き放たれたら、管理局のどんな船も敵わない事。成功してたら、本局が波動砲で消滅だよ」
小宇宙一個をぶつけるに等しいエネルギーを持つ波動砲を防げたのは、これまでガトランティスのみである。強化テクタイト板と超合金の装甲はトリプルブレイカーであろうとも貫けないし、もし、兵器が全て生きていたのなら、波動砲がある。上回るにはより高出力の波動砲を必要とする。
「うーん。エネルギーバイパスが破壊されてたら、それはないんじゃ?」
「大型魔導砲に改造したとしても、なのは、押し返す自信ある?」
「ありませんね。別のあたしならできたんだろうけど」
なのはは、子供時代に『体に負担がかかる』という理由で、砲撃の改良を取り止めていた。そのため、平行時空の自分には火力負けしている。
「ゆりかごの外殻は容易く破壊できるとして、吉野が出たら、ヤマト級同士の撃ち合いになるから、管理局はお呼びじゃないよ。ショックカノンで狙われたんじゃ、管理局の船なら一発でへし折れるよ」
「えいゆうだって、ガミラスの光線砲でへし折れてないんだし、多分折れないと……」
――えいゆう。それはヤマト登場以前に使われていた宇宙戦艦で、金剛型宇宙戦艦というサブタイプ名を持つ。形式番号はM-21741式宇宙戦艦。フェーザーを艦砲に持ち、登場当時はかなりの高性能と謳われたが、ガミラス相手には駆逐艦以下の耐久力しかないと、バカにされていた。現存艦は沖田十三が座乗していたえいゆう一隻のみであり、今はスミソニアン博物館で展示物になっている。
「ガミラスの戦闘機のパルスレーザーでキールに穴が空いたっていうけど」
「うわーぉ……」
「技術に差があると、最新の宇宙戦艦もハエかゴキブリの扱いってことだよ。強化テクタイト板と超合金の装甲が実用化されてから、ショックカノンの出力向上もあって、ガミラスと対等に戦えるようになったんだし」
「フェーザーでも、時空管理局の大型船に通じるから、時空管理局の金属は柔らかいんですね……」
「と、いうよりは、伝播物質が周囲にないと、効率が下がるんだってさ。その欠点が露呈したから、金剛型の先代が下げられたと同時に、対艦砲としては引退だって」
「ショックカノンはその心配がないから、一気に普及?」
「原理自体はフェーザーより単純で、量産し易い代物だったらしいけど、エネルギー機構の小型化と大パワー化が遅れてたみたいだし、普及自体は戦後なんだって。主力戦艦級とアンドロメダが出た後だね。で、最近に『56cm砲』が計画されてるとか」
「56cm?そりゃまたどうして?」
「アンドロメダの主砲で、超巨大戦艦に撃ち負けたトラウマらしいんだ。アンドロメダ、一応、当時一番強い主砲持ちだったしね」
「大艦巨砲主義ですねぇ」
「なのはがそれいう?」
「は、ハハ……それ言われると立つ瀬ないですよ」
なのはは『力に頼るものは力によって滅ぼされる』という、ズォーダー大帝がアンドロメダを評した言葉通りの経緯を子供時代に辿った。そのため、別世界の『魔力砲撃に頼る』自分を石破天驚ゴッドフィンガーで打ち倒した。そのため、別の自分に泣かれたのだが。
「そう言えば、フェイトちゃんはどこか別の世界にいってるんだっけ?」
「うん。先輩と一緒だって。先輩たち、その世界で暴れてないといいんだけど」
「ですね。でも、まさかフェイトちゃんが黄金聖闘士なんて。それも獅子座の」
「先輩曰く、アイオリアさんへの恩返しだそうだよ、フェイトが獅子座を継ぐのは」
「恩返し、かあ。不思議ですね」
「そうだねぇ。どこでどう繋がったのか……」
フェイトが獅子座の黄金聖闘士としての人格になった後の『騒動』の最後の模擬戦、フェイトは『聞け!!獅子の咆哮を!』という台詞と共に、ライトニングプラズマをかまし、シグナムBとヴィータBを一瞬で倒している。その時には、はやてBを驚愕させ、後に手紙が送られてきたフェイトBからは『どういう技で倒したの!?』と質問攻めにあったという。フェイトAが獅子座の黄金聖闘士を継いだ証である闘技は平行時空の自分自身やなのはに凄まじい衝撃を与え、なのはAも別のアプローチで超人化を模索する。これは聖闘士となったフェイトと釣り合いを取るためであり、黒江からは、『宇宙の騎士テッカマンブレード』みたいに、テッカマンになれよww』と冗談めかして話の種にされている。
「中尉、大変です!」
兵士が駆け込んで来た。血相を変えてぶっ飛んできた。
「ヴァチカンが……『第13課』がとうとう動きだしましたっ!」
「あの超絶バーサーカーのイスカリオテが!?」
「あのクソッタレ野郎の配下か……。エンリコ・マクスウェル……ゲス野郎め」
なのははヴァチカンの切り札である『第13課』の長『エンリコ・マクスウェル』と遭遇した事がある。あれほど、人の神経を逆撫でする天才はおらず、今のフェイトであれば、フォトンバーストで半径10キロごとぶっ飛ばしているだろう。
「いいか、13課の連中に出くわしたら逃げるように通達しろ!奴らは狂戦士だ、アレクサンド・アンデルセンらしき人物は特にだ。ナチでも恐れる化物だ、地獄を見るぞ!」
「ハッ!」
未来世界のヴァチカンは異端殲滅のための組織を抱えている。それはイスカリオテのユダの名を冠し、ペンペン草も生えないほどに敵を殺戮しまくると、裏世界では専らの評判。なので、仮面ライダー達ですらも、『できれば遭遇したくない』と話している。特にアレクサンド・アンデルセンは人外魔境まっしぐらであるため、HELLSING機関のアーカードでしか止められない。なのはが思いっきり焦って、怒声気味になったのはそのせいだ。
「あーー!!あのキチガイ共がとうとう!!フェイトちゃん――、綾香さん――早く帰ってきてよぉ〜〜!!」
と、悲痛な(?)叫びを上げる。
「聖王教会も裸足で逃げ出すよなぁ、あのウォーモンガー達の前じゃ」
黒田は諦感の一言を漏らす。だが、なのはに希望がないわけでもない。なのは自身の狂奔を引きだせれば、彼らに劣らないウォーモンガーと化す。それが唯一の希望だった。
――それから数時間後、戦闘機人達の生き残り達が目撃した光景。それは兵士たちの血に染まるアスファルト、辺り一面に散らばる生首、機能を停止したサイボーグ兵士のボディの残骸が転がっていた。その中心にいる一人の壮年のメガネをかけた『神父』。ゆりかごからその『彼』を見つめるスカリエッティA。
『実に面白い、実に!まさか彼も来るとは!話に聞いた『アレクサンド・アンデルセン』神父!!『再生者』!!『天使の塵』!!『首切り判事』!!地獄を見せてくれ、この私に!!』
スカリエッティAは、Bから託されたデータを手にしていた。それが何なのかは分からない。彼が手中に収めた聖王のゆりかごの中枢部には『試験戦艦・吉野』が眠っている。かつて、ベルカが手にし、次元世界を蹂躙した戦艦の中枢部に眠るそれが『宇宙戦艦ヤマトの一族』であるという秘密は、『ミッドチルダ・ベルカは、先史文明時代でさえ、地球連邦の技術に及ばない』という事実である、ミッドチルダで管理局から離反した『魔法至上主義者』たちにとってはこれ以上ない皮肉であり、最悪の事実でもあった。
「ミッドチルダの連中は気づいていないようだ、このゆりかごの根幹となる技術が地球のそれである事に。先史文明はそれを知っていた。皮肉というものだよ」
「ドクター、それを指摘してやればいかかです?」
「信じはせんよ。現在のミッドチルダは、かつての地球が波動エネルギー文明に飛躍しだした時期とよく似ているよ。ズォーダー大帝も言った。『力に頼るものは力に滅ぼされる』と。彼自身、テレザートのテレサに滅ぼされたがね」
彼、スカリエッティAは地球連邦の歴史さえ口にした。そして。
「無限に広がる大宇宙に於いて、ミッドチルダなどはちっぽけなものだ。それを忘れ、平和と安寧のもとに、物質的繁栄を謳歌している。プロトカルチャー、アケーリアスも自らの奢りで滅んだ。『シャルバート』のような、アケーリアス文明の流れを汲む穏健派もいたにはいたが、宇宙の海は残酷だ。もし、更に未来の時間軸の地球と出会っていれば、『クイーン・エメラルダス』、『キャプテンハーロック』、『Gヤマト』にミッドチルダは蹂躙されていただろう。地球はアケーリアス、プロトカルチャーの後継の大文明になりえる。ミッドチルダは次元の覇者などではない。それを理解できないのが、我らにあっさりとついた者だ。……今日は200人ほどグールの餌にしておきたまえ」
「ハッ」
彼は宇宙戦艦ヤマトの後身を『グレートヤマト』と呼んだ。同時に地球を、超先史文明『アケーリアス超文明を継ぐ文明』と見なしている。ミッドチルダは地球の影響を受けた文明であると気づき、地球こそ、プロトカルチャー、アケーリアスの流れを汲む、おとめ座銀河団人類文明の正統な後継と判断したのだ。
「波動エネルギーはアケーリアス文明の繁栄を支えた。が、それは同時に破滅への一歩でもあった。ミッドチルダ先史文明は波動エネルギーを夢のエネルギーと呼んだが、それは超文明を滅ぼす矢ともなりえる。地球は近いうちにアケーリアスの悲劇に気づくだろう。その時に彼らは何を学ぶか」
「ロマンチストですね、ドクター」
と、スカリエッティはこの世界においては、おとめ座銀河団でかつて栄えていた『アケーリアス超文明』の存在とその悲劇に気づいているという聡明さを見せた。彼は別の自分よりも『能力的に優れている』のか、バダンの中でも高い地位にいるようである。
「これでミッドチルダは組織の改変を余儀なくされる。そして、『彼ら』の望む闘争の世になる。闘争の世に。ミッドチルダに降りかかる苦難を、地球で滅び去ったはずの『ドイツ鉤十字』が与えるという皮肉だよ、これは」
――彼の言う通り、ドイツ鉤十字がミッドチルダに翻り、ミッドチルダは戦乱の世を迎えていく。スカリエッティはバダンに加担する事で、ミッドチルダ文明が、アケーリアス超文明の流れを汲む地球の兄弟文明である事を確かめるべく、研究に没頭するのだった――
――機動六課 臨時隊舎
「馬鹿野郎!!絶対魔眼はあれほどやめろと言ったろう!」
当時、第一機動艦隊司令の山口多聞の怒声が飛び、雁渕が叱責を受ける。それは彼女の固有魔法が原因である。魔眼の上位互換である『絶対魔眼』は、使い魔とのシンクロ率が飛躍し、現在の智子同様に容姿が変化するものの、シールドを張れなくなるという難点がある。そのため、智子のカバーがなければ死んでいたのかも知れないのだ。
「しかし司令、穴拭先輩も私と同じ……」
「あれは魔眼ではない。覚醒の最高位『変身』だ。貴様とは質が違うのだ」
「先輩が覚醒を……!?」
「そうだ。奴の秘中の秘、扶桑海で『一度だけ』使った技だ。突拍子もないので、あの時の戦闘諸報には載せなかったが」
「なっ!?」
智子は変身を使い、戦場を支配した。それを初めて目撃した雁渕は圧倒された。何よりも、ストライカー無しで、ストライカーを装着した自分を超越した戦闘能力、そして、カイザーブレード。全てが次元の違う力だった。
「雁渕、貴様は命令違反を犯した。が、穴拭に免じて、今回は甲板掃除に処する」
「ハッ……」
(穴拭先輩はあんな力を隠していた。なら、あの人一人で……)
ウィッチの多くは、スリーレイブンズが本気を出した場合の戦闘能力には到底及ばない。更に、なのは達は素で平均火力がスリーレイブンズ以上であるのも、ウィッチたちに劣等感を抱かせる原因だった。その劣等感は名を挙げ、エースと言われていたものほど大きい傾向があった。これは戦力バランス以上に、精神面での均衡で大問題であり、スリーレイブンズ以外は時空管理局の魔導師と共同戦線ができないのではないか?という議論すらなされていた。
――数分後 加藤武子の執務室
「孝美、絶対魔眼を使ったそうね」
「はい」
「あなたの敢闘精神は褒めるけど、防御を犠牲にするのは頂けないわね」
「ですが、加藤隊長。言い訳がましく聞こえるかも知れませんが、あの時は他に……」
「分かってるわ。あなたの身柄は今後、我が64Fが預かります」
「ち、ちょっと待ってください、隊長。私は海軍ですよ!?」
「既に源田司令の許可は頂いてるわ。空軍設立前の前段階として、正式に343空と64Fは統合運用されます。本当は第二次ミッドチルダ沖海戦の前にしたかったのだけど、海軍軍令部がごねてね」
武子は雁渕に『64Fと343の統合運用』が正式に認められ、開始されると通達した。以後、雁渕の再教育が済み、正式に空軍移籍が実現するのは数年後の事だ。また、彼女の『絶対魔眼』は、後にリウィッチ化で『魔眼転身』に変化する。魔眼の特性を有しての『変身』なため、智子、もしくは黒江の護衛を期待されるに至る。彼女が固有魔法に変化が生じた初の事例となっていた。
「あなたが、なのは達に劣等感を持っているのは知っているわ。でも、あなたはあなたの道を行きなさい。昔の私が智子や綾香に対して感じ、やがて立ち位置を見出したように」
「はいっ!」
武子はそう言いつつも、内心では『ゆりかこの中枢部スキャンで波動エネルギーらしき高エネルギーをキャッチした』報に焦りを感じており、343空との統合運用開始を急かしていたりする。机に置かれている書類を見てみると、『緊急・波動エネルギー感知について』という題目が書かれており、ゆりかごの構造探査が行われたのが分かる。その中心部に何があるか。ゆりかごの根幹が波動エネルギーに根ざしたものだと知り、焦っていた。
「しかし、なぜ急に?」
「これを見て」
「『緊急・波動エネルギー感知について』……じゃ、聖王のゆりかごのエネルギー炉は波動エンジンだと!?」
「波動エンジンをベルカが造れるはずはないわ。だから、何らかの事故で流れ着いた波動エンジン搭載の何かを動力にしたとしか……それも戦艦級の」
「連邦に、それらしい船の記録は?」
「一隻だけ該当するのがあるわ。飛鳥型試験戦艦の4番艦『吉野』。ヤマトのプロトマスプロダクトモデル。それがあの大仰な外装の中にあるのかも」
「どうしてそれだと?」
「吉野はガミラス戦役の末期、ワープテストで事務的報告をした後に消息を絶ってる。波動エンジン黎明期の事だったから、連邦も忘れかけていた事故だったのよ」
「その戦艦が、ゆりかごになったのなら……」
「次元世界を支配したというのも嘘じゃないわね。波動エンジン艦は、一般的な次元航行艦艇や核融合艦艇を超越する性能を持つから、攻防速も、超弩級戦艦と帆船時代の戦列艦くらいに。連邦が念のために、波動エンジン艦で固めてるのが功を奏したわね」
「管理局はそれを?」
「知らされて、憤慨した者も出たそうよ。自らが見下してた地球という文明の産物が、まさか、旧世界を滅ぼしただなんて」
「旧世界を滅ぼしたのが、辺境と馬鹿にしていた世界の生み出したエネルギーで動く戦艦なんていうのは皮肉ですものね」
「古代ベルカは、それを知っていて、ゆりかごに仕立てたことになるわよ?どういう事なのかしら?」
「波動エンジンの高エネルギーに魅せられたからじゃ」
「でしょうね。孝美、これは大事になるかもしれないから、他部隊にそう通達して。部屋割りは追って連絡するわ」
「了解」
武子と雁渕も恐れる、ゆりかごの中枢部で眠る『超戦艦』。むしろそれが本体な勢いである聖王のゆりかご。その超戦艦がヤマトの准姉妹艦であるという重大な事実。それを知った時空管理局は紛糾したが、連絡の連絡士官がこういった。
『我々やイスカンダルが使っている波動エンジンは、元々は遥か過去に栄え、滅亡した超文明の遺産なんですよ』と。
『して、その超文明の名は!?』
『アケーリアスと判明はしています』
アケーリアス。おとめ座銀河団最初にして、最大規模を誇り、何億年もの間、繁栄を謳歌した超文明。やがて内紛で滅び去った。プロトカルチャーはその後継文明であったが、これまた滅び去り、地球は更にその後釜の文明圏である。その遺産が波動エンジンなのだ。
――管理局と連邦、それとスカリエッティが辿り着いた『アケーリアス超文明。』ミッドチルダ、地球が祖を同じくする文明であると判明したのもこの時期であった。双方が共存共栄の道を選ぶのは、この頃が始まりであった。
――そして。地球から新たなヒーローも現れる。
「誰だ!警察なんて呼んだのは!!」
「おーい、トゥルーデ。ここはミッドチルダだよ?」
「そ、それもそうか……」
と、バルクホルンが驚きの声を上げる。地球の警察車両と思われるスマートな車が止まり、『装甲に身を包んだ』シルエットが現れる。
「あ、『あの人』は!日本警察最強のワンマンアーミーって記録されてる、日本の科学が産んだサイボーグ警官――」
ハルトマンがその人物の正体を言うと同時に、その人物は胸から取り出した警察手帳を見せ、名乗る。如何にもロボットな風体で、腕には警官が持っていい武器を超えた何かがついている。
「地球連邦警察・警視庁秘密捜査官、『機動刑事ジバン!!』」
彼こそ、かつて、バイオロンと呼ばれた犯罪組織と戦い、命を落とした警官『田村直人』が蘇生を兼ねて、かつての日本陸軍が残した大いなる遺産『超人機』計画の技術と80年代の日本が有していた技術とを組み合わせて蘇生・改造された姿。その名も機動刑事ジバン。
『対バイオロン法第一条!機動刑事ジバンは、いかなる場合でも令状なしに犯人を逮捕することができる!』
戦いながら、彼が秘密捜査官である所以の『対バイオロン法』(80年代の制定だが、まだ生きている法である)を読み上げるジバン。ものすごくアバウトな法律なため、バイオロンかそれに準じる悪の組織にしか適応されないという条件があるが、凄まじいインパクトなため、バルクホルンは開いた口が塞がらない。
「パワーブレーカー!!」
先端に強力なパワーハンドが付いている盾を使い、万力のように締め上げ、サイボーグ兵士を挟み潰す。
「ニードリッガー!!」
右腕の大型ドリルを使い、サイボーグ兵士にドリルを叩き込むジバン。今の彼は『新生・パーフェクトジバン』と言える状態なので、かつて使っていた武器は全て復元されている。
「あれが日本警察のワンマンアーミーかぁ。うん。強いや」
「あれが本当に警官なのか!?ありえんぞ!!」
「ちっちっち、トゥルーデ。そんな台詞、次の武器見てから言いなよ」
「!?」
『オートデリンガー!!』
ジバンは最強兵器をワイヤーフレーム状の光とともに転送、召喚する。見るからに無骨そうな重火器だが、それまでの最強武器『ダイダロス』の30倍の火力を有する恐るべき超兵器である。
「エネルギーチャージ!!」
オートデリンガーの砲口にエネルギーがチャージされる。エネルギーを凝縮、プラズマ火球状の弾体を撃ち出す『ファイナルキャノン』こそ、ジバンの最強の必殺技である。バルクホルンとハルトマンは、砲口にチャージされるエネルギーが尋常ではないのを察知し、思わず地面に伏せる。
『オートデリンガー・ファイナルキャノン!!』
オートデリンガーは見事、ビル一個は有に崩せるほどの大爆発と共に、敵をぶっ飛ばす。伏せていた二人にさえ、衝撃が伝わるほどだ。
「あれが、日本警察の切り札……」
「機動刑事ジバン。今でも最強の警官の一人って言われてるらしいよ」
「何と戦うのだ……あれでは、軍隊と戦おうがお釣りが……」
「もしかして、トゥルーデ。怖いの?ww」
「そ、そんなわけあるか!」
「お〜い、ジバン〜!」
――復活の狼煙をあげる機動刑事ジバン(パーフェクトジバン)。その強大な力に身震いするバルクホルン。ハルトマンはその正体を知っているのか、フレンドリーに話しかける。バルクホルンはそんなハルトマンに振り回される。変身を解き、人間態に戻るジバン=田村直人の笑顔。バルクホルンは面食らいながらも、この時、初めて、機動刑事ジバンと面識を持ったのだった――。
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