-コズミック・イラ70

地球連邦軍の持つコズミック・イラの世界から見た超絶的科学力は3隻同盟の面々を驚愕させていた。ドミニオンとの交戦からは1日と数時間ほど前の日、クサナギに運び込まれたネモやネロなどの地球連邦軍にとっての旧世代モビルスーツ群は世界の違いなどの要因により、M1よりも遥かに高性能であり、一機でM1数機分の戦闘力を持つ。しかも量産型である都合上、操縦性も高いというのはクサナギの残存一般兵士らに評判だった。


「凄いよな。OSが最初から完成されてて調整の必要が無いなんて」

「向こうじゃコーディネーターもナチュラルもない世界だっていうからな。だからモビルスーツも普通の兵器なんだろうな」


彼等は異口同音にコズミック・イラのモビルスーツとは異なる`22世紀`の地球のモビルスーツへの羨望を口にする。コズミック・イラで最強の座に君臨するのはコーディネーターの扱う機体と決まっている。そもそもコズミック・イラではモビルスーツはコーディネーターが乗ったり、調整することで初めてそのポテンシャルを発揮する。が、西暦世界ではそれはなく、エースパイロット用に製造される超高性能機も、量産型も基本的には同じOSが使用され、誰でもポテンシャルを引き出せる可能性があるという事が大受けなのだ。


「しかしこれで`型落ち`の古い機体だって?」

「ああ、当然だが必ずしも最新兵器は与えないのが世の常だ。向こうにとっては型落ちでも、こちらから見れば十分に高性能だ。PS装甲ほどじゃないが、通常の装甲材としては“強い”チタン系の特殊合金、しかも何の調整なしで万人の操縦が可能な完成された制御OS……極めつけは核融合炉のジェネレーターと来てる」

ムウ・ラ・フラガはカガリ・ユラ・アスハに運び込まれたネロやネモが技術的にどんなに凄いか解説してやる。クサナギに乗り込んでいる、オーブの事実上の半官営軍需産業であるモルゲンレーテ社のメカニックや設計技師達が異口同音にその技術的先進性を褒め称える理由を。そこにM1アストレイの主任設計技師のエリカ・シモンズがやってくる。

「彼らもモビルスーツは元々、宇宙居住者達、
彼らの言い方で“スペースノイド”が造った兵器らしいの。過去の戦争で地球連邦軍を降伏寸前にまで追い込んだけど、地球連邦軍が“ガンダム”という超高性能機を造った事から状況が一変して、そのまま戦争そのものを地球連邦軍の勝利に導いた……それが地球連邦軍のモビルスーツ信仰を生んだ。どこも似たようなものね」

「まぁ偶然かも知れないけど、そこまで同じようだとかえって不気味だな」

「ええ。それと、キラくんが呼んでる、ガンダムって名前は向こうだと勝利と抵抗のシンボルって訳。歴代の象徴的な機体はその名を代々受け継いでいるらしいの。面白いわね」

エリカ・シモンズは地球連邦軍やリガ・ミリティア、エゥーゴなどの組織がガンダムの名を受け継ぐ超高性能機を象徴として用い、戦争に打ち勝っていった歴史を目の当たりにし、改めて“V字アンテナとツインアイ、人の顔“の意義を認識したようである。実際、フリーダムとジャスティスもストライクが発揮したそのような側面を真似てそういう設計がなされた節がある。

「しかし向こうのガンダムは時代ごとの最高性能機だって話だっていうけど……急激に発達したんだな、向こう側のモビルスーツは」

「そうらしいの。最新鋭のガンダムだと、核よりも凄い動力源積んでるらしいわ」


そう。一年戦争中の最高性能機であるRX-78タイプもグリプス戦役の頃には“普及機以下”と言われるまでにモビルスーツという兵器は急激に発展した。そして現在では小型高性能化も極まるという領域に達した。ただ、面白い事にモビルスーツ自体を飛ばすことは向こう側の超技術を以てしても上手くいかず、完全な飛行能力は第5世代モビルスーツや小型モビルスーツの登場を待つ必要があったというのは技術者としては興味を惹かれるらしかった。










――話は戻って、ムウ・ラ・フラガは提供されたコスモタイガーUで出撃した。元々、モビルアーマー及び、戦闘機乗りであった彼はコスモタイガーの戦闘機としての性能が卓越したものかを見抜いていた。


「すげぇなこれは。スロットルを開いたらあっという間にこの速度……しかもこれで巡航速度に達してないとはな。流石は恒星間航行艦に積まれる機体だけのことはある」

ムウはコスモタイガーがあっという間にこの世界のあらゆる兵器が叩き出せない速度に達したのを計器の表示から知り、感嘆した。この速度ならフリーダムらが例え追加装備のミーティアを装備しても追いつくか怪しいほどだ兵器の安全装置を解除、そして敵のアークエンジェルの同型艦へ追い打ちをかけた。

「さて……コイツを試してみるか。パルスレーザー、安全装置解除。行けっ!!」

30ミリパルスレーザー砲である。それを数秒間、斉射する。実弾機銃とはまた違った感触を覚えるが、実体弾と異なり、射程距離に入れば、距離による威力減衰は無く、モビルスーツより余剰出力がある戦闘機では、実体弾の機関砲に代わる主力火器となりつつあるという。フェイルセーフも兼ねているのか、実体弾の機関砲も装備されているのは興味深いが、威力のほどはというと……。



――ドミニオン 艦橋

「敵戦闘機の“機銃掃射”でゴットフリートの二番がぶっ飛びましたぁ〜!!」

兵士が情けない声で艦長のナタル・バジルールに報告する。ひどく狼狽えているようだったが、 コスモタイガーの火力が戦闘機の枠を飛び越えたものだった事に驚くあまり、冷静さを欠いてしまっている。しかもコスモタイガーが“宇宙空間なのに、大気圏内の航空機と同様の動きで旋回した”のだからこれまた驚きであった。

「くっ……我が方のモビルアーマーより遥かに鋭く、しかも宇宙空間でも普通の航空機同様の動きで曲がれる“戦闘機”か……!噂の要塞はどれだけ強力な軍備を持っているのだ…っ」

ルナツーの持つ軍備が自分たちよりも卓越した技術の産物であることをここで味わうハメとなったドミニオンの面々。彼らは改めて、“自分たちはとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったかもしれない”と認識し、艦長であるナタルでさえもが身震いした。







――そして、キラたちの前に現れたV2アサルトバスター。メガビーム・キャノンの砲身が邪魔して、相対的に白兵戦能力は下がっているが、火力に関しては歴代ガンダム中でも有数を誇り、そのパワーは総合的にはあのZZをも軽く凌駕する。野戦装備であったザンスカール帝国戦争の時と違い、正規軍が万全を期して整備したので、その全機能は設計通りに発揮されている他、装甲材のガンダリウムもより軽量の新型へ換装されている。装備も全装備をフル装備の“全部載せ”である。

「キラさん、大丈夫ですか?

「ウッソ君…!?そのガンダムは…?」

キラはV2が色々と武器を装備し、更に装甲を纏った姿で現れたのに若干の驚きを垣間見せる。普通、あのような追加装備を纏うと、動きが多少なりとも落ちるのだが、V2にはそれが殆どない。強いて言えばキャノンの砲身が邪魔そうである。そこが弱点といえる弱点だろう。

「これが火力も防御力も最大のV2アサルトバスターです。今のうちに態勢を立てなおしてください、僕が援護します」

「う、うん。ありがとう」

「行けっ!!」

ウッソは地球連合の三機のGに向けて牽制のスプレービームポッドを放つ。一発一発が並のガンダリウムなら一発で貫通し、撃破可能な威力を誇るビームであるが、その射線軸にいたのが“GAT-X131 カラミティ”であった。スプレービームポッドのビームの直撃を対ビームシールドも兼ねた攻盾システム“ケーファー・ツヴァイ”で受けた。コズミック・イラのこの時点での最新技術で造られた対ビームシールドはこれになんとか耐える。想定以上の高出力だったためか。穴ボコだらけになりながらも原型は保つ。

「やっぱり一撃必殺ってわけにはいかないか……ならば!!」

カラミティの各種ビーム兵器を最小の動きで避けきり、右腕に持たせているメガビームライフルを構える。この武器の威力は歴代ガンダム中でもトップレベルの火力を誇る。直撃すれば大抵のモビルスーツや戦艦を撃破可能なほどである。青い光が銃口に集束し……凄まじい閃光と共にそれは放たれた。

「うわあああっ!!なんなんだよ、コイツ!」

メガビームライフルのビームは敵機の内、“GAT-X370 レイダー”に当たり、左腕をごっそりと消滅させる。連合軍の最新鋭機であるレイダーにはビーム兵器への耐性が通常の金属より高いとされるPS装甲――フェイズシフト装甲――の亜種“トランスフェイズ装甲”は通常装甲の内部にPS装甲を仕込んでいたのだが、それを問答無用とばかりに、ごっそり持って行ったのである。

「す、凄い……あんな火力を普通のモビルスーツのサイズに与えるなんて」

「V2も高い方ですけど、もっと上がいますよ」

「ええっ!?」

「そうです。そのガンダムならコロニークラスの建造物を一撃で破壊できますからね」

「コロニーを一撃で……」

「外見は天使みたいなんですけど、性能は恐ろしいくらいに強力ですからね。見せてあげたいくらいですよ」

V2の性能に驚きぱっなしのキラに、ウッソは歴代最強の火力を誇ると名高い、あるガンダムの存在をキラに示唆した。それに比べればV2アサルトバスターも子供のように可愛く見えてしまうと。“上には上がいる”。キラはその言葉を思い出し、ただただ、頷く事しか出来なかった。





「これで!!」

V2アサルトバスターは更に左腕に構えるメガビームシールドからV字状のビームを発射する。コン・バトラーVで言えばVレーザーに相当するだろう。いささかアニメチックな武器だが、威力は保証済み。敵機に多大な損害を与え、高機動戦闘に移る。ウッソはアサルトバスター状態での白兵戦の弱さは既に身を以てして体験済みなので、白兵戦には応じない形で戦闘を行う。火力による制圧である。メガビームキャノン、メガビームライフルなどの火器を駆使し、敵を近づけさせない。それはウッソの操縦センスが並外れたものであることをキラに示していた。


「はぁぁぁ」

V2アサルトバスターに大鎌を構えて斬りかかる“フォビドゥン”だが、ガンダリウム合金とスーパーセラミック材の複合装甲でできているメガビームシールドが鎌を受け止める。メガビームシールドに食い込んだ刃は動かない。横一文字に斬ろうとしているのだが、運悪く、刃が一番装甲板が厚い箇所に食い込んでしまい、ピクリとも動かない。

「……あ?」

フォビドゥンのパイロットで、地球連合軍の生体CPUと呼ばれる強化人間である“シャニ・アンドラス”は鎌を動かそうと操縦桿を動かしているのだが、機体の腕は“ギギギ…ッ”と言わんばかりに、何かが軋むかのように、震えているのだ。

「そんなモビルスーツで僕の所に来ないでくださいよ、死にたいんですか!?」

V2のジェネレーター出力はミノフスキードライブの恩恵により、より大型の“第4世代モビルスーツの雄”を謳われたZZをも上回る。そのため見かけによらぬパワーを持つ。85.33tの重量があるフォビドゥンを片手で掴んで引き離す事など容易な事だ。鎌の刃をシールドを動かしてへし折ると、蹴りを入れて距離を取り、サーベルを構え直す。
 


――キラも援護しようとフリーダムで追うが、直線的スピードはともかくも、機動性で圧倒的に差があり、同じモビルスーツなのに、動力源が違うだけでこんなにも差が出るものなのだろうかとキラを唸らせた。実際にV2のミノフスキードライブはそれほどの小回りの良さを発揮していた。


「フリーダムでも追いつけないなんて……これがミノフスキードライブってエンジンの……光の翼の力なのか…!?」


――光の翼を発しながら、超絶的な高機動戦闘を展開するV2アサルトバスター。その存在は“ガンダム”の名と威力を十二分に誇示する役割を果たしていた。









――クサナギではカガリ・ユラ・アスハ専用機として、ストライクのコピー兼改良機“ストライクルージュ”の組立が行われていた。OSはアナハイム・エレクトロニクス社製のものが提供されたため、複雑な火器の操作もトリガーを押すだけで可能となった。フレームにはマグネットコーティングが施されているなど、部分的に22世紀末の技術が使われている。重要部分の大半はコズミック・イラ71時点の技術なのだが、OSがアナハイム・エレクトロニクス社製のものになったので、操作性の大幅な改善に成功したのは大きく、I.W.S.P.と呼ばれるストライカーの装着・使用を新米パイロットでも可能とした。これはOS自体が既に残党勢力に至るまで普及しているため、提供しても問題なしと判断されたためである。今はOSと機体のマッチング合わせで、アナハイム・エレクトロニクス社のエンジニア達がコズミック・イラのモビルスーツの挙動などを想定してシミュレーションを開始している。

「OSを載せ替えるだけで操作性が大きく改善するなんて凄いな」

「複雑だった火器管制が大きく改善されてるというのは大きな収穫ね。これならI.W.S.P.を装備させても問題無いわね」

――この時期のアナハイム・エレクトロニクス社は既にZ系の機体である“Sガンダム”の火器管制装制御をオートマチック化する事に成功していたので、I.W.S.P.の火器管制を簡略化する事は容易かった。ただし対艦刀は地球連邦軍側の趣味的な提案と技術提供で、斬艦刀とも言うべき日本刀になってしまったが。

「なんだよあの刀は?」

「向こうさんの提案で用意された日本刀よ。材質も特殊なものだそうだから良く斬れるそうよ」

「つーかなんで日本刀なんだよ」

「向こうさん曰く、“カッコイイからだ!!”ですって」

「なんだよそれ……」

「まぁ、ザフトのジンの高機動型の第二次生産型には日本刀状の剣が装備されたって情報もあるからあながち間違いじゃないわ。問題は動力源よ」

「動力源?」

「電力を食う兵器が多い上にPS装甲装備だもの。通常のバッテリーではすぐに干上がるという試算が出てね……パワーエクステンダーでも大して変わらないって」

それはI.W.S.P.を装備した場合の消費電力量が想定された以上に大きく、パワーエクステンダーを装備してバッテリーを大容量化したとしても稼働時間が総体的に旧来のモビルスーツと同等、もしくはそれ以下になってしまうという事態が試算により明らかになった。これでは本末転倒もいいところである。だが、原子力エンジンが使えないので、エールストライカーを入手するしか無いと思われた。

「……はい。え?向こうさんが核融合炉を提供!?型落ちはわかってます」

それは正確にはミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉という。西暦2199年の時点では小型高出力化が推し進められた第二世代型が主力となっており、それを更に代換しうる動力機関であるミノフスキードライブが提案され、V2に搭載されている。そのため核融合反応炉は普遍化されきった技術と言える。さすがに現行モデルではなく、1世代前のモデルが与えられた。ネモやネロに搭載されていた世代のモデルである所に連邦軍のしたたかさが伺える。つまり、“高性能ではないが、低性能でもなく、そこそこ”という微妙なボーダーラインを保っている。フリーダムとジャスティス用の核融合炉の提供も検討されてはいるとの事。ストライクルージュは核融合炉搭載機のテストケースとして生まれろうとしていた。

――これが後に核融合炉を再現しようと、ラクス・クラインの支持母体である“クライン派”がレーザー核融合炉の開発に躍起となるきっかけとなる出来事であった。しかし独力での核融合炉開発は難航を極め、結局、ザフトが開発に成功したテクノロジーを流用したハイブリッドエンジンを造るに留まったというのが明らかになるのは後々のシン・アスカとルナマリア・ホークへの地球連邦軍の尋問で明らかになったとか。








――余談 西暦2200年 日本 捕虜収容所

「本当、どうしてこうなっちゃったのかしら」

ルナマリア・ホークはハワイ沖海戦と同時期に行われたアッツ島攻防戦の折に、ドサクサ紛れで捕虜となって日本に身柄を送られていた。当然ながら乗っていたコア・スプレンダーは接収され、根掘り葉掘り聞かれた。収容所ではある程度の自由は与えられ、本などの書籍、新聞などは読めたので、“外”の情報は得られている。そこから得られた情報の中には、ボアズ攻略戦〜第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦に至る流れで確認され、当時の生き残り兵らを震撼させたという“光の翼”を持つガンダムの真実も含まれる。

――新聞や本とかから考えるに、ここって“別の世界、いわゆる“パラレルワールド”って奴なのよね。大昔のSFとかで見たネタだけど、本当にあったなんて……。それに噂のガンダムってこの世界の産物だったのね。

「……シンも落とされたっていうけど、大丈夫かしら?シンって反抗的だから」

ルナマリアは同じ戦いで共に撃墜されたシン・アスカの事に思いを馳せる。ルナマリアはシンのすぐに激昂しやすい性格のことを心配していた。……が、後日、彼女のもとに送られてきた、シンからの手紙で現況が明らかになった。当のシン自身、そういった側面は鳴りを潜め、“仲間や大事なモノを守れず、あまつさえデスティニーを落とされた”事が多大な精神的ショックを彼に与え、すっかり意気消沈してしまっていると。

「確かにあの時からシンは精神的に不安定になってたけど……今回の事がとどめを刺しちゃったんだわ……」

彼女はシンがあの地球連合軍のエクステンデッドだった少女“ステラ・ルーシェ”を守れなかった時から情緒不安定さを見せ始めていた事を思い出す。それがシンの精神のバランスを崩してしまっていたのだと、今になって理解したのだ。

「……せめてあの子――ステラ――が生きてればシンも救われたのに……天涯孤独だったからなぁ、シン。神も仏もないってこういう事ね」

ルナマリアはシンの心の支えとなっていた、もしくはなるはずであったモノが無情にも全て脆くも崩れ去っていたシンの境遇を憐れんだ。奇しくもそれは同じような運命の果てに最終的に精神崩壊に至ってしまったカミーユ・ビダンを思わせる境遇であった。が、シンもルナマリアもこの時はまだ知らない。シンにとっての最後の精神的支柱とも言えるステラ・ルーシェが、シンにとっての彼女とは遺伝子学的には別人の形でだが、この世界に来ていて、“生存している”事を。それがシンに神が与えた最後の光芒だとシン自身が理解することはここからしばしの時を必要としていた。そしてルナマリアとシンが再会するのにも、ここから更に二年の時を必要とした……。



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