――ネオ・ジオン軍は新型MSの整備を急いでいた。地球連邦軍が更なる新型機であるジェイブスへ更新し始めたからだ。ジェイブスの見かけはジェムズガンの大型化だが、豊富なオプション装備と相なって、ジェムズガンとジャベリンを遥かに凌ぐ性能を持つからだ。更に、暗黒星団帝国の襲来で、彼らも自衛の必要が生じたためでもあり、台所事情が厳しい残党軍にはお涙ちょうだいな状況だった。

「ギラ・ズールの配備状況は?」

「現在、旧公国軍のエースが配属されている部隊を中心に配備を進めていますが、数が足りません」

「一線級に使える旧型はどこまでだ?」

「グリプス戦役の時のマラサイまでです。それ以前になると、さすがに一線使用には耐えられません」

「一年戦争の時の旧型では、ジェガンにも勝てんからな」

そう。型落ちが進んだMSと最新MSでは戦力差が生じてしまう。旧公国軍残党の多くは技量で性能差を埋めていたが、連邦軍機の高性能化の進展はそれを無に帰す勢いであった。そこでシャアはギラ・ズールやギラ・ドーガを旧式機の代替として配備しつつ、基礎ポテンシャルが高い機体の近代化も進めていた。マラサイやゲルググJ、高機動型ゲルググなどである。新機種が確保できない間の代替措置であったが、意外な効果を挙げた。ジオン軍の高い技量もあり、暗黒星団帝国もさすがにネオ・ジオンの牙城であるスペースコロニーまでは手を出すのを断念したのである。


「暗黒星団帝国はどうやら地球の中枢部を制圧するのに全力を傾けていたようで、地上の治安の維持で精一杯の模様です」

「宇宙の軌道上にある我々まで気が回らんという事か……。まあ、奴らのおかげで我々の再建は進みつつある。艦艇数も旧公国軍に近い規模に拡大できたのが嬉しいところだ」

「波動エンジン艦も得られましたからね」

「鹵獲したものだが、これでひとまず軍備は安心できる規模になった。国内の安定を急がなくてはな」

サイド1のスウィート・ウォーター。ここは今やネオ・ジオンの本拠地であり、事実上のサイド1の首都となったコロニーである。ネオ・ジオンの支配下になり、コロニーの住民の多くは過去の戦争の難民と、軍縮の課程で失業した軍人であり、彼らは地球連邦に強い不満を持っていた。それがアクシズ落下を阻止され、衰退しつつあったネオ・ジオンの再建を推し進める原動力となった。今では建造ドックを自主建造し、一定の艦艇剣道能力を得たネオ・ジオン。シャアはその国家元首としての役割も兼務しており、多忙であった。彼が国家元首としては異例なほど若い(30代半ば)からこそ可能な芸当であった。シャアは自分がキャスバル・レム・ダイクンである故の威光を活用しており、スペースコロニーには親ネオ・ジオン派のコミュニティが多い。更に一時期の軍縮政策で職を失った元軍人らの援助もあり、ネオ・ジオンの国家運営は軌道に乗り始めていた。奇しくも、連邦の平和主義政策で軍を追われた者達が反連邦の急先鋒になるという皮肉が、ネオ・ジオンの再興に繋がったのである。ネオ・ジオンはジオン共和国とは別に『ジオンの名を持つ』事となっているが、傀儡政権と言える共和国と違って高い支持率を誇っている。それはキャスバル・レム・ダイクンを抱くというジオンとしての『正統性』がそうさせているのであった。

「大佐、アナハイムよりクシャトリヤの最終調整が終わったとの連絡が来ました」

「ほう…。確かクィン・マンサの後継機だったな?」

「ハッ。カメラアイをモノアイにしてあるなどの違いはありますが、概ねクィン・マンサのダウンサイジングです」

「パイロットは確保できたのか?」

「プルシリーズの生き残りの個体が発見されたようです。パイロットに使うにはちょうどいいかと」

「ふむ。グレミー・トトの遺産、か……何番目の個体だ?」

「12番目です。つまり『プルトゥエルブ』ですが、肉体年齢は相応に成長しています。名も『マリーダ・クルス』と名乗ってます」

「確かジンネマン大尉が面倒を見ていたな?」

「はい」

「よし、面会してみよう。ナナイ、車を用意してくれ」

「6分もあれば」

シャアは部下の人心掌握に以前より気を使っていた。ギュネイ・ガスなどに『大佐はロリコン』と陰口を叩かれていた事への対応策で、一年戦争の時のような『颯爽とした』イメージを取り戻そうと努力を払っていた。そのようなところは彼の俗っぽい面なのかもしれない。マリーダ・クルスの写真をナナイに見せてもらう。連邦に奔走したエルピー・プルを成長させたような容姿をしているのが伺える。

「ほう。この娘の年齢は外見上は10代後半か?」

「はい。エルピー・プルと異なり成長速度は通常通りの模様です」

「プルの場合は肉体の成長を意図的に遅らせる措置が取られていたそうだな?」

「グレミーの趣味でしょう。どんなに遺伝子段階で強化しようとも、成熟していない肉体では『ユーマ・ライトニング』の例もありまして、限界があります。プルシリーズはその心配を無くしたそうですが」


ナナイが口にしたユーマ・ライトニングとは、ジオン公国軍の第一世代強化人間の一人であった男の名だ。人材不足に悩んでいたジオン公国軍は子供、老人、女性などを問わず『エースパイロット』級の人材を欲した。折しもララア・スンによってニュータイプの戦闘力が実証された時期であったのも重なり、第一世代強化人間として強化を受けた。当時、12、3歳ほどであった彼は後の名だたる強化人間達と異なるアプローチで強化されており、戦闘継続の暗示がされている以外は、強化以前の子供らしさを色濃く残しているという難点はあるが、精神的に安定していた。ネオ・ジオンはこの旧軍の行った強化アプローチの再現に躍起になっていた。それはかつてのフォウ・ムラサメ、ロザミア・バダムなどの名だたる強化人間らは薬物使用の暗示や記憶の改竄が原因で精神的不安定を招き、いずれもマシンの真価を発揮せぬままに悲劇的最期を遂げたという事実を鑑みての施策だった。











――そのマリーダ・クルスの『姉』に当たるエルピー・プルは妹と違い、11歳当時の容姿を概ね維持したまま思春期を迎えていた。外見上の年齢は13歳。公称年齢もそのようにされている。だが、実際の年齢は+2歳ほどの誤差が生じていた。これはプルはジュドーと共に宇宙でジャンク屋を営んでいた時期がある故に、通常より肉体の加齢速度が遅い上に、外宇宙でジュドーの手伝いをしていたからである。ネオ・ジオンに妹の生き残りの一人が加わっている事は感づいており、ジュドーにその旨を伝えていた。

「ネオ・ジオンはクイン・マンサの後継機を動かせるために、あたしの妹の生き残りを使うかもしれないよ、ジュドー」

「お前の妹?そうか、確かあの時にキャラに落とされずにすんだ個体が何機か居たな……」

「うん。プルツーの下になると、能力にムラが出て、クイン・マンサを動かせるニュータイプ能力を持てなかった個体が複数出るようになったって記録が残ってた。見ると、プルツーに次ぐ能力を持ってた12番めの子が未帰還には終わったけど、消息不明とされてる。あたしが感じてる感覚は多分、その子よ」

「どうすんだ、プル」

「戦うしかないね……。私達は強い暗示がグレミーにかけられていた。その暗示さえ解けてればいいんだけど……。腕自体はあたしが上だよ。クイン・マンサよりZZのほうが操縦難度は上だしね」

――プルはプルツーと同等の戦闘能力を持つ。ネオ・ジオンの歴代ニュータイプとしてはハマーン・カーンに次ぐ。クイン・マンサは乗り手のニュータイプ能力により、その戦闘能力に誤差が生じる。最高の状態ならZZやνガンダムと対等に戦えるが、パイロットの能力が低ければ真価を発揮できなかった。これは第二次ネオ・ジオン戦争前にクイン・マンサが目撃され、撃破されているとの未確認情報がその由来だが、あながち間違いではない。プルの能力は実戦経験を積んだことで、ロンド・ベルの中でもトップ30に入る(アムロを始めとして、プルよりも技量に優れる者が多いため)ので、実戦経験に劣る自身のクローンに勝てる自信があるのだ。

「キャラの最期はタイムテレビで見たけどさ、あの弾幕じゃ怖気づくのも無理ない。統制取ってた二機の機体がやられた途端に落とされだして、離脱できたのは数機のみだもんな」

「多分、プルスリーとプルフォーだよ。グレミーが残してた書類を見たけど、プルツーよりは落ちるけど、戦闘能力は他の妹たちよりは高かった個体だって。私を除くと、直接の妹のプルツーが飛び抜けて優秀だったから」

プルは『オリジナル』である自分を勘定に入れない上で、プルツーを除く妹たちをこう評した。プルツーは双子の妹ともされるからだ。明確にクローンと判明していた『プルスリー』以後の個体の生成数は、正確な数は不明であるが、トゥエルブまでの個体がネオ・ジオン戦争に駆り出され、ほぼ壊滅している。生き残りは少数。トゥエルブ(マリーダ)を含めてもである。その内の二人は、カミーユとジュドーが引き取り、軍とは無縁の隠棲生活を送らせているので、残るは……。

「クワトロ大尉はどの個体を手中に収めたんだろう?」

「多分、トゥエルブじゃないかな……。セブンとファイブは隠棲生活してるし」

プルシリーズの内、数人はカミーユやジュドーが保護し、(ジュドーが脱出ポッドを拾い、一人はカミーユが引き取った)極秘に療養生活を送らせているので、生き残った個体の中で戦後の消息が不明なトゥエルブをシャアが手中に収めていると予見するプル。それは見事的中していた。プルトゥエルブは、名をマリーダ・クルスと改め、ネオ・ジオン軍中尉として生活していたのだから……。

「んで、どうするのジュドー」

「横須賀に向かおう。なあに、こっちはガンダムだ。落とされないさ」

ジュドーはFAZZガンダム、プルは『MSZ-007 レイピアに搭乗していた』。レイピアはZガンダムの派生機の一つで、リック・ディアスに関わった科学者が設計した機体だ。Zプラスを相当意識した機体で、兵装に五つのバリエーションを持ち、リック・ディアス寄りの重厚なフォルムが特徴である。この時の兵装はロングレンジビーム・ライフルを持つ狙撃仕様で、ジムスナイパーUの持っていたロングレンジビーム・ライフルを小型化して発展させたものを携行していた。佐世保にて、式典でのデモ飛行のためのレストア作業を終えた後、その基地が放棄されて輸送機に放置されていたのを、プルが発見して起動させたのだ。

「あそこの検問所が邪魔だ。建物ごとぶっ飛ばせ」

「りょ〜かい!」

レイピアが狙撃態勢に入る。一年戦争中のモノと異なって、コクピット内で射撃用の照準スコープを操作する必要が無くなっているので、この時代になると、コクピット内のモニターや計器の表示に従って撃てばよかった。だが、熟練者らはマニュアル操作で照準の微調整を行っており、プルもそれを行った。コンピュータの推奨角度よりも鋭い角度にし、暗黒星団帝国の防御ミラー(暗黒星団帝国はショックカノンに代表される兵器を防御せんとあの手この手で技術を開発しており、ビームを偏向させる防御ミラーも開発していた)による偏向を考慮に入れて射撃を行った。ビームは反射衛星砲の要領でミラーで跳ね返って偏向していき、最後に検問所の建物に命中した。

「おっ、出てきた出てきた。後は俺がやる。プルはウェイブライダーになって離脱してろ」

「Ok」

プルが機体を変形させて離脱すると、ジュドーはZZを突っ込ませた。このような戦法こそZZの真骨頂。惜しみなく武器を叩き込む。フルアーマー形態なので、余計に火力が高かった。

「ミサイル、連続発射!」

各部に収納されるミサイルを全弾発射し、敵の掃討戦車群を擱坐させる。次いで、ダブルキャノンを放ち、歩兵を蹴散らす。

「邪魔だ!どけぇい!」

続いて、ハイパービームサーベルでZZ以上の巨躯の掃討三脚戦車を斬り裂く。そして、真骨頂がこれ。

「ハイパーメガカノン!ぶっ飛べ!」

右腕で担いでいるハイパーメガカノンを撃つ。目標は辺りの敵機。眩いばかりの閃光が走り、射線上の全てを破壊する。一点突破である。そこに通信が入る。出ると、懐かしい声だった。それは……

「ん?何だ、ビーチャかよ。脅かすなよ」

「ははは、すまねえな。今、アナハイムから連絡あってさ。ユニコーンガンダムの凍結していた三号機の処遇に困ってたらしくて、そっちに回すらしいぞ」

「何、フェネクスを?アレって確かティターンズ残党が建造してたやつだよな?」

「ああ。プリベンターが援助用に贈ろうとしていた輸送船から接収して、宙に浮いてた奴だ。改修が済んでたようだ」

地球連邦軍内部の勢力争いの過程で政治的に利用されたユニコーンガンダム。その三号機の名を『フェネクス』と言った。悪魔の不死鳥に由来する名を持つガンダムだ。ティターンズ残党がアレクセイらに援助物資として用意していたが、辛うじてプリベンターが接収に成功し、以後は危険性から、凍結処分がされていた。それが解除され、実戦テストも兼ねてロンド・ベルへ送られる事が、ジュドーの旧友で、シャングリラチルドレンの一人であったビーチャ・オーレグの口から判明した。フェネクスで一番のネックだったのは、強化人間を自然に生み出すシステム『ナイトロ』の存在で、アナハイム内の良識派によってシステムは取り外され、代わりにアームド・アーマーが強化されている。カタログスペックを見れば十分に最高レベルの戦闘能力を備えた機体である。

「ナイトロとかいう物騒なシステムは外したんだろうな?ものすご〜く物騒だぞ、あれ」

「外したってさ。んじゃ、これからネェル・アーガマを届けに横須賀に行くから切るぞ」

「何日で来れる?」

「敵艦隊を躱す必要もあるから、3、4日は見積もってくれよな」

「わかった」

ジュドーは今の内容を暗号通信で横須賀のパルチザンへ通達し、ネェル・アーガマが手に入るということにパルチザンは湧いた。

――パルチザン移動本部

「ネェル・アーガマか。そうか、その手があったな」

「将軍、どういうことでしょうか」

「あれはペガサス級より火力に優れる。大規模近代化を行っていて、ロンド・ベルの第二群に配備していたんだが、修理のために戦列からは離れていたのだ。これでひとまずMSの受け入れ態勢は強化される」

レビルはパルチザンの保有MS数はだいぶ多くなってはきているが、形式も生産形態もバラバラな雑多な状態なのに悩んでいた。そこで試作機の受け入れが前提に設計されていたネェル・アーガマが回ってくるというのは、渡りに船であったので、笑みを浮かべている。

「とりあえず、ネェル・アーガマが来たらガンダムタイプを一部移す。あれらはかさばるからね」

ガンダムタイプは専用武装が多いので、ウェポンラックを専有してしまう。そこでガンダムタイプはネェル・アーガマに移そうという案が浮上したのだ。武子も母艦の艦載機機種の統一性を志向していたので、役割分担を兼ねて同意。翌日のジュドー達の合流を以て、MS隊の再編成が行われたという。



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