――地球連邦軍のパルチザンの内、外宇宙へ派遣された組は、宇宙刑事ギャバンのドルギランのおかげもあり、宇宙戦艦ヤマトと合流し、そこでISの外宇宙運用のテストが行われていた。

「ISの武装の一部をビーム兵器に?」

「そうだ。平均威力はずっと上だからな。それに実弾の実戦データはもう取り尽くしたからな」

ISの外宇宙運用に伴って、武装の一部がビーム兵器に変えられる機体は生じた。シャルのリヴァイブだ。のび太と共に行動していたので、そのまま外宇宙組に加えられたのだ。

「ビーム兵器かぁ。リヴァイブだと、ビームマグナムは撃てませんよ?フレームが軋んだ事ありますし」

「普通のビームライフルなら問題ないだろ?バスターランチャーは箒の赤椿じゃないと、オーバーロードで強制解約されるから、お前のリヴァイブには装備できんぞ」

「それは構いません。でも、どこから流れてきたんですか?バスターランチャーなんて。ええと、なんとかワールドの技術ですよね」

「それは私もよく知らない。議長のツテで得たそうだが、あの世界に友人でもいるのかねぇ?」

黒江もその事はあまり知らされていない。『ゴップのツテで』ということしか開示されてないからである。しかし、完全に作動する事から、それなりの筋からの物なのは確かであるが。

「一応、今の軍でテストしてる火器はラックにあるから、適当に選んどけ」

「了解」

シャルはとりあえず、ヤマトの格納庫のラックに置かれている火器をIS展開状態で確認する。

「ジェガン用のダウンサイジングのショートバレルライフル、リゼル用のロングライフル、初代ガンダムのライフルの改良型か……。MSのダウンサイジング化が多いな。まぁ、使いやすいからだろうけど」

手に持ってみると、相応にダウンサイジングがなされているらしく、ISであれば容易に取り回せる。とりあえず、初代ガンダムの使ったモデルと、ジェガン用のものをピックアップしてみる。

「へえ。初代ガンダムのモデルだけど、微妙にロングバレル化がされてる。狙撃仕様かな?」

そのライフルは正確に言えば、一年戦争後に初代ガンダムのビームライフルの改良型として検討されていたロングレンジビームライフルの再検討モデルだった。長距離用として検討されていたが、使用機が開発されなかったために『ペーパープラン』であった。しかし、ヌーベルジムVの延命計画が陸軍によって挙げられた時に、その火器の再検討モデルとされたのだ。(宇宙軍はEパック式ライフルが普及しているが、陸軍は設備の更新や機材の古さの都合上、Eパックは完全に普及していない故、本体充填式でも良かった)シャルはそれを選び、実弾兵器を外した領域に入れ直す形でそれらを加える。接近戦用にビームサーベルも加える。

「OKです。箒は聖衣あるんだし、ISを使わなくてもいいんじゃ?」

「それもそうなんだが、ISも聖衣に近くなったから、その調査も兼ねてるんだ。アトミックサンダーボルトやギャラクシアンエクスプロージョンの動きに追従できるか、とか」

「ん?ギャラクシアンエクスプロージョンって、双子座の技だよ?なんで?」

「体が覚えていたらしくてな。食らった時の感触を、な。それで小宇宙を爆発させて、その時の奔流をぶつけるのがギャラクシアンエクスプロージョンの本質であることに気づいたんだ。それでドルギランで航行してる間に特訓したんだ」

箒が赤椿の展開状態で現れ、雑談に入る。赤椿はドルギランのコンピュータ分析で、アーマーの構成部材がオリハルコンとなっているのがわかった。聖衣化した証か、背部ウイングの形状が射手座の黄金聖衣と同じく、天使の翼を思わせる装飾的なデザインとなっていて、アーマー部が増加している。

「それでどうなの、調子は」

「テスト中に敵の戦艦を5隻ほど、ギャラクシアンエクスプロージョンで塵にしてきた。欠伸が出るくらいに簡単だった」

箒は今や、光速以上で活動ができる。ドラえもんの食用宇宙服で、ISがマシントラブルで解除されても行動可能であるのも大きいが、覚えたてのギャラクシアンエクスプロージョンで暗黒星団帝国艦を塵にしたと話す。

「前口上はやったの?」

「当然だ。技を初めて撃つ前には前口上が必要だからな。『聞くがいい。銀河の星々が砕け散る音を……!』って」

「セシリアが聞いたら、やりたがりそうだね。そういうの」

「私達の世界のアニメの続編だと、アイツに似た声の黄金聖闘士いたな、そう言えば。今となると、洒落にならんが」

「そうだね。ん?気がついたんだけど、今、聖闘士がここに三人もいるって事じゃない?ほら、箒と綾香さんに、今はフェイトの体に宿ってる『アイオリアさん』」

「あの人は私や綾香さんなんて、及びもつかない『黄金の獅子』だよ。聖闘士になるべき定めで、そのように生きた人だからな」

「でも、箒やアイオリアさんはなんとなくわかるんだけど、なんで綾香さんは聖闘士に?ウィッチ(魔女)なら、敢えてなる必要なかったんじゃ?」

「ああ、それはあの人の辛い体験が理由なんだ」

箒はシャルに語る。黒江が未来に来てから、抱え込んでいたモノを。一見して、自由奔放そうに振る舞う黒江が『怯え、同時に嫌悪する』何かを。


――黒江が仮面ライダー三号に重傷を負わされてから六時間くらい後

(嫌だ!私はお前らを守れるくらいの力はまだ……!離せ、離せ……うわああああああぁあああっ――!!)

「うわあああ―――ッ!?」

黒江は叫びながら目が覚めた。悲痛な叫びである。目からは涙が溢れ、冷や汗をべっとりとかいている。同時に、痛みが走る。それが収まり、首を巡らせる。すると、血相を変えた智子がいた。

「綾香、綾香、大丈夫!?」

「あ、穴拭……!?……そ、そうか、ここは……医務室か………」

安心した顔に戻る黒江だが、智子は、あの黒江が尋常でないほどにうなされ、『私はまだお前らを守れるくらいの……」とうめいたのを間近で見ており、手を握りしめることしかできなかった。

「どうしたの!?貴方が、うわ言言うまでうなされるなんて……」

「そ、そうか……また『見ちまった』のか……あの夢を。お前やヒガシの前では見せたくなかったのに……。ハハ…、この黒江綾香ともあろう者がなんてザマだよ……、とんだ醜態だぜ…」

自嘲するかのように呟く。普段は闘争心の塊のような性格の黒江がここまで『弱さ』を見せたのを、智子はいまだかつて経験していなかった。

「私達にさえ見せたくなかったって、どういうことなの、綾香……説明して。何が貴方の身にあったのよ?」

「あれはまだ、お前らと再会する前、505に教官として赴任していた頃の話だ……。当時、私が教育していた教え子達は、磨けば光る素材だった。半年くらい教官して、練度も上がってきていた。私も本国から飛行審査部に戻れと辞令が来て、帰国の準備をしてた時だった」

黒江は語る。自身が持ってしまったトラウマを。それが今の自分を突き動かす原動力である事も。

――オラーシャ帝国陸軍を歯牙にもかけずに進撃する、ティターンズのマラサイ。基地に侵入し、応戦する陸戦ウィッチや戦車の抵抗を物ともせずに『捻り潰していく』悪夢のような光景。伝説の巨人が現在に蘇ったかのような感覚にさえ囚われる基地の人員達。

「私はすぐに出る決意を固めた。衰えていたけど、錬成途上の若い連中よりは戦える自信はあったし、雲鷹があったからな。だけど、部下だった『犬房由乃』に止められてな……」

『は、離せ、犬房!!私はまだお前らを守れるくらいの力は……!』

『教官はもう上がりを向かえてるはずです。シールド強度だって……。なあに、あんな奴ら、すぐに落としてやりますよ』

『ぐっ……!』

『今までありがとうございました、黒江教官』

『い、犬房……、やめ……お前の練度じゃ!』

『また、どこかでお会いしましょう、教官』

『犬房、犬房ぁ―――!』

――脇に一発入れられた隙に、アイツは行っちまった……。最後に笑いかけた顔が、目に焼き付いてる。私はあいつの背中を見送ることしかできなかった……。

『大尉、ここは危険です!早く避難を!』

『待て、待ってくれ!犬房を……!』

『曹長なら大丈夫です!さあ、早く!』

『嫌だ、嫌だ!離せ、離してくれ!犬房、犬房ぁ―――ッ!』

それが、黒江が犬房由乃を見た最後の瞬間であった。従卒に連行され、ジープに乗せられる黒江。従卒は黒江を逃し、果敢に応戦するが、アサルトライフルの銃声と共に蜂の巣にされて倒れる。それをバックミラー越しに目撃してしまう。

「う、うわああああああぁあああっ――!!」

黒江は叫んだ。従卒も守れない自分の無力。教え子を無為に死なせた悔恨。そして、宿舎までもが炎に包まれ、インカムに悲鳴が入る。黒江はこの瞬間、200年を越える生涯でたった一度の出来事であるが、完全な絶望に駆られた。この時の光景がこれ以上ないほどに残酷だったからだ。教え子や兵士らの悲痛な悲鳴。それにどうしようもない自分。この時、自分の無力さをまざまざと見せつけられた事が黒江の心に傷を深く刻み、『何かに無力である』事を激しく嫌うようになったのだ。


「……って訳だ。私はこの出来事で、自分が無力である事が情けなく思った。昔は持て囃された自分が何もできない。何も……。それで夢を見るとうなされるようになっちまったんだ。それで、『力を取り戻した』後は『強くあろう』とした……。だけど、このザマだった……フラッシュバックしちまったんだろうな。お前やヒガシの前じゃ、『弱音を吐く』とこは見せたくなかったってのに……ちくしょう」

黒江の声はいつになく弱々しかった。友人達の前では、無理にでも『強くあろうとしていた』のが分かる。未来世界で様々な武術に手を出したのは、『強くなりたい』、『もう大事な人達を失って泣きたくないから』という、心の強さと弱さが同居した理由だったのだ。

「綾香、泣きたいのなら、泣けばいい。思い切りね。その涙は次への糧にすればいい。教え子達もあなたを責めたりはしないわ。あなたがやってきた事は間違ってない。いつも私たちを引っ張ってきたじゃない……。いつも何者にも屈しなかった。それがあなたじゃないの」

「あ、あなぶきぃ……ああっ……」

智子はこの時、黒江が自分の前で大粒の涙を流すのを初めて見た。今までは強くあろうとするあまりに虚勢を張っていたのだろう。それを取り払われ、素の姿を晒した。黒江もやはり歳相応の弱さを持っていたのだ。それを知られたくない側面もあって、『1943年以前』と振る舞いを変えたのがここで明らかとなった。重傷の身ながらも、嗚咽混じりに泣く黒江を智子は優しく介抱する。この時の涙が、黒江が智子に初めて見せた、『一人の人間』としての素顔だったのかもしれない。



「と、いう訳だ。私も智子さんから聞いたんだが、あの人はそれ以来、『弱さ』を人前で晒すのを嫌っているんだ。だから、『強くあろう』として、武術に色々と手を出したんだろう」

「どうしようもない強大な力に、大事な物を理不尽に奪われたから、それに対抗できる力を求めたんだろうね。ライダー三号にやられた事で封印したはずのトラウマが蘇って、それを振り払うために聖闘士になったのかも」

「だろうな。話を聞くと、その教え子が自分を『置いて行った』ように感じてるところもあるし」

この時、黒江を含めた彼女らは知らなかったが、黒江の教え子である犬房由乃は、無事に保護されていたのだ。発見したのは、森下信衛大佐(第5代戦艦大和艦長)の配下として行動していた艦娘『川内』であった。ツーサイドアップという特徴的な容姿を持ち、マフラーと綱手袋など、くノ一を思わせる服装である故か、忍者と言っても差し支えない身体能力を誇っており、ティターンズの捕虜収容所から犬房を救出したのだ。これは扶桑軍と現地駐留の連邦軍が主に艦娘とスーパー戦隊を使って実行した『ク號作戦』(鞍馬天狗のくから取ったとの事)の一環であった。黒江へその報が伝えられるのは、川内が追撃部隊を撃沈し、本国へ帰還してからなので、ここから随分後の話となる。



――ヤマトはこの時、太陽系を離れて、シリウスに近づきつつあった。ヤマトには、連邦軍と連合軍との連絡将校として、艦娘が乗り込んでいた。その艦娘は川内の妹の一人で、次妹に当たる神通だった。緑色の大きめのリボンをし、武士を思わせる佇まいの風貌で、ノーフリーフ姿で、「コロンバンガラ島沖海戦」での獅子奮迅振りが反映された姿となっている。

「古代艦長代理、まもなくシリウス空域です」

「よし、索敵班は各機材を駆使し、周囲をサーチしろ。偵察機は第7艦隊を発見したか?」

「こちら山本。B空域には第7艦隊の姿は見えず」

「こちら加藤。C空域に味方戦艦を発見。被弾あり。通信設備がやられている模様。接触を試みます」

「了解した。接触に成功ししだい、通信されたし」

「了解」

ヤマトはレーダー要員の森雪が不在であり、臨時で古代守とスターシャの娘であり、古代の姪であるサーシャがレーダー要員に配置されていた。サーシャは真田が育てていた。イスカンダル人は赤子から青年までの成長速度が地球人より遥かに早く、生まれて数年で地球人で14歳相当にまで成長する(知能も。以後は逆に老化が遅くなる)。公には、真田は自分の姪としようかと守に言ったが、守は『お前の姉さんはとっくの昔に亡くなっているから、すぐにバレるぞ』と言い、古代守の娘であり、進の姪である素性を公表したほうがいいと判断。皆からはサーシャと呼ばれていた。

「神通君、君はハライタで寝込んだ南部の代わりに砲術長席に座ってくれ。君ならヤマトの戦闘システムもすぐに把握できるだろう」

「分かりました」

この日、副長の南部康夫はヤマト亭のスペシャルランチの食べ過ぎで腹を壊し、医務室で寝込んでいた。その為、窮した古代は神通を座らせた。神通は艦娘としての特性もあり、座って数秒ほどでヤマトの全火器管制を掌握してみせる。

「火器管制システム、オールクリア。いつでも対応できます」

「よし。敵艦隊を発見しだい、戦闘に突入する。第7艦隊はこの近くだ。総員、戦闘配置で待機!僚艦にも打電だ」

数分後、加藤四郎から通信が入る。第7艦隊は敵の通信妨害で孤立している事、敵の波状攻撃に苦戦していることが伝えられる。ヤマトはドルギランや連邦軍の他艦を率い、シリウス星域へ突入し、第7艦隊の救援に赴いた。


――戦闘は意外なことに、ヤマトやドルギランなどによる艦隊戦の様相で始まった。

「敵水雷戦隊、距離35000!」

「砲雷撃で潰すぞ!第一、第二主砲、第一副砲、艦首ミサイル、用意!」

古代の号令に従い、砲塔が動き、と艦首発射管にミサイルが装填される。このような戦いは神通の本領と言える。瞬時に把握したヤマトの武器のスペック値から、最適な斉射タイミングを具申する。

「艦長代理、この距離では敵を逃がします。十分に引き付けてからの攻撃が最適だと存じます」

「ふむ。どのくらいがいい?」

「距離は今より10000ほど接近した、24000。そこなら雷撃から小型艦が逃げられる危険性は減り、ワープスピードに加速される前に叩けます。」

「よし、それで行こう。島、加速だ。各砲塔、聞いての通りだ。距離24000で射撃だ。雷撃とタイミングを合わせろ。僚艦は本艦の援護を」

「魚雷の発射タイミングはこちらで図ります。各砲塔の皆さんは、くれぐれも発射タイミングを見誤わないようにお願いします」

ヤマト艦隊は突撃を敢行する。艦載機を温存し、前衛と思われる水雷戦隊に戦いを挑む。銀河連邦警察=地球連邦軍の連合艦隊は、ここに連邦軍第7艦隊の救援のための戦闘を開始した。艦娘の特性を活かし、ヤマトの戦闘システムを使いこなす神通。彼女はかつての戦友の後身とも言える宇宙戦艦に乗り込み、その伝説の一端を担う。後に姉の川内からは羨望され、妹の那珂から嫉妬される(目立ったので)が、それは別の話。

『第一、第二主砲、第一副砲、艦首ミサイル、斉射!てぇ―!』

古代の号令に、神通の復唱が被る。この時、神通は第二水雷戦隊旗艦であった自らを想い、微笑んだという。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.