――地球連邦軍は、暗黒星団帝国相手にパルチザン化した後、兵器調達の調査のため、23世紀では閉鎖された旧・陸自の駐屯地の地下を探っていたところ……。

「おお、統合戦争の時に完成していたのか、本当に……スーパーX」

陸上自衛隊が統合戦争の初期段階の頃、核戦争に備えて、極秘裏に建造していた『スーパーX』と呼ばれたそれは、統合戦争初期段階の頃の総理大臣が穏健派であった都合上、軍事バランスの崩壊を危惧し、投入を避けたために現存していた機体の一つだった。フォルムが某怪獣映画登場の兵器そのままであるため、当時は『ゴ○ラとでも戦うつもりか?』とも揶揄されたという。

「ん?隣の有翼V/STOL機は?」

「3代目のスーパーXVだ。二代目は、当然のことだけど、ゴ○ラ用の装備がない状態で作ったから、平凡だったそうだ。なので、すぐに三代目になったそうな」

―某怪獣王との戦闘は生起する事がないため一部の仕様と経緯は映画と異なるが、ほぼ同じ物が造られていたのである。統合戦争時には、現有のそれと同等の反応兵器が実用化され始めており、その対策として、過去の原子力事故の教訓もあり、核反応を抑制する元素の弾頭を積み込んでの開発が進められた。だが、統合戦争で実際に使われた記録は殆どない。運用費や維持費を理由に、当時の野党勢力が批判したためだ。だが、統合戦争中の旧式原子力発電所が破壊された際の核反応抑制に活躍したとされる。

「装甲は当時の学園都市から得られた技術で精錬された耐熱合金、冷凍レーザー砲など、か。当時の日本は原子力事故を恐れてたんだな」

「怪獣の襲来もないわけじゃなかったしな。ドラゴノザウルスの同族とかが襲った記録が発見されてる。アメリカが荒れた要因の一つも、ハリウッド版のアレが暴れたからだって話もある」

「いたのか?ハリウッド版」

「最初のあの魚食うあれな。米軍、それで大型兵器に傾倒し始めたって話もある。ティラノサウルス系の突然変異体だったそうだが」

彼らは、統合戦争当時の自衛隊の書類を発掘していた。連邦軍が公的に有する記録は数十%ほどが解隊騒ぎの際に破棄されており、そのため、失われた記録も莫大である。そのため、解隊騒ぎの収拾の際には、かなり軍部と政権高官が揉めたとの事。軍部としては、多くの軍人がネオ・ジオンなどに流出し、その復興の一助となってしまった事を咎め、政権幹部は、移民星軍が素直に言うことを聞いていれば混乱は起きなかったとし、大いに揉めた。そのため、後々になって、このような苦労が起きたのだ。

「おーい、こっちも見てみろ。珍しいもんあるぞー」

別の兵士が発見したそれは、2099年に採用された自衛隊の秘密兵器と目された、『99式メーサー戦車』の残存個体だった。装輪戦車と呼ばれる類のもので、この時代では前世代の技術であるメーサー兵器だが、採用当時は恐れられたものである。

「メーサー兵器か。改造する必要があるが、使えるな。よし、回収だ」

こうして、自衛隊駐屯地跡地から回収された、自衛隊の秘密兵器群は、近代化改修を受けて、パルチザンで使われるのだった。



――パルチザンの拠点となった厚木基地

「スーパーXシリーズか。随分とマニアックなの持ってきたな」

「セイヤさん、どーするんですか、これ?結構古ぼけてますけど」

様子を見に来たなのはが、ウリバタケに聞く」

「そーだな。今の融合炉に載せ替えて、武器を取っ替えれば、第一線で使えると思うぜ?この時代の自衛隊は予算が増えてたから、頑丈な作りになってるの多いそうだ。どこから持ってきたんだ、これ」

「えーと、統合戦争で駐屯地になってた目達原の地下に隠されていたそうです」

「目達原か。田舎だし、反統合軍も狙わなかったか、気付かなかったんだな」

「これ、子供の頃に見た某怪獣王の映画に出てきた兵器そのままなんですけど、なんでなんですか?」

「設計者がその映画の大ファンで、そのままの形で作ったのが始まりだそうだ。それで、統合戦争の時には、『おもちゃを作った』って、反統合軍は物笑いにしたって逸話があるそうだ。本当に、当時の政府高官も使うのを避けたそうだぜ。実際、外観はおもちゃみたいだしな、初代は」

ウリバタケは、自身が知る範囲での情報を伝える。その兵器『スーパーX』は陸上自衛隊の管轄でありながら、航空兵器の性質と、護衛艦の側面を兼ねており、初代は外観が炊飯器のように見え、政府高官から『君らは国家予算でおもちゃを作ったのかね』と不評であり、開発が進むにつれ、常識的な形状になっていった。最終型のVで有翼V/STOL機になっている事からも分かる。

「3はガウとかガルダの技術的基礎になったって話もあるし、歴史的に言えば、こいつはミッシングリンクなわけだ。さて、作業に入るとすんか。そんじゃな」

「頑張ってください〜」

ウリバタケは、近代的改修の作業を指揮し始める。その場から立ち去ったなのはだが、声をかけられる。

「お〜い、なのは〜」

「川内さん。どうしたんですか?」

「実はさ、妹の那珂がね、慰安ライブの途中で腹壊しちゃってさ。代わりに歌ってくれない?」

「那珂ちゃん、悪いの食ったんですか?」

「うーん……この間のプリン、見たら賞味期限が4年前だったんだ。」

「間違いなく、それじゃないですか〜!」

「お願い!熱も出して、うんうん唸ってるし、あたしは歌声が那珂より低いし、神通は興味ないし」

「神通さん、ウォーモンガーですもんね。。つーか、神通さんは今、ヤマトじゃないですか」

「そう!そうなんだよ〜。一番声が似てる島風もいないし、頼むよ〜那珂、ライブを中止にすんの嫌がるし〜」

「……分かりました。ちょっと待って下さい。準備してきます」

「準備?」

こうして、なのはは川内の懇願に応え、那珂の慰安ライブの代打となった。子供の頃から持ち歌としている『BRAVE・HEARTs』から始まり、『Shining☆Days』、『Finality blue』などの、高校時代にカラオケで得意にしていた歌を歌った。なのははこの時、高校時代の制服で歌ったり、バリアジャケット姿で歌ったりとノリノリだった。

(ヴィヴィオに見せてやりたいが、こんな戦場につれてくるわけにもいかんしなぁ)

と、内心で愛娘の事を思うなのは。歌い終え、なのはを出迎えた人物は意外な人物だった。

「ご苦労様です、なのはさん」

「アリカ?お前、来ていたのか?」

「フェイトさんからの連絡がマシロちゃんのところにあったんです。それで光太郎さんに連れて来てもらったんです?」

「マシロ女王も一緒か?」

「はい。あたしの力はマスターの認証がないと、使えないんですよ」

「そうだったな。そこがオトメの面倒なところなんだよな……って、いいのか?王国の女王が不在で」

「一応、宰相に任せて来ました。マシロちゃんがいなくても大丈夫でしょう」

「普通に考えれば、そうだなぁ。」

この頃になると、なのはもアリカ・ユメミヤと面識が出来ており、気心の知れた仲であった。そのため、なのはもフランクに接していた。アリカが何故、ここにいるのか?それはフェイトがアイオリアに宿られる少し前に、連絡をとっていたからだ。

「こっちでの生活は大丈夫か?この世界はオトメなんて、影も形もないから――」

「大丈夫ですよ。普段やることは、この世界のメイドと同じですから」

「そ、そうか……」

と、会話を交わす二人。パルチザンはこのように、あちらこちらから人材を集めていたのである。そして、それはウィッチ達からも同様だった。501の最終決戦からそのまま連れて来られた西沢、菅野(宇宙)、黒田と言った扶桑ウィッチーズ達は、三羽烏の人徳(?)により、パルチザンの一角を占めるまでになっていた。扶桑の著名ウィッチの多くはパルチザンに順次従軍しており、扶桑皇国の連邦への協力具合が顕著であるのが分かる。


――ガイア 艦内

「本当、凄い面子集めたもんだ。あたしに、黒田に、若本に、赤松さん、神保さん、若松さん、尾崎、樫田、下原……第一線級のエースばかりだ」

「向こう側に、第二陣で宮崎と本田を送り込んだわ。芳佳が今回いないしね」

「そうか、芳佳は本国で勉強中だもんな」

「それで声かけづらくて。だから、若手で有力なのを送り込んだわけ」

「ここへの第三陣はどうなんだい?」

「雁淵を考えてるんだけど、本土の守りもあるし、メンバーを考え中よ」

「服部の一期上に当たる、雁淵の妹の方は?」

「あの子は本土で訓練中だし、出せないわ。訓練学校卒から間もないから、練度も静夏より低いし」

圭子と西沢は呼ばれたメンバーの陣容を再確認していた。扶桑軍エースの多くが参陣しているが、芳佳はこの頃、医学に励んでいたため、圭子も声がかけづらいらしく、声をかけていないことが語られた。また、旧343空の出身である雁淵孝美の召集は、本土防衛の都合、見送る公算が強いこと、その妹であり、空軍に転籍間もない若手ウィッチ『雁淵ひかり』は、教育課程の延長を受けた第一世代である故、実戦に耐えうる練度はまだない。むしろ、最後の海軍基地航空隊出身世代となった服部静夏の方がまだ、実戦に耐えうるとする。

「服部ねぇ。どうなんだ?実際」

「坂本の話だと、素養は十分だそうよ。ペリーヌと同じタイプのウィッチって言ってたし、兵学校同期の中じゃ一番根性があるって買ってたし」

「呼ぶのかい?」

「今の時点だと、まだ無理ね。兵学校の少尉候補生で、まだ任官もされてないもの。基地航空隊配属は確定だから、そのうち、親父さんが引っ張るそうだけど」

「坂本の奴が荒れるぞー?あいつ、宮藤を取られる事が嫌だって感じだし」

「しょうがないわよ、343空所属になってる以上、あの子は空軍に移籍するのは確定事項なんだし。近頃のあの子、どうしたのかしら?意固地になってるのよね」

「あいつは、宮藤を『海軍軍人』として育てた上で、ストライクウィッチーズの一員として、現役ウィッチのキャリアを終えたいのさ。ところが、あんたらが源田の親父さんを動かして、空軍設立の音頭取ってると来てる。坂本だって、馬鹿じゃない。源田の親父さんに力を与えてるのがあんたらだって気付くのも時間の問題さ。あいつは、源田の親父さんがあんたらを利用してるって勘違いしてる節があるからな」

「確かに、親父さんたちを抱き込んだのは、私達だけど、あの子の思考回路、些か脳筋じゃない?」

「よくいえば、使命に純真なのさ。あんたらみたいに、政治的にあれこれ動くのは、若い頃は醇子の奴に任せきりだったからな。それに、嫌なことがあると、すぐ顔に出るタイプだから、平時の軍人向けじゃないんだよな。ポーカーフェイスできないわけじゃないんだけど……」

「あの子の考えてることはわかるけど、ちょっと子供じみてないかしら?」

「前に言ってたんだけど、上の思惑で、501のメンバーが安定しない初期の頃に、上官が失脚させられた事あったろ?その時に、仲間割れを問題視したんだ。バルクホルンがラウラ・トートを追い出した事もあったろ?」

「なんで、あなたがそれ知ってんの?」

「風の噂でね。そんな事を経験した後だから、『仲間でありたい』って気持ちを持つようになったんだよ。上がる直前に、色々思い詰めてたのは、そのためだろうな」

――そう。坂本は『皆と仲間である事』を望んだ。20を超えても一線を退かなかったのは、501の皆と仲間でありたかったためなのだ。リウィッチになる事で実現するのではなく、だ。ウィッチの摂理を『超えるべきもの』と考える黒江や圭子と異なり、『受け入れるべきもの』と考えていた坂本に取って、現役であり続けたい願望と裏腹に、ウィッチとして衰えていく自身は受け入れられるものではないが、諦感を抱くところもあるため、思いつめていた。西沢はそれを見ぬいていたのだ。

「仲間でいたい、か……。あの子、昔の私に似てるわね。私も欧州で似たような事経験したもの。あの時の悔しさは……」

「だろうな。あんたらの記憶と能力は欧州戦線の時には封印されてた。記憶が無い状態だから、上がりを迎えていく怖さがあったろう?」

「確かに。あの時は、記憶も改竄されてたから、理由がわからなくて、『どうして、どうしてなの!?』って悩んで、泣いた日もあったわ。超視力の見える視野が減退して、今まで当てられた距離の射撃をミスった時が一番ショックだったわ」

そう。圭子はシャインスパークの反動と、歴史の帳尻合わせによる記憶と能力の封印により、『上がり』が急激に訪れた。それで、急激に衰えていく自らの力を悲観した事があるのだ。

「リウィッチになった時、銃を撃ってみた時、昔と同じように、頭で思い描いた通りに弾を当てられた時の嬉しさも忘れられない。だけど、同時に摂理に反するんじゃないかって気持ちにもなった。けど、それを越えていくのもいいんじゃないかって思ったわ」

「坂本は、その気持ちになるのを恐れたんだろうな。若返りをヤクと同じようなもんと感じたから、パワードスーツでの補助で、19歳に入る頃の魔力量に戻す事を選んだんだろうな」

そう。坂本は自然回復に加え、レーバテイン(連邦製パワードスーツの一種)による湯治効果により、この時期には上がりを迎える一年前の状態へ魔力が戻りつつあった。リウィッチのように『絶頂期』に戻らないのは、それを嫌った面と、摂理に逆らわない坂本の気質も関係している。

「あの子は摂理に逆らわないわね」

「アイツはウィッチの使命に真摯なんだが、これと決めると、自分はどうなってもいいっていう、自己犠牲的なところがあるからな。だから、気難しいから、あまり関わるなって言われてるんだよ、今の若い連中から」

西沢は、親友の気質を熟知していた。それ故、坂本がまた騒動を起こす可能性がある事を伝える。坂本は343空で空軍設立の話を聞いて以来、宮藤博士へ恩返すために、宮藤を海軍軍人として大成させたいという気持ちが逸るようになり、501でも、結果として失態を演じた。最終決戦では、あまつさえ敵に捕縛されたという失態により、特進の話も内々で立ち消えになったほどだ。坂本を意固地にさせた要因が、自分達空軍三羽烏の策謀にある事に気づくのは、もう少し後の事。だが、坂本はけして、空軍を嫌っているわけではない。ただ、恩師の北郷から託された『バトン』を、自分の手で芳佳に渡したかっただけなのだ。その願いを叶える機会を、三羽烏は結果として奪ってしまった形となった。それが、徐々に双方の気持ちの僅かなすれ違いとなっていくのであった。

「でしょうね。あの子、一本気な性格だし、親しくなればいいやつなんだけど、若い連中から見ると、鬼教官だしなぁ」

「しゃーない。今の育て方は、『そこそこ戦える』集団の育成で、坂本が教わった時みたいな名人育成じゃないしな。前に、黒江さんにも言った事あるけど、連邦があれこれ介入して、扶桑を弄くってるだろ?それで急激に扶桑が変えられていくのを嫌がってるところもあるんだよ。それと、歴代ガンダム乗りが10代というところに眉顰めたから、流石に窘めたよ。あたし達が言えた事じゃないしな」


そう。坂本は、後で知った、歴代ガンダム乗り達の初陣の時の年齢が若いことに眉を顰めたが、自分達の初陣の年が年なので、西沢が諌めたという。

「でも、史実日本を見るに、たった一日で国全体の価値観が180度変わった事があるのは、坂本だって知ってるだろう?」

「そうなんだよ。あいつは頑固親父みたいなもんだからなぁ、よく街にいるような、ね。」

――坂本を頑固親父に例える二人。坂本はよくも悪くも、この時代の軍人なのだ。特に海軍航空隊の軍人は、陸軍飛行戦隊よりも『武士道的な死を美徳とする』風潮が強く、坂本も自分を武士に例えるほど、それに傾倒気味である。それは近代的合理主義で動くべき職業軍人にあるまじき態度であるとする、若手高級軍人から問題視されている。それは史実日本海軍航空隊全体を覆っていた風潮であるが、三羽烏の策謀で、それが『過去のモノ』とされつつあるため、昔気質の坂本は将官への『出世が出来なくなる』事でもあった。

「あいつは出世が止まるだろうけど、どのへんだ?」

「兵学校卒だから、せいぜい大佐だろうな。戦功を挙げられるのは、あと10年くらいだろうし、太平洋戦争が起こったとしても、せいぜい53年くらいまでだしな。流石にベトナムの頃までは飛んでないだろうから。海軍航空隊の連中は大バカよ。あいつら、自己犠牲を礼賛してるんだから」

二人は故郷の世界の歴史の流れを予測していた。同時に、坂本のみならず、海軍航空隊全体が『武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり』という語を歪んだ解釈で、自己犠牲とし、海軍航空隊ウィッチのみならず、航空隊全体の悪しき伝統として染み付いている。公然と二人が話題にするほど、海軍航空隊は立場的に追い込まれている証でもあった。


――地球連邦軍の要請に積極的に応える扶桑皇国軍だが、著名ウィッチを送り込む事に反対する勢力もあった。当然ながら、三羽烏が個人的に呼び寄せた人員らだけでも、扶桑皇国軍航空隊中の最高戦力に等しいからだ。

「あの娘らのおかげで、戦線はガタガタだぞ!よりによって、飛行時間1000時間を超える者達を持って行きおって!」

1946年時の扶桑皇国全体の航空ウィッチの配属数は、教育途上の人員含め、700名ほど。陸戦ウィッチ含めれば4桁に達するものの、練度良好に絞ると、航空ウィッチ全体では100名行けば良い方であった。そこから、更に上位に位置する者を持ってかれたため、戦線の維持を心配している高官。

「君は阿呆かね」

「井上、貴様!」

「友邦の危機に、手を差し伸べるのが同盟国だろう。ましてや彼らは我々を救ってくれた、大恩ある師にも等しい。こちらの戦力が多少削れたくらいで、とよかくいう資格は君にはない」

井上成美は、自分と同年代の海軍高官にずばりと言い放つ。

「彼らはゲリラ戦に突入している。そのための人員を欲しているのだ。だが、如何せん、我が国の陸戦ウィッチは練度が低い。それ故、航空ウィッチを送り込んだのだ。それに、連邦が機動部隊を駐留していてくれるから、ウィッチやパイロットの未来兵器や新型兵器への転換訓練ができているのだぞ。その訓練者をゲリラ運用出来る部隊で使わせて欲しい、その代わりに派遣部隊は引き揚げないと確約してもらった。それでも君は文句をつけるのか?そんなに我が国の人員を引き揚げたいなら、連邦は祖国の危機を救うために引き揚げてしまうぞ?」

「……」

「それでは、私は引き上げさせてもらう」

井上は高官を黙らせ、旧海軍省、現・統合参謀本部海軍部から足早に去る。井上は念入りに根回しをする事で、三羽烏を間接的に援助していた。これは三羽烏、とりわけ黒江が大和型戦艦の存在を彼に認めさせる代わりに、空軍設立の際に井上に便宜を図るという、扶桑海事変の時の密約によるものだった。その際のやり取りは以下の通り。


――1938年

「井上閣下、あれがマル3計画の次期戦艦です」

「しかしだ、中尉。あんな馬鹿デカイものを造ったところで、今は航空主兵の時代だ。巨額の金を食う戦艦など建造する必要ない。敵の戦艦など何程あろうと、我に充分な航空兵力あれば皆沈めることが出来る」

「それじゃ、これをご覧下さい」

「この絵葉書は?」

「リベリオンの次期戦艦の基幹となる巨大戦艦『モンタナ』型です。未来から持ち込んだ向こうの絵葉書なので、細部はいい加減ですが」

「仕様は?」

「全長は281.940m、全幅36.779m、16インチ砲12門を備え、65000トン級の排水量を誇る巨鯨です。こんなのが5隻ですよ?国民が知れば、建艦運動起こりますよ?しかも、ダメージコントロールは万全。飛行機の酸素魚雷が4発当たろうがピンピンしてますからね?こんなのが巨万の護衛艦に囲まれてるんですよ?死ににいくようなもんだ。」

そう言って、黒江は、史実沖縄戦の際の米軍側から撮影された対空砲火の写真を見せる。井上は思わず、瞠目する。それは空を覆い尽くす弾幕に、扶桑(日本)の飛行機が健気に突っ込むが、余りにも凄まじいスコールの如き弾幕に粉砕されていく様子の写真で、駆逐艦にさえ近寄れないのが分かる。

「こ、これは……」

「どうです?これでも、航空兵力万能論を信じますか?これは海の戦いで勝てなかった海軍が招いた事態なんですよ?撮影場所は沖縄です」

「沖縄だと!?どういうことだね!?」

「ご説明します。ただ、物凄く心臓に悪いですが」

黒江は全てをここで話した。海軍が本職の海の戦いを軽視した挙句に、巨万の敵に粉砕される事、アウトレンジ戦法は机上の空論である事、井上自身の理論は当たらずといえども遠からずではあったが、皇国の滅亡を招いてしまう一因となった事など……さすがの井上も顔色を変えた。

「君は、私に何をさせようと言うのだ?」

「閣下には、新戦艦を認めてもらう代わりに、空軍設立の際には自分達が便宜を図り、自分達の任務で必要と判断した人員の派遣。これで手打ちにさせて頂きます」

黒江はニヤリと微笑う。井上は、底知れぬ恐ろしさを黒江に見る。これは彼女の政治力が成せる業だった。井上を事実上、操り人形とする事に成功したのだ。太平洋戦争敗北のインパクトは、井上成美ほどの男をも意気消沈させるほどのものだったのだ。


――こうして、井上成美を味方に引き入れた黒江は、その密約の通り、パルチザンに自分らの選定した人員を派遣させる事に成功。黒江自身が宇宙に行った後の時点では、扶桑皇国軍航空隊上級エースの過半数がパルチザンに集結した。


「よーし、こっちに弾持ってこい!」

パルチザンは市街戦を戦っていた。若本は、501からそのままパルチザンに参陣したのだが、市街戦というのは面食らっていたものの、持ち前の闘争心で戦っていた。

「若いころに受けたあの訓練が今になって、役に立つたたぁ、世の中わかんね〜」

若本はそう言いつつ、アサルトライフルを乱射し、ビルを制圧する。

「こちら若本。制圧完了だぜ、武子さん」

「了解。こっちももうじき、道路の制圧を終えるわ」

武子は、時に自ら先陣に立ち、デザリウムのパトロール部隊を倒してゆく。ウィッチ達はシールドが使える分、通常兵士よりも前に出やすいため、このように先陣に立って制圧していた。また、武子は、黒江が雷と風に目覚めたように、彼女は光に目覚めていた。

「たぁああっ!」

武子の動きは、超獣戦隊ライブマンのレッドファルコンを思わせるものであった。彼の影響が強く現れており、ファルコンブレイクを行い、敵将兵を十文字に斬り裂く。武子はレッドファルコン=天宮勇介と出会ってからは、この技を使うようになり、以後は生涯を通し、決め技とした。個人技にあまり興味のない彼女も、レッドファルコンのこの技のみは例外であり、後々の晩年、孫娘の美奈子にも教えこんだとの事。


「私達が負ける道理なんて、ない!!」

ご丁寧に決めポーズを決める武子。ライブマンの影響が、この頃にはかなり濃厚に表れるようになっており、これまであまり重視しなかった個人剣技に入れ込むようになっていた。これは俗に言う『吊り橋理論』によるもので、教え子を失い、打ちひしがれた彼女にとって、レッドファルコンの勇姿はとても頼もしく見えたためで、元々、隼に傾倒していたのもあって、レッドファルコン=天宮勇介に懇願し、ファルコンブレイクをモノにしたのだった。

「武子も随分変わったわね」

「もう二度と、あの時の二の舞いはごめんよ。だから強くなりたいのよ。どこまでも。あの人達のように。綾香と似たようなものよ、私も。」

武子は共同スコアに自身の撃墜スコアを計上するほど、個人スコアには興味はない。だが、撃墜スコアの報告が厳格である空軍では、なんだかんだで、武子も第三者からの報告により、30機ほどの撃墜スコアを得ていた。そのため、『撃墜王』ではあるが、それを誇ることは一度もない。教え子を失ったのを契機に、個人技を鍛え直す傾向になったが、それでも自分から撃墜スコアの更新を言い渡す事はなかった。プロパガンダで勲章をもらうなどの派手な宣伝を嫌っていたからだ。それでも、力を求めたのは、教え子達の悲劇を繰り返したくはなかったからだ。

「どうする?」

「この辺りの補給路を制圧して、横須賀からの物資輸送の安定性を確保しましょう。できれば、瀬谷方面は固めておきたいわ」

「よし、各員は突撃!大和と瀬谷の境目を完全制圧するぞ!余勢があれば、町田までいく」

圭子の指示で、大和と瀬谷の境目を完全制圧し、余勢を駆って、瀬谷から町田に楔を打ち込むべく、進撃するパルチザン。これは空路だけでは補給量に限界があるからで、鉄道含む複数の補給ルートの確保の意味合いが大きかった。当然ながら、ウィッチ達だけでなく、アリカも蒼天のローブを纏って戦い、ひと暴れする。そして、そんな彼女らに加勢する者が現れる。しかもド派手に。

「トウ!」

ド派手な爆炎を背に、オートバイにまたがって現れた赤い仮面の男。その名も。

「仮面ライダーV3ァ!!ただいま参上!」

「あの、V3さん?登場の時に、いちいち大爆発背負う必要は無いんじゃ?」

「これはお約束だからな。行くぞっ!」

V3はパルチザンに加勢し、早速ながら暴れててみせる。仮面ライダーの中でも最初期に改造されたのだが、その戦闘能力は高く、デザリウム兵を全く寄せ付けない。ヒーローが爆発背負って登場するのは、変身するときのバックファイアやもしくは敵への引き付け効果を狙った威嚇のためでもあるが、それだけで地形が変わる科学戦隊ダイナマンがいるので、圭子としては大いに突っ込みたいのだった。

「V3ドリルアタック!!」

V3は、26の秘密の技も使い、数の多いデザリウム軍を蹴散らす。ドリル状に回転しながら敵に体当たりするわ、触角から出す100万Vの電撃『V3サンダー』も珍しく披露する。

「あれ?V3さん、電撃発射能力持ってたんですか」

「極めて初期型の能力だがね。100万V程度は、他のライダーでも、やろうと思えば出来るし、それほどのアドバンテージにはならんよ」

圭子に言う。スペックに頼らないのが風見志郎の真骨頂だが、今回は数が多い&デリケートな市街戦なため、スペックを活用していたのだった。

「ん?なんでボルトなんです?V/A表記じゃないんです?」

「ショッカーやデストロンの科学者も、電撃能力を説明するのに、ボルトを使っていたし、ライダーマンのドリルアームだって、最初に使った時、『充電に5000Vの電気が必要』だったぞ」

「ライダーマンさん、バッテリー残量チェックしてなかったんですか?」

「あれは、ライダーマンにしては珍しいミスだったよ。さて、下がってろ。V3フリーザーショット!」

V3の26の秘密のバーゲンセールとも言える、この戦闘。触覚から絶対零度の冷気を打ち出す。特殊能力面で、後のライダーの雛形になったものが多いのがV3であり、X以降の第二期仮面ライダー以前の第一期仮面ライダーの集大成なのが分かる。

「V3さん、なんでそんなに能力があるんです?使わないほうが多いんじゃ」

「先輩達がいきなり行方不明になったから、自分で解明するしかなくてな。デストロンとの戦いの最中に全てを解明は出来なかった。弱点だってあるからな」

そう。V3のウィークポイントは意外に多い。強力な磁力、高圧力、バリアの限界圧力など……元々がゲルショッカー時代からの次世代型仮面ライダー型(ホッパー型とも言うべきか)改造人間の新機軸Pタイプ案だったため、意外に完成されていない機構も多いのだ。もちろん、ダブルライダーが原案から改良した点も多い。基礎能力値はWライダーより高次元ながら、試行錯誤も大きいのが仮面ライダーV3なのだ。

「V3プロペラ・チョップ!!」

プロペラのように、両腕を回転させ、それをバリア代わりにし、レーザーを弾く。意外な応用だ。

「ケイちゃん、ライダーマンからこれを預かってきた」

「こ、これは?」

「予備のカセットアームだ。マシンガンアームだから、君なら使えるはずだ」

「ありがとうございます!せーの、マシンガンアーム!」

マシンガンアーム。それはライダーマンのカセットアームの一つだ。その改良型であり、実銃に近いフォルムを持つ。意外に重量があり、取り回しは難しい。

「ん、取り回し難いな。まあ、ロープアームのコブみたいな部品がなくなってるだけいいか。行くわよっ!」

重い発射音が響く。マシンガンアームの連射速度・反動はウィッチやオトメでなければ、制御できないほどのもので、圭子も、かつて使った『ホ』系列の航空機関砲以上に手の中で暴れるマシンガンアームに苦慮する。威力は申し分なしだが、腕がしびれるのだ。

(つぅ〜、腕に来るなぁ。鍛えないと、こいつは扱えないわね)

翌日に筋肉痛、もしくは腱鞘炎になる予感をプンプンとさせる圭子だが、マシンガンアームは相応の威力を持つ事はわかった。そのため、上半身を中心に鍛え直すのを誓う圭子だった。


――V3やアリカらが獅子奮迅の活躍を見せ、徐々に戦線を押し上げるパルチザン。西住みほたちは主に後方からの歩兵支援を担当しており、戦車での支援砲撃に徹していた。

「あたし達がなんで、後方の支援砲撃なわけ?」

カチューシャが不満を言うが、掃討三脚戦車には地球製戦車では不利なため、安全を期して、武子は彼女らを支援砲撃に回したのだが、やってる事が自走砲なので、カチューシャとしては大いに不満であるらしい。

「仕方がありません。我々の戦車とは根本的に設計思想が異なるのですから」

「なんなのよ、あの、大昔のタコの火星人が乗ってそうな戦車は!おかげで、機動戦がやれないじゃない!」

「火星人のトライポッドの具現化のようなものですから。トップアタックを食うわけにはいかないので、大佐の配置は正しいのですよ」

「う〜!」

仕事はこなすものの、殆ど自走砲に等しい事をMBTで行うのは不満なようだ。

「それでは、デストロイドにでも乗りますか?」

「あたしの身長じゃ、ペダルに足が届かないじゃない!それに、あれはロボットで、戦車じゃないし」

ノンナとそのような会話を交わすカチューシャ。パルチザンはあまりデストロイドは保有しておらず、持ち込まれたものを使用する程度であった。ガイアの艦内工場で、ミッド動乱で鹵獲した、平行世界の『トマホークMK-U』、『ディフェンダーEX』、『ファランクス改』、『ジャイアント・モンスター』のリバースエンジニアリングと生産も進められてはいるが、如何せん、デストロイドパイロットが不足しがちであった。また、ミッド動乱でAVFに肉薄する機体性能を見せた、『VA-1SSメタルサイレーン』のコピーも進んでおり、軍用機然とした外見ではないので、その辺は不満がられていた。コピー機がロールアウトし始めていたが、そのデザインラインが旧国連時代の軍用機の系譜に沿っていない、SFメカ然としたものであるためであった。

「私はトマホークUなどの訓練は始めていますよ。戦車をいつでも使えるわけではありませんから」

「ぶ〜!こうなったら、モンスターか、ケーニッヒモンスターでも訓練しようかしら……」

さらっと恐ろしい事を言うカチューシャであった。

――なお、メタルサイレーンは、ヤマト艦内の工場でも試験的に生産は行われており、こちらはAVF以後の技術の導入率が上げられており、真田の意向で一部設計が変更されており、カナード翼が大型化されている。これは重力制御を必ずしも必要としない、地上での運用を考慮してのことであった。他にも、マーキングが異なるなどの差異があった。

「へぇ。これが敵から分捕った奴のコピーか」

赤松貞子。陸海空軍全ての現役ウィッチの最古参に入るベテランであり、圭子が新兵の時に下士官であったというほどの年齢差があり、戸籍上は1946年で既に30代に達していた。尉官時代の北郷に仕えた事もあり、三羽烏も彼女の前では子供扱いにされ、頭が上がらない。黒江は『赤松さん』、もしくは『まっつぁん』と呼び慕い、圭子もその豪快な姿から、『赤松の親父さん』(おふくろさんでない)と呼んでいる。

「赤松さん」

「壊すなよ〜」

「お、親父さん!」

「ガハハ。どうも近頃の若いもんは軟弱でイカン。酒が怖くて、戦ができるか〜、ヒック」

さしもの西沢も、赤松の前では子供扱いである。赤松は、その振る舞いから、連邦軍から『ウィッチ界のロイ・フォッカー』と諢名されている。酒はたらふく飲み、清楚そうな外見とはかけ離れた豪快な性格、そして、全ての点で空軍三羽烏をも避けつせない技能を誇る事から、三羽烏も彼女には従い、赤松も姉のように、三羽烏の面倒を見た。若返り後の黒江に大きな影響を与えた人物の一人と言ってよく、黒江が酒を飲むようになったのは、実のところ、赤松の影響であった。とにかく豪快な赤松だが、頭脳明晰という面もある事から、源田からも全幅の信頼を置かれている。

「さて、西沢。坂本の件だが、ワシからも電話で言っておいてやる。あいつは血気に逸っていかん。源田さんもそれを指摘していた。あのきかん坊も、ワシの言う事ならば聞くだろう。加東や黒江でダメなら、ワシが動こう」

「あ、ありがとうございます!」

赤松は北郷よりも年上な大ベテランであり、言わばウィッチ達の『父』(母ではない)である。坂本が問題を起こし、それで評価を落としている事に悩んでいた西沢は、このウィッチ最古参の親父系女子に相談していたのだ。後日、横須賀航空隊で教官任務についていた坂本は、ふとかかってきた電話に応対したところ、相手が赤松である事に大慌てであり、『あ、あ、赤松大先輩が、な、なんで私に!?』と大いに狼狽えたとの事。

「ありがとうございます、親父さん!これで坂本も大人しくなるぜ!」

「あいつの問題行為の事は、黒江から聞いていたからな。最近のあいつは目に余る。周囲に迷惑をかけすぎだ。黒江が坂本と殴り合いした時は、ワシが黒江を説教しておいたが、坂本も叱るべきだったな」

赤松も、坂本のここ数年の振る舞いは目に余ると考えており、坂本を叱る機会を待っていたのだ。西沢の相談は渡りに船であったのである。

「アイツが荒れている原因は分かっとる。零式への名誉毀損と、宮藤博士の娘っ子を取られたことへの不満だ。北郷さんもそれを悩んでおられた。ワシが一喝してやるしかない」

坂本は、北郷も危惧していたのだが、脳筋に育ってしまったのである。僚機が撃墜王ばかりだったのもあり、そのレベルを新兵に求めてしまうので、『そこそこ』で実戦に出そうとする上層部とぶつかっており、戦前からの名人教育に拘っていた。坂本とて、一応は下士官からの任官なのだが、養成期間がほぼ無きに等しかった自分の世代の愚行は犯すなと公言し、ウィッチ養成に悪影響を及ぼしていた。そのため、ウィッチ養成が遅々として進まず、一向に前線に新規ウィッチが送られないという状況となっていた。そのため、エクスウィッチのリウィッチ化が取りやめられなかったのだ。

「ワシでなければ、あいつのこだわりは打破できん。あいつは戦前の名人教育にこだわっておる。今はリベリオンのような『大量育成』が必要とされる時代だ、あいつの考えは古すぎるのだ」

赤松は、坂本のこだわりを古すぎると言い切る。西沢も頷く。ウィッチの立場維持のためにも、近代戦を戦い抜くのが絶対条件になってきている。

「今のウィッチ教育は、陸海でバラバラだ。いっその事、防大のようにできんものかね?黒江が行ってるような」

「無理じゃ?陸海空を一つにまとめるなんて、利権絡みになるし、防大は軍が無くなった後の再建だから、できたんであって」

「うーむ……カールスラントでも、ユンカーが独自に軍付属学校作ってるくらい、陸海空軍の教育は一貫でされてるというのに、利権絡みっつーのは面倒いもんじゃ」

赤松も嘆く、ウィッチ養成は、義務教育の際に、ウィッチとして発現したものは軍事の基礎教練を組み込む事が1947年に開始され、陸海空軍のウィッチ育成は利権が絡む、旧航士、兵学校で基礎を教えこむ必要を減らし、任官までの短い日程で、基礎教育をきちんと行わせる事が決定される。そのため、坂本ら教官職にあるものは、1948年度2月までに、黒江の滞在先の時代(のび太の時代)の防衛大学校に派遣されたという。

「さて、新型の機種転換訓練でも始めるぞ」

「うぃっす」

メタルサイレーンの機種転換訓練を受ける二人。メタルサイレーンから得たデータを元に、シミュレータが出来上がっており、若本達が戦っている時、二人はこの訓練中だった。

――メタルサイレーンは、設計思想がこの世界の歴代VFと異なり、近接戦闘寄りであるため、扶桑ウィッチに受けが良かった。メーカー生産になったら、生産メーカーをどこにするか、が問題であり、新星インダストリーが名乗りを挙げているが、ギャラクシー社も乗り気であった。手隙であるАEハービックにやらせるという選択肢もある。また、メタルサイレーンというペットネームが憚れるため、生産に移れば、新ネームになるのは確実だった。シミュレータ訓練に向かう二人の背後に駐機されている機体の前途は如何に。



――戦いは、V3の活躍もあり、町田駅付近までの進撃に成功し、駅構内で銃撃戦になっていた。

「ぐぐ……くそ、やつらレーザーライフルだから、射程はともかく、威力はあるな!」

「任せろ!ダァブゥルトマホウゥゥクゥ、ブウゥゥゥメラァン!!」」

圭子は、ダブルトマホークを取り出し、ダブルトマホークブーメランを行う。駅構内での狭い空間では、逃げ場がないので、意外に有効だ。回転するトマホークがレーザーを弾くので、意外に防御と併用できる。如何にデザリウム兵のボディがサイボーグであろうと、生身である頭部をかちわれば、地球人同様に死ぬからだ。

「おおう、相変わらずエグい攻撃法だぜ。ネイテイブリベリオンでも見ないぜ?」

「トマホークをぶん投げるってのが、そもそもめったにないからな」

戻ってきたトマホークをキャッチする。血に染まるトマホークの刃。圭子の愉悦を感じさせる表情から、悪寒すら感じる若本。

「で、背中に担いでるマシンガンは使わねーの?」

「筋を痛めたんだよ、撃ったら、物凄い反動でね。ライダーマン用のだからな、これ」

「オレたちでも扱いきれないって?」

「慣れないと無理だな。私達の世界の30ミリ以上の反動が来るから」

「うへ。ライダーマンさん、どんな武器使ってんだよ」

「そうじゃないと改造人間倒せないって事だろな」

「つーか、アンタの腕力で抑えられないんじゃ、使えるの、バルクホルン少佐や、あんたのところの稲垣くらいじゃね?」

「そうだなぁ。お前じゃ腱鞘炎間違いなしだろうな」

「V3さんも、物騒なの持ってきたもんだぜ。やっぱり俺はこっちのほうが性にあうぜ」

「あ、お前、こんなところでいいのか、使って」

「あの人みてぇにオーラ纏わないけど、時間は伸びたぜ!」

若本は若手時代よりは、戦闘の進め方を学んでいるため、必要最低限の動きで済む突きを多用する戦法を見せる。

「ふむ。突きか。お前にしては、スタミナに気を使うじゃないか」

「オレだって、いつまでもガキのままじゃねーって。黒江さんが異常なんだって。覚醒使っても、まだ追いつけねーなんて、おかしーって!」

「そりゃ黄金聖闘士だし、黒江ちゃん」

そう。若本は覚醒の使い手であり、その気になれば、時速200キロ程度までの加速もできる。しかし、黄金聖闘士である黒江からすれば、『止まって見える』ほどの鈍さであり、智子のそれと比べても遅いのだ。

「穴拭さんにも追いつけなかったし、どーなってるんだよ〜!」

「あの子達、スピード合戦してるのよ。今だと、智子でも、素で零式五二型よりも速いはずだ」

「時速560キロ超えかよぉ……あんたら、どうなってんだよ」

「人間やめる準備よ、たぶん」

「お、おい……」

ロングストレートヘアになり、刀剣に光を宿す若本。若本はあくまで『使い魔とのシンクロ率が跳ね上がる』程度だが、智子の覚醒は、使い魔と文字通りに一体化するため、基礎ポテンシャルに差があるのだ。智子はこの時、覚醒の制御が出来るようになった段階にすぎず、伸びしろを未だ残しているのだ。(聖闘士で言えば、白銀程度のポテンシャル)最も、圭子も、ゲッター線との親和性が高まりつつあり、徐々に『周りを引かせる』強気の発言が増えているのだが。

「おい、加東さん、うしろ、うしろ!」

「ああ、問題ない。ハァァッ!」

圭子の後ろ蹴りが入り、銃の台尻を使って、襲いかかってきた敵兵を吹き飛ばす。意外な事だが、圭子は空手を習っているのだ。

「す、すげえ、空手なんて、どこで習ったんだよ」

「マスクマンの男性陣に習ったんだよ。武術してるから、あの人たち」

光戦隊マスクマンに空手を教わった事を教え、おもむろにトンファーを構える。意外にサマになっていた。そして、突っ込んで、敵兵を倒し、町田駅(小田急線)の改札口付近を制圧する。

「こちら、圭子。町田駅の改札口を制圧したわ」

「どっち向き?」

「んと……若本、どっちだっけ」

「西口だろ。JRに近いほうの」

「そそ、そうだった」

「あなたねぇ……」

武子は無線越しに呆れる。

「だって、いつも黒江ちゃんが、量販店にそのまま連れて行っちゃうし、町田の駅前に降りたこと、めったにないんだもん」

「……はぁ」

溜息をつく武子。未来への滞在が長い三羽烏だが、町田付近で用事があるのはブッ○オフか、ヨド○シカメラと、コンビニ、ファストフード店だけで、黒江が駅からヨド○シカメラ直行なため、町田の駅周辺に行ったことはあまりないのだ。

「もう、しょうがないわね。終わったら、そこでカメラ取って来ていいわよ。代金は軍令部につけとくから」

「わー〜ありがと、武子!」

喜ぶ圭子。だが、JRの方も制圧せねばならぬので、もうすこし時間はかかるだろう。上空ではアリカが戦闘機をエレメントで、串刺しにしたり、V3がビックスカイキックを披露し、駆逐艦を圧し折ったりする。しかし、その量販店も、電化製品売り場のフロアは損傷していたりしていて、無傷なのは、地下のホビー&TVゲーム売り場だけであったりする。黒江が知ったら、即座にエクスカリバーしそうな惨状である。だが、幸運にも、店の搬入口にある箱詰めのカメラ関連品は無事であり、それは圭子には朗報であったかもしれない。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.