ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部
――黒江の成り代わりは結果として、調と切歌の『愛』に冷水を浴びせた形となった。黒江は幾度となく、自分は別人であるとする証拠を提示したが、切歌は視野狭窄に陥っていたため、黒江の言葉に全く耳を貸さず、刃を向けた。しかし、絶唱で全力を発揮したイガリマすら、それを上回る因果律兵器たる聖剣『エクスカリバー』の前には無力であったという事実から、切歌の精神の均衡はフロンティア事変の終結で崩れ、魔法少女事変の直前は『思い込む』事で仮初の均衡を保っていた。黒江は切歌に同情し、魔法少女事変の直前までは、調をある程度演じてやった。これは自身が精神崩壊の経験をしたためで、切歌の精神崩壊を起こさないため、マリアの懇願に応え、半年から一年ほどは切歌の前では調を演じたわけだ。調と再会後の切歌は、調当人が『別の場所で別人として生きていた』事を知ると、それまで抱いていた『裏切りへの怒り』が『罪悪感』へと変わり、調はあまりのショックから、切歌と距離を置くようになり、ヴィヴィオには敬愛、のび太には親愛を見せるようになっていた。黒江の成り代わりは結果として、調の成長を確定させ、切歌の勘違いからの暴走、そのツケとに分かれたわけだ。切歌は魔法少女事変では贖罪の場を求め、黒江が演じていると分かった(正気に戻った)後もしばらくは正気でないように振る舞い、魔法少女事変の主敵だったキャロル配下の錬金術で作り出した自動人形からギアを破壊された調(黒江)を守ろうと孤軍奮闘し、黒江はそれに応え、山羊座の聖衣を呼び出し、切歌の償いに応えた。黒江のエクスカリバーを正気の状態で目にしたのはそれが初めてだ。――
(あの時、綾香さんは私の償いに応えてくれた。私は怖かっただけかも知れないデス……。私じゃなく、調がフィーネの器だったって分かって……調が塗りつぶされてしまう事を。だから薄々と分かっていたのに、あんな事を……。調と共有した意識を持つのが分かってれば……もっと違う…)
切歌は自分のエゴが、調とに埋めがたい溝を作ったことを後悔していて、病気で寝ているのび太へ見せる優しい表情に非常に後ろめたさと寂しさを感じ、その板挟みとなっていた。調は聖闘士である黒江との同調と共鳴で、ギアを好きな時に纏い、解除出来るようになっており、のび太の看病でもシュルシャガナを纏ったままである。対する自分は『戦闘時にしか纏えず、LINKER無しでは現時点では一時間が維持の限界と、差がある。自分とは適合者としての立場が変わってしまったのだ。切歌は立場が成り代わりの余波で変わってしまい、調が黒江やのび太へ敬愛を見せるようになった事に危機感を感じており、その危機感が過去生の記憶と意識の覚醒を促したのだろう。レヴィは『武部沙織』が切歌の過去生に当たるだろうと推測している。そのため、戦車道世界に過去生を持つ者が複数確認されている。その逆に、『生まれ変わり』である可能性を持つのは、西住みほの姉のまほで、みほが危機に晒された際、ミーナのように激しく取り乱す場面が見られた事から、その可能性を推測されている。ミーナは酒を入れると薔薇乙女の長女の如き恐ろしさを見せるが、まほが現れる前後から、まほの冷静さが感染ったようなセリフを言うなど、色々と入り交じった状態だ。
「ん、真美からメールか。何々、ミーナの様子が変わったか」
レヴィは、タブレットに稲垣真美からのメールが入ってきたので、それを閲覧した。ミーナの様子を観察するように指令を出していたのだが、それによれば、レオパルトのPタイプに乗せて戦線から退避させたら、西住まほのような口調と態度に変貌し、戦車隊を率いて敵をぶちのめしたという。真美はレヴィ(圭子)の腹心であるため、ダイ・アナザー・デイ作戦に前後してGウィッチに覚醒しているため、ミーナの変貌の由来が西住まほにあると気づいた。
「そうか、あいつはまほと関係があるらしいか。そうなるとますます複雑だな」
「どうかしましたか、レヴィさん」
「これ見てみろ。真美が送ってきた写メールなんだが」
「えーと、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ大佐ですよね、この人」
「新しいケースだ。恐らくは共鳴でこうなったんだろうが、周囲は腰を抜かしたそうだ」
「この戦車。確か、ドイツのレオパルトですよね?」
「その改設計だ。史実通りだと装甲が薄すぎるんでな」
メールの添付写真に写っていた戦車はレオパルト(カールスラント製)のプロトタイプだった。レオパルトの設計をアメリカを介した圧力で開示させたのが、帝政ドイツへの援助を戦後ドイツの左派が露骨に渋ったため、アメリカに依頼し、その圧力で開示させたという経緯がある。アメリカはドイツに『ナチス政権じゃなくて、昔の帝政なんだから、ナチよりずっとマシだろ』と諌めて圧力をかけ、レオパルトの設計と工作機械の輸出を決定させた。アメリカは21世紀時点ではウィッチ世界に対し、市場改革と開拓の観点から協力的であり、カールスラントの要請に二つ返事で応えた。アメリカは外貨獲得のため、ウィッチ世界を新たな兵器市場に位置づけており、兵器輸出は3代の政権がそれぞれ方針を継承している。その結果、46年度にはF-4までの戦闘機、M60までの戦車はウィッチ世界に渡り、扶桑や亡命リベリオンなどの軍備増強に貢献している。これに日本の左派が疑問を呈し、アメリカ人を笑わせる珍事も2010年度に起きている。日本の左派は連邦結成後もうるさいが、アメリカの行いにまでケチをつけ、国内の失笑を買ったのも2010年代前半の事だ。
「あれ?1940年代で60年代の兵器が造れるんですか?」
「戦時中だから青天井の予算が出るんだよ。それにメタ情報があるから、スピードは早まる。史実の倍以上だろう。戦時中ってのは、金を使えるからな」
「試行錯誤がないから、ですか?」
「核開発に回るはずの金が通常兵器に回されるし、エンジンや電子機器の設計図がある。その通りに作ればいいんだから、スピードは自然と早まる。それに連邦の介入で底上げされる。日本のシロート連中の浅知恵じゃ分からねぇよ」
「もうファントム飛んでますからね」
「トムキャットを海軍が欲しがっとるぞ」
「載る空母ないんじゃ」
「ミッドウェイ級の空母には載らんから、キティホーク級の大きさが必要だから、あと数年は必要だ。どの内、開戦までには間に合わん」
レヴィの言うとおり、F-14は重量がネックとなり、ミッドウェイまでの大きさの空母には着艦不能で、連邦から空母を追加購入する事が検討されている。扶桑はF-14を単座化して購入したいという要望を出しており、連邦からその改修機を納入されている。64F用である。これは複座機に対する海軍戦闘機乗り達の抵抗感があるためで、空軍である64に先行配備される予定なのは、海軍の現場に能力を示すためだ。また、連邦結成に前後して、海軍航空隊戦闘機部門の構成員が『史実あ号作戦当時のヒヨコ共』と似たり寄ったりの練度である事を日本側が指摘したら、『陸に上げてたベテランを空軍に根こそぎ持って行かれた』と不満を露にしており、井上成美提督の推進していた海軍の空軍化が裏目に出た事が示された。彼が推進していた『海軍の空軍化』とは、『陸上航空基地は絶対に沈まない航空母艦である。航空母艦は運動力を有するから使用上便利ではあるが、極めて脆弱である。故に海軍航空兵力の主力は基地航空兵力であるべきである』とする戦前の理論からのものからで、史実の戦訓を知る者からは不備を指摘されまくっている。井上成美は史実の戦訓に顔色を変えたものの、『海軍は海のことだけ考えていろ』という評論家の指摘には激怒しており、『負けたからって、全部が悪いのかね!?』と憤激し、空軍移籍を決意したという。この時の課題だった海軍航空隊の練度低下は統合任務部隊態勢で補う事が空自から提案され、空軍の精鋭部隊は空母にも乗艦することも任務の内とされた。
「で、真美からのメールによると、宇垣さんや角田さん達武闘派と空自の幹部が空軍航空隊の空母乗艦で揉めて、殴り合いになったとか」
「なんですか、それ」
「あれだ。縄張り争いだよ」
呆れるレヴィ。宇垣纏や角田覚治などの武闘派に属する海軍提督らは海軍航空隊の自前の作戦能力を過信しており、空自と海自の幹部(将〜一佐レベル)の『JTF体制で空軍飛行隊を空母航空団に編成したら?』という提案に憤慨したのだ。その途中で臨席した昭和天皇と吉田茂が呆れるほど、子供じみた喧嘩であり、やり取りの一部は以下の通り。
『そんな事出来るか!』
『アホか、陸海空の足並み揃わんと近代戦はまともに戦えんわ!何のために統合作戦本部が有ると思ってるんだ?!』
『空に縄張りとか防空識別圏だけでたくさんだ!』
『吉田、彼らは何を言っとるのかね?』
『ハッ、子供じみた縄張り争いと言うやつです、陛下』
実質的な御前会議でこの醜態であるため、昭和天皇が呆れつつも、状況を見かねて仲介に入り、『海軍に問う、どの様な理由をもって提案を拒否するのか有り体に申してみよ。やむをえぬ場合は、朕が吉田を通して、空軍は海軍航空隊の補助という形で協力するように指令する。形の上では、朕はまだ大元帥である』という言葉を発する異例の事態となった。真美はその事を伝え、64Fは空母『瑞鶴』に乗艦し、海上任務も兼務されたしと、空軍結成前から決められたと書いてきた。レヴィは思わず苦笑する。
「瑞鶴か。縁起担いできたな……。天城と二択になって、ジェットの関係で瑞鶴か。妥当だな」
「確か、瑞鶴は装甲空母でもジェット対応でも?」
「船を大改造したから、なんとかいけた。かなり作り変えたから、史実と別物だ」
信濃が戦艦である以上、大鳳と翔鶴型航空母艦は最新の空母だ。扶桑としては艦齢が若い同艦級を数年で退役させることを良しとせず、手間をかけても大改造を施した。(大鳳に至っては艦齢が二年以内だった)扶桑は空母の急激な大型化こそ想定外で、15隻も雲龍型を作ったら、すぐに陳腐化したという有様だった。ジェット対応空母は最低で45000トン超えと、当時としては異例の大型艦になるため、連邦から空母を追加購入しないと、ローテーションすら組めない有様だった。自前で作るにしろ、港湾施設整備、ウィッチ部隊の整理などの問題も山積しており、最新だった二艦級の大改造は必然だった。その内の瑞鶴が64の母艦となり、それまでの母艦航空隊で残留するのは若本と新藤美枝(508の戦闘隊長)のみだ。若本と新藤は籍は海軍だが、この決定で64Fに出向する(Gウィッチであるため、取り置かれた)事が正式になる。ケイがレヴィとなった事に一番驚いていないウィッチは、若手当時におもちゃにされていた若本であり、レヴィとしての振る舞いが素であると悟っている。ちなみにレヴィとしてはガキンチョ扱いしていたりする。レヴィがデフォルトの今では、彼女が『ガキンチョ』というと、大抵は若本か菅野を指す。
「ああ、ガチンチョ共を残すのか。若本と新藤のガキか。新藤とは戦間期の時の空母の取材で会ったきりだな」
「忘れてたけど、レヴィさん、ジャーナリストとして食ってるんですよね」
「ケイとしては、な。この姿で取材できるかっての」
レヴィとしては、右肩にタトゥーがあり、雰囲気的にも堅気に見えない事はないが、ジャーナリストと言い張るのは無理がある。そのため、ジャーナリストを副業でする時には本当の容姿で活動している。物腰の柔らかさから、フリージャーナリストとして評判は上々である。レヴィとしては、ケイとしての行動時と対極の『(ケイと比較して、だが)短気で口汚くヘビースモーカーな銃撃狂』であるが。
「あっちはあっちで性に合ってるんだが、気遣いばっかってのもな。だから、この姿は気に入ってるんだ。ガキの頃の気質を表に出せるしな」
調に笑うレヴィ。タバコを咥えており、子供の教育にはお世辞にも良いとはいえないが、一種のクールなカッコよさがある。調はそのクールなカッコよさに憧れていたりする。黒江のように任意でのギアの作り変えはまだ出来ないが、一部分の装甲をパージして軽量化し、不整地に対応する(脚部装甲が円柱形かつローラー内蔵なため、不整地では足を取られ、ローラーが空転しやすいのである)事は出来るようになった。
「だから、その姿を……」
「ああ。こっちがあたしの本質に近いのさ。ケイとして過ごすと、ストレス多いからな。本当は黒髪だったんだが、アフリカ戦線にいたせいか、瞳の色まで茶になっちまって、親父が騒いでよ」
「紫外線のせいですか?」
「たぶんな。おかげで家族会議されちまった事がある。そのせいもあって、こっちでいるほうが気楽になった」
「それに黒髪だと、別の漫画のヒロインにしか見えないとか言われた事もあるから、ケイとしては結局、茶髪で通すようになったよ」
「そう言えば、元の姿だと、のび太くんが持ってる漫画のヒロインにそっくりだとか言われてますね」
「そうなんだよ。で、マルセイユの奴はその漫画のメインヒロインにそっくりとか言われてる」
「確かに、本棚にある漫画、えーと、タイトルは『月の海のるあ』でしたっけ?……のヒロインにそっくりですからね、マルセイユさん」
「あいつ、素で似てるから、コスプレも楽だかららなぁ。で、親父にこの姿見せようかと思うんだよ、45年に里帰りしたら騒ぎやがったから」
「心臓発作起こしますよ、お父さん」
「な〜に、ショック与えりゃカタブツも柔らかくなるだろ」
レヴィはウィッチ世界にいる実家の親をギャフンと言わせるため、目の前で変身しようと考えていた。調は『親が心臓発作起こすだろう』と一応は忠告しておいた。圭子の父親は明治生まれなため、俗に言うカタブツである。実家に帰ると、『明治生まれの時間厳守カタブツ親父』と、悪態をつくことが多い。その関係だが、変身は明治生まれ世代には衝撃が強すぎて、心臓発作を起こすと忠告する調。レヴィは意に介していないが。
「う〜……羨ましいデス!変身をポンポンできるなんて!」
「なに、鍛えりゃお前も出来るさ。外見だけならミッドチルダで魔法教わってこい。なのはがそれで子供時代に戻って、プロパガンダ映画撮ってたしな」
「なんデスと!!ぐぬぬ……」
圭子や黒江の行う変身は肉体の作り変えを伴うために高度な技能がいるが、外見上のみであれば、なのは達は映画撮影目的で行っている。それでプレシア・テスタロッサ事件、闇の書事件のプロパガンダ映画の撮影に臨んでいる。闇の書事変は管理局で栄達していたとある提督の行おうとした策謀関連のところは削除されているため、なのはは苦言を呈している。(当人達は反省しており、管理局の栄典を返却した上で英国で隠居しているが、クロノの父親の上官であった関係で、名誉の剥奪だけは免れた)クロノに苦言を呈したなのはだが、クロノは父親の上官だった彼を退役後に名誉を貶めるような事はしたくはないと告げ、『無かった事として扱う事が組織に取っては無難な選択だし、僕達家族の友人であった彼を辱めたくない』と述べている。クロノは闇の書事件のプロパガンダ映画製作にあたり、なのはから反感を買ったのは自覚しており、なのはとフェイト、それとはやての出番の比重を増やす事でどうにかなだめた。管理局としては、栄達した魔導師が他世界の人間を犠牲にして目的を達成しようとした不祥事は覆い隠さなくてはならぬ事実である。ましてや、その標的が現在の英雄たるはやてであることは)
「管理局は実質、今は連邦の管理下に置かれているからな。管理局は連邦の一部門となる可能性さえある。首都星の中心部が制圧された上、その奪還に失敗している。プロパガンダがどうしても必要なのさ。おまけに魔法至上主義も崩れた。管理局が生かされてる理由は秩序維持のためだけだ。あの組織は地球の助けなしには、もはや維持できないだろうな」
管理外世界の地球系世界の軍事力はミッドチルダを上回っていた。その事実がミッドチルダの関係者を震撼させ、改革派は内部の地球系魔導師の人心の繋ぎ止めに必死だった。そのため、なのはが比較的自由に行動出来るのは、なのはが地球連邦軍の軍人となっていたための、これ以上の人材流出を恐れたための措置である。誤算だったのは、クロノがなのはの『監視』としてつけた義理の妹が獅子座の黄金聖闘士として、完全に地球寄りになっていることだったりする。また、なのはは地球連邦軍に入隊していた絡みから、管理局から警戒され、実は軍属相当の嘱託局員扱いになっている。管理局の正規局員に任命されてはいたが、戦死扱いになっていたので、再入隊という形式を取ったためだ。しかし、英雄であるため、表向きは正規局員の扱いが継続したとされている。(実際は、連邦から帰還時点で連邦軍に入隊しているため、連邦軍からの出向者と見なされ、部隊指揮官にはなれない)なのはは今回の歴史においては定期的にアースに行っているため、成長で順当に軍人としての階級は上がっており、中学卒業からから高校時代は少佐である。そのため、今回の歴史においては、なのはは階級内の指揮継承権は最下位だが、はやてが戦術指揮を、正規の軍事教育を受けているなのはに丸投げしているため、実質的には継承権の二位とされている。はやても連邦の士官学校で教育を受け直したいと言っており、実質的な戦術指揮権継承順ははやて→なのは(地球連邦宇宙軍少佐)→ティアナ(扶桑皇国空軍下士官)→スバル(ガランドからの英才教育)→フェイト(黄金聖闘士)となっている。(また、デザリアム戦役時点の機動六課はエリオとキャロが抜けた穴を64Fメンバーに内定している扶桑軍エースの出向で埋めており、B世界より軍事色がだいぶ強い)
「そう言えば、なのはさんって別の自分自身と会ったんですよね?」
「正確に言えば、私らもこれからそうなる予定だ。変な気分だぞ?世界が違うと、繋がりがあったり無かったりする。なのはの奴なんて、別の自分を泣かせてたしな」
なのは達がB世界の自分たちと遭遇した事件に立ち会ったケイ(レヴィ)は、これから戦時中に、B世界の自分と出会う運命が待ち受けている。前史よりかなりややこしい事態になるのは目に見えている。なのは達のケースでも、前史よりかなり強力であったため、B側の見せ場は0だった。自分たちの場合も、既に前史の最終的な強さを超えたため、B側を守護せねばならぬだろう。
「私もそうなる可能性があるんでしょうか、レヴィさん」
「私らに関わった以上は充分にあり得る。そうなれば、別の自分を守らないといけなくなる。違う流れに沿って生きてきたって事は、今、ここにいる自分が磨いてきた技能は当然持ってなかったりする。調、お前の場合は、ギアが時限式のままだったりするだろう。そうしたらかなり揉めるぞ」
「想像はつきます。そうなったら、師匠と二人でスパルタかなぁ……」
「あと、なのはたちと違って、お前らは世界が多次元である事を知らなかったか、仮説の段階だろ?そうなったら襲われるぞ。なのはもフェイトに襲われたしな」
「本当ですか?」
「聞いた話だと、今回は自分で迎撃して、返り討ちにしたらしいんだが、泣かれたそうだ」
「あー、やっぱり…」
「そうなると、私も考えた方がいいかなぁ」
「今のお前なら、シュルシャガナの絶唱だろうが、イグナイトだろうが、エクスカリバーで一刀両断できるだろー?」
「まぁ、それはそうなんですけど、私のにもイグナイトは一応ついてますけど、それしなくても強くなったから、使う機会なくて」
シンフォギアは魔法少女事変で一回、例外なく破壊されたため、エルフナインの手で魔剣ダインスレイフの欠片を媒体にしたブースト機能を追加されて修復されている。黒江はそれを用いなくても、充分に圧倒できる戦力を持つが、調の帰還を考え、搭載を了承している。イグナイトモジュールは暴走状態を意図的に起こし、それを理性で制御し、ギアの解除までのタイムリミットまでに増強された攻撃力と耐久力でねじ伏せるのが目的である。しかし、能力増強には上限があり、黒江のセブンセンシズにはやはり及ばない。調もリスクのあるイグナイトよりも、人為的にエクスドライブを起こしたほうが早いと踏んだため、使用はしていない。切歌はぶーたれた。
「イグナイトをそんな扱い出来るなんて……聖闘士が羨ましいデス!」
「お前も二軍相手ならなんとか行けるようになれば、覚醒は近いはずだぞ、切歌。目標は邪武だな」
ユニコーンの邪武。青銅聖闘士の二軍では最高位の力を持つが、青銅聖闘士の域は出ないため、最近は『雑兵よりはマシ』と認識される程度だ。だが、それでもこの時点のマリアと切歌のイグナイトモジュール発動状態をユニコーンギャロップで一蹴するほどに強く、切歌は力の次元の差を実感している。
「あのスカしたやつをボコボコにしないと腹の虫が収まらないデスよ。でも、まさかイグナイトを一蹴できるなんて」
「邪武はああ見えて、星矢さん達を除けば、青銅最高位だし、切ちゃんとマリアが歯が立たないのも当然だよ」
「こ、これが黄金聖闘士の技能引き継ぎと、候補生の差デスか…」
「な、なんかゴメン」
調と切歌は互いに気まずさはあるが、会話をする分には問題ない程度にまで関係は修復していた。レヴィが希望を見出しているのは、それが理由だ。
「で、でも頑張ろう?協力するから!」
「……」
(あ、や、やばい!?)
切歌は拗ねたようで、一睨みした。調は一瞬、ビクッとなった。それを感じ取った切歌は『あ、い、いや、頑張るデス!』と慌てたように言い、ひとまず誤魔化す。
「若いっていいですねぇ」
「お前、ジジイみたいな事言いやがって。まだ稼働開始から10年だろ」
「ロボットの世界じゃ、10年経つと中古なんですよ。みんなにはいつも言われてるけど」
「お前なぁ。そのくせ、慌てた時はポケットから食べかけの骨付き肉出てくるだろうが」
「慌てた時はダメなんですよ、ぼく」
「ハァ。そんなんだから、8月に検診サボったばかりに故障起こして、のび太がパニック起こすんだろ」
「はぁ。反省してます」
レヴィが呆れたのは、西暦2000年の8月。ドラえもんは定期検診を受けていなかったため、内部のパイプの破断やポンプに異常が起こり、パニックに陥ったドラえもんはショックで失神。それを見かねたのび太がスモールライトでドラえもんの体の中に突入し、それを知った調も顔面蒼白になり、のび太の後を追ったという出来事だった。その時は調がのび太の後を必死に追いかけ、のび太が胃袋(スイッチを切っていたため、どら焼きで埋め尽くされていた)に達した時に追いついて、どら焼きの上に調が着地して、ドラえもんの食欲に呆れ果てているところで、応急処置を施すためにドラミが送り込んでいたミニドラを見つける、ドラえもんの自己免疫機能から調をかばって、のび太が負傷する一幕もあり、調がのび太への敬愛を決定的にした出来事であった。機械版ミクロの決死圏とのび太は評したが、最後に四次元ポケットの稼働パイプが経年劣化で破断し、のび太とミニドラが吸い込まれそうになり、調は精一杯の力でのび太とミニドラを守ろうとした。その時の出来事から、のび太への好感をはっきりと示すようになった。その際には、のび太とミニドラを抱え、なんとかドラえもんの鼻から脱出に成功し、ドラえもんとドラミに発見された際には、のび太に抱きついて喜ぶ姿を見せたので、ドラミを驚かせたという。
「あの時は必死でした。ドラえもん君の四次元ポケットに吸い込まれたら、一巻の終わりだって知ってたから、無我夢中で……」
「ドラえもんのおかげで、のび太はいい妹を持てたよーだな、えぇ?」
「そ、そんなんじゃないですって!」
レヴィにからかわれ、赤面しながら否定しようとするが、最後のほうは呂律が回っていないという可愛さを見せる調。切歌は調がここまで好感を持った相手であるのび太に内心、嫉妬しつつも、その優しさに誰もが惹かれると実感していた。不思議とのび太を妬まず、むしろ羨ましく思っているのに気づいたか、切歌の表情は、調と『別れる前』のように穏やかだった。それはのび太の純真さが成せる業かもしれない。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m