ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部
――扶桑皇国軍はデザリアム戦役に協力する傍ら、自身が控えている太平洋戦争の準備も行っていた。それには日本を巻き込み、強引に行っていた。自身が主戦場となる太平洋戦争の戦略は『とにかく引きこもって、大損害を負わせた後にハワイか西海岸で手打ち』というものだった。それは日本の反戦派の妨害工作が行われ、攻勢計画が頓挫させられた前史の教訓で得られた成果だった――
――扶桑皇国 首相官邸――
「吉田総理。何故、このような守勢主体の計画なのです?」
「攻勢に出たら君らの所の市民団体連中が五月蝿いだろう?」
葉巻を更かし、安倍シンゾーに告げる吉田茂。彼は日本の世論が扶桑の戦争に巻き込まれるのを嫌うのを理解していた。学園都市が戦争に勝ったものの、2010年代後半頃の日本国民は一枚岩でなく、中には連邦を組む事に最後まで反対した者、反戦自衛官や反戦に転じた旧軍人らも迎合し、扶桑軍の組織解体を叫ぶ者すら存在していた。特に、2016年度は扶桑から『太平洋での戦は勃発間違い無し』と通告されたので、国会が大荒れなのだ。
「君らは儂の同位体が残した『吉田ドクトリン』という物を信じ切っておる。あんなもの、経済復興までの方便だよ、方便」
「ですが、我が国は経済官僚らがそれを前提に国を作ってしまった」
「戦争は外交努力の末の結果だよ、シンゾー君。それでしかない。過去には信長公と太閤殿下しか理解しとらんかったが」
吉田は言う。同位体の吉田ドクトリンは役目を終えたと。既に世界有数の経済力を持つのなら、相応の軍備を持つのが大国の条件だと。
「世界有数の経済力も既に陰りを見せておったのなら、最後は軍事力しかないのだ。安いもののはずだがね、我が国が用意するのだからな、空母機動部隊も戦艦部隊もな」
「お恥ずかしい話です。貴方方の戦艦や空母の全解体、あるいは限られた数の保有を主張する野党がいまして」
「軍事音痴の若造共めが。なんなら、この儂自ら答弁してやろうかね」
提唱者である吉田自身が『経済復興への方便である』と答弁すれば、吉田ドクトリンは文字通りに崩壊するだろう。それには反発が起こるだろう。
「江戸時代を経ている君らは、とかく法律やルールの固守が好きなようだ。必要な改訂も問題が起きてからするような間抜けな事になる。そして他人の目を気にしすぎてやらなくても良い事をルールに決める。それこそちゃんちゃらおかしい事だ」
吉田は日本人の気質に冷静な批評を述べた。
「それに、君らの国民のあの変な気質。資料を確認して思想信条が基本的に同じであると確認した上と、念のために前置きしておく。多元世界の同位国家の同位者だしな、儂は。事後法で裁かれた戦犯だからと、永田元・軍令部総長の入閣を論い、大陸駐留軍の在籍経験のある軍人への焼き討ちはどうにかできんのかね?」
日本人の一部にいるが、自分らの価値観で戦犯や負の歴史の引き金を引いたとされた人物を一方的に断罪し、私刑を行う者。特に、個人的恨みから犯罪に走った者もおり、中には、参謀だったというだけで、チェーンソーでバラバラ死体にされた例もあるのだ。そのため、扶桑は警察力を公使している。また、自衛官の中にも、『史実関東軍にはまともなオツムもないから、中央から排除』とする見下しも存在する。
「あれこそ、お上のお付きである藤田尚徳大将が嘆いていた事だ。何故、未然に防ごうとせずに、名誉毀損をするのかと?」
「我々は長く、忍耐を強いられた国でありますし、彼らの同位体の選択で国が敗れたのは事実ではあります。ですが、実際、若手参謀や中堅どころは戦技研究会でボロボロだった者も多かったのです」
「幼年学校などを改編したが、成果が出るのは当分先だ。当分は彼らを用いなくてはならん。しかし、彼らは防御というものが薄い。君らのように人同士の戦争など、80年はしとらんかったしな」
「それに、あのウィッチという存在が主役だったのでしょう?その大半は軍人としての意識が希薄だ」
日本の防衛大臣がここで口を開いた。防衛大臣はウィッチ達の『軍人意識の希薄さ』に苦言を呈した。
「彼女らは『兵器としても、兵士としても中途半端なモン』ですな。『高い金をかけて育成しても、10年程度で新陳代謝が起こる』というのは、割にあいません。それに頼っているとは嘆かわしい」
「世界のすべての国が嘆いていた事だよ、それは。彼女らにとっては『10代』という短い期間だけの兵隊ごっこ遊びなのだ。だからこそ希少なのだよ、黒江くんのような『根っからの職業軍人は」
「彼女は我々から見てもウォーモンガーですが、あれくらいの気概が欲しい」
「特に、航空ウィッチは直接的に戦場を見ないからね。黒江くんや彼女とトリオを組んでいたのは近接航空支援も進んでしていたから、よく理解しているが」
「彼女はいつから軍歴を?」
「1930年代からだ。実戦部隊に配属されてから頭角を現した。その時は15歳から16歳の若造だったが」
「彼女らはよく奮戦した。我々がウラジオストクを失陥しなかったのは、ひとえに彼女らトリオのおかげだ。我々、いや、国際連盟の各国は『レイブンズ』と呼んでおる。国内では『三羽烏』だったが、今ではそちらの方が通りが良い」
クロウズという後発が現られたりしたので、扶桑国内でも『レイブンズ』が使用され始めて数年になる。そのため、三羽烏という名称は廃れている。また、黒江達の復帰後はウィッチ啓発のプロパガンダに用いているので、世代間闘争になっていると告げる。
「世代間闘争?」
「彼女らは本来なら、ウィッチとしては既に引退して然るべき年齢でな。君らの子孫らの技術で復帰させたのだが、現役世代から『老害がしゃしゃり出るな!!』と陰口が聞かれるのだよ。それは統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズにお送り込んだ際にもあった」
「ほう。あのストライクウィッチーズでも?」
「坂本少佐の更に上に相当するから、現場で勘違いされてな。君が言ったように、彼女らが若手として戦った時代から7年も経過している。と、言うことは?」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐であっても知らないということですな」
「そうだ。現場にいるモノの大半は彼女らの武功を知らなかった。おかげで、二回も査問開く羽目になった。一回は兵士の通報からの形式的なものだが…」
「ヴィルケ中佐の人事評価は?」
「かなり下がったと聞いている。整備班の男性との接触禁止の内規が過去にあったのも不味かったらしい」
「それで?」
「彼女が猛省をした事で収まったとの事だ。彼女が対応を間違っていれば、大尉への降格もあり得たと聞いている」
「というと」
「それが、黒江くんがある日、整備班と話していたのを咎められたのがきっかけで整備班がサボタージュ起こす出来事があったのだ。それは報告を受けている」
ミーナが連邦軍への留学を勧められた原因の一つに、整備に対しての対応の違いがあった。黒江は、整備班と詳細を詰めて、自分も整備教育を受けて手空き時には整備チェックを行う習慣があった。ミーナは整備班に一任しており、内規を基本的には守っていた。(共同戦線中は特例と言い繕っていた)事情を知らぬので、そのところを咎めたら、整備班が怒り狂い、ミーナは整備班にサボタージュされ、その日の出撃に於いて、ミーナ機以外がオーバーホール中という情けない事態に陥った。そこでGウィッチ覚醒者達が暴れてどうにか凌いだ。(陸戦で)ハルトマンもその時にGウィッチとしての顔を初めて見せ、呆れ果てた表情で『二階級降格もあり得るからね?』と脅した。比較的『初期』に起こり、Gウィッチ達が初めて、存在感を見せたエピソードである。
「彼女らはウィッチの中でも特殊な存在でね。一言では説明は困難だ。中には、過去の偉人の生まれ変わりで、その偉人の自我が二重人格として覚醒めたケースもある」
それは主に、モードレッドの事だ。モードレッドは覚醒後、その処遇でガリア政府とブリタニア政府が揉め、最終的にガランドが『ウチが引っ張るから』という事で、G機関所属となった。Gウィッチ達は基本的に、ガランドの計らいでG機関に属するようになり、通常ウィッチとは別に、人事管理がなされていく。これは黒江や下原へのいじめを教訓に、通常部隊配属は極めてリスクが高いと見られたからで、扶桑は64Fの復活で対応している。扶桑はGウィッチの発現が極めて多く、理解もあるので、容易にG機関に一任したが、欧州系がゴネたのだ。特にガランド命名、『Fウィッチ』(フュージョンド・ウィッチ/ファントムウィッチ。過去の英霊達に憑依され、あるいは融合し、自我が英霊達のそれ主体に生まれ変わった者を指す)の扱いは容易ではない。ペリーヌはガリアの救国の英雄であったので、モードレッドと二重人格化した事が判明すると、現場単位でも混乱した。特に、ミーナやロザリー、フレデリカ、ラル、サーシャなどの隊長陣の前に赤い騎士服姿で現れた時など、大混乱になった。口調も別人のように粗野になっており、一人称もオレであるなど、元のペリーヌの特徴がない。更に、それを窘めるため、アルトリアがやってきたので、さあ大変。元の特徴が全く無くなっているので、黒江が仲立ちしないと、元が誰か分からなかった。更にそれで、『英霊』であると分かり、余計に事態が悪化している。
「おうおうおう!このオレ、生まれ変わって、今はガリアっ子よ!生まれ出でた国に尽くして何が悪い!」
モードレッドの啖呵だが、円卓の騎士であった者にしては妙に江戸っ子みたいな啖呵なので、黒江は大笑い。アルトリアは頭を抱えた。
「お主というものは……。仮にも皆の前だというのに、お恥ずかしいところを」
「貴方は……?」
「このモードレッドの母親にあたる者、かつてはブリテンの王でした」
ラルがいの一番に跪き、最敬礼を取った。そして、『国王……いえ、女王陛下』と言ってみせた。Gウィッチであるので、対応が速い。アルトリアは伝説のアーサー王そのもの。確かに一度は王位についていた。過去の王位保持者なので、陛下と呼ぶのには異論は無い。
「今は王位に有りません、それにこの姿はかりそめのもの、元の階級に従えば、私が礼をとる立場です」
凛とした声で答え、立礼するアルトリア。凛とした佇まいの女性騎士というのが正しいだろう。銀色の甲冑と白の騎士服姿もあり、一同は圧倒された。その際に、敵が襲って来たので、黒江と共同でエクスカリバーを使用している。この際の様子は戦いが粗方、落ち着いたかと思われた局面でのどんでん返しだったので、その場の事はマスメディアに記録されている。また、次第にハインリーケというよりも、アルトリアが主体になっていったのもあり、彼女にクイーンオブウィッチの称号が与えられたのも当然の成り行きである。かつて王であった故か、苦悩も多く、生まれ変わっても貴族であるが故の責務に縛られている。だが、黒田の存在が彼女を癒やしている事が判明し、黒田は、黒江とアルトリアの双方に仕える事になる。黒田は黒江/アルトリアの双方によく仕え、双方の求めるレベルに応えられるだけの技能もあるので、G/Fウィッチのキーパーソンとなっているのだ。つまり、彼女は他世界と違い、英霊達も認めるほどに戦闘能力を極めているのである。
「――英霊達も好きで生き返った訳ではない。世界が彼らの蘇りを望んだ。君らの子孫らが生み出した黄昏の巨人達が我らの世界を蹂躙した。この世界を救ってくれと願ったからこその奇跡だ」
「我々の子孫……」
「そうです。ティターンズとエゥーゴと言えばお分かりですか、首相」
「君は……」
「黒田邦佳君。黒田家次期当主であり、侯爵。空軍少佐でもある」
黒田は首脳会談に参加していた。デザリアム戦役に参戦しているが、日本の太平洋戦争での役目を周知させるため、休暇を取って戻っていた。珍しく軍服姿で、これまでに授与された勲章をジャラジャラつけている。
「彼女は黒江綾香くんの腹心でもある古株だよ。彼女の僚機を長年務めている」
「彼女のバディ……という事ですか?」
「そうです。准将閣下とは長い付き合いでして。もう10年近く組んでおります」
黒田は当主就任を間近に控えている。更に、黒江の相棒であるという泊、吉田茂と個人的に親しい事から、呼ばれたのだ。ティターンズとエゥーゴの事情も知っているからだ。黒田は23世紀までに起こった出来事を大まかに説明した。極秘中の極秘事項に属するとして。その中で、ラ號のことにも触れた。
「貴国が過去、歴史の闇に葬ったラ級戦艦は生きております。国連からはこの時代なりの理由で守り抜きながら」
「国連がそのような事を?」
「旧轟天振武隊の子孫らがいる、ある島に通告されております。貴方方の頭ごなしに」
旧轟天振武隊は旧海軍の部隊であるので、国連も国際連合というよりは、旧連合国として通達してきた。ラ號は表向き、旧部隊の参謀が戦後に興したコンツェルンの財団所有の実験船ということになっている。だが、英国のラ級が現存していた事から、日本海軍のラ級は存在すると睨んでおり、かつての連合国たる国際連合は戦後の引き渡しの条項を名目に、解体か引き渡しを要求してきていた。『インヴィンシブルの脅威になる』からだ。これは日本政府の頭ごなしに行われており、事実上、大日本帝国海軍と連合国の話し合いであった。結局、インヴィンシブルの保有が公に知られると、英国が政治的に不味くなるため、黙認することで手打ちになった。
「インヴィンシブル。G3型のプランの再利用ですが、英国は今も保有しております。フォークランドの際には首相が使用指令を出しましたが、海軍の勘違いでポシャりました」
「フォークランド紛争に戦艦を?」
「ええ。空も飛べますし、艦載機もある。ですので、投入が極秘に内定していたのです。実際は海軍高官と空軍高官が知らなかったので投入されず、彼らは左遷の憂き目に成りましたが」
当時の首相のヒステリックぶりは当時の軍部には恐怖で、インヴィンシブルという空中戦艦があった事を知らなかったのに、一方的に責められたので、何人かは憤慨して辞表を出している。実物を見た高官の一人は『言い伝えてくれていれば、あんな苦労して作戦を練る必要は!』と前任者らを責め立てている。前任者らは『いや、防御手段が装甲だけだし、戦艦の近代化のノウハウなど、何十年も昔に失われておる。戦闘機がうろつくところに出せるか分からなかったのだ』と述べた。この騒動で英国のそれの存在に気づいた米国はノウハウ再取得も兼ね、80年代にアイオワ級を復活させている。結果、ティターンズはアメリカに潜ませたシンパからラ級の情報を得、更にバダンから波動エンジンと重力機関を提供され、当時のプラン通りに『モンタナ』の改修、『リバティー』の新造に踏み切っている。
「貴国の財団が持つ轟天号はダミー。二番艦に使われるはずだった物を使って、でっち上げたホビーです。実際は完成しております。ですが、空中での機動性が貴方方の時代の技術では解決が不可能でした」
「すると、23世紀の連邦が持つあの宇宙戦艦は?」
「ラ號改二型。宇宙戦艦ヤマトの准同型艦の扱いになっているラ號ですよ。だから砲塔が面影なかったでしょう?」
「彼らの時代でようやく?」
「波動エンジンさまさまですよ。今は宇宙で敵を監視しているはずです。それと、貴国の左派を黙らせる手段として、我々の一線級戦艦が、史実のそれからかけ離れた兵器に生まれ変わっていることを証明する写真があります」
それは改大和型の三河の艤装中の写真だったが、明らかに、積まれている武器が21世紀から考えても一級の装備なのだ。レーダー装備もそうだ。
「自衛隊には通告しております。これが貴方方以後の技術で改造した大和型なのです」
黒田が掲示した写真は、明らかにアメリカ軍のアイオワ級の近代化後の姿よりも一歩先の洗練された姿を備え、尚且つ大和型の構造物バランスを維持していた。自衛隊に通告されているという事は、近代的戦闘ネットワークに組み込まれているという事だ。シンゾーは唸った。左派の攻撃を一蹴できるいいチャンスだからだ。
「公表は私共も手助け致します。これなら野党もグウの音も出ないでしょう」
野党は軍事的音痴から、戦艦は大和のみか、武蔵とのペアを持っていれば、国民の客寄せパンダになるという観点から喚いていた。これでも改善されたほうで、当初は全廃を唱え、国民から顰蹙を買って、地方選挙にボロ負けし、慌てて方針を変えたからだ。
「これを御覧ください。彼らが呉を襲撃した際の砲撃戦の映像です」
映像には、紀伊が撃ち負け、ズタボロにされて撃沈される瞬間と、ミッド動乱での、大和型と同格以上の海獣の宴が移されていた。更に、扶桑の国力に対しての維持費の割合も記録されている。
「カラーフィルムで記録している、実際の映像です。既にそちらの財務省にも見せていますし、防衛相もご存知です」
「ええ。財務の連中も仕方がないと唸ってます。扶桑の国家予算がプラスされるので、我が国に負担がかかるわけでもありませんし」
「この時代より遥かに強力な23世紀の軍備でも、航空攻撃では多少の火災は発生させられたものの航行、主砲射撃には支障なしの小破判定でした。そこでのモンタナですよ。あれは対大和用。戦間期型の紀伊では歯が立たないのも自明の理です」
「これが君への贈り物だ、シンゾー君。君のお祖父様もよろしく言っておった。モンタナ級の存在も併せて貴国へ公表する。核兵器を持つよりはよほどキレイな軍事力のシンボルだよ、船は」
「核兵器がなく、航空機や潜水艦に対抗手段が出来た以上、戦艦は海の女王の地位を取り戻した。核兵器を撃ち込まれようが、23世紀の対消滅型反応兵器を想定した装甲だ。事実上、対抗手段は殆どない。そのための大和型のFARMだ」
その日の内に、2017年日本の新聞に『驚異!近代化された戦艦大和の威力!!』と題した号外が配られた。核兵器すら無効化するその威力に日本国民は『核兵器を廃絶できる!!』と大喜びしたが、実際には却って、各国を『次世代の核』の研究に邁進させる事となる。そうして生み出されるのが、22世紀の統合戦争前に実用化された反応兵器群である。列強各国の核戦力の陳腐化は、東西冷戦からの世界秩序の崩壊を意味するため、彼らは核戦力の維持のために多大な予算を費やし、反応兵器を生み出すに至る。それは日本人の願いが儚いモノであったと同時に、核抑止力を信仰する列強らとの心境の差であった。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m