ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部
――23世紀に復活したジャンヌ・ダルクは、ルナマリア・ホークの肉体を依代にしたため、パーソナリティの一部は、ルナマリアの持っていたものを引き継いでいた。人格が融合したので、『ジャンヌ・ダルクにルナマリア要素を加えた』人格であるのが正しいだろう。そのため、野比家ではルナマリアが元来、好んでいたようなラフな服装を着ていた。
「シンー、シミュレータは終わりました?」
「なんとか。ただ、まぁ、動かしやすくは感じたよ。デスティニーやインパルスがなんだったのかと思うくらいに」
MSの操縦シミュレータ訓練をしているシン。元々がパイロットなので、カンは取り戻しつつあるが、ビームシールドが普及している世界なので、射撃より格闘寄りのシンは悪戦苦闘している。
「ドラえもんが言ってましたよ、『ザフトのMSの操作系が整理されてなくて操作が煩雑すぎ。というか、バランサーやリアクションまでマニュアルとか制御され無さ過ぎ』とか」
「プラントのモビルスーツは、コーディネーターの強化されてる神経系が前提条件だからな。だけど、この世界のモビルスーツは『誰でも動かせる』。これは凄いことだよ」
シンも驚いているが、未来世界のモビルスーツはコーディネーターが存在しない世界線なので、『訓練すれば誰でも動かせる』。しかも、ニュータイプという『コーディネーターすら超える存在』にも対応できるので、驚きだ。コーディネーターは根本的に『遺伝子操作で基礎能力を通常より強くした』人間であるが、ニュータイプは根本的に戦闘能力が違うのだ。次元が違うという奴だ。
「ニュータイプは反応速度が違いすぎる。俺が必殺のタイミングと思った攻撃を軽く避けていくし、しかも反撃を加えていくんだぜ。フリーダムと初めてやった時以上の何かを感じたよ」
「ニュータイプは根本的に戦闘能力が高いですから。特に、アムロ少佐クラスでは、強化人間が束になっても一蹴できます。それ故、機体も相応の性能が求められる」
「あの人は操縦技術が違いすぎる。シミュレータに過去のデータを元にしたのがあったんだけど、新兵の頃であの動きは反則だ、反則」
「あのシミュレータに勝てたのは、過去に数人だけだそうですから。彼の後のニュータイプ達が挑んでも一回では無理だったとの事です」
「でも、本当、色々と機体作ったもんだ。データみると、ジオン系だけでごちゃまんとある」
「ジオンはザフトよりも設計システムが優れていますから。ただ、機種を作りすぎたのが敗北の一因と言われていますよ」
「でも、ポンポンと作ってないか?」
「私も記録を見ただけなのですが、ファーストガンダムの出現で既存機種が歯が立たないからという理由で加速したとされています。それと、ジオンの汎用機は『ザク/グフ系、ドム系、ゲルググ系の何れか』になりますね。色々な都合で」
「そう言えば、前の戦争でゲイツが大勢を決しなかったのは、量産が遅れたからだ、なんて聞いたけど、似たことはあるんだな」
「ジオンの場合は、『ザクのチューンナップに固執したから』というのも聞きますよ。仮想戦記作家がよく使う手ですけど」
未来世界では、ジオンの敗北後、ジオンの勝利IFを描く仮想戦記が一定の人気を持っている。ゲルググの開発が間に合うケースが一番ポピュラーである。実際はゲルググが早期に出てきても、連邦はジムでなく、ジーラインを大量生産していたであろうという予測が出ている。連邦軍はジムの後継機種にジーラインを予定していたからだ。
「連邦はジム系で量産機種を済ませてますけど、戦争中に後継機種は思案していましたし、ガンダムの完全量産も考えていました。それが早められて、ジオンはジリ貧だというのが大方の見方ですけど」
「うーん。プラントはなんで勝てると思ったんだろうな」
「アスランのお父様は、フリーダムとジャスティスで戦場を支配できる幻想に囚われていたのでしょう」
ルナマリアの記憶に未来世界のアニメで得た知識を加えた見解だが、実際もそんなものである。アスラン・ザラの父『パトリック・ザラ』は戦争末期、フリーダムとジャスティスに最高のエース級コーディネーターを乗せれば無敵であるとする幻想を抱いていた。実際、フリーダムとジャスティスを以ても、オーブの劣勢は跳ね返せなかったし、未来世界でも、ニュータイプパイロットにはカウンターになる存在が現れるのが常だ。ジャンヌはルナマリアの記憶から、第三者的に語る。
「……フリーダムか。あれがプラントの作った機体なのは有名だったけど、ここにはそれがおもちゃみたいなガンダムがごまんとある。本当、世界が違うと、こういうもんなのか?」
「基礎技術が違いますから。ここのMSは最低でも核融合反応炉、超高級機だと、ミノフスキードライブ。こうなると、コズミック・イラのどんな機体も有象無象に過ぎません。前大戦の時の極秘記録がそれを物語ってますよ、シン」
「V2……ガンダム」
「フリーダムの本体重量は71.5t。ZZの本体重量は32.7t。V2は11.5t。結果は……分かるでしょう」
「嘘だろ……軽すぎる!」
「仕方がありません。装甲材技術は、コズミック・イラとこの世界とでは、天と地ほどの開きがあります。アナザーガンダムに至っては見かけに反して、10トンもない重量です。性能差はこうした要素でも表れます」
カタログスペックではフリーダムは強力な推力を持つが、未来世界から見れば、『重いのをバ推力で飛ばしてるだけ』と見られている。未来世界では様々な手段を講じ、最終的にはミノフスキークラフトと重力制御装置の複合で飛ばす方向にはなったが、推進剤や労力節約のため、可変機は造られ続けている。それと、ミノフスキークラフト搭載機は高価になるので、可変機が相対的に廉価と取られる。第5世代MS(ミノフスキークラフト搭載型MS)の新規設計がストップしたのも、高コストなのが問題である。24世紀相当の技術で値段を下げたが、改修費は依然として高額で、デザリアム戦役勃発までに、地球の全部には普及しなかったのだ。
「ミノフスキークラフトは高額な装備ですから。だから、可変機が普及しているのです。オーブのムラサメがありましたが、あれとも比較になりません」
「うーん……。なんで、ある時からこっちの機体がここの世界のに似通い始めたんだ?」
「ルナツーが一時的に転移した時に、両陣営がハッキングでデータを一部得たからです。ザクのウィザードシステムはF90のミッションパックシステムのアイデアを元にした、というのが囁かれてますし、ムラサメはZ系のフレームデータをもとにしたとか…」
「マジかよ……」
「連合軍もザフトも、連邦軍の兵器の情報は喉から手が出るほど欲しい戦略的価値のある情報です。ルナツーが戻るまでにかなりの労力を費やしたのは容易に考えつきます。フリーダムの改良型のレイアウトは、νガンダム系列のデータからヒントを得たらしいとも言われてますよ」
三隻同盟(オーブ)もすべてのデータは与えられておらず、地球連邦軍の提供した動力源を組み込んだ機体、あるいは供与機は秘匿されている。ストライクフリーダムの改修にあたっては、ベースとなる量産試作型フリーダムにコズミック・イラ世界で数年間で実用化された技術で改造を加える堅実な選択を取ったが、重量が80トンを超えている。未来世界でもこの重量を超えるのはEx-Sのみだ。
「データを得たところで、どの道、コズミック・イラの技術レベルでは核融合炉の小型化すら困難である以上、代用技術で補うしかありません。インパルスやザクの換装、クライン派のドムはその産物です」
一般に、ストライカーシステムの模倣と見做されているウィザードシステムだが、発想自体は解析したガンダムF90のミッションパックに由来する。F90のミッションパックは実験用の装備ではあったが、プラント技術陣は『核エンジンが禁止されるし、使える!!』と飛びつき、ジム系のバックパック換装データと併せ、自分達なりに解釈し、生産した。コズミック・イラでは核エンジン搭載機が無敵を誇るが、一般量産機は大戦当時からそれほど代わり映えしていないため、これは大成功であった。また、旧ジオンのドムは基礎設計が流出したが、プラントの人員にはホバー移動の受けが悪く、採用されなかったが、クライン派が自分達の戦力として完成させ、猛威を振るっていた。(その時の参考にされたのが、一年戦争でのドム系の活躍のデータである)
「でも、なんでそうして生み出した機体が強いんだ?」
「この世界の技術で生み出された機体は、一般量産機でも核融合炉を積み、超高級機では、ミノフスキードライブを積んでいます。それらの成功したデータを適応させているのですから、既存の機体より優れているのです。インパルスにしても、カタログスペックではフリーダムと武器の威力以外では互角とされていましたし」
当然だが、カタログスペックで言うなら、インパルスの時点でフリーダムと互角の戦闘力を理論上は得ているし、デスティニーはそれを更に上回る。だが、この世界の機動兵器には、歯が立たなかったし、武子にも『それで歯が立たなかったから〜』と評されている。
「モビルスーツ以外にも、可変戦闘機やメタルアーマーもあります。この世界ではデスティニーやインパルスは『モビルワーカー』に入ってしまう出力でしょう」
「嘘だろ?まったくどうなってるんだよ、この世界は」
「そういう世界としか。准将は可変戦闘機と可変MS乗りもしてますから、シミュレータにそれらのデータを入れておいてくれてるけど、もう一戦やります?」
「頼む。アスランより落ちるかもしれないけど、昔取った杵柄、FAITHだったんだぞ、俺」
シンはギルバート・デュランダルが利用する形で、『FAITH』というザフトのトップエリートに任せられていた。大抵の世界では、ギルバート・デュランダルの手駒だったのが咎められ、クライン政権(二代。ラクス・クラインが首班)の手で『FAITH』の資格の剥奪がなされる。(アスランやルナマリアの弁護が実り、赤服の剥奪には至らなかった)その結末をジャンヌは知っているため、ルナマリアとしての感情も見せる。(このシンの場合は、戦闘中行方不明扱いで自動的に停止。プラントでも死亡扱い)
「いや、あれ、単に独立監査官みたいな感じだし、連邦のエースがいれば、二対二なら完封されてますよ?特に、あなたは猪突猛進型だし」
「うっ!くそぉ、そこは覚えてるのかよ…」
ガックリするシン。ジャンヌ・ダルクになっても、ルナマリアとしての記憶は持っているので、シンとしては色々とアレである。自分の伴侶としたのはいいが、自分は土方、妻は職業軍人(民間企業上がり)と、立場的にはヒモになりかねない。その為、連邦軍への入隊を志願したいのだ。
「ジャンヌ、この戦争終わったら、軍に正式に入りたいんだけど…」
「それはいいけれど、連邦軍は階級がちゃんとある軍隊ですよ?口の利き方覚えましょうね?」
「ぐぬぬ…、反論できねぇ…」
シンはパイロットが天職と感じたか、軍入隊の考えを明かした。元々、ガンダムパイロットであるので、速成コースから少尉任官がすぐだろうという目測もあってのことだが、シンは本来、心優しく寡黙な性格の少年だったが、家族を全て失ったのがキーとなり、感情の起伏が激しい、攻撃的な性格に変貌してしまった。転移で別次元のステラに出会ってからは本来の性格に回帰し始めているが、精神的安定が得られても、攻撃的な面は直らず、ある意味では、黒江と似た精神状態と言える。
「オレ、今の状態であることが、ある意味で嬉しいかもしれない。一度は看取ったはずのステラとまた会えたし、君と出会えた。オレの知ってるルナマリアじゃ無くなって、大昔の偉人だがと人格が融合しても、残ってるところはある」
シンは、ルナマリアがジャンヌの依代になった事も引っくるめて受け入れた。オルタから元に戻すためにキスをぶちかましたのも、彼なりの好意の発露だろう。その為、オルタとしての怨念が、一発で浄化されるという偉業を達成している。その場には偶々、様子を見に来た黒江が居合わせており、『やりやがったぁ――!』と絶叫していた。シンもここぞで主人公属性を発揮するのだ。(キラ・ヤマトほどでないが)
「ありがとう。だけど、早くプログラム済ませたほうがいいですよ?もう4時半。あと一時間半くらいで食事ですよ?」
「マジかよ!?てきとーにプログラム頼む!」
シンは指示するが、ジャンヌはイタズラでプログラムの相手を『VF-X』にしていたので、一時間半ほど、格納庫内部にシンの絶叫が響き渡ったという。
――調は、フェイトから送られた『自分たちのアニメ』を見ていた。本来、自分が辿るはずの流れを目にした事になるので、気持ちとしては複雑であり、また、アニメの中で切歌が絶唱を使うと、のび太の手を強く握ってしまい、坂本に母性に満ちた顔を向けられ、赤面してしまう場面があった。自分はアニメと違う道を辿っていると自覚していても、どうしても切歌が命がけの場面ではハラハラしてしまうらしく、のび太に抱きつく。のび太が天然でスケコマシなため、坂本は『しずかが最終的に惚れるはずだ』と述べる。調は孤児院以前の記憶がなく、『家族』を求めていた節が見受けられ、のび太との擬似的な家族関係でいる事を求めている。坂本は、のび太が人心を引きつける何かがある事に気づいている。調がのび太との『家族関係』を望むのは、真の意味で、切歌とは違う意味での孤独を埋めてくれたからだと。また、ベルカ戦争で主を失った経験からか、さみしがり屋である面も見受けられ、黒江にそっくりであると感じた。
「うーん、少佐。どうしましょう」
「寝かせてやったほうがいいな。ちょっと精神的にショッキングな場面もあったしな」
のび太に抱きついたまま寝入ってしまった(ギア姿で)調。坂本がのび太から引き剥がし、布団を敷き、のび太が布団をかけ、寝かせる。のび太は寝言を言う調に布団をかけ、寝かせる。そのまま隣にある自分の部屋で宿題をやり始めた。
「さて、宿題を済ませてきます。食事になったら知らせてください」
「分かった」
のび太も少しずつだが、大人への階段を登っている。自発的に宿題に挑む辺り、自分を兄として慕ってくれる相手がいる事で、精神的成長が促されたのだろう。
(のび太ももう12歳を迎えるからな、この年で。しかし、本当は親子ほど年が離れているんだよな、この子ら。恐らく、この子は……、親友と引き離された事で、それに代わり得る拠り所を求め、のび太に行き着いた……。似た者同士だな、黒江と)
坂本は黒江が『レイブンズ』である事に執着を感じ始めた経緯を鑑み、今では『Gウィッチ達の居場所を守る』事を拠り所にし始めている事を感じており、その意味も込めて、似た者同士と呟いたのだ。坂本は前史で、黒江を裏切ってしまった事への償いとして、時たま、子供達の面倒を見ている。それが坂本なりの禊の一環なのだろう。
「少佐〜、ガキの一人を買い物に行かせたぜ。今、たい焼きを母上に食わしてる」
「御苦労。ペリーヌも納得したろ?」
「ああ。あのガキ、礼をしろって喚いてよ。だけど、あんな顔の母上、初めてみたぜ…」
モードレッドは、副人格になっているペリーヌから、『買ってもらったお礼をしろ』と言われ、近くの秋祭りをしていた公園のテキ屋でたい焼きを買い、アルトリアに食わせたと告げる。モードレッドにとっては、ペリーヌは『体の持ち主のガキ』の扱いだが、副人格であるので、時々、体を返している。また、アルトリアも前世でモードレッドを自分の手をかけさせた事を実際、気に病んでいるためか、『自分の子供』として、玉子に紹介するなどの姿を見せている。それがアルトリアなりの前世への償いであった。
「君への償いもあるんだろう。前世で君を後継者と認めていれば、ブリテンと円卓は崩壊しなかったのではないか?と」
「俺は、確かに不義の子だが、母上の子として認めて貰えれば、不毛な戦いを起こさずに済んだって思ってたよ、死んだ直後は」
モードレッドは死んだ直後の思いを吐露し、『カムランの戦い』を起こした身ながら、不毛と考えてもいたと告白した。だが、もう止められずに相打ちとなった。これがブリテンの崩壊の一端である。だが、その後に復興し、ブリタニアという国として蘇った未来を知ったため、過去にこだわるのが馬鹿らしいと思ったとも言う。お互いに、ブリタニアの復興が関係の氷解のきっかけというのは認めているらしい。
「でも、母上のエクスカリバーも弾いたあのバリア……。なんなんだよ、サイコフィールドって」
「人の意思を束ね、無制限に増幅する装置、サイコフレームが起こす物理現象の一つだ。あの男にはスペースノイドの期待がかかっている。スペースノイドたちの思いが、約束された勝利の剣も弾いたのだ」
「人の思い……だとぉ!?」
「あの男の出自はスペースノイドの独立を唱えた『ジオン・ズム・ダイクン』という思想家の嫡子。彼自身、父親が唱えた『ニュータイプ』の素養を備えていた。それにサイコフレームが加わったのだ。いくら君らの力と言えど、人の思いの強さには及ばん」
ニュータイプとサイコフレームの組み合わせは人類史上最強の一角に食い込むもので、人の思いの強さでコロニーレーザーすら無効化する。当然、約束された勝利の剣であろうと、燦然と輝く王剣であろうと、弾き返せる。更にニュータイプの意思次第では、聖剣を支配し、自壊させるすら可能である。そのため、黒江は聖剣の力を自己で生成した武器で用いている。坂本は、神域に達したバナージ・リンクスとユニコーンを前史で見ているため、人の意志は神域に達する糧になり得ると話す。
「そんな事可能なのかよ……!?」
「可能だ。黒江を考えてみろ。あいつは神を守護し、神を倒すための集団に属しているのだぞ?あいつもだが、追い詰めたと思っても、大逆転するのが人の可能性と意志だ」
黒江も実際、前史で『アテナよ、私の小宇宙よ、私に奇跡を与えてくれぇぇ!!』との叫びで逆転勝利した戦いを多く経験していたので、神となっても、人としての営みを忘れていない。
「神殺しは人の手でなされる。オリンポス十二神のハーデスもそうだ。君も、円卓の騎士という過去の誇りにしがみついていたら、足元を掬われるぞ」
坂本なりの忠告であった。黒江が前史で無敵を誇った理由も自惚れない事であったからだ。黒江は定期的に圧倒的な力にねじ伏せられてきた経験があるため、自惚れる事を嫌っており、転生してもそれを維持し、自分を律している。
「確かに自分を律するのもいいが、母上のように誇りを持っちゃだめなのか?」
「そういう意味ではない。立ち止まるなという意味だ。私自身、若い頃にその経験があるのでな」
坂本は自分がクロウズと謳われた時期、その地位にあぐらをかいていた経験が転生前にあるため、モードレッドの傾向を危惧したのだ。
「私とて、かつて、クロウズという二つ名を誇った者達の一人だったのだ。その誇りはあるさ」
「自分の地位に満足するな。上には上がある。私や黒江がそうであるように。君より強い円卓の騎士もいただろう?満足は慢心に繋がる、誇りが驕りになる、次なる先を目指す事を止めてはいけない。君の母上もそれを自覚しておられる」
アルトリアも、エクスカリバーを防がれた事で、その事を意識している。そしてジャンヌも、ルナマリアの記憶から、その意味を知っている。モードレッドはその事を『第三者』から言われて、初めて自覚した。良くも悪くも猪突猛進型の剣士なのだろう。
「ちぇ、わかったよ。母上に出来て、この俺に出来ねぇはずはねぇ。俺は母上の子だぞ?」
「ならいい。あの子にはこれ見せないほうがいいな。ショッキングすぎる」
「ああ、あのガキ達が本来辿るべき流れか」
「そうだ。調には見せたんだが、ショッキングだったらしくて、のび太に抱きついてな」
「なるほどな。しっかし、のび太の奴、天然でコマシだぞ?調のやつがそこまであいつに入れ込むなんてよ」
「いや、あれはのび太を家族と思っているためだろう。のび太もそうする事で、この子の精神的な安定に一役買っている。この子は家族愛を求めていた。のび太は家族のぬくもりをこの子に教えた。この子も黒江と同じように、仲間を戦いで失っている。その経験が、のび太の打算でない優しさに惹かれ、この家を居場所と思う様になったのだろうな」
「家族、か……」
モードレッドも寝息を立てている調を見て、その意味を考える。調は野比家にいることで、擬似的にしろ、家族愛を感じ、その心地よさに安らぎを覚えた。可愛い顔で寝息を立てている調が寝ぼけて、モードレッドのほうに布団ごと寄ってきたので、そのまま方向転換させてやる。
「こいつ、意外に寝ぼけるなぁ。オレがみるから、少佐は公園のテキ屋で母上に何か買ってきてくれ。そろそろ食い尽くす時間だしな」
「分かった。見てくる」
坂本は立ち上がり、スーツ姿に着替えて、買い物に出かける。部屋に残ったモードレッドは、寝ぼける調を相手に悪戦苦闘するのだった。
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