短編『射手座の力』
(ドラえもん×多重クロス)



――箒はデザリウム戦役が終結した後、改めての報告も兼ねて、IS学園に一旦帰還した。そこで待っていたのは懐かしい仲間たちだった。そして、地球連邦軍の正規将校及び、射手座の黄金聖闘士となった事を伝えた。

「……というわけです」

「オリンポス十二神が実在し、尚且つ争っている世界か。皮肉なものだ、人間と同レベルの事を、全智全能であるはずの神々が行っているとは。敬虔な宗教信者が聞いたら、怒り狂う話だぞ」

「全くです」

「しかし、篠ノ之。素人であるはずのお前がなぜいきなり、オリンポス十二神の内の一人『アテナ』を守護する戦士の最高位に任じられた?」

「それはですね……」

箒は事の発端を千冬に話す。そもそもは、その世界に滞在した際に、先代射手座の黄金聖闘士『射手座のアイオロス』の残留思念に憑依される事故があり、それがきっかけで小宇宙に目覚め、アイオロスが肉体の潜在能力を引き出した影響で、性格にも変化が生じ、黄金聖衣に相応しい『仁・技・体』があると判断され、着用を認められ、その流れで着任したと。

「つまり、今のお前は『ISを使わなくとも、それ以上の戦闘能力を容易く発揮できる』。そう受け取っていいか?」

「そうです。なんなら、実演して見せましょうか?」

箒のこの言葉は、実証することで疑念を晴らす狙いが多分にあった。試しに、箒の攻撃力を図るため、千冬が山田真耶に指示して、用意させた訓練用ISの装甲板を用意させた。それに箒は『軽いジャブ』とばかりに、音速拳を当てた。

「なっ!?」

パンチを繰り出したら、その衝撃で装甲板はひしゃげ、中央部は大きく風穴が開いていた。しかも、箒はその場から『動いていない』のだ。一同は瞠目し、唖然とする。

「今の一撃はマッハ1程度。聖闘士なら誰でも撃てる程度のものです。もっと上の領域を見せましょう。山田先生、機体そのものを用意してくれます?整備中のもので構いませんので」

「は、はい」

アリーナの中央部に整備中の打鉄が置かれる。年季が入っている機体で、そろそろ企業などからは『コアを新機体に回したいから、解体したい』との要望があった個体だ。

「さて……いくか!ライトニングプラズマ!」

箒は一秒間に一億発のパンチを見舞う。傍から見ると、光の線が相手を覆い尽くすかのようにしか見えないが、面制圧には最適な技だ。本来は獅子座の技だが、箒はフェイトに憑依していたアイオリアから教わっており、その関係で放てたのだ。

「…ふう」

数秒後、打鉄はコアを残して消滅していた。一同は呆然と、打鉄であったコアへ驚愕の視線を向ける。外装は跡形も無くなっており、しかも箒は『その場から動いていない』のに、破片一つ残さず、細々に破砕したのだ。

「これが光速の拳です、織斑先生」

「……!」

「そんな、あり得ません!人間の肉体の動きを加速させたとしても、二倍以上の速さで動かしたら、全身の筋肉が断裂を起こすはずですし、神経系の反応限界からしても……」

真耶の指摘にも、千冬は冷静に返す。小宇宙に目覚める事は、『科学的・医学的限界を超越する』事であり、通常の常識は通用しないのだと。

「篠ノ之、今の技はなんだ?」

「ライトニングプラズマ。一秒間に一億発の拳を撃ちこむ、オーソドックスな技ですよ。本来は私の星座の技ではないんですけどね」

「仲間の見よう見真似で、あの威力だと?」

「はい。もっと上位の技になると、この一帯は全て吹き飛ばす技がたんまりとあります」

「恐ろしいな、それは……」

そう。それは嘘ではない。ライトニングプラズマ程度は序の口、ギャラクシアンエクスプロージョン、インフィニティブレイクにもなれば、この辺り一帯は間違いなく吹き飛ぶ。それを示唆し、一応のカマをかけ、出方を伺う。

「束に言っておけ。いくらあいつでも、そこに喧嘩を売る真似は止めておけと、な」

「は、はい」(納得してくれたみたいだな……問題は姉さんだなぁ)

箒は姉を警戒していた。デザリウム戦役時に起こった聖衣化は姉の理解をも超えているはずで、ショックを受けているのは確実だ。その懸念は的中し、束が姿を消したとの連絡が入ったのは、その直後であり、箒は「姉さんは何をするつもりだ?バダンにでも行くつもりか?それとも……」と呟き、嫌な予感を感じる。それは束の対抗心が燃え上がり、赤椿の原型を発展させた機体の構想が急に固まった事を暗に示していた。だが、箒はそれも及ばぬ領域へ進化しているのだが、束は気づいていない。妹がもはや人外へ足を踏み入れていることなど……。



――その後日、亡国機業が襲撃し、箒はISの調査のために、機体を使えなかったため、残っていた代表候補生らが中心となって迎撃に出たが、その代表候補生らの内の数人が内通者であり、一夏らは苦戦を余儀なくされた。この時期、ヒーローたちは対バダン戦線に全力を尽くしており、IS学園に護衛を送る余裕は無く、箒は一夏達を守るため、聖闘士としての全力を発揮した。

「箒!?何してるんだよ!?赤椿がない状態で来るなんて自殺行為だ!」

と、一夏が致命的な隙を晒してしまい、そこを突かれて撃墜されてしまう。セシリアとラウラ、簪の悲鳴が上がり、それを映像で目の当たりにした箒は、怒りに燃え、光速の速さで戦場に駆けつけた。


「終わりだ、織斑一夏!」

亡国機業実行部隊の一員で、10代時の千冬にほぼ瓜二つの要望を持つ『エム』こと、織斑マドカが一夏に、とどめのランサーを突き刺そうとした瞬間だった。

「なっ!?」

「悪いが……一夏はやらせんぞ、エム……いや、こう呼ぶべきか?織斑マドカ」

「貴様、篠ノ之束の……。なぜ私の名前を……それに、この力は……!?」

IS『黒騎士』のランサービットを素手で受け止め、更に先端部を握りつぶして破壊し、更に吹き飛ばす箒。マドカは態勢を立ち直し、箒と対峙する。

「一夏はやらせんと言ったはずだ、マドカ」

「貴様、その力はいったい……!?」

「その前に言わせてもらいたい事がある。私から、一夏を……私の大切な人たちを奪うなど、断じてゆるさぁんッ!と!……私の中に宿る小宇宙よ!今こそ極限まで燃え上がり、私を究極のセブンセンシズに目覚めさせてくれぇ―――ッ!!』」

箒はサジタリアスの黄金聖衣を召喚し、そのまま身に纏う。サジタリアスの黄金聖の黄金の翼を持つ華美な装飾から、周りの者達の大半は『200年か、300年ほど前の式典用の甲冑』にしか捉えなかった。

「アンティークな甲冑のような、不細工なISを召還したところで!装飾過剰な推進器もろくに無さそうな機体で、この黒騎士へ何が出来る?」

「この黄金聖衣を纏った以上、もうお前たちに勝ち目などない!喰らえ!」

箒は第一撃でいきなり必殺技を放つ。絶対的な力量の差がある事を示すための技を。

『聞け、獅子の咆哮を!!ライトニングプラズマ!!』

ライトニングプラズマを先制で放つ。ハイパーセンサーでも捉えられない閃光がマドカと黒騎士を覆いつくし、バイザーを消滅させられ、素顔が露わになり、走る閃光で各部装甲が破壊されていく。

「な、なんだこの光は……ぐあっ…!」

「これもおまけだ!『我が拳よ、光の矢となり、敵を討て!アトミックサンダーボルトぉ!!』」

とどめのアトミックサンダーボルトで、マドカは黒騎士を破壊され、その場に倒れ伏す。その間、わずか数秒。その一瞬、マドカは我が目を疑った。それは黒騎士のコアである。箒の腕には、確かにISのコアがあるのだ。

(なっ……!?今の一瞬でコアを引き抜いたというのか……!?あり得ない。そんな事、神でも無け……)

エムは気絶し、倒れる。ISのおかげで命に関わるレベルの負傷は免れたが、全身がガタガタで、当分は起きることもままならないはずだ。

「そこまでよ」

「今度はあなたか、スコール。だが、あなたでも私には勝てない」

「大した自信ね、お嬢ちゃん」

「いいでしょう。その身で味わってもらいましょう、我が闘技!『ケイロンズライトインパルス』!!」

エムの救援に現れたスコールへ強烈なアッパーを黄金の風とともに見舞う。ケイロンズライトインパルスだ。スラスターを全力で吹かしても、抗えぬほどの力で上空へ吹き飛ばされる。なんとか態勢を立て直そうとしたその矢先だった。箒が目の前にいるのだ。

「なっ!?」

「言ったはずだ、あなたでも私には勝てないと。我が最大の闘技で以て、あなたへの手向けとしよう!」

次の瞬間、スコールの周囲を黄金の矢が埋め尽くしていた。スコールは直感的に直撃を避けようとするが、それよりも疾く、矢は一斉に襲い掛かった。同等の相手から見れば、相手を確実に貫く光速の拳と矢の一撃であるが、スコールにはそのようにしか認識できなかった。

『無限破砕(インフィニティ・ブレイク)!!』

箒の最大闘技を喰らい、スコールはISを粉砕される。それでも、技量で直撃は避けたらしく、なんとか行動は可能な範囲に負傷を収めた。

「この力……貴方は姉同様に危険な存在ね……今日はここまでにしましょう」

虚勢を張りながら、オータムに肩を貸され、エムを回収して撤退していくスコール。

「箒、それはまさか……黄金聖衣なのか?」

「そうだ、ラウラ。お前の知るそれとは多少は違うがな」

箒のもとに駆けつけたラウラは、箒の姿に驚愕し、困惑する。

「どういうことだ?」

「細部を見てみろ。翼のデザインが違ったりしてるだろう?」

「本当だ……ん?お前、女聖闘士に付きものの仮面はどうした?」

「あれは任意で、してもしなくてもいいということになったよ。沙織さんもそのように言ってくれたからな。してるのは、古株の魔鈴さんやシャイナさんとかの『昔気質』の人達だよ。って……お前、妙なところは詳しいな?」

「クラリッサが送ってきた漫画にあってな」

「は、はは……クラリッサさんをコミケでも連れて行ってやれ。夏コミなんか喜ぶぞ」

「いや……もう、サークルチケット取ってるとか言ってた」

「ああ、サークルやってる側か……」

箒は、ドイツ軍人は概ね、生真面目だとシャーリーなどから聞いていたため、ハルトマンのようにだらけるタイプと分かれると判断していたようだが、クラリッサは22歳で大尉に任官されるほど優秀な軍人だが、オタク系な話になると、変な意味の日本通が炸裂する。『生真面目な人間が、ある日、趣味に目覚めるとどうなるか』を実践している姿を想像し、バルクホルンが聞いたら、大いに憤慨するだろうなと、苦笑した。しかしながら、遊ぶ時も真面目に遊ぶドイツ人の気質からは不自然でもない。

「ドイツ人は遊ぶ時も真面目なのか、ラウラ?」

「そうだ。遊びでもやるときは全力なのが、わが国の伝統だ。高官達は、仕事以外は『ビールとヴルストとザワークラウトさえ有れば良い』とかいつも言ってるぞ……って、なぜそんな事を聞く?」

「いや、向こうでの上官の一人がドイツ人の女性でな。歳は私とそんなに変わらないが」

「そうか、お前も軍に入隊したのだったな。今の階級は?」

「もうじき大尉だ。士官学校に改めて通うから、少佐以上になる道は開けてるが。あ、そうだ。お前、空軍の部隊に出向した経験はあるか?」

「ああ、何度かあるが?」

「実は戦闘機での海軍の空母の着艦が難しくてな……教えてもらえないか?」

「は?何故、空軍なのに空母に着艦なんてしなきゃいけないのだ?確かに着艦経験はあるが……」

「実は、向こうの『海軍』は『宇宙海軍』なのだ。だから、海上で着艦することも珍しくない。だからだ。軍歴があるお前なら、コツがわかるかなと」

「そういう事なら、引き受けよう。空母の着艦はいつの時代も変わらず、パイロットにとっては難関だからな。米軍の『エヴィエイター』の連中が常に言っている事だ」

連邦軍での実戦部隊幹部養成課程に入るのに当たっての宇宙軍必修科目『洋上及び、宇宙空母への着艦』に自信がないらしく、箒はラウラに教えを請う。ラウラもISを主用するようになってからはあまり、機会がなかった『他の兵器への搭乗訓練』のいい機会とばかりに引き受け、箒は帰省の間、連邦側が学園に持ち込んだ、コスモタイガーのフライトシミュレーターで受験に備えての特訓を行い、ラウラも教導の都合上、同フライトシミュレーターに触れる機会があり、『タイフーンよりも動かしやすく、機動性も中々のものだ。ただ、大気圏での飛行特性は大昔の『重戦闘機』的だから、慣れる必要があるな』と評し、箒から『高速戦闘用の機動バーニア併用モード』を教えられ、使用してみると『ヨーとピッチが早すぎて怖いな……しかし超高速で飛び回る宇宙時代の高速戦闘にはマッチしている仕様だな』とし、数分でコツを掴む。

『なるほど。この機体のフライトコンピュータは相当に優秀だ』

『どうしてだ?』

『動かしてみてわかったが、この機体の飛行特性は本来、第二世代ジェット機……分かりやすく言うと、我が軍や空自が導入していた『F-104』の世代に近い『乗り手を選ぶ』特性に仕上がっている。それを進化したフライトコンピュータで『若葉マーク付きの新人』でも扱えるように補正しているんだ。そうでなければ主力機になど選ばれん。エースパイロットはフライトコンピュータのアシストを切るか、緩くして高機動戦をしていると、私は見た。あるいは未来だから、学習型コンピュータくらいあるか?』

ラウラは経験則から、推測を話す。それは殆ど当たっていた。箒は『なんだかんだで、プロの軍人である』事を実感した。


――箒が見せた射手座の黄金聖闘士としての力は、IS学園の世界に波紋を巻き起こした。束は聖衣化した最高傑作を見て、「赤椿」の発展形を思いつき、箒達の前から姿をくらました。箒はそれを予期し、訓練をしつつ、更なる闘技を習得せんと考える。

(ゾディアックエクスクラメーションの習得のためにも、もっと他の闘技にも手を出さんと。姉さんはライトニングプラズマを一回当てただけでは参らんろうし、オーロラエクスキューションか、ギャラクシアンエクスプロージョンあたりから攻めるか?)

今や、失われた『聖闘士究極最強の奥義』ゾディアックエクスクラメーション。黄金聖闘士の12の奥義を同時に繰り出すというとてつもない難度から、近年では、アイオリアの先代『カイザー』しか例がない。その為、箒は手近な所から習得していっている。獅子座、山羊座は身近にいるので楽だった(聖剣の力を『借りる』事も可能なので)が、ここからは自力で習得せねばならない。食らった技であれば、『体が覚えている』ので、水瓶座と双子座を候補に挙げている。

(魚座や蟹座は後回しにしよう。現在のあの二人は噛ませ犬感強かったし……あの二人については先代の方が強いぞ?)

冥府にいるアフロディーテやデスマスクが聞いたら、大いに憤慨ものだが、実際、彼らは先代のカルディナーレ、デストールに比して実力が不足していたと思しき場面が多く、数度ほど、悪の神々に蘇らせられては、紫龍や瞬に倒されたりしている事がその証明だ。

(そう言えば、デスマスクは積尸気鬼蒼焔、積尸気魂葬破、積尸気転霊波を使えた様子はない。それに値する積尸気を操れる力量が無かったのか、デストールの死亡から間が空いた事で、技が失伝してしまったのか?わからん……。死んだ後の噛ませ犬扱いの『奴』も哀れだなぁ)

蟹座のデスマスクは噛ませ犬ポジが定着した感があるが、先代が黄金聖闘士中でも『強者』に数えられる男だったため、落差がある(もっとも、デストールはギャグキャラだったが)。箒は聖戦と聖戦の間が空く事で生じる技の失伝に思いを馳せつつ、死した後は『かつては黄金聖闘士だったが、時とともに実力で格下に抜かれ、遂には使い捨ての雑兵同然の扱いをされた』デスマスクの境遇に同情するのであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


目次

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.