短編『扶桑皇国との交流』
(ドラえもん×多重クロス)
――扶桑皇国の存在が一般に明らかにされた後、自衛隊は訴訟の嵐に遭っていた。旧軍人である者らが自衛隊に入りこんだのを問題視する左派勢力が、次々と訴訟を起こしたからだ。しかしながら、これにはリスクがあった。2000年代でも、終戦時に士官候補生だったり、少尉から大尉であった旧軍関係者らが少数ながらまだ生き残っていたからだ。それらの票田を失うという指摘が政党内部からもあったが、戦後世代が多数派となった時代なので、主流の世代に押し切られる形となってしまった。
――野比家
「ん。また訴訟かよ?何考えてるんだ、野党とかの左派は?」
「大方、旧軍関係者は軍国主義者ばかりとでも思ってるんじゃないですか?あいつら、自衛隊の成り立ちからして、旧軍関係者欠かせないのに、それも知らないし」
「はぁ。まったく、私ら戦前世代を見下してるのか?ジャズだって、私らの時代にはあるっつーの!」
高校二年生となったのび太は、黒江とほぼ同程度の長身に成長していた。体格もグンと良くなっており、成績面も多少は平均が上がっており、小学校時代に比べれば、玉子の小言も収まったという。
「奴ら、海軍軍人達が海保と海自に関わってた事も、陸自だって、旧軍将校が呼び戻されてた事実知らんのか?ちんぷんかんぷんだぞ、このニュース」
「一般人の知識なんて、そんなもんですよ。公職追放が解除された後、旧軍関係者が三自衛隊の中枢に居座った事は今時、ネット調べれば出るのに、それもしない」
「ったく、めんどくさい置き土産してくれたもんだぜ、吉田公も」
吉田茂も、2000年代の自衛隊の規模を知ると、『この規模なら、素直に再軍備と言えばいい』と発言し、また、『どうして再軍備せんのだ』とも発言し、物議をかもした。未来人からは反軍的人物と見られた吉田茂だが、元は外交官であるので、軍事力の必要性は痛感しており、未来人からのインタビューでは『然るべき経済力・政治力を取り戻したのなら、再軍備宣言するべきである』と言い、インタビューアを唖然とさせた。これは未来人(21世紀人)の間で喧々囂々となったが、
『軍隊捨てろって言われたんだ、要求した相手に代価を支払ってもらうのは当然の話だろう?』
とも付け加え、自らゴーサインを出した自衛隊に理解を示した。結果、これが自衛隊の立場向上に繋がった。扶桑は軍部と華族が1946年以後も存続した場合の日本であり、必ずしも戦後日本にすべてが当てはまるわけではない。だが、この世界の日本にある種の影響を与えたのは確かだ。
「安保条約ってのは色々あるんだ、日本の場合は軍備不可という条件を突き付けられたから、アメリカにその代価として日本の防衛をしてもらおうと言う話だった訳だ。 そして経済的に余裕が出来た、だが憲法に弱味の有る日本には相互防衛協定は結べないし、紛争や侵略に対する対処も自国の意思によって出来んだろう。 だから、その辺りも含めて憲法の修正、法律の改正をもって自衛隊を国防軍とするか、国民の民意をもって自衛隊を解体、無防備な国家として他国の侵略にも抗う力の無い、ただ蹂躙されるだけの国と呼ぶこともおこがましい何かになってアメリカなりなんなりに寄生して生き延びるか、皆で決めるべきだろうな」
と締めくくり、吉田茂の表舞台への『帰還』は華々しく行われ、未来世界の21世紀日本へ課題を突きつけた。これは『亡者の言葉』と捉える左派、国家の長年の課題を言ってくれたと喜ぶ中間層、右派。この吉田茂の言葉により、国民は現実路線を選ぶことになるが、それはまだ未来の話。
「この世界の日本に影響が出るんじゃないか?この間の吉田公の発言」
「少なくても、日米安保条約反対派は轟沈だし、統合戦争までは蜜月な関係が続くことはわかってるけど、再軍備が早まるかも」
「えーと、未来では自衛隊から自衛軍、国防軍の二段活用だったとか記録がある。どうして最初は自衛軍にしたんだろう」
「ナチスが国防軍だったから、そのマイナスイメージと、自衛隊に愛着ある人が多かったから妥協したんじゃ?最初」
「あるかもなあ。部内とか国内向けに、自衛隊の名前は最後まで存続してたみたいだし、最近発見された21世紀後半の書類だと、国内向けの自衛隊の名と海外向けのディフェンスフォースが併記されてたっていうしな。歴史書の訂正がされるって話だ」
「後世から見れば、日本特有の事情は理解されないでしょうからねぇ」
「だな。統合戦争と遊星爆弾で資料が殆どってのもあるかも。それと、連邦軍の解隊騒ぎの時に、悲観した将校たちが資料焼いたからな。それもあって、ドーリアン外務次官の時世、叩かれちまう傾向があるんだよ」
――リリーナ・ドーリアン、本名、リリーナ・ピースクラフトの時世は批判者も多いが、実は『軍隊組織をプリベンターと移民星軍で温存後、国民の信を説うた上で、『地球防衛軍』として再編成するのが最終的な目標であった。だが、その意図が周囲に理解されなかった事、ピースクラフトの名を持つ者としての責務に逸るあまりに、現実に対処するのが遅れた事、その政治ビジョンを表に出すのが『時既に遅し』だった事もあり、リリーナは『大統領』としては若すぎた、最初に根回しをすべきだったが、野党が先手を打って、意図的にマスコミに垂れ込んだために、その釈明に追われ、更に侵略に対処せざるを得なくなり、軍部の温存に動かなくてはならなくなったために、自身の政権の運命を縮め、全てが後手後手に回ってしまったと評されている。
「でしょうね。多分、ドーリアン外務次官は、人間として、『高潔』過ぎたんでしょうね。正々堂々と交渉するのを望むけど、海千山千の世界じゃ、そんなキレイ事は通じないんですけど……」
「あの人は人間的に強い。ぶれない真っ直ぐな姿勢は憧れるんだが、汚い事も当たり前な政治の世界に生きていくには、『綺麗』すぎるんだよな」
黒江はリリーナに会ったことがあるらしかった。王族である出自に由来するカリスマ性もそうだが、真っ直ぐに生きる凛々しさに憧れていると話す。
「だから、政権を降りても、シンパがいるんでしょうね。普通なら、泥船から逃げるように去っていくんですけど」
「あの人は、金に汚い他の政治家とは違うさ。真に連邦に尽力してる。あんな人がウチにいてくれればなぁ」
そう。政権を降りた大統領などは、周りのシンパなり取り巻きが、塩が引くように去っていくが、彼女の場合は彼女を支え、彼女が外務次官になるのに尽力するなどの違いがあった。国民にも『時勢が悪かった』と好意的に見る見方が主流になりつつあり、デザリウム戦役前後の時点では、一時のような糾弾は鳴りを潜めている。黒江もリリーナの人柄に惹かれたらしく、扶桑皇国の政治家の資質を嘆いているようだった。
「そう言えば、そちらはどうなんですか?」
「ウチか?48年に入ったよ。早々にに実家の親父が亡くなって、葬儀済ませたよ。私が素直に親って認めてたのは、親父くらいだったからな……。お袋に関しては、ガキの頃に揉めてからは『ギクシャク』してるから……」
「そうですか……」
「ガキの頃に色々あってな。それっきり、ロクに口も聞かなかった年もあったからな。お前のお袋さんや親父さんが羨ましいよ。ちゃんと子どもと向き合ってくれてる。私は親父は仕事人間、お袋は私を『自分の欲望を満たす人形』としか見てなかったからな……。不幸自慢ってわけじゃないけど、『ほめてもらいたかった』んだ……自分の努力を。それをしてくれたのが親父だったんだ」
黒江は、子供時代の家庭事情が複雑だった事を話し、のび太にとっての玉子とのび助が羨ましいという側面を垣間見せた。のび太のような『両親が子供と向き合っている』家庭に思慕があるようで、自衛隊でかなり昇進したのにも関わらず、野比家に必ず帰省する。その理由の一端がのび太に示された。
「中佐も色々、あったんですね」
「うん。お袋とは和解はしたんだが、これまでの事を思うと、なんか気不味くて。ガキの頃に家出同然で志願したから」
「お母さんも中佐のことを同じように思ってますよ、多分。子供が嫌いな親なんて、この世にいませんから」
「そう、そうだよな……今度の母の日に、映画のブロマイドでも贈ろうかな……あの時に見なおしたんだよな……お袋の事。」
黒江はのび太の一言で勇気づけられたようだ。1948年初頭の時点では、映画『来た、飛んだ、落っこちた』はスマッシュヒットを飛ばしていた。その主演をなんだかんだで務めたため、黒江は一般へ知名度を得た。その事もあり、母親と和解したのだ。
「良かったじゃないですか。ちょっとほろ苦いけど、ハッピーエンドで」
「そうだな。できれば、親父にもう一回だけ、頭を撫でて欲しかったけど。もう大人になっちまったから、恥ずかしくて」
「それを聞いて、お父さんも安心してると思いますよ。あなたがそう思っているのなら、それがお父さんが生きた証になりますよ」
「く、クソ……クサイ台詞言いやがって……泣かせるんじゃねーよ……」
「そう言えば、ぼくの子孫のセワシが来るとか言ってたな。何でも、今の僕くらいの時に統合戦争が起こったみたいで」
「そうか、セワシくんが今のお前の頃に統合戦争が?」
「ええ。完全に終わるのは一年戦争直後でしょ?随分長くかかってますね」
「ああ。初期の段階で本来の目的は果たしたからな。日本の技術を衰退させるという……技術的特異点を、欧州は異常に恐れてたって言うし」
「なんで、数十年も続いたんですか?」
「引っ込みがつかなかったんだよ、双方が。日本は『ロボットとの共生社会』を破壊され、繁栄を破壊された恨みが、欧米は過度の文明発達と、日本のロボット技術を宗教的意味で危惧していたからな。あいつらはドラえもん達の超AIを忌み嫌ったんだ。人間を人間が創造していいはずはないってな」
「十字教的観念ですね」
「そうだ。学園都市も創立者が自分の目標を果たせば『用済み』だったしな。だから、学園都市の絶頂期に入る頃なんだよ、今は」
「なるほど、ちょうど美琴さんが子供の頃ですしね、今は」
「アイツ、確か2010年代初頭で中二だから、今だと、幼稚園から小学一、二年くらいの年齢だな。今だと、ラストオーダーと同じ外見だな」
「能力的素養を学園都市が掴んでたの知ってます?」
「茂さんと風見さんが教えた。アイツ、そうとうトサカに来てたが、アイツの能力じゃ、一方通行とか、神の右席には対抗すら出来ないからな。抑えたそうな」
黒江の口から、美琴が学園都市の裏の側面に激昂し、行動を起こそうとしたのを、諌められた事が語られた。学園都市の最盛期、美琴程度の能力であれば、いくらでも上位がいるからだ。
「うちらがネタバレしてから、学園都市も、にわかに動いてきてる。歴代ライダーとかが水面下で押さえ込んでいるが、その内、政権が変わるだろう?その時に手を出してくるだろう。ウインスペクターやエクシードラフトの予算も減らされてるしな」
「どうして?」
「世の中不景気だろ?バブル全盛期みたいな大規模犯罪はもう起きないからって、誰もが思ってんだ。特にエクシードラフトとかの装備はその時代の産物で、高性能だが、コスト嵩むしな。だが、これが悪い方に結果出るんだよ」
「東北の大地震ですね?」
「そうだ。あれで、その直前にエクシードラフトやウインスペクターを解体したのをしょっぴかれて、言い訳に終止したんだよ、当時の政権。慌てて、関係者に旧任務を無理矢理、命じたから、警察庁はお冠だって聞いた」
「どうして後から?」
「これは、その頃まで活動してた機動刑事ジバンの田村直人さんから聞いたんだが、彼曰く、国民の追求が自分達に及ぶのを恐れて、警察関係者に全責任を押し付けたんだって。しかも、自分達は被害者面して」
「随分、都合のいい話ですね」
「国民の不満を逸したかったんだろう?そのせいもあって、その政権は崩壊、憲法改正も具体化してくる。それがいいか悪いかは、この時代の人間にはわからんけど」
「ですね。大きなことの良し悪しは数十年、いや、最低で100年しないとわからないですし」
「おじいちゃん〜」
「セワシが来たな。うちのママに見つかるとややこしいから、ボクの部屋に」
「おう。セワシ君の事、高校になっても知らせてないのか?」
「説明すると、色々ややこしいんです!ノビスケでも、パパやママから見れば孫でしょう?それなのに、ノビスケからみても曾孫なんですよ?セワシなんて」
「お、おう……確かに」
そう。のび太から見て『玄孫』にあたるのがセワシだ。いつものび太と同年代の姿で現れるので、この時点では『2130年代中盤』の頃の年齢だ。
「おじいちゃん、久しぶり」
「久しぶりだな。セワシ。そっちは統合戦争だって?」
「そうなんだ。僕が爺さんになる頃まで断続的に戦争だからね。ドラえもんを、どうにか維持出来てるのが奇跡なくらいさ」
「それで君はどうするの?」
「高校を出たら、自衛隊に行く事になったよ。ドラえもんから聞いたけど、僕が青年期の頃が第一の激戦期らしいからね」
「そうか……。ん?君の時代だと、自衛隊は……」
「ぼくの頃には装備の制限が取っ払われた『軍隊化』して久しいからね。今は奇襲で押され気味だけど」
「陸自に入るの?」
「陸自って柄じゃないから、空自を目指してるよ。乗り物ならおじいちゃんの血統継いでるしね」
そう。セワシは青年期に、日本国航空自衛隊(英語の記録では国防軍)に志願していたのだ。統合戦争の初期に活躍し、統合戦争が落ち着いた頃に退官した。そのため、セワシは統合戦争初期から前期の撃墜王の一人と記録されている。
「そうか、頑張れ。あ、セワシ。紹介する。こちら――」
「知ってます。黒江綾香空将ですね?」
「ハハハ、今はまだ『三佐』だよ。この時点だとね」
「あなたのやったこと、空自に言い伝えられてますよ。僕の時代でも模範にされるくらい」
「おー、そうか。なんか変な気分だな」
セワシの口から、黒江は航空自衛官としての最高位である空将まで登り詰めるのが判明した。史上最年少の将官、実戦が起こり始めた時代の先鞭をつける、空自の軍隊化に当たり、色々と尽力したなどの伝説を残した。地球連邦軍が発見した記録によれば、『史上最も在任期間が長い空将』とされ、なんとそのポストになっても自ら、戦闘機で領空侵犯に対応したとの記録も残されていた。
「私がいる時代だったら直接、指導出来るんだけどな」
「僕は統合戦争の前期の人間ですから。VFが出ない分、楽ですけど」
「そうか、あれは残党狩りに移行してた最末期の登場で、一年戦争も終わったくらいの頃だっけ」
「ええ。その頃には僕は老人ですけどね」
そう。セワシは統合戦争初期に青年であったので、VFが投入されたマヤン島事件事件が起こる頃には、既に孫もいる年代の人間だ。(23世紀初頭時点でも存命)
「統合戦争って、どのくらい続くのさ?」
「僕が活動する最初の十数年、日米戦争が発端の第二期、で、連邦が出来て、一年戦争のの後のマヤン島事件までの数年の第三期。合計すると、4、50年だそうだよ。間の休戦期間も入るから、それで長いんだよ」
セワシがのび太に言う。地球連邦設立に至る条約成立がセワシの青年期であり、そこから数多の血が流されて出来たのが地球連邦政府の筈である。それを糾弾するジオン公国の存在を、地球の人々は認める訳にはいかなかった。それがスペースノイドとアースノイドの対立の一端となり、ティターンズを生み出す土壌となったのは皮肉である。
「僕達から見れば、アースノイドとスペースノイドの争いなんて下らないのに、なんで続けるんだろう?」
「時が経てば、組織の当初の理想は官僚主義や大衆に飲み込まれて忘れ去られていく。地球連邦だってそうだ。数十年も経過すれば組織は腐敗するし、利権構造も出来る。アースノイドはそれを手放したくないし、スペースノイドは、その荒療治としての大量虐殺も辞さない。その意識の差が一年戦争なんだろうな」
――そう。過去の人間からすれば、地球連邦政府は『理想』とされるものだが、その当事者からすれば、『打破されるべき』ものとされる不思議がある。のび太達、過去の人間から見れば、ジオンの地球環境破壊行為は理解出来ないのだ。
「重くなったから、話題変えよう。扶桑との交流は続いてるのか?」
「統合戦争にもいますから、ウィッチ出身自衛官。もう第三世代から第五世代くらいですよ。こっち出身のウィッチ」
このウィッチである自衛官らが、地球連邦軍ウィッチの先祖になるのである。扶桑との交流は統合戦争で途絶えたが、地球連邦軍時代に再開されたという『タイムパラドックス』が発生している。これも歴史の帳尻合わせと言えた。
「と、なると、統合戦争で交流が止まって、地球連邦時代に再開するってわけか。タイムパラドックスだなあ、これ」
「ですね」
三人が話すように、多大なタイムパラドックスを孕みつつ、扶桑との交流は始められた。扶桑からの自衛隊への留学生は、公式にはこの三年後の2008年からだが、それ以前にも複数が潜り込んでいたため、部内では問題視されなかった。他分野での交流は、軍事分野程の日本側からの利点が見いだせなかった事から、扶桑が放出した旧式兵器の購入(軍事博物館などのため)、教育・医療分野の援助などが中心になった。
――その日の夜
「ささ、一杯どうです」
「こりゃすみません」
黒江はのび助へのご機嫌伺いを巧みに行う。立場上、のび太の両親には気を使わないといけないので、のび助には時々、彼のお小遣いでは手が出なさそうな、上物の酒を奢っていた。
「どうだね、自衛隊での暮らしは」
「空自なので、割とのんびりですよ。陸自や海自ほどお硬くはないので」
「なるほど。この間の会見、見たよ。私の父よりも年上なんだね」
「はぁ。騙す格好になってしまって、申し訳ないです。一から事情を話すと……」
「分かってるさ。妻は旧日本軍の軍人に対して嫌悪感があるからね。しかし、それは仕方がない事だ。僕等の世代は、戦争体験者である親世代の考えや思想に反発して育ってきたから、と言うのもある。君が属していた日本陸軍には横暴な軍人がかなり多かったと、父が言っていた。家や学校で、戦争体験を子供の頃に聞いた事もある。戦後、あなた方軍人は沈黙する事が多かった。それは僕達には悪く見えたんですよ」
「『沈黙は金なり』の格言と、戦争の体験を語らないほうが良いと思ったんでしょう。だが、それは裏目に出たんでしょう。当時の軍人の立場からモノを言う人はそれほどいなかったですから」
――敗軍の日本軍将校は必要とされた者、そうでない者とに分かれる。自衛隊で復権した者も多いが、陸軍将校は人数が多かったため、復帰出来なかった者が多数派だ。特に陸軍将校は航空関係者以外の者は、復帰が保安隊以後に送らされた者も多い。そのため、初期の自衛隊幹部に旧日本軍の将校が多かったのを知る者は少ない。
「おまけに、僕等の子供の頃は『陸軍は馬鹿』だの、『非人道的』のレッテル貼りを受けていた。ママは恐らく、その影響が強いんだろう」
「でしょうね。それもあって、言えなかったんですよ。私が別の世界とはいえ、日本の職業軍人だって事を」
「ママは怖いからね。それにのび太には厳し目ですし」
「なんでそうなんです?」
「ママは、義母のである、私の母に対する劣等感もあるんでしょう。のび太は母を強く慕っていた。それがママの劣等感になっている。それとのび太は、昔の私のように勉強はできない、ガキ大将にいじめられる。昔の私に父、いや、野比家の代々の長男の累計に当てはめられる」
「そうなんですか?」
「そう。私や父も祖父もそうだったんだが、子供の頃はのび太と同じ、泣き虫で、勉強嫌いの子供だった。父は珍しく、成人後は厳格な人物でしたが」
「なるほど」(確か、のび太が前に言ってたけど、おじいさんは実際は優しい人だったな?そうか、息子である親父さんの前では、その面は見せなかったんだな)
「のび太が羨ましくなる事があるんですよ、時々。あの子はドラえもんのおかげで、冒険を経験した。それは私が子供の頃に成し得なかった事だ」
「知っていたんですか?」
「前々から薄々と。あの子たちがどこで何をしたかは知りませんが、前に、アフリカの原生林で、日本人の子供の姿を見かけたという話もあります。それはドラえもんがやった事でしょうから」
「ドラえもんの事はいつから?」
「ドラえもんが今の技術で作れないロボットである事は、素人目にも分かりますよ。学園都市だって、あそこまでのは作れない。だから、何か別の誰かがのび太のために送ったのは分かります」
のび助は、ドラえもんが21世紀現在の科学では作り得ない代物である事を、ひみつ道具から推察していたと明かす。だが、ドラえもんを送り込んだのが、まさか自分から数えて、6代後の子孫(彼から見れば、孫の孫の子に当たる)だとは思わないだろう。
「そうですか。でも、それを何故、のび太に?」
「あの子はドラえもんがやって来た事で、成長出来た。それに凄く感謝しているんだよ、私達は。だから、ドラえもんを家族と思っている。いずれ別れが来ようとも、ね」
ドラえもんはこの年より5、6年後、のび太が大学を卒業した後にセワシのもとに帰還する事になっている。それを薄々と気づいていたのび助であった。
「それと、あの子にはまだ言っていないんですが、地域の再開発事業で、近いうちにここを立ち退く事になりまして」
「その時はどうするので?」
「この街のマンションに引っ越しますよ。新築される予定のマンションはいくつかありますし」
――野比家は2007年前後に、再開発事業で立ち退き、駅にほど近い新築マンションに引っ越す事が確定している。しかも高層階に引っ越すので、21世紀現在の金銭感覚でも高額な金額で土地が買い上げられたのであると考えるべきだろう。野比家は以後、そのマンションに代々が住む事が判明している。
「のび太にはいつ?」
「話がまとまり次第ですね。周りに反対運動もあるので」
――野比家周辺の再開発事業はこの頃から話が出ていたが、折り合いがなかなかつかず、結局、実行されるのが2007年前後にずれ込んだ。野比家が引っ越したのは、そのあたり。また、学校の裏山も切り開かれ、千年杉の慰霊祭が行われたという。のび太は生家に高校までを過ごした事になる。
――扶桑皇国の存在が明らかにされてから、航空自衛隊はその平均レベルをグンと高めた。実戦経験があるウィッチ達が潜り込み、技量が底上げされたからだ。これに対し、陸自もウィッチの来訪を要望したが、陸戦ウィッチは空戦ウィッチよりも通常兵科との剥離が大きかったため、陸自の要望に応えるのは難しいとされたが、演習に参加するなどの軍事交流はつつがなく行われたという。海自は艦娘が慰問に訪れるなどの交流が行われた他、大和、武蔵などが観艦式に姿を見せ、呉に寄航し、『大和型が戦後も生き延びたら』というIFを具現化させた姿から、ミリタリーファンを喜ばせたという。
『本日、扶桑皇国の戦艦大和が呉に寄航しました。奇しくもこの日は、この世界の大和が沈没した日であり、戦艦大和の元乗員は、大和の寄航に涙を流して出迎え……』
その日は大和の帰還がニュースで大きく取り扱われ、近代化改装された大和の勇姿が驚きを以て迎えられ、大和の砲台としての安定性はアイオワを上回る事も証明された。これにより、兵器としての真価を知らしめた大和型は、未来世界での評価が改められたという。また、23世紀経由で、プラモの金型が業者に流された事から、有名メーカーから近代化バージョン大和の模型が発売されたほか、艦娘大和が海自を慰問して、士気を大いに高めた他、豊田副武や源田実などの高官の講演が、防大や幹部候補生学校で行われたという。
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