短編『エゥーゴとティターンズ』
(ドラえもん×多重クロス)
――ウィッチ世界の全体がエゥーゴとティターンズのグリプス戦役の延長戦に巻き込まれた事により、図らずしも、世界の歴史の方向性は東西冷戦に向かっていった。その事はエイパー・シナプスも気づいており、45年の段階から扶桑をアメリカ合衆国(史実自由主義陣営の盟主)に当たる国に仕立て上げるしか、ティターンズの野望を食い止める手段はないとし、扶桑への援助の拡大を決定した。そのため、扶桑は急速に近代化していくが、それを受け入れられない人々も大勢いた。
――1945年。扶桑皇国軍のウィッチ至上主義閥は、超科学兵器が戦場に躍り出た事で、その立場を追われつつあった。スリーレイブンズ、クロウズの活躍で醸成された彼女たちの極端な考えは、近代兵器の登場で否定されつつあった。彼女たちは『男達と兵器は、ウィッチを戦わすための土台』であるとさえ吹聴しており、逆行後のスリーレイブンズとは敵対関係にあった。本来、彼女たちの信仰の対象であるはずのスリーレイブンズが彼女たちと敵対関係にあるのは、軍内部で驚きを以て見られていた。その当事者の一人の黒江は、この頃から、『裏切り者』と罵られ、闇討ちされる事も増大し、そのために人格の入れ替わりを起こし、本来の人格に戻るタイミングを完全に失っていた。
「は〜、やんなっちまう。昨日、市街地からの帰りに、ウィッチ派に襲撃された。もちろん、返り討ちにしてやったんだけど」
「大変ですね、黒江さん」
「経産新聞の報道部が取材に来てただろ?ちょうどいいから、そいつらにわざと見せたよ、返り討ちにするとこ。廬山百龍覇で吹き飛ばしてやったよ」
「せめて龍飛翔のほうに加減してやったほうが。百龍覇じゃ、死人出ますよ」
諌める芳佳。黒江に聖闘士としての人格が居座っているのを、智子から聞いたためか、それを前提に会話している。
「どうにも我慢できなくてさ。人数居たし、装甲脚履いたウィッチが前衛だったからよ、シールドごと吹き飛ばした。ライトニングプラズマじゃ写真に写んないし、竜の幻影が見える廬山百龍覇のほうがいいと思ってさ。まさか闇討ちにストライカー持ち出すとはな」
「ストライカー、いつの機種ですか?」
「たぶん、足回りがチへ以降のヤツだから、チヌかもな。私が戦技無双なのは知られているから、チハ程度じゃ相手にならんと思ったんだろ」
「黒江さん、チトでも軽いでしょうに」
「遊んでやったんだよ。付き合ってやんねーと卑怯だしな」
そのあたりは余裕である。生身の状態でも小宇宙を燃焼させれば、チへの改善型に過ぎないチヌなど、指先からの衝撃波で破壊できるからだ。
「『昔』のアニメ版ジャイ○ントロボの十傑集みたいなことできますからね、黒江さん達は」
「サム○イトルーパーなことやらかすオメーがいうか?宮藤」
すっかり黒江達に毒されつつある芳佳。肩のマッサージをしつつ、愚痴を聞いてやる。501の新生後の重要戦闘要員と化しているため、会話が物騒である。それを淋しげに聞いているリーネ。圭子に労われ、評価を上げた彼女だが、隊列を組めなくなった事が寂しいらしい。芳佳の一番の親友を自認するものの、ペリーヌの護衛に割り振られたため、隊列を組める時間が減ったのが堪えたようだ。
(黒江さん、リーネちゃん、相当きてます)
(中佐はペリーヌの護衛にしてるが、ジョゼが来たし、無理に組ませる必要は無くなってる。ヒガシが帰ったら、あいつに提案させるよ。私じゃ警戒されてるしな。ティアナは魔導師でもあるから、フェイトと組ませる腹づもりだったし、ちょうどいい)
リーネの視線で、事を悟った芳佳は、黒江に耳打ちする。そのことは黒江も聞いている。ペリーヌとはガリアで組んでいたというので、とりあえずはペリーヌの分隊に割り振られたが、ペリーヌはだいぶ物腰が柔らかくなったものの、リーネとは傾向が違うので、ケッテならともかく、ロッテ/シュバルム戦法とは相性が良くない。そこで、リーネは大火力を持つ真美とペアにする案を構想していた。だが、トールハンマーブレイカーを放った事もあり、黒江は自身の提案を警戒される可能性から、圭子に代理で提案させようとしていた。
(自分で提案しないんですか?)
(この前、マジンカイザーのトールハンマーブレイカーを撃ったろ?それで中佐、私にブルってんだよ。現役離れてたヤツの魔力量じゃあないのは分かるだろうし)
トールハンマーブレイカーのビジュアル的インパクトは、坂本には往時の勇姿と歓喜を沸き立てさせたが、ミーナが抱いたのは『恐怖』だった。『剣を天に掲げたら、天候を変え、雷を降り注させ、剣に一点集中させて雷槌として放つ』。魔導師としては、フェイトが得意とする分野であり、プラズマザンバーブレイカーがそれに酷似している。トールハンマーブレイカーの再現には、フェイトが一枚噛んでいる事は、残りの二人と芳佳、菅野以外には秘密だ。
(フェイトさんがもっと凄いのを軽く撃てるなんて知ったら、ミーナ隊長、泡吹きますよ、多分)
(あいつが本気出したら、なのはとタメ張れるからな。私も最初は、あのスピードに手を焼いたしな)
フェイトは魔導師としては、この世界の殆どのウィッチが霞む程の超人になる。なのはとフェイトの戦技無双ぶりはミーナも聞き及んでいるが、上層部との政治的衝突を恐れているのか、フェイトの出撃はさせていない。そのため、彼女ほどの力は持たないが、優秀な魔導師であったティアナを重宝していた。時空管理局出身である分、管理局への面目も立つからで、こき使われ気味のティアナは休暇申請を出し、ガランドの招きという事で、一時的にミッドチルダへ戻っている。
(そのおかげで、ティアはこき使われて、ガランド閣下がスバルからのラインを通して、休暇を取るように言ったそうだ。あいつは中等の出力で高等戦技だから、目立たないっちゃ目立たないが)
(ティアさんをなんでハードワークさせたんでしょうかね?、ミーナ隊長)
(狙撃のおかげで精密な魔力制御が出来るからストライカーとの相性も良い。位置把握力が高いから支援に居ると安心感が違うんだよ、これが。なのは達の機動見てるし、バルクホルン達にも追従できる。そこが重宝された理由さ。ライーサとヒガシが入れ込むのも分かる)
(なるほど)
――その日の夜、圭子は結局、パットンの酒飲みに付き合わされ、完全に酔ってしまい、帰れなくなった事がロンメルから伝えられた。黒江は、竹井と智子を部屋に呼び出し、話し合いを始めたのだが。
「黒江さん……結構持ち込んでますね、プラモ」
「弟子にバイトさせて作らせた。見栄え良くせんとな」
「釣り一本槍と思ってました」
「お、お前なぁ」
「あれ、加東さんは?」
「ロンメル将軍から連絡で、『ベロンベロンに酔ってて、帰れない』そうな。テキーラかウォッカでも一気飲みさせたのかしらね、パットン将軍」
「将軍、入院中でしょ?」
「あの人、向こうの世界での最後があれなもんだから、酒を思い切り飲んでいこうって思考になってね。肝機能に支障が出ない程度に深酒するようになったそうよ。それで、圭子が付き合ったもんだから、ご機嫌で」
パットンは、ウィッチに好意的な将軍で知られている。そのため、補給物資の優遇をいただこうと、圭子の発案で、司令部に行ったついでに酒を飲んだのだが、パットンがテキーラのストレートをグイグイ飲ませたため、ベロンベロンに酔っぱらい、ロンメルが寝かせた事が通達され、圭子は2日は戻れない。
「あ、あはは……」
「んじゃ、そろそろ本題に入る。中佐はリーネをペリーヌの護衛のケッテに配してるが、世の中の主流はロッテ/シュバルム戦法だ。人数的に余裕がなかったからだろうが、今は3つくらいの統合戦闘航空団を束ねた状態なんだ。ケッテを維持する必要はない」
「恐らく、11人しかいない人材を回すには、ケッテで妥協せざるを得なかったんでしょうね。統合戦闘航空団の定数は13人から、14人というのが書類上の定数だけど、実際にはそんなに人材はいない」
「お前ん所にいた『フェデリカ・N・ドッリオ』少佐とか、ロザリー少佐もそうだが、隊長級が魔力減衰期に入ってる事も多いし、実質、10人以下のところも普通だしな。だが、ティターンズとの戦争で、それは裏目に出た」
「あの、そもそもティターンズとは、どういう組織だったんですか?」
「元々は、一年戦争が終わってから造られた、連邦軍の残党狩り部隊だったんだ。当時はテロ攻撃が横行していた時代で、それを収めるためというのが、設立の名目だった。だけど、実際は将来的に連邦政府を粛清するために、ジャミトフ・ハイマンが作った私兵だった」
「特殊部隊というのは、連邦軍で立場を得るための名目と?」
「そうだ。その権力を背景に、横暴を極めたから、やがて、反対勢力が今の連邦軍の母体となった『エゥーゴ』として結集していったんだ」
ティターンズとエゥーゴの成り立ちについての説明が入る。エゥーゴは、反ティターンズ派の連邦軍部隊とジオン残党の一部を母体にして設立された。連邦軍の一部と化した今では、忘れられた事実だ。政治的には、元々月の財界系野党のシャドゥキャビネット(野党のカウンター内閣)が基になった政治派閥の実行組織でもあり、それ故、ブレックス・フォーラが代表だったのだ。
「グリプス戦役の結果、ティターンズは賊軍、エゥーゴは官軍になったが、それに反感を持ってる連中は大勢いる。その反感がティターンズの資金と資源供給源になってるんだ。それと、21世紀の中国の金が入っている噂もある」
「中国?」
「この世界の近世の頃に滅んだ『明国』の後身かつ、中国大会を治めてる国の俗称だよ。ん?漢とか、隋とか、唐とか、小学校で習ってないのか?」
「私と美緒の代は、在学中に事変があったんで、私は5年の時に入隊、そのまま卒業扱いで」
「未来人の人権派が聞いたら、発狂して泡吹くぞ、その経歴」
竹井と坂本は、緊急事態に直面した軍が軍学校に命じ、高学年の児童で魔力発現済みの者たちを軍へ入れた際の入隊組である。少年兵との絡みで、未来ではあり得ない若さだ。
「まぁ、私達も似たような年代での志願だからあまり言えんが、未来人のとりわけ左派がうるさくて、それでリウィッチ化を前提にしての規定になるそうだぞ、新憲法だと」
「新憲法?」
「今年の秋くらいに暴発するだろうクーデターを鎮圧した暁に発布するそうだ。その草案を吉田公が黒田に漏らしてくれたんだが、ウィッチの志願が認められる年齢は15歳に固定される」
「15歳?今の常識だと、『遅め』ですね」
「しゃーない。義務教育が中学校までの9年になるんだ。そこまで一般社会に馴染んでないと、退役後の生活に色々問題が出てくる。坂本みたいに、市井での生活に馴染めずに、軍隊しか安住の場所がないってのが、大勢いるしな」
――この時期から問題になっているのが、バリバリの軍人だったウィッチが20で退役後、市井の生活に馴染めずに事件やトラブルを起こすことだった。俗に言う帰還兵問題だ。リウィッチとして戻れるウィッチは、黒江達のように、かつて実績を残した者に限られる。後に、リウィッチの明確な規定が決まり、『特務士官ならば、何かしらの実績を、正規士官ならば、退役間近に、高級士官選抜試験に合格している者に限られる』という規定が55年に定められる。大戦が終結した50年代半ばの時代では、実戦で実績を挙げるのは難しくなっている故、高級士官選抜試験の合格という一文を入れたのだ。大戦の時勢では、リウィッチのハードルは低く、一回でもティターンズの攻勢を食い止められれば、リウィッチ化が約束されていた。それと、既に実績充分な士官や下士官が大勢おり、それらを大戦の途中で手放したくなかったからである。『1944年当時に現役だった者達』がその後、数十年間に渡り、軍内で一大勢力として君臨するのは、彼女らの活躍した時代が戦乱の時代だったからだ。
「坂本も、軍隊にしか居場所がないと言っていたが、あいつは軍隊の世界しか知らないで、育ったからな。お前みたいに、じい様たちが嫁さん探してくれるわけじゃない、かと言って、恩給出るけど、高等遊民になる坂本を受け入れるほど、あいつの実家には余裕はない。リウィッチにならないとか言ってるが、心配なんだよな」
「土方兵曹の求愛が上手くいくか、どうかですね」
「ああ、戦争が終わってからしろって言ってあるが、大丈夫かな?」
「あの子も、姉さんが自由人だから、実家から『お前は堅実に世帯もってほしい』とか手紙で書かれるって言ってましたし、この戦争が終われば、世帯固める決心もつくでしょう」
と、竹井は希望的観測を言うが、実際はもっと速く、戦争の末期頃に『土方美優』を身ごもった事が分かり、その流れでできちゃった婚を行う。この大戦の時期が、坂本にとって『人生で一番に幸福だった時間』であるのが皮肉な事で、それを『知る』人格の黒江達は、その幸せを壊す形となった美優を許せない気持ちとなるのだった。これは『死後』においてでも、坂本をないがしろにした彼女への怒りがある故で、坂本と20年近く会えなかったところに、美優が『やっと死んでくれた』とまで言った事を許せず、美優が死の前に出した詫び状にも冷淡で、強い語気を以て、『免罪符のつもりか?あのゲス野郎め』と言い放っている。美優は事故死から数年後の2010年以後、『あの黒江綾香が許さなかった人物』として歴史に名を残す。北郷家からも『百合香を産んだ人物』としてしか扱われず、彼女が望んだ『弁護士としての栄達』は無に帰した形となる。そこそこは優秀であったのだが、若き日からの屈折した人間性からか、人に好かれていなかったのも原因だった。黒江も知る由がないが、美優がその性格である事を後悔したのが、第三者に憑依した『死後』であるのは、両者のすれ違う運命の象徴だったのかもしれない。
「ふう。一応、エーリカからもらってきたわよ、上へ提出してる書類上の編成」
「お、ご苦労さん」
智子がやってきて、パラっと書類を広げる。それは上へ提出している書類での編成を示したものだ。
――新生501統合戦闘航空軍編成表
1・ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケBf109K4/MG42
2・グンドュラ・ラルBf109K-4/MG42
3・竹井醇子N1K5-J/九九式二号二型改13mm機関銃
4・アレクサンドラ・I・ポクルイーシキンMiG i-225PTRS1941
5・坂本美緒N1K5-J/九九式二号二型改13mm機関銃
以上の5名は旧編成時の戦闘隊長及び司令。
――以下の面々は中隊長以下。
A1・エーリカ・ハルトマン/Bf109K4/MG42
A1・ゲルトルート・バルクホルンFw190D-9/MG42
A2エディータ・ロスマンBf109G-2MG42
A2ヴァルトルート・クルピンスキー/Bf109G-6/MG42
B1加東圭子キ61-I甲改/一式連装機関銃
B1ティアナ・ランスター/キ61-I 甲改/MG34
B2穴拭智子キ44/M2HMG(
B2黒江綾香P-51D/M2HMG
D1ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン/Bf109K-4 MG42
D2黒田那佳/Bf109 K4MG42
F1宮藤芳佳/N1K5-J/九九式二号二型改13mm機関銃
F1管野直枝/N1K5-J/九九式二号二型改13mm機関銃
F2ぺリーヌ・クロステルマン/VG39Bis/ブレンMk.T
F2ジョーゼット・ルマール/VG39/ブレンLMG Mk.V
F3ドミニカ・S・ジェンタイル/P-51D/N1919A6
F3ジェーン・T・ゴッドフリー/P-51D/M2HMG
L1稲垣真美/キ61-I 甲改/ボヨールド40mm砲
L1リネット・ビショップ/Spitfire Mk.22ボーイズMk.T
N1エイラ・イルマタル・ユーティライネン/Bf109K-4/MG42
N1サーニャ・V・リトヴャク/MiG・i-225フリーガーハマー
N2下原定子N1K5-J/九九式二号二型改13mm機関銃
N2パトリシア・シェイド/Spitfire Mk.22N1919A6(彼女は療養中なので、現在は書類上)
S1ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ/Bf-109F4/tropMG34
S1ライーサ・ペットゲン/Bf-109F4/trop/MG34
S2シャーロット・E・イェーガー/P-51D/M1918BAR
S2フランチェスカ・ルッキー/ニG55S/N1919A6
なお、療養中のアンジェラ・サラス・ララサーバル、同じく504旧司令のフェデリカ・N・ドッリオ、他に赤ズボン隊のフェルナンディア・マルヴェッツィらはロマーニャ王室の要請で護衛任務についているため、除外とする。
――パトリシア・シェイドが編成から除外されていないのは、この時点では復帰予定があったからだ。しかし、パティがアンジーの看病をしたいと、現時点での復帰を固辞したため、その代わりのウィッチとして、名が上がったのが、智子の戦友であるエリザベス・F・ビューリングである。そのため、智子の僚機枠は、黒江かビューリングが務める事となった。
「ん?なんで、パトリシア少尉の名前があるんだ?」
「当初の予定だと、定子の僚機枠に宛がうつもりだったんですって。でも、彼女、部隊配属を固辞してね。その代わりに、ビューリングを送るよう、モントゴメリー元帥が骨を折ってくれたってこと」
「お前の戦友だったな?」
「ええ。あの子なら大丈夫よ、腕も確かだし」
パティは結局、アンジーの復帰が最終決戦に間に合わずじまいだった事もあり、隊列に加わることは無かった。その代わりに、リウィッチのビューリングが奮戦する事になる。
「この編成で問題はない、が、ミーナ中佐はペリーヌの護衛をリーネにやらせる事多くないか?」
「ガリアで一緒に飛んでいた事、ジョゼがペリーヌと別の地域のガリア亡命政府にいたという経歴から、あまりジョゼの腕を信用していないらしくて、実績があるリーネにやらせるほうが安心するみたい」
「ジョゼが聞いたら憤慨ものだぜ、それ。ヒガシが言ってたが、たしか彼女、南方ガリア正統政府にいたとは言え、実戦経験あると言うぜ?」
ジョゼは502在籍時に実績がそれ程ないものの、当初はペリーヌと組ませ、編制で慣れてもらう思惑があったらしいが、ミーナは『部隊の事情』を理由に、リーネを組ませる事が多かった。これに3人は異議を唱えるつもりだった。だが、あまり強く言うと、ミーナが自分の殻に閉じこもり、他人の言う事を聞き入れなくなるため、やんわりと言う事を考えていた。これはこの頃のミーナに見られた傾向で、他人に自分の意に沿わない事を強く言われる、あるいは自分の心配を無視する行動を取ると、暴走する危険性が大きかった。完全に切れると、周囲が恐れおののくほどに暴走するため、内心では黒江や智子も恐れている。酒が入ったり、堪忍袋の緒が切れた場合、普段は隠されている深層心理が表に出るためか、口調や声の調子が通常の温和なものから、妖艶かつ、ドスの利いた声になるため、黒江は、自分が読んでいた漫画から取って、『薔薇乙女モード』と呼んでいる。(本人にその際の記憶はない)。その時のミーナは『乳酸菌とってるぅ?』と口走るため、芳佳が思わずカルピスを差し出したほどだ。ミーナのその変貌は、ある意味では智子の魂が昇神していくのに引っ張られてのことであり、後年に得た『覚醒』魔法で、髪の色が『銀髪とピンクがかった目』の容姿になるのは、智子と魂が共鳴したためである。そのため、死した後の肉体の容姿はその容姿に変貌しており、看取った医者を驚かせたという。
――同時刻、ティターンズはラ級『ソビエツキー・ソユーズ』の整備を行いつつ、無人戦闘機『ゴースト』を極秘裏に入手しており、そのテストも兼ねて、ロマーニャのラヴェンナを爆撃した。遺跡群を目標から外した上で。赤ズボン隊は直ちに迎撃に出たものの、接敵すらできずじまいであった。ゴーストはマッハ5.5の最大速を誇り、赤ズボン隊が準備を終えた頃には、所定の目的を果たしていたからだ。マクロスシティを襲ったそれのプロトタイプである『V-7』であった。外見はX-9とそれほど変わりないが、エンジンが現行モデルに変えられており、そのため、ラヴェンダ防空ウィッチで戦いを挑んだものは一蹴されている。赤ズボン隊は反復攻撃してくる一機を待ち伏せしたが、『残像しか見えない』とフェルが驚愕するスピード、ジェット機の常識を覆す旋回性を見せるゴーストにはまるで歯が立たなかった。意に介さずに振り切られていく事に、フェルは怒りを顕にするが、スピードの差が絶対的であったため、無力さを痛感する。しかも、それが23世紀で最も早い無人戦闘機であると知らされると、彼我の科学力差を嘆き、『もっとスピードを!』とジェットに傾倒していく。それが、ゴースト相手にまともに戦うことすらままならず、次の最終決戦でも噛ませ犬的なポジションに甘んじる事になり、次世代の赤ズボン隊が活躍したのとは偉い違いで、それがフェルがその後も長く現役であった原因なのである――
――最終決戦で姿を見せた二代目スリーレイブンズ。彼女達の参陣は、タイムマシンの存在を改めて示す事となった。
「我が眼前の敵を断て、アロンダイト!!」
黒江翼は大叔母によく似た容姿だが、シニヨンヘアなのが見分けの最大ポイントであった。右手の聖剣はアロンダイト、左手はクサナギ(アメノムラクモ)である。年齢は転移時、20歳ほど。そのため、菅野は『黒江さんのお団子な姪っ子』と呼んでいる。声は黒江より高めなので、割合わかりやすい。
「しかし、俺の孫も何処かにいるって?」
「私たちにくっついてきたんですよ。今は双子で戦ってるはずですよ、菅野大佐」
「おりゃ、まだ大尉だぜ。だけど、大佐か……変な気分だぜ。おい、姪っ子……翼だったな?あんまり最終階級をバラすな、やる気無くすのもいるんだぞ。まったく、オメーのオバさんに言うぞ?」
「正確には大叔母ですけど」
「あ――!ややこしい!」
菅野の孫達は双子でウィッチであり、この時代におけるハルトマン姉妹と似たポジションだ。違うのは、姉妹揃って、菅野の敢闘精神を受け継いでおり、扶桑歴代最凶級に『ウォーモンガー』な姉妹であると評判だ。
――二代のスリーレイブンズが揃い踏みする中、グレートマジンガーから送られてきた実戦データは科学要塞研究所へ転送され、兜剣造にグレートマジンカイザーへの進化を決意させる一方で、グレートをゴッドの設計ラインで再設計した機体を新規建造する案も浮上する。その案は資材確保の都合、しばらく見送られていたが、グレートカイザーの光子力反応炉がデリケートな特性を見せ、整備性に難ありなため、デザリウム戦役後、反陽子炉を持つゴッドのラインでの発展型が模索される。それが後に『マジンエンペラーG』として結実する。本来、グレートマジンガーは開発系譜上はゴッドの試作機であったが、カイザーの登場で、マジンガーへの一つのアプローチであるポジションを得た。その発展型ということで、エンペラーの名を冠された。その設計案が具体化するのは、ボラー連邦との戦争開始後であったという。
――大和型戦艦対抗への答えがセントジョージ級としたいブリタニアだが、いまいちな感が否めない艦となってしまい、その改善型を早くも考案した。それが『アイアン・デューク』級戦艦である。戦艦の代替の必要要素は減ったと言われていたが、現実問題として、衰退気味のブリタニアの威信を保つための道具も兼ねて作られる感の否めないものであるが、太平洋戦争勃発まで間がない事もあり、1949年を目標に建造開始された。全長310m、幅41m、喫水9.7から10mほどが要求仕様であった。これはブリタニアの国力の限界を極めており、連邦の技術援助がなければ、短期間での4隻建造など不可能な規模だった。ブリタニア駐留の連邦軍に友人がいる黒江へ予定スペックが伝わった時、黒江は『本当にやるつもりかよ』と呆れ、圭子は『チャーチルの道楽』とため息をついたという。実際、300m級戦艦は扶桑が既に手を付けている分野であり、ブリタニアは相当に無理して追従しているのが丸わかりだった。その情報はティターンズも掴んでいるだろうし、時代はまさに、『18インチ砲戦艦時代』に入りつつある。だが、維持費も考えれば、そんな艦は日米英独の4カ国でなければ、複数持てない規模になりつつある――
――話は戻って――
「ん?なんですか、その戦艦の模型。ブリタニアの戦艦に見えますけど?」
「チャーチルのじっちゃん肝いりの新戦艦第二弾らしい。連邦軍にいる友人が送ってきてな、310mあるらしい」
「ブリタニアに作れるんですか?そんな巨艦」
「連邦の援助必須だよ。そうでないと、49年までに建造途中に持っていけるかよ」
「少しはこっちに金を回してほしいですよ、まったく」
「あのじっちゃん、ウチの大和型ファミリーに対抗心丸出しなんだよ。だから、人数的に限られる空母ウィッチの予算削ってるんだってよ。気持ちは分からんでもないが」
実際、扶桑よりウィッチの数が限られ、空軍が主力のブリタニア軍には、海軍ウィッチは希少な存在であるが、空母艦載機のジェット化もあり、邪魔者扱いされ始めていた。ブリタニア海軍は扶桑のように、ジェット戦闘機に乗れるウィッチは一人もいなかったので、海軍の空母取得予算は半分へ削られてしまった。これは空軍主力機の更新を急いだためで、連邦の厚意で、シービクセンを得たものの、大海戦には、よくて80機しか投入できない見通しである。(ビクセンは設計変更でADENはを積んでいる)
「回されたシービクセンの機銃搭載改造型は80機くらいらしい。第二陣が間に合えば、三桁行きそうだが、無理そうだ。こりゃブリタニア海軍は厳しい戦いを強いられるな」
「なんでですか?」
「敵はF3Hまでの開発は済んでいるらしい。そうなると、シービクセンだと互角だが、他はシーフューリーすら満足にないんだぞ?フルマーでF3Hに立ち向かうなんて、拷問だぜ」
「ブリタニアって、艦上機がなんでダメなんです?」
「あっちは海軍航空隊の地位が低いって聞いたことある。ブリタニアの海軍なんて、最近まで複葉戦闘機飛んでたし、フルマーでも新鋭機扱いだってよ」
竹井はそれを聞いてがっくりした。予想以上の惨状だからだ。
「ファイアフライも満足に回されてないところに、ジェット機のご登場と来てるから、シーハリケーンでもダメダメ、シーファイアでも歯が立たないから、大パニックになったそうな」
「何せ、音速に近い速度でかっ飛んでくるからな。それでここんとこ、うちらの空母が出張ってんだよ。戦後装備持ってるし」
「でも、まさかバッカニアを買うたぁ、思わんだ。ありゃ英国機だぜ」
「雷撃閥と爆撃閥がうるさかったんじゃないの?昔は低空で侵入して、魚雷ぶっ放すのがセオリーだったし。それがCIWSとか出てきて、それどころじゃなくて、昔ながらの国産機じゃ接敵すら困難になったもの。だからスカイホークとは別に、頑丈なバッカニアが必要になったんじゃない?」
「考えてみればそうですね」
「天山も流星も彗星も、よってかかって『役立たずのポンコツ』って、旧型機同然にバカにされて消えていってるもの。米国機に染め上げられるのを嫌がるの多いしね、パイロットには。だから、バッカニアを選んだんでしょうね」
パイロット達には、従来の訓練が無駄になるであろう、ジェット機のミサイルの普及に反対する意見が多かった。それは多大な労力をかけて習得した技能が『無駄になる』と宣告された事ヘの反発があったからで、それを黙らせるため、ルーデルをわざわざ呼んで、実演させるほど、扶桑海軍パイロットたちは頑固で昔気質だったのが分かる。
「ティターンズは、どれだけ自分達の戦力を出すんでしょう」
「総力戦は覚悟してるから、ガンダムタイプも出すだろう。戦闘機は補充は効くだろうから、バンバン出すと思うが、向こうはたとえ、可変戦闘機を揃えたとしても、せいぜいVF-11までだ。ゴーストを使うしか対抗手段はない。それに、グレートが来ているし、スーパー戦隊もいるんだ。奴等に負ける要素は無いさ」
如何に、グレートマジンガーの力を宛にしているのが分かる。だが、そのグレートも、ガンダムタイプに性能面で追いつかれつつあるのは、ウィッチ達には知られていない。グレートの苦戦は驚くべき事であり、鉄也自身の口から、マジンカイザー化が語られるのに、驚いたウィッチは多かったと言う。
――戦後型ジェット戦闘機やジェット爆撃機を有するリベリオンにまともに立ち向かえる空母を有するのは扶桑のみであり、同軍空母群は多忙を極めていた。ブリタニアでこれが問題視され、シービクセンの大量購入に打って出た。ただし、同機は原型通りだと機銃がなく、ブリタニア軍の要求仕様に合わない。そこで、連邦がADENを搭載できるように改良したモデルが考案され、そのモデルで量産され、80機ほどが納入されたという。その穴埋めがシーフューリーとなったのだ。(空軍はスピットファイアの発展型のスパイトフルを一定数使用した。これはスピットファイアに愛着を持つパイロットが多かったため、採用が後押しされた)シーフューリーよりも高性能なジェット戦闘機である『シーホーク』を推す声もあったが、ビクセンより明らかに性能が劣るであろうシーホークを補助戦闘機に用いるのに難色を示した労働党中心の勢力がおり、シーホークは結局、評価試験名目に10機が送られたに過ぎない。そのため、ブリタニア軍はレシプロ機主体に留められている。扶桑はF8Uの配備が進み、徐々に零式や紫電改を置き換えており、攻撃機も『バッカニア』と『スカイホーク』、『スカイレーダー』へ更新されており、偵察機もレーダー完備とエンジン換装型の彩雲と、こちらは1950年代以後の装備に進みつつある。(本国では、F-4Eのライセンス生産の交渉中)レシプロ機にしても、烈風のターボプロップエンジン仕様機などの高性能機がおり、当時に揃えられる中では最高峰の機体群だった――
――決戦に動員できる海軍力はほぼ扶桑とブリタニアのみ。空軍力は相応のものだったが、ブリタニア空軍の最新鋭機『ハンター』(開発系譜上はシーホークの後退翼化案を基にしている)が訓練不足により、動員は不可能とされた。それが現時点でのブリタニア空軍最高峰の機体であったため、困った事になった。連邦はジオンのゲルググという例を知っており、ハンターを勇み足で投入させようとするのに待ったをかけたのだ。ブリタニア空軍の高官の中からは、『損害は覚悟の上だ!』という声もあったが、一年戦争を見てきたエイパー・シナプスが直接出向き、『訓練未了の兵を戦力と考えてはいかん!新兵器も使いこなせなければただのガラクタに過ぎぬ、雛を無理矢理巣立ちさせるような事をしても生き残れんのだよ』と説き、元ジオン軍人で、終戦後に連邦軍に転じた副官も力説した。自らが味わった悲劇を。副官は元ジオン軍人であり、ゲルググに乗っていた事がある当時の学徒兵であった。戦後はしばしの流浪の旅に出ていたが、地球のアジア地域で妻子を設け、その時からはジオン共和国からの恩給で暮らしていたが、ガトランティス戦の緊急募集に参加、連邦軍人となった。戦時中はフェーベ航空決戦時の時のヤマト航空戦隊二番艦に乗り込んでおり、この時はリック・ディアスに乗って、決戦を生還しており、戦後に参謀に転じた。シナプスよりは若いものの、そろそろ軍の退役が見えてくる年頃である。当時に15歳のアムロが、現時点で30代に近い事を考えれば、当然の事である。ハンター部隊の投入が見送られる代わりに、各国の要請で連邦軍部隊の動員数が増やされ、最終的に、駐留軍が総動員されるのだ――
――決戦は、怪異がヴェネツィアを完全占領し、資源の詐取に移る前のタイミングで、双方が動く形となった。怪異は宇宙怪獣同様に『宇宙における免疫体』という仮設も立てられたが、過去に男の魔導師が怪異に似た何かを使役していたらしき記述があると主張もあり、結論は出なかったが、確固たる脅威であり、そのためにヒーローたちすら動員したのだ。怪異は人類が新兵器で対応して来ると、それに対抗できる能力を数年程度で確立させるため、ある士官からは『21世紀頃のゲームであったBETAに近い存在なのでは?』という憶測も出た。実際、それはリバウ撤退戦で、零式の優位が揺らぎ始めた事で証明されている。ジェットストライカーで祖国奪還を夢見る者たちには衝撃の宣告でしかなかった。つまり、早晩、ジェットストライカーの圧倒的優位性は消え失せることの表れであり、ジェットでの一撃離脱戦法が通じなくなるのが数年程度で訪れると言うのは確実であると予言されたに等しい。ウルスラ・ハルトマンにもその報は伝えられ、彼女はあまりの衝撃に愕然としたという。
――501基地
「三人とも、助けて〜!」
「どうした、ハルトマン」
「ウルスラが泣きながら電話して来たから、何かと聞いたら、ジェットの事だった」
「あ、あー……怪異が数年以内に対抗策を練るのは確実だっていうあれか?」
「うん。それで、どうしたらいいんですか?とか聞かれたんだ。ウルスラに強く言った後だし、バツ悪くて」
「ドッグファイトに対応できない、とか言ったんでしょ?あの子は姉のあなたの言葉でも、持論を通す子だからねぇ」
「そうなんだ。トモコ大尉から言ってくれる?」
「しゃーない、あたしが電話に出るから、案内して」
「待て、智子。これを彼女に送ってやれ」
「これは?」
「自衛隊の筋から手に入れた『マルヨン』の映像だ。これ見たら発狂するぞ?」
「OK」
「あのねぇ、発狂させてどーすんだよ!」
と、ハルトマンが言う。
「一旦、全部かなぐり捨てられるくらいショック受けた方が良いのよ」
「そそ、そうでなきゃ、私も副業で航空自衛官してねーよ」
黒江は、軍人の副業という認識で自衛官をしている。自衛隊ではイーグルドライバーであったり、チャーマーである。防大ではモーターグライダー部に所属したり、訓練課程ではT-3を限界まで引っ張るわ、T-4を乗り回し、同機に同乗した教官に悲鳴を上げさせるなどの行為も行っていた。『旧軍人である』と、公的にカミングアウトしたのは実戦部隊配属後であるが、それ以前から、21世紀の空自隊員にはない『軍人らしい態度』はごまかせないので、その面からバレバレであった。
「でも、よく、別の世界で就職できましたね」
「その辺はそれなりに努力したさ。自衛隊の創生期みたいに、旧軍人だからって再就職手当ついてるわけでもないしな」
――自衛隊への入隊は難関であるが、元々、黒江は陸軍航空士官学校卒の頭脳なので、防大・幹部候補生学校でもトップレベルの成績を収めていた。素行は破天荒ながら、腕が妙に立つので、元から正体を訝しられていたが、実戦経験のある旧軍人の同位体と分かり、背広組の反感を買った。防大を出た年の8月15日に靖国神社に行った事で、公安警察の自衛隊監視班から目をつけられていた。その時は扶桑軍の軍服を着て行った事もあい、コスプレと判断されたものの、悪戯にすぎると、リストには載ってしまう。これを鵜呑みにした、ある駆け出しの公安警察官数名が、使命感に駆られて、自衛隊と公安警察の間の暗黙のルールを知らずに、黒江を『逮捕』しようと、野比家に帰る途中の黒江を待ち伏せるが、逆に返り討ちにあった。警察官程度では、聖闘士である黒江には触れることすらできないのは当然。更に、政府が黒江の事を『双子国の軍人』であると知っていた事も、彼らの不幸だった。時の総理大臣に、公安警察は『事を荒立たせるな!』と叱責され、功績どころか汚点とされてしまう。数年後、黒江が記者会見で『双子国の職業軍人である』とカミングアウトした事で、公安警察は歯噛みする。よく似た国の軍人が極秘裏に自衛隊に入ったという、前代未聞の出来事に、2000年代半ばから後半の国会は揺れた。
「向こうの世界の国会、混乱したんじゃ?」
「4年は揺れた。何せ、平行時空の日本軍人が21世紀の時代の自衛隊に入ってたなんて、前代未聞だしな。野党と左派活動家共は喚いてたけど、自衛隊の現場は大バンザイだったよ。クーデター未遂事件の記憶が色濃いから、絶対に裏切らない忠誠心がある『軍人』が来たんだから」
「なんで旧軍人がいたってだけで、4年も?」
「一言で言えば、21世紀の老人どもの軍人への色眼鏡が昭和初期の軍国主義に染まってる時のものだからだ。運悪く、私は陸軍出身だしな」
黒江は航空兵科であるとは言え、大まかな所属軍は来訪時点では陸軍であった。そこが活動家と野党の与党への攻撃材料とされたものの、歴史家などから『航空兵科は、陸軍のほうが先進的であった』、『自衛隊草創期の幹部自衛官は、殆どが軍隊の職業軍人達である』との擁護を受け、更に戦後に議員であり、紫電改の343空司令であった源田実の子飼いの青年将校である』事が説明され、野党の批判は沈静化へ向かった。黒江はここで改めて、原隊の源流の一つとも言える343空の威光に感謝した。
「でも、親父さんの名前が出た途端、野党の批判が止んだのは痛快だったぜ、長老達がどよめいたしな。戦後の有力者だったしな」
「でも、なんで343空と関係があったってだけで、批判が?」
「絶望的な末期で、真っ当に防空で鳴らしたほぼ唯一の部隊で有名だしな、ウチの剣部隊。だから、野党も文句言えないのさ」
特攻が常態化した末期において、芙蓉部隊、343空はとりわけ有名である。特に日本海軍最後の希望『紫電改』を有した343空の伝説は著名で、その司令の源田実は空自の育ての親である。その経緯を知っていれば、黙るしかないのだ。『批判を物ともせずに、当時に採用間もない新鋭機と、数少ないベテランパイロットを集めた』という話は、1960年代に戦記漫画を読んでいたり、軍事をかじれば、下手すれば子供でも知っている事だ。
「源田司令、そっちじゃ有名人なんですね」
「航空自衛隊の幕僚長でもあったし、参議院議員も勤めたしな。ただ、議員の認識聞いたら、頭抱えるだろうな。『あのゼロ戦の後継機の紫電改の……』とか言ってたし、議員連中」
「美緒が聞いたら憤慨ものですね」
「だな。ありゃそもそも乙戦で、更に元を正せば強風なんだが……、議員達はプロペラのついた日の丸戦闘機はみーんなゼロ戦にしちまう」
「ゼロ戦しか知られてないんですか?」
「雷電も紫電改も戦線には出回った機数が少なすぎるし、そもそもステレオタイプのイメージで、末期は特攻一辺倒な印象が強いんだよ。隼ですら、戦後はゼロ戦の影に隠れたしな」
扶桑海軍は機種変更が連邦のテコ入れでうまくいったが、日本は烈風の代打の雷電の代打の紫電というグダグダな経緯を辿り、稚拙な工業力もあり、紫電改も稼働率は良くなく、400機が造られたところで終戦である。設計は良好なはずだったが、熟練工が徴兵された後の日本は、兵器のカタログスペックの維持すらできずじまいであった。それと重爆迎撃が伸し掛かったため、智子と黒江の共通した愛機『キ44』は知名度が低い。米軍ではむしろ有名であるが、B29に歯が立たなかったというイメージから、日本国内での旧軍機の評価は低めだ。
「ったく、B29を落とせなかっただけで、ポンコツ、オンボロとか言って来るんだぜ?むしろ、B公とかP-51なんてのは与し易い機体なんだがな。若松さんなんて、P-51をカモにしてるんだぞ?44で」
「あの人は人外じゃないですか、赤松さんと殆ど同じ時期の志願だし……陸軍だけど」
「あの世代は怪物を出してるしなぁ。私たちなんて可愛いほうだぜ。次の戦争でも300機は落とすとか笑ってたしな、あの二人」
「バケモノじゃないですかヤダー!」
と、竹井はゲンナリする。その、黒江が尊敬する古参ウィッチの一人である、若松幸子少佐は、キ44でP-51Dを『赤子の手を捻る』ように叩き落とす猛者である。若松は、黒江を『江藤んとこの娘っ子』と呼んでおり、口ぶりから分かるように、豪胆タイプのウィッチである。志願年度は江藤及び北郷よりも更に前に相当し、戦間期以前世代では最高級の出世頭で、一兵卒から佐官に上り詰めたと有名である。巷では赤ダルマ隊長という渾名が有名で、ストライカーの先端部を赤く染めているのがその由来で、垂直尾翼も赤く染まってる事もあり、海軍のスピナー塗装より有名だ。模擬戦でP-51Dを履いたウィッチを一瞬で倒す腕を見せる事でも名を轟かせており、黒江も1944年の時勢では陳腐化してきたと考えていた、キ44でP-51Dを叩き落とすという凄腕ぶりだ。単騎で言うなら、間違いなく、その二人が扶桑最強の一角に食い込む。クロウスに数えられた若本、それと西沢などはヒヨッコのヒヨッコだ。その二人を圧倒した上で落とせる人物は、赤松と若松の二人だけだ。黒江達も二人の前では『前座』になるため、伝説のスリーレイブンズを顎で使える、10人といない現場ウィッチの一人に数えられている。なお、若松は赤松の後輩に当たるため、扶桑ウィッチの序列の最高位が赤松であり、若松はその次席に当たるというわけだ。同じキ44使いなのもあり、黒江は強く彼女を尊敬し、弟子入りした。ちょうど未来から帰った時期だ。後に彼女は、当時、所属していた85Fへ黒江が要望を出し、源田実が動いた事もあり、後に64Fへ異動するのだ。
「お前らなぁ、私のために、赤松大先輩の手を煩わせるなんて……」
「まっつぁんが自ら動いたんだよ。オメー、ここんとこ荒れてたろーが!」
坂本がやってきたが、赤松の手を煩わせてしまった事に恐縮しているようで、疲れてますと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。赤松に『ワシを知っとるな?』とか言われれば、否応なしに恐縮する。北郷すら、赤松には注意される立場にあるのだ。その弟子の坂本などは子供扱いだ。
「ん?まっつぁん?坂本になにか言ったでしょ?凄くブルってますぜ」
「ガハハ、ちょっと脅かしてやっただけだ」
と、その当人が電話をかけてきた。電話のスピーカーをオンにし、一同が会話できるようにする。
『赤松先輩、美緒がお世話になりまして』
『おー、竹井のじい様の孫っ子か。じい様が会いたがっておるぞ』
『おじいさまはお元気ですか?』
『あの年だから、風邪引いて、大事取って入院しておられる。岡田老が見舞いに来てたぞ』
『あの方はお元気ですね……』
『あのじい様は何度も暗殺の危機を乗り越えてる。だから長生きなんだろう。じい様たちは、秋にも未来の連中の介入に反対するバカどもが不埒事件を起こすだろうと言っとる。お上にも上奏なされたそうな』
『ええっ!?』
『敢えて起こさせた上で、お上の勅を以て鎮圧するそうだ。既に加藤が本国に呼び戻されて、密偵を始めた』
『まっつぁん、あんたには何か命令は?』
『302空の連中をまとめて、343空の後衛を担当しろと辞令が下った。小園のオヤジは過激だからなー』
赤松は302空に属していたが、343空とは小園大佐と343空が交流関係にあった関係で、お互いに交流があった。そのため、343空と合流が内定している64Fとも関係を持っており、黒江たちのことは『娘』感覚で面倒を見ていた。
『まっつぁん、自衛隊入ったら自重してくれよなー』
『ガハハ、分かっとる。そちらに旭光がついたと思うが、データを回せと技術屋どもが言っとったぞ、黒江の娘っ子』
『あいあい、分かっとりますって』
『坂本には、山西の技術屋達の言い分を言ってやった。あの小僧、どうも宮菱びいきでいかん。横空にいるなら、文句はいかんからな
『すんません。あいつ、宮藤博士のガキを一人前にする事に熱を上げてて、それで、博士の作った零式が酷評される事に……』
『気持ちは分かるが、文句をいうなら事実に基づいて言うべきだな。菅野の娘っ子と、それで殴り合いになったし、お前ともそうなっただろ?』
『え、もう知ってるんすか!?』
『横空の司令が愚痴っとったぞ。お前らの喧嘩の仲裁は命がけだと』
『え、どんな風だったんですか?』
『プロレスまがいの物凄い喧嘩で、両方共流血沙汰だったぞ。まー、ワシから強く言っておいたが、坂本も横空にいる以上は零式に、烈風にこだわる必要はないからな。文句言うなら、コメートにでも乗せると脅した』
『服が溶けるじゃないですかー!!』
『あいつは暴れ馬だから、こうしないと言うこと聞かんからな』
赤松の言葉を、坂本は赤面しながら聞いている。よほど恥ずかしいのだろう。竹井と黒江にため息をつかれ、やれやれという視線を浴びた結果、紫電改に乗る事を決める。赤松に言われた手前、後に引けないからだ。紫電には文句たらたらで、雷電もシャーリーに回した坂本であったが、烈風の制式量産が中止された事、ジェットエンジンの起動が可能な魔力が無いなどの実務上の理由もあり、紫電改へ機種変更した。この紫電改が事実上、坂本が現役時代に履いた最後のストライカーとなる。(引退後に一定量が回復し、履いたものは数えない)
――こうして、坂本の問題が赤松貞子の介入で解決を見、スリーレイブンズの問題も将軍たちの行動でどうにかなったが、連合軍内部ではシャルル・ド・ゴールの自決主義に手を焼き、506の吸収に猛反対した。
「貴様らのせいで、我がガリア肝いりの『ノーブルウィッチーズ』は振り回されたのだぞ!それをおめおめと……」
「口を慎め、ド・ゴール!お前は事あるごとに、『我が偉大な国』と言うが、他国の助けなしには、国民を食わせられん状況に堕ちているというのに、まだ自決主義にこだわるのか!だいたい、お前が情報部を抑えられなかったのが凍結の……」
アイゼンハワーとド・ゴールが痴話喧嘩になっていた。506の501への吸収がド・ゴールの反対で遅れているのが、戦略に影響を及ぼしている。506の優秀な人員が遊軍化している事は大問題であり、黒江が黒田を事務要員名目で出向させたのは、アイゼンハワーの思惑に適っていた。
「お前のような頑迷な考えの者たちが、兵たちの犠牲を無駄に増やしたのだぞ、ド・ゴール!見ろ、今は彼らのおかげで欧州は持っとるのだぞ!」
司令部のモニターには、『太陽剣・オーロラプラズマ返し』を行うサンバルカンロボ、『科学剣・稲妻重力落とし』をかけるダイナロボ、『ガルーダクロ―』で敵を切り裂くジェットガルーダ、『鉄拳オーラギャラクシー』を繰り出すギャラクシーロボ、ガリア国境で奮戦するグレートマジンガーが映し出される。彼らの助力で、戦線はどうにか均衡を保っているのだ。ド・ゴールも流石に押し黙る。
『……501に伝えろ、黒田邦佳の出撃許可を私が出したと。それ以外は適宜、派遣すると』
これがド・ゴールができる妥協案だった。しかし、予想より早くに事態は進展し、連邦とティターンズの総力戦の様相になる。黒江はこの事を分かっていたので、自身の後継者達を未来から呼んだのだ。元から潜り込んでいるのなら、積極的に呼ぶという事だ。
――元々、エゥーゴとティターンズの戦の延長戦のような、この戦いに、この世界が巻き込まれる道理はない。それを理解してきたウィッチ達の中には決戦を傍観する者も多かった。だが、501が死力を尽くし、異世界のスーパーロボット達が神の如き力を振るうのを傍観することに罪悪感を感じるウィッチも多数だった。それが後に、自衛隊という形の『贖罪』として具現化する。異世界の勢力に加担する事への嫌悪感と、ウィッチとしての使命感とのせめぎあい。決戦の途中から参加したウィッチ達の多くは罪悪感と使命感との葛藤を経て、参加したのだ。506/B部隊のマリアン・E・カールもその一人で、人を殺すことへの激しい抵抗感から、ただ一人、当初から決戦に参戦した黒田への罵倒をしてしまい、それがヒーロー達の宿命に触れたハインリーケの逆鱗に触れ、ハインリーケは剣を突きつけた。マリアンとて、子供の頃はヒーローに憧れた。彼女が最も嫌う『貴族』のハインリーケから『ヒーローの心構え』を説かれるのに反発するが、傍観している事への矛盾を突かれる。
『妾は一人でも征くぞ、マリアン大尉。地獄の果てであろうと、彼らに誘われたこの道が血塗られていおうと』
――ハインリーケは今までと異なり、自分の手を汚す覚悟は済ませている。
『ハインリーケ少佐、無電です』
「ご苦労、ジンツウ」
ハインリーケに無電が入ったのを伝えたのは、艦娘の神通だ。ハインリーケの従卒に見えるものの、古強者のオーラも出しているため、マリアンは只者でないことを見抜く。
「少佐、こいつは?」
「山本五十六大将のメッセンジャーじゃ。お主の国の言葉で言えば、『スピリッツオブシップガール』とも言えば良いか。川内型軽巡洋艦の2番艦『神通』の化身で、神格じゃ」
「なぬにぃぃぃ!?」
艦娘の存在も、この時に開示された。扶桑艦艇の化身が大半であることから、反発から守るために存在を伏せられていた事、ウィッチにはない『戦艦級の大火力を個人単位で行使できる』力を持つことから、『マリンウィッチ』とも噂された事。金剛達が正体を明かしたのも、この時期だ。この後、『ロザリーの命令』で二人は出撃
金剛が扶桑の『オールドネイビー』である事を知ったバルクホルンは、金剛の軍での待遇が少将相当(連合艦隊旗艦経験者であるので)であるため、軽率な態度に眉をひそめつつも、上官として接するようになった。ミーナは金剛へ『出自は知っていたけど、扶桑の軍艦とは思えない』と納得の表情。坂本はちょっと不満を見せた。金剛の出自は常識であるが、扶桑で生涯を送った事を重視していたのもあり、ちょっと幻滅したようだった。
「う〜む……」
「文句言うな。金剛の出自くらい常識だろ?」
「しかしだ、リベリオン人ぽくもあるぞ?」
「お前なぁ。扶桑軍艦だからって、全員が大和撫子なわきゃねーだろ」
最終決戦前、正体を明かした金剛に不満を見せた坂本。どうも幼いころの大和と長門のイメージが強いようで、そのイメージを持っていたようだ。
「金剛のアレはブルーカラーの連中の仕込みだろ?パンクロック生まれる様な国なんだし」
「ぐぬぬ……」
「ああ見えて、あいつは少将で、上官だぞ?口の聞き方に気をつけろよ」
「分かっとる。その割にはお前はタメ口だが?」
「個人的にメル友だしな。公の場じゃ切り替えるが」
「相変わらず手広いな」
「お、そだ。この決戦には、おっちゃんが506にニセ命令を出すこと、お前には言っとく」
「ニセ命令?」
「ああ。事後にミーナ中佐に伝わるから、それっぽく振る舞ってくれ」
「気が咎めるな……それで、ロザリー少佐の命令をどうやって」
「ド・ゴールに黙認させるからって、声がよく似てる翔鶴型姉妹に偽無電をさせる。ロザリー少佐には使者を送ったし、反対しそうなモンティには、ぜかまし送ったそうな」
「おい、そこおかしいぞ、そこ!なんでぜかましなんだ!?」
「たまたま来てたんだと。つーか、お前もぜかましって呼ぶんだな」
「金剛さんのが感染ったんだよ。それで、スーパー戦隊はどのくらいが参戦を?」
「5〜6戦隊はすぐに動員出来る。問題は、ファイブマンが間に合うか」
「ファイブマン?」
「地球戦隊ファイブマン。一般人が基地と装備こさえて、結成した戦隊なんだが、メンバーが兄弟姉妹なのは納得出来るだろ?」
「あ、ああ」
「普段の職業だが、小学校教諭なんだよ……ファイブマン。多分、宇宙一強い小学校の先生だな」
「なんかおかしいぞそれぇ!?」
「むしろ、プロの軍人で作った戦隊のほうが後年になると減るんだよ、戦隊は」
――スーパー戦隊は後年になるほど、普段の職業が一般職になっているケースが増大する。ファンタジーじみた存在に毎回毎回、侵略されていれば、こうもなる――
「ジェットマンなんて、軍のバックアップあったけど、実際は偶然にバードニックウェーブ浴びた一般人と軍人のリーダーの混成だし、ジュウレンジャーに至っちゃ、現生人類ですらないし」
「なぁ!?わけが分からん……」
「こっちが聞きたいわ!それに、歴代レッド最強の一角の誉高いレッドターボは高校生だ。強さがおかしいぞ、あれ……」
――レッドターボは歴代で最も若い部類に入るレッドだが、その戦闘力は高く、幹部級の暴魔を何体も葬っている。坂本は、変身前の彼、炎力に挑んでみたが、歯が立たなかった。黒江でようやっと互角に持ち込める『程度』だ。他にも、レッドファルコン(超獣戦隊ライブマン)の天宮勇介は、武子が慕っているため、黒江は彼には敬語を使っている。レッドマスク(光戦隊マスクマン)=タケルは圭子が親しい。
「しかし、彼らが強いのは納得出来るんだが、なんでちょっと鍛えてもらっただけで、お前らは次元が違う力を?」
「バーロー、未来行ったりしてる時に自主トレしてるわ!お前みたいにキチガイみたいに時間早くないけど」
「バカモノ、海軍じゃ朝6時には食事だ。自然と早くもなる」
「おま、4時起きじゃねーか、夜明け前に起きるなんて農家や漁師なみだぞ?」
「海軍は月月火水木金金だ。この程度は宮藤にもさせてた。お前らこそ、5時半じゃなくて、5時にしたらどうだ」
「眠くちゃアラートに支障をきたすだろー、起床ラッパのちょっと前に起きて身支度出来れば十分だろうよ?」
「軍人たるもの、しっかりと朝を迎えんとな」
「おめーには負けるよ」
と、親しく会話をする二人。この頃が二人にとって、もっとも気楽に、友人としていられた時間であった。会話の一句一句を噛み締めつつ、坂本の後半生に暗い影を落とし、この笑顔を壊した張本人たる、坂本の子『土方美優』への憎しみを滾らせる黒江。
――黒江が生涯で和解する事もなく、その本人の死後も負の感情を抱いていた、数少ない人物の一人。坂本の実子であったという血縁関係が余計に許せない原因なのだろう。黒江は母親との確執、あと数年で死んでしまう父親を思い慕うなど、『親子』に対して複雑な感情を抱いている。グレートマジンガーのパイロットである剣鉄也にシンパシーを感じているのは、似た境遇にあることを、お互いに感じていたからだ。その境遇故、実の親をぞんざいに扱った美優は『絶対に許さん!!』な人種となる。その片鱗は見え隠れしており、父親からの連絡に感激する、兄からの電話に嬉々として出るなどを、智子は見ている。家族関係を大事にする姿は坂本も見ており、黒江の精神構造を見抜いていた。
(黒江は『家族』を守りたい、『仲間を守りたい』一心で生きている。それ故、自分が持ちたいと願う者にすがり、穴拭と加東と擬似的な家族関係にあるのを望んでいる。私はお前が思うような人物ではないが、お前がそう望むなら、『坂本美緒を演じる』さ、どこまでも)
坂本は密かに決意する。黒江が『家族を求めている』のなら、黒江が望むようなキャラクターを演ずる事で、黒江の精神的安定を保させると。これが坂本が『坂本美緒』であり続けた真の理由。『手がかかる妹分』としてのポジションを保つ事。それが坂本が自らに課した決意だった。それは坂本が軍時代末期、喧嘩別れするかのように見せる『一世一代の大舞台』で頂点に達する。坂本は、ドラえもん達の友情に理想像を見出している黒江に、『別れも友情の形の一つ』であると教えたいため、生涯をかけた大舞台に臨む。坂本が黒江を上回った数少ないモノの一つは、この『演技』だったのだ。だが、全て思惑通りにはいかない。娘との不和が坂本の肉体を蝕んでいき、この頃に考えていた『結末』は迎えられなかった。結果として、坂本は目的の半分は失敗し、半分は成功したわけだ。だが、別れの際、黒江に大きなショックを与えてしまったのには罪悪感をずっと感じており、今際の際に、黒江を病室に留ませたのは、彼女なりの贖罪だったのかもしれない。
「ふう。ウルスラとの電話がやっと終わった……って、あなたたち、何してるのよ」
「おう、まっつぁんも交えて、ウチの編成会議中だ。ウチの編成は複雑な上に、原隊が統合戦闘航空団だしな」
「赤松さんまで……。何してるんです?」
『おう。どうせ軍令部に料金はツケになるから、そのままかけとるだけだ。お前らの隊はなんか複雑なようだしの』
ウィッチ達が持つ携帯電話は、未来世界製のそれで、連合軍では、隊の幹部級のみが使用と保有を許されている『官給品』に入る。赤松の場合は『最古参特務士官』であるので、保有している。携帯電話は未来技術の産物で、ミノフスキー粒子の都合、20世紀末から21世紀初頭にあった、俗に言うガラケーであり、2010年代以後のスマートフォンではない。これはミノフスキー粒子の作用で、スマートフォンでは誤作動が多くなり、一気に廃れたからだ。また、スペースコロニーでは、携帯電話も使用規制が多いのもあり、あまり見かけない道具であり、携帯電話を知らないコロニー生まれの若年層がいる始末だ。(概ね、2005年前後のレベルにまで携帯電話は後退した)
「まっつぁん、この編成でいいと思います?」
『いいと思う。万が一、反対されたら、扶桑最古参のウィッチが太鼓判を押したと言え。ガランドの嬢ちゃんとは知己だ』
最終的に、ガランドも自分の世話に世話になった事を示唆した赤松。扶桑最古参のブランドは、もはやカールスラントにも通じるレベルなのだというのを自慢する。決定された編成はガランドが最終的に裁可を下す(ミーナがペリーヌの僚機にリーネをこだわったため)事で許可される。ミーナはこの501(新)では、もっぱら政治的にスリーレイブンズの後塵を拝しており、ガランドもミッド動乱の出来事で、ミーナへの信頼が揺らいでいたため、スリーレイブンズを用いていた。ミーナはこの半年間、自身の無知から来る失態を犯す事が増えていた。
「なんでこんな編制にするんですか!?」
「だから訓練や補給のための基本編制だって説明したろうが、作戦時の編成で入れ換える事も考慮してるわ!」
と、その夜、ミーナと黒江が揉めていた。編成を変えた事に難色を示すミーナに、黒江が迫る形だった。機体や武器の仕様が近いもの同士で組ませる。補給整備の効率化のため訓練も同じ武器のペアで基本訓練が出来る。 出撃では異なるペアの組合せからフライト内でペアの組み換えを行い、柔軟性も考えてる編制をしなければ意味は無い。自衛隊と地球連邦軍で航空兵科の教育を受けている黒江はそう認識しているのだが、ミーナとしては、初期から根気強くペリーヌの護衛機としての開花を進めてきたため、変えると言われても、困惑するだけだ。ヒートアップしてきたため、黒江は地が出ていた。
「こちとらな、お前より何年も長く飛んでるんだぞ、ミーナ!ミッド動乱ん時から思っとったが、自分の思惑通りに世界が動くと思うな!」
黒江が地を晒しだして言った台詞は、自分の体験から来る言葉だった。かつて、ティターンズに教え子を殺され、精神が『壊れ』、そこから精神の再構築をして、できたのが今の状態である。菅野の上位互換と言うべき荒い言葉使いは『現在に於ける、彼女の地』である。そのため、報告書にある彼女自身との差異が大きい。
「世界は甘くはねーんだ。お前が彼氏を戦争で失った事でトラウマを持ってるのは知ってるが、大事なモノを失ったのは、オメーだけじゃないんだぞ。私だって……!」
黒江は自身のトラウマを言いかける。教え子を殺され、精神崩壊状態に陥り、オラーシャを彷徨った事がある事を。
「……いや、忘れてくれ。 今の話に関係ない事を言うところだった」
「分かったわ……。黒江少佐、これだけはもう一度、確認させて。貴方はスリーレイブンズなの?」
「だから、前に言ったでしょ?私はスリーレイブンズ、その筆頭ッスよ。連合軍の伝説のウィッチとは、私と穴拭、それと加東の事です。しつこいですよ?」
ここで、スリーレイブンズが自分を指す単語であった事を、改めて明言した。それが将軍殴り込み事件を経て、ミーナが自ら、最後に行った最終確認だった。それ以後はスリーレイブンズのやることに異論を唱える事は、あがりを迎えつつある坂本の事以外では無くなったが,最後にやらかしてしまうのが、『VFの燃料費』なところが決定的なイメージ形成となり、後年に彼女の子『クリスティーナ』が『ウチの母さんはドジっ子属性あったから』と評するほどのドジっ子属性があったのが暴露されたという。
――数日後、502戦闘隊長であったサーシャが、501隊員としての初陣を踏んだ際、鳥人戦隊ジェットマンのジェットガルーダが援護に駆けつけ、バードガルーダからのトランスフォームを披露し、サーシャを驚愕させた。
「おお、今日はジェットマンのガルーダが来たか!」
菅野は大喜びである。が、この種のスーパーロボットのトランスフォームを初めて目にしたサーシャは驚愕しきり、指揮を忘れるほどに釘付けになっていた。
「あれが……未来世界の超兵器……」
「ジェットガルーダ。ジェットマンが別次元から託されたスーパーロボットよ、サーシャ大尉」
この日の戦闘指揮は智子が行っていた。そのため、サーシャは次席の立場だったが、よく隊をまとめていた。鳥を象ったジェットガルーダの巨体に圧倒される彼女。ガルーダは完全な人型ではないところがポイントである。全長60mの巨体から繰り出されるパワーは、ジェットイカロスを大きく凌ぐ。腕の鉤爪で敵を切り裂く『ガルーダクロ―』が最大必殺技であるように、インファイト向けの特性であり、そのあたりはギャラクシーロボに似たポジションである。
『後は任せろ。行くぞ!』
この時の操縦者は天堂竜=レッドホークであった。ジェットガルーダの出自は『譲渡された』二号ロボであり、1号ロボにありがちな『5人揃っての搭乗』を前提に設計はされていない。そのため、レッドホークが単独で搭乗しても問題はない。ガルーダはインドの伝説上の鳥『ガルダ』が語源なので、何かと名称の由来に謎が多い。
ジェットガルーダが巨体を飛び上がらせ、鉤爪にエネルギーを集める。最終決戦後に下半身を新造する勢いで修理した後は、パワーも上がっており、歴代で随一のインファイトロボのギャラクシーロボに引けを取らない。怪異を外殻ごと再生を無視し、そのままパワーで切り裂くという、強引な芸当が可能なのは、スーパーロボットならばである。
『ガルーダクロー!!』
ジェットガルーダのガルーダクローが怪異の再生を無視して、外殻ごと、引き裂くようにしてコアを破壊し、怪異を消滅させる。技の発動時にガルーダが吠えるのも、スーパーロボットを初めて目の当たりにしたサーシャにカルチャーショックを与えたようだ。しかし、これでもほぼ歯が立たなかった(グレートイカロスを以ても無力に等しかった)バイラムの最後の幹部『ラディゲ』が如何に強かったかが分かる。
「これがスーパーロボット……」
「あれなんて可愛い方だぜ、先生。上には上がいてさ、大陸ぶっ飛ばせるとか、次元ごと相手を切っちまうのがいるんだからさ」
「なっ!?」
『人間の科学が、これまでは神でしか、なし得なかった事に手が届き始めたって事だ、サーシャ大尉。俺達スーパー戦隊でも、そこまですごいのは、そうそういない』
レッドホークがいう。ジェットマンの後を継いだジュウレンジャーの守護獣になると、本気を出せば、究極大獣神となり、オリンポス十二神の主神ゼウスすらも驚くほどの力を有している。実際にサタンを名乗った邪神を滅ぼした事もあり、最強の一角に挙げられる事もある。だが、恐竜戦隊ジュウレンジャーが行方をくらました事もあり、所在不明である。
「ジュウレンジャーの所在は掴めないんですか?」
「ビッグワンが、ジュウレンジャーの活動時期の1992年に行って探しているが、中々掴めないらしい。俺たちジェットマンも小田切教官が難色を示していたから、参陣が遅れていたわけだしね」
ジェットマンやジュウレンジャーなどに代表される、90年代以後のスーパー戦隊は交渉が長引く事が当たり前だった。まず、所在の確認から始め、戦っているところに助太刀し、その上で助力を乞うという手法が使われていた。だが、90年代初の戦隊である地球戦隊ファイブマンは、メンバーが宇宙に旅立ってしまう前に助力を乞う必要が、ジュウレンジャーは1993年に何処へと旅立つ前に、という具合で、地球からいなくなる前を探す必要があったりしたため、さしものビッグワンといえど、骨の折れる仕事だった。ジェットマンにしても、結城凱の存命期間中までの活動という難点もある上、彼らの敵が歴代随一に強いため、離れる事に難色が示され、交渉が長引いたのである。(結城凱は1995年の超力戦隊オーレンジャーの活動時期中、竜の結婚式に行く途中、ひったくり犯に刺され、それがもとで死去している)そのため、歴代戦隊が援軍として現れるという形を用いて、90年代以後の戦隊を説得していた。今は地球戦隊ファイブマンへの援軍に、電撃戦隊チェンジマンが赴いているところらしい。
「90年代以降の戦隊って、なんで参戦していないんですか?」
『俺たちジェットマンの頃からは、価値観が多様化してきてたから、80年代までのように、『正義の味方が悪を懲らしめる』事に疑問があったり、変身後もコードネームで呼び合う事も少なくなったんだ。俺たちジェットマンがたぶん、最初に全員が本名で呼びあった戦隊だろう』
ジェットマンが最初に『変身後も本名で呼び合う』戦隊である。これはレッドホークも認めるところだ。ジェットマンの後を受けたジュウレンジャー以後、名乗りに本名を入れるケースが多い。91年から94年まで(カクレンジャーまで)継続し、それ以後もちょくちょくある。
『俺たち以前は、軍隊が組織したり、軍隊経験がある科学者だったりが準備をしていた戦隊が多かったからね。俺たちジェットマンも本来はそうなるはずだったけどね』
――1991年。日本がバブル経済に沸いていた最後の時代に生まれたジェットマンは本来、エリート軍人らで結成されるはずだったが、バイラムの攻撃で計画が頓挫、バードニックウェーブを浴びた4人の民間人を探し出し、なんとか組織を運営していた。レッドホーク/天堂竜は、当初予定のジェットマン要員の唯一の生き残りである――
『今頃、剴の奴は基地のレクリレーション施設でカジノに興じてるか、サックスでも吹いてるだろう。あいつは本質的に遊び人だしな』
「ああ、ブラックコンドルの」
『俺が言うのもなんだが、剴の奴の真似はしないで、ギャンブルは程々にな。君たちのところの山本五十六閣下のように、カジノ出禁になるまでとなると、ビョーキだからね』
「あはは……気をつけます」
智子に一言物申す、レッドホーク。結城凱=ブラックコンドルがカジノに入り浸り、軍司令級相手にギャンブルを挑んでいるのを知っている。結城凱は、歴代戦隊で最高級に『子供への教育には良くない』男である。バブル期にいる人間であるため、身分不相応なギャンブルで身を持ち崩す危険を知っているため、ウィッチの中では、比較的年長である智子へ戒めの一言を言っておく。ヒーローも時として、現実的な問題と向き合っている証拠であるので、菅野は苦笑い、サーシャもため息だった。
――司令室
「ティターンズが動員する戦艦はこれで全て?」
「アイオワ級戦艦の数が不明ッス。完成を急がせていれば、あと二隻は増えるでしょう」
司令室では、大海戦に参戦するであろう敵戦艦の陣容の調査報告が上がっていた。報告書には、ノースカロライナ級、サウスダコタ級と言った新戦艦の写真が添えられている。リベリオンが本来であれば、今次反攻作戦に動員していたはずの戦力である。数は多く、リベリオンだけで、連合艦隊に迫る勢いだ。リベリオンが分裂後も建艦計画を続けさせているのが伺える。
「信じられないわね……戦艦を短期間にこんなに増やしてるなんて」
「空母を数年で何十隻と造れる国ですから、奴さんは。戦艦もその気になれば、2年で4隻は確実に増えますよ。だから、ウチが質に走ったのが分かるでしょう?」
「16インチ砲艦をこうも模型感覚で増やすなんて……。ブリタニアでも、4隻揃えるのに数年だというのに」
ミーナは改めて、リベリオンの生産力が世界最大である事を思い出した。他の国々が数年かける事を2年で行える。しかも巡洋艦は40隻を一年で更新可能という報告に、目眩がした。
「しかも、比較的有力な新戦艦は近代装備済み。他の二線級も近接信管の対空装備ですよ、こりゃ」
「近接信管?」
「リベリオン必殺の信管で、近くを通っただけでボカンといく対空装備ですよ。これを使われたら、殆どのレシプロじゃ、攻撃もままならないですよ」
近接信管の威力は、史実の米軍鉄壁の防空網の実力の裏付けであり、防御が厚いリベリオン機以外のレシプロ機による対艦攻撃の成功率をグンと下げている。もし、ボフォースよりも遥かに威力がある戦後第一世代の3インチ砲があった場合、扶桑海軍を含めた多くの国のレシプロ攻撃機は近寄る事すら困難となる。もちろん、射撃指揮装置と組み合わせればの話だが。
「敵はマリアナとレイテでの戦訓から、VT信管を増産してるだろうし、レシプロ機の攻撃は殆ど宛にしないほうが賢明ですよ、中佐」
「確かに、こんな弾幕を張られたら、私達でも突破は困難だわ。これが新兵器の威力……」
「まぁ、ミノフスキー粒子のおかげで、ミサイルが百発百中でないのが救いですよ。もし、そうなら、敵はアーセナル・シップも作ってたでしょうし」
「アーセナル・シップ?」
「20世紀の終わり頃に、アメリカ軍の一部が考えてた船ですよ。ミサイルてんこ盛りにして、昔に戦艦が担ってた任務を担わせようというアイデアだった。確か、ティターンズがリベリオン本国軍に発案した素案の想像図が載ってるはずです」
「……なにこれ。まるでタンカーじゃない」
「弾薬庫を浮かべたようなもんですよ。戦艦がなくなるんなら、その代替をって感じで」
アーセナル・シップが考えられた当時、第二次世界大戦時に造られた戦艦たちは引退しており、その代替を求めた一部が進めていた。案の定、この艦は廃案になるのだが、戦艦が持っていた『継続的な火力投射能力』を重宝していた海兵隊、陸軍は艦砲射撃が可能な艦を海軍に求めた。それと年々進むミサイルの高額化が皮肉にも、米軍内の大艦巨砲主義閥の復活の狼煙となった。扶桑の大和型戦艦の登場を大義名分に、無理矢理にアイオワ級戦艦を現役に戻し、更にモンタナ級戦艦を『BBG』というイージス戦艦として復活させてしまう。この大艦巨砲主義閥の動きは強引すぎるもので、同じ水上艦閥でも、ズムウォルト級の増勢が現実的とする派閥と抗争を繰り広げたという。
(そいや、21世紀に戦艦を運用したノウハウが蘇ったのは、うちらのせいだよな。大和型戦艦を持っていったんで、ミサイルの高額化に悩んでた米軍が、『空母がおいそれ使えないんなら……』って。マジで作ったのが米軍らしいなぁ。日本なんて、海自が三河をレンタルするって話なのに)
「ミサイル弾薬庫みたいな船がダメになったのはどうして?」
「自衛用レーダーも積まないような船だったし、友軍艦艇の支援が無いと戦闘すら無理な仕組みなのもあって、ポシャったんです。昔の戦艦を作り直したほうが早いって事が分かったし。でも、当時はそれを行う大義名分が無かったんで」
「大義名分があれば、建造が行われたと?」
「そうです。21世紀に、ウチの国が大和型戦艦を持っていったら、面白いように事態が動いて、作っちゃいましたよ。ポンとね」
「さすが……」
「でも、かなり反対意見も多かったみたいで、結果、亡命リベリオンからデモイン級重巡洋艦を借り受ける羽目になりましたがね」
アイオワ級戦艦が退役して、十数年。アーセナル・シップが頓挫してからも十年近くが経過したある日、大義名分を得た米軍はモンタナ級戦艦を『イージス戦艦』として完成させる。ズムウォルトの失敗の代替という名目で、イージス戦艦化したモンタナを完成させる。扶桑軍が持ち込んだ改大和型戦艦へ対抗してのものだが、戦艦を作る余裕がある米ならばの芸当であるので、当然ながら、かつてのような建艦競争は起きなかった。代わりに同位国が存在する国に限り、レンタルで戦艦を持つことが流行する。それはイギリス・フランス・ドイツ・イタリアと言った、戦前期からの列強国の間での流行となる。それは、ミサイルの高額化で、ミサイルの費用対効果が疑問視される時代を迎えた故の流行であった。戦艦という『前時代の遺物』が、近代装備を与えることで有力な艦艇と化するなど、誰も思っていなかったのだ。自前建造はやらなくとも、レンタルという手段を各国が行ったので、ある週刊誌は『戦艦のオンデマンド現象』と渾名した。
――その2006年頃、米軍がBBG計画を立て、モンタナ級戦艦を復活させようとしているのを掴んだ海上自衛隊だが、当時の政治情勢とノウハウの都合、戦艦の建造と保有など不可能だった。そこで、レンタルという案が浮上したのだ。野党に追求されても、『大きい護衛艦』と思えばいいと答弁すればいいからで、扶桑にレンタル可能な戦艦が無いか問い合わせた。すると、当時に連邦政府に売却済みのものを除いたリストが防衛省へ送られてきた。すると、紀伊型戦艦(ハリアー搭載可能な航空戦艦へ改装済み)、改大和型戦艦の大和と後期の艦がリストにあった。これは、当時に扶桑が保有する戦艦の多くは大和型戦艦とその改造型へ世代交代が進んでおり、長門型以前の艦は記念艦か、スクラップ扱いで売却されていたからである。この時点で、海自は紀伊型戦艦(正確には尾張型航空戦艦)のレンタルを躊躇した。当時の政治的事情もあり、戦闘機搭載可能な艦をレンタルすると、野党に追求される危険があったからだ。かと言って、大和は大和で、有名すぎるという点が足枷となったため、最終的に尾張、甲斐、三河に絞られた。(信濃は当時、扶桑海軍旗艦であったので、除外されている)護衛艦艇もレンタルされる協定が結ばれ、扶桑へ医療技術などを提供する見返りとして、超甲巡の第二期生産ロット艦とセットでのレンタルがなされた。当時は日本の政権交代が取沙汰され始めた時勢故、取り急ぎ行われた。政権交代がなされる前に行われたため、野党は自国で作ったわけでなく、双子国の厚意であるという答弁に抗することはできなかった。2007年までに日本の海自は、戦艦と超甲巡をレンタルという形で保有した。戦艦の内訳は、三河と甲斐。甲斐はFARMUを控えており、三河は戦線で不具合があったため、その改善とそのテストも兼ねての選定であった。これに文句をつけた組織は意外にも海保で、『うちにも何かおくれ!』とごねたのだ。しかしながら、警備艦扱いの予備役にあった唯一の金剛型戦艦『榛名』を与えても、猫に小判。海防艦は21世紀には性能不足。扶桑海軍も悩んだ。これに困惑したのは海保長官だった。海保は海の警察であるが、沿岸警備隊のポジションにもある故、彼としては『5500トン級軽巡か、陽炎型駆逐艦の残余が提示されるかな?』と思ったら、大物も大物の戦艦榛名。困惑せずにはいられない。これは扶桑での海防艦の定義に旧式戦艦が含まれていたためで、榛名はその最大の大物だった。だが、海保にとって、戦艦の巨砲はオーバーにすぎる上に扱えないため、すぐに却下され、海軍基準の中小型艦艇を求めた。すぐに却下され、海軍基準の中小型艦艇を求めた。その中でリストに挙がったのが、特型駆逐艦〜陽炎型〜島風型の残余と、5500トン級軽巡の残存艦だった。そこから、扱いにくい島風型を省き、年式から、旧式化で一線から下げられていた残存艦は、日本で第二の人生を送る事になる。結果、旧軍式駆逐艦の残存艦の殆どは海保がレンタル、あるいは購入し、多少の改修の後に重武装巡視船として使用された。これは海保に、旧軍の後裔の一つである自負が多少なりともあったため、旧軍艦艇を出自に持つ船を得る事で、その意識を保ちたい思惑が内部にあった事で実現した。『軍事組織の海自ならともかく、警察組織の海保までもが旧軍艦艇をレンタルしてもらうのはどうか』と、流石に野党に追求されたものの、海保は保有している巡視船の老朽化が問題となっていたため、今すぐに出来るものではない船を欲しがるのも無理はないとの同情論が出た。更に、かつての不審船事件での失態(巡視船の速力不足)を返上すべく、足の速い旧軍式駆逐艦を求めた海保の思惑もあり、新造艦が竣工するまでの場繋ぎを名目に、レンタルしたのだ。この外貨獲得もあり、扶桑は太平洋戦争の戦費を賄う事ができたのだ――
(数年後の太平洋戦争じゃ、虐殺も当たり前に起こる。だから、亡命リベリオンが態度に気を使うんだよな。水際作戦が実効の意味をなさないというから、持久戦に移行した負の面だけど)
――黒江の独白の通り、ティターンズも、戦争ではかなりの出費をしており、21世紀の中国とロシア、フランス、反日的な一部のアメリカ人などを利用する形で、燃料や資源・資金を賄っていた。人的資源は、極秘にロシア・フランス・イスラエルなどの統合戦争の敗戦国となる国々から傭兵を雇うなどし、陸上兵力の底上げを図っていた。これはリベリオンの国情から、ウィッチの確保が難しく、更にティターンズが制圧の過程で有色人種の反乱を誘発させたために、国情が安定しないという事情も多分にあったからだ。太平洋戦争はその不満を外へ向けさせると言う、リベリオン政府の事情も含まれていた。そのため、南洋島の都市や村は災厄に見舞われたかのような様相を呈し、リベリオン軍の末端は虐殺も辞さず、それが太平洋戦争での民間人の死傷者増加の原因だった。そのため、水際作戦を取らなかった軍隊へ批判が出たが、扶桑海事変でそれをしようとして大失敗した過去があり、逆にその人物が批判されるという現象が起こった。虐殺も辞さないリベリオン軍への怨恨は、同族の亡命リベリオン軍にも向けられ、彼らは常に最前線に立たざるを得なくなった。その結果、終戦時に生き残った陸戦ウィッチは当初の半数、航空ウィッチに至っては、精鋭部隊にいた者たちしか五体満足で終戦を迎えられないほどの消耗ぶりとなる。死者はそれほどでもないが、虐殺され、それをしかえし、民間人すら気を許せない日々が続いた反動で、ウィッチの多くがPTSDに羅患し、退役していく事態も起こる。64戦隊は最も戦死者が多く、7名程が相打ちや自爆、撃墜で散った。その中には、黒江が新兵時代に所属していた中隊の指揮官であった古参の『寺西美弥』大佐(64Fの上位編成の司令を兼ねていた)や、黒江と同世代の八木正子大佐などの戦隊長級も複数含まれる。また、戦傷を負い、療養に入った武子の一時代理を勤めた『広瀬吉子』大佐も黒江を庇い、戦死している。黒江はその際に激昂し、彼女を葬り去った敵部隊を次元ごと消し去っている。64と言えど、無傷ではない。戦隊長級に複数の戦死者が生じ、黒江が怒りで暴走しそうになる局面も度々生じた。特に家族と見なしている智子を傷つけた敵には理性がぶっ飛ぶほどに激昂し、艦隊や軍団ごと『インフィニティブレイク』で消滅させたり、『オーロラエクスキューション』で凍結させたところで、氷ごと粉々に砕くなどのエグい行為も無我夢中で行っている。黒江の精神は、一見して強いようだが、ある面では実に脆い事が分かる。特に家族と見なした者たちを『傷つけられる事』、『家族の誰かが家族の幸せを壊そうとする』事に怯える面が強く出たらしき素振りもあり、戦後の60年代末、甥っ子の一人が新妻にDVを働いた事を知ると、その甥を自宅に呼びつけ、泣きながら殴打したという記録が、黒江家に残された。当人は事後、結果として、嫌っていたはずの母親と同じような事をしてしまったため、強い自己嫌悪に陥った。甥の父にあたる長兄は『よく殴ってくれた。私の不徳の致すところだ、お前は気にするな』と慰めてくれた。その殴られた当人は叔母を激昂させてしまったため、本能的に死の恐怖を感じたか、後日に妻と別れ、家からも出家して僧侶の道を歩んだという。
(あいつに何したか覚えてねーんだよな。坊さんになって、その後、確か阪神淡路の地震の時に死んだってのは兄貴から聞いたけど……『あん時』はカミさんに泣きつかれて、頭に血が上っちまってたからな……記憶が殆ど無い……墓前で詫びよう)
と、あることに罪悪感を感じている。それは黒江の『家族への思慕』という脆さが悪いほうに作用した事例の一つ。生涯でも有数に後味が悪かった出来事。1945年の時間軸に居ながらにして、それ以降の出来事のことを考えるのも、人格が入れ替わっている証であった。
(この『戦い』にオーディーン、あるいはロキの手がかかっている。それを打ち砕き、歴史の流れを確定させる!わりぃが、この時間軸の私……まだまだ肉体は返せねぇ!)
同時に、歴史の流れを思うがままに変えようとする北欧神話の神が、この時間軸の出来事をコントロールし始めているのを感じ取った黒江は、決意を固める。たとえ翼、麗子、澪ら大姪、更にその子らすら動員してでも止めると。そして実際に翼らを呼び寄せる。ティターンズの背後にいる北欧神話の神に対抗すべく。そのため、スリーレイブンズのバーゲンセールとも言うべき状況が発生する。二代目の参戦により、501枠が増えたからだ。もっと正確に言えば、三代目501の主要メンバーが参戦している事実が判明した。それは三代目501の練度が『初代の再来』とされ、喜ばれているかの証拠であり、同時に501ストライクウィッチーズの名は時を経ても健在の証であった。その戦闘隊長たる翼は若かりし頃の初代の面々と対面を果たした際に、『私は綾香叔母さんの大姪です。大叔母と坂本さんのポジションを受け継がせてもらっています』と自己紹介をし、黒江も『私の数人の大姪たちで一番若いが、ガッツがあるのがこいつだ』と補足し、翼が自分の『後継者』であると明示した。坂本からは、『お前も人並みに、姪っ子自慢するんだな』と言われ、赤面する。実際、翼は自分が三兄の家庭から引き取ってまで手塩にかけた逸材である。自分を凌ぐ才覚を秘めているとさえ自負するが、いささか未熟である故、こうして鍛えているのだと。
――501の壊滅、ひいてはイタリア半島の全滅と破壊に歴史を動かそうとする邪神ロキとティターンズ。それを阻止せんとするアテナとエゥーゴ。それは『聖戦』の様相すら呈する。ティターンズは邪神の力を借り、自分達を切り捨てた連邦政府、ひいては地球へ復讐せんと、異世界の破滅すら厭わない。それを阻止せんとする旧エゥーゴ主体の連邦政府とアテナ。ラ級『ソビエツキー・ソユーズ』はティターンズの復讐の象徴であった。それに対抗するラ號は連邦政府の良心の象徴。双方の激突はイタリア半島へ破壊を齎す。圧倒的な破壊を。原子破壊砲がイタリアの大地を火の海へ変えていく。それに絶望するルッキーニと、506のアドリアーナ。ソビエツキー・ソユーズとラ號の大怪物同士の砲撃戦。それを招来させるように仕組んだ黒幕がロキというのが判明したのは、黒江の記憶では、自分達の世界が2010年代に入る頃である。その頃にはティターンズも消滅して久しかったし、501の初代メンバーの存命者も指で数えられるほどに減少していた。だが、それは実質、解決にもなっていない結末であり、それを捻じ曲げてまで、ロキを倒すため、ロキが依代にしているであろう『アレクセイ』(ティターンズ残党の統率者)の肉体ごと討ち滅ぼすため、天秤座の武器をも使用する決意である。これは歴史の流れを変えない範囲での改変であり、死後に望んだ『結末』である――
(ティターンズは、例えアレクセイが戦死しても、誰かを代わりに仕立てて、なんだかんだで91年まで存続する運命だ。奴を倒しても、歴史の流れそのものには影響はない。例え、イタリア半島が消滅しようが、コスモリバースシステムを使えばいい)
コスモリバースシステム。これこそオリジナルのコスモクリーナーDの中枢部であり、そこにはサーシャ(火星で死んだスターシャの妹)の魂が実は宿っており、その力で惑星の生命力を活性化、時間操作も使い、再生させる。要するに、死者の魂をコアにしてこそ、全機能を発揮しうる)表向きの機能の放射能除去は、あくまでもその副産物である。地球が持つコスモクリーナーDは中枢部の解析ができなかった事による劣化コピーである。コスモリバースシステムを使えば、大陸一つの再生など容易い。それを前提に、例えヴェネツィアがソビエツキー・ソユーズに焼き払われ、地殻ごと破壊されようが、ロキを倒せばいいと。もちろん、ルッキーニとアドリアーナが聞いたら、瞬間湯沸かし器のごとく、激昂しかねない発想である。これは惑星を容易にテラフォーミングし、再生できる科学力の世界にいたからこその考えであり、些か強引であるのは否めない。その為、その考えを知る者達が『フォロー』をすることが必要である。
――智子は最終決戦前に言った。『ティターンズとの戦いというより、ロキを倒すための戦いって見てんでしょ、あなた』と。『エゥーゴとティターンズの第二ラウンドを隠れ蓑にしてるのがロキなら、依代ごとぶっ倒すしかない。例えイタリア半島が消滅しようが、倒さなくちゃならん。最悪、コスモリバースシステムで半島は再生できる』と返した。ルッキーニが聞いたら、瞬間湯沸かし器のように怒り狂うし、506のアドリアーナも激昂して殴り掛かるのは間違い無しな発言だ。この考えは、ルッキーニの思いを汲んだハルトマンと、アドリアーナの愛国心を汲んだ黒田によって、軌道修正がなされる。その為のグレートマジンガーやグレンダイザーである。また、シナプスがラ號を呼び寄せた真の理由は、黒江の、『最悪、イタリア半島を犠牲にしてでも、ロキを倒す』という趣旨の発言をハルトマンが伝え、そのような真似をさせられんと、ソビエツキー・ソユーズと同等の性能を誇るラ號を動員することで、黒江の独走を押しとどめさせるためだった。聖闘士となったが為に、正義のために殺戮者となることも厭わない黒江、それを止めようとする者達の奔走が、このロマーニャ最終決戦の背景だった――。
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