短編『KS空軍の悲憤と扶桑空軍の旭日』
(ドラえもん×多重クロス)
――カールスラント空軍の戦力は扶桑が連邦を組んだ日本により、陳腐化してしまった。全機種が『前時代の遺物』とされたのだ。当時、ウィッチ閥の隆盛で通常兵器開発が停滞していた事もあり、当時に実用化寸前であった『メッサーシュミット(シャルフなのだが、Gウィッチらはメッサーシュミットと呼んでいる)Me262ですら、旧世代の遺物と判定されてしまったのだ。日本連邦は地球連邦軍の援助で、最低でも第二世代ジェット戦闘機を、精鋭部隊では可変戦闘機を運用するほどの技術革新を遂げており、相対的にカールスラント空軍は旧態依然とした軍隊と化してしまっていた。また、ウルスラ・ハルトマンが提唱していた『ジェットエンジンの高速を活かした一撃離脱戦法』が、ジェット戦闘機同士の空戦ではほぼ意味をなさない事が判明した事もあり、ガランドはなだめるのに苦労していた。
――レヴィ達が旅行中の頃の南洋島―― ガランドは空軍総監の職をラルに譲った後、義理の家族であるナカジマ家と隠居するつもりで一等地に邸宅を購入していたのだが、皇帝のみならず、ラルの性格を不安視していた多くの戦友らから退役を思い留まるように説得され、大将昇進と引き換えに、自由行動と人事裁量権を勝ち取った。そのため、ハルトマン、ハインリーケ、バルクホルン、マルセイユ、ルーデルは皆、64Fの外人部隊『魔弾隊』に送り込まれている。当時、統合戦闘航空団の統廃合と、実質的なカールスラント軍人の裏切り行為、バダンがナチス・ドイツであるため、同位国であるドイツ連邦からさえも白眼視されていたカールスラントはオストマルクとの統合を経て、実働戦力が有名無実化していたカールスラント空軍は国際貢献に躍起になっていた。そのため、ガランドが皇帝の権威を盾に、欧州戦線から次々とエースを引き抜くのを黙認した。現総監であるラルもガランドの指示に従い、太平洋に赴任したので、総監も例外ではない。んな状況ながら、欧州戦線から有力者の大量引き抜きに反対が起きなかったのは、64Fに二隻のペガサス級が貸与されたからだ。一隻はアルバトロス、もう一隻はアルビオンだった。
いずれも第二世代型ペガサス級強襲揚陸艦で、アルビオンはデラーズ・フリートとの戦いの当事者だ。第二世代ペガサス級はアナハイムが建造に関わっていた事や、グリプス戦役での政変の影響で、全艦の解体がお流れとなり、ギアナ高地で保存されていた。しかしながらラー・カイラム級機動戦艦の量産化で再配備の必然性も薄れ、宙に浮いていた。第一世代型の陳腐化もあり、供与、貸与枠軍艦として充てがわれ、64Fに貸与されたのだ。アルバトロスとアルビオンはFARM改装を受けており、当時の地球連邦軍最新鋭機の運用に耐える設備を持つため、当初予定されていた『飛天によるパラサイト運用』が一瞬で撤回されたのだ。また、船であるので、海軍は配備に反対したが、現状、宇宙戦艦を扱えるのが64Fしかないので、承認した。
「連邦軍のおかげで置けましたよ、閣下。ペガサス級」
「うむ。ここが本来、飛天の拠点になるはずだったのが良かったな」
前史では移転した先の基地だった64Fの基地だが、前史と違い、当初から64F専用の基地となっていた。これは沿岸部の地下に、ニューレインボープランでのラ級建造ドックがあるからであった。前史の教訓で、重要軍事物資などはジオフロント化しているが、ダミー都市を幾つか置いてもいる。予算がないところはベニヤ板のセットであったり、土で作った壁だったりする。これは第二次世界大戦で実際に行われたダミーの設置がアイデア元である。そのため、わざと地図にも架空の街を記載している。日本とアメリカが実戦テストという名目で大陸間弾道弾迎撃用の防空システムを持ち込んでおり、戦略爆撃機という兵器の存在意義は実のところは薄れていた。本土空襲の凄惨な記憶がある日本は扶桑に大量に03式中距離地対空誘導弾を流し、旧来の高射砲の殆どを駆逐してしまったためでもある。そのため、リベリオン本国空軍は戦う前から『地獄を見る』事が確定していた。また、携帯SAMも大量配備されたので、実質的に当時の相応の兵器が主流の敵側は相当な出血をいきなり強いられる事になる。また、2010年代から元・大日本帝国陸海軍出身者を義勇兵として雇用したのも、リベリオンの誤算であった。彼らは空対空特攻すら躊躇しない勇猛果敢さを持っているからだ。また、本土空襲の記憶がある分、敵機に一切の情け容赦がなく、リベリオン人の恐怖の的となる。戦闘ストレス反応を患う者がいきなり生ずるのは、義勇兵らの空対空特攻すらも躊躇しない敢闘精神と復讐心のせいであり、戦後、当時にパラサイトウィッチであった者の多くが彼らを恐れたのは、鬼気迫る表情が見え、低空にいたら、逆落としに突っ込んでくるからと評されることになる。
「今度の戦争はおそらく、ウィッチが今までの常識のもとで輝ける最後の戦になるだろう。ウィッチ華やかし時代の最後を飾るのには相応しい」
ガランドは知っている。ウィッチが一つの兵科として存在し、戦争に使われる最後の戦争こそ、この太平洋戦争と。扶桑ウィッチの多くは既に20代を迎え、今までの常識ではロートルの集まりだ。しかし、労働基準法制定による心筋代謝速度の低下、RウィッチやGウィッチの登場による『あがり』の有名無実化がウィッチの存在を変革した。扶桑のウィッチの平均年齢は10歳も上がり、地球連邦軍からの提言もあり、ウィッチの教育は長期化した。そして、自衛隊内に設立されるMAT(モンスターアタックチーム)部門への『転職』が拍車をかけた。結果、平均年齢は25歳前後、ウィッチ部門としては超高齢である。しかし、軍人としては当たり前の年齢ではある。エース達が戦争前に上がりを迎える扶桑では、RウィッチとGウィッチ主体にならざるを得ない。そうでないと、戦線を担うウィッチがごっそり抜けてしまうからだ。現在のの第一線ウィッチの後継と期待された人材がごっそり抜けた事もあり、ウィッチ兵科の歴史的役目は終わったと、Gウィッチも判断している。怪異との戦いが『害獣駆除』と見なされた事、それ専門の部署が設立された事により、『軍に留まる意義』も薄れたからだが、Gウィッチは軍に留まる。それがウィッチの変化を起こした者としてのケジメであり、禊なのだ。
「ええ。我々『G』が起こしたこの変革、この戦争で華を添えましょう。ウィッチ兵科の有終の美に」
武子も同意する。ウィッチ兵科は有効性の低下と対人戦闘での費用対効果の面から、戦争が終わると同時に自然消滅に向かうだろう。ウィッチ兵科がこれまでの形で存在できる最後の時間が太平洋戦争なのだと。かつて勃興を担った人物たちが自分たちの手で幕引きを行う。自分たちの手で『自分の手を離れて、独り歩きしたモノ』を終わらせるのは難しいが、その土壌を少しでも整えてゆく事がGウィッチの政治的目的になっている。それが将来的にウィッチの立場を守る事になるのだ。航空ウィッチが減るのであり、陸戦ウィッチは大して減らないが、MBTの支援随伴歩兵で落ち着くだろう。通常兵器の異常発達はウィッチの未来を変えたのだ。
「武子君。次の戦は我々『G』が矢面に立つ必要がある。異端者と陰口を叩かれようが、ネオ・ジオンとティターンズの事もあるからな」
「ええ。ここからは別の世界にはない流れですからね。むしろ、最も日本の辿った流れに近いのかもしれません」
「だからといって、日本の楽観論者共のように、扶桑を負けさせ、軍を解体させようとするのは論外だがな」
「ユキヲ君はもう、あれですよ。一郎翁が哀れになりましたよ、脳血管破裂なんて」
「翁も嘆いておられるからな。全く、翁のご子息はどういう教育したんだ?」
「さあ。少なくとも、弟君のほうが政治家向けですよ。ユキヲ君は政治家には向いてないタイプにしか思えなかったですよ」
武子も黒江やレヴィから散々に愚痴をこぼされたためと、鳩山ユキヲ氏の総理大臣在任中に鳩山一郎との会食の際に会ったが、人としてはいい人かも知れないが、政治家の素質はないとしか思えず、一郎も『不肖の孫』と嘆いていたのを覚えている。あれでは一郎の血圧が上がるのも無理はない。
「これで翁の総理就任はお流れだろう?近衛公は論外だし、軍部出身者は日本が嫌がるだろう?何年、吉田翁に総理やらせる気だ、向こうは」
「吉田翁の右腕の池田氏が相応の年になるまでじゃないですかね?無茶もいいところですが」
「無茶だ」
「ですよ。だから、中継ぎで永野元・軍令部総長を入閣させているんですけどねぇ」
「おう、ガランドさんに加藤の娘っ子」
「大先輩、飲んでますね?」
「自衛隊で休暇が取れたからのぉ。自衛隊じゃ飲めんから大変じゃわい」
赤松はガランドとも旧知の間柄である。そのため、ガランドも気さくな付き合いである。なお、黒江が大忙しであるのに対し、彼女は特務士官の出であるのが幸いし、日本でのバッシングにはあっていない(黒江は正規将校だったのが不幸だった)ので、普通に2016年まで勤務している。
「あの、大先輩。どうして大先輩は綾香のようなバッシングに遭わなかったのです?」
「ボウズと違って、ワシは一兵卒からの叩き上げ、それと海軍だ。ボウズが可哀想なのは、ボウズが陸士の出だからだよ」
赤松は黒江が2005年のカミングアウト後、バッシングを受け、意気消沈したのをカウンセリングし、黒江を慰めている。航士の出というだけでバッシングされる黒江。赤松のところで泣いた事もあり、赤松は黒江を庇い、庇護した。自衛隊内部では、同位体のおかげで有名人であり、旧軍関係者からも慕われている赤松だが、一般的には無名だった。そこが赤松には幸いであり、黒江には不幸だった。2005年当時の航空幕僚長もこれを憂慮しており、対策を源田に相談しにくるほどだった。そのため、黒江は赤松を強く慕っているのである。赤松は長髪のスラっとした美人で、黙っていれば凛々しい系なので(口を開くとバンカラ系だが)、入隊後は女性自衛官から人気もあるし、意外な事だが、2010年度には広報のポスターになっている。
「何故、綾香は休暇を取らないのです?」
「あいつは2005年から数年は訴訟したりで忙しくてな。基地祭にも参加できんかった事もあるから、その埋め合わせもあって、あのあたりの時代を行ったり来たりでな。今はその2005年にいるぞ」
「だから、レヴィに調の面倒を任せたんですか」
「うむ。旅行に行けなさそうだから、レヴィに頼んだと言っとった。あの娘の過去も調べてくれと頼まれている」
赤松は黒江から、シンフォギア世界に行き、調の過去を調べてくれと頼まれていた。赤松は休暇ついでに、シンフォギア世界に赴き、黒江が共有している記憶を手がかりに、シンフォギア世界で調査を行っているのだ。その調査で判明したのは『調には失われし本名があり、埼玉県のとある神社の宮司の亡くなったとされる孫娘がそうではないか?』という事だった。今の名は実は仮名なのだ。
「あの娘の故郷の世界の埼玉の神社の宮司の亡くなったとされる孫娘がそうでないか?と睨んでおる。あの娘の名前は仮名であるのは、ボウズの共有記憶で分かっとるしな」
「宮司の孫娘?」
「うむ。向こうのアメリカは相当にアコギな行為をしておったらしい。それを知らせた。受け入れたよ、あの娘は」
赤松は調査結果を調に知らせている。調は『出自が分かったのだけでももうけものですよ』と受け入れた。調はアメリカに拉致された時、過去の記憶を喪失していたらしく、おそらく、両親が事故で亡くなった際に居合わせたが、幼少であった上、記憶喪失状態だったのを良いことに、救出を偽って拉致したのだろう。家族の記憶も無く、切歌やマリア以外との他人との接し方も分からなかったのが調だ。そのため、オリヴィエとの10年、黒江との共鳴、のび太との生活が調を他世界とは明確に異なる固有の存在としたのだ。
「すんなりと受け入れたんですか?」
「のび太のおかげだ。のび太があの娘を決定的に変えたんだよ、加藤」
「のび太君は意外に天然スケコマシだからなぁ。ああいうタイプが実はいいんだよなぁ」
ガランドは赤松に同意する。ガランドは前史で青年のび太を使った事があるので、のび太の人間性をよく理解しており、大勢増えた『孫たちの婿』に欲しいタイプとも考えている。のび太の無上の優しさが調にマリアたちとは違う意味の温もりを教え、調はいつしか、のび太を兄のように慕うようになっていた。野比家に当初の予定よりも長く留まっているのも、シンフォギア生活を続けているのも、のび太とに築いた関係の象徴と考えているのである。赤松が様子を見に来た日の夜、到着してそのままそっとのび太の部屋を覗いてみると、調がシンフォギア姿でのび太の手を握りながら寝ているのを目撃している。さすがの赤松も目を擦ったほどの衝撃であり、黒江も『マジかよ!?』と絶句している。これを聞いたレヴィがいたずらで切歌に知らせ、一悶着あったのも記憶に新しい。その一件以後、切歌は聖域での修行にますます打ち込むようになった。現在のままでは、シンフォギアを無限で纏えないからだ。切歌が覚醒するのは、デザリアム戦役を待つ必要があるので、この時間軸からは暫く後の事になる。
「レヴィがいたずらしたから、シメといた。あの小僧、あの姿だといたずらっ子だからのぉ」
赤松にかかれば、さすがのレヴィもいたずらっ子のレベルであるらしい。赤松には、圭子はレヴィの姿であっても頭が上がらないのが赤松によって明らかになった。逆に言えば、レヴィを更にねじ伏せられるだけの強さを赤松が持つ表れであるが。
「流石だ、赤松」
「何、あの小僧の本質が『レヴィ』だから、動きは読める。あいつを叱れるのは『若』とワシだけですわ、本当」
赤松は扶桑で二強を謳われし猛者であるため、圭子がレヴィになっていようとも、容易にねじ伏せられる。伊達に扶桑海軍最強を謳われたわけではないのだ。そのため、圭子はレヴィとしても『姉御には敵わねぇよ』と述べている。従って、今回においては『扶桑最強』は赤松、『最狂』がケイ(レヴィ)、『最凶』が黒江となっている。従って、赤松がレイブンズの三人よりも部隊での序列が上なのも当然のことだった。
「しかし、ガランドさん。あんた、また孫が増えたって?」
「うむ。ゲンヤがナンバーズの一部を引き取ったんでな。小遣いやるのが一苦労だ」
ガランドはスバル、ギンガを始めとして、ナカジマ家の子供達の『祖母』になっている。意外に子煩悩らしく、既に自分で稼いでいるスバルも小遣いを請求しており、ルッキーニのようなしたたかさを見せるようになった。ナンバーズは動乱の折、不幸にも仮面ライダーに立ち向かった者は倒されているし、フェイトもGウィッチへの覚醒により、情け容赦なく聖闘士としての闘技で屠っていったので、生き残りは恭順者以外は殆どいない。フェイトは動乱でGへ覚醒したので、ナンバーズの敵対者へ『ならば聞けッ!!獅子の咆哮を!!』と言った事が狼煙である。フェイトは覚醒がわかりやすく、『フッ……』、『笑止!』、『雷刃の獅子をこの程度で止められると思ったか?』などの聖闘士節を操るようになる。なのはは今回、記憶からの覚醒であり、なのはの自我が完全にG化するのは、クワットロの外道にキレた時である。口調がいきなり冷酷かつ粗野になったのだ。これはクワットロを怯えさせたのは言うまでもない。。
「そう言えば、閣下はお孫さんが何人?」
「あいつが引き取ったから増えてなぁ。生き残ったナンバーズの9割くらいかな?それと……」
「大変ですね」
「ああ。だから、ドラえもんに手伝ってもらってるわけだ。G機関の任務もあるからな」
「そのドラえもんは?」
「元は子守り用だから、あちらこちらに動いてもらっている。彼は戦闘要員ではあるが、どちらかと言えば参謀タイプだしな」
「彼、間が抜けてはいるけれど、科学力がある意味では絶頂を極めた時代の遺産であり、生き証人。戦闘能力では、他にいくらでも強い者はいるけれど、彼のような万能な対応力の者はそうはいない。単純な戦闘能力では図れませんからね、彼」
武子はドラえもんの能力を高く評価しており、レイブンズ三人のストッパーとしての役目も期待している。そのため、ドラえもんは武子、ガランドに重宝されているのだ。話している内に、海軍の角田空母機動部隊司令長官がやって来る。ちょっと疲れており、聞いてみると。
「実はだね。日本郵船から『飛鷹と隼鷹を返してもらおう』と言われてね」
「は?」
「商船改装空母はどうせ使わなくなるんだから、返せとの事だが、君と同じことを言ってしまったよ、加藤君」
「つまり元の商船に戻せと?」
「つまるところはそうだ。しかし、もう遅い。構造そのものをウィッチ/航空母艦にしてしまったのに、再改装すると、地球連邦軍から空母が買える金がかかると言ったんだがねぇ」
角田がぼやくのは、第一線空母と言えなくなってきた隼鷹型航空母艦(飛鷹型航空母艦)を民間に返還しろという無理難題であった。日本郵船は出雲丸級貨客船を復活させたい狙いがあるらしく、扶桑に『特設航空母艦の全返還と工事中止、再買い上げ』を要求してきたのだ。日本郵船は破格の値段で買い上げるからと言い、統合参謀本部も乗り気だが、海軍の現場が反対している。特に、ウィッチ閥はウィッチ運用母艦に最適な大きさの飛鷹型航空母艦を手放す事に反対し、遂には日本郵船との大喧嘩に発展した。史実の損害を知る日本郵船側がウィッチたちと大喧嘩をし、マスコミも軍に批判的である。それに窮しているらしい。
「角田中将。たしか航空輸送艦に格下げされている大鷹型航空母艦がありましたな?それを商船に戻して、日本に売ればよろしい」
「おお、その手があったか!すぐに手配いたしましょう」
「代替に、我が軍のペーター・シュトラッサーを返還しましょう。我々はバダンから鹵獲艦を得たので、あれはむしろ使いにくくなりまして。グラーフ・ツェッペリン戦没で繋留しているだけなので…」
潜水艦隊の整備の役目を負ったカールスラントにとって、扶桑から購入した空母はむしろお荷物になった。グラーフ・ツェッペリンの戦没で繋留されているだけであったのと、カールスラントが潜水艦隊に注力する事となったので、水上艦にかまけている余裕が無くなったのだ。鹵獲艦を再利用して水上艦は凌ぐ事となったので、カールスラントは航空艤装の規格が扶桑式のペーター・シュトラッサーを売却したかったのだ。そのため、扶桑に再売却し、その資金をUボート整備に回す。それがカールスラントの総意だった。図らずも、カールスラント海軍航空隊という夢は、日本連邦から得られた情報で潰える事になる。それは日本の人々が『ドイツは潜水艦作っていればいい』とする偏見のようなものではあった。しかしながら、造船技術ではガリアの後塵を拝するカールスラント海軍が世界に誇れるのはエンジン技術と潜水艦隊だけなのも事実。ガランドはラルを動かす形で、カールスラント軍全体に影響力を及ぼす事となる。
「それと、64Fにはこちらの精鋭を送り込みます。次の戦では、我が軍は裏方でしょうからな」
「その件については、ヘルマン・ゲーリング元帥を黙らせる必要がありますぞ?」
「あのモルヒネ中毒の太っちょの時代ではありませんよ、中将」
ガランドはルーデルを配下にした影響で、ゲーリングと対立していた。そのため、日本連邦の記憶通りにゲーリングとの関係は険悪だった。ゲーリングも平行世界での無能ぶりを強調されるのに怒り、養生中であるが、史実の無能ぶりから、元帥の階級を剥奪するか?という話も出ている。ガランドに元帥の階級を与える話もあるが、ガランドも、配下であったミーナの制御に幾分か失敗していたため、構想の域を出ない。また、扶桑では称号であった元帥が日本が分かりにくいからという理由で階級として復活してしまう珍事も起こった。これは日本側の無知が原因である。これは日本側が元帥として、山本五十六や古賀峯一を紹介するため、扶桑での(ひいては旧日本軍の風習でもあった)制度が分かりにくいと文句が起こったので、戦時に大佐が昇進して将官になったら?などの文句が出たので、軋轢を避けるため、主に戦時に運用される階級という形で元帥の運用が再開された。戦時に増える将官の意見をまとめる存在としての元帥が必要とされたという、アメリカ式の存在意義が出来たからでもある。そのため、元帥府も存在理由が変更された。日本側の時を経ている故の無知が起こした珍事であったが、扶桑側と日本側の双方に日本連邦軍の司令長官たる地位が必要とされたための出来事でもある。従って、自衛隊も元帥相当の『連邦軍司令長官元帥たる将』という役職の将が賛否両論の末に設けられた。野党は『文民統制が〜』というお決まりの文句で責めるが、統合幕僚長でも扶桑軍の元帥たちとは格が違うし、同格がいなければ、自衛隊を扶桑の意思で動かせられる事になるという問題をハッキリ述べる事で野党はまたも軍事音痴を露呈する。従って、元帥に相当する統合幕僚長以上の役職がなければ、扶桑軍と均衡を保てない事になるからだ。
「日本の無知のおかげで元帥が正式に復活する。階級として。状況は貴国と逆になりますな」
「ええ。我が国では称号にする方向ですが、貴方方は階級としての運用再開とは」
「日本は戦功で大佐が中将になるパターンを考えているようだが、佐官が死んだら将官へは一階級しか特進しないはずなのですがねぇ」
扶桑での軍規では、二階級特進は佐官までで、将官は想定されていなかった。更に言えば、勤続年数の規定で、全員が特進の対象とは限らなかったのだが、連邦結成で明確に『二階級特進』が決められたため、混乱が生じていた。これは日本側が戦後に形成されていた常識で考えていたからでもあり、扶桑軍の軍規の少なからずは塗り替えられていく事になる。太平洋戦争開戦までに自衛隊はそれへの対応が間に合い、開戦時の連邦軍司令長官は自衛隊出身者だったという。
――ノイエ・カールスラントにいたミーナは、黒江達との軋轢が問題になったため、少将への昇進は据え置かれ、地球連邦軍への留学が通達された。これは査問が二度も開かれた事により、ミーナの管理能力への疑念が兵たちの間で囁かれているため、経歴に傷がつかない内に、地球連邦軍流の教育を受けろという、ラルの心遣いであった――
『数年くらいだと思うから、勉強してきなよ』
『エーリカ、貴方も変わったわね』
『それがGウィッチになるって事だよ。子供でもいられなくなるしね。おかげで嫌なことも思い出したけど、今回はお前の経歴に傷はつかないで済んだから、良しとするよ。前回はお前のせいで、えらく大変だったんだぞー?』
『うぅ、それは無しにしてぇ……。でも、何よそれ』
『なんだ、聞いてないのか。お前、坂本少佐に……』
『あ、あわわ!!まさか!?』
『そ、そのまさか。いやあ、あん時は参った』
『……大体は想像付いたわ……。准将達にそんな感情を……』
『ミーナ、ゼータガンダムが見せてくれた、あいつの魂が言ってたろ?『君には幸せになって欲しい』って。前史の失敗は成功の母って考えてみないか?』
『エーリカ……』
『あーやだって、何度かやり直して、今の結果を得てるんだし、ミーナも今からでも遅くないさ。坂本少佐はそれを望んでるよ』
『美緒が……』
『何か変化はないか?デジャヴを感じるとか』
『そう言えば、マジンエンペラーGやフェネクスに、初めて見たはずなのに、既視感を感じたけれど……?』
『それだ!!ミーナはなり始めてるんだよ、Gに!直に死ぬ瞬間までの記憶とその時点の自我が目覚めるはずだよ』
『……そう。嬉しいのか微妙ね。前史の自分の記憶と自我が目覚めても、それは今を生きる自分って言えるの?』
『アジアの輪廻転生の概念、知ってるか?あたし達Gはそれで同じ人間として再誕した存在、今生きてるミーナが消えるわけじゃない』
ハルトマンは輪廻転生の概念を理解しているため、『生き返る』事に抵抗感があるミーナと違い、輪廻転生に抵抗がない。転生し、大人になったらしいところは見せるが、根本的には昔のままなのだ。ミーナはそこで安心する。
『グンドゥラもミーナが前史でしでかした事知ってるし、ルーデルも知ってるよ』
『な!?』
『だって、カールスラント系のウチのウィッチ、ほとんどがGだよ?扶桑系も殆ど』
『それじゃ、Gじゃないのは?』
『あの場には殆どいないよ?トゥルーデもGだし、リーネも最後に記憶だけ目覚めたようだから、ごく一部だよ』
『う、嘘ぉ……』
『まっ、落ち込まない。気心知れてると思えば楽だよ。旧501から、503を除いた全部に一人はいるよ。雁渕姉もそうだし』
『つまり、あの場に集められたウィッチの7割は?』
『Gだよ。あたしらは異端児扱いされるから、アフリカも含めて一元管理する意図もあったんだ。若本や西沢みたいに通常部隊に紛れてるのもいるよ?』
『それじゃ、誰が貴方達を束ねてるの?』
『扶桑系は赤松さん。扶桑最古参は伊達じゃないよー』
『それじゃ、カールスラント系のGは?』
『ガランドとルーデルの二人が首席、あたしは次席、ハンナがナンバー3。ニュータイプだしね。エイラとアウロラはアウロラのほうがG。エイラはフェネクスに乗ってニュータイプになったから、次期候補って感じ。あ、ハインリーケは変則的な覚醒だね。自我が微妙に別人混ざってるから』
『どういう事?』
『うーん。ブリタニアのアーサー王の伝説覚えてる?』
『え、ええ。だいたいは』
『実はそのアーサー王、実は女でウィッチだったみたいでさ……ハインリーケの前世っぽいんよね』
『なぁ!?つまり、ハインリーケ少佐は』
『騎士王、その生まれ変わりだよ。ハインリーケはそれを根拠に、ブリタニアの王権も請求できると思うよ…』
『……だからあの聖剣の力を?』
『あれで確証になった。王権までは請求しないだろうけど、その力は行使できる。あーや曰く、エクスカリバーの精度は数人の中で一番だって話だしねぇ。あ、そのハインリーケから定時連絡だ。そっちに繋ぐよ』
『ミーナ中佐か?エーリカ少佐から話を聞いたじゃろ?』
『貴方の前世がブリタニアの伝説の王なら、今からでも王権の請求はできるはず。なのに、なぜ?』
『もう今更じゃろ?円卓の騎士の時代から最低でも1000年くらい経っている今、それを振りかざしたところで、ブリタニアを乱すだけじゃ。だから、王室の一部にしか知らせておらぬ。それに魂を同じくしても、今の王家であるハノーファー家とは血統が違う、どのみち、王権には関われぬよ」
『その記憶と自我にはいつから?』
『ノーブルウィッチーズが凍結状態に陥る頃、ロボライダーがガリア王党派を始末してくれた日じゃ。悔しさと怒りが、妾の魂に秘められし記憶と自我を目覚めさせたのじゃ』
ハインリーケの声は、プロパガンダや、ハイデマリーの知るような、あどけなさが残る感じの声ではなく、一度は王位についた者としての王者の風格を感じさせる声であった。声のトーンも以前より低めであり、それに目覚めた証であった。
『だからこそ、アテナより授かりしエクスカリバーを妾はすぐに扱えるようになった。前世でもっておったのだから、当然のことじゃが』
『それでは、あのコスプレをしていたのも?』
『あの格好は、前世で王位に付く前に着ていたものに瓜二つでの。懐かしくなったのでな』
『それでは貴方の前世での名前は……』
『エーリカ少佐の言う通りだ。だが、伝説は伝説じゃ。アーサーというのは脚色じゃ。本当の名は『アルトリア』。そうとだけ申しておく。今となっては、もう名乗ることも、使うこともない名じゃからのぉ』
ハインリーケは一抹の寂しさを見せつつ、前世での名を告げた。Gウィッチでは唯一、伝説の英雄の過去生を持つ身として、過去にブリタニアの王であった者として。従って、ハインリーケはある意味では、物凄い人物であると言える。
『まぁ、それはそれ、今は今。なるようになると妾は思っておるぞ。妾はGの中でも、特別な存在らしいのでな、『Q』の称号を持っておる。前世が前世だから。……ふぅ。旅行に行く前のいい気晴らしになったぞの、大佐』
『それはありがとう、ハインリーケ少佐、いえ、アルトリア』
『無理しなくとも良いのじゃぞ?』
『いえ、今は違うと言っても、あなたは王位についていた。それは揺るぎない事実よ。敬意を払うのは当然でしょう?』
『お主も中々の人だ。覚醒する日をエーリカが心待ちにするのも分かる』
『ありがとうございます、陛下?』
『こちらも話せて色々と楽になったよ、フュルステイン(女伯爵殿)?』
互いに楽になったらしい別れの挨拶を告げる。それを仲介したハルトマン。こうして、ハインリーケは野比家に行き、ミーナは地球連邦に留学してゆく。ハルトマンは芳佳と呼応し、Gと通常ウィッチ、ひいては異世界間の架け橋へなってゆくのだった。
――こうした行動により、理解者を増やしてゆくGウィッチの行動は太平洋戦争へとひた走る扶桑空軍の旭日を担う事になる。その逆に、世界一の空軍の座から滑り落ちるカールスラント。双方の事情が絡み合いつつ、ウィッチ世界は1946年の晩夏に差し掛かろうとしていた。太平洋戦争開戦の時が迫りつつあった夏の出来事だった。
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