短編『海底軍艦ラ號』
(ドラえもん×多重クロス)
――日本がラ號の存在を知ったのは、日本連邦結成後の事であった。日本政府はラ號の使用権を地球連邦軍に迫ったが、神宮寺八郎帝国海軍大佐が生前に言い残した言葉を引き合いに出し、断った。戦後日本政府は軍隊の存在を否定し、大日本帝国があった事も否定しようとした国民が、政治家がいた事を。帝国海軍最後の遺産である『ラ號』は地球連邦軍の軍艦となっている事も通告された。ラ號は日本軍の滅亡と同時に、日本政府の手から離れたという事を認識させた――
――西暦2016年のとある島――
「ここにラ號が?」
「ああ。当初の予定の武装は取っ替えてあるが、ラ號はあるよ」
旅行前、黒江の代理で2016年を訪れた調は、ラ號を管理していた轟天振武隊の生き残りとその子孫により、秘匿されていた場所を訪れていた。ラ號は戦後の長い時間をかけて建造されており、完成は1990年代であった。ラ號は完成時は1990年代から2000年代相応の対空兵装に改装されており、後の宇宙戦艦化されている際の姿の前身なので、便宜上、アーリータイプと言うべきだろう。そのため、宇宙戦艦化の際には、それらを更に取っ替えれば良かったのだ。ラ號が使われるのは23世紀の地球連邦軍の手での事なので、21世紀日本政府の手には渡らなかった事になる。政治的理由だろう。日本政府は大日本帝国政府との連続性を謳っているが、「連続性はない!」と宣う政治家も多く、扶桑の戦艦にさえケチがつけられた(俗に言う、大和問題)事もあるので、ラ號は秘匿が続けられている。
「どうして、秘匿が続けられているんですか?」
「黒江空将がカミングアウトし、国交が結ばれただろう?その辺りで、扶桑海軍の戦艦が問題にされたんだ」
「えーと、たしか2006年か2007年くらいですよね?その問題が報じられてたの」
「ああ。当時は連邦の交渉も公にされていたから、軍事面での統合が議論されていた。だが、革新政党の連中は扶桑の戦艦と空母の解体を要求してきたんだ」
「戦艦と空母を全廃?」
「革新政党は専守防衛というのを盲信しているのと、自分たちのルールを扶桑に押し付ける気満々だったのさ」
案内役が言うように、2000年代後半の勢いに乗っていた当時の革新政党らは日本連邦の成立にも反対し、その理由を扶桑の巨大な軍事力としていた。特に戦艦に関しては、当初は全廃、国民からの反感を買った後は『大和だけを予備役として残す』という提言を大っぴらにしていた。これは彼らの戦艦への無知が原因であり、後に赤っ恥をかき、武蔵が追加された。これは湾岸戦争でアメリカも戦艦の復帰の際に、現存していたアイオワ級全艦が復帰している事が通告されたからであった。革新政党はこの騒動で軍事的無知を晒す事となり、扶桑には信濃が戦艦として存在する事実に愕然とした。
「で、ここだと空母だった信濃が大和型戦艦だし、更に甲斐があって、三河も完成間近と分かって、奴さんは大パニックだったそうだ」
「大和が五隻もあるんじゃ、パニックでしょうね」
調も、黒江の愚痴を聞くようになっていたためと、情報クローン化していたので、軍事的知識は軍人のそれと化していた。なので、革新政党関係者が『戦艦大和が量産されていた』事実には驚くしかないだろうと目星をつけていた。実際に、大和型はこの世界でも、まほろばとラ號も勘定に入れれば、五隻は実際に完成している。国力が大日本帝国より数段上の扶桑皇国が、大和型を1946年までに五隻完成させられるのは当然のことなのだ。
「扶桑は紀伊型を持っていたから、信濃と甲斐までで最終的に打ち止めにする計画だったというのは、黒江空将から聞いたと思う。だが、大和型を量産せざるを得ない状況になって、扶桑もパニックだよ。ほら、ティターンズが差し向けたモンタナのせいさ」
「それは師匠も海軍の高官から聞いたと言ってました。確か、鉄砲屋の宇垣元・参謀長だったかな?」
「モンタナは防御重視の設計で、最厚部の装甲は大和型に匹敵する。それと、威力を増した50口径40cm砲は大和型に近い火力を持つ。所詮は戦間期型の紀伊型では対抗出来ないよ」
紀伊型戦艦は設計時の40cm砲弾は防げるが、1940年代最新の砲弾は防げない。その問題もあり、本来は1945年から近代化改装の予定だったのだ。(その煽りで、信濃と甲斐は空母改装が内定し、仕様の策定まで済んでいた)それがモンタナの颯爽たる登場で覆った。彼らも2007年当時、その新聞記事を見ており、扶桑造船関係者と用兵関係者の混乱は容易に想像できた。特に、扶桑の造船関係者を震撼させたのは、最厚部が一撃で貫通されたという事実だろうとも目星をつけた。紀伊型戦艦の舷側装甲は傾斜付きの305ミリ装甲だったが、モンタナの砲弾はそれをいともたやすく貫いた。当時の扶桑戦艦でそれを超える防御は大和型のみである。また、紀伊の戦没場所が呉沖であり、公衆が見ている前で、弾薬庫誘爆で無残に黒煙を上げて没し去ったのも、海軍へのバッシングとなった。これにより、国民の間で『空母より戦艦を!』という建艦運動が起こったのだ。海軍はバッシングを鎮めるため、大和型の存在を誇示せざるを得なくなった。これが播磨型以後の超大和型の誕生と、信濃と甲斐が戦艦のままだった理由だ。扶桑海軍も予想外だったのだ。『大和型でなければ、戦いにならない艦が現れる』事などは。更に、バダンのH級後期型のように、質で大和型すら上回る強敵の存在も、播磨型と三笠型の存在意義となっている。
「扶桑の飛行機屋も鉄砲屋もそうだが、自分たちの兵器の強さを誇示すれば、いずれはそれに対抗するための兵器が生まれる。未来のジオンも犯すミスだよ、これは」
「確かに、いつの時代でも、戦術とか兵器でも、あるものと似たようなものか、同じものが造られるの当たり前ですからね」
「新しいところだと、SV-51とVF-0、ザクとガンダムだな」
ある革新的な何かが現れると、皆はこぞって真似をしようとする。これは軍事分野に限った話ではない。どの分野にも当てはまる。シンフォギアであっても、自分達はシンフォギアそのもので対抗しようとしていたので、当てはまると、調は実感する。もし、黒江の成り代わりがなければ、あのまま響達と刃を交える日々を送っていたのは間違いないと確信していた。その自覚があるらしく、何度も頷く。
「ところで、君は空将の使者だそうだが、その格好、まるで魔法少女だな」
「よく言われます。実際、バトル系には入るんで……」
調は、黒江がその姿を好んで使う事もあり、存在は自衛隊出身者に知られていた。この時期の轟天振武隊の子孫達は海自出身者であったので、黒江の変身を現役当時に見ている。その関係で知っているのだ。
「空将には、彼女がまだ佐官になりたての頃にお会いしたが、そうか。あの時は君の姿を借りていたのか」
「ええ。二足の草鞋を履くので、私の姿を仮の姿にしているんです。2007年から11年までが一番使ったと言ってました」
「そう言えば、空自行った、防大同期だったのが空将と同じ飛行隊にいた時、空将、『オレ、魔法少女だから』とか冗談めかして言っていたが、そうか。2008年の広報の撮影時にイメチェンだと言っていたのは……」
「もしかして…?」
「うむ。2008年の広報ポスターは君の姿で撮っていたよ、空将」
「うわぁああああ!?」
「あの人、防大潜り込む時、特技:変身ってかましたそうだ。実際に使っていたのは、2006年から2011年くらいだな。訴訟とかあって、多忙だったのは有名だった」
黒江は2006年からしばらくの間、名誉毀損などの訴訟を抱えていたので、週刊誌などにすっぱ抜かれるのを避ける意図もあり、変身能力を使って生活していた。ポスターの件は、調の外見を使ったので、未成年にしか見えないので問題視されたが、既に佐官に出世している幹部自衛官がモデルというのが広報から公式発表があると、今度はインターネットで話題になる顛末だった。また、この世界における、アニメしてのシンフォギアへの登場の際には、自衛隊に問い合わせがあったいう珍事もある。調当人としては、なんとも乾いた笑いが出そうな気分になる。
「師匠の変身の映像あります?」
「そいつが送ってきた、何年か前の基地祭の映像があったな、これだよ」
「……師匠〜〜!」
黒江は変身していても、キャラはそのままであるので、明るいキャラで通している。ステージは大盛り上がりである様子が、動画から見て取れる。しかもコピーしたシンフォギアを衣装にしているので、無性に対抗心が燃え上がる調。
「……確か、17年に基地祭が控えてますよね?」
「ああ、来年にあるけど、君、出るつもりか?」
「とーぜんです!これの後の基地祭に乱入させてもらわないと!」
「おお、小宇宙が燃えてる」
と、完全にギャグ漫画のような状況である。そんな話をしている間に、エレベーターは地下最深部にたどり着く。ラ號があるドックに。
「さて、着いたよ。ここが戦時中の秘密基地を改修維持している、ラ號の基地だ」
エレベーターを出ると、ラ號が繋留されていた。ラ號の兵装は23世紀での姿と比較し、時代相応のものになっている。また、当時の時点では、高射砲を取っ払う必要がないと取られているのか、高射砲(高角砲)周りは第二次世界大戦当時のままだ。
「あれ?ミサイルをつけたのに、高角砲はそのままなんですね?」
「外しても、何が置けるか分からないし、近接防御能力は必要だからね。それに今の時点で出来るのは兵装の増加くらいなものだ。主砲は手がつけられないしね」
「主砲塔はどうやって?」
「終戦のゴタゴタを使って、呉海軍工廠から分捕った信濃用の砲身を流用した。だから米軍の接収の段階では予備の砲身が呉にないんだよ」
ここで、ラ號に当初、備え付けられていた主砲塔の出処は『110号艦/信濃』用に製造されていたモノの流用であるのが判明した。体躯にしては小ぶりに見えるのは、ラ號は元々、20インチ砲搭載が想定されたからである。製造はされていたが、戦局の悪化とまほろばの大型化でラ號に回せる20インチ砲が無く、信濃用の18インチ砲を流用せざるを得なくなったのだ。その分下がる攻撃力を四連装砲塔化で補うというのが、設計者たちの思惑だろう。従って、モンタナがラ級化したという予測の下、日本軍は51cm砲艦を欲したのだが、結果、モンタナがラ級化した記録は米軍には無く、まほろばの大型化はオーバーテクノロジー導入率の高いラ號よりも、従来の集大成であるまほろばに精力を割り振った結果だろう。もし、ラ號が坊ノ岬沖海戦までに完成し、投入されていれば、沖縄の米軍のすべてを粉砕して余りある威力を見せただろうのは想像に難くない。皮肉にも、まほろばが出撃し、大和の援護に向かった時には、大和は虫の息であり、まほろばの大日本帝国海軍軍艦としての発砲はこの時の一度きりであったし、ラ號が完成の目処が判明したのは、8月6日である。海軍関係者は『まほろばとラ號がある限り、我軍は不滅なり』と息巻いたが、政府関係者はまほろばとラ號の存在を終戦のために葬る決意だった。結果、まほろばは終戦時に軍艦籍が抹消、ラ號の計画も『なかった』ことにして、終戦した。そのため、二艦の存在は戦後に残された記録の大半には残っていない。だが、確かに作っていた事実は残り、それが各国のラ級建造の大義名分とされ、実際に数隻は完成している。ラ號に対抗するためのラ級は戦勝国でも実際に完成はしたが、実験装置的な位置づけで、軍艦籍になかったのが災いし、存在が首脳陣の世代交代で忘れ去られた(英国のラ級はフォークランド紛争に投入が検討されていたが、手違いで空母になってしまい、時の首相が海軍を怒鳴り散らす一幕があったという)。
「実験装置みたいなものだから、軍艦籍に入れず、武装した公船の扱いだったのも幸いして、戦後に接収された日本軍の記録にはない。戦勝国のものは首脳陣の世代交代で忘れ去られて、何十年か前のフォークランド紛争の時に、時の女性首相が『インヴィンシブルを出せ』と言ったのを早合点した高官が軽空母を出動させましたと言われて、いきなりヒステリー起こして、その高官がパニックになった話がある」
「理不尽じゃありません、それ?」
「ああ。猛抗議したそうだ。で、その人物の前任者が軽空母でなく戦艦であると教えたら、あまりのミスに気づいて、その場に半狂乱で崩れ落ちたそうだ」
英国でも、ラ級の存在は第二次世界大戦を経験した世代が後輩らに言い伝えなかったせいで忘れ去られ、フォークランド紛争の予想外の損害となったが、ハリアーの有効性は証明された。件の幹部は逆鱗に触れたために左遷させられたが、終戦後、『そんな空中戦艦があったなら、公にして欲しかった!必死にバルカンの爆撃計画を立てたんだぞ』と同期らに愚痴ったという。ラ級『インヴィンシブル』の名が海軍の帳簿に正式に載ったのは、その機会が失われた後であったという悲劇だ。また、第二次世界大戦経験世代の退役将校らはハリアーは本来、ラ級『インヴィンシブル』の次期艦上機にするために作っていたとも明かされ、フォークランド紛争直後の英海軍はパニックに見舞われたという。ラ級を目の当たりにしたフォークランド紛争当時の英軍幹部らは『空中戦艦を秘匿してたお前らのせいだ!』と怒り、秘匿していた先輩らへ怒りを顕にした。退役大将らは『極秘中の極秘だったのだ!!』と返し、『え、リスク高過ぎて出すに出せなかったんよ?』とも言った。当時、戦艦の近代化改修のノウハウがなかったイギリスでは同艦の能力向上策が見いだせず、電子戦の能力皆無で装甲以外の防御手段が無いから戦闘機がウヨウヨ出てきそうなところには迂闊に出せない状態だった。それ故、その存在を後輩らに伝えなかったと。しかし、彼の左遷の原因となってしまったのは詫びる退役大将ら。結果、ラ級の存在がアメリカに知れ渡り、モンタナが造られたか調査をするついでに、ラ級のテスト代わりに、アイオワ級をFARMした。それがイギリスに近代化改修を行わせるに自信をつけ、80年代にその作業が完了したという。
「我々はその後の改修なので、飛行能力は多少マシだが、昔の特撮映画のようなアクションしかできんのは変わりはない。機関そのものを変えないことには」
彼の言う通り、1940年代では無敵たり得た飛行能力も、時代を経れば陳腐化する。ラ級が自由自在に飛翔するには改型の登場する23世紀(波動エンジン搭載に改良した)を待たねばならない。だが、ラ級の当初の動力源の重力炉は核融合炉と組み合わせれば、マゼラン級などより遥かに高速航行が可能であり、最終改良型が22世紀後半のえいゆう級戦艦、村雨級巡洋艦、磯風型駆逐艦に搭載され、波動エンジンの実用化まで主流となる。
(確かにこんな大きいのを自由に飛ばせる機関なんて、そうそうないよね。相転移エンジンじゃ出力不足だし、やっぱり波動エンジンかなあ。縮退炉はアイスセカンド入れないと……)
未来で実用化された相転移エンジンは真空域でないと取り出せる出力が下がるので、実用化間もない故の未熟性さが垣間見え、軍艦への搭載予定は今のところはない。波動エンジンは宇宙一個分のエネルギーをほぼ無制限に取り出せるので、今では地球連邦最強の機関となっている。(次世代のプラズマ波動エンジンもキャプテン・ハーロックからの提供で試作段階である)縮退炉と違い、呼び水にアイスセカンドを必要としないのもあり、艦船建造の主流は波動エンジン艦に移っている。(縮退炉はシズラーに積まれているものでも、大型宇宙怪獣の集団には力不足気味なのが判明したので、費用対効果が低いとされた)そのため、本来、『ウルトラエクセリヲン級戦艦』(計画中止のスーパーエクセリヲン級の後継艦)の主機に使われるはずの『ツインドライヴ縮退炉』がグレートガンバスターに積まれたのだ。Gガンバスターは23世紀のデザリアム戦役の前に完成に至っているが、予定パイロットが『あの二人』なため、その時点で動かす権利があるのは、開発主任であり、次期大統領でもあるユング・フロイトだけだ。彼女は本来、デザリアム戦役が始まる月には正式に軍を退役し、地球星間連邦の大統領になる予定だったのだ。そのため、縮退炉は艦艇に積まれるケースが減る。エクセリヲンがそうであるように、ブラックホール化のリスクがあるからだ。そのため、ラ級に積まれる新機関が波動エンジンになったのも当然の帰結である。
「それと、空将に渡してくれ」
「これは?」
「そのメモリーに旧軍がドイツ軍から得たラ級のスペックが記録されている。バダンの手にあると思われる『フリードリヒ・デア・グロッセ』のデータもある」
案内係が手渡したメモリーには、実際に完成しなかったラ級のデータも入っている、ドイツ軍の第一級機密資料が記録されている。その中には、ラ號の姉妹となるはずだった、計画のみ存在した大和型六番艦(ラ級)、イタリアのインペロ(ラ級)の予定スペックも含めて。当然のことだが、軍艦は予備とローテーションも兼ねて、同型艦を三隻前後用意する風習がある。ラ號も例外でなく、同型の計画は存在している。重力炉はドイツから提供されたものであるので、フリードリヒ・デア・グロッセは戦後すぐに姿を消している。バダンに合流したと考えられる。
「フリードリヒ・デア・グロッセ?」
「ビスマルクの強化型だよ。この『世界』ではラ級として造られたんだ。ラ級は日本、ドイツ、アメリカが二隻、イギリス、フランス、イタリア、ロシア(旧ソ連)が各一で独伊、米英、仏露が共同運用の予定を組んでいた。日本海軍は戦前の炉心をもらった段階では、二隻でローテーション組む予定だったんだ」
「でも、なんで一隻しか?」
「井上成美提督が強固に反対した。彼は学者肌だから、実際の戦争には向かないって話が多い。ラ號が竣工した後に建造開始の予定だったが、彼は大鳳型の量産を提言した。それに二隻目を造るための施設に適当な場所がなかったそうだ」
「それと面白いものがある。旧海軍が作っていた機動歩兵だ」
「機動歩兵?」
「オーバーテクノロジーを使って造られた、搭乗型人型ロボットだ。見てくれるか?」
「え、ええ。いいですよ」
ラ號の艦内に格納されていて、発掘されたそのロボは明らかに1945年当時の技術水準を凌駕しており、外見だけ見れば、ザクに似た印象を受ける。ザクの開発チームにこれの開発チームの人間の子孫がいたのか?と思わせるカラーリングでもある。
「これが日本軍の?」
「戦車で勝てないから、ロボットで勝とうとしたらしい。超人機メタルダーと同じ発想だな」
日本軍は戦車で勝てないのに業を煮やし、ロボットで勝とうとした。鉄◯28号のような発想を地で行ったのだ。そして、試作段階には到達した。戦後世代の人間なら、驚きの事実である。メタルダーは陸軍のセクションが開発し、『戦車の能力を備えし歩兵』がコンセプトであった。この兵器は海軍のセクションが開発し、搭乗タイプとした。ここでも対立が見られると揶揄されそうだ。そもそもメタルダーとこの兵器は用途が違うので、比べられないのだが。
――その頃、ハインリーケは野比家で、あることを懸念していた。それはよくよく考えてみれば、ペリーヌには一つの可能性がある。自身を前世で殺した娘(伝説では息子)のモードレッドが前世であったら?というもので、可能性としては低いが、思い出せるだけの声色は粗野でトーンが低めではあるが、ペリーヌに確かに似ていた。最も、もしもペリーヌがモードレッドであっても、前世での怨念を捨て去る可能性は充分存在する。それに高潔なペリーヌなら、モードレッドになろうとも、自分への憎悪には折り合いをつけるだろう。
「どうかしたんですか、少佐。前世の自分の伝説なんて読んじゃって、藪から棒に」
「のび太か。実はな、お前には言っとくが、妾の前世での子……と言うべきか?モードレッドというのがおっての」
「ああ。伝説でアーサー王を殺した」
「うむ。思い出した事があってのぉ。声なんじゃが、よくよく考えてみれば、ペリーヌ似じゃったのじゃ」
「あー……。って、混沌としてしましたね。前世での風貌、アーサー王によく似てるはずだから、あの癖っ毛どうなるんですかね?」
「わからん。そこは未知の領域じゃ……。」
ハインリーケは黒のリボンで髪をまとめたものに髪型を変えていたのもあり、王への即位前の『アルトリア』としての姿にますます近い外見になっていた。そのため、美貌もあって目立つ。ススキヶ原のTV局『あけぼのTV』の街頭インタビューで『ドイツの名家のお嬢様』で知られるようになっており、街の人気者である。甲冑を外した状態で買い物に行ったりしているが、お姫様然とした口調や貴族らしい佇まいから、しずかから尊敬されている。また、アルトリアとしての自我が目覚め、今の自我と混ざりあったためか、以前は見せていた『世間知らずで幼さを残す』立ち振る舞いは無くなり、逆に王であった故の風格と気品のある振る舞いになっている。従って、今の彼女は『ハインリーケ・P・Z・ザイン・ウィトゲンシュタイン』であり、『アルトリア・ペンドラゴン』でもあるのだ。
「って、バットと同じ感覚でエクスカリバー置かないでくださいよ。時空管理局が依代にできるようにって贅を尽くしたデバイスなんでしょ?」
「置き場所ないのじゃ。待機状態にする機構入れてないから、そのままにせねばならんのでな」
「入れてないんですか?」
「余分な機能があると、力を受け止めきれぬからの。剣としての必要最小限以外は削ぎ落としておる」
ハインリーケがエクスカリバーの依代にし、媒介にしているデバイスは必要最小限以外を削ぎ落としたため、待機状態さえも省いている。その代わりに鞘に入れる状態が待機状態と言えるもので、多機能と引き換えに、剣としての機能に特化したベルカ式デバイスである。エクスカリバーの力を受け止めるために強度を重視した作りになっており、あのシグナムも感心する作りとなっている。また、エクスカリバーの使い手という事で、シグナムも一目置くようになっている。(はやては『こりゃ面白いことになったで〜!』と大笑している)。また、刃の部分はエッジ状になっておらず、魔力で刃を形成する構造なので、持ち歩いても銃刀法違反ではない。(それを聞いたのび太は大笑した)
「少佐はその気になれば、綾香さんに匹敵するポテンシャルありますからね、恐ろしいですよ」
「レヴィ大佐のほうがよほど恐ろしいと思うがの」
ある意味では、レヴィは総合的に見て、赤松に次ぐポテンシャルを持つため、Gウィッチの仲間内でも畏れられている。黒江やハインリーケはレヴィのような『狂気と紙一重の領域』には至っていないため、レヴィには粘り強さでは及ばない。それ故にレヴィは最狂と言われるのだ。
「僕達からすれば、一人で一軍を相手できる時点でおかしいですよ。他のウィッチから苦情きますよ?」
「仕方なかろう?妾達は中世や近世なら、間違い無しに一国を制圧できる武力なのじゃ。他のウィッチとは差が出て当たり前じゃ。苦情なら来ておるよ」
ハインリーケはのび太が持ってきたコーラを飲む。黒田の影響で飲むようになっており、アルトリアとしての自我に目覚めても、それは不変だった。
「不思議なものじゃ。20世紀の終わりにおるというのは。妾たちは本来、この時代には老婆になっていて然るべき時じゃ」
「ケイさんなんて、この時代、80超えですからね」
「そなたの父上と母上の親であっても不思議でないからのぉ、妾達は。だから、若いと言われると良心が…」
Gウィッチ達は若くて、1931年(ルッキーニ)、圭子に至っては、1919年の生まれになる。そのため、のび助や玉子に『若いっていいなぁ』(わねぇ)と言われると良心が咎めるらしい。むしろ玉子やのび助が子供であっても不思議でない世代なのだから。
「ズレてるんですから、気にしない。それにウチのママとパパに言っても信じませんって。ドラえもんが未来から来てるのは気がついてますけどね」
「確かに、その節はあるな。ん?のび太。お主のタブレット、なっとるぞ」
「おっと。マナーモードにしてあったんだった」
タブレットを確認すると、調からだった。ラ號のこの時代におけるデータと、轟天振武隊の子孫から、ラ級の1945年当時に於ける全艦の予定スペックが記されたデータを受け取ったというもので、この当時のラ號の写真も撮ったらしい。
「調ちゃんからです。任務は完了、これから現地のヘリで本土に戻るとの事です」
「わかった。返事を返してやれ。お主からのほうがあやつは喜ぶじゃろう。お主、思いがけず『妹』を得たの?」
「あの子は人との接し方を知らない。なら、僕達が手本になって教えるのが一番ですよ。あの子は狭い世界しか知らなかった。オリヴィエが道を開き、綾香さんが整え、僕や皆が引っ張っていく。それが僕達があの子に与えられる『もう一つの未来』ですよ」
のび太は『フッ』と微笑う。思いがけず妹を『得た』事で、精神的にちょっと大人になった証だった。調ものび太を兄のように慕うようになっており、のび太から褒められたりすると、嬉しくなるなどの変化を見せるようになっていた。のび太と出会った事で、明確に『年相応の立ち振る舞い』と『少女らしい振る舞い』を覚えていく調。黒江ものび太に養育を一部任せており、のび太はいい父親になることの兆しかもしれない。その事は前世でのモードレッドの事を思い出し、ちょっとブルーになっていたハインリーケにも希望を与えたのだった。
「さすがに父親は無理でも、母親にはなってやりたいな…」
「少佐?」
「もし、私の子だった者の魂がペリーヌに宿っていたとして、再会して……私の行為があやつを…『モードレッド』を歪ませたのなら、『父親』になれなくとも、『母親』にはなってやりたい。償いたいのかもしれぬな…」
「蟠りがあるのなら、乗り越えればいい。綾香さんの口癖ですよ。あの人、坂本少佐と前史で数十年会えなかったから、家族や仲間の絆を結びつけておきたい人ですから…」
「そうか……坂本少佐から聞いたが、あの人が絆や友情にこだわるのは……そういうわけか」
「ええ」
黒江は坂本と前史で数十年のすれ違いを経験し、悲劇的な別れを経験している。その事から、ハインリーケの事も気にするはずである。ペリーヌの性格からすると、記憶の覚醒に留まる(リーネタイプ)可能性が高いが、ハインリーケのように、上手く混じり合う新たな自我を形成する可能性もあるので、なんとも言えない。ペリーヌは天涯孤独&愛国心旺盛であるので、万一、モードレッドとして目覚めても、ブリテンへの帰順はしないだろう。それだけは不思議と確信があるハインリーケだった。ペリーヌが『モードレッドに目覚めた』場合、親であった自分にどんな顔をするのか?ペリーヌ・クロステルマンとしてガリアに忠節を尽くすのか、モードレッドとして帰参するのか?あらゆるパターンを考えつつも、ブリテンへの帰順はしないだろう。それだけは不思議と確信がある。ハインリーケはコーラを片手に、のび太の部屋の畳に座るのだった。
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