生存報告作品「ある日の三人」
(ドラえもん×多重クロス)
※この話はハーメルンの「出張版」と話が繋がっています。
――サナリィはガンダム・トリスタンの咎を受ける形で制裁を受け、ザンスカール帝国への協力も咎められ、組織縮小の憂き目にあった。野比財団が私的に兵器開発を行えたのは、この制裁での失職を恐れた敏腕エンジニア達を抱え込んだ事による。皮肉な事に、野比財団はビスト財団が『第三次ネオ・ジオン戦争』で実質的に終焉すると、実質的にその後釜に収まり、以後のアナハイム・エレクトロニクス社を統制していく。元々、野比家は黎明期以来の大株主であったが、ビスト財団が株主総会を骨抜きにしていた。そのこともビスト財団が(ラプラスの箱の解放後)急速に終焉を迎える理由であった――
――地球連邦はなんだかんだで、幾度も危機を乗り越えていった。異星人との交流と戦争の時代が到来したことが、地球圏に連邦の統治の重要性を悟らせたというのは、独立運動を展開していたサイドへのこれ以上ない皮肉であった。そして、その象徴が日本の戦艦大和の転生した『宇宙戦艦ヤマト』であったのは、日本連邦の時代から続く『欧州中心時代の終わり』の流れを表しているという識者もいる。人類はデザリアム戦役後、地球本星とその植民星との対立という新たな構図へとステージを移行させていった――
――過去のブラックホール爆弾やヱクセリヲンの自爆などで様変わりした銀河中心部。その影響をかろうじて免れた空域にガルマン星はあった。そこには、かのガミラス民族の祖たるガルマン民族が住んでおり、デスラーはそれを発見、残存する軍事力を駆使し、同惑星をボラー連邦から解放。ガルマン・ガミラス帝国を建国。『民主的に』総統に就任した。地球連邦がデザリアムと戦争に入る直前のことだ。地球連邦との国交は宇宙戦艦ヤマトのおかげで確立。以後は(デスラーが古代進の親友であった事による)友好関係を構築。地球連邦は(偶然だが)ガルマン帝国の同盟国という形で天の川銀河の『銀河連邦』で台頭。弱体化(20世紀ごろの宇宙犯罪組織との戦乱で荒廃した)した銀河連邦の理事国に抜擢された。これは長らく主導してきたバード星の宇宙刑事に汚職などの不祥事が起こるようになった事、バード星の功労者であったコム長官の引退が確定した事が大きかった。彼の引退と同時に、宇宙刑事の汚職が次々に露見。急速にバード星は求心力を失い始めた。ギャバン達を現場から配置転換できないのは、フーマとの大戦の傷が銀河連邦警察に与えた傷の大きさが理由であった――
――地球連邦は幾度もの宇宙戦争の果てに、異世界にも版図を広げる意図を持つようになった。時空管理局との接触が契機となった。その時空管理局は次元転移こそ実現しているが、惑星間航行レベルの兵器技術に留まっていた。恒星間宇宙船の量産に成功していた地球連邦にとって、ミッドチルダの魅力は『異能の科学的分析』に尽きる。ミッドチルダはバダンの攻撃で首都地域を失陥し、第二次世界大戦に毛の生えた程度の兵器にも『一般局員は満足に伍す事もできない』という失態を犯したが、地球連邦の厚意で『ミッドチルダ動乱は敵の奇襲戦法が劣勢の原因である』という風に取り繕ってもらい、なんとか組織の面目は立った。だが、求心力自体はズタボロに陥った事実に変わりはない。時空管理局の艦隊も『一年戦争当時の連邦軍艦艇より(総合的に)多少優る』というレベルであったため、動乱の後の時空管理局は地球産の兵器の導入を『人手不足』を大義名分にして、大規模に進めていった。地球連邦軍から個人的に兵器を購入していた八神はやての人脈が活用されたのである。名目上は『評価試験』だが、動乱の死闘で自前の技術の劣位を思い知った時空管理局にとっては、それが最良の『最短の導入方法』であった――
――時空管理局は動乱で『ミッドチルダ至上主義』的な思想がもろくも崩れた余波もあり、実働部隊の局員が極度に不足した。元からの傾向であったのが、更に悪化したのだ。なのはが魔女の世界の『ダイ・アナザー・デイ作戦』で起こした不始末に関係機関は対応に追われた。これがなのは自身の立場を悪化させたのは言うまでもなく、『腫れ物扱い』となった。それに気づいた本人がヤサグレを起こした。この事は時空管理局がある時期から、なのはの動向を対外的に報じなくなるという結果に繋がり、なのはの周りの関係者は現況の隠蔽と偽装工作に励んだ。対外的には『管理外世界出身で初のエースオブエース』であったからで、はやては(複合的な要因があるとはいえ)軍隊的空気に耐性のない者に、ブートキャンプ的教育をしようとしたことに困惑。結果、彼女もそれ相応の咎を受けた。黒江も監督責任による減俸処分を受けたが、はやては原隊での直接の上官であったので、それに加え、謹慎処分が事後に課された。期間は短いものだが、本部への出勤を禁じられた。そのため、自身は(自身の変容で)魔女の世界にしばし『映画撮影用の姿』(九歳当時の容姿)で滞在。64F預かりとなり、1945年晩夏からの半年ほどを過ごした。その際に、中島錦が『夢原のぞみ』になったことを知ったわけである。――
――のぞみはのぞみで、苦難の道を辿った。転生し、プリキュアの力と往時の容姿を取り戻した矢先に、ダイ・アナザー・デイ作戦に従軍。プリキュア関係者で『一番に古参の世代かつ、その中心戦士である』経歴から、一躍、軍略の中心に組み込まれた。なし崩しなものであったが、自身に『他人の立場を乗っ取ったようなもの』との自覚があるため、そのまま扶桑軍人として活動。戦役後に予備役編入願いを出したものの、ドラえもんの世界の日本の起こした不始末でそれを断念。その代わりに、職業軍人として栄達。64Fの幹部としての地位を確立した。それは本人の望むものではなかったが、日本と扶桑の政治的妥協と取引の結果であるので、やむなく受け入れた。とはいえ、(転生前の職場が凄まじくブラックな職場であったらしく)64Fはのぞみにとっては理想的な環境(平時は『休みたい時に休める』)であった。また、キュアドリームとしての名声が(事件を一発逆転させる)切り札となったこと、『夢原のぞみとしてのあれこれが広く知れ渡っている』世界で仕事をすることから、『キュアドリームとしての姿で生活したほうが却って、プライベートの時間を確保できるのでは』と思い至り、平時でもキュアドリームの姿を保つようになった。これは周りの助言もあったが、後輩の花海ことはの存在が大きかった――
――2023年頃 野比家――
「変身しといたほうが、却ってプライベートの時間が取れるってのも奇妙な話だよなー」
「お前さん、仮にもヒロインだろ?いいのかよ、寝そべってポテチなんて」
「誰も見てないしー」
「うちの後輩のヒシミラクルみてぇな返しだな、オイ」
この時期に滞在していたウマ娘『ゴールドシップ』にツッコまれる。のぞみは本来、家でかなりだらける方であった。別の世界線での成人後は仕事に邁進していたが、彼女の場合は(前世の反動もあって)かなりゆるゆるに過ごしていた。激務と使命の反動もあるのだろう。
「あれ、競走馬としては、アンタのほうが後輩じゃなかった?」
「あたしの期はデビューが遅くなったんだよ」
「へー。そんな事になってんだ」
「そのへんはあたしにもわからねぇ。お前さんの方がずいぶんと不思議な身の上だよな」
「否定はしないよ。流れに流されて、軍人とプリキュアを兼任してるから」
「少佐の身で使いっ走りか?」
「だって、将官になってる先輩たちが普通に陣頭指揮執るんだもん。まぁ、今は黒江先輩に仕えてるけど」
「あいつも色々と大変だかんなー。で、プリキュアの姿でプライベートを過ごす感想はどうだ?」
「はーちゃんの言う通り、今じゃ慣れちゃったよ。夢原のぞみとしてのあれこれが知れ渡ってて、プリキュアな事もバレてる世界だから、この姿のほうがプライベートの時間を持てるってのは不思議に思ったけど」
「お前さんの行く末の一つもバレそうだからって話だが、どう思う?」
「普通に有り得そうな世界線の分岐だよなぁ……ってのが感想。まぁ、あたしは思いっきり、基本世界とかけ離れてるけど。草薙流古武術の継承者だし」
のぞみAは『オトナプリキュア』で描かれる世界を『有り得そうな世界線の分岐』として認識すると同時に、戦いに特化した能力に転じた自分は『夢原のぞみ』という人物の派生で一番の異端である自覚があるようだ。
「それなぁ。お前のダチ公と被ってるだろ?」
「言われてるけど、転生した先の立場がそうだったから……としか。姉貴が嫌がったから、次女のあたしが継がされたんだよ」
「転生先じゃ、三姉妹だっけ」
「妹は今年(1949年)に正式に少尉任官になった。ダイ・アナザー・デイに任官が間に合わなかったんだよな、あいつ。軍学校の教官は『今が魔女としての旬なんです!』って力説したんだけど、ダイ・アナザー・デイで『短縮課程での任官の弊害』がモロに出たのよ、しかも現場で。それで、あたしら(プリキュア)が矢面に立たされたってわけ。任官済みだった連中が目覚めた上、戦士としての古株が多かったから。あたしは中尉だったのが、部隊が今の編成になる時に大尉だもの。正式な辞令は戦役の後に布告された。で、例の件で少佐。同期から睨まれたねぇ。テスト畑で、実戦の時間が少ないくせにって。先輩達が黙らせてくれたけどね、部内の中傷は」
「あの三人の威光は『界隈』じゃ、すげぇんだろ?」
「あたしらの代の士官学校じゃ、『おとぎ話』も同然の扱いだったけどね」
魔女は三〜四年もあれば、前線で働く者の中心世代が入れ替わるのが当たり前であった。黒江たちの活躍は事変直後からの数年程は共通認識であったが、事変世代が引退し始めた1941年から徐々に『おとぎ話』扱いされるようになり、1945年には『扶桑が国際的に立場を得るための与太話』という認識が多数派であった。だが、当人達が自主的に参加した戦闘で『無敵』と言えるだけの戦果を普通に叩き出したことで風向きが変わり、事(冷遇)の次第を知った上層部の判断で『64Fの凍結解除』が決議され、同隊がダイ・アナザー・デイで大活躍したことで『統合戦闘航空団の存在意義』が問われ、統合戦闘航空団の編成は64Fの代わりに凍結されることになった。
「まぁ、ミーナさんがやらかしたのは、年度的に、座学を経ないで任官されたから……ってのと、自分の空軍が世界最先端だっていう認識があったってんで、最近になって、同情論が出てきたよ。坂本先輩が擁護してたし、当時の状況的に、上層部の情報隠匿にも非があったからね」
「連合軍の……バーナード・モントゴメリー卿だっけ?その人があれこれ政治工作したせいだって記事みたけど、本人はなんて弁解したんだ?」
「扶桑に手柄を独占させないための必要な措置だったって奴。先輩達が現実離れした戦果出したのもあるけど、多分、軍内のパワーバランスしか考えてなかったんじゃないか?で、ティターンズに手の内を読まれて、アフリカを落とされる失態を犯したんで、元帥昇進が見送り。兵站部署に左遷。かなり異論が出たけどね、彼の左遷」
「で、お前さんとこの『マレーの虎』さんが?」
「本人は嫌ってるよ、その渾名。まぁ、通りはいいけど。昔の皇道派だったから、政治哲学には嫌われ者だけど」
山下奉文大将は若かりし頃に皇道派寄りであったため、軍中枢から遠ざけられていた。だが、史実では数少ない『実務で有能な将官』であった(史実では処刑されている)ので、何かと重宝されていた。
「日本陸軍の将官は日露戦争ならいざしらず、太平洋戦争の時は軍学校の成績の良い連中が上に立ち始めてたからな。本やネットあさりゃ、ガキンチョでもわかるよ」
「仕方がないって。日露戦争の高官は若い頃に武士をしてたんだよ?それに比べて、太平洋戦争の連中は日露戦争の終わりに士官候補生だった連中さ。器が違う」
のぞみも、ゴルシもそれが扶桑軍の軍略の質の問題に繋がっている事は知っている。例として、山本五十六が辛うじて参加した(当時は高野性だが)程度。東條英機は戦場に立っていない。
「日本は扶桑の戦略の根底をちゃぶ台返ししたからね。ドイツと手切れさせたし」
「それが問題になったんだろ?」
「うん。正式な同盟国じゃないのに、同盟国扱いで抗議したからね。それで事態がややこしくなったんだ。日本は報復で、21世紀の技術を現物付きで扶桑に与えた。それが原因で、あの国を支えてた根幹が崩れた。結果があんなザマになった。日本は『そこまで崩れるなんて』と言いわけさ」
「そりゃ責められるわな」
「で、物量を質で補えったって、通常兵器じゃ限界がある。だから、地球連邦軍に動いてもらった。日本がそれで、MSに繋がる研究を進めるって流れになるって、先輩から聞いた」
「この世界のネットの記事で見たヤツだな」
「そうでもないと、ノルマンディー作戦より多い物量をピンで用意してくる上、質もいい軍隊に対抗できないって。うちなんて、それで中戦車を買いまくる羽目になったんだよ?センチュリオンをライセンスごと」
ダイ・アナザー・デイでは、扶桑の戦車師団の質が問題になった。扶桑の内部では、M動乱のショックが冷めやらぬうちに、M4中戦車より遥かに強大なM26が現れたので、右往左往。キングス・ユニオン(英国・ブリタニアの連邦)から最新鋭のセンチュリオン巡航戦車を大量に購入する羽目となった。財務省などは猛反対したが、扶桑の二線級機甲部隊は史実より落ちる陣容であり、史実の悲惨な戦いの二の舞いとなるのが目に見えていた事から、『扶桑に欧州流の戦車戦を思い知らせる』意図で、購入にGOサインが出た。『第二次世界大戦型戦車に、現代型の対戦車ミサイルを使うのは割が合わない』という説得も効果を発揮した。センチュリオンの日本連邦仕様は史実の最終生産型相当の仕様で生産されており、戦後基準の徹甲弾と粘着榴弾を撃てた。それが『緊急生産』が叶った理由であった。
「それで?」
「日本から反対が出たけど、戦後の日本に戦車の余剰はないし、機動戦闘車は現地の拙い運用で損害出てたからね。それで、本土のインフラ整備、74式と半々の生産で手打ちさ。三式以前の戦車を置き換えない事には、ね」
本土向けに『M41軽戦車』の生産配備が決まったのも、ダイ・アナザー・デイの中期。1940年代当時の扶桑本土のインフラでは、重量級であるセンチュリオン(52トン)の配備は荷が重かったからだ。軽戦車であるので、生存力は『お察し下さい』の域であったが、扶桑純正の旧型中戦車よりはマシであった。本土は戦場ではないので、抑止力としての配備に等しかった。とはいえ、太平洋戦線では頻繁に投入され、鹵獲車も多い。敵味方共に、使い勝手が良かったのである。
「まぁ、繋ぎでウォーカーブルドックが本土向けに生産されてる。工廠と軍需産業の連中はぶーたれてるけど、M26が出ちゃうとねぇ」
「陸軍は泡食ったろ?」
「タイガーより強いのが、雲霞のように出てくれば、ね。あの時にボヤいた機甲部隊の将兵は多かったよ。ティターンズの指導で量産を早めたんだろうから、こっちの陸軍は初手でつまずいた。イタリア陸軍は哀れ、文字通りの全滅さ」
「ガチでか?」
「魔女が航空支援を拒んだせいで、連中は哀れ、天国行きさ。M4にも歯が立たないのに、M26だよ?機甲部隊と機械化歩兵に押し潰されたから。だから、あそこの魔女は本国で爪弾きに遭ってる。自業自得だけどね」
「で、あんたらんとこも?」
「華族連中が大慌てさ。身分の剥奪と財産税の徴収が決まりかけたから。内政干渉だから、沙汰済みになったけど。元の大名系はまだいい。先祖が武士だし。問題は公家系だよ。それが大名系より問題になった。軍人になれる気質の奴は公家にいない」
扶桑華族は結局、日本の人々から強い反感を持たれていたため、軍人をしている息女を次期当主に据える、あるいは当主をすげ替えるケースが増大していく。ノブリス・オブリージュを実践しなければ、身分を剥奪されるという恐怖が華族界隈を覆ったからだ。この反応に却って困惑した日本。彼らは『我が国は扶桑に華族制度の将来的な廃止を提言はしたが、強制する意図はない。内政干渉ではなく、四民平等の観点からの提言であり……』といいわけを述べた。扶桑の社会的混乱は望んではいないからである。だが、公家系の華族は立場がますます弱まり、武家の転じた華族は血の献身を求められるようになるという弊害が増大した。日本が『一代華族』に代わりうる制度を提案できなかったのも、欧州の影響力が大きいままの世界であるが故である。華族が据え置かれたのは、軍事的には『魔女の人数確保のため』、制度的には、日本と扶桑とでは、勲章と褒章の授与基準が異なるからであった。金鵄勲章も本来は旭日章以上の位であった事から、日本での取り扱いに難儀したが、妥協で『扶桑の金鵄勲章は瑞宝章と同等に取り扱い、特別の危険業務従事叙勲として遇する』ということで落ち着いた。左派は『日本では金鵄勲章を佩用させず、代わりに瑞宝章を与え、それで代用させるべきだ』という提言をしたが、軍事勲章は若い軍人でも『普通に叙勲される』ので、瑞宝章の格が下がるという意見が出て、立ち消えとなった。このような悪あがきが、ダイ・アナザー・デイから太平洋戦争開戦まで続いたのである。
「公家は武士の時代、世俗と無関係だったに等しいからな。で、欧州のノブリス・オブリージュに合わせろったって、無理がある。戦時じゃ、公家の連中は生きにくいかもな」
「儀礼の礼式を伝える役目しか期待されてないもの、あの連中。武家の連中のほうが、まだマシさ」
のぞみも黒田にも仕えていたため、華族の身分にあろうとも、率先垂範をしなければ、人々の尊敬を得られないことを知っていた。それが華族の人々を苦しめていたのも事実である。公家は史実より苦しく、武家系は尊敬を得ている世であったのが、扶桑という国であった。
「それも哀れだな」
「仕方がないさ。公家に魔女が出る事は滅多になかった。逆に、皇室には頻繁にいた記録あるんだよ、これが」
と、二人が話したところで。
「すみません、遅くなって」
「調か。残業か?」
「なのはさんの今後について、はやてさんと話してたんですよ。竜馬さんの道場で酒断ちさせる事に決まって、竜馬さんがしばらくは門下生として扱う事に」
「竜馬さん、金ないんじゃ?」
「隼人さんが危険手当を弾むそうで、息子さん(異世界での子である拓馬のこと)の面倒も見る関係で」
「聞いてると、何気に豪華だよな、お前ら」
「まぁ、異世界との交流があるんで」
調が帰ってきた。連邦軍の制服姿と、珍しい服装だが、八神はやてと『ダイ・アナザー・デイでの失態以降に飲んだくれに落ちぶれた』なのはの扱いを協議していたからであるとの事。この頃になると、ゴルシも調と面識を持った事がわかる。
「ゲッターロボの流竜馬だろ?どの作品に近いんだ?」
「各作品のキメラかなぁ。原作の好漢ぶり、チェンゲのインテリ具合、ネオゲの腕っぷしと新〜の狂奔を併せ持つから。若さはチェンゲよりは若くて、ネオゲより年嵩」
調曰く、未来世界にいる流竜馬は『有名な世界線の特徴を併せ持つ、20半ばくらいの男』との事。私服はチェンゲのコート姿、道着は原作(サーガ版)の破戒僧姿。風貌もチェンゲ寄りであり、声色もそれに準じているが、活動初期の若かりし頃は初期アニメ版風味であったと、兜甲児は証言している。乗機もゲッター1、ゲッタードラゴン、真ゲッター1と、順当に乗り継いできている。現在は真ゲッタードラゴンとの事。
「チェンゲよりは若めってことか。17くらいで初代に乗ったのなら、その間に乗り継いできても、24〜6くらいか」
ゴルシはそう推理した。
「そんな感じです。シャワー浴びてくるんで、適当に、レジ袋からカップ麺取ってください。湯は沸かしましたから」
「あいよ〜」
調もこの頃になると、すっかり野比家の暮らしに馴染んでいた。のぞみとゴルシが適当にカップ麺を(調が買ってきたものから)選んで作り、食べる。
「世界をまたぐと、普通にアニメになってる存在が実在すんからな。あんたらもそうだからな?」
「それは前に経験済み。平行世界の子供なのはに喜ばれたよ。まぁ、あたしの現役時代には微妙にかすらなかったけど」
2005年当時に9歳であるなのはは、のぞみの現役時代には11歳。本来は、その時点でプリキュアを普通に見るような歳では無くなっていたが、平行世界では、かなりギリギリまで見ていたとの事。その際に『時空管理局も、一つではない』ことを示され、先方は顔面蒼白であったとのこと。
「平行世界の同一存在は共存できないってルールは実際にはないみたいだな?」
「あたし同士が会ってるからね。まぁ、あたし個人がヒトっていえない存在に昇華してるせいかもしれないけど」
「別世界の自分に嫉妬されたんだろ?」
「まぁね。普通にプリキュアの姿で過ごせる時点で、現役時代と前提条件が違うし」
普通にプリキュアの姿で過ごせる世界という時点で、ドラえもん世界はかなり自由である事がわかると同時に、平行世界の自分(のぞみB)はかなり僻んでいる事は理解している様子を見せる。
「その点はあんたの一期下からの傾向に近いな?」
「ドキドキに近いかな。公的機関にいるし。まぁ、旧陸軍の軍服だと、老人とトラブっちゃうし、プリキュアの姿でいたほうが気楽だよ」
「戦争経験者はほとんど死んでる時代だぞ?」
「先輩たちがトラブってきてるからねぇ。略綬つけてるから、コスプレで通すには、クオリティがね」
黒江と智子がそうであったが、確率は低いが、太平洋戦争を実体験した世代の老人達のスイッチを入れてしまい、理不尽に暴力を振るわれたことがある。扶桑陸軍が軍服を自衛隊式に変える理由は『他にも、そのような事例が起こった』からである。結局、日本が扶桑に強く出られない理由の多くは『日本政府と官僚の不手際』であったり、日本の大衆が扶桑軍人を相手に、凄惨な暴力沙汰を起こしたりした事例が2000年代からの20年近くに多く発生したからである。その防止も兼ねていたと、のぞみはぶっちゃける。
「旧陸軍は戦後の日本人の印象は悪いんですよ、ゴルシさん。それで、扶桑軍も軍服を自衛隊式に変えるんですよ、1954年以降に」
「ずいぶんと遅くないか?」
「戦時中に軍服の生産ラインはおいそれと切り替えられないですし。それに、扶桑の国民を納得させるだけの『材料』もいりますから」
シャワーを浴び終わった調はシンフォギア姿になっている。曰く、『この世界は超能力で展開を阻害される事もあるんで、最初から展開してたほうがいい』との事。
「ある意味、すげえ光景だな?これ」
「あなたがそれいいます?」
「いいんだよ、あたしは」
ゴルシはある意味、存在自体が破天荒である。自分を棚に上げているが、ある意味ではピタリな表現だ。
「そういえば、お前。のび太が小5の頃に来たから、この時代にいる時、表向きは30代ってことにしてるだろ?」
「2001年に来ましたからね。この世界にいる時はガランド閣下の事業で拾われた、帰国子女の戦災孤児ということにしてます。実際、アメリカにいた時間が長かったし」
調は立花響たちと遭遇した初の戦闘の直後に古代ベルカへ飛ばされていたので、帰還後はマルチリンガルになっている。
「肉体的には歳を食わなくなってるから、ここんとこは仕事先で寝泊まりする事も多いですよ」
「それで、波紋法をテイオーとマックイーンに?」
「波紋法のやり方は無限書庫にあったんですよ。ユーノ司書長は過労死しそうになりましたけど。件の世界を18世紀の時点で調査したんだそうで」
「無限書庫にあったんかい!?」
「ええ。奥の奥の隅っこに。死にそうな顔で見つけたんですよ、彼が。その事の裏付けをフェイトさんがしてたんですよ」
意外にも、波紋法は管理局の古い記録に記されていたようであり、その裏付け調査をフェイトが手掛けていたと、調は語る。ただし、波紋法そのものは1938年頃に『役目を終えて』衰退へ向かっていたようだと、フェイトは報告しており、ジョジョの奇妙な冒険の第二部(ジョナサン・ジョースターの孫であり、二代目のジョセフ・ジョースターの時代)の出来事が同年に起こったことまでは確認したとのことである。
「スタンド(幽波紋)の時代はまだ来てなかったんだな」
「だそうです。来てたら、管理局も手出しできませんよ、下手に」
「それは言えてるな」
「あの漫画、絵柄濃いんだよなぁ。学生ん時、話し合わせのためにパラッと読んだくらいで……」
「今度、通しで見てみろ。ネットスラングの由来もあるからな。あたしは薦めるぜ?」
のぞみは絵柄の問題もあり、ジョジョの奇妙な冒険はパラッとしか読んでいないと告白した。だが、今後に波紋法は必要になるであろうものなので、背景を理解する必要は大いにある。
「それに、ブライアンと入れ替わる事、了承したんだろう?保健室で治療のために注射打たれる事あるんだぞ、あたしら」
「……マジ?」
「お前、注射は駄目なのか?」
「学生時代、あまりいい思い出なくてさ…。軍でも予防接種やるけど、痛くてさー…。特にBCGのハンコ注射……」
「やる必要あんのか?その体で」
「普通に病気にかかるしね」
のぞみは転生前、後の双方であらかたの予防接種を受けているが、最近は軍で結核予防のBCGワクチンの接種(ハンコ注射)を受けたらしく、変身を解けば、同注射の瘢痕が左腕部にできている。64Fはあらゆる環境に派遣されるので、病原菌予防も重要な事柄である。予防接種は事前に行われるわけだが、のぞみは(パワーアップ後も)注射は苦手らしい。とはいえ、注射の度に取り乱すトウカイテイオーほどではない。
「それも不思議なこった」
「あたしや調の変化は、生物学じゃ説明できない類のヤツだから」
「医者が首かしげるだろ?それ」
「生物学的に説明できないからね」
「ええ」
二人は同時に頷く。昼下がりのある日。『プリキュア5の世界』への遠征の直前の出来事の一幕であった。
※あとがき 約一年ぶりの投稿になります。ここ一年はハーメルンに注力していますが、折を見て、こちらも再会していこうと思います。
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