外伝その18
‐1945年 夏。
サンフランシスコ、
『この一撃がドレスデンに眠る我が先祖の魂の無念を晴らせる事を祈る……、Amen』
リベリオン西海岸の防空網を掻い潜りサンフランシスコ市の中心市街地に侵入したガンダム試作2号機(GP02Aサイサリス)のレプリカ機。
その姿は人々には異様に見えた。……そう。例えるならSF作品で登場する火星人の戦闘機械のような。
だが、それらとは違い、完全な人型をしている`それ`は神話のティターン神族を想起させる。
その`巨人`は次の瞬間、バズーカ砲のようなものを構え、撃った。
その場にもう一つの太陽が出現したかの如き爆発と凄まじい爆風、熱がサンフランシスコを包み込んだ。
人々は自分の身に何が起こったかさえ理解できぬまま蒸発し、巨大なキノコ雲が発生する。
雲が腫れた時、そこにリベリオン西海岸有数の街があった痕跡さえ残されてはいなかった。
‐ただ一つ「偽り」の名を持つガンダムを除けば。
ほぼ同時にサンディエゴも同じような経緯で消滅。ここにリベリオン合衆国は、
人類史上初の核の洗礼を純粋水爆で受けることになってしまった。
リベリオン合衆国の政治中枢のホワイトハウスは『西海岸二大都市、交信を断つ』の報に大激震。
現地に入った地球連邦軍からもたらされた情報は「二大都市は核攻撃で消滅した」というもの。
ハリー・S・トルーマン大統領は「マンハッタン計画」で対ネウロイ用に極秘に開発していた兵器の洗礼を自らが受けた事に
愕然とした。しかも自らが造り出そうとしていた原始的な代物ではなく、究極に発展した「純粋水爆」で。
トルーマン大統領はホワイトハウスの執務室で「何てことだ……」と頭を抱え、ただ嘆くばかりであった。
核を撃ったガンダム試作2号機は西海岸にいたリベリオン合衆国海軍空母「エセックス」の艦載機群、
戦艦「アイオワ」の追撃を振りきり、母艦のU型潜水艦(元は連邦海軍の潜水艦)と合流。悠然と逃げおおせた。
この日は「リベリオン合衆国最悪の日」として歴史に刻まれた。
−さて、ストライクウィッチーズが解散した後の1945年の夏、芳佳は第343海軍航空隊の一員として現役復帰を果たし、
海軍少尉として生活を送っていた。だが、そこへ凶報が舞い込んでくる。
「宮藤はいるか!!」
「どうしたんですか、本田さん。慌てて」
格納庫で芳佳に宛てがわれた新鋭の紫電改(二五型。発動機を地球連邦軍から指摘を受けた誉から信頼性がマシなマ43へ
換装した。そうしたら現実に性能が上がった)のテスト飛行をしようとしていたところに同僚の「本田」飛曹長が駆け込んできた。
息を切らせてゼイゼイ言っているので、よほどの事が起こったんだろう。
「大変だ!サンフランシスコとサンディエゴが……消滅した」
「え、ええっ……!?まさかネウロイ…!?」
「いや、ティターンズの核攻撃だそうだ」
「核攻撃!?そんなっ……弾道弾は連邦軍が迎撃網を敷いているはずですよ」
「弾道弾じゃない、モビルスーツによる直接攻撃だ」
「モビルスーツに!?まさか前にデータベースで見た……」
「そうだ。奴らはガンダム試作2号機を使いやがった」
芳佳はあまりの衝撃に愕然とする。核、ガンダム試作2号機という単語が何を意味するか。それを知っていたからだ。
−核。それは人類史上、最も人間を震え上がらせたもの。`向こう側`では初期型でさえ、広島と長崎が一瞬で灰燼に帰したほどの威力を
持ち、その後の人間に「人類滅亡」恐怖を与えた初めての武器である。核戦争=人類滅亡の図式はそこで確立された。
そして1960年代の米国がキューバに弾道弾が設置された際に核戦争をも決意せざるを得ず、
危機的状況となったのを危ういところで回避した「キューバ危機」に代表されるように、
強大化する核の恐怖は長じて大戦への「抑止力」となった。
それはCIA長官「フーバー」、フランスの対外治安総局長官「オマイリー」、
イギリス情報局秘密情報部(MI6)の部長「ヒューム」などの冷戦期の各諜報機関の長もそのような趣旨の手記を残している。
ティターンズはその威力を見せつけることで、各国の早期降伏を促すつもりである。
−核は放射能などの問題から改良が加えられ続けた。核分裂爆弾から核融合爆弾へ、やがては現有の純粋水爆に分類される反応弾へと。
今回使用されたのはその純粋水爆。つまりは残留放射能がごく少量であり、多くの人間を殺傷可能な恐るべき兵器。
芳佳は以前、未来空母のデータベースでデラーズ紛争時のガンダム試作2号機の核攻撃を目にしていたので、衝撃が大きかったのだ。
「それにしても……なんて威力なんだ……あんな大都市を一瞬で……」
「なんで……こんな……平気で多くの人達を……」
芳佳はティターンズがリベリオンの100万単位の人々をトリガーを押すだけで核の業火で焼き、一瞬で死に追いやった事に言葉を失う。
純粋水爆で焼かれた爆心地は原爆と違い、もはや何も残らぬクレーターとなっているだろう。
宇宙空間でさえソロモンの連邦艦隊を薙ぎ払う威力を発揮した「Mk-82核弾頭」を地上で使用すれば鉄筋コンクリートが乱立する
摩天楼であっても一瞬で塵に返しても、、まだお釣りが来るほどの威力が発揮されるのは子供でもわかる。
今頃、リベリオンは大パニックになっているだろう。下手をすれば混乱に乗じて西海岸の残存都市が制圧されてしまう。
「お前ら、大変だ!!テレビを見ろ!!」
格納庫に駆け込んできた菅野に促され、基地のフリーディングルームへ足を運ぶ。既に地球連邦軍の手で施設が近代化されていたので、
テレビなどの家電製品が置かれている。そこに写っていたのは……。
『今回のリベリオン合衆国への核攻撃はエゥーゴ共と結託する連合軍の資源供給国であるかの国への最後通告である。
サンフランシスコとサンディエゴへの核攻撃は我がティターンズの力を見せるためのデモンストレーションである。
降伏か、それとも絶望的な戦いで全滅するか?懸命なるトルーマン大統領ら諸氏にはお分かりのはずだ……」
この時期に死亡したルーズベルト大統領から政権を継いだ「トルーマン」大統領を名指すティターンズの元高官。30代と思われる割りと若い将校だ。
演説も巧みで、カリスマ性を感じさせる。
−そう。彼こそジャミトフ・ハイマン子飼いの若手高級将校「アレクセイ」。テレビ、ラジオなどを使って流されるこの演説は、
「たとえどんな地でもティターンズは全力攻撃か可能である」事を示すための政治的アピール。地球圏人口を抑制するべく、
自分たちこそが地球を統治すべきともいうその姿はジャミトフ・ハイマンの思想そのものだった。
つまりは「戦争を利用して増えている人口を粛清・統制する」事。
「ジャミトフ・ハイマンの思想をこの世界で実現させようってのか!?
人口が特に多かった中国やインドはこの世界にはないんだぞ!?」
菅野はティターンズの掲げる大義名分の根拠の一つである人口抑制はこの世界ではあまり意味が無い事を知っている。
20世紀後半以後の人口増加の原因だった中国とインドの二大国家はこの世界には存在しないからだ。では何故リベリオンが標的になったのか。
−『資源をむさぼり尽くす大衆』の代表格にして、西側世界を
思うままに動かし、
核を造った大元。その理由なら。
「馬鹿な……いくらアメリカが第二次大戦の後に資本主義国を思うままに動かしたって言っても……」
「こっちで同じような事になるなんて限らないのに……なんでこんなっ……!」
芳佳は一瞬で多くの人々を核の業火で焼き払ったのにも関わらず平然と演説して見せる彼に嫌悪を隠そうともしない。
普段、「少しでも人を助けたい」、「人を傷つける事が大嫌い」だと公言する芳佳には平気で人を大量虐殺する命令を出せる彼は
心から嫌悪する人種なのだろう。
『この攻撃はマンハッタン計画を実行し、核兵器を生み出そうとするリベリオンへの`裁きの雷`である。サンフランシスコとサンディエゴは
ソドムとゴモラ同様の運命を辿ったが、これは我々の故郷で日本とドイツの都市を薙ぎ払い、国際法違反を犯した米合衆国の罪は
すなわちリベリオン合衆国の罪である……Amen』
彼は十字教の教徒らしく、旧約聖書のソドムとゴモラを引き合いに出してリベリオンを糾弾する。
要するに「米国の罪はリベリオンの罪でもあるからお前らはとっととくたばれ」と言いたいのだ。
「クソッタレ!!ふざけやがって!!」
菅野は怒りのあまり荒々しくテレビのスイッチを切る。彼等の言うことは手前勝手な理由で殺戮を正当化するものだ。だが、
それはあながち間違いとも言えない。もしネウロイが駆逐されたらリベリオンは太平洋地域の権益を独占すべく扶桑に戦いを挑むのは
目に見える。例えブリタニアがバックに付いていようが、衰退に向かっているブリタニアなどリベリオンの敵では無い。生産力は例え西海岸の2大都市を
失おうがまだまだ衰えないはすだし、トルーマン大統領などの政府上層部や白人達には「白人至上主義」が蔓延っている。
それにリベリオンもオレンジ計画やレッド計画を発案している(史実での日本やイギリスとの戦争計画である)のは既に暴露されている。
要するにティターンズは連合軍の連携を乱し、今後の世界統治に邪魔な国家を徹底的に打ちのめし、
ネウロイをも利用して世界地図を書き換えるつもりなのだ。
リベリオンを打ちのめした後はブリタニア、扶桑……といった具合だろう。
苦虫を噛み潰したような顔で菅野は遠大なティターンズの戦略に「ゾッ」とした。
「ウィッチは全員いるな」
「オヤジ」
フリーディングルームへ源田司令が入ってきた。上層部からの指令を伝えるのか。源田司令は上層部からの司令文を読み上げる。
「『343空ヘ。部隊はそのまま帝都防空の任を任ズ。なお、その内の宮藤芳佳少尉、菅野直枝大尉は統合戦闘航空団の再編成に伴い、
501の一員としてロマーニャへ赴任セヨ』……だ」
「ち、ちょっと待ってくれオヤジ、オレは502じゃ?」
「問い合わせたが、やはり501だ。一時的に統合戦闘航空軍として、部隊規模を拡大させて防衛に当たらせるそうだ。
例の作戦で504が壊滅し、ロマーニャの防衛が手薄になってしまったせいもあるらしい」
源田は司令部からの通達を伝える。501と502を一時的に統合し、統合戦闘航空軍として再編してティターンズやネウロイなどの脅威から
ロマーニャを防衛する狙いがあると。504は既に宮藤芳佳の事例を鑑みた「ネウロイコミュニケーション計画」が連邦軍の護衛を伴わない状態で
連合軍の独断で行われた結果、新型ネウロイの巣の出現、それに伴うティターンズの追撃で人員の大半が負傷、壊滅した。
そのために最も実戦経験がある501を再編、敢闘精神のある502と共に統合運用する事で状況の打開を目指す目的を。
その後、2人は慌てて用意を整え、出発の日を迎えた
−菅野と芳佳は辞令に従い、九五式小型乗用車で横須賀港に向かった。港に着くと二式大艇の前で佇む坂本美緒と下原定子がいた。
「坂本さん、それと下原!そうか、そうだよなぁ」
「菅野さん、お久しぶりです!」
「お、おう。宮藤、紹介すんぜ。ウチの部隊の下原定子。階級は少尉で、坂本さんの弟子の一人だ」
「初めまして、宮藤芳佳です。菅野さんから話は聞いてます!」
「こちらこそ。菅野さんがお世話になってます」
と、互いに何かを感じたのか一発で意気投合する2人。菅野は坂本に何故、二式大艇に乗らないのかを尋ねると、連邦軍から
武官が出向してくるからその合流待ちだという。
「ん、来たかな?」
坂本が空を見上げると一機のバルキリーが飛んでくる。VF-19シリーズのような前進翼持ちのVFだが、VF-25と共通の胴体などから
新型であることがわかる。塗装は扶桑航空隊の機体と同じカラーリングだが、飛行第64戦隊のノーズアートが施されている。
ガウォーク形態になって着陸し、パイロットが降りてくる。そのパイロットは……。
「なんだ……と……?おっ、おっ、お、お前なのか穴拭!?その格好は!?」
「今は連邦軍出向中だから地球連邦宇宙軍の軍人扱い
なのよ。だから連邦軍の軍服着てんの。
今回は陸軍としてじゃなくって、連邦宇宙軍の軍人としての任務ってわけ」
‐なんとバルキリーのパイロットは智子だった。
坂本は智子のことは2201年(ヤマトがちょうどイスカンダル救援から帰還した辺り)では通常任務に戻ったと聞いていたが、
今回の事態に「地球連邦宇宙軍軍人」として任務についたというのかと驚いている。
「穴拭さんもですか!?嬉しいです!」
「そういう事、今回はよろしく頼むわ」
「チース、穴拭さん」
「アンタはストライカー壊さないようにね」
「わ、わかってますって。もう」
「わ〜穴拭中尉だ〜!映画、見ました!!」
「それはありがとう少尉。今は大尉だけどね」
映画出演は後輩たちへの自慢の種なのか、智子も今回ばかりは自慢気だ。坂本は智子が乗ってきたVFの事を尋ねる。
「穴拭、あの機体はなんだ?新型か?」
「黒江が回してくれたのよ。向こう側の決戦機`YF-29デュランダル`。試作機扱いだけど事実上の最高性能機。
大気圏内でもマッハ5以上をコンスタントに出せるし、全てがVF-25以上の性能の恐ろしい機体よ」
‐VF-25でも十分に高性能だと思うのに、それ以上の機体か。最高性能機というと「ガンダム」的な地位の機体なのだろうか。
坂本は智子の言う事はにわかには信じがたいが、その流麗なフォルムからは秘めた性能が見て取れる。
そんな高級機を友人に回せるほど黒江は地球連邦軍内で地位を築いているのだろうか。
坂本は個人への新機体配備をも容易に行えるほどの黒江の軍内での立ち回り方を羨ましく思った。
二式大艇を護衛する形でYF‐29が離陸する。二式大艇らのコースは地球連邦軍が今のところ制海権・制空権(航空優勢)を
握っている区域となり、千島列島〜アリューシャン列島を通り、シアトルからリベリオンを横断するコースとなった。
千島列島付近で連邦軍空母「雲龍」所属の艦載機隊も護衛につき、一行は一路、ロマーニャへ向かった。
‐あとがき
史実と流れが異なる第二期編のスタートです。大所帯になった部隊にミーナの胃は持つのか!?
(改訂を加えました)