外伝その21


-501に知れ渡ったスーパー戦隊というヒーローの存在。軍隊が造った組織もあれば、有志の民間人で結成された組織も
多かった。501が統合戦闘航空軍として再編される過程で、ミーナはある一人の男と会っていた。
それは……。

「あなたは……?」

「ジャッカー電撃隊行動隊長、`番場壮吉`。ヨロシク」

その男とはかつて、秘密戦隊ゴレンジャーに続く第二の戦隊「ジャッカー電撃隊」(じゃっかーでんげきたい)の追加メンバーとして、犯罪組織「クライム」(くらいむ)と戦い、ジャッカーの行動隊長として着任した『白い鳥人』。その名もビッグワンこと、番場壮吉であった。彼の容貌は、仮面ライダーV3=風見志郎に多少年を取らせた(風見志郎が20代前半なのに対し、番場は20代後半の外見年齢)ようなもので、風見志郎曰く、「世の中には似ている人間が二、三人いる」が、彼の場合はその全員がヒーローなので、これまたややこしいので、外見的な年齢と服装で見分けをつけるしかないというヒーロー達にとってもややこしい珍事となっている。番場の場合は白いタキシードを着込んでいる場合が多いので、見分けは比較的簡単だが……。

「ジャッカー……?」

「ああ、先にこっちに来ている太陽戦隊サンバルカンよりも前に活動していたスーパー戦隊さ。他の戦隊と違って、全員がサイボーグの戦隊でね。色々と事情があって、我々は第二陣以降に派遣される事になった。そこで先行して私が派遣されたというわけなのさ」

番場は歴代スーパー戦隊の中でも異端児的な立ち位置にいるジャッカー電撃隊は派遣そのものが20世紀後半頃の国連で議論されてしまい、今回の事態では、他のスーパー戦隊に遅れをとってしまった事を話す。何せ他の戦隊は強化スーツを纏う形の変身だが、ジャッカーはサイボーグである。それにジャッカーには戦場にて、致命的な弱点を持っている。それはメンバーのほぼ全員が強化カプセルに入って変身機能をオンにしなければならないという欠点があるからである。これは当時の国連のサイボーグ技術の限界によるもので、ビックワンのみに自力変身機能がつけられたのは、ひとえに仮面ライダーV3=風見志郎のおかげである。



「ミーナ中佐、君も立て続けの戦で大変だと思うが、まずいことになった」

「まずいこと?」

「仮面ライダーBLACKRXの敵であるクライシス帝国がこの世界に侵攻を始めた。仮面ライダーや我々のいる世界の地球は22世紀には戦争の影響で環境が良いとはお世辞にも言えないし、彼らにとってはライバルも多い。そこで軍隊などの関連技術が低いこの世界に狙いをつけた。まさか世界を超えてまで我々や仮面ライダー達が来るとは思ってはいなかったんだろうがね」

「彼らはこの世界で何をする気なんですか?」

「それは我々スーパー戦隊も、仮面ライダー達も全力で探っているが、敵の防諜も凄くてね。中々掴めない。少なくとも、どこかの島か何かを不沈空母化する計画というだけは分かっているが……」

それはある`世界`にて四国空母化計画という名で陽の目を見た、クライシス帝国の作戦計画。この場合では何も日本にこだわる必要はないので、世界各地の島々(大陸、半島含め)がその標的となる。そのため、各スーパーヒーロー達は各地に散らばってクライシスと戦いながら、情報収集に当たっているのだ。

――なお、1945年時点での各スーパーヒーロー達の現場指揮権は仮面ライダー一号と、秘密戦隊ゴレンジャーのリーダー「アカレンジャー」(あかれんじゃー)に帰属しており、仮面ライダー2号とビックワンがその次席指揮官に当たる。彼らは扶桑に拠点を築き、地球連邦軍の要請に従い、悪と戦っているのだ。

「クライシスは君等、統合戦闘航空団を要注意としている。そして、統合戦闘航空団を各地に分散させていたら各個撃破されてしまう危険性が大きい。今回、連合軍が501と502を統合させたのはそのためもある」

番場はミーナに501をベースに502をも指揮下に置いた統合戦闘航空軍を作る真の理由を告げる。それはこの時代の軍備それはこの時代の軍備では対応できない敵への抵抗力を少しでも高めようとする上層部の思惑があってのことだと告げる。ミーナはその事に複雑な表情を見せる。


――本来、決して交わるはずのない部隊同士を統合させる理由がウィッチとしての本来の使命とはかけ離れている事への落胆、編成が『軍』ともなれば、上層部への政治的抵抗力も増すという嬉しさ、世界すら軽々と超える彼等の敵への驚嘆……。それらが複雑に入り混じっていた。ここの所、小〜中規模部隊を統合して大部隊へ統合する風潮の裏にはこういう事情もあるのかと感くぐった。。



「なあに、君等には強い味方がついている。そこのところは忘れないでほしい」

「番場さん……」

「ハハハッ。それじゃ、いつかまたお会いしましょう」

番場はいつもの飄々とした態度を見せ、肩を叩いて、ミーナを安心させる。そう。ミーナはこれまで、政治力に長けたウィッチとして、上層部と衝突することも多かった。前回(ブリタニア)では地球連邦軍の後盾を得られた。番場の言葉には、万が一、危なくなったら自分らを頼れ`というニュアンスも含まれていた。それはミーナはこれ以上ない強力な味方を得た事を暗に示していた。

「あ、それと今回の扶桑からの面々には元・507の隊長さんも含まれるそうだから、胃に気をつけてね」

「えっ!?まさかその人って……ちょっとぉ〜!?番場さ〜んっ!」

それを最後に言い残し、番場壮吉は去っていった。507という単語がどういう意味かミーナはすぐに思い出し、思わず慌ててしまう。507は同僚のエーリカ・ハルトマンの双子の妹のウルスラ・ハルトマンが過去に属していた部隊で、かつての『スオムス義勇独立飛行中隊』(いらん子中隊)を前身に持つ。そして1943年頃までは、前身時代から引き続き、その隊長が任についていた。その人物とは、ミーナも知る、扶桑海事変の英雄と謳われたウィッチ。扶桑陸軍きっての撃墜王、『扶桑海の巴御前』の異名を取った穴拭智子。坂本や自分たちにとっては大先輩(智子が若手として第一線でブイブイいわせていた頃、坂本やミーナは駆け出しであった)にあたる人物だ。その人物が自分の配下に収まるというのか。ミーナは大慌てしてしまい、基地に帰ると、急いでハルトマンに相談したとか。



――そしてビッグワンのその言葉通り、扶桑海から続々と歴代戦隊の母艦を初めとする超メカ群が発進し、ロマーニャの統合戦闘航空団用の新基地ヘ集結していた。秘密戦隊ゴレンジャーのバリドリーンを筆頭に、編隊を組んでロマーニャに向かうさまは壮観の一言であるが、極秘のうちに行われ、504やミーナにさえ、知らされる事無く実行された。これはアカレンジャーこと海城剛と、番場壮吉の計らいであり、スーパー戦隊の有する超メカ群をロマーニャへ集結させることで、クライシス帝国、ひいてはバダンへの抑止力を狙ったのだ。次第に集結するスーパー戦隊のスーパーメカ群に、番場壮吉は「これでクライシス帝国が大人しくしてくれればいいが」と海城に漏らしたとか。





――智子はリベリオンのシアトルの海岸で黄昏ていた。別にどうという事ではないが、7月の中頃という時が、日本人としてのセンチメンタリズムを刺激するのだ。そう、歴史上、向こう側での扶桑(日本)軍はこの青空を守れなかった。多くの人々を死に追いやってしまった事は扶桑皇国軍人として悔恨の極みだった。西暦2200年の8月15日に智子はそれを実感した。『8月15日』は1945年以降、地球連邦の時代になっても、日本人には特別な日なのだ`。



「夏かぁ……、軍人としては悔しさで泣きたくなる季節だわね」

「終戦の日ですか、穴拭さん」

「ええ。向こう側での軍は国を守れなかった。それどころか多くの自国民を死に追いやった。私達の国も、扶桑海の時に一歩間違ったら向こう側と同じ運命を辿ってたかもしれない……そう思うとね」

「確かに。向こう側じゃオレや宮藤……かもしれない人は1945年のこの時期に戦死してますし、広島の今の市街地は未来じゃ跡形もない……。それを思うとセンチになりますよ」

菅野も向こう側の大日本帝国が辿った破滅の運命には正直、泣きたくなったが、智子がセンチになっている理由はもう一つある。圭子から告げられた20世紀後半当時の日本人の日本陸軍への白眼視ぶりだ。戦後に創り上げられたステレオタイプ的な「陸軍悪玉論」を信じきっている人々も多く、軍服を着て出かけていた時に、老婆に犬畜生以下の如く罵られ、帰ったら、軍人への扱いの戦前と戦後の違いに呆然となった。「日本陸軍には屑しかいなかった」とか、「海軍が反対した戦争を勝手に広げて、破滅した脳筋の集まり」だの当時のステレオタイプそのままの罵りであり、さすがの圭子もこのマシンガンのごとく出てくる言葉に打ちのめされたというのだ。

「それもあるけど……陸軍の上がやった馬鹿のせいで、向こう側じゃ日本陸軍は犬畜生以下の烙印を押されてるのよ。国を守ろうとした軍人だってたくさんいたのに……」

「それですか。陸軍悪玉論のせいですよ。あれも随分息の長い論調でしたからね……当事者から見ればたまったもんじゃないですけど」

――戦後日本に長い間、君臨した論調「陸軍悪玉論」。相次ぐ陸軍の敗退が敗戦で一気に白日の下に晒された事、米軍戦車の強大さが戦後に知れ渡った事で、国民に「陸軍はこんなに弱かったんだ」という先入観が埋め付けられて、戦艦大和や空母赤城などの世界に冠たる栄光を一時的にも見させてくれた海軍への同情感情と合体して戦後に生まれた風潮。またその風潮はその母体たる大日本帝国の文化を否定する事にも繋がり、戦前には既に伝わってきていたジャズを、『戦後に伝わった戦後世代のものだ、戦後世代のものじゃない!!』といういささか無理な解釈の論調までもが展開されたという、戦前世代には泣きたくなるような話もある。

「ジャズといい、なんでも否定すればいいってもんじゃないでしょうに。まったく」

「わかりますよ、それ。オレも姉様が好きだった音楽を否定された時はこの時代を否定されたみたいな気持ちになりましたし」

「あんたもそうだったのね、直枝」

「はい。ガキの頃、姉様が聞いてた歌を思い出して……それで」

それは智子なりの『戦後日本』への皮肉だったかもしれない。家族が好きで聞いていた流行歌が戦後の価値観の名の下に否定される事に我慢ならなかったらしい。菅野も精神的に母親代わりであった、7つほど上のウィッチではない姉がよく聞いていた流行歌を思い出したのか、戦後直後生まれ世代が普及させた一種の固定観念や先入観を許せないのだろう。

「この時代に生きた扶桑の人たちのしてきたことを決して、時代の徒花なんて、言わせない。みんなが生きて、笑って、泣いた。その証がある。それを否定なんてさせない!」

智子は2200年の日本人の左派の知識人達に『大日本帝国時代の日本にはまともな文化は無かった』という風潮に法った論調があるのを、とあるパーティー会場で聞いてしまった。その時の会話は、憤っていたので、詳しくは聞かなかったが、トイレから戻ってくる途中、ある方面で名が知られた知識人の中高年の男性たちが、『帝政時代の日本人の魔女などに、我々の高尚な文化は理解できんだろう』などという、自分たちのことを鼻にかけたような態度で扶桑のウィッチを物笑いの種にしているのを見かけた。これにもちろん智子はムカッ腹が立ち、どうしようかと考えていた時、たまたまパーティーに居合わせていたレビル将軍に相談。レビル将軍はすぐに一計を案じてくれ、そいつらをとっちめてくれたが、智子にとっては憤慨ものの出来事だった。

――扶桑人としての誇り。それは智子が未来に行って改めて感じたことだった。

「センチな話はそこまでにして……穴拭さん、あそこでホットドッグの大食い大会やってるらしいんで、参加しましょうよ」

「なんでホットドッグなのよ」

「だって他にはハンバーガーがあるんですけど、リベリオン人の作るハンバーガーって、デカブツな上に高カロリーすぎるじゃないですか」

「確かに……」

この頃、菅野や智子は未来の日本で普及したファーストフードは未来での生活を送るうちに大好きになってはいたもの、本場が作るハンバーガーはどうもでかすぎる上に、高カロリー過ぎて口に入れられないという女子故の事情があった。そこで安全牌を取ってホットドッグにしたのだ。大会にエントリーし、ホットドッグを食いまくる二人だが、その光景はまるで姉妹のようだった。林との会話を終えて海岸へ来た坂本はそんな二人の姿に、

「あいつら、仲よかったっけ……?」

……と首をかしげていた。ちなみにその後、二人は食い過ぎでグロッキーになってしまい、菅野は坂本に、智子は芳佳にそれぞれ回収されたとか。


――その頃、ロマーニャでは着々と、太陽戦隊サンバルカンの基地『バルカンベース』を設計母体にした要塞『スーパーバルカンベース』の建設工事が行われていた。海中に立てられたそれは、501の使用する基地の建物と通路で繋げられ、80%が既に稼働状態にあった。そして、今、一機の母艦が出撃しようとしていた。

『シャトルベース、発進!』

電撃戦隊チェンジマンの母艦『シャトルベース』である。彼らは先行して派遣されていた戦隊で、東部戦線及び、西武戦線の援助任務についていた。アイゼンハワー連合軍司令官の要請により、この日も出動したのだ。彼らスーパー戦隊の存在はこの時期には軍内で公表されており、彼らの存在が戦線のカンフル剤として機能していた。彼らの戦いがこれから幕を開けるのだ……



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