外伝その45
――アフリカ戦線の崩壊が伝えられたのは、黒江たちが戦っている最中であった。ミーナはまさかのニュースに顔面蒼白とならざるを得なかった。アフリカ戦線の放棄は、スエズ運河をネウロイから奪還ししたのに、使用不可能に陥ってしまう事でもある。
――501 執務室
「アフリカ戦線が崩壊か……」
「今後、ますますロマーニャは敵の戦略爆撃に晒される可能性が増したわね……あそこの高射砲ではB-29の飛行高度まで届かないし……」
「かと言って、ロマーニャ空軍の通常戦力はリベリオン軍の機体の前には見劣りしてしまいます。どうすれば……」
そこに、ある人物から電話が入る。応対したミーナは驚きを隠せない。それは
「あんたがミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐か?俺は剣鉄也。グレートマジンガーのパイロットといえばわかるか?」
「あなたが、あの……!?でも、何故、私に?」
「隊長であるあんたに伝えておこうと思ってな。エーリカちゃんが、山本提督の命を受けて俺を呼び寄せ、いざという時には助太刀してくれと要請された。グレートマジンガーがいる限り、あんたらは負けんよ」
「何故、山本提督は私達にそこまで肩入れして下さるの?しかもあなたの機体は向こうの世界にとっての重要戦力のはずじゃ」
「山本提督は恐らく、あんたらを軍の良心として見てるんだろう。ブリタリアの大将のように、あんたらに嫉妬してる軍人なんて山ほどいるからな」
「良心……ね。上を利用した事もある私が言えた事ではないけど」
「まあ、それはうちの部隊でもままあるから、お互い様って奴だ。エーリカちゃんから頼まれたこともあって、俺も所長に直談判したからな」
「エーリカから?まさかあの子が?」
「そうだ。必死に懇願してきたよ。俺も所長に直談判する運びになったんだ」
――グレートマジンガーが何故、派遣されたのか?それはエーリカ・ハルトマンの尽力あっての事。そのため、ハルトマンは一気に少佐へ昇進したのだ。そして、501を守るために鉄也は命を燃やすと告げる。
「エーリカちゃんから頼まれたんだ、命を燃やさない理由はどこにもない。この剣鉄也がきっちりと守ってやるさ」
鉄也は一見して不遜なように思えるが、実のところは気さくな兄貴分的側面がある。それを知っている者は鉄也と親しく付き合っている。ミーナも鉄也の言動に、エーリカが惹かれた理由を悟ったらしく、最後には態度は軟化した。
「分かりました、頼みます」
「了解だ」
電話を終えたミーナは安心した顔だった。竹井はそれを見ぬいたようで、こう言いながら笑みを浮かべる。
「その様子だと、良い知らせのようですね」
「幹部のみに通達するわ。グレートマジンガーがこちらに派遣されました」
「グレートマジンガー……確か向こうの世界での最高戦力『スーパーロボット』の一体ですね?」
「ええ。マジンガーZの正統後継機で、スーパーロボットの中では比較的『常識的』な性能の機体よ」
「スペックデータは見たが、90万馬力とマッハ4でかっ飛ぶメカの何処が常識的なんだ?」
「もっと上の機種、マジンカイザーに至っては大陸を一撃で粉砕できる武器を満載してるからだそうよ。そこまで行くと大量破壊兵器になるそうだから」
「大量破壊兵器ねぇ。そんな言葉、初めて聞いたぞ?」
「ティターンズが使ったあの新型爆弾がそれに該当するそうよ。町を一発で消し、環境的にも多大な影響を及ぼす可能性がある。向こうの世界だと、1950年代以降に普及する概念だそうよ。向こう側では広島と長崎に使われ、二つの都市を一瞬で壊滅させたと記録されているわ」
「なんだと…!?」
ラルは息を呑む。町を一瞬でソドムとゴモラの如く消滅させる爆弾がリベリオンによって実用化され、『向こう側』では広島と長崎を一瞬で消した実績があると言われれば、誰でも息も呑む。
「それでその爆弾は?」
「やがてそれは核融合反応を起こす『水爆』に発展し、地球の文明を消して余りある量が造られた。ボタン一つで文明を滅ぼせる時代が到来した事から、『核による平和』が50年以上維持されたそうよ」
核戦争が現実的になった1950年代、核の冬という概念も確率され、第三次世界大戦=最終戦争という考えが普及したのもこの時代だ。米国は恒久覇権を目論んだが、それを良しとしない科学者や要人らが原爆技術を敵国に流した結果、訪れた『冷戦』。ミーナ達には信じられないが、敗戦による日本とドイツの衰退後に起こる二大国の冷戦は『世界大戦が起こった後に、充分に起こりえる状況』であるため、けして人事とも思えなかった。
「歴史っていうのは、不思議ですね。トリガー一つで全く異なる運命が生まれるんですから」
「ええ。竹井少佐、たとえば、あなたの国で、織田信長が本能寺の変で死ねば、羽柴秀吉、次いで徳川家康が政権を握って、江戸に幕府を開き、平和が260年余り続いた後に急激に近代化する運命になるそうよ」
「それは十分に予想の範囲内です。信長公や秀吉公が死ねば、家康公が天下人になれる器の持ち主でしたから。」
「問題はカールスラントだ。二度も世界大戦で破滅をするんだぞ?しかも二度目は独裁者のせいで」
「退廃した王政、立憲君主制、あるいは民主共和制は次の専制君主制、あるいは独裁制を生み出す格好の土壌になると言うことね。ナチス・ドイツを生み出す土壌はワイマール体制の綻びが原因だというし、古代ローマの共和制がいつしか帝政になったり、王政を打倒したガリアがいつしかロベスピエールの恐怖政治に堕ち、ナポレオンの台頭を許したのもそんな感じだもの」
――歴史上、腐敗した民主共和制や王政が打倒され、その英雄が専制君主として君臨したり、独裁者として振る舞うようになるケースはまま見られる。ミーナは歴史におけるそんなケースが世界大戦を引き金に起こり得るだろう事を予測していた。実際に、ドイツ第二帝政は第一次世界大戦の敗北で解体されているし、大日本帝国も第二次世界大戦の敗北で日本国に取って代わられたし、革命共和制フランスは革命共和制は、ナポレオンによる帝政、復古王政、ルイ・ナポレオンによる第二帝政となっていく。
「歴史の皮肉って奴だな。英雄は独裁者にも、君主にもなり得るという」
「そうね。ナポレオンもそうだけど、英雄のカリスマ性に民衆は惹かれる。ガリアの王政が絶頂期の頃やナポレオンの最盛期はまさにそうだったもの」
「ティターンズのアイツは何になろうとしているんだ?ナポレオンか?ジュリアス・シーザーか?アドルフ・ヒトラーか?」
「それはわからないわ。だけど、意図的に世界大戦を引き起こして、この世界を変えようとしているのは確かよ」
ミーナはそれだけ言うと、考えこむ。アレクセイは歴史上の誰かを範にしているのだろうか?それはまだ誰にもわからない。
――ガンダムmk-Xはローマにその威容を魅せつける。それに対抗すべく現れたのは、Zガンダムであった。
「ぜ、Zガンダムだと!?パイロットは誰だ!?」
可変後退翼のフライングアーマーに換装はされているものの、機体は紛れもないZガンダムのウェーブライダーであった。ウェーブライダーはおもむろにMS形態へ変形し、ローマ市街へ舞い降りる。
「こちらは地球連邦宇宙軍第302戦術飛行隊所属、カミーユ・ビダン中尉。501統合戦闘航空団へ。これよりそちらを援護する」
「カミーユ、カミーユ・ビダンだって!?それじゃ君が、グリプス戦役の……!?」
「ええ。もう随分前の話ですけどね」
この時、カミーユは20代に突入していた。精神崩壊から立ち直ってからは、17歳当時よりは落ち着きを見せるようになっていたが、ファ・ユイリィ曰く、激情形な性格なのは変化していないという。現在はZガンダムを再び駆る形で復帰、中尉として生活している。
『ほう、貴様がシロッコとジェリドを倒し、ヤザンがライバル視していた小僧か。軍に戻っていたとはな』
『貴様、どういうつもりだ!この世界は俺達の世界とは関係はないはずだ!』
『確かにこの世界は我々の世界とは別の道を辿っているが、遅かれ早かれ同じ運命を辿る。だからリベリオンにアトミックバズーカを叩き込んだのだよ。大量消費と大量生産を起こさぬために、ソドムとゴモラの如くな』
――ここでアレクセイはアメリカ合衆国が引き起こした『大量生産と大量消費』の時代が地球環境を悪化させた事を嫌悪している口ぶりを見せた。それでアトミックバズーカで都市を消滅させることで、キリスト教信者にソドムとゴモラの恐怖を呼び起こし、大量生産を戒める思惑がある事を。
『詭弁を!それが何十万の人を大量虐殺しといて言えたことかよ!!』
『大量虐殺しようと、勝てば官軍負ければ賊軍が世の真理だ。いつも勝った側は免罪されるのだよ!』
『恐怖を使う支配がいつまでも続くものかよ!ナチス・ドイツやソ連を知らないわけじゃないだろう!』
『小僧、こういう事もある。衆愚政治化した民主制よりも、一人の有能な君主が君臨したほうが良い結果を呼ぶ事もあるとな!」
アレクセイはそう言い放つと、mk-Xのサーベルで斬りかかる。カミーユもZのサーベルを抜いて応戦する。ここで大半のウィッチ達はMS同士の斬り合いというのを初めて目撃した。触れればどんな金属も斬れそうなビームの剣で、大昔の騎士や武士さながらの斬り合いを見せるのは、驚きであった。
――mk-Xの大型ビームサーベルが振られるが、Zはバーニアを使った跳躍で避け、サーベルを振り下ろす。だが、それも避けられる。パプテマス・シロッコを倒して、グリプス戦役中のエゥーゴで最強という称号を、結果的に得たカミーユの技能に当たり負けしないだけの操縦技能をアレクセイが持っている表れであった。
『雑魚は消えろ!!』
Zがスラスターで高速移動しながら、護衛のマラサイをビームライフルで撃ちぬく。Zガンダムの世代になると、スラスターを使った高速移動が可能となっていた。擬似的なホバー移動とでも言うべきか。一年戦争時にドムが行ったホバー移動への連邦軍の憧れが、世代が進んだMSで結実したと言うべきだろう。次いで、別の機をビームサーベルとロングビームサーベルでいっぺんに斬り裂いて見せた。
「うひゃぁ〜速えじゃねーか。あれがZガンダムのポテンシャルかよ」
「前の時は散発的にしかMS戦起きなかったから、地上戦での能力は殆どわかんなかったけど、あそこまで動けるのかよ。そりゃ戦車が衰退すんわ」
シャーリーとエイラはZガンダムのポテンシャルの高さと、MSの縦横無尽に駆け回れる自由度に舌を巻く。戦車を裏方へ追いやったという歴史も納得がいったようだ。
「ん、味方か!」
次いで、カミーユの僚機らが姿を見せる。全員がZプラスタイプを操る辺り、手練であるのが容易に分かる。501を守るように展開し、周りのマラサイと対峙する。黒江はマラサイがZプラスに手を出さない理由を考える。
(いくらティターンズが精鋭と言っても、それは初期からいた連中だけだ。後期に採用された連中は初期の連中より練度が下がってるはず。Z系は格闘戦が苦手な機体だって聞いてるが、腕がいいパイロットはああいう風に、格闘戦こなせるからな。手を出せねーんだろう)
Z系は脚部に核融合炉を積んでおり、操縦特性はピーキーである。格闘戦向けではない設計である故、それで格闘戦をこなせる技能を持つものは一級のパイロットと見なせる。戦いは殆どカミーユのワンマンショーと化していた。格闘戦な苦手なZ系で、汎用MSであるmk-X相手に互角に渡り合える(パワー差はあるが)辺りは、伊達にグリプス戦役でエゥーゴを支えていたわけではないという事だ。
「黒江、援護しないのか?」
「私達の火力じゃ足手まといになるだけだ。接近戦をしようにも、mk-Xには近づけん。かと言って、こっちの武器は無力だ。ここは彼らに任せよう」
MS相手には通常兵器では、太刀打ちはできない。唯一、有効なのは接近戦だが、量産機なら接近できる隙があるが、熟練者が乗るガンダムタイプにはそれが生じることはまずない。それ故、黒江には静観しか選択肢がなかったのだ。
『落ちろ!』
Zはハイメガランチャーに武器を持ち替え、火力で勝負に出る。だが、すんでのところでG-Xは回避に成功する。シールドブースターをアポジモーターの補助に使い、強引に機体の機動を変えさせたからだ。お返しにミサイルポッドを斉射するが、これはカミーユのテクニックで全弾を切り払われた。
『ちぃ、『ライダー』とはよく言ったものだ』
Z乗りは『ゼータドライバー』とも、『ゼータライダー』とも呼ばれ、連邦軍の間で羨望の的である。その正式パイロットとしての元祖であるカミーユは自分が間接的に設計に関わった事もあり、見事に乗りこなしている。アレクセイはそれを思い出し、思わず舌打ちする。
「おっと!」
彼はとっさにライフルを撃つ。それをカミーユもハイメガランチャーで迎撃し、ビーム同士がぶつかり合い、閃光と爆発が起こる。黒江達は、この激しい戦闘に目を奪われ、まるでテニスかサッカーの観客のような様相を呈していた。
「閣下、遊びが過ぎますぞ」
「潮時か」
mK-Xが、やがて信号弾を打ち上げ、戦闘を打ち切って後退する。今回はティターンズと地球連邦軍のデモンストレーションとも言うべき様相を呈したわけだが、意外にも501メンバーでもっとも悔しさを顕にしたのは、ルッキーニだった。それは普段、天真爛漫な彼女にしては珍しく、感情的ですらあった。
「あいつら、よくもあたしのロマーニャを……!ねぇ、黒江少佐!あいつらをどうにかできる武器は無いの!?」
「わりぃが、今の連合軍の技術で手持ちにできる武器で、MSを真っ向から貫ける火器はないんだ。昨今の戦車砲は航空ストライカーじゃ運べない重さになってるしな……リボルバーカノンを使う手はあるが、あれを使うにゃ、ジェットを使うしかねぇが、今のモデルじゃ機動性不足だ」
「うじゅ……」
「これでISとかのパワードスーツを使う大義名分は立った。当面は私とバルクホルン、ハルトマンでケッテを組むしか無いな。シャーリー、確かお前、注文出すとか言ってたな?」
「ああ、ちょうど注文書書いたとこだけど……って、まさか!?」
「追加だ。ついでに一個中隊分は確保しちまおう。注文用紙はまだ予備があったはずだ」
ストライカーの熟成を待つだけの余裕が無いと判断した黒江は、ISなどの追加調達に踏み切ったようだ。
「綾香、レーバティンとかいう奴ほうはどーすんの?」
「ここ二、三日でテストを完了させよう。今回の事で中佐も使用を解禁するだろうしな。モンティやブラッドレーにはどやされるだろうけど。そいや、菅野。今回は壊さなかったな?」
「なんだよ、俺がいつも壊してると思ってんのかよ!?」
「うん」
菅野が涙目となったところで、Zのカミーユが話しかけてきた。スピーカー越しだ。
『黒江少佐』
「カミーユ君、なんだ?」
『上から今、指令が来たんです。あなた達の護衛任務につけ、と。なので、僕達もそのまま501基地に向かいます』
「今回のことでMSの増強が必要になったからな。穴拭、坂本。ミーナ中佐へ打電しろ」
「了解」
二人がミーナに事情を説明する。ちょうど軍司令部へ呼び出しがかかったらしく、さしもの彼女も疲れた声だった。今回の事は殆どお咎め無しであろうが、ミーナが未来兵器の使用を躊躇していたというところから嫌味を言われるのは確実だからだ。
「モンティにはまた嫌味を言われそう……いい加減に怒りたくなるわ」
「あいつは有能なのか、ただの嫌味屋なのかわかんない側面があるからな。帰ったらサファリのカレーでも食おう」
「美緒、私はどうすればいいの?」
「そんなに気に病むな。私もお前達に随分と迷惑かけたが、お前がそんなに悩むのは、らしくないぞ?」
「ええ、確かにそうね。たぶんあなたは減棒処分が下されると思うけど、いいわね」
「自分でかってにやって、機材を壊したんだ。そのくらいの処分は甘んじて受ける。それと未来兵器の使用解禁を検討してくれ。敵が本腰を入れてきた以上、ストライカーだけでは機材を回しきれん」
「分かってるわ。数や燃料、それに弾薬が確保でき次第、使用を認めると黒江少佐に言って」
「了解」
ついにミーナも腰を上げ、順次、未来兵器を解禁する決意を固めたようだ。隊の予算も潤沢になったため、未来兵器の運用に耐えられると判断したのだろう。カミーユを含めた飛行隊は防空と護衛を兼ねて配備されると、通達も届けられた。ミーナが司令部の呼び出しに応じ、基地を留守にして20分が経過したころであったか、連邦軍から補給物資と人員が運ばれてきた。人員は504のドミニカ・S・ジェンタイルとジェーン・T・ゴッドフリーであった。比較的軽傷であった二人は、未来世界での療養を終え、戦場に戻ったのだ。
「まさかこんなに早くつくとはな」
「ジェット機って本当に早いですね、大将」
「ジェーンさん、それにドミニカさん。怪我の方は大丈夫なの?」
「ああ、すっかり大丈夫だ。まさかこういう形で501と行動を共にするとは思ってもみなかった」
「そうか、竹井。お前が呼んでいたのは……」
「そうです、少佐。この子達が第一陣です」
「504統合戦闘航空団、ドミニカ・S・ジェンタイル大尉だ」
「同じく、ジェーン・T・ゴッドフリー大尉です」
「新・501統合戦闘航空団所属(居候のようなものだが、便宜的に所属として処理された)、黒江綾香少佐だ。よろしく頼む」
二人は竹井と黒江に挨拶をする。旧504隊員も順に復帰し始めているが、この時、問題が生じていた。本来、504に所属するはずの中島錦、諏訪天姫の両少尉の派遣が時局の悪化で輸送船が確保できずに、防空の必要性も上がったために先送りとなってしまったのだ。黒江と智子はその代役を当面の間は担うと内部処理され、黒江と智子、坂本の三人は正式に新501の先任中隊長の座についたのである。
「少佐は元々は扶桑の技術部隊にいたんですよね?」
「ああ。一時は505にいたけどな。それがどうしたんだ大尉?」
「亡命リベリオンからF-86の先行生産機がついでに送られて来てるんです。良ければテスト用にお使いください」
「本当か!いやぁ予備機ないからP-51Hしかテスト用に使えなくて困ってたんだ、恩に着る」
黒江は技術試験部隊に長らく在籍していた。その性故、購入機や新型機に目がないという面があった。その新しもの好きな性分が未来世界に馴染んだ要因である。クールビューティに見えそうな彼女であるが、このように趣味などでは意外に純真な面を持つ。大はしゃぎでミデアのコンテナに走って行く姿に、竹井は恩人の意外な側面にびっくりしたようだった。
「竹井大尉、いや、今は少佐か?黒江少佐はああいう感じの人なのか?」
「あの人は新型機とかに目がないから。ああ見えて、扶桑海事変の後期には政治的にも尽力したし、欧州戦線では最前線送りになっても鬼気迫る戦いぶりで生還した逸話持ちなの」
「へえ、あれがねぇ」
ジェーンは関心したが、実際の事情は最前線送りという名の『左遷』である。改変後に却って酷くなった例だが、持ち前の根性で乗り切った。黒江当人曰く、『その辺りの記憶は靄がかったように曖昧なところがある』ので、歴史を改変した事による副作用が生じていた。それは智子や圭子も同様である。竹井は大はしゃぎな黒江をそっとしといて、フェイトを呼んで、書類を用意してもらい、ドミニカとジェーンの所属受理書類を作成しに、自室へ向かった。
「お〜!!J47-GE-27だ〜!!ふおおおおお、ADENだ〜!!」
できたてホヤホヤの新装備を前にした、黒江の歓喜の声はその日、501基地の格納庫に響き渡ったという。同時に、MSの力を改めて認識し、自らがミッド動乱で使った機体を取り寄せる事を検討し始めるのであった。
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