外伝その47
――欧州戦線では、事実上はブリタリア海軍がほぼ単独でリベリオン軍と対峙しているようなものだった。ロマーニャ海軍は大洋航海を想定していない海軍故に、ブリタリアからは沿岸警備隊扱いされていた。しかもティターンズ海軍が電撃的に実施したタラント空襲で旧式戦艦と補助艦の多くが大破し、ロマーニャ海軍は事実上、行動不能となってしまったのも痛手で、ロマーニャ海軍の脆弱性を内外にアピールしてしまった。そこで、ミッドチルダ動乱で損傷を負い、本土で修理改修されていた戦艦武蔵と、完成したばかりの三笠型二番艦『富士』が回航される運びになった。主力の過半数がミッドチルダへ派遣されている現状では、最大の戦力であった。
――1945年 8月下旬に差し掛かる頃
「タラントが空襲を?はい、はい。損害は……。分かりました」
電話に応対するミーナの顔が一気に曇る。タラントが電撃的に空襲され、ロマーニャ海軍が大被害を被ったからだ。
「タラントが空襲されました。これでロマーニャ海軍は宛にできなくなったわ」
「やはり来ましたか。来ると思ってました」
「穴拭大尉は読んでいたのですか?」
「タラント空襲は向こうじゃ有名な話ですからね。奴らがやらないはずはありません。いくら浮揚可能でも、修理には年単位の時間がかかります。そこを突いたんでしょう」
智子はタラント空襲の報にも冷静だった。未来世界でその戦史を知っている故だ。ロマーニャ海軍の軍港はナポリ、ガエータなどがあるが、タラントはその中でも重要な軍港の一つであった。そこを無力化された事は、ロマーニャ海軍の脆弱さを内外に知らしめる結果となった。
「彼らはこの戦果を大々的にプロパガンダしています。この放送を聞いてください」
ミーナは手元に置いてある携帯ラジオ(未来製品)のスィッチを入れる。すると。ティターンズがリベリオンの放送局を使ってTV、ラジオの双方で放送しているプロパガンダ放送が聞こえてきた。内容は以下の通り。
『去る8月X日、我がティターンズ海軍はロマーニャ海軍の重要軍港であるタラントを、空母機動部隊にて電撃的に空襲。戦艦『コンテ・ディ・カブール』をスクラップにし、リットリオを行動不能にせしめ、補助艦艇を多数撃沈し……』
「史実と似たような結果ですね。補助艦の損害が多いのが違いか……大型艦よりも補助艦が本命で、象徴的に戦艦を二隻破壊したんじゃ?」
「私もそう考えています。ジェット機とミサイルの登場で戦艦の軍事的価値は低下してる。だけど、一般人には戦艦は分かりやすい『軍事力の指標』なのには変わりはないわ。だから、ミサイルでの完全破壊は困難である戦艦を擱坐させたんでしょう」
「これでロマーニャ海軍は作戦行動に支障をきたした。問題はここにMSを電撃的に送り込まれることですが……」
「それは問題ありません。電撃戦には可変機が不可欠ですが、ティターンズ系の可変機は燃料食いなんで、空母との連携を前提にしなければ使えません」
智子は未来世界で得た情報をミーナに教える。ミーナは昨年時に連邦系(旧エゥーゴ系)の可変機の情報は見たが、ティターンズ系の可変機の情報はあまり閲覧できなかった。ブリタリア時代は連携訓練や火力不足などのものほかの問題で、もっぱらMSは連邦軍が迎撃していたからだ。しかし、現在では未来兵器の流通で火力面は心配なくなりつつあるので、連携して事にあたることは多くなるだろう。情報は多いほうがいいのが実情だった。
「というと?」
「可変機はZ系以外のは空力性能を殆ど考えない形のが多いんです。ティターンズ系で割とよく強襲に使われた、この……ギャプラン。空力性能ガン無視、熱核ジェットを持たないんで、航続距離が九六式艦戦以下っていう笑えない性能です」
「何故、そんな極端な機体を?」
「話を聞くと、ギャプランは元々、衛星軌道上の艦隊を迎撃するために造られたそうです。当時、エゥーゴの地球降下作戦に危機感を持っていたティターンズがオーガスタ研究所、あるいはオークランド研究所に試作を命じて出来たそうです。でも、その用途よりも制空戦闘に使用される方が多かったそうです。実際に、ある地域ではギャプランで従来型MS中隊を撃滅した例があるそうです」
智子にしては知的な提言である。伊達に、507を纏めていた経験があるわけではないのだ。次いで、黒江が入ってくる。すぐに智子の提言を補足する。
「ただ、ギャプランは元来の航続距離が短いんで、増槽を使って補う方法が取られてます。小回りが効かない機体なんで、その辺はこっちのZ系が優位です」
「小回りか……敵は通常兵器を集めてる模様です。写真が送られてきました。これです」
「これは確か、F-111。まだ現存機があったのか……」
「F111?」
「向こうの米軍が1960年代に作った戦闘爆撃機です。戦闘爆撃機という触れ込みですが、実際は専用の爆撃機として運用されたそうです。機動性が低かったんですが、爆撃機としては問題なしだったそうで、数度の実戦で証明されてます。まさか現存してたとは」
黒江は友軍から送られてきた白黒写真に写る、未来型(戦後型)戦闘爆撃機に思わず唸る。F-111は23世紀に至るまでの宇宙戦争で博物館が破壊されたりして、現存数は希少とされていたからである。
「性能は?」
「話に聞いただけですが、搭載量は22世紀に可変戦闘機が現れるまで、歴代最高級だったそうです。F-15Eよりも多く積めたそうなんで」
F-111の武勇はほぼ搭載量でなされた。黒江も他人から聞いただけであるが、通常軍用機(ステルス性などを考慮に入れない)としては最大級の搭載量で、バンカーバスターのテストを行った事は知っていた。
「ドックファイトに持ち込めれば勝てる相手ですが、問題はそこに持ち込めるか、です。護衛機がつくのは確実ですし、速度はもちろん超音速。私達ならいざしらず、ロマーニャ軍に使われたら、抵抗できずじまいでしょう」
「超音速機の恐ろしいところね」
「ええ。この世界の軍隊は大半がまだ旧式の時限信管の高射砲です。向こうはリベリオンの研究していたVT信管を、機銃に至るまで装備している。通常兵器で攻撃すれば大損害確実です。これまでのやり方では近づくこともままならなりませんから」
――そう。VT信管などの防空システム完成後の米艦隊は世界二位の航空戦力を持っていたはずの日本海軍以下の全海軍航空戦力を寄せ付けない防空力を誇った。それ故に、航空魚雷の代わりに、ミサイルが発達したと言っても過言ではない。ミサイルの恐ろしさは既にほぼ全員が体験しているが、それを避けられるだけのマニューバーを体得している者は501全体でも数えられる人数しかいない。そこで、連邦軍やいくつかのスーパー戦隊の協力のもと、ミサイルの回避運動の訓練が行われた。
――その日の午前9時
「ひえええええ〜!」
宮藤芳佳は敵機役のVF-11Bの放ったマイクロミサイルの弾幕を紫電改で必死に回避する。ストライカーユニットの最高速は精々、時速680キロ程度。とてもミサイルを振りきれるものではない。そこで旋回性能や機銃、刀、拳を活用しての回避法(撃ち落とし)を活用する方法が編み出されていった。芳佳の場合は紫電改の旋回性能と刀を使う方法であった。
「くっ!」
刀を抜き、旋回性能とホバリングを活用して居合の要領でミサイルの弾頭部を切り裂く。これは芳佳が剣を鍛えた結果の産物であったが、意外な効果を見せた。
「お、やるな宮藤!んじゃ、俺はっと!」
菅野は逆に、ミサイルを拳で粉砕するという超絶荒いやり方で切り抜ける。これには監督役の黒江は苦笑いし、通信を入れる。
「おい、菅野。やりすぎてユニット壊すんじゃねーぞ。中佐の胃に穴が開くだろ」
「へいへい」
「お前なぁ」
「わりぃが、おりゃあんたみたいな器用な真似する柄じゃねーんだよ」
「お、おう」
菅野は黒江にこう返し、ミサイルに自ら向かっていく。ストライカーユニットへの損傷はシールドで軽減するつもりだろうが、ユニットの装甲は全とっかえ間違いなしであると、ため息をついた。この他にも、エイラはミサイルの機動を見切った上で機銃で撃ち落として見せ、ハルトマンはシュトゥルムでミサイルを巻き込んで破壊し、バルクホルンはホバリングを活用した戦法で好成績を収めたという。地上で各ウィッチのデータ集計を担当しているフェイトは、黒江や竹井に集計したデータを見せる。
「ふむ。意外に宮藤が好成績だな。旧502勢、504勢も概ね対応できている。ん、ペリーヌの成績が良くないな……。リーネ、ペリーヌの様子は?」
「それが、トネールで一気に破壊しようとしたら、爆発が思いの外に大きかったみたいで、ストライカーを損傷させてしまったんです」
「ペリーヌにしては『らしくない』ミスだな。近接信管の危害半径を読み誤ったか」
模擬弾故に爆薬は量を減らされているものの、危害半径そのものは実戦でのそれと同じである。ペリーヌのトネールで破壊するというアイデアは悪くはないが、危害半径を読み誤ったために、予想外の損害が生じたのだろう。
「それで様子はどうだ?」
「ショックだったみたいで、落ち込んでます」
「訓練中だぞ?ったく……」
ペリーヌは優秀ではあるが、少々プライドが高いために、変なところで凹む癖がある。それ故に黒江としては『手を焼く』隊員である。成績そのものは良好であるが、ジェット戦闘機の飛び交う戦場では命取りに成りかねない。後でこってり絞らなければと、竹井やニーナ、智子と共にため息をついた。この日の訓練での成績は以後の編隊編成に一定の影響を与え、以後の訓練メニューが過酷になったとの事。
――この年、ブリタリアでは新戦艦の仕様決定で揉めていた。大和型への羨望から、セントジョージ級は建造段階へ入っていたが、主砲仕様策定で造船側から文句が出たのだ。ウィンストン・チャーチル以下の海軍閥政治家は46cm砲の装備を目論み、扶桑から製造権を買い取るなどの施策を取った。だが、製造施設側から『46cm砲は我が国の製造施設では製造は不可能である!』と文句が出たのだ。ウィンストン・チャーチルは『フューリアスの時に作ったはずだ!』と怒鳴りつけたが、造船側は『N3型は施設の新造込みで計画されていた!フューリアスは連装砲じゃなかった』と返した。造船側は『既存施設では大和型に匹敵するような超弩級戦艦は作れない!』との提言を提出し、結局は50口径43cm砲搭載艦として建造が続行され、46cm連装砲が完成する1951年頃に同二番艦『セント・パトリック』とともに主砲換装が行われたという公式記録が残された。この仕様決定の経緯は以下の通り。
――ブリタリア デヴォンポート海軍基地
「何ぃ、46cm砲の製造が不可能とは、どういうことだ!」
「重ね重ね申し上げます。私どもの設備では46cm砲を作れるだけのインフラがありません!」
「だったら、QEの時のようにやればよかろう!」
「無茶言わんでください、閣下!」
ウィンストン・チャーチルはこの日、いつになく不機嫌だった。それは自身肝いりの新戦艦の主砲に予定していた46cm砲が製造不能であるという報が、竜骨が起工された僅か3週間後に伝えられたからだった。だが、現実に18インチ砲を製造可能な工廠はブリタリアにはなかった。かつて第一次大戦時に対地射撃目的にハッシュ・ハッシュ・クルーザーが開発されており、その搭載砲として、確かに18インチ砲は作った。が、それは単装砲であり、弩級戦艦以後でお馴染みの連装砲塔ではない。連装砲塔にもなると、相応の設備が必要となる。平均して38cm砲を搭載してきたブリタリアでは、40cm砲を大量生産する設備は直ぐには用意できない。それがチャーチルの誤算であった。これにはさすがのチャーチルも困ったようである。
「ええい、主砲は完成次第、換装する前提に作れ。そうすれば我慢してやる。用意可能な最大口径は!?」
「じゅ、17インチであります」
「ならばそれでやれ。ターレットは大きめにしておけ!いいな!」
と、半ば脅迫じみたチャーチルのゴリ押しであった。これにはブリタリア海軍のメンツが多分に作用していた。ブリタリアは海軍軍縮条約に則って、キングジョージX世級を始めとする新戦艦を製造したが、条約が大戦で有名無実化(後に失効)してしまった上に、扶桑海軍が『世界最強』と名高い大和型を続々と竣工させた事から、ブリタリア戦艦の『張子の虎』感を国民に知らしめてしまった。その時の扶桑海軍が全世界に発信したプロパガンダがこれである。
『――1941年12月、堂々完成した我が新鋭超弩級戦艦『大和』。46cmの巨砲を備え、29ノットで航行可能な新鋭艦はこの度の観艦式で御召艦に選ばれ……』
扶桑海軍も当初は秘匿兵器としておくつもりであったが、逆行した黒江達が海軍に『坊ノ岬沖海戦に至る大和型の悲劇』をリークした事で、大和型を隠す意味がないことを知り、開き直ってプロパガンダに活用した。263m、65000トンと46cm砲の巨艦を東洋の島国が作り上げたという事実は、各国海軍に多大な衝撃を与えた。これは『ヤマトショック』と呼称され、超弩級戦艦の建艦競争を起こした。リベリオンは俎上に上がっていたモンタナ級戦艦を本格的にスタートさせ、オラーシャは史実のソビエスキー・ソユーズ相当の戦艦として、『リューリク一世級戦艦』を計画し、カールスラントは『H41級戦艦』を建艦し、ガリアはガスコーニュ級、次いでアルザス級を計画した。
――だが、その新戦艦の多くは皮肉にも、人類に牙を抜く『悪魔の尖兵』としての生涯を辿っている。そしてそれに立ち向かう勇者が大和型戦艦であるのは、『連合国の航空戦力に敗れ去った徒花』とさえ言われた同艦の大抵の場合の運命から考えると、これ以上ない運命の皮肉であると言えた。
――話は戻って、真夜中の501基地の格納庫
「いつの間にか、時代は変わりつつあるな」
「なんだ坂本。お前か」
「こう見えても501の戦闘隊長だからな。お前は自分の機体の整備か……若い頃から変わらんな」
「陸軍の伝統みたいなもんだからな。江藤隊長や坂川隊長からは『手すき時には自分でも整備しておけ』と言われたもんだ。整備班の負担軽減にもなるからな」
「そうか。気がつけば、ジェット機の時代になりつつある。私達も年を取ったな」
「本来ならもうちょい緩やかに移行するはずだったんだが、ティターンズのせいで、それが加速度的に早くなった。多分、再来年の辺りにゃF8Uが本格配備されてるな。他の機種も1950年代に入る頃には量産され始める。必要は発明の母とは良くいったもんだ」
「ん?これは……もしかしてF-14か?」
「ご名答。将来のサンプル代わりに海軍が購入したのを、五十六のおっちゃんに頼んで回してもらったのさ。その前にF-4Eを挟むから、こいつが回される頃には、私達ゃ三十路行ってるかもな」
「可変翼か。本当なら何年に具現化する?」
「確か試作機では……P.1101が最初で、実用機じゃミーナ中佐が見せたF-111が最初だ。1964年の実用化で、コンピュータ技術で操縦性の補正が可能になったから採用された。その後はF-14で途絶えてるが、こいつが名機である事は揺るがないさ」
黒江が整備していた機体は、扶桑軍が次々々期主力戦闘機候補に挙げる第4世代ジェット戦闘機である『F-14』であった。気が早いが、戦争では、飛行機のモデルチェンジが最高で半年くらいで起こる。史実第二次大戦では、F4Fだった主力戦闘機が、終わる頃には二世代後のF8Fになっていたという例がある。扶桑軍はそれを危惧し、『どうせなら3、4世代後まで決めておこうぜ』という論調が主流となっていた。F-14のサンプル購入はその一環であった。
「ずいぶん気が早いな」
「しゃーない。現状、九九式から零式どころか、それよりも遥かに早く、紫電改や烈風が凄いペースで配備されてるんだ。F8Uももう生産準備中の段階に入る。もう10年もすりゃ、私もお前もファントム無頼してるかもな」
「ハハ、違いないな。しかし、こんな大きいのよく艦載機にしたよな……」
「向こうの米軍は汎用性を重視したからな。それとミサイル万能論のせいで、ミサイルキャリアなんて馬鹿げた考えが蔓延ってた名残だ。どうしても搭載量を多くすると大型にならざるを得ないからな。で、こいつは機動性重視に立ち戻った最初の世代の戦闘機だ」
――そう。ミサイルキャリアとして設計された世代の戦闘機はベトナム戦争で苦杯をなめた。その犠牲を経て生み出されたのが第4世代戦闘機である。この世代の戦闘機は造形的に優美な機体が多く、23世紀においても人気が高い。博物館の機体でも、フライト可能な機体が多い。特にF-14は、VF-1のモデルになった戦闘機でもあるため、レストアされた機体なり、レプリカ機が製造されている。扶桑が調達したのは、地球連邦が売り込み用に史実の最終型であるD型をベースに、単座型に改修した『扶桑仕様』(複座戦闘機を扶桑が嫌っているためでもある)である。サンプルなので、2機しかないが、性能そのものは高い。
「コクピットを見せてくれるか?」
「いいぜ。こんなのだ」
「おお、グラスコクピット化されてるのか。資料で見たのは、もっとアナログチックだったぞ?」
「そりゃA型だよ。こいつは最終型ベースだからグラスコクピット化されてるんだ」
「エンジンは通常エンジンか?」
「そりゃそうだ。熱核タービンは地球連邦軍の援助があって初めて使える代物だからな。うちらでも使えるように、通常ジェットエンジンのままだ。燃費いいの積んでるが」
――熱核タービンは23世紀においても高度な技術を要するために、当然ながら扶桑への輸出用戦闘機には搭載されていない。その代わりに、かつてのVF-0に搭載されたターボファンエンジンの燃費改善型を搭載している。ターボファンエンジンそのものは20世紀中に完成された技術であるので、10年もすれば扶桑で自主制作も可能になるだろうとの事だ。
「航続距離は?」
「だいたい原型機の1.5倍から2倍程度だそうだ。20世紀後半で考えりゃ破格の航続距離だぞ」
「ということは……6000kmから7000km前後か。確かに破格だ」
「扶桑向けに航続距離を伸ばしたそうだ。お前んとこは航続距離重視だからな」
「うちの海軍は零式が出てから、航続距離をとかく気にするからな」
坂本はあの事件以降、自らの姿勢を反省したのか、以前と打って変わっての聡明さを見せた。落とされた事で、かつての恩人への恩という呪縛を吹っ切ったのが伺える。
「気持ちは分かるがな。……お、ルッキーニだ。どうした?」
「うじゅ……歯が痛い」
「何ぃ、歯が?見せてみろ」
ルッキーニが姿を見せた。歯の痛みで眠れないらしく、目がショボショボしている。坂本と黒江は虫歯と直感し、ルッキーニに口を開けさせ、点検する。すると。
「お、奥歯の一個が両方とも穴あいてるぞ」
「お前なぁ。歯をクチュクチュクしてんのか?」
「シャーリーと一緒に、ちゃんとしてるもん」
「お菓子の食い過ぎだ。医務室に連れて行くから、今度は気をつけろよ?」
「うん……」
「こりゃ宮藤に言って、ルッキーニにお菓子は当面は禁止してもらわんとな」
「え〜〜!」
「歯磨きを怠ると、今回みたいな事になるぞ。シャーリーに言って、歯磨きしてもらったほうがいいな。夜が明けたら、シャーリーに言っておいてくれ」
「OKだ」
坂本と黒江はルッキーニをスーパー戦隊側の管轄の医務室に連れて行き、ルッキーニの歯を治療してもらった。思いの外、時間がかかったため、二人はうたた寝をしてしまった。二人があまりにも気持ちよく眠っていたため、医務官は起こさず、二人が寝ているベンチに毛布をかけた上で、ストームウィッチーズの移転業務で、まだ起きていた圭子に連絡を取り、二人を引き取ってもらったそうな。
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