外伝その54


――オペレーション・アテナの目的は多かったが、主目的はヴェネツィアに現れた巣の破壊と、ヴェネツィアの開放である。さすがに首に刃を突きつけられたも同然の状態では、今後の軍事行動が危ういからだ。ヴェネツィアの政権を転覆させる事も考えられたが、ヴェネツィア王家はロマーニャ王家に取り込まれる事を嫌うし、革命を引き起こせば、連鎖反応でロマノフ王朝が崩壊しかねない危険があること、地球連邦内で立場を失っていた、かつての社会主義者達がソビエト連邦建設を焚きつけかねないからだった。


――地球連邦軍 駐留艦隊旗艦「朝日」艦橋

「さすがにヴェネツィア王家の転覆による革命は無理だな。危険がありすぎる」

「この世界の国際秩序は、第一次世界大戦前の王侯貴族が生き残っている状態で止まってますからな。革命を引き起こせば、連鎖反応と反動で赤化する危険があります」

「ロマノフ王朝はロシア革命前の段階で青色吐息になっていたが、この世界では日露戦争前の状態を保っている。だが、奴らが農民を焚きつければ革命が起きかねん。それこそレーニンとスターリンの役割を誰かが果たして、ソ連が生まれかねんからな……迂闊に手を出せんぞ」

――オラーシャ帝国はロシア革命が影も形もないため、1940年代にはアレクセイ・ニコラエヴィチ・ロマノフが1928年にニコライ二世の病気による崩御に伴い、帝位を継承。『アレクサンドルW世』として君臨し、農奴解放を進めていた。だが、史実よりは小さいとはいえ、広大な領土を有する帝国では農奴解放が追いつかず、農民は不満を抱いていた。彼らが危惧するのは、ロマノフ王朝が倒れ、ソビエト連邦が生まれてしまう事であり、そうすれば、あの恐怖のKGBが跳梁跋扈する。それだけは避けなくてはならない。そのため、ヴェネツィア王家を完全に解体するのは取りやめられたのだ。

「う〜む。難しいところですな。敵はイタリア海軍の半分と米海軍主力の半数を有していますし、かと言って、ロマーニャにはタラント空襲で主力の過半数は撃沈され、形骸化しております」

「そうなると、扶桑とブリタニアの戦力が主力になりそうだな。ガリアはどうした?」

「ハッ。ガリアはネウロイに制圧されていた事に加え、新造艦がある程度奪取されており、稼動状態の艦艇は少数です。外征はとても無理とシャルル・ドゴール大統領から回答が」

「そうか……そうなると、この時代のスペインはあってないような海軍戦力にすぎんし、事実上は扶桑とブリタニアの艦艇で連合艦隊を組ませるしかないな」

「ロマーニャから回答が来ました。我軍はイタリアとローマを基幹とする小艦隊ではあるが、参陣させていただくとの事です」

「そうか。返礼の電報を打て」

「ハッ」

兵士の伝令に、ホッと胸をなで下ろすシナプスと副官。少なくともこれで戦艦の12隻以上の確保は確定したからだ。ガリア海軍の不参戦は思わぬ痛手だが、ブリタニア戦艦戦力の全てが使えるのは大きかった。しかも史実と異なって、新鋭艦の割合が増加していて、ライオン級戦艦が3隻も竣工済みである事だった。

「しかし、閣下。ブリタニアのライオン級戦艦は水中防御が無きに等しいですぞ。これでは敵の魚雷一発で転覆しかねません」

「それは奴さんに通達してある。改装でバルジを臨時で取り付け、水中弾対策を講じたために全長が伸びたらしい。多分、20mくらいは伸びてるだろう。ヴァンガードでないだけマシと思い給え」

「しかし、敵はモンタナ級ですぞ。大和型に対抗し得るあの艦に、ライオン級が戦えるか……」


副官の不安はもっともだ。だが、シナプスの言葉も確かだった。史実では衰退する大英帝国の最後の戦艦は、本来は戦時急造たるべし『ヴァンガード』であり、イマイチパッとしない性能であった。だが、この世界では大和型のおかげで『ライオン級戦艦』の建造が推進され、新式40cm砲を装備している。同艦級は、ワシントン軍縮条約の足枷でイマイチに終わったネルソン級戦艦の代艦として生まれ、ネルソン・ロドニーに代わる16インチ砲搭載艦となった。キングジョージX世級の難点を概ね改良した同艦級は『ブリタニア最良の戦艦』と評価されている。だが、ティターンズの台頭で水中防御がまるでXということが判明すると、新戦艦(後のセント・ジョージ級)への試金石も兼ねて、優先的にライオン級戦艦は近代化改修された。この時点では、本国艦隊旗艦の『ライオン』、『テメレーア』の近代化改修が完了しており、全長が255mほどに延長され、水中防御が充実されるなどの改装で、概ね敵が『アイオワ級』であれば互角に渡り合えると判定された。だが、敵には対大和型の本命たる『モンタナ級戦艦』が少なくとも3隻も控えており(二隻は亡命軍が持ち込めたため。しかしながら増加もあり得る)、ライオン級も大和型とモンタナ級の前には、色あせた存在でしかない。そこが副官を不安にさせる要因であった。しかしながら、ヴァンガードであったならば、実際の戦力差は更に開いているので、そこはいくぶんマシであると思うしか無かった。






――ハウが戦闘を開始した時刻、新・501統合戦闘航空団はマルセイユらを護衛に向かわせる一方、海兵隊による強行接舷を警戒し、武器を整えていた。

「各員、万が一だが、海兵隊による強行接舷による制圧行動もあり得る。白兵戦の武器も用意しておけ」

新たに501の指揮下に入った赤ズボン隊(本来は504所属だが、504そのものが取り込まれた事で参上した)も含め、各々が武器を用意する。ほぼ全員が人同士の殺し合いに抵抗があるのは確かで、リーネのように人同士の戦争に嫌悪感を示す者もいる。これについては仕方がない事であるので、智子も黒江も、圭子も咎めることはない。

「みんなに通達するが、この作戦には、フェイトも加わる事になった」

圭子のこの一言に、一同にざわめきが起こる。フェイトの力を知るのは、アフリカ戦線帰りの者たちや黒田、それと、フェイトの妹弟子に当たる(芳佳はブリタリアから帰った後に、智子たちに弟子入りしていたので)の芳佳だけであり、その他の者らが疑念を抱くのは当然だった。そこでフェイトは、デモンストレーションも兼ねて、襲来してきたネウロイを単騎で迎撃に出た。


――これまで501内で秘書に徹してきたフェイトだが、その秘めた総合戦闘力はこの場のウィッチ達の中で最も高い。特に、この時期にはバルディッシュの主使用モードを天羽々斬モードにし、飛天御剣流を用いるようになっていた事から、その西洋人に近い容姿からは想像もつかないほどに武士然とした振る舞いを見せていた。

「さて、行くか。バルディッシュ」

フェイトがフェイトである所以のデバイス『バルディッシュ・アサルト』。この時期には開発者のリニスが与えた『戦斧』としての姿はすっかり鳴りを潜め、代わりに『剣』としての姿を見せるほうが多くなった。大抵の世界でのフェイトはシグナムと戦うために、斬馬刀形態を追加したのを皮切りに、時代を経るに連れて大剣形態が追加されて行ったりしているが、未来世界と交わった場合の歴史においては『むやみに大剣にするよりも、絶対的な切れ味を』という考えを実現するべく、日本刀形態に至った。当初はサーベルフォームと名付けられていたのを、稲垣真美の発案で『天羽々斬』と呼ぶことになり、以後はそれが定着化した。今回も空中での使い勝手を重視し、天羽々斬モードにしていた。時空管理局での調整時に自動形成される鞘が新たに追加されたため、居合も可能となった。その真価を見せつけたのである。





――フェイトは総じてスピードを重視してきたが、天羽々斬モードを使っている時は、スピードを多少落とす代わりに防御力を上げているという選択を取った。これはある時、腕試しに元・新選組の斎藤一と一戦交え、彼の誇る牙突を防げず、負傷した経験からの反省である。バリアジャケットのカラーリングは彼女の好みの黒を基調に、白と青が入り混じるものになっている。


この時のフェイトの速度は超音速(計測ではm.3ほど)で、なのはよりも瞬間的速度が上回りながらも、高い旋回率と速度を持つ。それでいて、高い火力と天羽々斬による一撃必殺の斬撃に、空母の甲板で見ている坂本、竹井は思わず呆気にとられてしまう。

「あの子の戦い方、まるであの時の……」

「ああ……あの時の黒江に似ている。ISを使った時のな。ネウロイをスピードによる一撃離脱戦法で翻弄し、一撃を見舞う。あの時のストライカーではできない戦法だったからな……」

二人が思い出したのは、扶桑海事変の最終決戦の様子であった。黒江が被弾し、ストライカーが破壊された時、ISを展開して、逆襲したのだ。もちろん、公式記録には残されておらず、『扶桑海の閃光』でも省かれたエピソードだ。この事は当事者しか覚えておらず、超音速とビーム兵器満載なオーパーツ兵器を黒江が有していた理由は、武子の他には、上官の江藤と北郷、帰国が先送りになり、最終決戦にまで参戦したガランドしか知らされず、しかも三者が口を閉ざした事から、坂本らには知らされなかった。フェイトの戦い方は、その時の黒江を想起させる戦い方だったのだ。

『さて……號さん!技を借りますよ!!』

最後の一体の直上に陣取ると、魔法陣を展開し、両腕にプラズマエネルギーを収束させる。これはフェイトがネオゲッターロボの最大必殺技を再現する目的で編み出したもの。その名も「プラズマサンダー」。雷槌として、撃ち出す他、雷撃の槍として撃ち出すことも可能で、フェイトは後者で攻撃する。その前に、富士の甲板に出ている二人に注意をうながす。至近距離で雷撃の音を聞けば、鼓膜にダメージが行くからだ。

「二人共、耳を塞いで下さい!鼓膜、すっ飛びますよ!」

「す、すまん!すっかり忘れてた!醇子、お前も早くしろ!」

「わ、わかったわ!」

二人が慌てて耳栓をしたのを確認すると、フェイトは限界まで収束させたプラズマエネルギーを魔力で槍状に固定し、撃ち出す。さながらネオゲッターロボのように。その名も。

『プラズマァァァサンダァ―――!!』

すっかり、必殺技の叫びに羞恥心が無くなった故の勇ましい叫び。その姿に、またもデジャブを覚える二人。

(前に、あの時の黒江は『現在』の状態の人格と精神になっていたと言っていた。と、言うことは……偉いタイムパラドックスもんだぞ…!)

ここで、坂本は全てのからくりを見抜いた。フェイトからミッドチルダ式魔法などを教わった後に、黒江達の身になにかかしらの奇跡が起き、過去を書き換えたのだと。黒江は前に『扶桑海事変』の経緯を悔やんでいた事を彼女は覚えていた。それをその時に実行し、今の自分の知る形に書き換えたのだと。フェイトの技と似た、雷槌を操る技を使っていた記憶があった理由もここで悟った。

(長年の謎が解けたな。しかし、あの技……ペリーヌ形無しだな)

坂本は似た攻撃が使えるペリーヌを思い浮かべるが、それよりも強力な攻撃をフェイトが使えるという事実に、坂本は確実に血の涙を流して悔しがるであろうペリーヌに同情せずにはいられない。同時に、ミッドチルダ式魔法の強力さに羨望を感じる。

「綾香さんに言わせれば、あの子、時空管理局の中でも『俊英』と歌われるほどの才能の持ち主だそうよ。それでいて、私達のように、最大でも10年ほどの期限付きの力ではなく、一生涯保てる力……羨ましいわね」

「確かにな。宮藤の一族のように、一生涯、しかも子をなしてなお、魔力を保てる事例は我々の世界では稀有だ。……時々、あいつを羨しく思う事があるんだ」

「美緒、あなた……」

「普通に行けば、私達も来年か再来年には、一線を退く年齢だ。だが、私はストライクウィッチーズで居続けたい。例え、飛べなくなったとしても、な。北郷先生には言ってあるんだが、私は航空指揮管制官の道に行くつもりだ。普通に現役に居続けるのも未来科学ならば可能だが、教える立場や、裏方で支える立場になってみるのも悪くはない」

「北郷先生の影響かしら?」

「たぶんな。北郷先生が命をかけたように、私達も命を賭ける。私達にとって、今がその時だ」

「ええ。あの時、先生達や加藤さん達がやったように。今度は私達の番よ」

坂本と竹井は、互いに年齢を重ねた事を自覚する。フェイトの勇姿に、『かつて』の先輩達の姿を重ねつつ、今次作戦を恩師に胸を張って報告出来るような結果にしようと誓い合う。今は、お互いにいつしか、弟子を持つ立場に転じた二人にとって、久しぶりに親友として語らえる場なのかも知れなかった。








――スーパーバルカンベースでは、グレートマジンガーが投入前に、第二次近代化改修を受けていた。グレートマジンガーはZの強化発展型である都合上、設計が完成されており、『あまり弄れない』マシーンであった。早晩、改修の限界点に到達するのは目に見えて明らかだった。

「鉄山将軍、グレートマジンガーの改修は限界点に近づいています」

「ほう。どういうことですかな、兜博士」

バトルフィーバー隊の倉間鉄山将軍と兜剣造は、グレートマジンガーの改修作業を視察しながら、次のような会話をする。それはグレートマジンガーが『発展型機種』である故の限界を持つ事だった。

「グレートマジンガーは元々、マジンガーZの設計の問題点を解消した上位機種であり、最強のマジンガー、『ゴッド・マジンガー』のプロトタイプでもありました。それ故、細かい改修はできても、大規模な改造を許容する余裕がZよりも無いのです」

「まるで日本海軍の零戦ですな」

「そうです。私はグレートマジンガーがその限界点に達するのは時間の問題だと思っております。解決策はあるにはあるのですが、荒療治でして」

「ほう。どんな?」

「ゲッター線を浴びせ、意図的に自己進化させるのです。グレートマジンカイザーに」

「グレートマジンカイザー?」

「ええ。エネルガーZがカイザーになったように、グレートマジンガーもカイザー化できる可能性はあります」

――ここで、グレートマジンカイザーへ進化させる考えを初めて公にした兜剣造。同時にカイザーの元来の姿の出自も明らかになった。後にゴッドが具現化したことで、真っ当な近代化改修プランも提案されるが、その暇がないこともあり、グレートカイザーは生まれいでる。その力はゴッド・マジンガーに比肩するものであり、兜剣造の目測は正しかったのだ。

「おそらくは……今回の戦がグレートマジンガーが『グレートマジンガー』として戦う最後の機会でしょう。この戦いが終わったら、私はゴッドの開発プロジェクトに専念するので、グレートマジンガーはモスボール保存した後、しかるべき時にカイザー化させます」

兜剣造はこの時期、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが送ってきた『六神合体ゴッドマーズ』のレポートと、その世界の住人で、ゴッドマーズのパイロット『明神タケル』(マーズ)やクラッシャー隊の協力で、安定した反陽子炉の開発に成功、頓挫状態のゴッド計画を復活させ、西暦2202年までの完成を目指している。その意気込みが感じられた。同時に技術の発展で旧式となりつつある、グレートマジンガーへの哀愁も含んだ言葉だった。

「グレートマジンガーがカイザーとなったとして、いったい何と戦うのです」

「ミケーネ闇の帝王と、百鬼帝国・ブライ大帝です。特に、ブライ大帝はかつて、海底の国であったアトランティス連邦が残した最強の遺産を手に入れ、改修を行ったという情報があります」

「アトランティスの?」

「そうです。その名も聖獣・『ウザーラ』。アトランティスが鬼角弾を作り出す前、彼らからも見てオーパーツに相当する産物を手に入れ、そこから数百年の歳月を経て完成させた守護神だそうです。そのテクノロジーの出自はデンジ星とも、バード星ともされ、ある事情で地上に秘匿されていたままであったのを百鬼帝国が回収したのです。その力は地形を変え、大地を割るほどとされます」

――兜剣造が明らかにした、アトランティス連邦が残した最後の遺産、ウザーラ。百鬼帝国が得たその力を警戒しているのだ。その未知数の力が百鬼帝国に真ゲッターロボに対抗し得る打撃力を与えるのであろうか。それはまだわからない。









――この防衛作戦には数多くの兵器が動員された。紫電改、烈風、零戦五二型と二二型と言った扶桑軍レシプロ戦闘機、ブリタリア軍のシーフューリー、シーハリケーン、シーファイアなどの新鋭機のみならず、ファイアフライなどの旧型機種も参陣しており、零戦やファイアフライなどの旧型は主に軽空母に搭載され、艦隊直掩や偵察機『彩雲』の護衛に駆り出されていた。

――上級幹部らが会議中の富士 甲板上

「すっかり、レシプロ戦闘機も少なくなりましたわね……。時代の流れとは言え、坂本少佐の気持ちが分かりますわ。でも、どこもかしこもリベリオン機と言うのは、納得出来ませんわ」

ペリーヌは、艦隊の第一線級空母に積まれた機種はジェット機が主体で、レシプロ機は限られた機種が搭載されたに過ぎない事に哀愁を感じていた。彼女を更に憂いさせたのは、基地航空隊として参加したロマーニャとガリア空軍部隊へ配備された機種で、基地航空隊に配備された機種はリベリオン製の『P-51H』か、『P-47D』、あるいは『F4U』であったからだ。無論、ガリア空軍やロマーニャ空軍は不満を漏らしている。だが、ガリアやロマーニャ製の機体では、時速700キロを超える次元に達し、レシプロ機の究極進化を極めたリベリオン製レシプロ機には、太刀打ちできないという事実がある。それはペリーヌも認めざるを得なかった。

「P-51H、P-47……F4U……F8F……。どれも、ガリアやロマーニャの努力を全て水疱に帰させるほどの高性能機……。扶桑はジェット機に生産の主体を移したというけれど、レシプロ機では、もう対抗できないというの……?」

「そうだ」

「黒江中佐。会議の方はいいんですの?」

「ああ、だいたい終わったから、一抜けてきた。レシプロ機の限界には、もうリベリオンも、扶桑も気づいてる。速度面は時速800キロで頭打ちだし、たとえB-29でもジェットの前には無力だ。だが、ジェットの難点は航続距離だ。どう頑張っても、第二世代機までの機体は戦場に長く居座れない。レシプロ機は燃費がターボジェットに比べると遥かにいいし、それと遅いから掃射や爆撃には持ってこいだ。たぶん、あと7年ほどは使われるだろう」

「どうして、そう断言できますの?」

「私は技術試験部隊の経験があるからな。扶桑はもう、より次世代のF-4Eの技術習得に邁進してるが、より強大なターボジェットに相応しい機体強度を持たせるのに苦戦してるんだ。ジュラルミンじゃ燃えるし、チタン合金はこの時代の技術じゃ、クソみたいにコスト高いからな」

「そういえば、どうしてジェット機は数が少ないんですの?戦闘機は100機にも満たない数じゃ?」

「ジェット戦闘機はレシプロみたいに、おいそれと増産できないんだ。朝鮮戦争の時は米国でさえも、戦闘機生産を自国だけじゃ賄えなかった位だし、計器が複雑化してくると、値段もそれだけ張る。21世紀の頃には、大国でも、一機種あたり200機未満の数しか持てなかったりしてる。だから、短期間で80機近い数の戦闘機揃えられただけでも御の字だ」

――ペリーヌはここで、黒江はある種の達観を抱いている事に気づいた。ジェット機が遅かれ早かれ、制空戦闘や爆撃といった戦闘任務からレシプロ機を駆逐するという未来を。レシプロ機の進化の究極点をリベリオンが極めてしまった以上、レシプロ機ではどうあがいても追いつくのは無理である以上、ジェット機で対抗するしかないのだと。

「でも、寂しいんですの。国産戦闘機が消えていくなんて」

「大丈夫だ。お前の国には『ミラージュ』っていう、世界に冠たるデルタ翼戦闘機シリーズがある。それが作れるようになれば、お前の国の航空産業はまた栄えるさ」

「ミラージュ……?」

「ああ。お前の国が貫いた誇りの証さ」

国産戦闘機がいきなり旧型の烙印を押されて消えていく事を嘆くペリーヌに、黒江はフランスの歴史上に冠たるデルタ翼戦闘機シリーズの存在を教えた。戦後に米国製兵器が世界で一大市場を作り上げる中、フランスが自国の誇りを貫いた証を。その情報はガリア政府と軍に伝えられており、ミラージュVの機体製造準備が始まっている。それがペリーヌへの慰めとなった。


(自衛隊時代に国産戦闘機を諦めさせようとした歴史があるうちらこそ、見習うべきだけどな……フランスの気概は)

黒江は内心、他国のライセンス生産機に長年甘んじるを得なかった日本の軍事事情を嘆いた。日本の軍事的事情の悪さは、世代交代が進んだ21世紀になってから解消し始めたものの、それでも軍事に金を使うことを渋る風潮が再軍備をする直前まで残っていた。国産戦闘機こそが戦後自衛隊の夢だったが、戦後の日本はライセンス生産機を主体にせざるを得なかった。それが本格的に覆り始めたのは、米国が衰退の様相を見始め、次期主力戦闘機の選定がグダグダに終わった2010年代頃だ。その時の戦闘機の配備が遅延しまくったのに嫌気が差した軍需産業と、航空自衛隊が国産機のプロジェクトを立ち上げたあたりからで、そこから更に長い年月を経て、23世紀のコスモタイガーの普及に繋がる。国産機と言うのは英国や日本でさえも、戦後は半ば諦められた(日本は中興後に完全国産化に成功したが)分野であるため、歴史にその名を刻んだミラージュを羨ましく思っていたりする。

(だが、戦後日本には自国産戦闘機が21世紀まで出ないというのが、敗戦国の哀しさなんだよなぁ。メーカーの連中が聞いたら泣いてたしなあ)

ペリーヌを安心させつつも、自分は別の理由で嘆く黒江であった。これも戦後世界の兵器市場を米国製兵器が多くのシェアを握っていたというたいていの世界での兵器の歴史の証明でもあった。上空を飛ぶF8Uと、それと入れ違いで着艦する零戦二二型を見て、ジェット機とレシプロ機の入れ替わりの過渡期という、時代の流れを実感するのであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.