外伝1/行間「休日」


――扶桑皇国は概ね、大日本帝国より遥かに資源に恵まれた環境にあるものの、『お国のために』という個よりも集団を重んじる風潮は共通していた。それについて、ある時、黒江綾香たちが野比家に遊びに来た時、戦中を描いたドラマを見ていて苦言を呈した。

「う〜む。私達の時代を理解してないんじゃないか?このドラマ」

「しょうがないですよ。TVのこの時期にやる戦争系ドラマは反戦って相場が決まってるんですから」

「つーか、私達の時代は個人がどうあれ、軍人は国に奉職するのが美徳とされてるんだ。それに奥さんが文句言うか?それに陸軍軍人が全て、あんなひとでなしなわきゃねーだろが」

……と、大いに不満をぶーたれる黒江。TVドラマなどに登場する帝国陸軍軍人は『残虐で、国民のことなど、これっぽっちも考えないひとでなし野郎』と描かれる事が多い。空軍へ移籍したとは言え、元は陸軍出身である身としては、鼻持ちならない気持ちがあるようだ。

「国に奉職するって表現自体が戦後はタブーですからね。今は個人主義の世の中で、集団よりも個を大事にするようになりだしてますから。そのくせ、村八分とか残ってるし」

「マジかよ。23世紀でも思ってたけど、変な文化残っちゃってるんだからなぁ」

「スポーツで精神論が罷り通ってるように、日本人は先祖がやったのを次の世代も守るべしって文化がありますから、この時代には問題になってるんですよ。スポーツで問題視されたのは、今から7年後の箱根駅伝が後世で有名ですよ。某大学の選手が脱水と低体温症で死にかけて棄権したんですが、当時はスポーツ飲料が普及してたのに、与えられたのは水だけ。それで最後には立ち上がれなくなったんですよ。その年は結局、そこ含めた三校が棄権したんです。次の年からスポーツ飲料がOkになったんです」

「うわぁ……本当、変なところ変わんねーな」

「陸軍が槍玉に上がってますけど、実際は海軍も同じだったんでしょ?」

「そうだ。ウチラは扶桑海事変の時に痛い目見たのと、私らが改変したから鳴りを潜めたが、精神注入棒なんて酷いもんだぞ、死人出るんだぞあれ。今は消えたけど、見てて気分悪くなるぞ」

黒江は精神論の根拠となっている、旧日本軍で横行した制裁を快く思っていないと、ドラえもんにハッキリという。黒江も軍人である都合上、部下を叱る意味で殴った事はあるが、日本軍のように私的に行いはしなかった。改変前の扶桑海事変時に、海軍精神注入棒で殴られた水兵が打ち所が悪く、死亡してしまった場面を目撃し、嘔吐しそうになったからだとも説明する。その体験から、改変時にはいじめの根絶を長老や元老に説いて回ったりしていたりする。

「その風習が、復員後にスポーツ関係や教職になった連中によって伝えられて、根付いちまったんだなぁ。私達としちゃバツが悪いぜ」

「ですねぇ。軍が昔にやってたからとか言って、正当化する風潮もあったそうですから……」

「本当、そっちの軍隊は狂気の沙汰だったんだな……」

「戦争末期には動物園の動物さえ殺処分しましたからね」

「マジかよ」

「ええ。前にのび太君の大叔父さんから聞いた話なんですけど……」

ドラえもんは語りだす。太平洋戦争末期に動物園で起こった悲劇をと、大叔父が壮年の頃に遭遇した不思議な体験を。それはのび太の祖父『野比のびる』の弟が国民学校初等科の高学年であった1945年のこと。当時の東京の上野動物園にいた『ハナ夫』という象が軍の指令で殺処分にされたという話を聞き、憤慨した自分たちがタイムマシンで救い、表向きは『殺処分された』(動物園の公式記録)ハナ夫はインドで余生を送り、数十年後にインドで行き倒れた大叔父の前に姿を表し、大叔父は幻か何かと思っていたが、ハナ夫は自分の命を救ったと。話を聞いている黒江は、こういう話は意外とジーンと来るらしく、涙を浮かべて感動している。

「いい話じゃね〜かぁ〜!クソ、ハンカチ貸してくれ……。しかし、その将校はひとでなしじゃね?私がいたらたたっ斬ってやるところだぜ」

「戦争末期は本土決戦を信じてたし、軍国主義の風潮に疑問も抱かない将校なんて、ごまんといましたから……。しょうがないことですよ」

黒江は動物園の動物を殺処分するのは、戦時中の国の判断としては納得できない理屈ではないが、一人の人間としては、大いに憤らずには居られないとばかりに、鼻息を荒くする。ドラえもんは更に話を続ける。大叔父は学童疎開後もハナ夫に会いたい一心で教師のシゴキにも耐え、終戦後、いの一番に動物園へ向かったほどだったと。だが、飼育係が告げた一言で泣き崩れ、数日間を泣き明かした。だが、それから数十年後、インドで遭難し、死にかけた時にハナ夫と瓜二つの象が現れ、それで安心して気絶し、次に目が覚めたら村に居たと語り、大叔父は夢でも幻でもいい、ハナ夫にまた会えた事を、亡き兄への冥土の土産にすると、甥ののび助と大甥ののび太に語ったと。


「へぇ……要するに、お前らが微妙に歴史を変えてハッピーエンドにしたわけか」

「そういう事です。どうしても我慢できなかったんですよ。戦時中には他にも、悲劇的な話がごまんとありますから……」

ドラえもんとのび太は、この話を聞いてからは、『出来るだけ悲劇を救う』というスタンスを取るようになったらしく、そのおかげで救われた命が多い。第二次大戦で起こった数々の悲劇にちょびっと介入し、死傷者を減らしたり、軍国主義に染まらないで、純粋に国民の命を守ろうとした軍人達の姿を目に焼き付けている。対馬丸事件などの際の海軍の動きも見ており、当時の衰勢しきった日本海軍が取れる動きは限られていた事なども知っている。なので、尚更、ちょびっとでも介入したくなるのだろう。

「戦争の悲劇、か…。戦争に嫌悪感を持つのが分かるくらいの凄惨さだからな。一番悲惨な戦争じゃないのか、あれ」

「ええ。有史史上最も凄惨な戦争の一つですよ。だけど、戦争はあれっきりじゃなかったのがミソだからなぁ。朝鮮戦争、中東戦争……」

「この時代、軍歴は否定的に見られるけど、本来なら福利厚生とか優遇されても、いいくらいなんだぜ?なんで冷遇するんだが」

「軍人達は戦後は穀潰しみたいに扱われて、治安維持で都合が悪くなると、自衛隊を作って呼び戻した戦後の政府が悪いんですよ。その反動が戦後しばらくありましたから」

「本当、この時代の日本は平和主義を履き違えてるからな。そのくせに自分らが被害にあうと、文句を言い出すからなぁ」

「平和が長く続く国ってのは、こういうものですよ。危ない目に遭うはずがないっていう、固定観念が蔓延してるんですよ」

――危機意識というのは、地球連邦政府もそうだが、平和から一気に危機に直面することで初めて覚醒する。固定観念が一瞬で崩壊して、税金の無駄と揶揄されてきた国防組織が一転して脚光を浴びる。黒江は扶桑皇国や地球連邦政府のそれの変化を見てきたため、ドラえもんのこの一言に納得する。そう。ある種の『固定観念』がいつの間にか蔓延するために、人々は巻き起こる危機への無力を露呈する。戦争のみならず数百年から千年に一度の大災害でも同じ事が言える。

「固定観念か……前は、私らも人同士で血みどろの争いをしてる世界があるなんて思いもしなかったし、今は殺し合いを嫌がって、軍を辞める奴らも多いが、固定観念を持ってたからって、考えればいいのか?」

「そうです。固定観念がうち砕かれると、みんな、政府に後から文句をいうようになるんです。2011年の大地震、その数年後の第三次世界大戦……」

平和のありがたみは、それが失われて初めて自覚するものである。それは災害、戦争を問わず起こりえる。それを守るために、あらゆる手段を講じるのは至極当然の事である。黒江はドラえもんの言葉に頷くが、その直後にものすごい泣き声が聞こえてきた。のび太である。その大きさはドラえもん達が耳をふさぐほどのものであった。

「またジャイアンにやられたの?」

「だってぇ〜ジャイアンが鼻でピーナッツ食えって言うんだもん」

「お前らのセンスは本当、ずば抜けてるよなあ」

「笑わないでくださいよ、中佐〜」

「すまんすまん。で、今日はどういう風にやられたんだ?」

「ジャイアンが久しぶりに絵を書いて、それで……」

「で、無理矢理、絵のモデルにされたんだろ?」

「はい。それで動いたら鼻でピーナッツ食えって……」

「お前らのボキャブラリーと言おうか、語彙といおうか……、変に充実してんな」

黒江はジャイアンとのび太の会話が妙にジョークとウイットに富んでいるのに、改めて関心する。『鼻でピーナッツ』や『ヘソで南京豆』などの物言いは中々、考え付かないからだ。

「ドラえもん〜!ダッピ灯出してよ〜!」

「ちょっと待って……あれっきりだからなぁ」

――ダッピ灯とは、ドラえもんのひみつ道具の一つである。これを浴びた人間は甲殻類のように、新しい皮膚組織が構築され、脱皮してしまう。のび太は前に一度使用し、ジャイアンの魔手から逃れており、今回も使うつもりであった。

「あった。んじゃ、行くよ」

懐中電灯のような外見のそれの光を浴びた、のび太の肉体は瞬時に現在の皮膚組織の下に、新たな皮膚を構築し、まるで甲殻類のような脱皮を促す。のび太は服を脱ぎ、その要領で皮膚も脱いでいく。ご丁寧に体毛も含めて構成された皮膚が服のように脱げ、彼の肌はプルプルの新鮮さを放つ。これに魅力を感じたのか、黒江もダッピ灯を浴び、肌を全とっかえする。

「ふおおおおお〜!すげえ。肌がプルンプルンだぜ!で、この皮膚、どすんだ?」

「ダミー人形として使うんですよ。姿は同じなんだし、ごまかしとか色々……」

「んじゃ、ぼくはジャイアンのとこに行ってきます」

「うまくやれよ〜」

のび太とドラえもんのフランクな会話に笑いつつ、どこでもドアを出してもらい、新宿に行く。圭子がカメラの修理をねだっていたからだ。問題はラ○カUが戦前のモデルである点だ。幸いにも構成部品点数などは、この世界と変わりないので修理は可能だが、古くて大手店での修理は難しい。メーカーの日本での店舗を訪ねるか、個人で戦前期から営むカメラ店に行くか方法がない。特にライカは戦前期の経営母体とは、1988年にその手を離れているため、21世紀のこの時代に戦前期のモデルを直せるか不安だった。なので、まずはこの時代の一眼レフカメラを買い、圭子に代打品を送る事にした。


――某・大手家電量販店

「ライカカメラ好きのご友人には、ライカR8をお薦め致します」

「最新モデルっすか?」

「正確には96年発売のモデルですが、値段相応の性能を保証致しますよ」

「本格的なカメラ、結構値段張るんすね」

「デジカメや写○ンですなら、廉価なものがたんまりありますが、話を聞くに、ご友人は相当なラ○カ愛好家のようなので。写真家が使うような本格的なモデルは6桁行きますよ。望遠レンズとか三脚も入れると、相当なお値段になりますね」

「へえ〜」(私も人のこと言えないけど、ガシのやつ、相当につぎ込んでるんだなあ。フジも)

飛行第一戦隊及び、六四戦隊の盟友である加東圭子と加藤武子の両名はカメラ好きである。黒江は自身が釣り用具に給料をつぎ込んでいる都合上、二人の気持ちがここで理解できた。最近は後輩達の面倒も見ているため、休暇中には何かとおねだりされるが、まさか盟友にまで頼まれるとは思ってもみなかったからだ。

「お会計は103000円になりますが、ポイントカードをお作りになりますか?」

「お願いします」

ちゃっかりポイントカードも作って、圭子に送る代品のカメラを渡された金で購入する。次に、カメラの専門店を探しに、新宿の繁華街に打って出る。



――この時、黒江は新・501の事実上の先任中隊長としての任についていた。旧・502、504、果ては506の一部人員をも指揮下に置き、中佐へ昇進していた。彼女の大らかさが、501と他部隊出身者の接着剤になっている所が多分にあり、『敗北した』504出身者の擁護を行っているのも、504出身者の信頼を勝ち得た要因である。竹井醇子は現場責任者として、504からの更迭も検討されたが、アカレンジャー=海城剛とビッグワン=番場壮吉が黒江の手引きで連合軍司令部に乗り込んで、アイゼンハワー司令官を『説得』した事で撤回された。その事をアイゼンハワーから知らされた竹井は、黒江らに若き日からの恩義を感じていた事もあり、改めて謝意と感謝の念を伝えたという。竹井は、出かける前の黒江に『何故、自分たちを擁護してくれたのか』という旨の問いをし、黒江はこう返したという。


――『私は、505に一時的に属した際の教え子が死ぬのを見ているだけしかできずに、逃がされた。その時の悔しさや罪悪感、無力感を、お前らには味わってほしくないんだ』――

……と。現在の自分は、505の教え子達に逃がされ、自分は何も出来なかった事への絶望や怒り、罪悪感を散々に味わった結果だと、竹井に示す。一見して、明るいように思える黒江の心にも、教え子を失った悲しみ、無力な自分への怒りが複雑に絡み合っており、その辺は武子とも共通しているが、黒江は怒りの度合いが強かったため、真面目だった性格を徐々に熱血系の度合いが濃くなるように変化させたのである。(多分に兜甲児と流竜馬の影響があるが)








――501基地では、実機テストとして、プロトタイプゲッターG(ゲッターロボはほぼ例外なく、合体機構テスト機が試作される。ゲッターGは実機が即、実戦投入されたが、合体機構テスト機そのものは造られていた)が搬入され、実機での合体テストが行われていた。

「音声入力だと!?全く、面倒だな……」

「しょうがないですよ、大将。そういうシステムなんですから」

「そうはいってもだな……ええい、くそ!」

「まぁまぁ、そういう時は羞耻心はどっかにポイっと……」

「そういう問題ではないんだが……ええい、ままよっ!」

この日はドミニカ・S・ジェンタイル、ジェーン・T・ゴッドフリー、黒田那佳が乗り込んでのテストであった。組み合わせは同上で、ドラゴンがドミニカ、ライガーがジェーン、ポセイドンが黒田である。ドミニカは慣れない計器類に苦戦しつつ、ゲットマシンの合体レバーを入れる。音声入力なため、叫ばないといけないのが恥ずかしいらしいが、そうしないと合体不能なため、仕方なく叫ぶ。

『チェェェンジ!ドラゴン!!スイッチオン!』

ライガー号とドラゴン号が合体し、更にポセイドン号が下半身となり、合体を完了する。テスト機であることを示す灰色のカラーリングだが、ゲッタードラゴンへと。これに、ミーナは思わず苦笑いを浮かべる。

「……ねえ、フラウ。あれってワンオフなのよね?」

「スーパーロボットだから、余計に運用費は高いよ……あ、ああ〜……だめだこりゃ。完全にフリーズしてる」

ミーナは運用経費のことで余計に頭が痛いらしく、完全にフリーズする。だが、スーパーロボットを自前で持てるという意味は大きい。それを理解しているシャーリーとハルトマンはそっちのけでゲッターGのテストデータを整備班に集計させる。それを圭子が纏め、書類に記す。事実上、シャーリーとハルトマンが参謀格になっており、ハルトマンは新たにやってきたマルセイユとバルクホルンの緩衝材(バルクホルンはマルセイユを部下に持った経験
があり、信用していないため)も務めるようになって、圭子とシャーリーに愚痴るようになっていた。

「ご苦労さん」

「本当、大変だよ〜トゥルーデはハンナのこと、全然信用してないし、ハンナはハンナで、トゥルーデに喧嘩売るし……」

「あの子、あれで精一杯、虚勢を張ってるのよ」

「どういうことっすか?」

「アフリカ戦線が堕ちたでしょ?あの子、自分がいながら守れなかったって凄く落ち込んでね。船にいる間、酒浸りになるとかして、自暴自棄になってたのよ」

「へぇ〜あいつがねぇ」

これにはシャーリーも驚く。マルセイユが自暴自棄になり、酒浸りになるなど。アフリカ戦線を守れなかったことが、マルセイユの心の支えを打ち砕いたのは想像に難くない。所属部隊で疎まれてきた(しかし、バルクホルンの後に上官となったエディタ・ノイマンのことは尊敬しており、彼女の悪口を聞くと、激昂して殴りかかるという、意外な一面がある)マルセイユに取って、アフリカ戦線は初めて得た『理想の地』であった。それを守れなかった悔恨だけが、マルセイユを自暴自棄にしたのかは分からない。ただ、これがきっかかで完全にニュータイプ能力が開花したのは確かである。

「だから、あの子、本格的に戸隠流忍術やら飛天御剣流やらに手を出しちゃってね。『今度こそは守るんだ!』って、本郷さん達に弟子入り志願したのよ」

「なるほど」


「ハンナは、飛天御剣流をどの辺りまで習得できたの?」

「確か、龍槌閃と龍翔閃を覚えたとかなんとか」

「あたしよりは一歩遅れてるかな?」

「というと?」

「実はもう、双龍閃と飛龍閃まで覚えてるんだ」

「へえ〜意外ね」

「最近は妹のウルスラのところにまで、敵が空挺降下してくるからね。護身術代わりに覚えたのさ。かと言って、ナイフはリーチ短いから、日本刀にしたのさ」

――未来世界に行くと、扶桑皇国ではなく、日本国(過去は大日本帝国)であるため、日本号や日本刀などの方で覚えたのが窺える。本来は医者志望のハルトマンだが、図らずも士官学校卒の職業軍人になり、人殺しの技術を磨くという、夢と相反する現実も受け入れているようだ。

「実はというと、本当は医者志望なんだ、あたし」

「家業を継ぐの?」

「うん。軍人になるのは、父様からは反対されたんだ。医者と軍人は相容れない商売だからね」

「それ、21世紀の汚職医者に聞かせてやりたい台詞だなぁ」

ハルトマンは、招来は家業を継ぐつもりであるのが分かる。だが、結果的にその機会は1980年代後半以後まで来ず、退役まで勤め上げる事になる。だが、現役期間中も準備は怠らず、芳佳と共に地球連邦大学の医学部を受験し、共に合格。医学知識を身につけていたりする。

「中佐、データ集計しました。この組み合わせだと、合体タイムは以下の通りです」

「ふむ……。2号機の合体開始タイムが若干、遅いな。トレーニングタイムを増やすか」

圭子は整備兵から渡された書類に目を通し、スケジュール表に書き入れる。圭子は501への着任に伴い、中佐となり、501の事務業務を一部引き受けていた。最近はミーナが中間管理職の悲哀で、疲労が増していた為だ。

「問題はゲッター線の意志に飲まれないで、自我を保てるか、だな」

――ゲッターロボはパワーが高まるに連れ、操縦に強靭な意志をも必要とする。圭子もゲッター線を浴びる内に、内に秘めていた闘争心を引き出され、少なからず性格が変わった自覚がある故、そこの点を心配した。ゲッター線をねじ伏せる強靭な精神力が若いウィッチにあるのだろうか。

「加東中佐はいますか?」

「どうしたの、リーネ」

「はい。反攻作戦が決定されました」

「作戦名は?」

「アテナです」

「守護神の名前から取ったのか。マルスやアレスじゃ、両方共、戦いの神だけどな。まあ防衛戦だけど、その2つじゃ、イメージ的に悪そうだしな、アイクも考えたな」

――『オペレーションアテナ』。連合軍が地球連邦軍、時空管理局、歴代ヒーロー達と連合し、ロマーニャを防衛し、ヴェネツィアを奪還する作戦だが、海軍戦力に不都合が生じ、ガリア海軍は不参加(ガリア国土そのものの復興が最優先事項である故)、ロマーニャ海軍も戦艦ローマ、イタリア含めて僅か数えられる程度しか出動不能ということだった。急遽、ブリタニア海軍は地中海艦隊や本国艦隊の稼働主力をほぼ全て出動させ、扶桑も三笠型戦艦『富士』を旗艦とする30隻の艦隊を派遣し、数の不利を補った。これに対し、ティターンズもリベリオン海軍から接収した艦艇と人員を動員。ここに、この世界での『ユトランド沖海戦』、『日本海海戦』に相当する大海戦が生起しようとしていた。だが、ティターンズ側は新たにコピー生産に成功した戦闘機を配備し、航空戦力を増やす一方、軍を脱走したり、決着を付けたい人物と戦うためにティターンズ側に与したウィッチらを参加させていた。その筆頭がティターンズの動員したミッドウェイ級にいた。年の頃、19歳ほど。日本刀を持ち、セミロングの髪型をした扶桑陸軍所属であった美女こそ、佐々木勇子中尉。かつて、智子が第一次現役時代に、引退寸前であった最晩年、実戦部隊最後のキャリアであった飛行50戦隊の元同僚である、若きエース。腕の佐々木と謳われ、次世代を担うエースと嘱望され、19歳で交戦中行方不明とされた。だが、それはトリックであり、彼女は死んだ事になったのを隠れ蓑に、ティターンズに加わっていたのだ。


「穴拭……俺は貴様と戦うために、皇国に背を向けた。来るなら、この俺を倒してみせろ」

智子と戦うために、自身は死んだ事にして、ティターンズの片棒を担ぐというウルトラCを行った佐々木。それは家族には『皇国軍人』として名誉の戦死を遂げたという事で、類が及ばないようにする(一族には金鵄勲章などによる年金が支給される。これは未来世界においては戦後に廃止されたものの、21世紀に入り、再軍備が行われた際に併せて勲章関連憲法が改正され、完全復活。軍人に関する栄典と勲章はその時を持って、完全に名誉回復がされた。これは自衛隊時代の最初期に、旧帝国陸海軍OB出身の者や、外国軍隊との見栄えの都合で、旧帝国陸海軍の勲章や記章を自衛隊の制服に貼っつけ、現場が運用していたという歴史的事実、正式な再軍備の際に栄典の釣り合いで不都合が生じたためである)ようにした。そして、これは彼女個人としての戦いなのだ。戦友との……。オペレーションアテナ発動まで5日前のことだった。



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