外伝その58


――艦隊戦は防空戦をくぐり抜け、反転攻勢に移ろうとしていた。智子から敵性ウィッチの存在を知らされ、動揺するウィッチ達。そんな中、ミーナはハルトマンや黒江から可変戦闘機の使用を進言されていた。

――富士 飛行甲板上

「ミーナ、なんで可変戦闘機使っちゃダメなのさ?あれなら『バーと行って、ドギューン!!』ってやっつけられるのに」

「ジェット機は弾薬はともかく、燃料が『大食い』なのよ?こんなところで備蓄燃料を無闇に消費する訳にはいかないわ」

「……ほえ?ミーナ……まさか知らないの?可変戦闘機は空気が燃料になるから、宇宙に行く事でもない限り、プロペラント積む必要ないんだけど」

「……え?」

「そうですよ。VFは宇宙に行けるから、そのためにスーパーパックとかアーマードつけるんであって、大気圏で使う分には問題ないんですけど?弾薬にしても、奴さんがたんまり使っていいと言ってきてますから、部隊の備蓄弾薬には影響ありません」

「……分かったわ。それならば問題はありません。使用を許可します。でも、機体はどこに?」

「先方の空母に積ませてあります。ヘリで移乗しますから、VFの搭乗訓練を積ませている連中を集合させてください。私が部隊の指揮を取ります」

――黒江は持ち前の手際の良さを見せつける。ハルトマンと協力して、手筈を整えておいたのだ。VFを折角持っているのに、使わないのは宝の持ち腐れだからだ。ミーナはVFが23世紀の兵器である事を思い出し、自らの無知を恥じ、赤面すると同時に、黒江が自分よりも先手を打っていた事に思わず溜息を漏らし、『さすが、扶桑海三羽烏筆頭……抜目のない人ね』と一言、ハルトマンに漏らした。




――VF搭乗可能な者は出撃中の者達と、指揮要員、黒江を除くと、新生501中では7人ほどだった。菅野、ニパ、シャーリー、ハルトマン、黒田、ジェーン、ドミニカであった。圭子は指揮管制の都合で待機になり、フェイトとティアナは『魔導師』枠に入るので、艦隊直掩のために残した。

――ヘリ機内

「いいか、VFでの初めての実戦だ。緊張すると思うが、訓練の通りにやればいい」

「まさか私達が戦闘機に乗って戦うとは。世の中は分からんものだ。しかも、あんなごちゃごちゃした装甲服を着込むとは……」

「ええ。しかもロボット形態だと、マスタースレーブ式で体の動きを反映させられるなんて、今でもとても信じられません」

「今のVFはあんな感じだ。慣れれば、飛行機形態の操作さえどうにかすりゃ、自家用車と同じさ。それと、戦闘中はモーションセレクターをオートにしておけば、射撃や格闘も細かい操作無しで出来るぞ。空戦中は下手にマスタースレーブモード使わん方が良い。これはフロンティア船団で教えられた事だけどな。」


黒江はVFの操作の簡便さの進行ぶりをそう例えた。今の最新機種では、ヘッドマウントディスプレイのように、目の視線を移すだけで、敵機のロックオンが可能になっており、技術的進歩が進んでいる。黒江はフロンティア船団滞在中に得た戦闘のイロハを後輩達に仕込む。VFはある一定のモーションをオートメーションで選択可能であり、ベテランパイロットにもなると、それとマニュアル動作を組み合わせた格闘術や空戦を組み立てるのが通例で、兵たちの間で『ベテランの証』ともされている。イサム・ダイソンは格闘モーションを自前で組んだりして、通常より多めにし、若手が多いフロンティア船団のS.M.Sに、一泡吹かせていたし、ガムリン木崎は自前の空戦機動と、変則的な射撃と格闘を混ぜていた。戦闘中はとっさの判断が求められる分、マスタースレーブモードは切られる場合が多いのだ。

「お前ら、モーションデータは入れてあるか?」

「私はボクシングをしていたから、その方面のモーションを多めに入れてある。しかし、驚いたな。既存のライブラリーの中にスウェーまで入ってるなんて」

「多くの戦争でモーションがどんどん多くなったから、基礎モーションだけで、中国のカンフーまでカバーできる幅広さになったんだと。私は剣道ベースに、色々カスタマイズしてるな。大尉はダブルクロスカウンターあたり入れただろ?」

「ああ。格闘に持ち込まれた時にカウンターするのに便利だからな。トリプルまであるとは思わんだ」

「日本の昔の漫画がヒントだそうだ。コーススクリューパンチとかもあるし、無駄に充実してるよ」

ドミニカは私生活でボクシングを嗜んでいる。そのため、VFの格闘モーションはボクシングのそれにしていると話す。その方面のモーションが何故か、基礎モーションの段階で多彩であり、経験者も唸るバリエーションの多さなのが分かる。

「オレは基本、喧嘩殺法だからなぁ。てけとーだよ」

「菅野……お前なぁ。一応、兵学校出てるはずだろ?喧嘩は素人なのは分かるが……もっと考えろよな」

呆れる黒江。後で菅野の機体に入れられたモーションを確認したところ、20世紀後半以後のの不良高校生同士の喧嘩で使われるようなモーションが多かったので、菅野の言葉に納得したという。

「中佐、間もなく空母です」

「了解した。空母に降りたら、全員、パイロットスーツに着替え、ブリーフィングルームに集合しろ。作戦を通達する」

「了解」

ヘリのパイロットから報告を受け、全員に今後の行動を伝える。ヘリが連邦軍の戦闘空母『飛龍』に着艦したのは、それから間もなくだった。




――この時、ロマーニャ艦隊は釣り上げの任務は果たしていたが、不幸にもローマに40cm砲の一打がクリーンヒット。同艦が火災を起こしていた。ミサイルによる追撃も行われた結果、既にソルダティ級駆逐艦のボンバルディエーレ、レジオナリオがハープーンミサイルの直撃弾で轟沈、本国から増援されたトレント級重巡洋艦のトレントが落伍するという損害を被った。特にこれで稼動状態の駆逐艦が本国にいる3隻のみという、惨憺たる有様を晒したロマーニャ海軍は、これでリットリオ以外のすべての艦艇が損傷した事になり、本隊の到着と同時に戦線からの離脱を余儀なくされた。本隊はキングジョージ級、ライオン級を数的主力に、大和型二隻、三笠型を中核に添える戦艦部隊で、ブリタニア艦も40cm砲に格上げされたので、戦艦の質は概ね互角。数は上回るというのが連合艦隊の強みだった。だが、ミサイル装備はブリタニア戦艦には脅威となる。何せ、CIWSなどの近代装備は扶桑軍の大和型や三笠型などと、一部空母と護衛艦のみの装備で、ミサイルに通用する電子戦装備も同様だからだ。

「全艦、電子戦装備のある艦は妨害を厳に!ミサイルが当たれば、旧型空母程度は吹き飛ぶぞ!」

そう。ハープーンミサイルの破壊力は旧式の1930年代以前の建艦である空母であれば当たりどころが悪ければ『轟沈』する。そのため、各国は空母を出し渋ったものの、扶桑はミッド動乱で早期に戦後型装甲空母への転換が進められたため、参加数が多かった。だが、烈風を多数機発艦可能な大型正規空母は数が少なく、ジェット機輸送艦として、退役間近の天城型『天城』をウィッチ母艦兼航空輸送艦として引っぱり出し、最後の御奉公の予定で運用していた。これは天城型の航空甲板の長さが発艦に必要な滑走距離の伸びた新型ストライカーの運用にピッタリであった事、カタパルトを試験的に積まれていた事で、扶桑軍系機でも最重量級の流星改でも発艦が可能である利点が再注目され、再度、第一線任務に就いていた。これは雲龍型が複数戦没した事や、ジェット機運用に必要な条件が30000トン以上の排水量と250m超えの飛行甲板を持ち、カタパルト装備、アングルドデッキ装備、もしくはスキージャンプへの改装と、次代の正規空母に厳しい条件がついたために、扶桑も半年という時間では、新鋭の『翔鶴型』と『大鳳』を改造するのが限界だった。








――対するブリタニアは幸いにも、扶桑よりも建艦中の空母が多かったため、船は確保できたが、飛行機がないという真逆の状況となった。メーカーが必死になって生産した『シービクセン』は100機に満たず、それをすべて投入した海軍だが、それは試作機の範疇に入る第一次生産分であったため、政治家らからは費用対効果を懐疑的に見られていた。燃費がレシプロ機に比して悪いことなどが財務官僚に問題視されたからだが、カールスラントがジェット機を量産しだしたという報が伝わってきた事、ミッド動乱で航空戦の主役がジェット機に移行したなどの戦訓は無視できず、海軍の要請を認める形で、第一次生産分の過半数を戦線配備したが、既に扶桑がミッド動乱でF8Uへ機種転換しつつあるため、一歩遅れていた。しかも敵も主力がジェット機になっていたため、機種転換から日が浅いブリタニア海軍航空隊は主にレシプロ機の掃討と攻撃機対処に任務が割り振られた。シービクセンはその分野では期待通りの活躍を見せ、レシプロ相手では4対1のキルレシオをキープしていた。



――ブリタニア空母艦隊 旗艦「ヴィクトリアス」

「まさか我が空母艦隊が陳腐化するとはな……ジェットとやらはよほどのものなのだな」

「ええ。しかも、建艦中の空母はよってかかって、50000トンに改良されましたからな。参りました。国の財政は相当に危ないようです。財務官僚が悲鳴あげているとか?」

「我々はヴィクトリア朝時代に国の盛りを謳歌したが、それはとっくに終わっている。恐らくは今後10年以内に、経済との関係で軍縮は免れんだろう。敵の脅威がある以上は労働党も容易に手出しはできんだろうがな」

「シービクセン隊、着艦します」

「キルレシオはレシプロで4対1か。まあ、こんなものか。ジェット機相手だと2対1だそうだな。」

「所詮は遷音速機ですから。超音速機は我が国の衰退でできないそうなので」

「何たることだ」

彼らの言う通り、ブリタニアは財政危機にあった。軍事技術の飛躍的進歩は軍備費の増大を産み、更に空母の設計を根本的に見直す必要が生じ、史実では国の衰退で建造されなかった『CVA-01級航空母艦』を国の威信にかけても調達するとチャーチル自ら宣言。これはチャーチル自身の『大英帝国は七つの海の覇者であるべし』という信念によるもので、『国としての盛りは過ぎたから、国の衰退を受け入れろ』と議会で宣う労働党をチャーチルは愛国心から一蹴、国の威信を保つために軍拡を推し進め、後にシービクセン後継に、史実ではあり得なかった『シーライトニング』が、更にその後継に『トーネードADV』が採用される。前者は太平洋戦争中盤に登場し、その高性能を以って『ブリタニア軍、未だ健在なり』を示した。その結果、海軍の威信は保たれ、保守党が長期政権を担ったが、経済は長年の軍事費の負担に耐えかね、後の太平洋戦争終戦と同時に破綻寸前に陥り、結果、ブリタニアはチャーチルが望んだ形で、穏やかな形の衰退を受け入れていくのであった。




――この時のジェット機の稼働率は扱いに慣れた扶桑で90%、装備間もないブリタニアは後から到着した増援合わせて、合計70機が参加したものの、初期不良等で稼働率は60%程度であった。戦闘でジェット戦闘機を7機失い、ジェット攻撃機を5機落とされたため、結果的に損害率はガリア空軍・ロマーニャ空軍に次いで大きかった。

――富士 CIC

「ブリタニア航空部隊、着艦。損害率は10%」

「F-8部隊は直ちに発艦、制空にあたれ」

「敵艦隊は北西に転進、我が単体の横合いを突く模様」

CICでは、リアルタイムで情報が逐一伝えられ、それを束ねて、適宜、指示が飛ぶ。ミーナと坂本は『情報がリアルタイムで伝えられ、更にそれを統制してリアルタイムで指示を飛ばす』様に驚愕し、呆然とする。

「どうだね?我が富士の本格的戦闘指揮所は」

小沢が直接、案内したCICは23世紀の原子力空母や宇宙艦艇にも劣らないレベルの高度な設備であり、後付で戦闘指揮所を設置した大和型よりもスペースに余裕があった。

「凄い……前に見たリベリオン艦のそれよりも遥かに高度だ……」

「これが未来の指揮管制室なの?機械が多すぎて何がなんだか……」

「そうか。君達は前年の時にあまり目にする事がなかったからな。艦隊指揮と防空指揮もここで行えるから、艦の最重要部と言っていいだろう」

「防空指揮も!?まったく……科学の発展は時々、信じられんくらいだ……一箇所で指揮統制ができるなんて……」

「これでも、最も電子化が進んでいた時期に比べれば、だいぶ抑えられたほうらしい。M粒子のおかげでマニュアルの介入が効くようにされているらしいからな」

「は、はは……もうついていけそうにないな」


坂本は前年の戦いの際の防空指揮は防空指揮所が別個に行っていたと思っていたらしく、余計に驚く。しかもリアルタイムで偵察情報が映像付きで表示され、更に防空指揮も同時進行で指示されているのはカルチャーショックだったようだ。

「501部隊、発艦せよ」

「ミーナ」

「美緒……」

「お互いに年食った(取った)なぁ(わねぇ)」

空母の飛行甲板上にいる501のVF隊が、エンジンを唸らせる様子がモニターに映しだされる。レシプロ機とは全く違うエンジン音、大型で、流線型のデザイン。二人は既に見慣れたとは言え、どうにも時代の流れを痛感せずにはいられず、一気に年を取った錯覚を覚え、ミーナと坂本は顔を見合わせるのであった。




――この時、501で使用された可変戦闘機はVF-19A、VF-22S、VF-25F、YF-29と、連邦軍でも新型に属する高性能機ばかりであり、連邦軍から追加で機体が納入されたのが分かる。ミーナと坂本は、メンバーが使用した機体が高価かつ高性能な機であると察し、坂本は「あいつら、どこであんな高価な機体を手に入れた!?」と叫ばずにはいられず、ミーナは「今回の燃料費や弾薬の費用が連邦軍持ちで良かったぁ〜」と安堵するのであった。これは501の予算は限られており、弾薬消費が跳ね上がるジェット機は『使いたくとも、あまり使えなかった』というのが彼女の本音だったが、VFは燃料が『いらず』、弾薬も連邦軍が無償で用意してくれる事が分かった事で、ようやく使用許可を出したのだ。




「ミーナ、VFを使わなかったのは弾薬消費を気にしたためだったのか?」

「そうよ。ジェット機は搭載量が多い。ということは一回あたりの弾薬消費がレシプロ機とは桁違いという事。ウチの財政的にそこまでの弾薬を揃えられるか不安だったからなんだけど……」

「奴さんが無償で提供してくれる上に、大気圏内では燃料が要らないと来てる。全く……予想外だらけだな」

「ええ。こんな事なら最初から許可出しておくべきだったわ……あの人たちの行動力は何処から来るのかしら」

「あいつらの行動力は昔からさ。子供の頃に面倒を見てもらった事があるが、その時も凄かったからな……本当に」

扶桑海事変での事を思い出したのか、不思議と笑いがこみ上げる坂本。扶桑海事変で見た陸軍三羽烏の行動力。自分には真似できないと、その当時から感じていたのと同時に、『あんな風になりたい』と憧れを抱いていた事を吐露する。坂本は、最近、『三羽烏と反目している』という評判が立っている(黒江と喧嘩した事を拡大解釈された)が、実際は憧れていたのである。だが、その気持ちを『迷惑をかけた』という後ろめたさや、気恥ずかしさが原因で当人たちの前で示せなかった事が彼女の後半生に暗い影を落としてしまうのであるが、それは遠い未来の話である。



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