外伝その61


――連合軍・連邦軍の共同戦線はロマーニャにて最高潮を迎えていた。これまでにティターンズ傘下のリベリオン軍との双方の艦艇や戦闘機がそれぞれ、散っていった。更にティターンズは別働隊として、MSも送り込んでいたが、これはZガンダムによって落とされていった。

『生命は……生命は力なんだ!この宇宙を支えているものなんだ!それをこうも、簡単に失っていくのは酷い事なんだよ!!』

カミーユは技術力の差により、虐殺とも言えるティターンズの戦闘に怒りを燃やし、Zのバイオセンサーを発動させる。その際に、Zはまるでピンク色のオーラを迸せ、周囲にバリアとも取れるフィールドが展開されたように視覚される。これには同行していたミーナとペリーヌも驚愕する。


「なっ!?何なんですの、ぜ、Zガンダムが……!?」

「シールドを張っているとでも言うの……!?これがガンダムの……いえ、ニュータイプの力だと言うの!?」

Zのバイオセンサーのことは昨年(1944年)からの共同戦線の際に聞いていたミーナだが、半信半疑であり、グリプス戦役の記録映像を見ても現実味が湧かなかった。だが、現実にZがサイコフィールドを展開する様を目の当たりにすれば、当然の反応だった。と、そこでミーナは光に包まれる。バイオセンサーで集められた死者の中に、ミーナの想い人がいたためと、ミーナの能力がニュータイプに近かったために偶然起こった現象である。



――ミーナは気が付くと、銀河が浮かぶ宇宙空間にいた。そこで見覚えのある背中を見た。その人物は紛れもなく、自身の想い人だった。

「あなたは……まさか!?」

「神様が僕に、最期のプレゼントをくれたようだよ、ミーナ」

それはミーナの想い人のクルトの残留思念。強い思念が生前にあった人物は生前の想い人などを守護していると言われるが、正にそれだった。

「僕はあの時、死を自覚する事無く、『消滅』した。だが、精神は永久不滅だよ」

「……私は、あなたがいなくなってから必死に生きて来たわ。あなたが見守ってくれているのなら……もっと早く気づけば……」

「君は強くなったよ。だけど、できれば、君が歌手として大成するのを、この目で見たかった。それが唯一の心残りと言えるよ。だけど、こうして会えたのは、君の心の中に僕が生き続けているからじゃないかな。君が僕を覚えているなら、君の心の中で見守っているよ」

クルトの残留思念はミーナへの心残りを語った。死後から数年が経ち、かつての自分と同じかそれ以上に成長した幼馴染にして、恋人への複雑な想いがあるのが分かる。

「私はウィッチとして、軍人としての道を選ぶしかなかったわ。今迄、戦ってきた事には後悔はない。だけど、せめてあなたともう一度……!」

「君は変わってないね」

クルトはミーナを『抱きしめた』。それはZガンダムが起こした奇跡とも言えた。ミーナはその瞬間、涙を零した。長年の間に溜まった感情が溢れだしたのだ。

「君は僕の全てだから。『向こう』の世界の住人になってしまったけど、君の幸せを祈ってるよ」

「クルト……!」

その一言と共に、クルトは生前に成し得なかったキスをする。その瞬間、ミーナは『精神的』に苦しみや悲しみから解放される。光が晴れると、辺りは元の空に戻っていた

「クルト……ありがとう……」

誰にも聞こえない大きさで呟く。これを境にミーナは憑き物が落ち、自身のトラウマに由来する規則を廃止してゆくのであった。


――Zガンダムにはニュータイプ対応システムとして、バイオセンサーを搭載している。グリプス戦役でカミーユが精神崩壊に至ったのは、バイオセンサーが未完成だったのに加え、カミーユが精神不安定だった事、パプテマス・シロッコの怨念が作用した等が原因である。完成型のバイオセンサーを積み、カミーユ自身もコンプレックスを克服した事もあり、精神崩壊には至らなくなった事もあり、Zの最後の切り札としての側面を持つようになった『ハイパー化』。その最強の攻撃が放たれる。

『うおおおおおおおっ!!』

ウェーブライダーに変形し、対峙するバイアランめがけ、突撃する。超音速まで加速されたウェーブライダーの機首が槍のように、バイアランの肩口を貫き、そのまま機体ごと引き裂く。その時にかなり負荷がかかったのか、フライングアーマーの翼端が折れるものの、MS形態へ変形し、失速を免れる。

「ふう。危ない危ない」

「何故、MS形態に戻ったんですの?」

「ああ、フライングアーマーの翼端が折れたからね。こうなると飛行は出来ない。MSに戻ればいいだけだけど」

Zは積年の改修により、MS形態でも、母艦帰投の確率向上のため、バーニア推力の向上、ミノフスキーフライト、もしくはミノフスキークラフトなどのおかげで、ある一定の飛行能力を持つに至った。ただし、MS形態ではスピードは出ないため、あくまで『緊急避難』という位置づけだ。

「ミーナ中佐……?」

ペリーヌがミーナの表情が変化している事に気づく。これにカミーユは『ああ、女の子の顔だ』と、うっかりスピーカーで漏らしてしまい、ペリーヌに怒られたのであった。



――この時、歴代ヒーロー達の多くは各地で防戦を行っていたが、鉄山将軍の指令により、続々と欧州へ向かっていた。これは先行して戦っている5つの戦隊を支援するためでもあった。それは501の幹部級に通達された。

「鉄山将軍ですか?はい、分かりました。ありがとうございます」

黒江は自室の電話で、倉間鉄山将軍からの通達を受けとる。内容は『宇宙刑事シャリバンを始めとする、ヒーロー達を増援に向かわせた』というものであった。鉄山将軍自身も過去にエゴスのヘッダー指揮官を一刀両断してみせた実績を誇る凄腕の剣士であり、智子、黒江、マルセイユ、ハルトマン、フェイトが束になっても、まるで敵わないほどである。

「……ふう。鉄山将軍強すぎぃ!私と穴拭で同時にかかって、一瞬だもんなー……。本郷さんも勝てないとか言ってたしなぁ」

鉄山の圧倒的な強さは、既に達人級と言える領域と思われた黒江達に、更なる明確な目標を意識させた。黒江も鉄山から、『ふむ。示現流か。筋はいいが、まだまだ青い』と評され、剣術の未熟さを指摘されている。その為、鉄山を尊敬しているのである。これは奔放なマルセイユであっても同じだ。

「これで怪異の連中が漁夫の利を狙っても、大丈夫だな。ハルトマンがグレートを呼び出してるのと併せて、二段構えになった。問題は戦隊の参戦までを、ミーナ中佐に知られないかどうかだな」

グレートマジンガーの参戦は鉄也から知らされているが、戦隊の参戦までは知られないようにする事。それが鉄山から通達された事で、頭を使う黒江。戦隊側としても、怪異への警戒があるのだろうと考える。

「まぁ、彼らにはスーパー合体や要塞ロボもある。大丈夫とは思うが…」

戦隊が最後の切り札とする『スーパー合体』と『要塞ロボ』。それは二機から三機前後のメカを一つに合体させ、超巨大ロボにしたり、基地と合体して、移動要塞として運用するというトンデモ超兵器である。その戦力は並の一国家の総軍を凌ぐほどであり、実際に相手の根城を苦もなく吹き飛ばした例もある。

「奴らは今でも、パターンが読めないところあるからな。向こうにとっての『宇宙怪獣』みたいなもんだろう。いつしか実弾がビームになったりして、進化してるからな。もしかすると、MSの出現で、情報を吸収して進化した個体が出ても、可笑しくはないな」

その予感は的中していた。怪異はティターンズとの交戦で、B-29型を生み出し、その個体が自爆なり、爆撃を行う事で、環境を汚染するという手法を取り始めたと、宇宙刑事シャリバンから報告電が出たからだ。コスモクリーナーDがあるのが幸いだが、その内、ティターンズとの交戦する内に、旧ジオンのモビルアーマーを模した怪異が出始めないかと懸念する。

「ノイエ・ジールやビグ・ザムとかを模しられたら、今の私達にゃISとかを使うしか手はねー……。力が必要だ。それらが来ても、ねじ伏せるほどの」

力を渇望する黒江。それが後に山羊座の黄金聖闘士としての地位に就く一因となるのである。また、怪異がジオン軍のMAを模し始めたという報告が出始めたのは、この直後だった。


――空母 CIC

「見給え。これが新型の怪異だ」

「こいつは……旧ジオン軍のアプサラスV!?」

「恐らく、怪異は行動不能になって放棄されたティターンズのMSのデータバンクから情報を入手したのだろう。我々は便宜上、この個体をコピー元から取り、『アプサラス』と呼んでいる。他にも、アッザムやビグ・ルフ、ヴァル・ヴァロを模した個体も確認した。しかも原型の能力をそのままコピーしている」

旧ジオンのモビルアーマーはいずれも強力な機体であったが、それを模倣した個体が出た。黒江は直前の懸念がすぐに的中してしまった事に顔を曇らせる。

「能力をそのままそっくりって事は、まさか、ヴァル・ヴァロはプラズマリーダーを!?」

「そうだ。それでヴェネツィアとの国境線に駐留していた、ブリタニアの陸戦ウィッチの大隊を焼き殺している」

空母の艦長からの一言に、息を呑む一同。旧ジオンのモビルアーマーの能力を怪異が得た事は、従来装備では太刀打ちが出来ないからだ。

「我々はそのような個体を、これで対処している。これだ」

「これは……ダブルゼータ?」

「いや、ジュドーが乗ってた奴より、かなりでかいぞ。初代ゲッター1くらいはある」

「ダブルゼータの派生型に位置する、『ジークフリート』。元は陸軍がZZの設計に目をつけて、対サイコガンダム用も兼ねた砲撃支援機として確保していた機体だ」

ジークフリート(フリードとも)はダブルゼータの設計を超大型機として再設計し、生み出された。原型機をそのまま拡大させた能力を有するが、装甲はサイコガンダムを超えているが、『常識的』な範疇に収まっている。火力面ではダブルゼータのそれが拡大したので、地形を変えるほどである。

「その時の映像がこれだ」

映像が投影ディスプレイで再生される。旧ジオンのビグ・ザムを模した怪異が戦線に降下し、陣地ごと陸戦ウィッチの中隊を薙ぎ払うが、そこへジークフリートがMS形態で飛来、幾分、砲身が長くなったハイメガキャノンとダブルビームライフル、ダブルキャノンを同時に発射し、怪異を消滅させる。ここまで来ると、もはやSF映画のような話である。

「これらに対しては、それ以上の火力で有無を言わさずに消滅させるか、懐深く入り込むか、選択肢はない。陸戦ウィッチの速度では無理だ。航空ウィッチでは火力が足りないという課題も出ている。これらが出てくることがないよう、祈るしかない」

この新型怪異はその後、『αアジール』、『ノイエ・ジール』型の個体も出現し、武器開発が急速に進む事になるが、皮肉にもそれが、後のベトナム戦争に悪影響を及ぼす事になるが、この時の一同は知る由もない。その頃を後に回想録にこう残したという。

「モビルアーマー型がマジで出た時は、顔色変わった。何せ、今までの火器じゃ装甲に傷も負わせられないんだからな……連邦のおかげでビーム兵器使えるから、それで対処したが、ミーナ中佐に許可取るのに苦労した。あの人は石橋を叩いて渡るから、未知の兵器を信頼してない節がある」と。




――その時に回想したウィッチ用ビーム兵器は、この時、空母の格納庫に用意されていた。本来はISなどの追加武装であったが、火器の払底を理由に、バルクホルンが最初に使用した。

「銃の予備がない!?しょうがない、IS用の武器を持っていくぞ」

「ISを展開しなくとも、使えるようにしてあります。照準はマニュアルになりますが、いいですね?」

「構わん。その程度なら、経験則で補える」

バルクホルンはこの時、ISの使用許可が下りていなかったが、火器の払底から、IS用の武器をストライカーで使用するという荒業を行った。右腕には篭手として、アームド・アーマーVNを、左腕にはアームド・アーマーDEを装備し、ビームマグナムにはリボルビング・ランチャーを追加装備するなどの重装備である。

「トゥルーデ、やりすぎだって。それじゃ、ISを使ったほうが早いってば」

「使えん以上はしょうがないだろう。この艦にも積まれていた以上は使うしかない」

補給のため、空母に降り立ったバルクホルンは、しばしの休息を終え、火器の不足を理由に、IS用の武器を携行しての再出撃を敢行した。これはミーナの命令をかいくぐる手としていい手段となったため、マルセイユもそれに習い、MS並の重装備を調達し、再出撃を行う。ジェットストライカーの機動性を補うため、シールドブースターを携行するケースが多く、シールドブースターの有効性を証明する事となった。


――再出撃したバルクホルンはリボルビング・ランチャーを活用し、実弾・ビーム兵器のバランス配分を考えての戦闘を行った。

「おおっ……マグナムは反動が来るな。私でも反動を完全には抑えられんとは。だが、こいつでどうだ!」

追撃でリボルビング・ランチャーを放つ。徹甲榴弾が装填されているので、怪異戦には持って来いである。怪異はマグナムで外殻を一瞬で剥がされ、ランチャーでコアを破壊される。次いで、アームド・アーマーVNを使用し、対象を捕らえた後で超振動によって破砕する。この超振動は、サイコフレームの特性を利用したもので、資材が特殊である、スーパーロボットの超合金には効果はない。しかし、それ以外には通用するため、怪異を粉砕するのにはおあつらえ向きの武器と言えた。

「フッ!」

魔力で威力を増幅させた事もあり、怪異は一瞬でコアごと崩れ去る。

「さすがはサイコフレーム。ここまでの威力とはな」

妙にしっくり来たらしく、以後はアームド・アーマーVNを愛用していく事になる。また、彼女のISの諢名も『バンシィ』と名付けられたこともあって、ユニコーンガンダム二号機同様の武勇で知られるようになる。

「さて、武器での格闘戦に移るか!」

ビームトンファーを展開し、一撃離脱戦法で戦う。なんだかんだで適応してみせるあたり、エースなのだろう。

このように、散発的に起こる怪異との戦闘は未来兵器も用いたため、優位に立った。だが、新型怪異への不安も残ったまま、ティターンズの第三波航空攻撃を迎える。



――翌日 未明

「ティターンズの空母からの艦載機です!今回はA-1、F4Uなどのレシプロ機です。……あ、待ってください。中央部に陸上機の反応があります……熱量はランカスターのものです!」

「何!?トールボーイか、グランドスラムでも使うつもりか!?」

如何に連邦の戦闘空母といえど、グランドスラム爆弾をまともに喰らえば、飛行甲板の大破は免れない。何せ、ポンド数で22000、トン数で9トンを超えるのだ。一説によれば、関門トンネルの爆破に使用されるはずであった。それが23世紀の最新火薬で点火されれば、この時代の戦艦は竜骨からへし折れて転覆、撃沈は間違いなしである。

「ショックカノンで迎撃は可能か?」

「可能ですが、他の機が盾になったり、中にウィッチが乗っていて、シールドを使われると、突破される可能性があります」

「ふむ。どれがウィッチを乗せた本命か?」

「501のマルセイユ中佐からの報告によれば、機体が黒塗りにされてるそうなので、どれかは」

「対空火器に火を入れろ。直掩機は出来るだけ数を減らせ!ジェット部隊は本丸のランカスターを狙え!雑魚には目もくれるなよ!」

「艦長、別の方角よりSM.79と護衛機が!これはヴェネツィア軍の保有機です!」

「どっちかが当たれば御の字な博打を!各空母は直掩機を増やせ!ウィッチは優先して爆撃機をやるようにと通達!MS隊その他は雑魚を始末しろ!」

連合軍艦隊は挟撃を受ける形となり、ここに第三波の空襲が起こった。駆りだされたSM.79は200機を超え、護衛機は300機を超えた。

「数がどんどん増えます!一個航空軍を駆り出した模様!」

「うろたえるな!コスモタイガー、VFの発進も行わせろ!稼働機は全て上げろ!総力戦になるぞ!」

「あー!今度は別方面の艦隊から、A-6、F/A-18F、F-14も来ます!」

「虎の子の第4世代機も出してきたな。こちらもF-14D++も使うぞ!航空隊は爆撃隊を、MS隊は雷撃機の迎撃だ!航空隊は対空火器の射程内に入らないよう注意せよ、MS隊は空母上か艦艇の前後に付け!」



――双方の稼働機の過半数が同じ空を乱舞する。敵味方双方で1500機以上を超える飛行機が入り交じる『混沌』とした戦場となった。これは近代航空戦としては史上空前の規模で、フェーベ航空決戦以来の大決戦となった。ウィッチ達の内の数人は、本丸を落とすジェット使用者の露払いに配された。だが、後から後から敵機が雲霞の如く沸いて出るため、苦戦を余儀なくされた。

「リーネ、後ろだ!」

「は、はい!」

その内の一人のリネット・ビショップは、雲霞の如く沸いて出るF4Uの追尾を受けた。使用していた後期型スピットファイアでは、757 km/hを誇った最終型コルセアを振りきれるはずはなく、翻弄され、数機から銃撃される。坂本が紫電改で援護するが、直線スピードが違い過ぎ、追いつけない。

「バカな!?紫電改で全く追いつかんだと!?」

坂本は瞠目する。時速687キロを誇るはずの紫電改が、まるで『鈍亀』になったような錯覚を覚えたからだ。

『坂本、エンジンのオーバーブーストを解きなさい!それ以上はエンジンが過熱して、オーバーヒートするわよ!』

「しかし!」

『ここは私がやる!』

圭子がF-86を履き、シールドブースターと、ZPlusスタイルのビーム・スマートガンを携行して飛来、ビーム・スマートガンを撃つ。当然ながら、F4Uはハエの如く落ちていく。圭子の落ち着いた射撃もあり、マルセイユに劣らぬ命中率を見せた。

「あ、ありがとうございます!」

「油断しない!次が来るわよ!」

リーネに注意を促すと、今度はコルセアの更なる改良型『F2G』が現れる。対地攻撃用のMk4「FFAR」ロケット弾を携行し、それを撃ってくる。対空兵装としては、対地爆撃機用にしか使えないが、近接信管を使用しているため、在来型ストライカーに当たれば、一撃で致命打になり得る。その為、圭子は早打ちで全弾を未然に撃ち落とす選択を取り、全弾をビームで消滅させ、母機のF2Gも叩き落とす。

「す、すごい……当たる前に全部を撃ち落とすなんて」

「あれが往時、『扶桑海の電光』を謳われた加東圭子だ。その銃の腕は、往時の64Fを通しても屈指を誇った。奴に狙われたら、まず生きては帰れん。仲間内では『閃光の魔弾』とも呼ばれていたよ。まさか、この歳になって、また共に戦えるとは思ってなかったが」

「え?」

「あいつは、今年で25歳なんだ。私が12の時には18歳だった世代で、普通なら引退してる歳だ。見かけは若々しいがな」

「さ〜か〜も〜とぉ〜!それが先輩にいう台詞!?って、それより!喋ってないで動きなさい!」

「り、了解!」

リーネは圭子があの坂本を容易く従わせられる事に、目を丸くしつつ、坂本に続いた。





――こちらはマルセイユ。腰に刀を挿しており、更にサイドアームがビームマグナムなせいもあり、今までとは異なる戦い方を見せていた。言うなれば、往時の武子と智子をミックスさせたような戦闘だった。だが、その二人と異なる点は、マルセイユは乱戦を好むのだ。敢えて編隊へ突っ込み、敵の相互支援を崩した上で戦うというのがマルセイユ一流の戦法だった。

「仕留める!!」

ただし、今回のマルセイユの格闘戦用武器はタダの刀ではない。サナリィがF91の後継機に積む予定の試作武装『ビーム・ザンバー』のダウンサイジング版であった。その高出力で、SM.79を胴体からまっ二つに両断する。

「これがビームザンバーか……凄い切れ味だ。普通のサーベルの数倍はある。いい物を掘り出したな」

踵を返し、次の敵機に斬りかかる。

「どけぇ、貴様等!!」

群がるA-1を、ザンバーの一振りでまとめて両断する。以前とは違う、鬼気迫るマルセイユの戦いぶりに瞠目するバルクホルン。

「何ぃ!?お前……その戦い方は……!?」

「お前に説明しようとすると、長くなるからパスだ。」

「そうか……だが、後で答えてもらうぞ」

「いいだろう」

マルセイユは以前とは違い、どこか悲壮感すらも感じさせる哀しげな雰囲気を纏っている。それはアフリカを守れなかった悲しみ、怒り、責任感などが入り混じった結果であった。

「……逃げ回れば、死にはしない」

回避する際の台詞も、バルクホルンには聞き覚えがある台詞である。それは昨年にシーブックが言っていた台詞とそっくりだったからだ。バルクホルンは、マルセイユが未来でシーブックと会った事に感づき、納得した。

(マルセイユのやつ、さてはシーブックと会った事あるな。通りで聞いた事があるはずだ)

納得しつつ、自身もアームドアーマーVNを使用して、SM.79を粉砕する。その戦闘の様子を、富士のCICで確認したミーナは自身の通達の抜け道を考えついたバルクホルンらに呆れつつも、結果的に事後承諾した。交代の都合上、自身も出撃の時の武器を選ぼうと、飛行長から武器リストをもらい、考えるのであった。


――連邦軍側艦艇の格納庫には、様々な試作兵装が用意されていた。それは古今東西のMSの武装がダウンサイジング化された物が多く、中にはゲルググイェーガーのビームマシンガン型までもあった。ハルトマンはそのうちの一丁をサイドアームに指名しており、MG42に似た外見から、違和感がそんなにないと言っている。ミーナも飛行長に手伝ってもらい、それを選定。ハルトマンとの交代で上がる時に、シールドブースターと、その型のビームマシンガンを携行し、使い勝手良しと判定するのであった。



――空に閃光が走る。だが、それは人が死にゆく時の光でもある。一つ現れる度に、誰かの命が失われていく事でもあった。その重みを感じ、潰されそうな悲しみを覚えるリネット・ビショップと宮藤芳佳。

「できれば、誰も殺したくないよ。みんなを助けたい。お父さんは誰かを『守る』ための力を作った。なら……」

「私も、できればみんな助けたい。誰かを傷つけたくないよ」

立ち塞がるのならば倒すのみと、鬼気迫る戦闘を見せるハンナ・ユスティーナ・マルセイユ、黒江綾香、菅野直枝。

「何であろうと、立ち塞がるのならば倒すのみだ!」

「貴様等に今、ブリタニアやロマーニャの国民が味わっている恐怖を味あわせてやる!私の恐ろしさをな!!」

「ヘッ、ウィッチとしての大義もクソもね〜!今の俺には戦いしかねーんだ!」

人同士の骨肉の争いに嫌気が指しながらも、使命感で戦う坂本美緒、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。

「私は戦う……それがあの人の願いでもあるのだから」

「ウィッチとしての本懐を忘れた者などに、私達は負けるわけにはいかない!ウィッチに不可能などない!道を切り開いてみせる!」

兄と慕う者のため、友のため、果敢に戦うエーリカ・ハルトマン。妹と友のために戦うゲルトルート・バルクホルン。

「祖国のため、クリスの笑顔を守るためなら、私は鬼にもなってやる!」

(テツヤが来てくれる……それまで持たせないと!みんなの居場所は……あいつらには渡すもんか!)

エイラとの幸せ、別離してしまった家族への思いを抱きつつ、戦いに身を投じるサーニャ・V・リトヴャク。

(お父様……エイラと私を守って……!)

(サーニャは私が守るんだ!本国にいるラプラ、おまけのニパやハッセ、それとうちのねーちゃん!私に力をくれ!!サーニャの未来、私の未来、みんなの未来を…!)

妄想と真面目な思いが交錯しつつも、サーニャを守る事を第一に動くエイラ・イルマタル・ユーティライネン。

「ロマーニャはあたしが守る!パーパやマーマ、シャーリーやみんなと居られる場所を渡すもんかぁ〜!」

――愛する家族、姉と慕う者と居られる場所、故郷を守らんと、気勢を張るフランチェスカ・ルッキーニ。様々な想いが交錯しながら、戦いは最高潮を迎える。空と海の戦場は様々な思いを呑み込みながら、その激しさを増してゆく――



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