外伝その60


――ロマーニャの最終決戦が白熱する。エーリカ・ハルトマンはその布石として、上官のアドルフィーネ・ガランドに直談判し、科学要塞研究所に赴いて、グレートマジンガーの派遣を勝ち取っていた。その過程を少し語ろう。


――最終決戦より数週間前

「ねぇお願い!私を科学要塞研究所に行かせて!」

ハルトマンは珍しく、真面目に働いていた。上官に頭を下げる事自体が極めて異例なため、ガランドはこの時、あっけらかんとし、反応が遅れてしまった。

「科学要塞研究所に?ハルトマン、お前……グレートマジンガーの基地と何か関係があるのか?」

「それはあとで説明するから!と・に・か・く!行かせて!」

「うーむ……」

ガランドは困った。ハルトマンが科学要塞研究所に行きたがるのは何故だろうか。その理由がわからないからだ。そこに助け舟を出したのが、山本五十六だった。

「いいではないか、行かせてやりたまえ。ガランド君」

「山本大臣……!」

執務室に入ってきたのは、山本五十六だった。山本もスーパーロボットの力を必要としていたため、ハルトマンの動きを手助けしたのだ。山本は連合軍司令部のドワイト・アイゼンハワーの許可証をハルトマンに手渡し、山本が以前からハルトマンと同じ思惑で動いていた事が伺えた。

「最高司令官直々の許可証とあれば、反対する理由はない。許可する。取り次ぎは『アイツ』にやらせよう。……私だ。執務室まで来てくれ」

と、内線で誰かを呼び出すガランド。その主は……。

「失礼します」

「おお、誰かと思えば君かね、クイント君」

「ご無沙汰しております、大臣」

入ってきたのは、ガランドの義理の娘であり、更に正確に言うと、時空管理局のスバル・ナカジマ、ギンガ・ナカジマの母にあたる『クイント・N・ガランドだった。彼女は事故で死亡したとされた事件の際に、遺体が発見されなかったが、実際は次元乱流の穴に落ち込み、亜空間を漂う際に、肉体年齢が子供と言える年齢にまで巻き戻り、ウィッチ世界に漂着したのだ。そのショックで記憶喪失になった事もあって、身元不明の孤児として孤児院に引き取られていたが、ある時、軍の慈善事業の一環で、孤児院を訪れたアドルフィーネ・ガランドに懐いた。最終的に彼女にしか懐かなかった事もあり、ガランドは自身が17の頃に彼女を引き取り、以後は娘として育てた。それから数年後、少女時代のフェイトと出会ったのをきっかけに、次第に『クイント・ナカジマ』としての記憶が蘇り、現在では『ガランドの娘であり、スバル達の親である』というアイデンティティを確立。こうして不思議な運命のめぐり合わせで、ガランドは23歳にして、『孫』持ちになってしまったのである。ちなみに、クイントは現在、外見年齢の都合上、容姿が娘のギンガ・ナカジマと瓜二つになっているとのこと(若干幼い)

「クイント、ハルトマンを科学要塞研究所に取り次いでやれ。私や山本大臣の名を出していい。これはアイゼンハワー司令官も了承済みだ」

「わかりました。ハルトマン中尉、こちらです」

「あ、ありがとう、ガランド」

「……フッ、礼を言うなら、大臣に言え」

ガランドはクイントに科学要塞研究所に取り次ぎを任せ、ハルトマンを科学要塞研究所に行かせた。以前に山本五十六が話を通した事があり、この時には既に、剣鉄也とハルトマンが知己であった事もあり、交渉はすんなり行くと思われたが、所長の兜剣造が難色を示したのだ。

「何故です、所長。グレートマジンガーが行けば、この子の世界を救えるんですよ!」

「今のグレートは能力面で高性能MSに対するアドバンテージが薄れて来ている。特にガンダムタイプに対してはな。グレートと云えど、タダでは済むまい」

「それくらいどうだって言うんです。今更蘇ったティターンズの亡霊ごときに、俺とグレートは負けはしませんよ!」

熱弁を振るう鉄也だが、剣造はグレートと言えど、高性能化が進展したMSに果たして立ち向かえるのかという不安があると明かし、同時に対策として、マジンカイザー化させることを検討しているとも告げる。

「お願いします、コウジのおとーさん!あいつらのせいで、私の世界はめちゃくちゃにされてる。同期の仲間からも大勢の戦死者が出てるし、本来なら、近代以降であり得なくなった『ウィッチ同士の殺し合い』も起きるかもしれない。私の上官もすっごくそれを気に病んでた。グレートマジンガーの力なら、あいつらをやっつけられる!だから、だから!」

ハルトマンも何時になく、熱が籠る。仲間を思う気持ちは強固であり、同期の仲間が死んでいったのに悔しさを覚えていたが、自分の力では歯がたたないのを知っているため、未来世界で武名を馳せるグレートマジンガーの力に縋るしか無かったのだ。剣造はハルトマンの真摯な態度を目の当たりにし、回答をしかねていたが、そこへ思わぬ援軍が来た。

「いいではないか、兜くん。行かせてやりたまえ」

「宇門博士……」

所長室に、ナイスミドルの紳士が入ってくる。所用で科学要塞研究所を訪れた、宇宙科学研究所の宇門源蔵博士である。彼は所長室に入ろうとしたところで、ハルトマンの一言を聞き、助け舟を出したのだ。ちなみに、彼、剣造の大学時代の二期先輩にあたるとの事。

「君はミケーネ帝国の残党や百鬼帝国を気にしているのだろう?よろしい、後は大介や甲児君たちでどうにかしよう」

「……わかりました。鉄也君、グレートマジンガーの派遣を許可しよう」

「そう来なくっちゃ」

「あ、ありがとうございます!」

ハルトマンが両者に深々と頭を下げる。剣造も先輩である宇門博士の一言を受け、折れる形でグレートマジンガーの派遣を決め、報告如何で将来のカイザー化の時期を決める事を通達する。これで安心したハルトマンは、新たに得たISのテストも兼ねて、そのまま宇門博士についていく形で宇宙科学研究所に立ち寄り、その際に、同研究所にいた箒と対面。模擬戦闘訓練を行い、持ち前の戦闘センスで箒を圧倒したとの事。この事は『敵を欺くにはまず味方から』の理屈で、501司令であるミーナには知らされなかった。ティターンズに対する防諜も兼ねての事で、知らされたのはガランドの直接の部下であるルーデル、更にその影響下にある、扶桑陸軍三羽烏のみであった。


――三笠型『富士』の56cm砲を喰らい、ノースカロライナ級『ノースカロライナ』の竜骨が歪む。2トンを優に超える徹甲弾を食らったおかげで、船体に大穴が空き、機関室の爆発で速度が0に近くなる。

「機関室をやったな」

「ハッ。いかがいたしましょう」

「是非もなし。徹甲榴弾に切り替えて、火葬してやれ」

小沢の一言で、ノースカロライナの運命は決した。ほぼ停止状態になった彼女を56cm徹甲榴弾が撃ち貫く。主砲弾薬庫に命中した一弾が第二主砲塔より前を完全に吹き飛ばす。更に水線下の艦尾に穴が開いた事もあり、瞬く間に艦尾から吸い込まれるように消えていき、大爆発と共に没する。テメレーアの突貫で隊列を崩された形のリベリオン艦隊は混乱し、大和型の砲弾と併せての超大口径弾の弾雨を浴びせられていた。リベリオン艦隊は隊列の立て直しに躍起になっていたが、イリノイはゼロ距離射撃で大破、放棄された。モンタナ級「ルイジアナ」も浸水で速度低下を来たしており、テメレーアの立ち回りもあって、挟撃に合っていた。

「クソ、あのゴジラのおかげでえらい目にあったぞ!それとテメレーアだ!奴を潰せ!!生かして返すな!」

テメレーアは集中砲火を浴び、モンタナ級の重量砲弾に被弾。第二砲塔が使用不能に陥る。

「提督、第二砲塔、使用不能です!」

「応急処置は可能か!?なら、急げ!」

ライオン級は連邦軍が建造権を買い取り、改良して作った艦が一隻存在するが、当初のプラン通りに建造された艦が殆どであった。テメレーアはそれであり、急場凌ぎの小改装は受けたが、場当たり的であったため、やはりモンタナ級の重量砲弾には耐えられず、砲塔の砲身が一本折れ、砲塔自体も命中角度のおかげで貫通はしなかったが、鉄拳を受けたように、砲塔そのものが大きくひしゃげている。

「ええい、六門だけでは、リベリオンのデカブツには対抗できんか……」

この時のライオン級の微力さを報告され、それに憤ったチャーチルが空母計画の幾つかと引き換えに、セントジョージ級を推進させるのである。これでテメレーアは艦隊への合流を余儀なくされるものの、イリノイの撃破という輝かしい戦果を報告した事で、チャーチルはなんとも微妙な表情を見せたという。この日中はリベリオン側が不利を悟り、転進した事でひとまずの休憩となった。


――イリノイの撃破は大戦果であり、艦内が再利用不可な破壊を受けていた事もあり、鹵獲後はゆっくりと解体されるが、無事なパーツが亡命リベリオン軍保有の各アイオワ級の予備パーツ取りに使用されたという。


――同日の夕方

「ひとまず第一回戦は勝ったな」

「ああ。だが、奴らにはヴェネツィア軍の丸ごとも残ってる。それとの戦もあるだろうから、皆、よく休んでおけ。夜間の戦闘は通常部隊が対応する」

「了解」

VFを操縦した面々は、連邦軍の空母に着艦し、同空母で休憩を取る。自室に割り振られた個室に入ると、黒江はVFでの撹乱は高効果であるとする報告書をまとめ、同時にミーナが何故、男子との接触を禁止する規則を設けていたのか(今は自身らの加入で有名無実化したが)を考える。持ち込んでいた、ドラえもんからの借り物のタイムテレビを使って、ミーナの過去を探った。すると、ちょうどオストマルク、ガリアが陥落した時代あたり(ミーナの当時の階級は尉官)の映像を見、その理由を悟った。

『だって、貴方は音楽家に……!』

『君だけを、戦わせるわけにはいかないさ』

今よりも若々しく、初々しいミーナと会話をする青年。その人こそ、ミーナの幼馴染であり、同時に恋人であったクルト・フラッハフェルトであった。共に軍に志願し、整備兵の任についていたが、撤退前に怪異の爆撃により、ハンガーごと吹き飛ばされ、命を落としてしまった。奇しくも、それはミーナを見送った直後の出来事であり、彼が今生で見た最後の光景は発進していく恋人の後ろ姿だったのがわかる。

「はーん。これが今生の別れになっちまったわけか……クルトさんはミーナ中佐が将来、エクスウィッチになったら結婚するつもりだったんだな。それでか……」

黒江は、ミーナがクルトの死をきっかけに、異性関係を結ぶのに恐怖にも似た感情を持つようになってしまったと直感した。ミーナが自分達が整備兵と話すのに当初、不快感を示していた理由は、自分とクルトのようになって欲しくないという気持ちが抑えきれなくなったからだと推測する。

「しかし、これだと逆に困るなぁ」

「何が?」

「お、なんだハルトマンか。ちょっと面貸せ。見て欲しいのがある」

「何〜?」

タイムテレビを見せると、ハルトマンは哀しげな表情を見せた。長年の謎だったクルト・フラッハフェルトの死の瞬間を目の当たりにしたのだから、当然といえば当然だ。また、ミーナが彼に対し、幼馴染以上の想いを抱いていたのも改めて知ったのだから。

「そうか……クルトが最後に見たのはミーナの後ろ姿だったんだね」

「その直後にハンガーごと消滅させられてる。彼を愛していたから、その反動が大きかったんだろう」

「どうしてあんな規則作ったのか、疑問に思ってたけど、そうか、クルトのことを引きずってたんだね……ミーナ」

「年齢的に初恋の人だったろうし、たぶんもう恋愛はしないだろうな……クルトさんを愛していたのなら尚更……」

ミーナが愛する人を守れなかった悔恨から、接触禁止の規則を作ったと理解したが、ジェットエンジン時代を迎える昨今、整備班とディスカッションしなければ、最高の整備態勢は取れないし、男性スタッフの士気にも関わる。そこで圭子と智子も呼び出し、四人でミーナへの言い分を考えた。

「『節度は必要だけど、禁止すれば良いってもんじゃないから』ってのはどう?」

「無難だけど、推しが足りないような?」

「だけど、ミーナって上官が強く言っても折れない性格だから、下手に出たほうが効果ありそうだよ?」

「うーん……。今のままだと、整備班が書類が多すぎるって愚痴ってたし、他のスタッフも面倒くさいって言ってたわよ。でも、そんな事があったら、強く言うわけにはいかないわね」

「ミーナは追いつめられると、融通が利かなくなっちゃうのが悪い癖なんだよ。私達、特に黒江中佐あたりが、ガーって言えば、ミーナは余計に心を閉ざしそうだしなぁ……。」

「うん、それは間違いないな。向こうの太平洋戦争じゃ、整備班に疎まれた搭乗員は、わざと整備不良が起きるようにして、合法的に殺したって話もあるから、整備班の不況は買わないに越したこたぁないんだが、これじゃ八方塞がりだぜ」

頭を掻き毟り、悩む黒江。解決策が思い浮かばないらしい。この時は四人が知恵を絞っても結論が出なかったのだが、ミーナはその後、カミーユのZのバイオセンサーの共鳴が起こした奇跡で『憑き物が落ち』、連名で出した案をあっさり承認した。表向きは『書類ばっかり増えて、仕事にならないから止めましょう』との事だが、実際はZのバイオセンサーの共鳴で集められた魂の中に、クルトが混じっており、彼に『君は僕の全てだから』との一言を言われ、一瞬でも、在りし日の姿の彼と再び抱擁ができた事で、彼女の中にあった長年の後悔の念と、恋人を失った悲しみが消え、心に憑いていた憑き物が落ちたからだった。その時にカミーユから『ああ、女の子の顔だ』と突っ込まれたのは言うまでもなく、ペリーヌに怒られたとの事。

「考えても埒が明かねー。取り敢えず飯にしようぜ」

「士官用の食堂開いてる?」

「この時間だったらコックの数がまだ多いから、ハンバーグとか頼めるぞ」

「ハルトマン、宮藤の美味いの食いたけりゃ、歯磨き忘れんなよ。歯の定期検診があるし」

「う〜、わかってるって」

ハルトマンは実家が医者なので、歯磨きは一応、それなりにはしている。しかしながら歯石が貯まり気味なのを注意されており、バルクホルンに無理矢理歯磨きをさせられたりしていた。それを思い出し、憂鬱になるのであった。




――芳佳はこの時、黒江らと同じ空母におり、コック達の手伝いをしていた。芳佳は肉料理はあまりせず、和食を得意とするが、ヤマト亭(宇宙戦艦ヤマトの食堂)で修行を積み、洋食もある程度は出来るようになり、その腕はヤマト亭のシェフをして唸らせるほどになった。

「宮藤ー、今からなんか作れるかー?」

「マグロ丼なら作れますよー。ちょっと待っててくださーい」

時間は夜八時半を回っていた。芳佳は四人分のマグロを捌き、丼に盛り付けるのであった。



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