外伝その63


――大海戦に使われたのは、レシプロ戦闘機から最新の可変戦闘機までと幅広かった。一方で時代かかった空中戦が行われ、他方で、音速を超えたジェット同士の戦闘が繰り広げられるという状況が発生した。エイラはそんな空を不思議がっていた。

「本当、混沌としてるぞ。この空は。見慣れた形のレシプロ機が飛んでるかと思えば、あんなのがかっ飛んでやがるんだから」

それは連邦軍が主力としているコスモタイガーの事だったり、VF-11だった。エイラ達に取っては、2年前にようやく650キロの大台に乗り始めた機体が出始めていたのが、そんな次元を超越したモノが持ち込まれ、いつしかその次元が当たり前になっているという事実を鑑みての発言だった。エイラはこの時、信頼性を重視して、従来型のストライカーであるメッサーシャルフを履いていた。エイラは『従来型でも、私の能力なら、ミサイルになんて当たんないって』と豪語していたのだが、実際は近接信管の危害半径を考慮に入れなければいけないので、かなり苦労していた。

(近接信管ってのはメンドーだ!直接当たんなくても落ちるなんて、そんなのありかよ!)

エイラは敵艦隊攻撃に出たレシプロ機編隊を護衛していたが、その内の過半数が近接信管の猛威の前に撃墜され、効果を挙げるのは至らなかったのを目の当たりにし、驚愕しきっていた。エイラ自身は被弾はしなかったものの、航空魚雷を食らってもビクともしないリベリオン製軍艦の威力に感嘆とさせられていた。空中戦ではほぼ無敵だったエイラだが、対艦戦で出来ることは無きに等しかった。そして今、彼女は最新鋭装備で固められたティターンズの空母の対空砲火と戦っていた。


「うわ、わわわっ!」

ファランクスの対空射撃の猛追を必死で避けるエイラ。後世のエレクトロニクス技術で統制されたファランクスの追尾力は凄まじく、ジェットやミサイルを迎撃可能な対空火器な事を改めて示す格好となった。幸いにも、ウィッチはVF張りの機動が取れるために被弾は免れたが、護衛していた編隊は最後尾の数機以外は撃墜され、攻撃を諦めて撤退した。エイラ自身は撤退を援護するために囮になったが、それが災いし、集中砲火を浴びたのだ。そこへ、連邦軍の部隊が援護と対艦攻撃を兼ねてやってくる。機種は、地球圏ではVF-19系が主流になりつつある中では珍しくなった、『VF-17S』だった。

『中尉、下がれ!後はこちらで引き受ける!』

VF-17S部隊は見事な機動で、敵空母の攻撃に移った。ファイター形態で対艦ミサイルと対レーダーミサイルを放ちつつ、、ガンポッドを掃射し、空母に痛打を与える。ガウォーク形態でファランクスを一掃し、更にアイランド(島型艦橋)に射撃して破壊し、更にオプションのグレネードを機関部にぶち込んで撃沈する。エイラは数分間で大型空母を海の藻屑としてみせた可変戦闘機のポテンシャルを改めて思い知り、身震いする。

「な、なんて火力だよ……あんな空母を数分間で撃沈するなんて……」

『旧式になったとは言え、可変戦闘機は宇宙戦艦を撃沈する想定で造られてるからな。第二次大戦中の空母の大半はこの『ナイトメア』で事足りるさ』

「ナイトメア?」

『こいつのペットネームだよ。英語で悪夢を意味する。こいつは元々、特務作戦用に造られた機体だからな』

「だから、そんな平べったい変な形なんですか?」

『ああ、それか。君はステルスという概念は知ってるか?』

「あ、はい。講習で多少は」

『こいつは、この時代に研究が始まったステルスの一つ『パッシブステルス』の到達点に位置する。レーダーが実用化されると、それに写るのを避けようとする取り組みも行われるのは必定だ。レーダー反射率を機体形状などで軽減させたり、専用塗料を塗って行う『受動的なステルスへの取り組みを『パッシブステルス』という。それを前提に機体設計が行われ、軍用機のトレンドになった時代もあった。我々の時代で主流になったアクティブステルスはレーダー波を分析し、逆に欺瞞情報を送り返すというものだ。これの発達で、こいつみたいなパッシブステルスを前提にした設計は行われなくなった。特務用だったからって事もあって、他よりステルス性が重視されたのさ。数年で19系が実用化されたから、言わば過渡期の設計の機体さ』

「ふーん、なるほどなぁ」

エイラは17の形状が平べったいためか、物珍しそうだ。同僚らは新星インダストリー系の流麗なデザインの機体を主用しているため、17系の形は異質に見えたのだろう。

『こいつも最後の御奉公さ。次のフライトからは22に機種転換する事になってるから』

よく見てみると、17系の他の形式のパーツもどこか混じっているほどにパッチワークぶりで、『年季が入っている』隊長機。導入初期に受領した『古い個体』であったと、部下が補足する。

『うちは早い内に受領した部隊だから、古くてな。隊長のは特に前線で使い込んだんだよ。駆動系なんて171のパーツに取っ替えてるし、元々がA型だったのを、S型にまで改造したしな』

「え?改造なんて出来るのか!?」

『規格は同じだからな。同系統内のパワーアップは現地改修で可能だよ」

「いいなーそれ。私達はエンジン取っ替えなら経験してるけど、根本的に形式まで変わるくらいの改造は現地で出来ないのにぃ」

『23世紀にもなると、各部がユニット化されているんだよ。だから、異なる形式のエンジンを載せるのも、計器の取っ替えも簡単なんだよ、覚えればね。確か、君のところのハルトマン少佐は、22の部品をうちの空母のハンガーから融通して、自分の機体の改修に使ってたぞ』

「ま、マジかよ……」

エイラは、ハルトマンが作業着を着て、戦闘機を整備する様が想像し難い(妹のウルスラではない)らしく、目が点になっていた。そのハルトマンはというと……。




――連邦軍空母「飛龍」

「どう、シャーリー」

「舵角挙動のリミッターは外したし、エンジンも高品質のに換装したんだろ?22系としちゃ最高レベルに仕上がったと思うぜ。私は25の慣熟してるから、なんだけど」

「ありがと〜手伝ってくれてさ」

「なあに、お安い御用だよ。レイブンズの隊長さんから改造のコツ聞いといたのを思い出してさ」

「レイブンズ?あのVF-Xの?」

「ロンド・ベルの留学で、模擬戦闘訓練した事あるだろ?その時に教えてくれたんだよ。だけど、その時はうろ覚えだったから、曖昧なとこがあってさ。それで黒江中佐に相談したら、その場で問い合わせてくれたんだよ」

「へぇ〜」

黒江は、イサム・ダイソンとはフロンティア船団で出会ってから親交があった。テストパイロット繋がりもあり、イサムは黒江を子分扱いした。フロンティアで別れた後も、時折連絡を取り合い、VF乗りとしては新米であった黒江へ色々と、アドバイスをしていた。それでヤン・ノイマン博士にも紹介してもらって、新星インダストリーにコネクションを得た。その都合上、501のVFの過半数は同社製であった。その状況に危機感を抱いたゼネラル・ギャラクシー社は偶然、自社のVF-22のユーザーであるフェイトのツテで、22の売り込みを図った。それはひとまず成功し、ハルトマンが購入したのである。

「うちは連合軍で唯一の未来世界の兵器を使用してる部隊なんだ、このくらいはな」

「ミーナが泡吹かない?」

「中佐もVFの費用対効果に気付いたし、多少は大目に見るだろう?ストライカーも個人個人でセッティングが違うし、VFだって個人単位でのカスタマイズは認められてるしな。あたしをみりゃ分かるだろ?」

「確かに」

シャーリーは最高速度を追求するカスタマイズを自身の機体に課している。それを示唆し、ハルトマンに『独自のカスタマイズを見つけろ』とアドバイスする。ハルトマンは納得したようで、この後、VF-22Sを更にカスタマイズし、自分専用に仕上げていくのであった。





――サーニャは芳佳に護衛してもらい、戦線に立っていたのだが、そこでF/A-18E/F部隊の襲撃を受け、芳佳と分断されてしまう。フリーガーハマーはジェット戦闘機への対空射撃用途には使えず、(フリーガーハマーの弾頭の飛翔速度をジェット機の速度が超えているため、未然に避けられてしまう)通常の機銃で対応せざるを得なくなった。

「は、速い!」

サーニャはジェット戦闘機の動きに対応しきれず、機銃を当てられない。更に敵機がアフターバーナーを炊いて音速を突破する際に発生するソニックブームに吹き飛ばされ、態勢を崩してしまう。

「きゃあああああっ……」

その隙を突くかのように、一機の『ライノ』がトドメを刺さんと、追撃をかけてくる。ドッグファイトに追われ、助けに行けない芳佳が悲鳴を上げ、自身も死を覚悟したか、思わず目を瞑ってしまう。だが、思わぬ援護が入る。それは……。

『大回転スカァァァイキィ――ック!!』

声が響き、サーニャを攻撃しようとしたライノが爆発する。サーニャは何が起きたのか分からず、呆然としてしまう。そして、次の瞬間、誰かにお姫様抱っこされている事に気づいた。

「え、え、えぇっ!?」

「大丈夫だったかい?」

「あ、あなたは…?」

「俺かい?俺は『仮面ライダー』さ」

スカイライダー=筑波洋だった。一号=本郷猛の指令を受け、セイリングジャンプで援護に駆けつけたのである。

「サーニャちゃ〜ん!って、ええっ!?」

「君は?」

「み、宮藤芳佳です。あなた誰ですか?」

「そうか、君があの…。綾ちゃんやケイちゃんから話は聞いているよ。俺は君達に加勢するためにやって来た仮面ライダーって言えば、分かるかい?」

「それじゃ本郷さんの後輩さんなんですね?良かったぁ……」

「俺は本郷さんから数えて、『8番目』の仮面ライダー、空を飛べる『スカイライダー』さ」

「スカイライダー……」

スカイライダーはその勇姿を現した。仮面ライダー達の中で唯一、完全な飛行能力を持つ男。彼は芳佳にサーニャを託し、戦闘に入る。

『99の技の一つ!!スカイフライングソーサー!』

超電イナズマキック同様に、空中で大の字になり、エネルギーを蓄え、そこからライダーキックを放つ。威力は通常のスカイキックを凌ぐため、ライノ(スーパーホーネット)を複数、貫いてみせた。

「す、すごい……」

「あれが仮面ライダー……彼らは何者なの、芳佳ちゃん」

「あの人達は『改造人間』だよ。それぞれ理由は違うけど、大体は体の殆どを機械に置き換えたり、すごいパワーで超人的な力と、仮面を被ったような姿を与えられたってのは同じ。今の技術だと夢物語だけどね、そんなのは」

「改造人間……」

『改造人間』。それは人体の一部を機械で補ったり、作り変えたりして生み出す存在であったり、BLACK(RX)やアマゾンのように、機械式で無く『生体改造』なケースもある。仮面ライダー達は改造手術で異形とも言える姿になりながらも、人類の自由のために、その命を捧げた。黒江達が彼らを兄のように慕っている理由を知る故か、スカイライダーの勇姿に頼もしさを感じ、微笑んだ。サーニャは不思議そうに、芳佳、それとスカイライダーに視線を移し、呆然とするのだった。




――黒江は縦横無尽に空を駆け、戦う。だが、数の不利は否めず、低空でもドッグファイトに持ち込まれ、一人に後ろから羽交い締めにされ、もう一人により、ボディブローの連打を食らわせられてしまう。

「がっ……!」

「あいつを殺された礼だ。特と甚振ってくれる!」

パワータイプのウィッチにより、執拗に腹を殴られる黒江。遂には気絶しそうになったところで海に顔を突っ込まれ、溺死させられそうになるが、こちらにも援軍が現れる。

『その子を離してもらおうか!』

「誰だ!?姿を見せろ!」

そう彼女が言った瞬間、数m級の津波が発生し、その津波がX字に斬り裂かれ、波を突き破るかのようにして、一人の仮面ライダーが姿を現した。

『Xライダー!!』

仮面ライダーX=神敬介だった。Xライダーはライドルをスティックへ変形させ、黒江の顔を海面へ突っ込ましているウィッチの脳天をぶっ叩いた。

『ライドル脳天割りぃ!』

バコーンという音と共に命中したライドルにより、気絶した敵ウィッチから黒江を開放し、助け出す。同時にもう一人は。

『ライダー電気ショォック!』

ストロンガーには及ばないが、かなりの電撃をライドロープ越しに食らわせ、感電死させる。

「生きてるか?」

「え、Xさん…ゴホゴホッ……来てくれたんですか?」

「本郷さんの指令で、動けるライダーはお前達の援護に向かっている。村雨ももうじきつくはずだ。お前はクルーザーで空母に戻って、しばらく休め。そのダメージでは戦闘を続けるのは辛いだろう。」

「痛っ……確かに。ちくしょう、腹ばかり殴りやがって……。クルーザー、借ります」

「ケイちゃんには、俺から連絡を入れておく」

「お願いします」

黒江は溺れかけたのか、Xライダーが介抱し、水を吐き出させる。負傷具合を確認したXは、黒江に空母への帰投を促す。黒江は了承し、クルーザーを遠隔操作してもらい、ストライカーを履いたままでクルーザーにまたがって空母へ帰投する。Xライダーは圭子のインカムに脳波通信で通信を入れ、黒江の事を伝えると同時に、自身ら仮面ライダーが参陣した事を伝える。

『分かりました。指揮を引き継ぎます。黒江ちゃんも災難ですね』

『溺れかけてたからな。これでスイミングスクールにでも通い始めるんじゃないか?肺活量を鍛えるとかで』

『確かに。あ、Xさん。こんな時にアレなんですけど、黒江ちゃんが釣り竿欲しがってるんで、二本くらいどうにか出来ません?』

『それは別に構わないが……。そうか、ケイちゃん。今月、ライカの新しいレンズとか買ったな?それで綾ちゃんとの約束を忘れてたんだろう』

『恥ずかしながら……。約束思い出したの、レンズとか買った後だったんですよ』

『なるほどな。オートレースの賞金が余ってるから、それで都合つけておこう。ルアーも付けておくよ』

『ありがとうございます。助かります!』

圭子とそんな内容の通信を交わしつつも、敵ウィッチを返り討ちにしていくXライダー。その強さに、敵ウィッチはXライダーを『銀の鉄仮面の怪物』と恐れる事になる。



――ヒーローたちが徐々に参陣してきている事もあり、戦局は連合軍側優位に傾き出しつつある。ティターンズはエセックス級航空母艦『オリスカニー』を失い、その艦載機を後衛の輸送艦とを兼任している空母『フィリピン・シー』に着艦させざるを得なくなる、後衛から空母『レイテ』、『ハンコック』を引き抜いて、前線に出すなどの不都合を余儀なくされる。だが、陸上機も多数動員したおかげもあり、戦局は互角を保っている。

「占領した敵基地にP-47、A-1は到着したか?」

「ハッ」

「発進を通達!数で圧倒せよ!」

ティターンズはこの時、全投入機にして、2000機近くの作戦機を動員した。連合軍側の全動員数の倍近くに相当する。これは近代空戦では史上空前絶後の規模であった。対する連合軍もMSやVFを全力投入していくため、後の記録によれば、『最終的には、双方合せて、述べ5000機が投入され、文字通りの死闘だった』と記録され、連合軍が太平洋戦争で、空中指揮管制を近代化させていくきっかけとなる。この時に現場の判断で戦闘を行い、高度に指揮統制されるリベリオン軍に返り討ちにあった連合軍航空部隊が続出したためで、連合軍は必要最低限の防備以外の全ての欧州地域の航空隊をフル動員させて臨んだと記録される。

「敵、第4、第5、第6波攻撃隊、来ます!」

「なんとしても阻止せよ!ここを阻止せねば、この世界をティターンズの亡霊共の好きにされるぞ!三軍の全稼働機をつぎ込んででも、奴らを止めろ!」

連邦軍は第一航空艦隊の総力、駐留空軍、海軍のの総力を動員し、ティターンズを阻止せんと、駐留している三軍部隊全ての稼働機を前線に注ぎ込む。海戦は二日目の午前中の段階で総力戦の様相を呈し始めるのであった。指令を受け、各方面に駐留する連邦軍の航空部隊が次々と欧州に向けて発進する。旧型のTIMコッド、コアブースターまでもが動員されるあたり、連邦軍の本気度が窺えた。



――ウィッチ世界の後世、歴史家達は『どうして、ここまでの戦だったのに、冷戦が起こったりして、歴史に与えた影響が微小だったのか』と大海戦を皮肉るが、それは双方の戦略的目標が『欧州を守る』事だったり、ロマーニャの占領』だけだったからだ。それ以上でもそれ以下でもない。あるのは、当時に戦った名もなき戦士達の姿と、裏で尽力した歴代スーパーヒーローたちの姿だけである……。



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