外伝その73『魔女達の舞踏会』
――魔女達の舞踏会は開始された。リベリオン本国から動員された者、占領地から徴兵された者、ティターンズ幼年学校生、青年将校が覚醒した者とが編隊を組んで現れたのだ。これに対し、連合軍は501〜506までの統合戦闘航空団の戦力で対抗した。黒江ら三羽烏、ストームウィッチーズの面々も入れれば、人類最強格のウィッチ達の過半数が集結したわけだ。
――B空域
「す、凄い……506まで集まるなんて……」
「これで人類最強格の過半数はここに集まった事になりますよ」
ミーナは戦場に、旧506隊員が到着した事を知らされ、驚愕した。この空に『人類最強格』と言える統合戦闘航空団の半数が集結したなど、普通はあり得ないからだ。
「ミーナ中佐、聞こえるか?こちら扶桑皇国海軍大臣の山本五十六だ」
「は、はい。閣下」
「俺が手を回し、506隊員を増援に送った。現場での指揮権は君に一任する。僭越ながら、我が国からも増援を送った」
「あ、ありがとうございます。ですが、私がそんな統合部隊の指揮を?」
「ガランド君からの推薦もある。自信を持ち給え。君は今や大佐なのだ」
そう。一部からは中佐と呼ばれるが、階級は昇進したのだ。その為、十分に4つの統合戦闘航空団を率いるに値する。いや、507の一部も含まれているため、正確には五つか。
「……分かりました」
「よろしい」
ミーナは山本五十六からの指令により、臨時で4つの統合戦闘航空団を率い、戦闘の対応を行った。この時に501が他の統合戦闘航空団より上位として扱われたのは、後世から批判もあるが、当時最善の選択とされる。連邦軍はこの宴に対応するため、士気高揚策として、戦場から圭子を呼び、なんと『歌を歌わせた』。
――連邦軍ガルダ級『アウドムラ』
「本当に私でいいんですか?こういうのは黒江ちゃんのほうが向いてますよ」
「黒江中佐は前線でブイブイいわせるほうが向いとるしな。かと言って、智子大尉はイマイチ歌唱力がな」
「な、なるほど」
「サウンドブースターの準備は出来てる。曲の選曲はこっちでするから、君は歌ってくれ」
「り、了解」
連邦軍の近年からの得意戦法『ミンメイアタック』である。これは対ゼントラーディ戦用とされたが、最近は士気高揚で行われる事も多い。ウィッチ達には、これが初体験だった。
「え?このイントロは……『Believe yourself』?処刑用BGMじゃないの。カラオケで黒江ちゃんが歌ってたから、行ける!」
圭子は歌う。連邦軍にいるので、ミンメイアタックの効果は熟知している。未来世界のリン・ミンメイ、FIRE BOMBER、シャロン・アップル、シェリル・ノーム、ランカ・リーなどを知る身としては、やるしかないと腹をくくった。
――戦場で奏でられる音楽。『場に相応しくない』と眉を顰めるウィッチも多いが、士気が高揚する者も多かった。
「この歌……加東中佐?……なんだろう……。胸が熱くなる……」
サーニャは聞こえてきた圭子の歌に戸惑いつつも、不思議な胸の高鳴りを感じる。そして、不思議と、『同胞と戦う』という事への怖さが薄れていく。相手が人間であろうと、『守りたい者達のために戦うこと』。それは罪ではないのだと。
「ごめんなさい……だけど、私も退けないの!」
サーニャは人間相手にはフリーガーハマーを使わず、九九式二号20ミリを使用し、機体だけを狙う。サーニャの腕であれば、ストライカーユニットの主翼だけを狙う事も容易であり、敵ウィッチの不意を突き、ユニットを破壊していく。決意を固めたサーニャは強く、この戦いで、『ロマーニャの白百合』の諢名を得るのだった。
――旧502隊長のグンドゥラ・ラルは、圭子の歌に戸惑いつつも、敵ウィッチとドッグファイトを行う。連邦軍の治療で、古傷はほぼ完治したが、今でも保護目的でコルセットをしている。因みに、声は御坂美琴を大人にしたような感じであり、その事で、三羽烏とちょっとした笑い話になったという。
「さて……若い連中や先輩達の前だ。いいところ見せんとな」
ラルはMG42を使い、敵ウィッチを蹴散らす。人類第三位の撃墜数は伊達でなく、巧みに背後を取り、ユニットを破壊していく。
「俄仕込みのウィッチを出したところで、私を落とせるものか!!」
撃墜され、墜落していくティターンズの軍服を着た10代前半のウィッチを一瞥し、そう言う。人類三位のエースである故の誇り、敵に降った者たちや、敵の育成してきたウィッチに対し激しい闘志を燃やす。そういうところは、声が似ている事もあり、御坂美琴とどことなく思わせる。だが、ティターンズに猛者がいないわけではなく、彼女と互角に渡り合う者も当然ながら、『いる』のだ。
「何っ!?私が背後を取られただと!?」
ラルは驚愕した。気付かない間に背後を取られたのだ。そして、機銃の火線が自分の周りに走る。
「ならば!!」
BF109の真骨頂である『一撃離脱戦法』、その内の上昇力で振り切ろうとするが、なんとBf109を上回る上昇力の敵に自分が追いぬかれたのだ。
「フハハハ……そんなマイナーチェンジで、この陣風に勝てるものか!」
敵のウィッチは自分の機体を『陣風』と言った。これは史実では、紫電改と同時期に開発されながらも、中止された制空戦闘機(甲戦)だ。ティターンズはそれを鹵獲した紫電改の改造で作るという荒業で実現させたのだ。機体構成の似たF6Fからの改造機も多いが、鹵獲紫電改から改造された個体は、Bf109を上回る性能を見せた。
「落ちろ!!」
ティターンズのウィッチからの上空からの一撃。ラルはそれを避ける。
「舐めるな!!」
ラルは曲の影響か、熱くなっていた。そして。『彼女』と一騎打ちとなる――。
――智子は圭子が歌ってるのに微笑みつつも、自身も戦う。曲は二曲目の『Alive A life』に切り替わる。この曲は智子がカラオケで歌うが、いつも高得点が出ないと嘆いている。
「ああ、もう。これ歌おうと思ってたのに!……まっ、いいか!」
跳躍し、炎を足に纏わせながらきりもみ回転し、飛び蹴りを行う。ミーナは思わず苦笑いだ。
「もう、いったい扶桑ウィッチはどーなってるの……でも、戦場で歌を歌うのは……複雑だわ」
戦場で歌を歌う行為を当たり前に認識している智子と違い、軍入隊前、本気で歌手を目指していたミーナにとって、戦場の真っ只中で士気高揚のために歌う事に抵抗があるようだった。だが、ミーナにとっては、歌唱訓練が活かせるかもしれないという、仄かな願いもあり、複雑だった。曲は三曲目になる。一年戦争の連邦陸軍でちょっと流行った『10year's After』だ。この曲は第08MS小隊員の誰かが作ったとされ、いつしか戦時が続く連邦軍の間で普及し、メカトピア戦時には有名歌手がレコーディングし、スマッシュヒットしたという。ミーナも自然と智子に続いて、口ずさむ。そのおかげか、サウンドウェーブがパワーアップする。
「よし、次はコズミック・イラから持ち込まれたこれだ!」
アウドムラの担当員は、ミーナが歌い出したのを知ると、『10year's After』が終わり次第、次の曲を用意する。コズミック・イラ世界から持ち込まれた『静かな夜に』だった。これは偶然であるが、ミーナと、コズミック・イラ世界の歌姫であり、プラント前議長の娘でもある『ラクス・クライン』の声色が酷似(ラクスのほうがキーが高いが)している事が判明していたからだ。圭子は遊び心に気づき、通信で、次の曲はミーナにメインで歌うように催促する。ミーナは抵抗感があるものの、了承し、曲に合わせて、普段歌う時よりキーを高めにして、歌った。流石に歌手志望だっただけあり、見事だった。
(こ、これでいいかしら?)
(バッチリですよ。さすが本式の教育受けただけはある)
(複雑だけど、これで皆を助けられるのなら、私は歌うわ)
歌は自分の夢だった。戦場で歌う事は本意ではないが、これが皆を助ける事に繋がるのなら、と歌う。チバソング値も高い数値をマークしたため、管制官の要請で、圭子と交代で歌うことになった。次は圭子の番だ。
「あー、次は『Zips』頼むわ」
圭子も歌っていて、火がついたらしく、ポップミュージックをリクエストする。そして、自分の番になったらノリノリで歌った。
――これに『!?』となるバルクホルン。それをたしなめるエディータ・ロイマン
「せ、戦場で歌だと!?一体、何を……」
「まぁ、いいじゃないですが、少佐。向こうでは普通に行われる行為だそうですので」
「歌までも兵器利用するのか?……ミーナの事を思うと、複雑だな……あなたはどう考えているのです?ロイマン少尉」
――バルクホルンはロイマンに敬意を払っていた。彼女はエーリカ・ハルトマンの師であるからで、そのためか敬語だ。
「向こうは向こうの考えがありますから。私は賛成ですよ。士気高揚にもなりますしそれに、昔の百年戦争の時にそういう記録ありますよ」
ロイマンはロリータな外見からは想像できないが、現役最古参世代のウィッチである。それ故、大人の落ち着きを垣間見せていた。なお、教育曹長のポジションを天職としていたので、士官学校への入校を頑なに拒んだ。そのため、特務少尉に任ずるという手段を取った。カールスラント勢が違和感を感じるのに対し、ブリタニア勢はハイランダーの伝統も有って、特段疑問に思わない。この辺りが認識の差である。
――黒江は、サウンドブースターで歌が流れている事に気づくと、自分も混ざると言い出した。取り敢えず、『Zips』の次にねじ込んだので、『Revolution』を歌った。これは扶桑陸軍では屈指の歌唱力を誇ると自負していた黒江の歌唱力もあり、士気高揚効果が高かった。
「おい、ヒガシ。私がRevolution歌ったから、穴拭がよく聞いてる……ええと、なんだっけ?」
「Justiφ's?」
「そそ、それ歌ってやれよ。あいつ、ハッスルするぞ」
「んじゃ、行くわ」
圭子はJustiφ'sを歌い出す。黒江の予測通り、智子は俄然やる気を出す。
「キタ〜〜ぁぁぁ!おっし!本気で行くわよ!!」
智子は敵ウィッチを第二の固有魔法『加速』で一気に蹴散らす。最大限に加速したので、敵ウィッチの目では追えず、最初の一撃である、魔力を乗せたドリルキックが掠るだけで、シールドを割られ、吹き飛ばされていく敵ウィッチ達。更に敵の管制機をそのままぶちぬいて破壊する。
「どーよ!!あたしはまだまだ『飛ばしていく』わよ!」
ドヤ顔で言い放つ智子。炎の翼で飛翔するため、自由に飛翔可能なのが大きな利点となっていた。と、そこに。
「これ以上はやらせるわけにはいかんな、穴拭」
「勇子……!」
「ほう。今回は能力を制御出来ているようだな。それでこそ戦いがいがある」
佐々木勇子だ。だが、彼女もストライカーを履いていなかった。その代わりに、オーラらしきものを体から迸らせている。
「我が神の加護のもとに、お前を殺すぞ。穴拭」
「神……!?どーいう事よ、勇子!」
「これ以上は喋る必要はない」
と、勇子の拳が放たれる。その拳は『音速』を超えていた。風圧で頬が切れる
「なっ……拳の音が後から聞こえてきた……という事は音速を……!?」
「そうだ。これが私が、我が神の守護戦士となることで得た『力だ』
「……自分の意志と力で殺すって言えない所で失格ね」
「ほう?」
「大体、何よ。我が神って。アンタはいつから他力本願で戦うようになったの。仮にも、ウィッチであったのなら、自分の力で戦いなさいよ!!」
智子は吠えた。ウィッチとしての力よりも魅力的な力を得た勇子は、その力に溺れているようにしか思えなかったからだ。
「減らず口を!!」
勇子は音速拳で攻撃する。この頃の智子には見きるのは難しい攻撃だが、多少の怪我にかまってはいられない。
「ほう。だが、いつまで耐えられるかな?」
「くぅうううう……あたしは……あたしは……あんたの死を悲しんだ『幸子』や、50Fのみんなのためにも、アンタを倒す!!隊長や幸子の前に引っ張って、土下座させてやるわ!」
智子は気迫で音速拳を凌ぎ、拳で一発見舞う。そして、カイザーブレードを召喚し、炎を纏わせる。
「フ、それが扶桑海の勝利をもたらした剣か!!いいだろう。こちらも見せてやろう。我が魔剣『ミステルテイン』を!」
「ミステルテイン!?」
「そうだ。俺は北欧神話でバルドルを死に至らせたとされる魔剣を宿したのだ。その一端を見せてくれよう!」
手刀を見舞う。すると、もの凄い衝撃波が智子を襲い、肩口を斬り裂かれる。
「ああっ……!」
「お前とて、その借り物の『剣』の力に頼っているのだろう?それを思い知らせてやろう」
「何を!!」
勇子は右手に宿すミステルテインを振るい、実体剣を振るう智子と打合せる。
「あ、ああああああっ!」
「お前は昔から気迫で勝てると思っているようだが、それは違う。伊達に俺が『腕の佐々木』と呼ばれていない理由を思い知らせよう!!」
「気迫だけで勝てる段階はとっくにとおりすぎてるわ!!」
「そうか、ならば我が剣舞を以て、お前への手向けとしよう!!」
ミステルテインの衝撃波を幾重にも打ち、智子に逃げ場を無くす勇子。智子はミステルテインに瞬く間に体を斬られていき、衝撃波が連続で当たっていく内に、左腕の手甲が砕かれる。
「嘘、でしょ……この力でも、あんたを止められないなんて……」
あまりのショックで放心状態に陥る智子。ミステルテインの威力で、カイザーブレードを振るえなくなるほどのダメージを一瞬で負わせられたからだ。
「俺を止めたければ、アテナにでも『願う』ことだな」
「穴拭!」
黒江が助けに現れ、不意打ちで剣を見舞うが、これも指で止める。
「何ぃ……私の一撃を…指一本で!?」
「フッ!!」
「うわあっ!」
「綾香!」
黒江は慌てて態勢を立て直すが、音速拳を舞われたため、鼻血が出ている。
「俺を倒したいのなら、俺の登った領域まで『来る』事ですね、お二方」
「何だと!?」
「今のあんたらの実力じゃ、俺の薄皮一つ傷つけられんと言っているんですよ、黒江先輩」
「何………!」
「まあ、今日はあんたらの実力を見れただけでも儲けモンでしたよ。また会おう」
悠々と去っていく勇子。黒江は鼻にティッシュを突っ込んで、鼻の応急処置をしながら、「クソぉ、今の私達じゃ、アイツには一太刀も届かない!!!」と叫ぶ。智子は覚醒後初の敗北であるので、黒江にすがりついて泣きじゃくる。智子は、覚醒してから築きあげてきた自信が一気に瓦解したらしく、「綾香ぁ、綾香ぁ……」と、子供のように肩をしゃくりあげながら大泣きしている。黒江は決意し、智子の肩を掴む。
「……強くなろう。あの人達だって、敗北を力の糧にしていったんだ。私達だってできるはずだ。敗北を力に変える事を」
「う、うん、うん……!」
――この敗北は、二人に大きな影響を与えた。黒江は『同じ領域まで登ってやる!!』と、対抗するための手段を模索していくようになる。やがて、フェイトと箒らが『その世界』を発見したことで具現化し、仮面ライダー三号への敗北を期に、聖闘士となる道を選ぶ。智子は剣の再修行を志願するが、それでも心の中の不安を拭えずにいた。だが、飛行50Fで自分を慕っていた部下であり、僚機であった『下川幸子』の死により、覚醒の更なる扉を開く事になるが、それは先の事。
――曲は『インフィニティ』になる。シェリル・ノームの楽曲だ。黒江と智子はこの敗北を期に、友情を更に深めていく。曲の歌詞の力もあり、胸の内に悔しさを秘め、戦う。そして、二人のもとに、扶桑からの援軍が到着する。
「久しぶりだな、お二人さん」
「て、徹子!?」
「それと、西沢!?お前ら、どうして……」
「ガッハッハ、五十六のおっちゃんの命さ。それで若本を掴まえて、ぶっ飛んできたのさ。五十六のおっちゃんが直接命令できる中での最高の援軍といえば、あたし達だからな」
西沢がいう。当時、空軍設立前の扶桑軍は、大臣といえども、管轄外のウィッチは呼び寄せられなかった。そのため、海軍のウィッチで最強の二人を呼んだのだ。
「あんたらが苦戦してるって聞いてな。美緒や醇子とも久しぶりに会いたかったし、西沢にくっついて来たのさ」
「お前ら……」
「さぁ、反撃開始と行こうぜ!!」
若本が吠える。扶桑最強の誉れ高い自分が来たからには、勝利をもたらしてみせると。こうして、戦場はオールスター戦の様相を見せるが、別戦線からは文句が生じる。エースパイロットをここまで一極集中させるべきでないという文句が届いたのだ。
――連合軍司令部
「大臣、よろしいのですか?若本や西沢までもロマーニャに呼び寄せて」
「潰せる時に最大戦力を以て殲滅するのは基本だろう?兵学校で習わなかったのか。文句を言ったそのバカに言ってやれ。『兵学校からやり直せ』と。」
山本五十六は、連合軍の中佐級の事務員にそういう。自軍の最大戦力を、最激戦地に投入しなくてどうするのだと示唆して。
そう。エースパイロットの過半数を一つの戦線に集中させて運用する事は、未来世界でも例がある。そのため、あの二人を呼び寄せたのだ。
「他の戦線は連邦軍が支援すれば、持ちこたえられるし、人類の状況に今すぐどうこうというわけではない。だが、ロマーニャを失えば、我々は地中海の拠点を失う。それだけは避けなくてはならん。たとえ、相打ちになろうとも、な」
山本五十六は基本的に、軍政家である。けして軍略家ではない。その為、軍略の常道を外れた博打を打つ。エースパイロットの一極集中はその一環であり、それに反対する者たちは『山本の戦下手』と侮蔑する。山本は知っていた。未来人からは、自分を含めた扶桑海軍高官の多くは『戦下手』との評がある事を。小沢治三郎にさえ『マリアナの敗将』と侮蔑する声があるのなら、『自分は軍略家としては三流だ』と自嘲した。だが、この時に打った軍政の一手は最上の一手であり、未来世界で自分の評価が持ち直すきっかけとなった。
――若本と西沢の来援は竹井と坂本を驚かせた。
「え!?徹子と義子が!?」
「そうよ。たった今、黒江中佐から報告があったわ」
「し、しかし、徹子はともかく、義子は神出鬼没で、妹分の菅野でも、連絡先知らんのだぞ?どうやって……」
「……仮面ライダー達の連絡でこっちに来たそうよ。その関係で連れてきたらしいわ。そこの飛行場に若本中尉もいたから、山本五十六大臣が二人に指令を出したそうよ」
「いいのか?戦線にこれだけの戦力を集中させて」
「山本大臣曰く、『出来るときに最大戦力で潰すのは基本』だそうよ。」
「山本さん、博打打ったな」
坂本はガクリと肩を落とす素振りを見せる。山本の博打は熟知しているからだ。ミーナとの通信を終えると、竹井に視線を送る。
「あいつらが来た以上、リバウの三羽烏は健在ということを見せてやろう、醇子。三羽烏は、あいつらだけでないということを教えてやる!」
坂本は、ここ10年近く、三羽烏と言うと、智子、黒江、圭子の陸軍三羽烏を指すようになっている事にライバル心があった。坂本・竹井・西沢の三人もリバウで『三羽烏』と称されたが、リバウ戦線が敗北に終わったのと、三人が去った後が激戦になったため、三人の腕を訝しむ声も多い。そのためもあり、『リバウ三羽烏』は、国民的知名度のある黒江らに比べ、知名度が低いのだ。
「はいはい。でも、猫も杓子も知ってる、あの人達に比べると、知名度低いのは事実よ。映画も『そこそこ』だったし」
「ぐぬぬ……」
「やれるわね、美緒」
「ああ。上がる寸前のロートルでも、やれる事はあるさ!黒江、お前の技を借りるぞ!!」
坂本はそう言うと、禁忌の奥義『烈風斬』に手を出そうとした過程で会得していた『秘剣・雲耀』を使用した。坂本のウィッチとしての寿命が縮んだのは、黒江や智子と違い、念動の才能がないため、刀に流し込む魔力を制御しきれなかったせいでもある。
『秘剣・雲耀』!!』
坂本は敵ウィッチに対し、秘剣・雲耀を使った。これは、この戦場が坂本の最後の輝きである事の暗示でもあり、竹井は心の中で哀しみを感じる。
(……これが貴方の最後の戦場となる……私は子供の頃から、貴方の背中を追いかけてきた。だから、今回は、今回だけは背中を守らせて、『美緒ちゃん』)
竹井は心の中で、子供の頃に呼んでいた『美緒ちゃん』と、坂本を呼ぶ。竹井は大人になり、普段は歳相応の口調だが、坂本や若本などの親友が危機に瀕すると、口調が子供の頃のそれに戻る。それが竹井本来の地である。坂本にはない、彼女の特徴なのだ。このことを知るは、彼女の第二の師である加藤武子と、三羽烏のみだ。
――曲は『恋のバナナムーン』になる。ジャミングバーズの楽曲で、スマッシュ・ヒットを飛ばした曲だ。曲に乗せて、ウィッチ達は近代兵器の弾雨に立ち向かう。
「敵のVFのミサイルだ!被弾すんなよ、穴拭!」
「さっきはちょっち、ぐずったけど、この穴拭智子様はね、こんな事でへこたれないわよ!……って、なんでティターンズが可変戦闘機なんて持ってんのよ!?あれは奴らの崩壊後の実用化じゃ!?」
「おおかた、軍需産業内部のシンパから横流しされたんだろう?機種は……この反応だと、サンダーボルトとヴァンパイア、それとVF-1か。まぁ、妥当な線だな」
ティターンズはこの戦いで、軍需産業から横流しなどで得た可変戦闘機を初投入した。機種は、連邦正規軍では『型落ち』の感が否めない旧世代機だ。
「妥当って?」
「新世代機は運用に必要な投資が高くつく。それにあいつらはVF-1すら知らない。そんなところにAVFを送っても、宝の持ち腐れだ」
「なるへそ」
「キタキタキタ、ハイマニューバミサイルだ!避けきれない奴は落とせ!」
「分かってる!」
「西沢、分かってるな!?」
「連邦軍相手に訓練してきてるんだ、お安いご用ですぜ!」
「若本は大丈夫か?」
「何、撃ち落としゃいいんだろう?簡単だぜ!」
扶桑最強のシュヴァルムと言える4人は、ハイマニューバミサイルを見事に避け、俗にいう『板野サーカス』を出現させる。ミサイルの弾雨を撃ち落としたり、すんでで回避するなどの芸当は、ウィッチとしての最高級の機動と言っていい。
「あいつら、『踊って』やがる!」
その様子を目撃したエイラは、思わず唸る。4人の機動は、未来予知を持つ自分でも見事だと思わせるほどに華麗だった。これは後に『ストライカーダンス』という名で普及する機動(智子はこの時は自前の翼で飛んでいたが)となり、後に連邦軍に逆輸入される事になる。
――芳佳と菅野は、スカイライダー、Xライダーの援護のもと、戦った。菅野は小柄な体(150台に伸びたが)ながら、見事な闘志を見せ、スカイライダーとXライダーを感心させる。
「でりゃああ!!」
菅野はシールドを拳大に圧縮させ、敵ウィッチをぶん殴り、気絶させる。殺さないあたりは『優しい』。
「ストライカーだけを……斬る!!」
芳佳は、他世界では見られない技能である『剣技』を使い、シールド突撃と並用する形で敵機を寄せ付けない。
「よし、それじゃ俺も一働きするか」
スカイライダーはセイリングジャンプの速度を上げ、800キロに加速する。そこから、キックの態勢に入る。
「スカイキィィ―ック!」
落下速度は空気抵抗で時速600キロ程度で止まるが、それでも、そこから高破壊力のライダーキックを当てられるのだから、ウィッチには恐怖だった。直撃すれば、まっ二つに体を千切られ、痛みを感じる前に死ねるからだ。そして、スカイキックはシールドをぶちぬいて、ウィッチを文字通りにまっ二つに裂く。断末魔の悲鳴すら挙げない一瞬だ。
「おおう……腸をぶちまけて死んでいくぜ……ありゃ夢見悪くなりそうだ」
菅野が言う。流石に、人間まっ二つは堪えるようだ。
「クルーザーアタァック!」
Xライダーにオートバイで牽かれるほうが慈悲深いと見るべきか、菅野は考える。
「でも、未来世界の兵器で跡形なくぶっ飛ぶよりはマシ、かなあ?……おっと!」
菅野も敵に対しては容赦ない方だが、流石に人間相手では、加減はする。新鋭ジェットストライカー『P-86』はいい感触である。
「もう次が検討され始めてるってのは、早すぎません?」
「技術が加速してるしな。F-104、F-4Eまでは早期に出現するだろう。問題はその後だ」
「おい、宮藤、こいつの形式のP、Fに改称されたんだっけ?」
「リベリオン空軍はできる途中なんで、シャーリーさん達は空軍ですよ。たぶん、Fになったかも?」
「曖昧だなぁ」
「すみません、そういう事情、疎いんですよ」
芳佳は他世界線よりは軍に馴染んでいるが、それでも、そういう細かい事情は分からない。それを菅野は思い出す。
「うぅーん。あとでシャーリーに聞くか」
「それがいいですよ」
「だな。さて、どうします」
「正面突破と行こう。大丈夫だ、俺たちがついてる」
「敵、ブルってるような?」
「誰だって、スーパーヒーローに喧嘩を売りたくはないだろう?」
「そりゃそうか。奴さんにとってのクラー○・ケントみたいなもんだしな」
「ん……風見先輩からだ。……何!?」
「どうしたんです?」
「坂本少佐が怪異を追いかけ、吶喊していたら、複数の超小型に拘束され、そのままワープしていったらしい。竹井少佐が動揺してしまって、今、風見先輩が落ち着かせているが……」
「何だって!?」
「坂本さんが!?」
動揺が走る。坂本が捕まったというのは、予想だもしなかったからだ。竹井が動揺するのも無理はないが……。
――B空域
「大丈夫だ。坂本少佐はそう簡単には死ぬようなタマではないのは君も知っているだろう?」
「はい……で、でも、このまま見つけられなかったら、『美緒ちゃん』は、『美緒ちゃん』は――……」
動揺のあまり、竹井は地が出ている。11歳当時を感じさせる、ちょっと幼げな口調に戻っていた。周りに504の部下がいないためもあるだろう。
「やっぱり、私は駄目ですね……。リバウの貴婦人と言われても、心の何処かでは『美緒ちゃんみたいになりたい』って思っていたんです。美緒ちゃんが私の心の支えだった……あの頃から、子供の頃から『変わりたい』って思い続けてたのに――!」
坂本を目の前で攫われたのが、よほどショックだったか、今にも泣き出しそうだ。一見して、強い精神力を得たように思える竹井だが、内面には11歳当時からの坂本への羨望を抱く幼い日の自身の姿が見え隠れしているのだ。
「信じてやれ!お前がヤツの無事を信じてやらないでどうするんだ!ここには仲間も居る、こうなれば、まとめて助けに行こう!」
「で、でもどうやって……」
「私達が坂本さんを助けます!」
「宮藤さん……?」
「そうですよ、弱気になるなんて、竹井さんらしくありませんよ!」
「下原さん……」
「そうっすよ。坂本さんは必ず、俺達が助け出します!待っていてくださいよ!」
「菅野さん……」
「おっしゃ、二人共、俺に続け!」
竹井の空域から、三人の飛行機雲が見える。
「よし、X、スカイライダーは三人を頼む!俺は竹井少佐を援護する!」
V3は指令を出し、自身は竹井のカバーに付き、ハリケーンで追従する。竹井は三人の言葉で、なんとか平静を取り戻し、坂本の捜索に打って出た。この報は黒江達にも伝えられた。
「何ぃ、坂本が!?」
「竹井少佐の証言だと、超小型怪異に拘束され、ワープして消えたとの事だ。竹井少佐は凄く動揺しているよ」
「そりゃそうでしょうね。坂本は竹井にとっては心の拠り所なんす。それを攫われたとなりゃ……」
「あいつ、意外に打たれ弱いからなぁ……。あたしとか、坂本に不測の事態があると、弱いところが表に出るんだよな」
「醇子の奴、ガキの頃から、オレや美緒の後ろをくっついてきてたから、精神力がイマイチなんだよなあ」
――竹井の親友である西沢と若本も、竹井の精神的脆さを見抜いていたのか、黒江に続く。坂本の背中を守りたい、追いつきたい一心で強くなろうとしたものの、やはり子供時代のコンプレックスが形を変えて縛っており、坂本が攫われたことで表に出てしまったのだと悟ったのだ。
「V3さん、竹井を頼んます。私たちは露払いをします!」
「分かった」
V3からの通信を終える。
――黒江はこの時までフェイトに頼み込んで、この世界の下位となる観測世界・この世界と同位の平行世界を確認してもらった。すると、坂本はほぼすべての世界線において、この戦いの時間軸で魔力を失う。それが坂本の『運命』であると示されていた。運命。教え子を失ってから、『抗う』べきモノと考えている。『神がそれを気ままに操作しているのなら』と、考える。
「あいつの運命が神の手にあるのなら……私が、私達が『奪い返す!!』」
平行世界にいる仮面ライダーの一人、仮面ライダー=アギト=津上翔一を思わせる台詞だが、彼の戦いを観測した事があったためでもあった。
「あんたって、意外に熱い性格なんだな。昔はなんか、こう……裏でこそこそしてるイメージだったからな」
「この8年近くで色々あってな。それとお前、私にどーいうイメージ持ってたんだよ!?」
「何って……裏でこそこそして、美味しいところ持って行っちまうような感じだけど」
「お、お前なぁ……」
「言われてるわねぇ」
「るせー!」
若本に言われたのがガーンと来たか、黒江はしょげる。智子もこれには大笑いだ。
「でもさ、穴拭さん。なんでスオムスに居た頃は、その姿になんなかったんだ?気になって、あんたの記録を確認したことがあるんだけど、その固有魔法を使った記録が無かったぞ」
「うーん。貴方、SF小説読んだ事ある?」
「実家で、兄弟達のを借りた事あるから、まぁ、人並みには」
「んじゃ、種明かしをするわ。実は――」
智子はここで、自身の能力についてのネタバレをした。タイムパラドックスが含まれているが、この固有魔法は『リウィッチ』(正式名・リセッテッド・ウィッチ。未来技術で若返り、魔力を取り戻したものを指す造語)となった後で得たものである事、そのあとの時間軸から魂だけがタイムスリップすることで、あの光景が生まれたのだと。
「――という感じ?分かった」
「うーん……。オレと同じ覚醒系になったのはわかるけど、外見の変化がオレ以上だし、オレとは何かが違うんだよなぁ」
――智子が何故、『覚醒』したのか?その理由は当人にすら分からない。経験を増し、カイザーブレードを顕現させた後は、姿を維持できる時間が飛躍的に増大したが、リスクがないわけではない。戦闘能力の飛躍と引き換えに、魂が使い魔と同調し、やがて同化してしまうかも知れないという危険性がある。(武子はそれを人一倍恐れている)だが、智子が使い魔を『従えさせる』精神力を得ていた事もあり、それは杞憂とも言えるが。
「フッ!!」
智子はカイザーブレードを振るい、ミサイルを破壊し、その紅蓮の炎でVF-11を断ち切る。サイズ差からすれば、普通はありえないが、なのはやフェイトクラスであれば、VF-11の装甲を破壊する事は普通に出来る事であり、時空管理局の高位の魔導師はそのためもあり、質量兵器を軽んじていた。(ミッド動乱後は逆に、恐れに転じた者が多いが)智子が扶桑海事変後に部内で恐れられていたのは、その力を自らに振るわれる事を恐れたからだ。
――B空域に現れた怪異は巨大であり、付近に展開していたブリタニア戦艦『ロイヤル・サブリン』のバイタルパートを一撃で貫き、弾薬庫に引火させ、沈める。主砲塔などの上部構造物を船体から引き千切っての轟沈だったため、周囲の艦は怯え、主砲を浴びせるが、砲弾はシールドで弾かれる。そのシールドの魔法陣は扶桑のそれであった。艦隊を守るべく、赤ズボン隊が立ち向かうが、いずれもシールドと高出力のビーム、更に子機を使ったオールレンジ攻撃に対抗出来ず、無残に撃墜されてしまう。
「ああ、フェルさん!」
芳佳が悲鳴を上げる。赤ズボン隊のフェルナンディア・マルヴェッツィが撃墜されたからだ。フェルは持っていた機銃の爆発で重傷であり、芳佳が救出し、治癒魔法をかける。
「あ、ミヤフジちゃん……ゴメン。赤ズボン隊ともあろう者が……何てザマ……」
「喋らないで!すぐに治りますから!」
傷は治ったフェルだが、プライドはズタズタだ。肩を落とし、半泣きだ。
「おい、なんだあの怪異は!?」
菅野が言う。
「分からない……だけど、あの怪異はシールドを張って、艦隊の攻撃を防いだ……そのシールドの魔法陣は……扶桑のモノだったわ」
「なにィ!?」
「菅野さん、芳佳さん、それじゃ!」
「ああ。違いねえ。あの怪異に……。坂本さんはとっ捕まってる……!行くぞ!!」
「はいっ!」
菅野、芳佳、下原は怪異に攻撃をかけるが、怪異のシールドに攻撃を阻まれ、攻撃が通らない。おまけにオールレンジ攻撃により、息をつく間もない。
「おわっ!!くそ、攻撃が通らねえ!」
菅野も相手のシールドをぶち破るだけの攻撃力は無く、芳佳も、下原も決定打を持たなかった。だが、そこへX、スカイライダーが駆けつけ、各々の必殺技で以て対抗した。
『大回転スカイキィィィ――クッ!!』
『X!必殺キィィィック!!』
二人のライダーキックの破壊力はさすがの一言で、三人が弾かれるシールドを貫き、外殻を破壊していく。だが、怪異もライダー達の攻撃を黙って見ているだけではなく、キック直後を狙う。が、それは別のライダーに阻止される。
『十字手裏剣!』
「村雨!」
マルセイユらの護衛についていた、仮面ライダーZX=村雨良が到着し、怪異の子機を十字手裏剣で破壊したのだ。
「先輩方、遅くなってすまない!ちょっとこっちの方面が手間取ってな。俺も参加させてもらう!」
ZXは足のスラスターで怪異の直上に陣取り、特定のポーズを取り、全身を赤く発光させる。
「何、あの光……」
「ZXの全力だ。あの赤い光を発する時、ZXは最大破壊力の技を放つ事ができる」
「最大破壊力?」
「そうだ。見てれば分かるよ」
スカイライダーが言う。破壊力の観点で言えば、ストロンガー(チャージアップ)、RXと並んで三強を誇るのがZXなのだ。その証明と言える光景を出現させる。芳佳は思わず、息を呑む。
「ZX!!イナズマキィィィ――ック!!」
ZXの最強の技、ZXイナズマキックは赤い雷となり、怪異を貫いた。これで外殻は崩壊し、内郭だけとなったが、ここで一同は驚愕した。中央部に、完全に取り込まれ、自我意識さえあるか不明瞭な坂本の姿があったからだ。怪異はこれで完全に敵意を顕にし、坂本を苦しめる。
「あいつ、坂本さんの魔力を吸ってるのか?!」
「そんな、坂本教官!!」
「坂本さぁぁん!!」
『ぐああああ……あああああああああああっ!』
殆ど意識はないが、魔力を無理矢理に抽出されているらしく、全身が紫に発光し、不気味な鼓動音が響き、坂本が悲鳴を上げる。駆けつけた竹井は、あまりのショッキングな光景に、平静を装えなくなり、三人の前にも関わらず、地が出てしまう。
「美緒……ちゃん……いやあああああっ!?」
竹井は、この光景に強い精神的ショックを受ける。そして。
「よくも、よくも美緒ちゃんをぉぉぉぉ!!」
逆上して攻撃しようとするが、V3が止める。
「やめろ!迂闊に攻撃するんじゃない!あいつは坂本少佐を完全に取り込んでいる!そうなればダメージが坂本少佐にフィードバックされ、ダメージが限界を超えれば、坂本少佐諸共――!」
「そ、そんな!?」
「子……醇子……殺して、殺してくれぇ……」
目は閉じられており、自我意識は薄れているものの、親友がいる事を認識しているのか、自分を殺せと懇願する。涙を流しながら。
「いやあっ!私には出来なぁい!!」
竹井は大泣きする。残酷な現実。親友を殺めることなど、自分には出来ない。
『私が……完全に取り込まれる前に……早く、早く……!私が坂本美緒でいられる間に……!頼む……!』
突き付けられる残酷な現実。肩をしゃくりあげ、目を赤く腫らす竹井。もう手段はないのか。竹井、菅野、芳佳、下原は絶望の表情で、ライダー達にも打つ手はない。だが、通信が入る。
『諦めるな!』
「ケイさん!」
「今、フェイトのバルディッシュや、ティアナのクロスミラージュ、それと私の超視力で確認した!奴のコアは、坂本の首元に密着している!そこさえ斬れれば!」
アウドムラにいる圭子からの通信で、怪異のコアは看破された。だが、それを正確に斬れる腕を持つ者がこの場にはほぼいない。ライダー達では破壊力がありすぎて、坂本の首を飛ばしてしまう。かと言って、菅野は大雑把、下原は練度不足。志願したのは……。
「私がやります!!」
「お、おい宮藤!?」
菅野が驚く。
「坂本さんは私が助けます。私は坂本さんやみんなの笑顔を守りたいんです」
『まるで、どこかの世界の仮面ライダーみたいな台詞よ、芳佳』
「私は……お父さんとの約束を果たします。坂本さんはお父さんの事を私に教えてくれた。竹井さん、私を、私を信じてください」
「宮藤さん……!」
ぐっと来たらしく、語尾が震える竹井。この世界では才能を見出したのは彼女であるため、『ウィッチ・宮藤芳佳』の生みの親であるからだ。
『縛り付けてる怪異の一部が縄で縛られた様に絡み付いていて、首周りにコブ状の部分が出来てるだろう?その中にコアが有る。……やれるか?』
『やります。私は諦めたくないんです』
そう答え、刀に魔力を込める芳佳。攻撃を潜り抜け、坂本のもとにたどり着く。
『止すんだ……ミヤ……』
『坂本さん……ごめんなさい。だけど、私は!』
首元のコブを刀で突く。芳佳の膨大な魔力は、一気に坂本の全身に充満してゆく。そして。黒く染まっていた坂本の体が、元の色に戻っていく。そして。怪異本体のコアがダメージで露出する。
「あれがアイツの本体の……!」
「でも、あんなコア、どうやって!」
『宮藤!!』
「黒江さん!!」
『これを使え!』
ISを展開して駆けつけた黒江が、芳佳に武器を投げ渡す。それはビームザンバーだった。
『こいつなら、あのデカブツと、周りのコ・コアをまとめて斬れる!やってやれ!!』
「はい!!」
二刀流となった芳佳は、その諢名を決定づける技を放つ。
『秘技・光刃閃!!』
これは黒江が自室でやっていたゲームの登場技を真似たものだが、この世界の芳佳の腕ならば再現可能だ。
『風を――光を超える!!』
瞬く間に怪異のコアは両断される。二刀流なので、多少異なるが。
『これで――終わり!!』
最後に、実体剣を投げ、ビームザンバー一本で怪異の大コアを斬る。
――パキィィン。
音が響く。コアが破壊されたのだ。坂本が開放される。投げた刀を、芳佳は華麗にキャッチし、鞘に収めた。坂本は空高く放り出されたが、
芳佳がお姫様抱っこして受け止めるする構図となった。
「……美緒、ちゃん……!」
坂本のもとに駆け寄る竹井。気絶している坂本だが、その顔は穏やかになっている。
「ありがとう、ありがとう……宮藤さん……!」
「竹井さん」
竹井の感極まった顔に、芳佳は精一杯の笑顔を向ける。だが、事態はこれで終わりというわけでなく、先ほどの怪異が最後の力で狼煙をあげ、欧州中の空戦型を集結させたのだ。その報告が入る。
「クソ、こっちはティターンズとの戦いと、今のアイツのせいで消耗してるっつーに!」
黒江が悔しさを顕にする。だが。
『待たせたな!!』
黒雲を切り裂いて、一隻の超次元戦斗母艦が姿を見せる。それは――。
「あれは!?」
「グランドバース……。シャリバンさん!!来てくれたんですねっ!」
『そうだ。俺達は君たちの住むこの世界を守るためにやって来た。今がその約束を果たす時だ』
超次元戦斗母艦『グランドバース』。宇宙刑事シャリバンが誇る要塞である。そのグランドバースが颯爽登場したのだ。黒雲を切り裂き、稲妻を背負っての登場は出来過ぎているが、ドラマチックだった。
『バースビーム!!』
グランドバースの艦橋部からビームが放たれ、大小問わず怪異は蹴散らされる。
『バトルバースフォーメーション!!』
シャリバンは操縦桿のスイッチを押し、グランドバースを戦闘形態へ変形させる。400mを超える巨体が変形する様は圧巻だが、いささか分格好な姿だ。
「……でっかい弁当売り?」
菅野が突っ込む。グランドバースの姿は『弁当売り』を連想させたからだが、戦闘能力は本物である。グランドバスター、星も砕くプラズマカノンで怪異のハエ叩きだ。
「言ってやるな、ヤツも気にしてるんだ。改造船だからあれでも頑張ってるんだ」
V3がいう。シャリバンもバトルバースフォーメーションがぶっ格好なのを現役時から気にしており、シャイダーのバビロスを羨ましがったとも補足する。
「改造船?」
「シャリバンの先輩のギャバンから聞いた話だが、彼の地球赴任の時に、休船中の高性能旅客船を徴用して、戦斗母艦に無理矢理改造したから、あんな格好なんだ」
「無理矢理すぎだろ……」
グランドバースの勇姿に、菅野は思う。出自を考えると、無理矢理すぎるからだ。そして。もう一隻の母艦も姿を見せる。
『すまない、遅くなった!』
「シャイダーさんも!?」
『バトルフォーメーション!!』
宇宙刑事シャイダーもバビロスで駆けつけ、バトルフォーメーションとなる。こちらは当初から変形を前提に設計、開発されたので、遥かに洗練された姿を持つ。そのため、子供にはこちらのほうが人気があるとのこと。
『バビロスファイヤー!!』
バビロスの胸の放熱板が輝き、熱光線を放つ。怪異は二大戦斗母艦の前に、ハエのような様相を呈するが、たった二隻と、竹井が心配するが、それは杞憂だった。歴代戦隊のメカが駆けつけたからだ。
『行くぞ!!スーパーライブディメンション!』
『スーパーシフト、スーパーターボロボ!!』
『合体!!グレートスクラム!!』
姿を見せた超ロボ群が、更に合体を敢行し、超巨大ロボへとなる。ライブロボとライブボクサーは『スーパーライブロボ』へ、『ターボロボ』と『ターボラガー』はスーパーターボロボへ、ジェットガルーダとジェットイカロスは『グレートイカロス』となる。
『うおおおおおおお〜〜!か、かっけー!!』
菅野は大はしゃぎである。平均で全長60m、最高で77mに達する超ロボ群が颯爽登場したので、当然といえば、当然だった。当然ながら――。
「えーと……なんで胸にライオンが?」
「それは………かっこいいからだ!」
竹井のスーパーライブロボへのツッコミに、黒江が大真面目に答えを返す。自然だが、竹井としては『なんで?』な答えの返し方ではあった。
――彼らの超ロボの咆哮が響く時、希望は生まれるのだ。巨人達の舞闘の幕が開かれる――。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m