外伝その74『巨人達の舞闘』


――ウィッチ達を救援すべく、現れしスーパーヒーロー達。その力は圧倒的であり、超メカの前には、もはや怪異の瘴気など、『あってないようなものだった』。


『スーパービックバースト!!』

スーパーライブロボは、全身が発光し、胸のライオンの頭部にエネルギーを集中させる。それが巨大な火球となって撃ちだされ、見事に怪異の数十機が消滅する。一気に膨大なエネルギーをぶつければ、怪異の再生能力も意味を成さない事が証明された形だ。

『スーパーミラージュビーム!!』

スーパーターボロボは、胸部からスーパーミラージュビームを放つ。そのパワーで以て、多くの怪異を屠る。更に。

『バードメーザー!!』

グレートイカロスは、胸のエンブレムからエンブレム状の光線を発する。これはかの、ゴ○ラシリーズ登場のメーサー殺獣光線車のメーサー光線と似た原理の光線だが、それ故に効かない事もある。だが、怪異には効果抜群であり、一瞬で焼き払われてゆく。

「凄い……あんなに沢山の怪異が……」

「一瞬で目に見えて減るなんて……」

竹井と下原は、超メカ群の火力に唖然とする。その斉射の威力は凄まじく、自分達が苦戦しそうな大型怪異を軍団単位で屠るという、圧倒的な戦果を見せた。そのため、危険視したか、小型が無数で攻撃をかけてくる。

「へっ、雑魚がわんさかわいてきやがったぜ」

ジェットコンドル=結城凱がいう。グレートイカロスのレーダーをほぼ埋め尽くすほどの怪異が出現したのだ。

「どうする、竜」

「ハイパーハーケンで雑魚を散らすぞ。行くぞ!!変形、ハーケンスクラム!」

ジェットマンは巨大戦闘機形態『ハイパーハーケン』にグレートイカロスを変形させ、そこからマッハ5にまで一気に加速し、『ハイパー・G・アタック』という技を発動させる。対消滅プラズマを纏い体当たりをするのだが、傍目からは、機体全体が燃え上がったように見える。

「おお、すげえレアな機会だぜ。イカロスハーケンはともかく、ハイパーハーケンはそう拝めるもんでもねーからなぁ」

黒江は、凄くレアなものを拝める事が出来た嬉しさからか、目を輝かせている。VF乗りなので、可変メカに目がないのだ。

「黒江さん、ああいうメカ好きなんですね」

「おう、大好物だ。変形合体は男のロマンだぜ」

「そ、そうですね」

竹井は、ちょっと引いてしまう。メカ好きである黒江の気持ちは分かるが、男のロマンと言い切るあたり、本物であると分かったのだ。

「宮藤、お前は坂本を手近な空母に運んでやれ。メディカルチェックも頼んどけよ?」

「分かりました」

「下原、護衛についてやれ」

「了解」

「菅野は私に続け。竹井、お前は精神的に来てるから、宮藤と一緒に休んでおけ。私と菅野でここは十分だ」

「でしょうね。これじゃ彼らの独壇場みたいなものですし」

「西沢と若本も合流させるから、この方面は大丈夫だ。休んだら、穴拭達の支援に行ってくれ」

「了解」

芳佳、竹井、下原を下がらせた黒江は、ヒーロー達の支援に打って出、菅野、西沢、若本を従え、扶桑最強のフライトを結成、無敵を誇った。その事を報告されたミーナは頭を抱える。歌いながら。

(あー〜……扶桑のスリーレイブンズはどーなってるのよ!!)

ミーナは扶桑の三羽烏のやりたい放題に頭を悩ましていた。ミーナとて、三羽烏の事は知らないわけではない。扶桑海で縦横無尽の活躍をし、ガランドもその才能を高く買っていた。だが、それは10年近い昔。前線を離れて久しい三羽烏の技能を疑問に思っていた。だが、実際に働かせたら、自分の知らないところで決済していた事項が多いのだ。

(そう言えば、昔に聞いたことがある……スルーレイブンズの名を持つ扶桑ウィッチは戦場を支配すると。だけど、あれは噂でしょ……?)

――設立時からの連合軍には噂がある。スリーレイブンズ(三羽烏)の名を持つ扶桑ウィッチは戦場を支配する『八咫烏』だと。だが、三人で戦場を支配できることなど不可能だし、その当人達も欧州やスオムスで、その証明を出来なかった事もあり、いつしか薄れた伝説となっていた。だが、三羽烏が全員揃ったこの戦いでは、その伝説の証明をした。特に、智子は炎を媒介にする覚醒系の固有魔法を用い、ストライカーを使わずに飛翔する荒業を見せた。彼女を知るスオムスの高官が見たら、『どうして、その力を我々の時は出し惜しみしたのか』と嘆くだろう。それほどの衝撃がミーナにはあった。因みに当人曰く、『だって、リウィッチになってから覚醒したのに、無理言わないで!』だが、タイムパラドックスも含まれるので、理解されないのが痛いところらしい。

「黒江中佐、次はこの曲だ」

「『information High』?」

「VFが飛んでる状況にはおあつらえ向きだ」

「シャロン・アップルっすか?これ難易度高いから、私しか適任いないか。んじゃ」

information High。かつてシャロン・アップルの楽曲として物議を醸した楽曲だが、シャロン・アップル関連の仕掛けを外したバージョンが再販され、売れ筋である。難易度が高い上、キーが低いので、低いキーが出せる黒江しか適任がおらず、黒江が歌った。

「凄い……こんな歌を歌えるなんて……。それも闘いながら」

黒江が闘いながら、information Highを歌うことにライバル心を見せるミーナ。プロの歌手志望であったミーナと言えど、レディモードの容姿時(これが後世に有名)シャロン・アップル関連の曲はキーが低すぎて無理なため、それを正確に歌える黒江にライバル心が芽生えたのだ。


(叔母さんやお袋の英才教育がこんなところで役に立つとは。ガキの頃は迷惑だと思ったが……バサラさんや、シェリル達を見た後だと、まんざらでもねーな)

――戦場を飛び交うミサイル、ビーム。黒江はシェリル・ノームやランカ・リー、熱気バサラらの姿を思い浮かべる。直接会ったりしたのがその三人なためだが、information Highを歌いながら、三人を率い、ヒーローたちを援護する。

「若本、弾幕でブルったか?」

「へっ、この若本徹子様がこの程度でビビるかよ!」

4人は今、ヒーローたちのメカを破壊しようと群がる敵怪異、VFが入り交じる戦場を征く。板野サーカスは当たり前、殺意を持って向かってくる敵機と相対する。ヒーローたちの援護があれど、並のウィッチではたちまち蜂の巣な密度の弾幕(例えれば、リーネなどの練度の低いウィッチでは撃墜間違い無し)を潜り抜けるには、扶桑最高レベルの腕を持つ自分たちでなければ無理だ。

「その意気だ!おし、一気に突破するぞ!」

「了解!」

黒江はISを使っているが、菅野だけがレシプロの紫電改(若本と西沢はF-86に履き替えた)な都合上、耐弾性を考えれば、あまり無理は出来ない。だが、菅野は芳佳に頼るのを避けるべく、特訓を積んでいたようで、西沢に追従できる機動を見せる。

「おー、カンノ。腕上げたな」

「ありがとうございます、姉御!」

菅野は西沢に褒められたのがよほど嬉しいのが、破顔して喜ぶ。だが、最も脆いのも菅野であるため、3人が菅野をカバーする形で戦う。そして、ヒーローたちも行動を起こす。

「スカイシャイアン、発進!」

シャイダーがバビロスから、艦載機のスカイシャイアンを発進させ、4人を援護する。

「シャイダーさん、バビロスは?」

「脳波操縦にモードを切り替えてあるから、大丈夫さ。援護する!」

シャイダーは珍しく、スカイシャイアンを駆る(パートナーのアニーがバード星で医学の道に進んだため、不在なのもあるが)。これは一両の戦車の上部を分離、変形させたものだが、戦闘能力はいっぱしの戦闘機だ。援護に入り、VFをヘッドオンし、ビームで撃墜する。ミサイルの射程外からに攻撃が可能なのが大きな利点であり、瞬く間に4機が落ちる。

「敵の怪異への道は開いた!ここは君たちに任せる!」

「了解っ!若本、ぶちかませ!」

「了解!!」

若本も覚醒を使用し、刀を青白く輝かす。減衰期に入っているが、覚醒系の固有魔法であったのが幸いし、まだシールドに衰えはない(若返りは日程が通達されているが)。

「いけぇ!!」

ロングストレート化した頭髪をなびかせ、刀を振るう若本。智子のそれに比べれば攻撃力は低いが、それでもウィッチ個人単位では最強級だ。怪異は一刀両断される。

「俺のこいつを受け止められるとはな。頑丈になったもんだ、ストライカーも」

そう。若本が若手時代のユニットはどれも、若本の固有魔法に対して強度不足であり、空中分解するのが当たり前であったため、それを受け止められるストライカーに、時代の流れを感じたようだ。

「そりゃ戦時が7年も続きゃな。だが、不味い事に、ブリタニアはそろそろ経済が限界に達するはずだから、今度の新戦艦と引き換えに、キングジョージ以前の船を手放す話も出てきてる。それをチャーチルは許さんだろうが、どうすることやら」

「政治ネタだなあ」

「しゃーねーだろ?ブリタニアが傾いたら、欧州で頼れる国はヒスパニアのみになんだから。あそこに衰退されると困る国は、いくらでもあるしな。向こうだと、戦争終わった途端にガタがきたし、いくら連邦の財政支援があっても、衰退は止められないのは分かってるだろうが……」

「なんでそんな急に?」

「そりゃお前、親世代たちが戦った前の戦で、痛手を被ったのが効いてるんだよ。あれで相当な打撃を受けたのに、今回の戦争だ。本来ならリベリオンに取って代わられるはずだったんだぜ?世界の盟主の座」

「世界の盟主、ねぇ。んなに欲しいもんなのか?」

「そうだ。特にリベリオンは歴史が浅い国家だから、全てでナンバー・ワンを目指したがる性質があるんだよ。原住民ぶっ殺しまくってでも、な」

「だからって、自分達の文化を他人に押し付けるのかよ、リベリオンは?」

「亡命側と同盟してる以上は大きな声で言えねーが、お前みたいに反感持ってるのは多い。だけど、それは差別に繋がる。わかってると思うが、同じ星の民族や肌の色の違いなんて、宇宙規模じゃ些細な違いにすぎん。そんなみみっちい考えは金輪際、捨てろ。いいな?」

「お、おう……」

黒江は凄んでみせ、若本を強く戒める。宇宙を見てきた人間にとっては、黄色人種と白人、黒人の肌の色の違いや、民族の違いなど些細な違いでしかない。亡命リベリオンと同盟を結んだ以上はそんな意識など、実に『みみっちい』。若本に若干凄んだのは、若本にはきつく言っておく必要があったからだ。


(おお、怖ぇ……。昔から思ってたけど、黒江さん、怒ると怖いんだよな)

そう。普段は温厚とされる黒江だが、怒るときは烈火のごとく怒る。未来世界に行った後は、ヒーローたちに精神面での父親像を見出した(それほど尊敬している)らしく、彼らを侮辱したりするのを聞けば、激昂して無我夢中で殴りかかるほどの激情を見せる。これは黒江当人の生い立ちに関係していた。


――黒江の親世代は明治期生まれ。父親は仕事の虫であり、家庭をあまり顧みない。母親は夫に従順だが、少女期に某歌劇団志望であった夢を諦めきれず、娘にその夢を押し付けようとした。そのため、幼少から黒江は英才教育を受けさせられた。それにうんざりしていた小学校当時に、長兄が示現流を教えてくれ、そっちを真剣に取り組んだ。ウィッチとしての覚醒時にがっくりした母を夫と長男である長兄が諌めたが、それでも諦めきれなかったらしく、しつこく迫ってきた。それで12歳のある日に遂にキレた。その勢いで軍に入隊した。その際に母親とは疎遠になり、逆に父親との関係は改善した。だが、幼少期に受けた英才教育のせいか、心に穴が空いたような空虚感があった。黒江はそれを『母性』ではなく、『父性』の欠如と判断しており、父親はそれに気づいていたが、その償いのため、妻を諌め、黒江の軍入隊を許したのだ。しかしその数年後、そのつかの間の幸せを終わらせてしまう残酷な宣告がなされる。未来世界でも早期発見が命である病によって。黒江に取って、直接の肉親との最初の別れが、慕っていた父親となってしまうのは、彼女にとっては残酷この上なかった。だが、父親は死と引き換えに、娘に『自分の力で生きる』事の意義を教えていったのだった。

「――他の戦線はどうなんだ?」

「艦隊戦のほうは、バーラムが大破して、撤退中だそうだ。やっぱり旧型は大和型相当の新型が主役の戦場だとお呼びじゃねーこった」

「ブリタニアって、なんで古い戦艦の方が多いんだ?」

「しゃーねーだろ?前の時にポンポン作ったんだから。20年も経ったから、新型を作るには金も時間もかかるんだよ。特に大和型相当の最新型ともなると、設備まで予め用意しないと作れないから。キングジョージとライオンをそれぞれ4隻づつ作ったほうが奇跡だぜ。ヒスパニアを見てみろ。今や哀れな事に、弩級戦艦すらないんだぞ」

「マジかよ。ん?あの爆炎は?」

「敵の巡洋艦の爆炎だそうだ。多分、クリーブランド級だ。弾薬とボイラーが爆発したんだろう」

「なんか信じられねーぜ。人同士でドンパチなんて」

「あたしもそうさ。だけど、仲間をやられて、黙ってられるか?相手がなんだろうが、やってやるぜ。あたしに出来ることはそれだけだしさ」

西沢がいう。意外と真面目な側面もあるらしいが、割り切っていた。その辺はウィッチの摂理にこだわった坂本より柔軟であるのが分かる。

「姉御……」

「あたしはカンノや若本、お前達みたいに兵学校なんて大層なもんは出てねーからな。だけど、これだけは分かる。坂本を傷つけたヤロー共は全滅だってことはな!」

そう。西沢は現場の叩き上げで将校となった
(強引にだが)。戦いの才能は最強級であるものの、士官としての素養は無きに等しい。だが、功績が功績であるので、特務士官に任じられたという経緯がある。一見して、真面目な事を言っているが、中身は『坂本がやられた、ゆるさん!ブチ殺す!』である。

「来るぞ!!」

「んじゃ、あたしも行くか!……さあて、ちょっと嘘あるけど、再現行くか!天に2つの禍つ星ってか?――『計都羅喉剣』!!』

「お、お前はそれか!?」

『暗・剣・殺!』

十文字に叩き斬り、見得を切る。

『斬!!』

これまた、黒江のプレイ中のゲームからの影響である(西沢はのび太とも面識があるので、プレイ経験あり)黒江も思わずつっこむが、ばっちり再現しているあたりは凄い。

「へへーんだ。あたしのほうが話数行ってるもんね」

「何ぃ!テメー、いつの間に!?ぐぬぬ……」

「お、おい。何話してるんだよ?」

「ああ、こっちの話。ちょっとね」

はぐらかす西沢。西沢の腕であれば、後年に用意された必殺技『五黄殺』も再現可能だ。その為、今はそちらの特訓中だ。

(今度、斬艦刀でも発注しようかな?あいつらも持ちネタ習得してきたし)

西沢のこの行為で、焦りを感じた黒江は、新たな武装の発注を考えるようになる。それが具現化するのは数年後の事。


「ん?あれは……デンジファイター!?という事は、デンジマン!?」

戦場に新たに参戦したのは、『電子戦隊デンジマン』のデンジファイター。そこからダイデンジンに変形する。ダイデンジンは破損が酷かったが、後に太陽戦隊サンバルカンの協力で修理された。そして、今、その勇姿を現したのだ。歴代ロボの中でも大型である。中央のDのエンブレムもあって、ちょっとチープさも感じさせるが、デンジ星のオーバーテクノロジー満載のメカである。

『デンジボール!!』

初代ガンダムのハイパーハンマーと同種の武器だが、質量が桁違いのものをぶん投げる。怪異はデンジボールの質量に負けて、バランスを崩すと同時に、装甲にヒビが入る。

『デンジ剣・電子満月斬り!』

必殺技の電子満月斬りをいきなり使用する。この頃の戦隊ロボは円月殺法の変形技を用いる事があった。バトルフィーバーロボの電光剣しかり、電子満月斬り、オーロラプラズマ返ししかりだ。これは電子満月斬りを除くと、地球の技術力の都合上、エネルギーフィールド発生に円月殺法の動きが必要だったからだ。

「必殺技の大安売りだな、こりゃ」

と、若本が感想を述べる。戦隊ロボは後年になるほど、武装が進化していく傾向があるが、全体的に、必殺技以外の武装は軽めである事が多い。そこが豊富な武装を持つ、23世紀のスーパーロボットとの差でもある。

「よし、デンジマンも来たことだし、ここは大丈夫だ。一気にあのラスボスを倒して、他方面の応援に行くぞ!」

「おう!」

「ちょっと待て!ラスボスってなんのことだよ!?」

「未来のTVゲームの用語だ!直に分かるさ。トゥアッ!」

黒江は高度を上げ、IS用の刀を魔力で変形、延伸させる。それは久方ぶりの雲耀の太刀だった。急降下の勢いで両断し、見得を決める。

「『私の刀に、断てぬもの無し!』ってか」

『なかなかやるじゃないか』

「ファルコンさん、ありがとうございます!」

『だが、溜めが大きすぎて解りやすいから、俺達なら避けられる。もっと思い切りを良くするんだ。そうでないと、達人級には躱されるぞ』


「はいっ」

一部始終を見ていたスーパーライブロボ搭乗のレッドファルコンから指摘を受ける。流石に剣技で鳴らした事はある。剣に自信を持つ黒江に教えられるほど、彼の剣技が優れている証明でもあった。



――坂本が収容された連邦軍戦闘空母の医務室

「坂本少佐だが、身体的には異常はない。だが、魔力は目に見えて減退している。ただ、怪異に吸われているので、上がりなのか、吸われたためかは、今のところ判別がつかない。判別に数年は必要だろう」

「そ、そうですか」

「見たところ、目の魔眼は維持されている事からすると、魔力の完全消失ではないのだけは確かだ」

軍医の診断は『魔力は維持されたが、数年絶たないと正確な判断は出来ないというものだった。坂本は元々、上がり寸前のウィッチであったため、判断が難しいらしい。芳佳にそう告げる。

「数年って?」

「君達には魔力の自然回復の上限が確認されているからだ。14歳から17歳を100とするなら、18歳で70、20歳間近で30としよう。坂本少佐は20を超えている。かと言って、君や黒江中佐のような『リンカーコア』が、坂本少佐の体内にはない。それでどこまで回復するかだ」

軍医もその判断はつきかねるようだ。

「分かりました。ありがとうございます」

「君はこのまま私の任務を手伝うように。怪我人が増えてきて、過労になりそうだ」

「お安いご用です!」

という事で、芳佳はそのまま空母で軍医について、看護師の任務をこなした。同空母には、ハルトマンも収容されていたため、ハルトマンの面倒も見たとか。




――この戦いはレシプロ機の相対的な陳腐化と、ジェットの揺籃を夜に示した。また、ハンナ・マルセイユは、自身のニュータイプ能力の覚醒の証明と言える戦いぶりで、Ξガンダムを駆っていた。

「どけぇ!!」

サーベルを構え、二機のハイザック(ベースジャバー乗り)を同時に両断する。マルセイユは元々、ドッグファイターであるので、その辺りは一撃離脱戦法を是非としたハルトマンと趣を異にする。

「あれが、あのマルセイユなのか?違う……何か鬼気迫るものを感じるぞ……」

バルクホルンは、Ξガンダムを駆るマルセイユの戦いに、鬼気迫るものを感じ、圧倒される。元来、マルセイユは超然たる落ち着きをみせていた。だが、自分の居場所であると認識していたアフリカを、圭子の留守を預かった身でありながら、それを守れなかった事への責任感からか、自分の弱さを恥じ、また、ティターンズ空軍のエースに『命をやり取りするに値しない相手』と認識されていた事への屈辱からか、自分を律し、『強くある』事を望むようになった。そのためか、以前は険悪であったはずのバルクホルンの頼みを二つ返事で了承、バルクホルンの妹のクリスと記念写真を取ってやるなどの『気前の良き』を見せた。

――決戦前の休日。

「何?アイツの妹にサイン入り色紙を書いてくれ?」

「うん。昔の事があるから、トゥルーデも素直じゃなくてさ」

「そんなけちくさい事言わずに、私が直接行って、記念写真を取ってやるぞ」

「本当?」

「ああ。アフリカを守れなかった、こんな私にまだ憧れていてくれるんだ。そのくらいはお安いご用さ」

マルセイユはアフリカを守れなかった事が精神的に堪えたようで、以前と比較して、仲間との絆に縋る『弱さ』を見せるようになった。たとえ険悪であったバルクホルンの頼みであろうとも二つ返事で了承するほどに。マルセイユは欧州召還までの船路の間、自暴自棄で酒びたりになるわ、夢を見ると、自らの目の前で焼かれてゆくトブルクの街の光景を見るなどのPTSDを患うほどで、欧州方面軍司令部はマルセイユの後送を視野に入れるほどだった。未来世界に送られた事で、快方に向かっているが、その名残りとして、仲間から見放される事に怯える、強くなろうとするあまりに過酷な特訓に志願するなどの傾向が見られるようになった。そのため、他に誰もいないところでは、圭子やハルトマンに縋って甘えるという行動も取るようになったという。

「サインはっと……ん、こんなもんか」

「クリスも喜ぶと思うよ。サイン入り色紙に記念撮影だもの」

と、クリスのもとに直接出向いて、記念撮影をしてやるマルセイユ。以前のバルクホルンへの苛つきは既になく、以前なら言わないであろう、『お姉ちゃんを大事にしろよ』という歯が浮くような台詞まで言ってのけたのだ。これを後に知ったバルクホルンは『嘘だろ……?』と茫然自失になり、ハルトマンに突っ込まれたとか。



『――死を強いる指導者のどこに真実があるって言うんだ!!寝言を言うなぁ―――ッ!!』

スピーカで叫びながら突貫するマルセイユ。どこかで聞いたような台詞だが、今までにない鬼気迫る何かを感じるバルクホルン。Ξガンダムの火器をフル活用し、敵機を血祭りにあげていく姿は、明らかに今までとは『違う』。

「これがあいつの戦い方なのか……?若い頃とも、アフリカでの今までともまったく違う……闘志が丸出しと言おうか……」

そう。今のマルセイユはどこかガムシャラに、何かへ手を伸ばしているような気がしてならないバルクホルン。かつての華麗な姿を伺う事は難しいくらいに、マルセイユにガムシャラさを感じたのだろう。

『貴様ら、貴様ら……バカヤロ――ッ!!』

マルセイユはニュータイプとなったため、ティターンズ兵らの思念を感じ取れる。彼らの死に際の思念を感じ取り、堪らず叫んだ。中には故郷に残した恋人なり、家族を想いながら死んでいった者もいるからだ。

(これが戦争の現実だというのは分かっている。だが、本当ならこうならなくていいはずなのに……!)

マルセイユはニュータイプとしてはヒヨコである。戦闘に特化したニュータイプであるアムロや、最も感受性豊かなカミーユ、メンタリティに優れるジュドーなどに比して未熟であり、固有魔法が昇華した形で覚醒した彼女の可能性はこれからだ。





――超ロボの来援はまだまだ続いた。ゴーグルファイブのゴーグルロボ、ダイナマンのダイナロボも駆けつけ、ウィッチ達を支援する。そのため、506統合戦闘航空団のハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン(以下、ハインリーケ)は、自分らが霞む、超ロボの来援に不満気だった。

「どうかしたんですか、ハインリーケさん」

「未来の扶桑はいったいどーなっておるのだ!?あんな物凄い……なんというのじゃ……あの……」

「スーパーロボット?」

「そうそう、スーパーロボット!あんなのが暴れるのでは、妾達が目立たんではないか!」

「あ、そこですか。諦めてくださいよ。殆ど厚意でやって来てるんですから、彼らは」

「うーむ……」

「でも、ハインリーケさんがシニヨンヘアにして、甲冑でも着こめば完璧ですよ、完璧!ある意味で」

「ちょっとまて!それのどこが完璧なのじゃ!?」

『科学剣・稲妻重力落とし!!』

と、言っている間に、ダイナロボの必殺技が炸裂する。高高度から急降下で剣を見舞うこの技、要塞もたたっ斬る技である。そのため、ハインリーケは思い切り僻んだ。

「これでは、扶桑の独壇場ではないか!ええい、これでは妾が目立たん!」

「溜まってますねえ」

「歌ったらどうですか?」

「わ、妾がか!?……歌はちょっと………う〜む……」

黒田に最近の鬱憤を話す一方で、歌は苦手らしい一面を見せるハインリーケ。王女でありながら、前線に立つ気概がある彼女だが、歌だけは駄目らしい。

「あれ、ハインリーケさんでも駄目なところがあるんですね」

「う、うるさいっ!」

(先輩はエクスカリバーの素養あるし、ハインリーケさんもデュランダルだかをもらうとかすればいいのに。なんとなく似合いそうだし)

なんとなく、剣を持たせれば『騎士』に見えるハインリーケへ感想を漏らす。この後、彼女へのプレゼントとして、21世紀のゲームに登場する『セ○バー・リリィ』の衣装が送られたという。ポニーテールにし、剣を構えると、実に似ており、のび太の街の仮装大会の金賞を受賞したとか。(実際に、ある任務では、天秤座の黄金聖衣を纏った黒江から武器を分け与えられ、カリバーンを剣に宿して、放ったという)

「さて、この十文字槍の威力を確かめる時が来た!」

「なんだその槍は!?」

「その昔、扶桑の戦国武将『真田幸村』が(本名は信繁)使ったって言われる、『十文字槍』です!さあて、一働きするかな!」

この時に、黒田は実家のかつての敵である真田家の武将が用いた槍を持ちだしてきていた。扶桑号が連邦に徴発され、コピー中だからで、そのため、黒江のルートで得た十文字槍を持ちだしたのだ。

「頼んだよ、十文字槍!」

黒田は十文字槍に炎を宿す。それは真田幸村(真田信繁)が生前に槍へ残した加護が成し得た奇跡だった。

『この一撃、魂を燃やす!!』

槍を振るう。槍に宿った加護が奇跡を起こし、炎を刃先に宿し、コアを両断する。

『正義はぁぁ〜、かぁーつ!!』

ガッツポーズを取る黒田。槍の扱いが熟達したのか、ハインリーケも思わず見とれてしまう鮮やかさだった。

「お主といい、あの『三羽烏』といい、扶桑のウィッチはどうなっておるのじゃ!?」

「まぁまぁ、そんなこと言わない。ん?次元転移現象?」

「何か来るのか!?」

二人の周りの空間が歪み、光を発しながら、その主の姿がはっきりとしてくる。黒田は驚く。それは……。

「え!?だ、ダブルスペイザー!?」

「なんじゃ、知っておるのか?」

「え、ええ。向こうの仕事仲間が乗ってるマシンなんですけど……?」

『オッス、久しぶり』

「甲児さん!?ど、どうして!?」

『次元転移のテストを兼ねて、援軍に来たんだよ。すぐに大介さんとダイザーも来る』

「あ、本当だ
すぐにグレンダイザーがスペイザー装着形態で現れる。その姿にハインリーケは圧倒される。

「な、何じゃ!?え、えーと……ロボ亀!?」

『ハッハッハ、それはよく言われるさ。那佳ちゃんと、その友達だね?』

「と、友達ではない!同僚じゃ!」

『おっと、それはすまん。甲児君、行くぞ!』

『OK!』

『シューートイン!!……ダイザーゴー!!』

グレンダイザーがスペイザーから分離し、滑空に入る。そこから一回転する。

『スクランブルターン!!』

グレンダイザーが、かつてのマジンガーZのように滑空を行っている間に、ダブルスペイザーがグレンダイザーにドッキングする。

『コンビネーションクロス!!』

オーソドックスな翼で飛翔するスタイルだが、グレンダイザーの武装が全て使用可能となる利点がある。双方の武器が使えるため、スペイザーと合体時よりも遥かに便利である。

「か、かっこいい……」

さすがのハインリーケも、これには見とれ、思わず素直な一言を漏らす。

「ね?言ったとおりでしょう」

「う、うむ……」

黒田の一言に赤面するハインリーケ。こればかりは本当にかっこいいので、そうとしか言えないからだ。

『さて、かわいい子ちゃんたちの前だ、飛ばしていくぜ!ダブルカッター!!』

ダブルスペイザーの両翼端ポッドにある垂直安定板のパーツが射出後、空中で合体してV字型のカッターとなり、そのまま怪異と敵機を両断してゆく。超合金ニューZのカッターは物凄い切れ味だ。

『さて、こちらも行くか!スクリュークラッシャーパンチ!!』

グレンダイザーの腕の折り畳まれていたクラッシャーが起き上がって前方まで反転し、毎分4千回転するロケットパンチ。それがスクリュークラッシャーパンチだ。威力はターボスマッシャーパンチには及ばないが、ドリルプレッシャーパンチを上回る第二位の破壊力と貫通力であり、怪異と敵機を有象無象のように蹴散らす。

『スペースサンダー!!』

頭部の角から6万度の温度と、高圧電流を纏う熱線を放射するスペースサンダー。これの破壊力も凄く、かすった巡洋艦がドロドロに溶解し、雷槌に打たれたような炸裂音も響く。

「さっすが!敵が驚いて逃げていきますよ!」

『よし、この空域の安全は確保されただろう。逃げない艦は見上げた度胸だが、そんな砲弾がフリード星の守護神に通じるものか』

敵艦の一部が艦砲射撃を放つが、鋼鉄の5000倍の硬度を持つ宇宙合金グレンには通じず、弾体が凹み、装甲表面を温めるだけに終わる。

「フリード星?」

「ああ、グレンダイザーは異星人の作ったスーパーロボットなんですよ」

「い、異星人〜!?」

驚くハインリーケ。宇宙人と言われれば当然の反応だ。ここでグレンダイザーの生い立ちが説明される。

「それで、お主の本名は……」

『デューク・フリード。フリード星の王位継承者……だった』

そう。デューク・フリード=宇門大介は、フリード星の王位継承権第一位であったが、両親の死亡と国の滅亡で王位継承は行っておらず、地球で宇門大介として暮らしている。

『だが、今はちゃんと、戸籍も有る日本人だよ』

と、メット越しに微笑うデューク・フリード。

「うーむ。宇宙人と言われても、なにかこう、イメージがわかないと言おうか……」

『もしかして、古典的なSF小説のイメージ持ってたのかい?』

「う、うむ」

『宇宙は広い。ヒューマノイドタイプの異星人はそれこそ掃いて捨てるほどいるのさ。地球と同じような条件があれば、同じような進化を辿る。ああいう動物型宇宙人は珍しいけどね』

ハインリーケに優しく教える。ハインリーケはこの時、凄まじいカルチャーショックに襲われた。だが、それを懸命に抑える。」


『反重力ストーム!!』

胸から出すカラフルな反重力光線『反重力ストーム。これを食らった艦艇は、リベットが反重力に負けて抜け落ちたり、折れたりして船体からぶっ飛び、竜骨から甲板が捲られておく。それはやがて武装にも及ぶ。甲板を丸められた船は、スペースサンダーでトドメを點される。

「すっごーい。さすがですね」

『第二次大戦中の船に使うのは反則だが、敵である以上は倒すのが礼儀というものさ』

黒田に言う。

『さて、鉄也くんとグレートの応援に行くぞ』

「はいっ」

「お、おい!私を差し置いて、かってに話を進めるな〜!」

憤慨するハインリーケを差し置く形で、一同はグレートマジンガーの応援に向かう。


――UFOロボグレンダイザーの参戦は、ウィッチ世界に福音をもたらした。『宇宙の王者』の参戦により、一気に巻き返しを図る連合軍。果たして、グレンダイザーは、死闘を続けるグレートマジンガーを救えるのだろうか?エーリカ・ハルトマンやハンナ・ユスティーナ・マルセイユの祈りは通じるのか?黒江綾香の決意は叶うのか?敵に敗北した穴拭智子の涙は、彼女自身に何をもたらすのだろうか?巨人たちの舞闘が展開される中、ウィッチ達の想いは天に届くのでのだろうか?――



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