外伝その78『巨人達の決戦兵器』
――連邦軍の誇る技術の恩恵をいち早く得た扶桑は、ロマーニャ最終決戦においても際立って存在感を誇示。連邦軍がその存在の誇示に扶桑を利用した事もあり、連合軍内部における発言力は一気に増大。連合軍内で最初に未来装備を扱う軍隊となった。次いで、ブリタニアとカールスラントが連邦軍に接近し、自前の調達が間に合わない装備の支給に連邦軍の力を用いた。その結果、ロマーニャ最終決戦に未来兵器を用いた軍隊は合計三つに登った。
――連合軍司令部
「な!?私が506に集結指令を出した!?そんな、私はそんな事は……」
「そういう事にしておき給え、少佐。そのほうが506の『最後の花道』になる」
「しかし、いったいどうやって!?」
「君の声色を部下に使わせてもらったよ。君と身近な人間でさえも、気づかないレベルのそっくりさだ。その部下に、後で詫び状を持たせてそちらに行かせるつもりだ」
「いいのですか?そのような事を独断で」
「ロマーニャを落とされれば、どちらにしろ、我々は負ける。ならば、現在持ち得る最大の戦力を叩き込むしかない。新501の幹部には、自分の孫を連れてきて、戦力を確保したという報告もある」
「!?」
「ロマーニャ戦はもはや、我々全体の存亡のかかった戦なのだ、ロザリー少佐。未来から子孫を連れてきて、戦力を確保するほどにな」
山本五十六は、電話でロザリーにいう。ロマーニャ戦は全人類の存亡がかかってるのだと。実際、戦場はソビエツキー・ソユーズの登場により、空気が一変。ラ級の圧倒的強力さにより、ロマーニャ内陸部のある街がぶっ飛び、冷凍砲などの超兵器により、攻撃をかけたウィッチが絶対零度で冷凍される様は、歴戦のウィッチ達をして戦慄させた。
――ロマーニャ
「なんだありゃ!?ウィッチが一瞬でかき氷に!?」
「落ち着け、若本!ありゃ冷凍砲だ!絶対零度だから、シールドを貫かれたら、冷凍マンモスどころの話じゃないぜ!」
西沢が若本に警戒を促す。ソビエツキー・ソユーズ級には、バダンの超研究が元々組み込まれていた。その一端が原子破壊砲であり、冷凍砲であり、ブレストバーンに匹敵する『『熱線砲』、重力制御が生み出した『重力砲』である。それらを駆使したソビエツキー・ソユーズ級はそれを活用し、眼下のブリタニア艦隊を冷凍砲で冷凍し、その後に熱線砲を撃つ事で装甲を破壊し、打ち砕いた。その中には、戦艦も含まれていた。
「嘘だろ、戦艦を一瞬で砕きやがった!?」
「冷凍と熱線で内部構造までを柔くして、装甲を抜いたんだ!くそ、奴らめ、考えやがる!」
ブリタニア戦艦の一隻「マレーヤ」が護衛艦隊もろともに一瞬で破壊される。扶桑艦隊のミサイル攻撃、連邦軍機の攻撃に全く堪えないソビエツキー・ソユーズは、『ジャッカー電撃隊』の超メカ『スカイエース』の攻撃にもびくともせず、バリドリーンのスカイロック、スカイミサイルの一斉攻撃も凌ぐ。更にバトルフィーバー隊のバトルシャークを加えての連携で、やっと揺らぐ程度であった。
「バトルシャークまで加えての攻撃でも、びくともせんか!」
「どうします、新命さん」
「こうなれば、待機中の戦隊を呼び出すしかあるまい。グランドバースとバビロスは怪異の相手で手一杯だ。デンジタイガーは誘導電波で呼び戻せ」
「了解」
三大メカの一斉攻撃でもバリアを破れないため、新命明はデンジタイガーなども動員した。その為、既にデンジファイターを発進させたのにもかかわらず、デンジタイガーも現れ、援護射撃を行う。更にはジャガーバルカン、ゴーグルシーザー、ダイジュピター、シャトルベースと言った、戦闘能力を持つ母艦は全動員された。(この場にフラッシュマンがいないので、スターコンドルは不参加)その光景は圧巻ですらあった。さすがにこの一斉攻撃にはバリアも耐えられなかったのか、バリアが弱まる。
「よし、バリアが弱まったぞ!」
「油断するな、バリアを弱めただけだ。来るぞ!」
ソビエツキー・ソユーズ級の対空砲火と格闘する各戦隊の母艦。雨あられのようなパルスレーザーによって、装甲に穴を開けられていくため、比較的脆いスカイエースが真っ先に落伍する。
「すまない、火器と翼をやられた!離脱する!」
スカイエースが被弾し、もくもくと煙を吐きながら撤退してゆく。元々が大型戦闘機なので、対宇宙戦艦戦には不利だったのである。バリドリーンはスカイエースより速度が遅いが、そこは新命明のテクニック、見事に被弾していない。
「ラ號と攻撃タイミングを合わせるぞ!続け!」
アオレンジャー=新命明の合図とともに、各戦隊の母艦がラ號と共に攻撃を行う。ラ號であれば、ラ級に損傷を与えられる(逆に言えば、ソビエツキー・ソユーズもラ號にダメージを与えられるという意味でもある)ので、ラ號が主なダメージソースになる。ショックカノンでバリアを破り、その隙に他の攻撃を当てるという高等戦術である。それは見事に成功するが、装甲も伊達ではなく、甲板が一部ひしゃげた程度であった。
「あれだけの攻撃でも甲板が一部ひしゃげただけかよ……なんて硬さだ!」
「こりゃ一筋縄じゃ……お、おい、あれ見ろあれ!」
「あ?……どこの馬鹿だ!?お、おい、そこのウィッチ!やめろ!死ぬつもりか!?」
「あれは雁渕の妹だ!おーい!引き返せ!お前がどうにか出来る相手じゃないぞ!!聞こえてんのか!?」
『若本、西沢!そいつをとっ捕まえてくれ!』
『わ、分かった!』
扶桑最強級の三人が追ってくれば、飛行学生に毛が生えた程度の雁渕ひかりでは振り切れるはずはない。ましてや、黒江はオーパーツであるF15を履いているのだ。すぐに追いつかれ、三人に抑えられる。
「話してください、離して……!」
「お前、死ぬ気か!?相手は宇宙戦艦だぞ!どこの隊の者だよ、お前!」
「えーと、私は332空の雁渕ひかりです」
「雁渕……そうか、雁渕孝美の妹か!どうりで……。だがな、それとそれは話が別だぞ!」
若本が叱責ついでに、殴ろうとするが、若本はグーだったので、黒江がビンタに収めた。
「雁渕、あれがなんだがわかるか?23世紀の連中が贅を尽くして作った宇宙戦艦だぞ?それに機銃で挑もうとしたのか?」
軽くビンタをする。威力は抑えたが、ひかりにとってはきつーい一発だった。
「私は逃げたくないんです!孝美お姉ちゃんはどんな怪異にだって立ち向かっていきました!私も……」
「お前の気持ちは分かる。だが、殆ど丸腰に近い状態で、それも旧式の零式二二型で宇宙戦艦に挑むのは無謀すぎると言っているんだ。それこそ、石垣に剃刀で斬りつけるようなもんだぞ」
「で、でも!」
「とりあえず、手荒いが、戦うにしても相応の準備をせんとな。よっと!電ショック!」
「ほえ!?ゆ、ユニットが!」
黒江は電ショックでユニットの電気系統を破壊し、エンジンを止める。ユニットを強制排除する。それを見計らって、他の二人と共にひかりを近くの空母に運び込み、紫電改二に履き替えさせる。
『坂本、私だ。今、若本と西沢と一緒だ。雁渕の妹を保護した。だが、決意が固いんで、私達で面倒を見る。宮藤と菅野を連邦軍の『蒼龍』に向かわせてくれ。飛龍のCICに誘導を依頼してくれ。座標は…』
「いきなりユニットを壊すから、なんだと思いました〜。えーと、お姉ちゃんの部隊にいた人ですよね?思い出しました」
「黒江綾香だ。スリーレイブンズが筆頭……ってわかんねーかな?」
「おいおい、アンタが筆頭だっけ?自分アピールすんなよな〜。俺は若本徹子。海軍の最強の撃墜王だぜ」
「お前もアピールしてるだろーが」
と、互いに子供じみた言い合いをする二人。年齢は若本も20歳を迎えているのだが、若い頃から全く進歩がないため、二人を昔から知る西沢は呆れる。
「お、お前らなぁ……いい年こいて、そんなので張り合ってどーすんだよ」
「お前だって、クロウズの一角だったろー!」
「はいはい。後輩の前だぜ?そんなの後々」
西沢がツッコミ役に回るのは珍しかった。だが、黒江が歴史の改変とリウィッチ化で、性格が改変前より大きく変化しているため、黒江がボケ役である事も珍しい事ではなく、西沢がツッコミ役に慣れてしまった。そのため、他の時空での彼女より『大人びた』側面が開花していた。
――ツッコミ役が西沢なのは、黒江が以前より『子供っぽくなった』というのもあるだろう。最も、以前は『釣りしか考えていなさそうな、戦闘狂の大人』という評判があったため、それを払拭したい気持ちも無かったわけではない。今の性格になったおかげで、智子と親しくなれた。それを強く感謝しているため、当人が『そうある事』を望んだのもあるだろう。その一方で、仲間を失うことを嫌い、傷つくのを恐れる面が増幅されたらしく、買い物の時は、必ず智子か圭子を付き合わせるなどのさみしがり屋である側面も持つようになった。このさみしがり屋の側面は、母と確執を持ってしまった幼少期の経験が由来で、黒江が持ってしまった弱さとも言えた。圭子が母性を発揮する事も増え、ちゃんづけで黒江を呼ぶことをやめないのも、黒江の寂しがり屋の側面故だ――。
――それについては、このようなエピソードがある。黒江が今の背丈になった後の、未来世界での自宅で智子が寝苦しさで目を覚ますと……。
「え!?ち、ちょっとアンタ、何、人のベットに潜り込……」
赤面しながら、自身に乗っかっている黒江を引き剥がそうとする智子だが、黒江の寝言、おそらく子供時代の夢であろうか。それが妙に気になった。
「ムニャムニャ……どうしておかーしゃんはわたしをいじめるのぉ……」
「え……?」
この時、智子は黒江が幼少期に体験していた出来事の一端を知り、驚いた。翌日、当人が釣りでいなくなったのを見計らい、黒江の実家にタイム電話をかけ、黒江と最も付き合いがある、黒江の三兄に話を聞いた。すると。
「綾香は、母から厳しく躾けられていたんですよ。綾香は同年代より背が高く、歌もうまかった。母は若い頃、音楽学校を受験して挫折した事があった。それで、その夢をようやく生まれた綾香に託そうとしていたんです。親父はそれを知り、『お前の夢を、子供に押し付けるな!!』と厳しく叱りましたが、母は『望むものを手に入れられなかった事があなたにありますか!?』と言い返して、喧嘩になった事もあります。それで俺や上の兄たちと遊ぶのだけが楽しみだった時期もありまして……」
三兄から智子に語られた、黒江の過去。それは過保護に育てられた自分からは想像だもつかない、過酷な幼少期だった。
「うわ言のことですが、多分それは、二番目の兄が綾香を庇った時の話かもしれません。当時、綾香は6歳くらい、一つ上の兄は中学の最高学年くらいだったかな?ある日、母がレッスンを嫌がった綾香を折檻しまして、それがあまりにも度が過ぎていまして。未来世界で言えば、間違い無しに児童虐待になるほどのものでした。ちょうど、兄が中学から帰って来て、綾香の泣き声を聞いた兄が血相を変えて駆けつけ、『母さん、あなたは何をしてるんです!綾香はまだ子供ですよ!?』と激怒して、母を叱りつけたんです」
「……!?」
「母はなんとしても、綾香をあの劇団に入れたかった。それが自分の傲慢と自覚していないので、余計に質が悪く、親父は離縁まで本気で考えたんです。兄と父のおかげで、その時は収まったんですが、それで、小学校に入ってからは、その時の影響か、鞍馬天狗に傾倒しまして……」
黒江がリウィッチ化後、仮面ライダー達を兄のように慕うようになった原因の一つがここで解明された。母親から折檻を受ける幼少期に、兄が連れて行った『鞍馬天狗』に傾倒したのが、彼女を剣の道に導いた理由なのだ。既に別居していた長兄が示現流の使い手で、長兄の帰省時に『にーさま、くらまてんぐのけん、おしえて〜!』とすがったことが始まりで、同じく使い手の次兄が普段の教えを行った事で、メキメキと上達した。物心がつく頃には、母親を嫌い、兄と父の言うことならば聞く性格になっており、ウィッチ覚醒後、母親の反対を押し切って家を飛び出し、入隊した。その時に近い肉体年齢になった事で、夢という形で思い出したのだ。
「若返った事で、深層心理にしまいこんだはずのその時のことが表に出たのでしょう。我が家の恥部ですが……」
「いえ、その気持ち、分かります」
「あいつがしたことを許してくださるようお願いします。小さい頃の母からの過剰な折檻が原因で、さみしがり屋に育ったところがありまして。未来的な物言いで言えば、『母性に飢えている』のです。綾香は祖母とも、滅多に会えなかったので……」
「なるほど……。それで……」
智子は悟った。黒江は幼少期の反動で『自らを護ってくれる者』や、『母性を持つ者』に対して親しみを持ち、その者たちと共にいたいという深層心理での願望があると。仮面ライダー達はそのうちの『庇護者』の面を、自分達は『母性を持ち、尚且つ共にいてくれる仲間』の面を埋め合わせるのに十分な役目を果たしていた事を。その時の兄の背中を、城茂に見たと推測する。
「綾香はそのせいか、仲間を引き離される事を嫌う性格になりまして、小学校の親友が転校して行った時は俺が慰めてやったり、友達がいじめにあってるのを見ると、すぐに鞍馬天狗の真似して助けに行こうとしたり……とにかく手のかかる子でした」
「その頃からなんですね、ヒーローが好きなのは」
「ええ。だから、写真を送って来た時は和みましたよ。子供の頃から根本は変わっていないと」
リウィッチ化後しばらくしてから、実家に手紙を送った黒江。城茂や南光太郎らに頭を撫でられ、赤面しつつも自分が初めて買ったオートバイに喜ぶ姿、そして、変身後の仮面ライダーらと共に写ったスナップ。ありのままの姿で生きる事を選んだ故のうわ言だと、智子は理解した。
(それでなのね。寝ぼけると、誰かのベットに潜り込んで抱きつくのは。ハルカみたいに下心ないし、しょうがない。許してやるとしますか)
――その日から数日後の事――
「智子ー、そろそろ朝食よ……って何してるの、あなた達」
「あ、圭子。実は……」
「ふーん。そんな事があったのね。デジカメで一枚撮っちゃお」
圭子は、朝食で起こしに来たが、黒江がちょうど、添い寝のようなポーズで智子にくっついていたので、事情を聞いた圭子は、デジカメで一枚撮った。その後に目覚め……。
「お……飯か……って、ありゃ!?」
「うふふ、黒江ちゃん、智子に添い寝してたのよ?」
「〜〜★※★!?」
顔が一気に赤くなり、茹でダコになる黒江。恥ずかしさのあまり、思わず枕を智子の顔に叩きつけてしまう。
「わ〜わ〜わ〜!?」
「あらあら。可愛いわよ、そういうとこ」
完全に子供を見る母親か、妹を見る姉の目をする圭子。黒江はその日、気恥ずかしさから、頭がオーバーヒートし、知恵熱で寝込んでしまった。連邦軍の軍務で家を出なければならない智子の代わりに、しばらく休暇を取っていた圭子が看病をし、話を聞き、見舞いに来た甲児達を爆笑させたという。
――というエピソードがあり、黒江の本質は人肌恋しいさみしがり屋なのだ。それを知った西沢は、元々の面倒見のよい側面から、黒江のサポートに回る事が多くなった。山本五十六の指令を受けて参陣したというわけだ。
「さてと。雁渕妹、これを使え」
「刀、ですか?」
「連邦軍の作った特殊軍刀だ。強度・破壊力・魔力の伝導率も扶桑の粗製乱造品とは桁違いだ。常備しておけ」
「は、はい」
「お前の332空には、若本が連絡を入れた。以後は私達の指示に従え」
「わ、分かりました」
雁渕ひかりは、雁渕孝美の三歳下の妹で、当時はまだ任官間もない一飛曹であった。顔立ちは宮藤芳佳によく似ているが、姉に似て闘争心旺盛で、学生時は502の補充要員を目されていたほどの素養がある。因みに服部静夏の一期先輩にあたるが、前途有望な彼女を手放すのを海軍航空隊がごねたため、空軍移籍は服部静夏の後の1948年にずれ込む。その時は天皇陛下直々に発言し、ひかりを空軍へ移籍させるように動いた。ここ10年、陸軍に主導権を持たれている海軍としては面白くなかったが、陸軍とて、暁部隊を海軍へ供出、三式潜航輸送艇用の資材を機械化部隊に回すなどの施策が頭ごなしに行われている。それを鑑み、不満を抑えたという。(なお、海上保安庁に当たる組織の設立も検討されたが、未来世界の日本と違い、人々に警察が信頼されていない事、国民から『海の警察作るくらいなら、海軍をでかくするのでで充分だ!』というデモが起こった事で立ち消えとなる。この時に日本の左翼活動家などが問題を起こすのだが、それが少なからずウィッチ達に悪影響を残し、黒江達がベトナム戦争で前線に戻った後は、最後の数年以外は前線勤務をせねばならぬほどに世代交代を阻害してしまう、ベトナム反戦運動で、亡命リベリオン軍の軍事活動が遅れる、扶桑国内で反リベリオン運動が起こり、その鎮圧のため、天皇陛下が自ら玉音放送を行う事態になるなどの悪影響が生じるのだった。同時に日本での自分達の正当性を損ね、自衛隊の完全な軍隊化に貢献してしまうという皮肉な状況となる。これは予定調和であったが、左翼系勢力は扶桑へ呪詛の言葉を吐いたという。)
「ふう。ついたついた」
「おー、カンノ、宮藤、こっちだこっち」
「姉御!」
「西沢さん!」
菅野と芳佳が合流してきた。そこでひかりは二人に挨拶する。既に二人は撃墜王として名を馳せていたため、ひかりにとっては雲の上の人なのだが、二人共、軍隊の細かい事にこだわりがない人種であったので、気さくに接し、芳佳は「ひかりちゃん」と呼び、ひかりも「芳佳さん」と呼び合う仲となったという。
――外では。
「はあああっ!」
黒江翼が山羊座の黄金聖衣を以て暴れていた。大叔母に匹敵、あるいは凌駕するとされる才覚を持つ彼女、一人で敵機を数百機落とし、ミーナとバルクホルン、それと坂本を瞠目させる。
「あれがあいつの後継者なのか?」
「ええ。大姪だそうよ」
「凄いな……ウィッチなのか?」
「だそうよ。黒江中佐の文字通りに二代目として、21世紀で名を馳せてるそうな」
「驚いたな。その頃には、あいつはもういい年だろうに」
「それが、聖闘士になったのもあって、まったく老けていないらしいのよ」
「何ぃ!?馬鹿な、21世紀になる頃と言えば、あいつはもう90近い老婆になっているはずだぞ!?」
「一度若返ったのに加えて、聖闘士になった事で肉体の老化を抑制してるらしいわ。彼女から借りた、2003年頃の写真なんだけど……」
「嘘だろ!?」
写真には、退役後に基地祭に来た時の黒江が写っていたのだが、まったく老けていない。入隊間近の翼を連れての記念写真だが、どっちがどっちだが、髪型でしか見分けがつかない。
「うーむ……21世紀でも今の外見を保ってるとは、驚きだ」
「その頃には、私もあなたも生きてはいないそうよ」
「だろう。だが、あいつは生きている。もしかしたらあいつは、私達ウィッチの行末を見守るために選ばれたのかもしれんな……」
翼が成長後、シニヨンヘアを通したのは、顔立ちも声も大叔母によく似ていたため、同じ髪型では、家族でさえ見分けがつかなかったためであった。
――黒江当人は15の補給と整備を連邦軍に任せ、その代わりの聖衣を呼んだ。
「サジタリアス!」
サジタリアスの聖衣である。現資格者の箒が非番で暇であった事もあり、あっさりと貸与を許可した。ライブラの聖衣は老師・童虎(残留思念)と招来の資格者たる紫龍の許可を必要とするため、比較的呼びやすいサジタリアスを呼んだのである。これは自分の聖衣は翼が使っているためだ。
「さて、今回はサジタリアスの聖衣で行くぜ」
「いいんですか?許可取らなくて」
「テレパシーで取ったさ。今の資格者は私の弟子だから、強制的に借りた!」
アイオリアら世代の黄金聖闘士亡き後、黄金聖衣は殆どが資格者もなく持て余している状況である。そこで、城戸沙織=アテナは『緊急事態への対処』として、現在に黄金聖闘士の資格を有する者、その招来の後継者、あるいは聖衣が認める者たちに限り、関連性のある黄金聖衣の緊急時の装着を認めた。そのため、このような事が行われたのだ。
「ふーむ。やっぱサジタリアスはヒロイックでいいぜ」
「聖衣って、気軽に貸し借りできるんですか?」
「緊急時には聖衣の意思で、誰かを守る事があるから、まあ、時と場合によってだ。目立つだろ?」
「そ、そういう問題ですかね?狙ってくださいって言ってるような……」
「お前、それは今更だぜ?未来世界の百式をみろよ、百式」
芳佳の苦言に、黒江は百式を引き合いに出す。軍用機のセオリーガン無視のカラーリングの百式系統は、デルタプラスとデルタカイ以外は殆ど金色の塗装である。(対ビームコーティングとの兼ね合いもあったが)そのため、ウィッチ達からは『目立ちたがり屋しか乗らんだろう』、『動く的』と酷評された。だが、クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)搭乗時の映像に圧倒されたのは言うまでもない。
「あれは赤い人専用機だから出来た事じゃないですかー!」
「そりゃそうだけどよー。よし、私は聖衣で行く。お前ら、雁渕の妹をしっかり面倒見ろよ」
「了解!」
と、言うわけで、サジタリアスの聖衣を纏った黒江は、お約束で技を使った。
「この聖衣纏ったら、一度はやんないとな!『アトミックサンダーボルト』!!」
お約束のアトミックサンダーボルトである。傍から見れば、無数の光弾が相手を蜂の巣にするようにしか見えない。だが、電撃を扱う黒江とは相性はよく、元来の技以外では使用頻度が高い。
「す、凄い。敵が一瞬で……」
「ふう。まっ、んなもんか。行くぞ!」
「はいっ!」
こうして、黒江は射手と山羊座の複合で黄金聖闘士として戦線に復帰。仲間とともにソビエツキー・ソユーズの回りを散らす作業に移った。
「でえい!」
芳佳は刀で、菅野は五式30ミリで、F-86を使った西沢と若本の両雄はADENの試作タイプで、そぞれ対応する。
「この、このっ!」
ひかりは未熟なため、30ミリ砲を怪異以外の敵に中々当てられない。
「落ち着いて!相手の動きをよく見て!模擬戦みたいなものって、思えばいいんだよ!」
「は、はい!」
人間が相手だと、萎縮して本来の実力が出せないウィッチが多い中、芳佳とひかりは貴重だった。芳佳の戦闘術を吸収して、メキメキと成長していくのであった。そして。
『行くぞ!!ダブルライトニングバスター!!』
グレートマジンガーとグレンダイザーがサンダーブレークとスペースサンダーを同時に放ち、ソビエツキー・ソユーズへ攻撃をかけるのが見えた。サンダーブレークとスペースサンダーの膨大な破壊力をぶつけ、更に。
『こいつもおまけだ!!ゲッターァァァビィィィム!!』
圭子の操縦するゲッタードラゴン改がゲッタービームを撃つ。現在型スーパーロボットの膨大な火力をぶつけたので、ソビエツキー・ソユーズもようやくバリアが限界圧力を突破し、解除される。ここからは純粋な殴り合いとなる。
「来たか、三大スーパーロボットよ!我がソビエツキー・ソユーズの相手に相応しい!各砲、よく狙え!撃て!!」
ショックカノンの口径そのものは原型通りの『50口径406mm』であり、主力戦艦級と同等だ。だが、主力戦艦級とのエンジン出力の差により、当たればラ號にも打撃を与えられる。二番砲塔がグレートマジンガー達に向き、斉射される。ショックカノンの螺旋をグレートマジンガーはブースターソードで受け止めるが、押されて態勢を崩す。そこにミサイルが当たるが、流石に超合金ニューZプラスに強化された状態の装甲は傷つかない。
『超合金ニューZプラスとなったこのボディーに、そんなミサイルが通じるものか!』
――グレートブースターUを装着した状態でマジンパワーを発動した後のグレートマジンガーは、装甲が再生され、超合金ニューZを上回る合金『ニューZプラス』となる。ニューZαの亜種で、ゴッドZとαほどの剛性はないが、宇宙合金グレンを上回る強度を持ちながら、自前で生産可能な合金である。そのため、ニューZプラスは、地球上で三番目に固い合金であった――
「剣!」
『お、綾ちゃんか』
「援護するぜ!アトミックサンダーボルト!!」
『それじゃ、こちらも!サンダーブレーク!!」
『俺も続くぞ!スペースサンダー!!』
グレートマジンガーのサンダーブレーク、グレンダイザーのスペースサンダーにアトミックサンダーボルトを上乗せする、合体攻撃である。これにより、ソビエツキー・ソユーズは装甲が損傷するが、戦闘能力に衰えはない。
「凄い、あれがあの人の力……未来兵器と並んでも遜色ないなんて」
「黒江さんはウィッチであるけど、神様を守るための戦士でもあるから、スーパーロボットに遜色ない力を持ってる。凄いよ」
「……私も、ああいう風になれるのかなぁ」
「私だって、最初はひかりちゃんと同じだったけど、みんなのおかげで強くなれた。ひかりちゃんも出来るよ」
芳佳は既に撃墜王として大成した身、ひかりは任官間もない新米ウィッチ。ひかりは彼女らの薫陶を受けていき、以後、次世代ウィッチのエースの一人となっていくのであった。
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