外伝1/行間『加東圭子の着任』


――圭子が501に入った事に最も喜んだのは、実は坂本であった。自分の魔力が減衰期に入りつつあったため、戦闘隊長の任に耐えきれない事は薄々と気づいていて、自らの撃墜後、圭子がミッドチルダを経由して、アフリカ組を引き連れて来た時に、歓迎ムード全開な坂本に、圭子のほうが驚いたほどだ。

「おお、よく来てくれた加東!!」

と、大喜びなのに、圭子のほうが調子が狂ったらしく、逆に戸惑った。

「歓迎は嬉しいんだけど、あなたってそういうキャラだったっけ?」

「ハッハッハ、細かいことはいい!とにかくだ、扶桑海の電光を謳われたお前が来てくれれば、百人力だ!」

圭子は、坂本とは6年ぶり(扶桑海後に会っている)ほどである。そのため、明らかに北郷の影響が見え隠れする立ち振舞いに改めて引いていた。

「黒江と穴拭には迷惑かけたばかりだし、お前らに戦闘隊長の任を、半分任すつもりだ。ただ、問題がある。ミーナはお前が現役張っていた頃の事を知らん」

「まだ7年しか経ってないじゃない」

「7年も経ったと言え。当時は新米の私があがり間近になってるんだぞ?ミーナの志願年度は私より遅いんだ、お前の世代へは『遠い昔の人間』という程度の認識だ。黒江へさえ半信半疑だったんだだからな」

「うっそぉ……」

「とにかく、今、隊にいる若い連中をぶちのめしていいから、往年の実力を見せろ。そうでないと、下の世代の指揮官は信用せんぞ。過去の経歴は通用せんからな」

「後輩にありがちな認識ね、黒江ちゃんから聞いてるわ」

「今の古参世代は、お前ら戦間期世代を下に見てるからな。お前なら問題ないだろう。トップエースだったし」

「当たり前よ、せっかく現役に戻ったんだ、お前の期待通りの姿を見せてあげるわ」

と、ドヤ顔を見せる圭子。実際にその二日後の模擬戦では、リーネを僚機にしたエイラを圧倒した。予知を圧倒するスピードと格闘、リーネを上回る超遠距離射撃を見せ、スオムス最高のエースと言われたエイラをして、「なんなんだよ、こいつ!?うちのねーちゃんじゃあるまいし、斧で襲いかかってきやがる!?」と恐怖の一言を叫ぶほどの阿修羅ぶりを見せ、ミーナと計測役のペリーヌを凍りつかせた。そのため、エイラは現在の機体の限界に突き当たり、『クソ、機体の反応が、体の反射についていかねー!』と、ニュータイプじみた台詞回しで嘆いた。そして、斧から拳に切り替えた圭子の体から、魔力と異なる力が可視化したオーラが出現する。オーラに電撃が時たま散っているのもあり、威圧感バッチリ。


「な、なんだ!?」

「あたしのこの手が真っ赤に燃える!勝利を掴めと轟き叫ぶぅ!」

叫びと共に、右拳が真っ赤に燃える。ゴッドフィンガーである。智子がシャイニングフィンガーを習得して間もないのに比べると、圭子のほうが徒手格闘では一歩先んじているのが分かる。

『ばぁぁぁく熱!!ゴッドフィガァァ……石破!!天驚ぉぉぉけぇぇぇん!!』

叫びと共に、大威力の強力な気弾を撃ち出す。石破天驚拳だ。これはウィッチ達には未知の攻撃で、リーネが銃撃でエネルギー弾を阻止しようとするが、当然ながら、銃弾で石破天驚拳のエネルギーは止められない。銃弾を消滅させ、一直線にエイラへ向かう。

『駄目です、止められません!!』

と、リーネの悲鳴が入る。エイラは当たる瞬間、『あ、ダメだナ……』と諦感の顔を見せ、石破天驚拳の奔流に飲み込まれ、大爆発が起きる。リーネはエイラの撃墜で、覚悟を決めたか、圭子に挑む。圭子はそれに答え、巴戦に入る。経験差もあり、圭子がリーネを弄ぶ構図となる。

「リーネさんとスピットが完全に圧倒されている?」

「あれが扶桑海の電光、加東圭子だ。巴戦でも、穴拭と黒江に引けを取らん。それに、あいつはトップエースだったんだ、リーネは腕が鈍ってるなりには頑張ってるが、加東の敵ではない」

坂本は、圭子の現役時代を知っているため、リーネが圧倒されているのも冷静な目で見ている。そのため、ペリーヌはムッとし、ミーナもリーネの爆発力に期待しているらしき視線を送っていた。しかしながら、ストライカーはこの時、最新のスピットファイア、圭子は適当なのがないので、アフリカでの三式を履いているという、リーネに優位なシチュエーションなのだが、狙撃手として上位の圭子相手では、ストライカーの性能差は帳消しにされていた。リーネは圭子の動きを予知しようとするが、三式の旋回性能をフル活用し、マルセイユから盗んだトリッキーな機動も行い、リーネの射撃を躱し、巴戦に持ち込む。

「馬鹿な、あの動きはあいつの……!?」

「そうだ、あれは私の回避方だ」

「マルセイユ、お前、来ていたのか!?」

「ケイは私の今の上官だ。当然、私も来ているさ。久しぶりだな、バルクホルン。ケイのヤツ、巴戦向けでない三式でよくやるもんだ」

観戦していたバルクホルンの前に、マルセイユが現れる。圭子はエンジン稼働率などで、劣化メッサーシュミットとも称された三式を操り、リーネを弄ぶ。これは圭子が可変戦闘機時代のマニューバーを知り、それを応用していた事も、リーネの不利に繋がっていた。リーネは思わぬ動きに対応できず、持ちこたえ続けたものの、遂に圭子に上を取られ、射撃を食らってしまい、撃墜判定をもらう。

「フム。リーネのカンを戻すのには、いい模擬戦だったな。加東、ご苦労だった。エイラはハルトマンに回収させた。基地に帰投後にデブリーフィングを行う」

「分かった」

――帰投後、圭子の経歴が改めて、坂本から説明される。扶桑海のトップエースであり、ハンナ・ユスティーナ・マルセイユの手綱を見事引いている人物であると。バルクホルンはマルセイユの手綱を握っているというので、圭子に、ものすごく尊敬の念を見せる。若手時代に部下であったマルセイユに信用を置いてなかったからだが、マルセイユがアフリカ戦線を支えていたという事実には感服していたので、マルセイユを制御できる圭子の手腕に興味を持ったのだろう。

「加東、腕をだいぶ戻してきたな」

「未来で戦ったり、ミッドで飛んでたから、だいぶ戻った。絶頂期の時と遜色はないと思うぞ」

「今は、あの時よりだいぶ武器も進んでいる。お前のスコアも更に伸びるだろう、頼んだぞ」

「そのつもりだ」

「これで元祖三羽烏、所謂、『スリーレイブンズ』が全員揃ったわけか。こっちも徹子さえいれば、クロウズが揃うんだがな」

「ゼータク言わない。今の時点で充分に豪華な陣容なんだし」

「扶桑最高の陣容に等しいからな。扶桑海の64F第一中隊所属経験者が5人以上いるし」

「そう言えばそうね」

「私は魔力減衰し始めのウィッチだから、お前らに前線指揮を任すやもしれん。ローテーションに組み込んでおくぞ。お前は黒江か穴拭の後衛、もしくは私の前衛を頼む」

「分かったわ」

扶桑海事変で名を上げた者達は、カールスラント撤退戦で名を挙げたカールスラントのウィッチ達と同格に扱われる。カールスラント組のほうがスコアが大きいが、試行錯誤で怪異を落としていった世代への敬意である。ただし、当時に絶頂期であった戦間期世代に当たる、スリーレイブンズを含めたリウィッチは、現役世代から下に見られる傾向があった。それは特に、彼女らが現役後期から末期に新兵であった世代の『古参』に強く、カールスラント組の年長組にその傾向が見られた。他の世代でも、ペリーヌやジョゼ、更には赤ズボン隊にも見られた。そのため、坂本がここまで宛にするのに、ペリーヌはムッとした心境であり、ミーナも心穏やかではない。

(この方、坂本少佐の先輩と言うけれど、戦間期に在籍していたのなら、第一線で戦えないはず。だけど、あの動きは、現役になんら遜色……)

ペリーヌは、坂本が圭子を宛にしているのにムッとした心境であった。リウィッチの事はこの時期、まだ情報が開示されておらず、リウィッチの事を知らない者が多かった。そのため、黒江にはトールハンマーブレイカーでノックアウトされるわ、智子には燕返し・改で撃墜判定をもらうわ、いいところがないため、更にエイラを圧倒し、リーネを落とした圭子の実力に身震いしていた。


(スリーレイブンズ?確かに彼女達の実力は現役ウィッチと遜色ないけど、あれは偶像の伝説でしょう?美緒は何故、そんなに宛にしているの?)

こちらはミーナ。スリーレイブンズという単語に、新兵時代の教練で、先輩達が講話していた『扶桑の凄い三人組』の事を思い出したが、ミーナは、かつてのデルザー軍団が仮面ライダー一号と二号を『伝説』と一笑に付したのと同じように、スリーレイブンズの存在を伝説と捉えていた。ミッドチルダ動乱で、既にその実力を見たはずなのだが、その先入観があるため、結びついていない。念のために取り寄せた報告書も信じがたいため、彼女は黒江達こそがスリーレイブンズ当人であると信じていなかった。それが後の、パットン・ロンメル殴り込み事件に繋がるのだ。


――ストームウィッチーズの編入により、またまた編成が変えられたが、菅野は芳佳がバディで固定化、下原はサーニャ・エイラと組む事になり、リーネはジョゼと共に、ペリーヌの護衛となった。真美はティアナとで固定、ロスマンはバルクホルン、ハルトマンの長機となり、ドミニカはジェーンと。ラル、黒江、圭子、智子、竹井、坂本は中隊長の任を請け負い、その最先任が黒江、次席が坂本となった。(マルセイユはライーサで固定)そのため、最も出撃機会の多い坂本、竹井らの護衛、あるいはその逆のケースで、スリーレイブンズはローテーションを組んで戦った。竹井が取り組んでいた504再建が、501への吸収という形で終息してしまったため、竹井は結局、501に居続ける事となった。この時に504再建メンバーとして召集をかけようとしていた、諏訪天姫、中島錦の二人は、二度の召集話が立ち消えになったため、太平洋戦争まで本土でテストパイロットを行い、戦時中は防空部隊で奮戦したという記録が残されている。


――両名の召集が立ち消えになった背景には、前途有望とは言え、激戦区に送り込むには技能不足と見られた(特に天姫)事、既にその代打として、扶桑最強と言えるスリーレイブンズが501に送り込まれていた事が考慮されたこと、ヒーローの活躍で統合戦闘航空団の整理が取りざたされたのがある。501の拡大が504再建、506の凍結解除の代案であり、『アフリカ』(ストームウィッチーズ)出身者の任地確保の意味合いの決定でもある。二人の代わりがマルセイユなり、圭子達という扱いなため、竹井としては素直には喜べない顛末を迎えたのだった――。


――これ以降の501は事実上の『航空軍』編成で扱われた。複数の統合戦闘航空団の統合がなされたからだが、ド・ゴールの強い反対で、506の統合に手間取り、結局、山本五十六の機転でなされた策略で、最終決戦に参戦するのみとなり、その後、ノーブルウィッチ―ズの欧州組では、ハインリーケのみが黒田に同行する形で、南洋島に赴いた程度であった。この反対はド・ゴールの軍人としての経歴に傷を残す結果となり、政治的にもド・ゴールの失態とされ、彼への反対派が勢いづく結果を生み、混迷を生み出した結果、太平洋戦争後のガリアの発言力低下の一因となってしまう。その中で、黒田の実戦参加の許可だけは明断で、それがロンメルから通達され、フェイトのエスコート名目で出撃をするようになるのが、せめての救いだった。そのため、ペリーヌは、ド・ゴールにはあまり好感は抱いていないが、愛国者という面では同志なので、目的は同じということになる。その面から、ド・ゴールは、ペリーヌを象徴的意味合いもあり、ロザリー後継の隊長にする事にこだわった。国の衰退を憂い、ロザリーに重荷を背負わしたくないペリーヌは、1947年度に少佐昇進と、506新司令に就任するのだった。(それに伴い、501を離れた)


――スリーレイブンズの勢揃いは、年長組の疑念のもととなったが、ガランドが黙らせているところも大きかった。バルクホルンだけはマルセイユの件もあり、好感を抱いていたので、味方枠に入った。着任したての時に、バルクホルンとハルトマンという味方をはっきりと得れたのは、三人には大きな僥倖だった。後に、モントゴメリーの計らいで、先任中隊長の黒江の負担軽減名目で、エリザベス・F・ビューリングが智子のバディ要員として送り込まれたのも助けとなった。明確に着任時のスリーレイブンズの味方であった年中組以後の者達は、501ではバルクホルンとハルトマン、シャーリー、502では菅野と下原、ニパ、504では竹井、ドミニカ、ジェーンである。(506の黒田は別枠)比較的中立なのがラルで、雁渕から事前にヒアリングをしていたため、どちらかと言うと、スリーレイブンズよりの中立であった。

「ラル少佐、君は私達寄りと見ていいか?」

「構いませんよ。孝美から貴方方の事は聞いています。ミーナ中佐の態度は探りかねてますが」

黒江の問いに、ラルはそう答えた。ラルは、雁渕のツテで独自に情報を得ており、スリーレイブンズが黒江達を指すという事を知った。そのため、ミーナの態度には怪訝そうである。態度に何かあるのかと、ラルは探りを入れているが、実際のところはミーナの個人的感情のもつれである。そのため、黒江とハルトマンは後日、お互いに『拗らせてるなぁ』とため息をつくのだ。

「ミーナ中佐は、貴方方ほどの戦力を得たと言うのに、有効活用しようとする態度を見せないのか?ミッド動乱で目にしたはずですよね、彼女」

「ああ。多分、その原因は坂本少佐の事だろうな」

「坂本少佐?彼女と中佐になんの関係が?」

「あー……未来世界でガールズラブっていう単語があるのを知ってるか?」

「まさか、彼女は同性愛者と?」

「そう言ってやるな。ああ見えても、昔はちゃんと彼氏がいたそうだから。その人が戦死した反動で、坂本に惚れたんだろうな。まぁ、君たちくらいの年頃によくある、乙女の麻疹のようなものだ。事を大きくはせんつもりだ。ハルトマンを動かしているようだが、こっちに筒抜けなんだがな」

「ハルトマンはあなたに情報を先に見せているということですね」

「そうだ。扶桑海事変の情報には、嘘を混ぜてあるが、ハルトマンではそれを見分けられんしな」

「かなり入れてるようですな」」

「大和型戦艦の事や、実際の損害などに入れているからな。その関係で、私と加東少佐とで精査をしている。色々と極秘事項にも触れるし」

――ハルトマンが入手できる情報は、グレードが中程度のものまでのがせいぜい。そのグレードの情報には『嘘』も多いので、当事者の三人が精査し、当時の本当の情報を教え、それをハルトマンがミーナに流すという手法を取り、ミーナの動きを掴んでいた。スリーレイブンズはミーナの一連の動きを、着任当初から知っていたと言うわけだ。年の功の差がモロに出たのだ。ラルもスリーレイブンズの動きに乗っかったため、ミーナは知らず知らずのうちに、『黒江達の手のひらで踊っていた』のだ――


――圭子が着任した前後に、アフリカから到着した『機材』が運びこまれ、練習機のゲッターG(デコイ)、実戦仕様ゲッターGの二機が、マシン状態で運び込まれたり、Ξガンダムが到着していた。また、陸戦ウィッチのシャーロット・リューダーも、防衛戦の研修を名目にやってきた。これはエイラの姉のアウロラに合わせての措置で、アウロラの着任に前後してやってきた。シャーロットの着任に先立って、黒江が『ウィッチの出身部隊間の連携の円滑化』を名目に、ミーナが設けていた規則を有名無実化させておいたので、いつしか、ストームウィッチーズのフリーダムさが持ち込まれ、隊の空気はストームウィッチーズのそれになっていた。ロンド・ベルの雰囲気もそれに近いため、黒江も智子も違和感なく、芳佳も『なんか変わったなぁ』と漏らし、ブリタニア当時は、『連携の模索』名目で、ジュドー達から話しかけてきてたので、それを思うと、随分と楽になった。ミーナはストームウィッチーズの合流を期に、『部隊をまとめるためには、規則ばかりではいけない』と、前回、連邦軍とあまり連携できなかったのを教訓にしており、(巣を真ゲッターロボが吹き飛ばした、拡散波動砲が使われたなど)黒江の動きは『黙認』した。そのため、ストームウィッチーズの合流後の食卓や、夜の様子はフリーダムの一言。マルセイユは酒を飲む(一時より落ち着いた)、黒江、菅野、智子はTVゲームで盛り上がる、黒田はシャーリーとハルトマンを捕まえ、映画談義。映画については、スリーレイブンズが自腹で、『慰問の映画会だけでは機会が限られる』のを名目に、後に、ホームシアターを用意し、金曜と日曜にジャンルはランダムで流した。そうでないと、黒田がホラー映画を選んでしまうためだ。ストームウィッチーズの着任の週に流された映画は、チャー○ズ・ブロンソンの『ウエスタン』。これは西部劇好きなドミニカとシャーリーのリクエストで、後世の西部劇映画であった。結構長めだが、チャー○ズ・ブロンソンとヘ○リー・フォンダの対決など、後世の映画ファン必見の豪華さであった。リベリオン組は基本、西部劇やアクション、ヒーローものを、坂本や智子はチャンバラを、黒江はSFや冒険活劇を、ミーナはロマンティックコメディや、シンデレラストーリーを好んだ。ウエスタンの次の週が、シンデレラストーリーの変形で知られる『プリティ・ウーマン』なのは、ミーナの推しであったとか。バルクホルンは仕事に結びつく、飛行アクション映画を好む傾向があり、『トップガン』、『アイアンイーグルシリーズ』をリクエストに入れていたので、ハルトマンとマルセイユに呆れられたという。(それだけ、未来の航空機や、年月のうちに生み出されたマニューバーが気になっていた証でもある)


――ある日

「バーロー!!リーネに殿を押し付けたのか、ジョゼ!?」

「リーネさんが引き受けてくれたんです、私じゃどうしようもなくて……」

ジョセとリーネは連携訓練のため、地中海に繰り出していたが、ジョセはミノフスキー粒子に戸惑い、連絡のため、リーネが殿を引き受ける形で、帰投してきたのだが、技能が上なはずのジョセが帰って来たので、黒江の叱責が飛んだ。

「ミノフスキー粒子で電波撹乱が起こることくらい知っとけ!」

「す、すみません……」

ジョセの失態と、リーネの意外に自己犠牲精神の強いところが裏目に出てしまった事態に、黒江は動く。

『宮藤、菅野、ヒガシ!出撃準備だ!事情はバルクホルンから聞いたな?格納庫に集合しろ』

と、隊内放送を入れる。

「ジョゼ、後で始末書書くように。他の処分は帰って来てから通達する」

「わかりました……」



――圭子の実戦初披露が、思わぬところから生起した。機材はジェットストライカーの試験も兼ねたので、『旭光』(セイバーのライセンス生産機)であった。敵はティターンズの戦闘機部隊で、F4UとF8Fの編隊で、こちらも偵察飛行中であった。

『黒江少佐、リーネは単騎で、20機以上の敵機と戦ってるようだ!救援を急いでくれ!』

『了解だ、出るぞ!』

――ジョゼの失態は、人の乗る戦闘機に怯えて僚機へ適正な指示が出せなかった事である。そのため、編隊長としての資格はまだ与えるべきでないと、黒江は判断した。20機以上の敵機と言う事から、救出戦のメンバーは敢闘精神旺盛な、64F/343空お馴染みの面々となった――


――リーネは、自機よりも高性能な敵機に苦戦を強いられていた。F4UもF8Fも実用最終型相当の性能に達しており、マーリン最後期型相当のスピットファイアと言えども明らかに不利であり、サイドアームが狙撃用ライフルであるのもあり、翻弄されていた。


「当たらない!敵の動きが早すぎる……きゃあ!」

対物ライフルは、戦闘機相手には不利と言わざるを得ない。偏差射撃も対人相手では勝手が違うため、リーネはストライカーの防弾板(航空ウィッチの間で、連邦との接触以前に横行していた、防弾板外しは501でもあった)を外していたため、コルセアの機銃掃射がかすっただけで外板が凹む有様である)防弾板のありがたみを、シールドを容易く貫通する敵弾の存在から、改めて認識した。この弾丸は、弾頭部に魔力をちょっと込めて、炸裂時にその魔力を爆発させて、シールドを弱めた上で弾体を通すという仕組みの弾丸で、ティターンズと連邦の双方が用いるようになった特殊弾頭だ。この弾頭の普及が、航空ウィッチのシールド便りの防御に一石を投じたのは言うまでもなく、当時の501でも問題になっていた。死重扱いの防弾板に再び脚光が浴びせられるなど、誰も思わなかったからだ。特にミサイルの破片防御には必須とされた事もあり、防弾板を取り付ける余裕のある『大馬力機』が好まれるようになったが、時代は既にジェットストライカーが台頭し始める時代であり、強力なミサイルや機銃が使用され始めたため、どの道、レシプロ機レベルの防弾板では防げないのだが。ましてやリーネの機体の最高速は650キロ程度。コルセアとさえ、有に30キロ以上の速度差がある。部隊長機に至ってはベアキャットすら超える速度のF2G(コルセアの発展型)なのだ。空戦で30キロの速度差があれば圧倒的優位とされた、この時代。リーネは蜘蛛の巣に捕縛された蝶さながらの様相を呈し、ライフルを失う。(米には隊長機に特別な機体は配備しない風習があるが、ティターンズ生え抜きの者が督戦要員で送り込まれている部隊もあり、この部隊はそれだった)

「ああっ!どうしよう、攻撃手段が……!」

ウィッチは銃を失った場合、格闘戦に入れる者と、そうでない者とに分かれる。リーネはあいにく、格闘戦ができないウィッチになる。その上、元々、今回の戦争での戦う意義を未だ見いだせないのか、督戦要員に監視されているため、必死の形相でトリガーを引く搭乗員らに恐怖を感じる。

(こ、この人達は私を本気で……!)

コルセアは上昇率は低いが、スピードが乗った状態での一撃離脱戦法では恐ろしい強さを見せる。特に最終型では『AN-M2』(HS.404機関砲)が四門で、概ね紫電改と同等の火力を持つため、当たれば、ユニット全損は確定。リーネはそれを直感的に悟り、必死に逃げる。だが、機体の速度差により逃れられず、次第に火線が迫ってくる。リーネはあらゆるテクニックで逃げようとするが、戦闘機と言え、アンチ・ゼロファイターを目指して造られたベアキャットの高い旋回率と、コルセア群の一撃離脱戦法に追い詰められていく。リーネの狙撃専門(結果的に、格闘もこなせる圭子の下位互換になってしまった)の特性が裏目に出た形だった。黒江が訓練で言った『ただ曲がるな、高さと速度というエネルギーを曲がることで消費する事を忘れるな』という言葉の意味を噛み締める。

(訓練で黒江少佐がやった方法を思い出そう……あの方法しかない!)

言葉を実践し、自分の回避で相手に大回りさせ、追い付けない様に逃げる事に成功する。


と、10分ほど基地の方角へ逃げていると。




「リーネ、機体を右へ反らせ!」

「は、はい!」

黒江の声がインカムに響き、リボルバーカノンの銃声が響く。黒江達が到着したのだ。リボルバーカノンの弾がコルセアに直撃し、木っ端微塵に吹き飛び、次いで、芳佳・菅野の凸凹無敵コンビが雄叫びを上げながら吶喊。

「そぉぉえぇぇんざぁぁんッ!!」

芳佳は、ジェットの速度を乗せた双炎斬を披露し、炎に包み込むかのように敵機を消滅させる。菅野はバカスカ撃ちまくった後、芳佳の露払いを行い、黒江から教わった『彗星拳』をシールド付きで放つ。これで敵の出鼻を挫く。芳佳と菅野のコンビはまさに無敵の一言だが、それを教えた黒江も、今や人格の入れ代わり立ち代わりが常態化しつつあるため、連打系最高峰の技の一つを放つ。

『落ちやがれ!アトミックサンダーボルト!!』

ライトニングプラズマは比較的近距離での技なので、遠距離も対応できるアトミックサンダーボルトを好んで使う事も多い。聖剣を使うほどの相手ではないので、この程度で充分お釣りがくる。それと、銃を持ちながら撃てる利便性もあった。後の経緯との帳尻合わせのためか、黒江の人格が『死後の彼女自身』と入れ代わっている事がこの頃から見られるようになり、戦闘で聖闘士としての闘技を使うことが常態化していた。智子はこの頃から魂の同化と昇神が少しづつ進んでいたため、圭子はゲッター線に包まれた際に、この未来を幻視していたため、黒江の人格入れ代わりを承知していた。人格入れ代わりの影響で、黒江が、本来ならずっと後の後半生で見せるはずの『仲間を失いたくない故に、長年、共に生きてきた二人の事を家族と思っている』事や、『この時代に於ける本来の人格よりも涙もろく、感情の起伏はむしろ、この頃より激しい』ことの片鱗が見え隠れしており、ミーナが着任当初の自分らを疎んじていた事を『知っている』のだが、それでもむかっ腹が立っているらしく、可変戦闘機の高価なオプションを思いっきり揃えたりしている。智子は『あの子が知らないの分かってて揃えてんでしょ、あなた』と、『あること』を知っている上でのツッコミを入れている。

―ある日のこと―


「あなた、ほんとにさみしがり屋になったわねぇ」

「お前が『置いて行っちまった』せいだぞ〜!」

「肉体が寿命迎える時のこと言わないでよ、まったく。ま、その人格のほうが分かりやすくなってていいわよ」

「智子、オメーって奴は……」

智子は、黒江に対して、素直に感情が出るようになっている後世における人格』のほうが付き合いやすいと、はっきり言った。黒江の方も、この時代の自分を演ずる必要は二人の前では必要ないので、本来ならずっと後に改める呼び方を見せる。

「いくつになっても、さみしがり屋なんだから。あたしだって、自分が昇神し始めてる自覚あるんだし、『いなくはならない』って分かってるでしょうに。あたしの葬式の時に、あんたがおいおい泣いたの、言ってやろうかな?」

「お、おい!」

「うふふ、冗談よ」

智子も神格に昇神し始めている故か、未来を知っているような口ぶりを見せる。黒江(死後)は、このような軍隊時代の『日常のやり取り』が懐かしくなり、話がしたいがために、時たま過去の自分に宿っているのである。それは、智子が完全な神格となる時間が訪れるまでの数百年の時間に於ける寂しさと、実務上の目的が入り混じった、公私複雑なものと言える。そのため、黒江が智子を連れ回す形で、だいたいは二人で行動しているので、この時間軸における坂本からは不思議そうに見られており、『お前ら、なぜコンビで行動しているんだ?』と率直なツッコミを頂いている。坂本も、黒江の人格の変化には気づいていないながらも、黒江の言動が以前より『若々しい』(歴史改変前の僅かに残っていた記憶も混じっているが)事に違和感が多少ある。(歴史改変前の『〜のだな』や『我が太刀、捌ききれるか!』の一言の記憶が残っていたらしく、菅野や若本のような『〜だぜ』、『バーロー!』などの21世紀以後の人間のような、捌けた言葉づかいの黒江に違和感があるのである)

「今は責任少ない配置だし、気ぃ抜かさして貰ってるわ、智子と居るの気になるならお前と一緒に居てやろうか?ガハハ」

「お前、赤松先輩みたいな事を」

「まっつぁんのお説教は効いたか?」

「おかげで、恐縮してしまったじゃないか、お前の差し金だったのか」

「西沢と共同で頼んだ。あいつが、まっつぁんに話をしてくれたからな」

大先輩の赤松の事を『まっつぁん』とフレンドリーに呼ぶかどうかも、人格の入れ代わりを見分けるポイントである。歴史の帳尻合わせの意味もあり、この頃より赤松と親交を持つようになり、『まっつぁん』と呼んでいた。赤松が後に空自に潜り込むのを選ぶのも、この時に黒江が芽を巻いていたからである。

「お前、赤松先輩とどんな仲なんだ?」

「メル友だけど?」

「何ぃ!?」

「ほれ」

「……本当だ」

連邦側との連絡のために持っている携帯電話には、『赤松貞子』(まっつぁん)と、電話番号とメールアドレスが登録されており、坂本は目が飛び出んばかりだった。他にも、『五十六のおっちゃん』(山本五十六)、『源田の親父さん』(源田実)、『多聞丸のおっちゃん』(山口多聞)、『小沢さん』(小沢治三郎)、『山下の大将』(山下将軍)、『今村閣下』(今村均)と、扶桑軍の高官達のメアドと電話番号が登録されていたりする。

「お前、前々から思ってたんだが、高官達とどういうコネあるんだ?」

「扶桑海の時から付き合いがある人達は登録してる。カールスラントとかブリタニア関連はヒガシに任せてあるよ。あいつのほうが多岐に渡ってるはずだ。今はモントゴメリーのおっさんを釣ってるはずだよ」

「どうやって?気難しい人と聞くが」

「真美の飯だけど」

「稲垣の飯かーー!」

思い切りずっこけた坂本。真美の作る食事はとても評判で、真美は501の人員をこれで『落とす』役目も担っており、厨房要員は下原、芳佳、真美の三人と、その補助でティアナとリーネがつき、『和食の稲垣、中華・和風洋食の宮藤、完全洋食の下原』と称され、将軍・提督達が食べに来るのも珍しくはない。そのため、考えすぎと、感くぐりすぎなミーナの暴発性が顕になってしまう一因ともなってしまった負の面もあった。それは防衛戦の一戦線を率いていた山下奉文大将がぶらりと立ち寄り、ミーナを慌てさせたのが最初だった。山下将軍を皮切りに、今村均大将、バーナード・モントゴメリー元帥(ビューリングの派遣決定の通達も兼ねて)、エルヴィン・ロンメル将軍、ジョージ・パットン将軍の三将軍、更に最高司令官で、亡命リベリオンの暫定的な大統領のドワイト・アイゼンハワーまでもが視察名目に、真美の飯を食いに訪れた。彼らの来訪が殆ど連続であった(パットンに至っては、入院先の病院を抜け出してきた)ので、ミーナは裏があると感くぐってしまう。単に飯を食いに来ただけな実情なのに関わらず。この将軍達の来訪は、ミーナに芽生えたスリーレイブンズへの懐疑心を、ハルトマンにも止められないほどに加速させてしまう。これが『殴り込み事件』の伏線となるのだ。

「ああ、ミーナの奴が私に愚痴ってたぞ。将軍達が稲垣の飯食べたさに、ウチに続々くるだろ?間隔空けてくれればいいのに、どんどんくるから、疑心暗鬼になっていた」

「んなに不思議な事か?真美の飯は評判なんだぞ?」

「大将級だぞ?戦線の指揮をほっぽり出してまでやる事か?」

「マミのごはんは司令部でも評判なのだ、少佐」

「あら、今日はアイクのおっちゃんか」

「あ、アイゼンハワー大将ぅぅ!?」

なんと、今や亡命リベリオンの暫定大統領の座についてもいる『ドワイト・アイゼンハワー』大将であった。未来世界でも、大統領であった時期があるので、その帳尻合わせというべきものだが、亡命リベリオンは亡命政権とは言え、軍人主体で設立されたため、アイゼンハワーは軍服を脱いではいない。軍服を脱ぎ、大統領に専念するのは、50年代の事だ。

「どうやって来たんスか?」

「前線視察の名目を立てた。ガランド君から、ミーナ中佐の動きを確認してほしいとも頼まれてもいる」

「ミッド動乱での事が?」

「そうだ。ガランド君の命令に背いて、ハルトマン中尉を帰投させたなどの行為がサボタージュ行為に当たる危険が大きくてな。敵へ翻意がないか、私自らが確かめる必要があるのだ」

それは当時、バダンを結果として幇助してしまった事で、仮面ライダーZX=村雨良らに危険視されてしまった表れであった。アイゼンハワーはミーナを弁護し、村雨良に『自分が真意を確かめに行く』と公約しており、それを果たす事も今回の目的であった。

「では、彼との約束もある。ミーナ中佐の執務室に案内してくれ」

「こっちッス」


――アイゼンハワーの来訪は、ミーナに強いショックを与えた。アイゼンハワーほどの者が自ら設問しに来た。ミッド動乱の際の抗命を咎めるのなら、当事者のガランドに既に詫びているはずだという『甘さ』も判断材料だった。ガランドが上層部に通達したのだろうかと瞬時に思い至り、ガランドを心の中でなじった。だが、ここで『バダンを幇助したおかげで、仮面ライダー達から内通者の疑いがかけられており、軍のブラックリストに登録されてしまっている』と通告され、手にした万年筆を落としてしまうほどの衝撃を受けた。

「私が内通者と……!?」

「仮面ライダーZXが強い疑いを君にかけていてな。君の抗命行為が、バダンへの幇助の意図が無いと証明できなかった場合は……」

「待ってください!私は確かに中将閣下に抗命しましたが、バダンへの意図的な幇助をしたわけではありません!私は、ただ、閣下の命令が大量虐殺を容認していると思い、ハルトマン少佐を帰投させたのです」

ミーナは必死に弁明する。ZXに疑われているのはまったくの予想外だった。ZXが最高レベルの仮面ライダーであるとは知っていたので、ミーナの顔色が蒼白になる。

「君は奴等がどのような集団か、知っているのか?」

「いえ。単に、ナチスの残党であるとしか……」

「では、彼から聞いた話をしよう。おぞましく、吐き気を催すような邪悪な者共が何をしたか」

アイゼンハワーが話した。バダンの終戦時からの、いや、神話の頃からの長い年月をかけての野望を。

「奴等は、人間である事を捨て、他の者共を家畜か資源としてしか見なさない集団だ。その母体がナチス・ドイツなだけだ。彼らは自らが神と崇める存在の器となる者の肉体を、超テクノロジーを用いて作成し、さらにその実験のために、多くの異次元で人を拉致し、改造人間の被験体にしていった事。無作為に。老人や子供、女性であろうがお構いなしだ。それで、億単位の人間を実験に使った……」

ミーナは段々と吐き気を催す。ZXに至るまで、いや、仮面ライダー一号となった本郷猛に行き着くまでに、どのくらいの人間を実験動物扱いで処分していったか。想像だけでもおぞましい光景だ。現に、本郷の前にも、仮面ライダー0号とも言うべきプロトタイプの改造人間を制作したが、その能力が素体のキャパシティを超えてしまい、死亡しているという記録もある。(本郷が仮面ライダーになってしまった要因は、0号の失敗も大きい)その失敗を踏まえ、当時の日本最高の肉体の持ち主である本郷と一文字が仮面ライダー型に選ばれ、本郷に至っては改修手術まで施されたのだ。これはデーモン族に意思を乗っ取られ、狂気に陥っていた死神博士の最後の意思でもあった。

「それで本郷猛たち仮面ライダー達の極初期の二人は、デーモンの幹細胞を埋め込む事で、他生物の特徴を取り込むのに親和性を持たせていたが、段々と機械式のボディが進歩し、拒絶反応も起こさないようになっていった……」

バダンと言えど、初期段階では、デーモン族の細胞を用いる事で、肉体の拒絶反応を抑制していた。段々と機械式のボディが進歩し、メンテナンス性の問題が克服されると、全身に武器を埋め込んだショッカーライダーのようなサイボーグも現れる。そこから脳を補助する電子頭脳の性能が発達し始め、ZXや00ナンバーサイボーグの009=島村ジョーで一つの頂点を極める。バダンはV3を『ショッカーライダーV3』として、デストロンに設計されており、新一号の発展型である『三号』と採用を争った。結果、ゲルショッカー滅亡後にデストロンへ移行した際に、風見志郎をどちらにでも改造できるように資材をお膳立てしておいた大首領は、1号と2号が『構造が単純化され、すぐに施術できる』V3を選んだのに納得し、ショッカーライダーのラインをV3に切り替えた。仮面ライダー達が『戦車道』世界で交戦したショッカーライダー達は、その時に改造された精鋭である。

「それで、大首領のボディの再現であるZXを仕上げるまでに、これまた億単位が……」

「やめてください……聞いてて吐き気が……!」

「これがバダンのやり口ですよ、中佐。人間の事なんて、土塊とか家畜、資源としか考えちゃいないゲス野郎共だ。中佐はこれでも、奴等とお話ができると?」

吐き気を催すミーナに、黒江がキツく言う。改造人間を生み出す上で犠牲にされた億単位の人間達を資源・家畜扱いするバダンと話をすることは無駄な努力だと。仮面ライダーを強く慕う彼女にとって、バダンは打倒すべき敵なのだ。

「軍人の仕事になったら、相手から望まれない限り対話の必要は無いし、バダンとは、既にその段階は終わっているのだよ、中佐」

「この話を聞いて、自分が青かったか分かりました……。ZXさんへお詫びするとお伝え下さい……ガランド閣下へもお詫びの品を送りますので…」

「分かった。だが、数年後に研修は覚悟しておいてくれよ、中佐。そうでないと他の連中がうるさくてな」

ミーナは数年後に研修コースがこれで確定した。ミッド動乱での行為を『利敵行為』とし、厳罰を求める声が大きいのだ。エドガー・ド・ラルミナ将軍(ガリア空軍)、ジャン・サッシ大佐、(ガリア情報部)、ポール・ド・ラングラード将軍(ガリア陸軍)、アーサー・パーシバル将軍(ブリタニア陸軍)などがその主導者である。アイゼンハワーは彼らに対し、『501司令官をすげ替えたところで、何の解決にもならんし、敵の通達について不十分な我らにも非がある』と庇い、総司令官である自分の案件にしたのだ。


「了解です……」

「エチケット袋だ、これに吐きたまえ」

「ハッ……」

エチケット袋を受け取り、堰を切ったように吐きまくるミーナ。結局、この日の飯を全抜きする羽目に陥り、そのショックもあり、自室で寝込んでしまったとか。そのため、その日から3日ほどの指揮は圭子が代行し、この時に代行権限で決済したモノは多く、可変戦闘機の弾薬一式、ハルトマンが頼んだ『VF-22S』のバーストタービンエンジンのチューン仕様なども含まれていた。ミーナが可変戦闘機の運用費に、かってに悩んでいたのは、『連邦軍でも精鋭部隊のみが使用を許された高級機種』を集めた事もあるが、弾薬費やパーツを揃えたり、整備要員を確保するなどの兵站面の問題も大きかったからだ。整備要員は、黒江がロンド・ベルから何人かメカニックを派遣してもらったり、自分達も手伝ったりする事で、弾薬は連邦軍への連絡でどうとでもなったが、ミーナが知らなかったとはいえ、一番の悩みどころは『燃料』であった。『ジェットは大食い』という先入観が、ウルスラ・ハルトマンからの技術レポートで上がっていたために醸成されていたからだ。他にも、ジェット燃料は高オクタン価ガソリンとは違うものであり、この時代ではまだ実験段階なのが多数派な事もあり、莫大な請求書が送られるのを恐れたのだ。


――実際は連邦軍が燃料費に悩んでいたのは、22世紀の後半頃までで、ブラックタイガーやVF-1の実用化で『宇宙に行く』時を除いては、燃料配分をほぼ気にしなくて良い時代を迎えている。(VF-1で大気圏内700時間という長大な飛行時間を確保しており、通常の作戦行動では無制限に等しい)熱核タービンエンジンの類が、如何に航空兵器にとって画期的なのが分かる。(最も、最高級エンジンのコスモタービンに至っては、天文単位の航続距離を持っており、タイタンからフェーベ間の距離をひとっ飛びで済ませているが)

――と、言うわけで、リベリオン本国軍との戦闘は、無敵の64F/343空の面々のワンマンショーと化していた。その手際は鮮やかであり、菅野をよく支える芳佳に羨望を覚えるリーネ。

(芳佳ちゃんは強くなってる。新しい機体に装備、それと菅野さんと組んで得た、あの剣術……凄い、凄いよ!芳佳ちゃん)

菅野をよく支える芳佳の構図は、本来の歴史では起こりえないはずのものである。まして、戦争を嫌っていた芳佳が、自ら剣を取るなどはあり得ないはずだった。が、歴史改変を黒江たちが『やらかした』時、宮藤一郎博士と会う機会があった際に、智子が幼少の芳佳と数回ほど会っていた時に仕込んでいた事により、この光景を実現させたのだ。そのため、母の清佳は智子を覚えており、その関係もあり、黒江が下宿し始めたのだ。(智子たちが宮藤家にすっかり入り浸るようになった事への歴史的帳尻合わせのようなものだ)智子も本国滞在中は時々泊まる事もあり、みっちゃんとしては大喜びだった。また、本国在住中、下原が502から本土に戻ってきていて、冷気に大苦戦を強いられた際、黒江が救援で駆けつけ、『凍気を操るだぁ?なら、それ以上の凍気をぶつけるだけだ!』と、オーロラエクスキューションを初披露した事がある。凍気を操る怪異に絶対零度をぶつける発想に、下原は苦笑いしたものの、ストライカー無しで、凍気をエネルギーの塊として放ち、怪異を絶対零度で粉砕する黒江に羨望を覚えた。その際、黒江も氷漬けにされたのだが、それを上回る凍気を纏うことで、氷を瞬時に粉砕しており、その脳筋な発想もあり、下原は苦笑いしたのだ。その際の格好は、上半身ほぼ裸、胸には包帯を巻いているだけであったので、それにも関わらず、冷気を物ともせずに、オーロラエクスキューションを放つのに瞠目したわけだ。そのため、下原はエクスカリバーのことも正しく理解しており、聖闘士としての黒江を、第三者としては、初めて目の当たりにした人物であったため、基地で伝えられる戦況にも、『当然』という感じで構えていた。

「戦闘機くらい、物の数じゃないですよ、あの人達は」

「何故、そんな事を言えるの、下原さん」

「だって先生、あの人達は扶桑最強を謳われた、バケモノウィッチなんですよ?戦艦相手でもぶっ飛ばせる様な人達だし……」

質問するロスマンに、下原は引いているような素振りを見せつつも、こう答えた。戦艦であろうともぶっ飛ばす、『扶桑最強のウィッチ』だと。無線からは、気楽そうな声で、『あ、インディペンデンス級だ』『へー、舐められたもんね』『んじゃ血祭りにあげる?』『まとめて海の藻屑にしてやるぜ!行くぞ〜!』という恐ろしい会話が聞こえてきた。基地の待機要員はお気楽そうな二人の会話が何気に恐ろしく物騒なのを悟り、青ざめたという。


――圭子はこの時にオーラパワーとゲッター線のパワーを複合させ、黒江の方は、斬艦刀を実戦で初披露した。


「ヌウン!」

この日に使用していた連邦製の特殊軍刀の刀身を魔力で長大・極太化させ、『斬艦刀』化させる黒江。更に右手に宿るエクスカリバーの力も上乗せさせ、威力を増大させる。

「うおりゃーー!」

護衛艦隊のクリーブランド級軽巡洋艦が風の力で海上から浮かび上がらせられ、そこから一気に膾斬りが行われる。10000トンもの船が空中に浮かび上がらせられ、膾斬りにされるという、異常な光景。軽巡洋艦が抵抗の間なく、バラバラにたたっ斬られ、大爆発と共に空中で破壊されるのに恐怖した艦隊は、狂ったように弾幕を上げるが、当然、当時の最新鋭機とスリーレイブンズの腕前には、VT信管すら満足に配備されていない、二線級の任務部隊では荷が重い。風の力を開放し、暴風を発生させ、駆逐艦を転覆させ、斬艦刀で大型艦を叩き斬る黒江、狙撃で駆逐艦の艦橋や煙突を破壊し(艦橋への狙撃は、中の人員を殺傷させる意図もある)、行動不能にさせる。駆逐艦程度の装甲では、圭子の狙撃の腕と、リボルバーカノンの破壊力を防げないのだ。状況確認のために、バルクホルンが上がったが、バルクホルンを以てしても、まともな報告は不可能なほどの異常な光景が展開されていた。

『鉄拳オーラギャラクシー!!』

フレッチャー級駆逐艦を、オーラギャラクシーで上下を泣き別れにし、爆発させる圭子。バルクホルンは真面目なだけに、ショックが大きく、とても報告できるほどの状態では無くなった。艦隊が阿鼻叫喚の様相となり、『このバケモノがぁ!』と機銃を乱射する機銃要員、『総員退艦、退艦――!』と、沈没間近の巡洋艦から逃げていく乗員。艦隊は艦載機と艦艇を尽く失い、もはや敗走に移っていく。攻撃機を用いる攻撃ウィッチでも、爆撃ウィッチでもない、『戦闘ウィッチ』が挙げた対艦スコアとしては空前絶後の大戦果である。その為、バルクホルンは呆然と立ち尽くす。

「戦闘ウィッチで、ここまでの戦果を挙げられるものなのか……?馬鹿な、フリーガーハマーも無しに……」

これまでにない大火力を備えたとは言え、対戦闘機の範疇を出ないはずの武装しか持ち合わせていない二人で挙げた異常な戦果。しかも、超常現象起こしまくりで。

「先生、こちらバルクホルンです……。信じられません、巡洋艦と空母を含めた艦隊が、二人に圧倒され……敗走しました……」

「トゥルーデ、それは間違いないのね……?」

「はい……」

バルクホルンの眼前で、飛行甲板ごと綺麗サッパリまっ二つに両断され、海中に没するインデペンデンス級軽空母『カボット』。世が世なら、ブラジル海軍の『デダロ』としての後半生を送ったであろう空母だ。艦首側が斜め上に持ち上がり、海中へ没する姿は圧倒的ですらある。

「ハッハッハ、どうだバルクホルン!これが扶桑撫子の、歴史上初の『三羽烏』の力だ!」

マイクに割り込んだ坂本は、自分のことのように大喜びだ。それは自分が追い求め続けていた理想像の具現化に他ならなかったからでもある。


「バッキャロー、三羽烏とそこらのウィッチを一緒にすんな。 ウィッチ以外の力込みでの三羽烏だからな!」

と、釘を刺す黒江。ウィッチ以外の力で倒しているので、釘を刺しておかなくては、坂本はすぐに有頂天になるからだ。

「バルクホルン。驚かせてすまないが、ウチの海軍に生存者の回収は任せた。帰投するぞ」

「り、了解」

――この日、圭子は空母一、巡洋艦二、駆逐艦の作戦行動不可能を6程度出し、黒江は合計七隻の艦艇を海の藻屑とした。空前絶後の大戦果であり、坂本は大喜び、ロスマンは言葉も無かった。艦艇相手に叩き出す個人戦果としては異常だ。

「いったいなんなんですか?これは…」

「三羽烏としか言いようが無いな。 ああいう物だと思っておくしか無いな、ハッハッハ!」

と、戦果報告にご満悦であるも、自分もよくわからないので、笑って誤魔化す坂本。

「美緒はわからないと、すぐに笑って誤魔化すから。これで穴拭さんがいないんだから、恐ろしいわ」

竹井が言う。智子が不在の状態で、この戦闘力なのだから、智子がいれば、戦艦であろうとも問題なく撃沈できるだろう。竹井は海軍に於ける三羽烏である『クロウズ』の頭脳なので、スリーレイブンズが見せ、絶頂期の自分達に求められていた『奇跡』が何であるかを悟っていた。艦艇すら撃沈するなど、絶頂期の自分達でも不可能な所業である。そして。

(あの時、黒江さんはエクスカリバー、いえ、エアの力を使った。あれがもし、あの伝説の神剣だというのなら、オリンポス十二神は、何のために?)

次元すら斬り裂いた『エア』。その存在が何であるかを竹井は博識である故、気づいた。黒江が神をも屠るほどの剣をその身に宿し、その力でケリをつけた事を。竹井はクロウズで唯一、黒江がその力を持つことに気づき、彼女が背負った宿命を悟っている。

(美緒はお気楽だけど、黒江さんは神に忠誠を誓うのと引き換えに力を得たのなら、この場の全員が死に絶えても、戦い続けなくてはならないはず。それは凄く過酷な運命なのよ、美緒)

竹井は気づいていた。黒江が背負いし宿命、智子や圭子との絆にすがっているような素振りを見せている原因を。数百年生きて、戦い続けなくてはいけない事、そこまで生きているのが、不死身の改造人間である仮面ライダーを除いては、スリーレイブンズの残り二人だけであると。別の世界にいる弟子達も入るだろうか?竹井はそう考える。



――黒江は『仲間との絆』を何よりも大事にしている一方で、仮面ライダー達に、幼少期から求めていた『父性』を見出している一面がある。これは若返り当初の強烈な印象が強く作用したところも大きく、出会った当初の時、茂が当初、黒江を子供扱いして頭をなで、『ガキは家にまっすく帰んな』と兄貴風吹かした『クサい』台詞をかました事もあり、黒江は、茂を歴代ライダーの中で最も慕うようになっていった。茂もそれを知っており、黒江の現在の人間性に影響を与え、その方向性を定めさせたのは、仮面ライダーストロンガー=城茂なのだ。彼のようになりたいと思う仄かな心が、黒江の言動を全面的に変えた原動力である。智子にとってのそれが南光太郎であるように、黒江にとっては城茂なのだ。茂が、かつて散った戦友の電波人間タックル=岬ユリ子の墓を守り、彼女が生前に願った事を叶えるために、仮面ライダーとしての戦いを続け、師の立花藤兵衛の意思を継いだという生き様は、黒江の再成長後の性格にまで影響を及ぼしたのだ――

「智子の奴、まだ終わってないのか?上との交渉」

「ビューリング中尉の派遣に伴う交換条件で揉めてるみたいですよ、モントゴメリー元帥が、自分が来る時は必ず真美の食事を用意しろとか……」

「マジかよ。で、智子からのメールは?」

「『醇子、なんとかして圭子を呼んできて〜!モントゴメリー元帥が折れないのよ〜!』と泣いてます」

「ヒガシ、コスモタイガーでちゃっちゃと行って来てやれ。智子じゃ埒が明かん」

「分かったわ。モンティったら、この間の紅茶で満足してないのかしら。真美が過労で死にかねないし、芳佳が宇宙戦艦ヤマト仕込みの料理なら出せるから、それでしばらく手を打たないか聞いてみるわね」

と、いうわけで、圭子は着任早々に、バーナード・モントゴメリー元帥を餌付けした責任を取らされる羽目となった。これを知った真美は苦笑いし、年下の下原と芳佳に料理を仕込む事に熱を上げるのであった。

――下原は、菅野と芳佳の凸凹コンビ、スリーレイブンズ、クロウズ、アフリカの撃墜王達に比して撃墜スコアが少ないのを気にしており、501に編入された事で、コンプレックスを表層化させていた。ナイトウィッチ的属性も強いため、ナイトウィッチとしての上位互換に近いサーニャが501にいること、魔眼でも坂本がいるため、存在意義を見いだせないのだ。

(私なんて、部隊の役に立ってない。菅野さんと宮藤さんは刀で戦える。黒江さんは得体の知れない力を、穴拭さんは覚醒の最上位を持ってる。ナイトウィッチとしてだって、サーニャさんが……)

と、いう鬱屈した心を秘めている。コンプレックスが彼女を焦らせているのは確実で、それをジョゼは見抜いており、その日の夜、黒江から罰を言い渡される時に相談を持ちかけた。

「あ、あの、実は……定ちゃん、いえ、下原さんの事について相談したいことが……」

「何、下原の事で?」

「はい。実は……」

ジョゼは話した。下原がブレイブウィッチーズ在籍時から抱えるコンプレックスの事を。そのコンプレックスが伝説の501に配属された事で表に出てしまったと。黒江はそれを聞いて、唸った。

「うーん。あいつ、そんな事に悩んでいたのか。本国に帰ってる時、そんな感じがしてたから、薄々とは気づいてたが」

「定ちゃんは、最前線にいた事、宮藤さんの姉弟子に当たる事とかを意識してるんです。宮藤さんは……」

「坂本の期待を一心に背負う愛弟子で、恩人の実子だしなぁ、宮藤は。姉弟子なのに、宮藤以下の実績しか挙げてないのも鬱屈する原因だったんだろう。あいつ、宮藤に入れ込んでるしな」

ジョセに下原は、上官だった坂本とあまり話していない事を話した事がある。343空に呼ばれなかった事、坂本が芳佳と家族同然である事も劣等感だった。坂本も、下原の事は気にかけてはいるが、芳佳を大器に育て上げる事に注力していたのもあり、下原を褒めてやる事を怠っていた。不肖の弟子という自覚がある下原にとって、坂本の弟子なのに関わらず、扶桑海軍における統合戦闘航空団の位置づけな343空「剣部隊」に招聘されなかったのも精神的痛手となっていた。妹弟子の芳佳が、源田実直々の指名転属なのが効いたのだ。

「ウチの剣部隊に呼ばれなかったのが相当に効いてんな……」

「剣部隊?」

「源田実大佐は知ってるか?」

「はい。曲技飛行で名を馳せていたとは」

「その親父さん肝いりの本土防空部隊で、扶桑の防空部隊の新モデルとして設立されたんだが、菅野はその分隊長の一人だ」

「それは菅野さんがちょっと教えてくれた事がありますね」

「だろ?熟練者と新兵の切磋琢磨によるボトムアップも目的の一つの部隊なんだが、下原は隊員のリストアップに入ってなかったんだろう。当時、下原は無名だったはずだし」

源田実も、下原はチェックリストには入れてなかった。坂本の弟子と言えば、菅野や芳佳のイメージが強く、源田もそう認識していたというのもあるが、下原は制空任務向けのウィッチではなく、防空・哨戒任務向けの人材であり、彼女の原隊の201空が下原を箔付けのためにブレイブウィッチーズに送り込んでいたのも関係していた。だが、343空設立の際に選ばれなかったのは、統合戦闘航空団にいる扶桑ウィッチとしての劣等感に苛まれるのに十分な効果を挙げた。もちろん、彼女も当時の水準を上回る技量は持っており、西沢にも顔を覚えられている程に一目は置かれていたし、リバウの最後の激戦期に在籍経験もあるが、源田が系列的にはぽっと出の新兵の芳佳を高く買い、指名転属までさせた事に多大なショックを受けたのだ。

「なまじっか、リバウにいたとか、東部戦線にいた事が変なプライドになってたんだよな。坂本も、下原は職業軍人だから、スパルタで鍛えたけど、民間からスカウトされた宮藤にはスパルタではないしな」

下原は『そこそこ活躍している中堅』のレベルであり、剣部隊の設立時の招聘のレベルは低かった。スーパーエースと言える菅野、期待の新人の芳佳に挟まれた立場の下原は、坂本から言及された事もそれほどなかった(活躍していたのもあって、弟子の立身をあまり誇らない性質もある)のもあり、剣部隊へは招聘されなかった。それがブレイブウィッチーズで伸び悩み気味の下原にコンプレックスを抱かせるのには充分だったのだろう。後に、源田実は空軍司令着任後、『俺は誰の弟子というわけでもなく、本人で評価しとるからな。下原は現地に必要だと思い、優先順位を下げておいたんだが…』と弁明したという。

「親父さんも、現地に必要と判断したりしたのは優先順位を低くしていたんだけどな。下原はそのクチだと思う。だが、それが宮藤へのコンプレックスに繋がっちまったんだな。しゃーない。一度、ここと無関係な世界に連れて行ってやるしかないな。次の次の休暇の予定入れとこ」

――この後の最終決戦時に至り、下原はコンプレックスを解消する。西沢の不器用ながらの励ましと、黒江と圭子の計らいで、夕暮と朝方の担当になった事で自信がついたおかげだった。別のところでも影響はあり、最終決戦の際に、日本のマスコミの記者が偶然、連合軍総旗艦の富士に取材で乗船しており、その際にΞガンダムの姿を捉えた事が、日本がロボット兵器に邁進するきっかけとなる。別の歴史では、変革のためにテロリズムにその身を委ね、儚い生涯を散らした、ブライト・ノアの子『ハサウェイ・ノア』、別名『マフティー・ナビーユ・エリン』の乗機として、閃光のような生涯を辿るΞガンダムの経緯を鑑みれば、地球圏の守護者としての姿は、ある意味では幸せかも知れない。整備中のΞガンダムは、原型機の『オデュッセウスガンダム』(ペーネロペー)ととても似ており、スケッチした記者では『ガンダムだけど、どれだかわからない』と判別できなかった。彼は帰還後、自身のブログにアップし、ネットの反応にその判断を委ねた。すると、『ペーネロペーの整備中?』『ペーネロペーユニットの姿ないし、Ξじゃね?』『バカ、Ξはマフティー・ナビーユ・エリンの愛機だぞ』という反応があった。マニアの間でも、頭部は明らかにΞの特徴があるが、ボディがペーネロペーの素体『オデュッセウスガンダム』とほぼ同じであり、『ユニットか何かをつける前のオデュッセウス系じゃね?Ξの弟のΟ(オミクロン)ガンダムの可能性もあるし』という結論に至った。

――実際、Ξを更に洗練させた後継機『オミクロンガンダム』の計画は存在しており、その指摘は間違いではない。だが、連邦政府からは『第5世代MSはMSの大型化の極致の感が否めない』と不評である。実際、第5世代機の運用条件は『ラー・カイラム級、もしくはドゴス・ギア級以上の大型艦を必要とする』というものであり、ヤマト型、アンドロメダ級などでも搭載機数が減るという難点がある。バトル級、スーパーエクセリヨン級、ヱルトリウム級などの超大型であれば理想的だが、それはそれで厳しく、結局、オミクロンプランは凍結のままにされ、Ξ、Sの増産という結論に達する。この決定でΞガンダムとSガンダムが増産され、相対的にお値打ちと見られたSガンダムはZガンダムの後継機としての意図を図らずしも達成する。ガンダムタイプも『兵器』である以上は一定数は生産されるので、Sガンダムの増産は、老朽化し始めた『Zガンダムの初期生産機』の代替も兼ねている。Zガンダムは名機であるが、同時にパワー面が第4世代機に比べ突出していないという難点も分かっており、軍としては改修も進めているが、政府の横槍を警戒していた。そこで至ったのが『Sガンダムを増産だ!』という理論だ。些か単純だが、アナハイムとしても利益が見込めるため、その計画に喜々として応じ、増産したという。





――ある日、決戦を前に、続々と集結する連合軍艦艇。その中心は三笠型戦艦『富士』であり、否応なしに21世紀各国の注目も浴びていた。

「これが50万トン戦艦……本当に造れるものなのか……」

その戦艦は、大和型戦艦の基本デザインを保ったままに『50万トン戦艦』に拡大させたような出で立ちであった。移動要塞扱いとも言えるほどの大型であるが、大正時代の金田中佐が構想していたような武装配置では、ダメージコントロール的に大問題があるため、『改大和型戦艦の大型化』という設計で完成した超大和型戦艦のプロトタイプ的位置づけであった。主砲も56cmで『妥協』しており、一応の実用性も考えている。やはり、その規格外サイズが大問題なので、その量産型と言える『越後型戦艦』(播磨型とも)では、半分の300m級、51cm速射砲と、実用性のためにスペックダウンしている。それは建造開始(越後と播磨がそれぞれ、1945年8月15日に起工)段階のであるので、万が一に備えるとなると、このデカブツが必要となる。他国の最大級戦艦が、まるで軽巡洋艦か重巡洋艦、もしくは駆逐艦程度に見えるほどの大きさの巨艦であり、存在感バッチリだった。他国の戦艦と言っても、旧式戦艦すら引っ張り出す(ネルソン、ロドネー、フッドはないが)ブリタニア、ビスマルクとティルピッツを呼ぶので精一杯な帝政カールスランド、フリッツXの一件のため、日本などの記者からは噛ませ扱いのリットリオ級と比すれば、三隻とは言え、世界最強の戦艦を揃えた扶桑皇国の存在感は一際大きかった。21世紀各国向けの記者会見では、相手がアメリカの同位国であるというのに、第一次世界大戦中に建造された戦艦すら駆り出すブリタニアの窮状に、最も質問が飛んだ。欧州の名手を自認するブリタニア、その海軍にとっては屈辱的な時間であった。

「何故、ブリタニアは一次大戦の遺物であるポンコツ戦艦まで持ってきたのか?キングジョージ級のファミリーだけでいいのでは?」

日本のある新聞社が出した質問に、ブリタニア海軍の担当者は腹が煮えくり返る想いであった。日本の新聞社はカタログスペックで兵器を語る傾向が強く、特に、スペックが前世代のものであるクイーンエリザベス級以前の戦艦では『新戦艦』主体のリベリオンに勝てないという先入観があり、旧型戦艦主体、16インチ砲艦が最高で4隻しかいないブリタニアを見下しているような感すらある。実際は、電子装備があると言っても、1940年代の技術レベルでは、光学照準+α程度の命中率しかなく、後世の巷で言われるような魔法の兵器ではない。それ故、ブリタニアの担当者は日本の新聞社に痛烈な皮肉を返す。

「総力戦とはそう言うものではないかね?それに、科学力を売りにしている貴国とて、かつての戦いでバンブースピアまで持ち出したのに、たかが20年落ちである、我らの戦艦を笑うのかね?」


敵側のティターンズも、戦艦では優秀かつ新鋭のアイオワ級やモンタナ級にしか高度な近代装備は施していないが、それとて、大口径砲での撃ち合いにおいての効果は限定的である。これは改大和型とて似たようなもので、23世紀の時代でも、宇宙戦艦の技術を応用しない限りは、砲撃戦は確率論の話なのだ。

「21世紀の戦闘は精密誘導のミサイルが主体なようだが、戦艦の砲撃戦は、戦車の戦いとも違うものなのだ。戦艦は、戦車よりも遥かに遠距離で撃ち合う。いくら電子装備があろうと、20000mの彼方に、大口径砲を撃ち込むというのは大変な仕事なのだよ」

戦艦同士の砲撃戦が無くなって、既に半世紀を有に過ぎた時代の人間達は、戦艦の砲撃戦を実際に見ていない。帆船のように、人間の肉眼で視認できる距離で撃ち合うわけではなく、かと言ってミサイルのように、あまり遠くの敵を撃つわけでもない。せいぜい25キロから30キロ程度だ。だが、水平線の彼方レベルであるのには変わりない。日露戦争当時の交戦距離が6000から7000程度であり、肉眼照準が可能な距離で撃ち合っていたのがウソのような遠さだ。ユトランド沖海戦がないこの世界でも、砲の発達で史実通りの交戦距離の延伸は起こっているので、各国軍もそれを基準に考えていた。(例として、紀伊型戦艦は20000mで1935年前後の41cm砲弾を弾く装甲を持つと想定されている)

「そんな遠距離で、コンピュータのない時代の兵器が標的に当てられると?」

「旧世代だからと言って、全てが劣っているわけではない。君らの時代の護衛艦がもし、この時代の巡洋艦以上の砲弾に撃たれたら?たちまち沈没だろう。それと同じだ。それに、君らの世界の戦艦よりも射撃速度も速く、対空仰角も取れるのだよ、この世界の戦艦は」

「戦艦で対空射撃?所詮、日本軍がやろうとしていた阿呆の……」

「けして間違いではない。一発あたりの破壊力で大きいのだよ、戦艦の一撃は」

この世界では、三式弾や零式通常弾は高評価である。小型怪異をまとめて屠れるため、VT信管が登場し、更なる近代兵器のCIWSやRAMが積まれてなおも、搭載弾にある。そのため、類似兵器がブリタニアにはある。そのため、戦艦主砲の対空射撃は、史実より遥かに積極的に行われているという事情がある。

「戦艦を、航空兵器に沈められるだけの浮き砲台と軽く見ないでほしいものだ。空母とて、ジェット戦闘機の時代になると、貴国の経済力を以ても、正規空母の保有すら難しくなるだろう?空母万能論には飽き飽きするよ」

ブリタニアの担当者は大艦巨砲主義者であった。空母機動部隊が、ジェット機の艦載機化による高額化で、日本と英国ですら空母機動部隊の維持も覚束ないほどの維持費用がかかり、正規空母の複数建造と保有の初期投資に至っては、米国以外の国では音を上げるほどの未来となると知らされ、大人しくなった事で気を良くしたというのもある。実際のところは、扶桑がいの一番に、未来情報で空母機動部隊を重視するようになっており、艦載機のジェット化もあり、ウィッチの運用を航空戦艦か強襲揚陸艦に移し始めている。これはウィッチ装備は、ジェット機と平行搭載するには大掛かり過ぎて、『搭載機数を減らす』と結論付けられたためで、この時に戦艦を作りすぎたブリタニアが後年に『戦艦偏重』とそしられるのにも繋がるのだ。


――その会見の模様をテレビで見ている501の面々は、21世紀各国の記者達が軍事に無知な傾向がある(特に、正式な軍隊ではない日本)のに呆れた者も多かった。

「なんですの、今の質問は!ガリアの最新鋭戦艦を失敗兵器と……」

憤慨するペリーヌ。リシュリュー級を失敗兵器扱いした日本の某大手新聞社の言い分にむかっ腹が立ったのだ。

「そういきり立つな。奴さんは戦争から有に三世代近く断絶している国なんだ。結果論でモノを言うからな、あいつら。坂本ほどでないにしても、私も経験がある」

黒江も、零式を侮辱され、荒れ狂った坂本ほどでないにしろ、自衛隊員としての生活を始めるちょっと前、偶々、軍の制服で出歩いていたところ、戦争経験者らしき、認知症気味の老婆から『日本軍の飛行隊は私の街を守ろうともしなかった!あんたも人殺しよ!』と罵られ、珍しく言い返した事がある。老婆が認知症気味なのは悟っていたが、仲間を侮辱された感じがし、どうしても反論したかった。黒江は言わば、『旧軍人』である。軍が人でなしの集団のように言われるのは我慢ならず、言い返したのだ。その老婆はまだらボケ気味なのか、旧軍には解体まで女の軍人はいない(軍属でもおらず、軍病院の看護婦程度)事を覚えていなかった。そもそも、終戦時の軍の解体すらも覚えていないらしかった。そのため、旧陸軍軍服に酷似した服を着ていた黒江を、『軍人』と認識したのも無理はなかった。5分ほど黒江と老婆は言い合ったが、40代後半から50代ほどの、娘と思しき人物が平謝りした上で、老婆を引っ張っていった。実のところ、老婆は70後半〜80前半ほどに見えたので、生年月日的には『同年代』であると計算できた。

(あのばーさん、70おわりか80くらいに見えたな。……おいおい!私とほぼ『タメ』かもしれないじゃん!あんな風にボケたくねーな)

「と、その時には思ったけど、本土を守れなかった日本軍の事は罪悪感あったよ。その当事者って言えるしな」

「黒江、お前もか」

「ヒガシも、『智子』も似た経験がある。99年とか2000年は、まだ大正後半期生まれの世代が多く生き残ってるからな。軍服着てると、ボケてるような年寄り共に絡まれて」

「大変だったな、お前。のび太が言っていた事は本当だったのだな」

「後世のバイアスもかかってるけどな。おかげで戦闘服で出歩く必要が出てな。自衛隊に潜り込むまでは、それで通した」

「のび太の学校の迎えに、あれで行ったのか?」

「ヒガシはカメラマンだから、スーツ姿とかベスト姿で行けるだろ。智子が大変だったんだよ。あいつ、スーツ姿だと『コレジャナイ』感プンプンだし、私みたいに、タンクトップとスラックスとかGパンとかのラフな格好させようにも、抵抗あるし。巫女のバイト、とかで何回かは誤魔化したけど、私も。父兄参観にも行ったぜ。代わり代わりで」

のび太は、学校の父兄参観に従兄弟の結婚式が重なり、不運にも父母が出られない事が、小学校高学年の2年間に何度か生じた。ドラえもんやドラミに頼んで、道具で予定をずらすのは不味いため、黒江達に父兄参観を頼む事があった。三人は、父母の代理として、のび太の先生から、のび太の学業が少しずつ良くなってきたと告げられる立場にあり、圭子はカメラのいい店を紹介してもらったり、智子は巫女の就職先を斡旋してもらったりと、見も知らぬ自分達へ便宜を図ってくれる、人間味溢れる姿を見、のび太のクラスの児童達が彼を慕う理由、のび太が恐れつつも恩師と慕う姿を見た。(後に、のび太の先生は、黒江達の甥や姪と同年代てあると判明)

「お前ら、意外に大変な事してるんだな」

「なれりゃ楽しーぜ。真っ当に生きてりゃ、下手すりゃのび太達4人は、自分から見りゃ『孫』くらい年が離れてるけど、可愛いもんさ。……ん、そろそろあいつが司令部のある基地に着く頃だ」

「まだ出てからそんなに経ってないが?……そうか、あいつ、コスモタイガーを使ったんだった」

「コスモタイガーなら、10分もあれば司令部のある基地につけるからなー。そろそろ着くだろ」

圭子が、モントゴメリー、ロンメル、ガランドなどが控えている司令部に乗り付けたのは、それから間もなく。ジェット機の発着が可能なように延長された滑走路に滑り込む、新コスモタイガー。その姿を目撃し、驚嘆するウルスラ・ハルトマン。コスモストライカーの始まりは、この一瞬のコンタクトだった。



――1945年から、ガリアの政治的衰退は兆候が見られており、日本のフランス革命期を舞台にした某大人気漫画が扶桑に出回った事を発端に、ド・ゴールは日本/扶桑向けに、革命期の自国国民の行為の釈明とも取れる演説を行う羽目になるわ、怪異が鉱物資源を吸い取った影響が生じ、資源がない不毛の地と化した地域があちらこちらに生じる、旧植民地が殆ど、ティターンズに与するなど、ド・ゴールにとっての受難は続いた。

『王政も共和制も肯定して、其の移行は残念ながら必然であった!だが過去の因縁を現代に持ち込むのは宜しくない、しかも彼等から教えられた歴史は別の世界線と時間軸では無いのか?今更、革命の際の罪で直系に無いにしろ、子孫を裁くのは非合理的ではある。だが、当時の先祖らがルイ・シャルルを非人間的な扱いを行い、彼を死に追い込んだのは揺るがない事実である。これは革命精神に反する行為であり、糾弾されるべきである。だが、留意して頂きたい。当時の人々はこの偉大な国家を良くするという使命感を持って、革命を起こしたのであります。その後のジャコバン派の粛清の嵐や、ナポレオン一族の台頭があったにしろ、革命の気高い精神は否定されるべきでない。 ならば私は傷を癒やそう!因縁の傷をいやしこの国を立ち直らせよう!それが偉大なる国家に求められることである!』

これは大海戦の直前、苦難に喘ぐガリアで発せられたド・ゴールの演説である。ド・ゴールはそんな自国の窮状を改善しようと躍起になっていたが、不幸は重なり、次女のアンヌが死去する、自らが暗殺未遂に合うなどの出来事、ティターンズ海軍が、大海戦前に発した声明で『ガリア海軍など物の数ではない。我々の敵はヤマトである』と、三下扱いをした事、大海戦で空軍が失態を演じた事、日本と扶桑の援助で、ガリア領インドシナまでもが独立準備に入ってしまうという大事件が重なり、自決主義・愛国者のド・ゴールは史実より遥かに心労が絶えなかった。ガリア軍も、大海戦で参戦できた空軍が300機を一瞬で失う失態を犯すわ、ケッテにこだわり、ロッテ戦法、フィンガーフォー戦法を用いるティターンズ空軍に圧倒されるわ、ラ級『ソビエツキー・ソユーズ』に数少ない戦艦を破壊されるなどの軍事的失態も大きく響いた。が、海軍関係者にとっての朗報がなかったわけでもない。アルザス級戦艦がアメリカ系の装備で完成し、大和型戦艦と見事、互角に渡り合ったという報は、苦杯をなめたガリア軍の希望となった。ガリアの海軍ドックに残されていた、同級三、四番艦の部品を新規製造の船体に取り付ける『新鋭戦艦』建造に躍起になって取り組んだ原動力となる。既に大和型戦艦が、第二世代たる『超大和型戦艦』に移行し始めつつあった1945年以後の時勢では、アルザス級の源設計の戦艦としての実用性は半分減じていたものの、ブリタニアのセントジョージのような『超大和型戦艦相当の巨艦』を作れないガリアの国情を鑑みれば、改アルザス級という程度の艦で精一杯なのだ。ガリアとしては、扶桑と日本がいずれ、インドシナを独立させようとしている事を察知しており、扶桑が太平洋戦争に突入する前夜に突入したのと前後し、将来の扶桑との局地戦を覚悟する。だが、ガリアの陸軍は、自国軍の装備は1939年型のままであるのに対し、扶桑は一気に1945年型へ、更に1950年代型にすら脱皮し始めているというのを知らなかった。これが後のインドシナ戦争に於けるガリアの敗因となる。太平洋戦争が終戦してしばらくしてのインドシナでの局地戦は、ガリアの権威をめちゃんこに低下させる原因となり、ガリア軍がその精強さを取り戻すのは、本国が一定の復興をした後の1960年代、AMX-30を仏から得たのがきっかけであり、実に20年もの月日を費やす事になり、この時代を、後世の人々は『苦難の20年』と呼んでいる――





――他国もガリアと似たような状況であったが、幸いにして、ノイエカールスラントはオストマルクの領土も獲得した事や、ノイエに連邦の援助で浮きドックを得た事もあり、大海戦以後に、バダンが持つようなH級戦艦の整備に血道を上げる余裕が生じ、ガリアに代わる形で、海軍大国へ復帰する。バダンからの鹵獲艦を得れたのも僥倖であった。ブリタニアは扶桑から得られる富で、セントジョージ級戦艦の整備を行う。そのおかげで太平洋戦争でも存在感を示すことに成功。同艦の実情は、17インチ(42cm)砲艦をあとで18インチ砲に格上げしたため、不備も多かった。全幅が46cm砲の一斉射撃の反動で動揺しない幅数に微妙に足りないのが、配備後に露呈した。更に、設計期間短縮のため、ライオンの設計を拡大強化した故か、キングジョージ級以来の砲撃での難点も引き継いでいたのも欠点とされた。そのため、竣工から一年未満で改修のためのドック入りという情けない事態に、チャーチルは怒ったという。だが、当のチャーチルが、死が迫るジョージY世が見れるようにと急かしたせいで、試験を省略せざるを得なかった事もあり、改修工事は必然的だった。その事もあり、早期に改善型も計画され、それは『ヴィクトリー』の名が冠される事も検討されたのだ。セントジョージに負けない名を、という事だったが、結局は無難な『ヴァンガード』に落ち着いたという。その二番艦がトラファルガーとなる。ネームシップは『アイアン・デューク』となり、その戦艦はブリタニアにとっての『播磨』的位置づけの戦艦になるのだった。



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