外伝その82『誇り』
――艦娘は全てが元から艦娘として生まれてきたわけでなく、最初は怨念に支配された『深海棲艦』として生まれ、大和が倒した敵が浄化され、艦娘になった個体がいる事が判明した。その内の一人が加賀である。黒江の前に姿を見せる前、大和が遭遇、倒した深海棲艦が浄化され、艦娘に転生した。それが加賀だったのだ。前世でのMI作戦の一航艦の呆気ない幕切れがよほど悔しかったのだろう。艦娘としての加賀は、赤城に依存しているところが大であった。それは智子や圭子と共にある事で自分の存在意義を求める傾向がある黒江とよく似ていた。決戦前の事。
「加賀の事か。うーむ。やっぱり赤城と一緒にいないと、落ち着かないのね?」
「そうデス。やはり加賀は何らかのトラウマがあるようで……」
「MI作戦だな。当時、世界最強を謳われて、自負していた自分達があっさり敗れたんだ、トラウマにもなる。艦長の岡田次作大佐もその時に死んでるから、その怨念で転生が上手く行かなかったんだろうな」
「多分、加賀は自分が赤城を守れなかった事を嘆いて沈んでいったんだろう。その時には提督も死なせている。それで……」
圭子は、加賀が空母で有数に怨念に囚われる可能性がある事を金剛に教える。MI作戦に対する自責の念があるであろう比叡、霧島よりも怨念に囚われていたのが加賀だと。加賀はクールビューティーを装っているが、赤城が危機になったり、自身が追い詰められると、弱さを見せる。金剛は哀しげな顔を見せる。
「大和も某神がかり参謀を死ぬほど憎んでいるし、お前らは『生前』に何かかしらの怨念に囚われるような事があったし、戦後はお前ら全員が『忘れ去られていた』時期すらある。それへの怨念がお前らの魂から分裂し、個を持つ敵がいるならば……」
「考えたくはないデスガ、呉の艦艇の怨念を糧に具現化する可能性は大デスネ…。お祓いはしてるはずなんデスけど…」
――その懸念は、次元震パニックで現実となってしまい、加賀は自分が転生当初は怨念に囚われていた事へのトラウマを見せ、苛烈なまでに戦う姿を見せる。赤城へ依存しているかのような精神状態を脱却させるべく、加賀の乗艦経験者達が動くことになる。自衛隊時代以降の陽の記憶もあるものの、MI作戦の大失態がトラウマになっているため、赤城へ依存している。最も、神参謀へ恨み骨髄の大和ほどでないのだが。
「加賀なんて、まだいい方よ。神がかり参謀なんて、大和に恨まれてて、露骨に態度に出すから、泣いたし」
「OH……」
「だから、あの参謀が指揮する作戦は嫌だってゴネて、有賀さんに怒られてたわよ、この間、本国に帰った時に見かけて……」
「大和はよほど捷一号作戦がトラウマなのデスネー……私もあそこで沈んでマスし」
金剛は捷一号作戦(レイテ沖海戦)の事はまったく気にしておらず、自衛隊時代の事もあり、ポジティブである。が、大和はアニメにはなっているが、自衛隊の艦艇にはなっていないため、ネガティブになりがちなのだろう。
「宇宙戦艦になって、二度も地球守ったし、その記憶はあるはずでしょ?」
「それが、ぼやっとしてるところが多くて、宇宙戦艦としてどういう働きしたかが『靄がかかってる』ように欠落部分多いみたいデース……」
「おおう……波動砲撃てるくせに、変に覚えてないのか〜。まいったな」
圭子は頭を抱える。宇宙戦艦としての記憶が完全に目覚めれば、川内も神通も裸足で逃げ出す『ウォーモンガー』気味な性格になり得る。特に宇宙戦艦となって以降は、常に連邦軍の不屈のシンボルとしての存在感を示しているのだから。
――その懸念と裏腹に、ラ號が現れた影響で、その片鱗が出ているらしく、口走った言葉がある。『ヤマト型宇宙戦艦として恥じぬ戦いを妹へ見せなくては』と呟いた。無意識に。それは大和の中の『宇宙戦艦ヤマト』が目覚めようとし始めている証。宇宙戦艦ヤマトとしての彼女は、『愛の戦士』である。(台詞から、どこぞの美少女仮面を思い出した者も多いというのは内緒)ヤマトとしての自我が少しつづ目覚め始め、言動と行動が強気さを引き出しているのだ。彼女は進化を始めていた。『大和型戦艦』から『ヤマト型宇宙戦艦』へ。その証拠に、波動砲の使用制限が無くなりつつあった。
――戦場
『大和型戦艦一番艦「大和」、推して参ります!』
戦場に推参した艦娘の筆頭として、大和は戦陣に立つ。その力は等身大でありながら、戦艦に準じるもので、駆逐艦に乗り込み、艤装で降伏させたりする。彼女達の力は概ね、主力戦艦級からアンドロメダ級の戦力を人サイズで奮うようなもので、ティターンズ艦隊は思わぬ強敵に狼狽える。
「何!?何かの間違いではないのか!?」
「は、ハッ。我が艦隊の側面を突いてきます」
「ふむ……艦の力を持った者達か……私が行こう」
「艦長、よろしいのですか?」
「これでも、30代の頃はガンダムファイターの候補にまで行った事がある。副長、任せる」
「ハッ」
ティターンズの『モンタナ』艦長は、なんと、若かりし頃にアメリカンドリームを夢見て、軍人でありながら、ガンダムファイター志願だった過去がある。当時はネオアメリカ在住で、ガンダムファイター候補生とされたほどの達人だった。現在のネオアメリカのガンダムファイターである『チボデー・クロケット』と似た経歴だが、彼は候補生止まりであり、正式なガンダムファイターにはなれなかった。だが、ガンダムファイターにはなれなかったものの、戦闘能力は常人の5倍以上を誇っており、並のサイボーグより強いというトンデモな人物である。(ガンダムファイターは逆に言えば、常人の10倍以上強くないと、正式に任命されないということでもある)その彼はモンタナを出、上半身裸のボクサースタイルで波を駆け抜け、先行していた艦娘『蒼龍』にコーススクリューを奇襲代わりに放った。
「なっ!?」
右のコーススクリューブローは蒼龍がとっさに盾にした飛行甲板を粉砕する。次いで、左のパンチで蒼龍を吹き飛ばす。
「さて、お祭り気分はここまでだ。小娘共」
「こ、こいつ……!?」
蒼龍は大きく吹き飛ばされ、昏倒している。護衛水雷艦隊旗艦である『川内』は駆逐艦達を下がらせ、身構える。只者ではない事を気で感じ取ったからだ。
「あんた、もしかして若い頃にボクサーだった?そのファイティングスタイルで察しがつくけど」
「若い頃にガンダムファイター志願だった名残だ。昔取った杵柄だが、こう見えても、ネオアメリカの候補生にはなれたのでな」
彼が第11回、もしくは東方不敗が出場した第12回ガンダムファイトでの候補生である事は本当である。ティターンズもその経歴を加味して抜擢(初期頃)したと思われる。幸いにも川内は『忍術の心得』があるため、神格である事を考慮に入れれば、互角に渡り合えるだろう。
「あんたがガンダムファイター候補生だったんつーならさ、こっちにも栄えある『帝国海軍』は三水戦の誇りってもんがあんだよね。来なよ。試してやろうじゃないのさ、オッサン!」
川内は『帝国海軍』と口にした。皇国に属する身でありながら、前世の『帝国海軍』の名を出す当たり、帝国海軍艦艇であった事を誇りとしているのが分かる。そして、川内は大きく跳躍し、どこからか小太刀を取り出し、二刀流で構える。
「はぁっ!」
川内はなのはとの交流により、御庭番衆式小太刀二刀流を習得していた。得物がある分、有利であるかと思われたが、彼はスウェーを巧みに使い、川内の太刀を避けまくる。反撃のジャブやブローも入れてくる。やはりインファイトでは、プロ級のボクサー相手には不利であった。
(当たらない!?ボクサーのフットワーク舐めてたぁ!……)
川内は舌打ちし、相手のパンチに対応するが、少しずつダメージを受ける。捌ききれないのだ。そのため、川内の僚艦の吹雪は川内を心配する。
「大丈夫ですか、川内さん!」
「なぁに、ちょっと食らったてい……ッ!?」
川内はクラっと来たらしく、膝をつく。その理由がわからず、困惑する。モンタナ艦長は勝ち誇る。
「ハハハ、どうだ、中国の文献から学んだ、気をこめた一撃は!」
気をこめ、肉体内部にダメージを与えるというのは、たとえ相手が神格であろうとも、肉体がある限り、通じる。ボクサーのパンチに気が加わった場合、予想以上のダメージを与えるのだ。
「ほあちゃ〜!」
川内の援護に駆けつけたのは、雪風であった。見かけは13歳ほどだが、陽炎型駆逐艦最後の生き残りとして、1960年代中まで『丹陽』と名乗り、行動していた際の記憶がある。そのため、日本帝国海軍艦艇の中では唯一、中国語に堪能である上、その記憶由来のカンフーの技能がある。
「ゆ、雪風……!」
「相手がボクサーなら、こっちはカンフーです、カンフー!伊達に60年代まで現役張ってませんよ!」
「つーか、台湾軍としてじゃん、それ。丹陽であって、雪風としては……!」
「それは無しで!ホアチャー!」
カンフーを身に着けている雪風。丹陽であった際の記憶が役に立ったのだ。そのため、まるで往年のカンフーアクションスターのブルー○・リーさながらであったが、丹陽という台湾軍での名で活動していた時期のモノなので、川内としてはなんとも言えなかった。だが、彼女の他に戦後に艦歴が復活した、ないしは継続したのは梨(わかば)、特務艦で、南極観測船になった宗谷、ソ連に使われた響だけだ。そのため、自分達にはない『戦後の記憶』を持つ雪風が羨ましいのか、ちょっと悔しそうな川内だった。だが、ここで、川内も記憶が覚醒する。自衛隊時代の護衛艦『せんだい』の艦歴の記憶が。
「そうだ!あたしには、まだこれがある!」
川内の腕に、せんだい時代の武装を模したロケットランチャー(フリーガーハマーのいような外見)が形成される。ハープーンミサイルを装填する。
「川内様をなめんなよ〜、ボクサー野郎!雪風、どいて!ハープーンミサイルをぶっこむ!」
「いいっ!?」
せんだいとしての武装が使用可能になった証か、艤装に護衛艦時代の意匠が混じるようになっている。これは後世、名を継いだ艦を作った組織がある艦艇の特権でもある。
「これからいいところで、自衛隊時代の事を思い出さないでくださいよ、川内さん〜!」
「るさい!そもそも、こいつはあたしの得物だかんね!もらったぁ!」
護衛艦を沈められるハープーンミサイルが一斉に打ち出され、雪風は退避する。これが川内の覚醒たる、言わば改三仕様だった。この能力は姉妹の内、神通が持つが、那珂のみ、自衛隊が名を継ぐ艦を持っていないのもあり、近代武器は扱えない。宇宙巡洋艦としても名を持つ者が現れていないため、戦闘能力の格落ち感は否めず、それが那珂をアイドル志望へ傾倒させる要因だった。
――那珂もそれなりの戦闘能力はあるが、近代武器が扱えないというハンデを背負っており、それがコンプレックスになっている節があり、アイドルを目指すと言い出す要因とも言えた。那珂はアイドルの仕事を真摯に取り組んでいて、連邦軍のラジオの仕事から、TVの司会などを引き受けている。声が島風によく似ているため、島風にちょっとしたいたずらをした事もある。そのため、島風の口癖『おぅ!』、『はっや〜い』は完コピできる。それ故、島風が那珂の影武者を務める事もあるという。
――川内に誇りがあるように、大和にも、連合艦隊を束ねていた事の自負と、イスカンダルから帰還した『宇宙戦艦』としての誇りが入り混じる複雑な心境だった。そんな微妙な心境の大和とであったが、大和に大きな影響を与えるヒーローと出会う。大和をかばうように砲弾を防いだのは、仮面ライダーZX=村雨良だった。
「君が、将軍達から話に聞いていた艦娘か?」
「は、はい。大和です。あなたは?」
「俺は見ての通り、仮面ライダーだ。10号、ZX」
「あの、その、あ、ありがとうございます」
「礼には及ばんよ。君が大和とはな。意外な感じだな。長門がガチムチ系だから、てっきり」
「私は長門さんより20年新しいんですよ、20年!スタイリッシュと言ってください!」
膨れる大和。長女でありながら、属性が妹と入れ替わっているとも言われるほどの性格である。宇宙戦艦としての姿と結びつかない。大和も、古代達が天下無双の活躍を見せている事は知っているが、どうもその辺は靄がかかったようにはっきりしないのだ。
「そいつはすまん。君に宇宙戦艦である時の記憶はあるのか?」
「あるにはあるんですけど、靄がかかったようでどうにもはっきりと」
「イスカンダルまでの記憶しかないと言うわけか」
「……はい。ガトランティスから後の記憶は靄がかかっていて……」
「現在進行系の歴史だ。記憶に枷がされているのも無理はない。現在進行系でヤマトは戦っているしな」
「いえ、それとは別の意味だと思います。今の記憶だと、ヤマトとしての艦歴は……ガトランティスの頃で終わっているはずなんです」
「平行世界の記憶だな?」
「…はい。古代さんがテレサさんと、雪さんの亡骸と一緒に私と随行し……」
それは地球連邦が抵抗手段を喪失し、最後の手段として、テレサと共にヤマトが特攻する選択肢を取った世界線の事を指す。その世界では、ヤマト乗員の9割が悲劇的までの戦死を遂げ、古代もヤマトをテレサと共に体当たりさせる選択肢を取り、戦死している。その記憶がトラウマになっているらしき言葉だった。
「その世界の記憶が、君にとってのトラウマなんだろう。だが、今、君が関わっている世界はそれに至らなかった場合の世界だ。ヤマトはガトランティス戦を乗り越えている。それに、君の妹もいる」
「妹?」
見上げると、飛行するラ號が見える。ドリルとチェーンソーを持つ奇抜な外見であるが、ヤマト型宇宙戦艦の意匠と、大和型戦艦の名残を持つ。その瞬間、大和は額を抑える。頭痛が走ったのだ。未来世界のガトランティス戦の一部始終の記憶の靄が晴れたのだ。その瞬間、大和は泣いていた。
「思い出した……。やっと……そしてもう忘れません。ガトランティスの無情、斎藤さんや新米さん達の無念……、そして、私の無力を……!」
「まるで、昔の俺のセリフみたいだな」
「す、すみません。そういうつもりじゃ」
「何、記憶が戻ったら、そうもいいたくなるさ。君とよく似た、いや、殆ど同じセリフ回しをした経験があるんでな」
ZXも、過去にほぼ同じ台詞回しを、姉の幻影を見て、記憶が戻った際に言っている。ZXにとってのトリガーが姉の村雨しずかなら、大和に取ってのそれは自身の妹達だったのだ。
「宇宙戦艦としての記憶が、私に宿っているのなら……、沖田提督、斎藤さん、加藤さん……、徳川機関長……私に力を貸して!」
大和の艤装が戦艦から一気に様変わりし、宇宙戦艦ヤマトとしてのそれにパワーアップする。言わば、宇宙戦艦ヤマト仕様だ。主砲が全てショックカノンに、煙突も煙突ミサイルへ、機銃と高角砲はパルスレーザー砲へと変形していく。首元の菊花紋章は波動砲口に変わる。この変形が終わった事で、大和はヤマトになるのだ。
『一番二番主砲、目標は前方のサウスダコタ級!てぇー―ッ!』
号令もヤマトのそれになるので、今の大和は大日本帝国海軍/扶桑皇国軍艦「大和」ではない。栄光に彩られた、地球連邦宇宙軍最強の『宇宙戦艦ヤマト』なのだ。ヤマト。そう呼称すべき姿を取った彼女の顔からは『儚く散った悲劇の軍艦』としての悲壮感は消え、人類の反抗と絶対的な相手でも屈しなかった事への誇りに満ちていた。彼女の中の『宇宙戦艦ヤマト』の因子が目覚めたのだ。ヤマトが人類の希望足り得てきた強さを。それは宇宙戦艦としての初代艦長である沖田十三の影響かも知れない。放ったショックカノンはサウスダコタ級を庇ったクリーブランド級のキールを破断させ、綺麗にまっ二つにしながら貫く火力を見せた。
『あれが宇宙戦艦の力を持つ艦娘の威力なのか……!?』
撃たれたサウスダコタ級の艦長は戦慄した。ショックカノンの火力に耐えられる装甲はサウスダコタ級には施されてはいない。人間サイズであろうと。ショックカノンは非バイタルパートに命中した場合、サウスダコタ級程度であれば容易に貫通する。二艦に打撃を与えうる火力だ。無論、この世界の対ビーム対策は施されてはいるが、怪異よりも遥かに高出力かつ、高貫通力のショックカノンはゴムとスポンジ程度で軽減は不可能だ。そのため、扶桑皇国はFARMの際に、対ビームコーティングと、場合によればIフィールド導入も視野に入れている。だが、ティターンズは全主力艦にFARMを施せる余裕はない。そのため、艦隊旗艦級空母と戦艦に施されているだけの限定的な処理だからだった。。
――因みに扶桑皇国はミッド動乱で大和型や大鳳型、翔鶴型などの新鋭艦のバイタルパートをガンダリウムの装甲にするという手法で基礎防御力を向上させており、そこから船体を強化テクタイト版に取り替えるという野心的プランすら掲げていて、検討段階だ。これはガンダリウムが軽量合金である故、戦艦向けの装甲材としては軽く、ガンダリウムよりは重めの強化テクタイト版とする。このプランの成果如何により、超大和型戦艦にも反映される。そのため、実験艦として、手空きの武蔵が選ばれ、武蔵は数回の改装と実験を経験する。それを経て、尾張・駿河の相方となる航空戦艦となるのだ。そのため、改大和型は予算上の五番艦が予算計上され、『三河』として数年後に完成するのであるが、この三河が曲者となるのだった――
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