外伝その83『失われた伝説を求めて』


――地球連邦軍は可変戦闘機を多数、最終決戦に投入したが、中にはVF-1を祖としていない機種もあった。火星駐留軍工廠の製造で、現地軍が使用しており、一部が本星に持ち込まれた『VF/A-6』(可変戦闘攻撃機)レギオスである。VF-1と全く別の系統に属し、祖はVFB-5『コンドル』で、そこから火星方面軍独自の戦略思想に基づく発展をしたのがレギオスだ。そのため、地球本星軍系のVFとは趣を異にする。火星方面軍の設計思想故、本星軍より早くに操縦系にパワードスーツを取り入れており、ライドアーマー「モスピーダ」(可変バイク兼パワードスーツ)を内蔵している。(なお、バイクのライドアーマーから飛行パワードスーツに発想を転換したのが、EXギアである)




「あれは?」

「ありゃ?レギオスだ。火星方面軍の機体だから、本星軍に出回ってるとは聞いてないが?」

連邦軍兵や士官達も物珍しそうなレギオス。火星方面軍から回された部隊なのか、レギオス戦闘機の『レギオス・エータ』(指揮官用)、『レギオス・イオタ』(通常型)、『レギオス・ゼータ』(大気圏運用強化型)の一式を装備し、飛んでいる。なお、レギオスはエネルギー転換装甲を採用していないコンドルを祖としているためか、かなり重装甲の設計で、他のVFより工業機械然としたバトロイド形態をしている。その点からも『異色』であった。

「かなりごついバトロイドだな?」

「火星方面軍はエネルギー転換装甲よりも、元から重装甲にするのを好むからな。それに、質実剛健で、脚部がかなり簡略化されてるのさ」

火星方面軍の設計思想が垣間見えるレギオスは、小型(VF-19より8mほど小さい)である利点を活かし、奮戦する。このサイズにしては重武装なのも活躍の要因だ。(支援用可変爆撃機『トレッド』ともドッキング可能であるが、可変戦闘機が乱舞する戦場での空中換装はリスクがあり、避けられている)


――このレギオス使用部隊は実際に火星方面軍所属で、本星軍との合同訓練中に動員された部隊である。そのため、火星方面軍の識別標識がある。見かけと反し、武装は地球製VFの規格に則っているので、兵站の負担にはならない。それもあり、投入されたのだ。員数合わせとの声もあるが、空母の搭載数増加にも貢献しているため、ウィッチ世界駐留軍には大助かりで、以後、本星軍でも導入が進む事になる。YF-30もそうだが、移民星や船団で独自に導入された兵器が、連邦の全軍で評価され、制式装備になることが生じてくる。本星の財政難も関係していたが、独自の発想の育成という観点からも歓迎され、レギオスの本国での使用始めと同時期、惑星ウロボロスで製造されたYF-30が『VF-31』として制式採用される。このように、地球連邦軍はこの時期から、星間国家軍としての体裁を強めていくが、旧国家軍の連合体であった時代の名残りを引きずるティターンズの捕虜達が23世紀地球の宇宙的グローバル化に適応できない問題も生ずるのだった――。






――決戦により、かつて謳われ、『失われた伝説』が蘇えっていく。一つは神と互角に渡り合う『スリーレイブンズ』。もう一つは『クロウズ』。クロウズは時と場合により、西沢だったり、若本であったりとメンバーに変動がある。双方の戦闘力は、もし、構成メンバーが『最盛期であれば』、『クロウズ』に分があるため、海軍軍人達主体のこの戦では、クロウズへの期待は大きかった。だが、クロウズは実質的に坂本が欠席の状態になっていたため、若本と西沢が奮戦する事になる。竹井が若返ったため、前に出すことがはばかられたからだ。ロキとドンパチしている黒江親子と智子を尻目に、クロウズの残りの三人は奮戦した。若本は若返った竹井を前に出さないようにし、覚醒状態で立ち向かう。智子の覚醒に比べると非力だが、それでもウィッチ個人単位では強力だ。

「徹子ちゃん、それ使って大丈夫なの?」

「昔より持続時間伸びてるから大丈夫だ!……う〜、今のお前に昔の呼び方されると、なんかチョーシ狂うぜ。まっ、昔に戻ったみたいで楽しいけどな」

「これはこれで困ってるんだよ?大人の時の言葉使いができないから」

頭をかきながらいう若本。竹井が若返って、口調が初陣当時の幼いモノに戻っているため、大人としての姿とギャップがあるらしいが、『昔に戻ったみたいだ』と嬉しげだ。服装も当時のセーラ服姿であるのも大きい。竹井当人も、大人としての記憶はあるのだが、精神が逆行してしまった事もあり、大人である時の言葉遣いができないのが困った点らしい。

「だよなぁ。その姿じゃ、指示も真面目に聞いてもらえねぇかも知んないし」

「そうなんだよねぇ。一応、待遇は元のままだけど、士官服はこの姿だとしっくりこないから、これにしたし」

「確かに。お前がその姿で指示飛ばしてんのは違和感あるぜ」

「今日は義子ちゃんと徹子ちゃんの援護に回るよ。昔に戻ってるしね」

「リバウん時の腕前、見せてもらうぜ。俺はリバウへ着任したの、お前らの離任後だからな」

「そういえば……」

「下の連中は、その時にリバウにいなかったのに、あたしらをバカにしてくるから、参るぜ。スリーレイブンズの奇跡よもう一度じゃねーけど、あれは無理だぜ……」

「スリーレイブンズの三人はそれこそ、『人外魔境』だからな。赤松大先輩とか、若松先輩の正統後継者だよ。海軍のお偉方の多くは、あの時にスリーレイブンズが大活躍で、金鵄勲章までもらって、大和型をバラされたの根に持ってるしな」

――若本はスリーレイブンズを人外魔境と見ていたが、当時を知る一般人からすれば、彼女たちが尊敬する仮面ライダーと同じように、『スーパーヒーロー』である。他のウィッチが諦める状況でも活路を見出し、怪異が迂回する選択を取る活躍は、『浦塩を守った』事もあり、金鵄勲章に値する。それ故に、内輪揉めで第二艦隊がズタボロになり、更に嶋田繁太郎が試作砲弾を黒江へ使ったことが天皇陛下を激怒させた。事変の後期は64Fの独壇場であった(黒田もこの時の戦功で、航空士官学校に推薦された)事実は天皇陛下も知っていたのだ。そのため、陛下はスリーレイブンズに金鵄勲章授与の際に、64Fの構成員に拝謁の機会を与えている。戦後に解散した64Fの構成員の事を気にかけており、特に功績のあったはずの黒江が飼い殺しされ、航空審査部で冷遇されていることが判明すると、陛下は当時の陸軍航空総監の鈴木率道中将を呼び出して、数時間に渡って激怒しながら叱責するという事態を起こす。黒江が鬱病にかかりかけている事も激怒の要因だった。陛下の激怒ぶりは鈴木中将が責任を感じるあまりに一時、辞表を出し、自宅で自刃しようとするまでの事態に発展した。審査部は『大元帥であらせられる陛下がお怒りだ!』と顔面蒼白で、黒江を虐めていた者達を追放しにかかるほどになった。事態を憂慮した江藤が上手く手を回し、江藤の意を受けた坂川が、飛行47Fへ引き抜いた事で事なきを得た。が、この出来事で黒江は軍内で厄介者扱いとなり、『お上のお気に入りだから、変な部署に回せないから、前線で戦死させよう』という案が出、47Fをわざと最前線に置いた。が、47Fは熟練者が多かった事もあり、無事に生還。黒江も神保大尉の薫陶を受け、成長。505統合戦闘航空団に招聘された。この招聘が『全ての始まり』となった――

「黒江さん、505から生き延びた時から、事変の後期の時のキャラに戻ったっていうけど、どうしたんだ?まるで別人みたいだぜ?」

「あー、若本。それはあの人のトラウマだ。あまり触れてやるなよ?その時の悔恨が今の行動原理だけどな」

「どういうことだ、西沢」

「……あの人の心は、その時に一度『壊れてる』んだよ。当時の逃避行を目撃した一般人から話を聞いたが、獣みたいに唸り声あげるくらいの有様でな。涙が枯れ果てた後で、理性は戻ったんだが、連邦軍が拾った時は衰弱仕切ってて、それで若返ったんだ」

「心が壊れる?」

「教え子が自分を逃がすために出ていくのを目の当たりにして、半狂乱になったのに、後で引き返したら、隊舎全体が無くなってた。いくらあの人でも、『精神崩壊』するよ」

「……」

黒江の精神は505壊滅で崩壊し、未来行きで再構築された。その過程で城茂や南光太郎らが強く影響を与え、精神年齢が14、5歳ほどとなった。再構築の過程で幼いころから抱いていた深層心理が表に出るようになったという副作用があり、それが寝ぼけている時の幼児性であり、普段のヒーロー大好きっ子の心理である。

「今の言動は立ち直った精神でのものさ。言動が一時に比べて、『若々しい』だろ?つまりはそういう事だ。ある意味ではツギハギで、脆いのさ。あの人は」

西沢は飄々としているようで、黒江の『脆さ』を悟っていた。再構築された後の精神状態の黒江は、自分が『仲間を守る力を持ち続ける』事、『家族であり続けてくれる人と共にいたい』事に異常までにこだわるようになっている。それが聖闘士になる事であり、智子と圭子を『家族』と公言する理由なのだ。

「あの人も『普通の人』だったんだな……」

「あの人の兄貴曰く、『子供の頃は軍に行くほど、気が強くなるとは思ってもみなかった』ってことだし、豪放磊落を無理して演じてたんだろう。軍隊じゃその性格が好まれるしな」

西沢は自由奔放で、飄々とした態度を普段は見せるが、意外に理知的な面があるところを見せた。黒江への心理分析は的確で、その側面が特務中尉に任じられた理由である。

「義子ちゃん、いつからそんな理知的になったの?」

「20を越えりゃ、少しは大人になるさ。あの人と似たようなもんさ。カンノと坂本の前じゃ『昔のまま』を演じるしかねーから、わざとバカっぽくしてるだけだ。お前と出会った時みたいに」

「でも、演じるってより自然に出てくる分も多いな、ノリってヤツだな」

西沢も坂本同様に『過去の自分』のキャラを演じているクチだった。坂本は黒江の精神衛生上の問題、西沢は主に菅野が憧れる自分のイメージを保つため、それぞれ『自分』というキャラクターを演じていた。坂本のケースは、黒江の精神衛生上の問題が絡むため、演技を終える時を失ってしまった。坂本の失敗は、その目標である『喧嘩別れした』の時に、思わず強く言ってってしまい、ショックを受けた黒江にこの世の終わりのような表情をさせてしまい、その場で泣き崩れたという点で、坂本はその時の物言いを後半生の間、後悔し続けた。(実際に黒江はその後、ショックのあまり三日三晩泣き続け、仕事を休んだ)その罪悪感が精神面から坂本の体を蝕んだ感もあり、死に際に黒江を立ち会わせた本当の理由なのだ。また、娘と折り合いが悪かったのも、坂本の病を手遅れにした要因で、黒江が坂本が残した手帳で、それを知り、ますます美優を許さなくなるという、美優にとっての悪循環が生まれる。坂本は和解の暁には、黒江を誘い、自分らのかつての任地を旅行して回る旅を計画していたのだ。それが坂本の後半生におけるただ一つの個人的な願いであったが、病気になったのを期に、美優がその資金を『自分で払ってもらう』と、手前勝手に入院費用に宛てた(夫と娘、更に、北郷一族の長である北郷姉妹が諌めようとしたのに、それを聞かなかった)事も、美優が実子に軽蔑される原因であった。美優は良くも悪くも母の頑固さを受け継いでおり、たとえ一族の長の北郷章香の言葉でも、持論を投げないという強さを持っていたが、美優はその点が母親と正反対に、人生の節目でマイナスに作用してしまうという不運を持っていた。これは坂本が戦場で消費しなかった『不運』を、彼女が使う役目だった故の不幸であった。が、それは2010年、美優自身が娘の同期に憑依・転生した事で終止符が打たれる。自分が身元保証している百合香の同期という事で、親身に接してくれる姿を目の当たりにする事で、『年を取らない魔女』という生前の色眼鏡が消え失せた。また、友人という形で実子と接する事で、母と子の使命感を知った事もあり、彼女はその人物として、生前になし得なかった『義務』を果たす事になる。彼女はその人物として生きる事で、スリーレイブンズの実像を知るのだった。


――ロキと死闘を繰り広げている黒江だが、戦いの最中、精神世界で『死後の坂本』と邂逅した。

『この時代にいたのか、お前』

『この時代って……まさか、お前は!?』

『神様が最期のわがままを聞いてくれたようだ、黒江』

なんと、死後の坂本の魂だった。黒江がこの時代に『いる』ことを聞き、同じく、生前の自分に宿るつもりでやってきたが、その途中で黒江を見つけ、会話を交わしたのだ。

「私も、お前と『目的』は似たようなものだ。ただ、私の場合は『若い時』の姿でお前に贖罪したかったからだが。『あの時』は……お前を泣かせてしまったからな。今更だが、謝りに来た」

死後の坂本の魂は生前で言えば、一番良く知られている姿であり、10代後半時の姿で現れた。これは坂本自身が『戻りたい時間』への想いが反映されたためだ。

「は、ハハ……死んで何百年も経って、最初に言うことがそれかよ、バカヤロウ……。お前がいなくなっちまって、私がどれだけお前を探したと思う!?十数年も時間かけて探し当てようとして、やっと見つけたと思えば、お前は死の床だ!!」

「……すまん。私は本来、もっと早い時間にお前と会うつもりだったんだ。60を迎えるくらいか、65でな。だが、私は不覚にも病に冒された……。お前があの後、パニックになったのは察しがついた。お前は私を『家族』と見ていた。その私から拒絶されて、お前は心の支えを崩してしまったからな。あの時の菅野のパンチは効いたよ」

坂本はバツの悪い顔を見せた。その時の事は坂本自身、予想外だったのだ。いつものように『ちょっと怒る』か、『冗談と受け取って流す』かと思えば、顔面蒼白になり、泣き崩れたのだから。予想外過ぎて、坂本も慌てたところに、菅野の鉄拳が飛んだのだ。

「菅野があんな目をしたのは、戦場で見た時以来だったし、すぐに『やりすぎた』と直感したよ。言い訳がましいが、お前は『強い』って先入観があったからなんだ……もっとお前を気遣うべきだった。すまない」

それは坂本が晩年期から抱き続けていた罪悪感だった。黒江が泣き崩れ、それに激昂した菅野に殴られた光景が頭にこびりついて離れなかったのだ。娘との不和を原因として、40代後半からの気力の急激な萎えが肉体を急激に老いさせたのが、和解のタイミングを奪った。坂本が99年まで存命だったのは、ひとえに『和解したい』という気持ちが織りなす気力によるものだった。だが、親の気持ち子知らずというべきか、母親が軍在籍時の友人と和解したいことを知った美優が、『母の病気を大義名分に、軍関係者と関係をこの際、完全に絶ち、自分の立ち位置を確立させたい』というエゴにより、坂本は黒江や芳佳らとの連絡手段を絶たれ、黒江も消息を完全に掴めなくなる。だが、黒江にとっての救いの神は北郷であった。北郷が99年頃、軍関係者の同窓会で、黒江に坂本の現況を伝えたのがきっかけで、黒江はようやっと坂本の入院している病院を突き止めるが、美優の妨害工作で面会は叶わず、2000年に死の床につく寸前の際に、歴史改変をする事で、ようやく再会を実現させたのだ。

「美優の事は……私達、両親の教育が失敗したせいだ…。私がもっとあいつに構ってやれば、あいつもひねくれる事はなかったと思う時があったんだ」

「あいつをかばうのか?」

「お前が終生、あいつを憎んだのは知ってる。あいつを庇うわけじゃない。あいつは16くらいには私達を『見下していた』し、軍学校が最終学歴の私を見下して、喧嘩した事もあるからな。いや、もしかしたら、いつも家を開けてたから、自然と軍嫌いになったのかもしれん。姉さんが自由人だったから、面倒を見てくれと頼めなかったし」

「そうか、その線か……」

「今だから思い立ったんだが、美優は小さい頃、私と土方が家を開けてた理由を、軍に結びつけていたかもしれん。それで軍嫌いになった。それなら、お前達の手紙を受け取り拒否したり、絶縁状を送っていた理由の説明はつく」

坂本がそれを咎め、喧嘩になったのは、美優が17歳ほどになった時期で、美優は『小さい頃から一人ぼっちだった』事をぶちまけたが、坂本は娘が勝手に絶縁状を書いてるという事実に激昂し、ビンタをした。美優が、自分なりの気づかいをしたのに、それを否定されたことが、青年期に母親に軍関係者との関係を絶たせ、家庭に生させようとする原動力となったのだが、このことが不仲の原因なのだ。美優は『普通の家庭』を望んだのだが、自分自身が家庭を持った際に、奇しくも母親と似た姿しか見せられず、実子に軽蔑されるという顛末は哀れであり、死後の坂本は自分の業のツケを娘が払うことになった顛末を気に病んでいるようだった。


――戦後に問題になった事だが、1945年から1953年の時期に従軍していた者が子を持ち、その子が10代後半に差し掛かるまでに成長した時代、新制大学に入学した子が、最終学歴が義務教育、あるいは軍学校の親を見下す現象が起こったのだ。時代の変化故、10代前半から軍歴を持つことが無くなり、子世代からは『一般常識』を身に着けてから軍入隊が尊ばれている事が当たり前となった。子世代には、子供のうちから軍で生きた親達を『無学者』と見下す風潮が少なからずあった。実際は軍学校で短縮課程だった者でも、多くが戦時中に連邦による再教育を受けているため、学力は一流大学(帝大相当)を実力で入学・卒業出来るほどである。それを証明する資格が創立されたのも、1960年代ごろからだ。その新制大学の第一〜第二世代にあたる美優は、成人の頃には親へ興味を失ったので、親を省みる事もなかった。が、それが黒江の逆鱗に触れてしまったのは哀れである。



「あいつの人生の顛末は、私が招いた事だ。お前と関係を断つ事をあの時にしなければ、あいつも『あんな最期』は迎えなかったし、私の葬式の後で、お前に憎まれなかったはずだ。あいつが死後、どうなったかは分からんが……。許してやってくれ。あいつの母親としての最後の責務だ。頼む!」

坂本は黒江に懇願する。美優を許してくれと。黒江は死後も美優を憎んでいたが、曲がりなりにも坂本の『娘』であった事、生誕の時の喜びようもあり、坂本に面と向かって、許しを懇願されては、複雑な感情を見せる。ややあって、『一度切れんのは勘弁してくれ』と断りを入れ、『うが―――ッ!』と叫ぶ。それは坂本の懇願により、死後の100年以上、自分が青春期を過ごした時代からは300年近くも経過した時間まで、ずっと抱いてきた憎しみを捨て去るためのけじめだった。

「ええいクソ、ちくしょう!あいつが転生してたら、一発殴ってやる。そうでないと腹の虫が収まらねー!いいな?」

「ああ。あいつには悪いが、生前の親不孝の代償は払ってもらうしかない。では、そろそろこの時代の肉体に行って、お前を待つぞ。戦闘の指揮は任せろ。久々だが、コツは覚えている」


「頼む。」

「ロキは神だ。どの道、器になっているアレクセイの肉体にいくらダメージを与えたところで、解決にならんぞ」

「んじゃどーすんだよ」

「どの道、この時間軸じゃ、穴拭が完全な覚醒に至っていないから、封印は無理だ。撃退だけを考えろ。ラ級戦艦はお前らが暴れても壊れんからな」

「……分かった。なんとかやってみよう」

「お前の義理の娘、それとフェイトで『アテナエクスクラメーション』をすれば、ロキも退くだろう。そこまでにダメージを与えておけ。それには、今のお前が纏う聖衣の矢が必要だ」

「サジタリアスの矢か……。分かった」

「無理はするな。相手は神だ。黄金聖衣も絶対ではない。次が続かない時は、諦めろ。奴らもアドリアーナ大尉を手荒には扱わんはずだ』

「やってみる」

と、頷く。そこで戦いに戻り、黒江はロキの器たるアレクセイの肉体に、アトミックサンダーボルトやエクスカリバーを使ってダメージを与える。智子は不完全な覚醒第二段階で奮戦するが、やはり肉体に負担がかかったのか、吐血する。

「智子!!やはりその姿の維持は……」

「何言ってんのよ、やっとエンジンがかかってきたところよ。この姿なら、あれができるはず。そう。あんたみたいにね!」

智子は覚醒第二段階の姿であれば、魔力の制御が神の領域に至るため、斬艦刀を形成可能となる。智子が、小宇宙も応用し、物理法則を超える黒江に並ぶには覚醒第二段階に至るのが必須なのが分かる。

「いくわよ!!」

智子は魔力で備前長船を変形させ、斬艦刀にして構える。そして、それに黒江の『娘』の翼のクサナギの力を上乗せする。

「神剣『クサナギノツルギ』よ、喰らいなさい!!」

翼のクサナギの力を上乗せした斬艦刀がロキに突き立てられる。智子はロキの纏うローブ(軍服を変化させた)を切り裂き、そのまま器であるアレクセイの体にダメージを与える。が、ロキは智子に高圧縮のエネルギー弾を叩きつけ、刀ごと智子を吹き飛ばす。が、かなりのダメージを与えたのが目に見えて分かる。

「ロキィィィ!!」

「!」

黒江はありったけの小宇宙を燃やし、サジタリアスの矢を射る。矢はロキに突き刺さり、大爆発を起こす。芳佳が新たな技『超弾動閃煌斬』を追撃で入れた事もあり、ロキは意外にダメージを負ったようであり、戦いを打ち切り、艦内に退く。

「宮藤、まさかお前、閃煌斬を覚えてたのかよ」

「はい、流れ的にそのまま。意外に威力ありますねぇ、この技」

「世が世なら、お前、『サムライトルーパー』になれてるよ」

「プ○キュアにはなれてますけどね」

「声帯の妖精さんネタはやめろ、声帯の妖精さんネタは。それいうと、ミーナ中佐やシャーリーだってそうだろ」

「そう言えばそうですね」

「お前なら、90年代末期にジャ○プでやってた漫画のあいつだろ」

「正確には、その次回作のほうが有名じゃ?」

「あれは青年誌に行っただろー」

と、2000年代以降のオタクな会話を交わしつつ、変身が解けた智子に肩を貸す。無理な変身であった代償か、精魂尽き果てているものの、使い魔の耳と尻尾が具現化したままだ。

「……勝ったんですか?」

「いや、私達の今のパワーじゃ、撃退で精一杯だ。今の状態じゃ、アドリアーナ大尉の救出は無理だ。大尉は私達への大事な交渉材料だ。手荒な真似はせんだろう……。お前ら、一旦退くぞ!アテナエクスクラメーションやれる体力はないしな……クソ、矢に全力込めたのはミスった!」

黒江も、この場は退くので精一杯だった。皆、死闘を展開し、精魂尽き果てている。時間は短いものだが、光速戦闘を無理に展開した者も多く、三人の黄金聖闘士と言えど、それらを守りながらの長時間戦闘は体力的に無理があり、当初の目的である『ロキの討伐』とアドリアーナの救出は諦めざるを得なかった。が、ロキにかなりの打撃は与えられたため、頑張ったほうと言えた。






――それを『見届けた』死後の坂本は、すぐにこの時代の肉体に憑依する。深層へ『この時代の自分』を眠りにつかせ、肉体の主導権を握ると、後年の『航空指揮管制官』としての眼光となり、軍服に着替え、富士のCICに赴く――

――富士 CIC――

「ハルトマン、戦況はどうなっている」

「あ、坂本少佐。……でね」

「分かった。『サクヤ』より全軍へ。敵はソビエツキー・ソユーズが支えだ。ラ號は衝角攻撃をせよ!繰り返す、ラ號の衝角攻撃を……」

坂本は、ハルトマンから大まかな説明を受けた直後、ラ號へ衝角攻撃の許可を出す。シナプスからの許可も取り付け、戦いにケリをつけるべく、一手を打つ。ミーナの頭ごなしに坂本が独断でラ號へ衝角攻撃を許可したため、ミーナは怒るも、坂本は『年の功』で上手く丸め込む。


「少佐、さすが、年の功だね」

「ハッハッハ、見抜いているな?お前には頭が下がるよ」

「もう前例があるし、別に驚かないさ。孫娘が後継者っていうのは本当?」

「ああ。戦いが終われば話すよ。今日、来たのは黒江への贖罪が主目的でな」

坂本ははっきりと、自分の目的を『贖罪』と言った。それは晩年に抱き続けた罪悪感にけじめをつけ、はっきりと黒江と和解したい気持ちの発露であり、晩年に失った『健康優良』な肉体であり、尚且つ20歳当時の若々しい体で、この当時に構想していたプランを実現させるため、坂本は戦いの指揮を執る。それは坂本が最後に習得した技能を垣間見せる機会でもあり、黒江に続き、『未来の自分』が介入した事例となった。


――戦場に響く、波動エンジンの重厚な音と、衝角とチェーンソーが起動し、高速回転を始める甲高い機械音。ラ號がその全力を発揮する証たる『衝角』。ヤマト型宇宙戦艦の五番艦に数えられ、元祖ラ級戦艦でもある証。神宮寺大佐は意を決し、ソビエツキー・ソユーズへ衝角突撃を敢行せんとする。この戦争の根幹にある、地球連邦に出自を持つ者同士の激突。ある意味では、レビル派と呼ばれた改革派軍閥の系譜を受け継ぐブレックス・フォーラの忘れ形見のエゥーゴと、ジャミトフ・ハイマンが私兵として生み出したティターンズの生き残りの意地のぶつかり合いであった。それを傍観する一つの目がある。アナベル・ガトー。歴戦の猛者である、ネオ・ジオン軍少佐であった――


「ガトー少佐、近くで見物などよろしいので?」

「構わん。連邦の者共の内輪揉めには興味はないが、シャア大佐のご命令とあれば仕方あるまい。ティターンズに渡したインレの動作確認はどうだ?」

「順調に稼働中の模様」

「よし」

「大佐は何を考えておいでなのです?」

「ティターンズの人材をこちら側に引き込めないかを模索しているのだ。こちらとて、所詮は残党組織にすぎん。連邦に一矢報いるには、たとえ信条が相容れなかったティターンズであろうと利用するのだ。」

ティターンズとて、戦争末期にはアクシズと同盟を結んだ経験があるので、ジオン残党狩りという本来の存在意義はアレクセイも守っていない。シャアはティターンズを巧みに操る事で、ウィッチ世界に地盤を築いている。その任務を担うのがガトーというのは、ネオ・ジオン内部の人材不足が理由であり、佐官といえど、このような任務についていた。潜水艦の潜望鏡と、水中用MSからの観測を使い、戦闘の様子を確認する。潜水艦幹部乗員とガトーは旧ジオン公国軍の軍服を着込んでいるが、兵たちは元連邦、元ティターンズ、元ザンスカール帝国出身とジオン軍人が入り交じった状態であり、ネオ・ジオンの人材不足ぶりの縮図だった。

「我が軍の人材不足も極まっているな、大尉」

「ハッ。ネオ・ジオンはハマーン派、ダイクン派、グレミー派の内輪揉めで、旧ジオン公国時代からの生え抜き軍人の多くを失った上、大佐が最初に集めた人材もだいぶロンド・ベルに倒されましたからな。こうして、連邦の逃亡兵や失業軍人、爪弾きにされたザンスカール帝国の生き残り、更に私らのような国防隊時代の老兵などに兵たちの構成を頼っている始末ですから」

潜水艦艦長は生え抜きのジオン公国軍人で、志願したのはその前身時代の古参である。老兵と言える年齢で、既に老境に入りつつある。彼のような者がいるのも、残党狩りがストップ状態だからだ。ジオン残党狩りも、ガミラス戦役と第一次星間大戦以来、ほぼストップの状態になり、軍縮の際に失業した軍人達の多くは手のひら返しした国民に復讐せんと、ネオ・ジオンに入隊し、ネオ・ジオンの再興を助けてしまったのだ。




――ネオ・ジオン再興は、地球圏の治安悪化の証である。軍隊が存続決定された後に、リリーナの後を受けて大統領となった軍出身の大統領の最初の仕事は、『プリベンター』の活動規範の厳格化と、軍再建であった。プリベンターとしても、本土爆撃はまったくの予想外であったが、本土決戦となるのにあたり、地球の工廠不足の要因と謗られ、活動規範を厳格化された。活動規定に『大統領の許可無くして、兵器工場の爆破処分はしてはならない』という一文が加えられ、軍存続決定後は独自戦力の縮小と、任務をほぼ『情報部』に特化させる決定を発する。これは対外戦争が宇宙規模で起こる時代になった故、通常の軍組織より微力なプリベンターが独自戦力を持つ必要が薄れたからだ。人類と異星人の戦争の時代を迎えていく中で、『人類同士の戦争の火種を消す』役目を背負って生まれたプリベンターは、その存在意義を新たに得る必要があった。それが文字通りに情報部として活動する事なのだ。軍の再建の際には、構成員の一部を出向させ、組織再建を手伝うなどの行為を行ったため、連邦軍のドクトリンに大変革が起こった。その改革が『ガンダムタイプの活用』で、ガンダムタイプに分類される高級機体群が量産され、戦線でのエースパイロット専用機代わりに使用するというドクトリンは、アナザーガンダムに衝撃を受けた後のOZトレーズ派のドクトリンとジオン系のドクトリンを連邦軍に落とし込んだ産物だ。そのため、ガトランティス戦役で引っ張り出された、多くのガンダムタイプが前線から引き上げられなかったのだ。奇しくも、ヤマトの鬼神の如き戦闘も重なり、連邦の『確固たる信念』の発露とし、綻び、崩壊の兆しすらあった連邦政府の統治形態の威信を建て直すという副次効果も生まれた。また、ジェガンの配備を急ぐ一方、老朽機の多い陸軍にガンダムmk-Uの陸戦特化量産機(元はティターンズが終戦間際にバーザム部隊の指揮機として量産していた機種である。現在はエゥーゴカラーで使用されている)の配備をさせ、ジェガン以降の機体の配備まで場繋ぎしていた。現政権の施策で百式系統の量産や、ジェガンの増産、Zタイプの増産がなされたが、戦時中は空軍と宇宙軍に優先配備され、陸軍には殆ど回されなかった。ジェガンは戦後、一気に普及したが、宇宙軍中心主義の大統領と、ガトランティス戦後の宇宙軍再建が急務であったので、必要が薄かった陸軍にはジェガンさえ満足に回されなかった。そのため、マークUのほぼ全機能再現の量産機が意外に長期にわたり、使われていた。この最終決戦でも姿を見かけており、内陸部での戦闘で使用されていた――




――内陸部では、シャーロット・リューダーが戦闘を繰り広げていた。彼女はパンターUと呼ばれる当時最新の陸戦ユニットを使い、その火器は対MS用に、多くはIS用を回されているので、火力面ではティ―ガーの使用時よりも総合的に向上し、MSを倒し得る火力を持った。そこへ、援軍が駆けつける。その第一陣は、ブルーバージョンを駆る仮面ライダースーパー1、仮面ライダーアマゾン、仮面ライダー2号、スーパー戦隊側は超電子バイオマンだった。しかもバイオマンは母艦のバイオドラゴンごとであり、そこからバイオジェット1号とバイオジェット2号が空母形態になったバイオドラゴンから発進する。


『合体、ハイパークロス!!』

超電子バイオマンのレッドワンの合体コールと共にバイオロボへ合体する。全長52mのスーパーロボットが降り立ち、地響きを立てる様は圧巻だが、バイクで爆破をバックに現れた三人ライダーも劇的であり、シャーロットは思わず見とれてしまう。

「うわぁ〜……かっこいい……」

「一気に突っ込むぞ、アマゾン、一也!」

「おう!」

2号ライダーの新サイクロン、スーパー1のブルーバージョン、アマゾンのジャングラーが見事な隊列で突っ込んでいく。バイオロボも空中を突っ切っていく。シャーロットは、彼らの背中を追いかけ、新装備に身を包んで、戦いに向かっていった。


――ブリタニアでは、旧型艦の戦没を受け、新戦艦の第二陣の名前をチャーチルが真剣に考えていた。そこで候補に挙がったのが、ヴィクトリア、ヴィクトリー、アイアン・デュークだった。更にヴァンガード、ロード・ネルソン、アガメムノンの名を上げた。だが、当時はブリタニアの財政はズタボロであり、空母建造を急務とする派閥から『空母と航空隊の整備こそ急務である』と反対論が生じ、さすがのチャーチルも対応に苦慮した。財政的に空母と戦艦の同時建造は当時のブリタニアでは不可能に近く、多額の援助を必要とした。特にいくら旧型を始末すると言っても、たかが知れている上、時代は空母という認識もあり、チャーチル肝いりの計画は前途多難。課題が多すぎるのだ。そこで連邦や日本から多額の援助をもらってから、三番艦以降を作るという事になり、『アイアン・デューク』と『ヴァンガード』が起工された。ただし、アイアン・デュークは納入予定の機関が欠陥品というので、建造が止まったりしたため、ヴァンガードのほうが先行して建造されていく。その結果、アイアン・デューク級は『ヴァンガード級』と俗称される事になる。(これは連邦軍のペガサス級と似たようなもので、ペガサスが竣工順がホワイトベースに遅れたのと同じ)ヴァンガードの竣工は1948年の暮れと予定より数ヶ月早かった。日本の援助が効いた形であった。同艦は直ちに南洋島へ回航され、ライオン級の一隻と交代し、東洋艦隊旗艦を拝命し、太平洋戦争後半期を戦い抜く事になる。ブリタニアの威信を見せるためのシンボルとしても十分であり、前級が46cm砲艦の習作的位置づけで、いまいちな結果に終わったのに対し、その設計を今度こそ改善した同艦級はブリタニア最高傑作と言えた。だが、同級三番艦は起工の遅れ、工事の遅れもあり、太平洋戦争には間に合わなかった。その船体は後に空母建造に流用されたという。逆に、南洋島建造の四番艦は53年7月15日という、終戦の一ヶ月前に完成、海での最終決戦となるハワイ沖海戦に参陣。奮戦し、中破で終戦を迎えたという記録が残された――



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