外伝その90『攻防戦1』
――アルカディア号が与えし技術により、飛行が可能となった連邦のMS。しかしながら、内部構造に余裕が無ければ、ミノフスキーフライト(24世紀型)の搭載は不可能なため、量産機ではジェガン以後、ガンダムタイプではZ以後からに限られたが、連邦は黒江から見て、『二度目』では、デザリアム戦役を控えている段階で、量産機/ガンダムタイプ共に飛行可能となっていた。そのため、連邦はジオン残党やティターンズ残党に対して、大きな軍事的アドバンテージを有することとなる。また、既存機にも内部のちょっとした改造で積めるほど小型化されているため、連邦はレストア機にも適応し、501に回された『FA-78-1』フルアーマーガンダム(Bタイプ)にも施されていた。
――格納庫――
「フルアーマーガンダムのタイプBか。レアなの持ってきたな」
「オリジナルのフルアーマーより機動性が改善されてる後期型らしいわよ。素体が2号機以前じゃ無くて、G3タイプだし」
「マグネットコーティング型か。G3もある程度はあったのな」
初代ガンダムの3号機仕様『G3ガンダム』。
そのフルアーマーをフルアーマーガンダム/タイプBと呼ぶ。終戦間際から戦後直後にかけて、RX-78-2タイプはほぼすべてが『G3タイプ』に改修されており、その内の数体がフルアーマーの素体に回されたのだ。
「ほら、動乱の時になのはが使った奴よ。その別個体よ。色はオリジナルのフルアーマーと同色にしてあるそうよ」
「あ、あー……すっかり忘れてたぜ」
「なのはに電話で聞いたら、オリジナルのフルアーマーよりは機動性が改善されてるから、使い勝手いいそうよ」
「オリジナルはシンをデザリアムの時に乗せるはずだよな。あいつ、なんて言ってたっけ、前史で」
「『動きが重くて、火力と装甲で押すタイプですね。俺好みじゃないですけど』とか言ってたわよ」
「あいつ、デスティニーなんて『全部載せラーメン』みたいな薄味のザフトガンダムにのっとったくせに、そんなナマ言ってやがったのか。ったく、今度会ったらシメてやる」
未来世界から見たデスティニーガンダムへの評価は辛辣で、アナハイム社のエンジニア達曰く、『全部載せラーメンみたいに薄味のガンダム』と酷評している。全備重量で80トンを優に超える割に、装備がそれほど重装備とは言えないこと、PS装甲材のメリットが未来世界ではそれほどないのもあり、『未来世界では実戦使用は難しい』とされた。既にザンスカール帝国製のビームシールドをぶち抜ける『ビームマグナム』や『ヴェスパー』、『Gバード』がある時代を迎えていた未来世界にとっては、デスティニーのビームシールドの出力では『出力が小さすぎて防げない』のだ。ハイパーデュートリオンと言っても、未来世界では片方の供給が不可能である(ミネルバが接収され、その後に解析されているため)事、ザフト製原子炉はアナハイム製やサナリィ製反応炉に比して『安定供給電力』が低く、F9系が出来るビーム火器の同時ドライブをしようとしたら、供給電力不足になったなどの性能限界も露呈した。カタログスペック上の謳い文句とは別のところで問題が起こったのだ。デスティニーでこれであるので、超電導バッテリー駆動のインパルスは『ミドルモビルスーツといい勝負』なパワーしか無く、フォースインパルスは機動性はともかくもパワー面では、ザクUに追いつけるか否かで、ジムにさえパワー負けするテスト結果が出ていた。ただし、エネルギー効率では未来世界の既存機を遥かに上回るため、その技術は大いに役立てられたという。
「デザリアム戦役前の段階だと、あいつとルナマリアの元々の機体がコンペイトウに移される辺りだっけ?」
「構造と規格が違いすぎるから、外見が似てるレプリカ作るほうが早いって分かったしね。あの子達は戦後、愚痴ってたけどね。マニピュレータとかサーボは向こうのモーター取り入れるらしいわ」
「シン達の世界にどれくらい流れたんだろう?技術情報」
「ザフトと連合、オーブに断片的にしか流れてないとか。こっちのコンピュータ防壁、向こうのコーディネーターが最高の環境でハッキングしても破り切れない強さだもの。だから、ザクのパチもんとかZのパチもんが造られたのよ」
オーブは連邦がヤキン・ドゥーエ戦役で協力した側だが、全ての技術は開示されていない上、ガンダリウム合金を作れる環境がないため、オーブなりの解釈で作った可変MS『ムラサメ』は脆い機体となってしまっている。コズミック・イラで、ガンダムタイプが異常に多く造られた理由は、ヤキン・ドゥーエ戦役での『連邦のバトル13とアンドロメダ級を用いた』砲艦外交に全勢力が萎縮し、連邦のV2ガンダムや、ディープストライカーに三隻同盟含めた全勢力が怯えたためだ。その結果、メサイア戦役でのラクスは、決起へ決心が中々つかず、キラの後押しでようやく腰を上げるほど、アンドロメダ級やバトル13に強く恐怖を抱いていた。ルナツーが元に戻るまでにその力を行使した事で、ユニウス7の落下が消滅したため、戻った後に『違う出来事で結局は開戦した』事になる。また、ややこしい事に、ステラ・ルーシェはそことまた違う世界の出身であったため、彼女からの聞き取りも行われた。それらを総合すると、『ナチュラルとコーディネーターはいがみ合いやすく、すぐに大戦争になりやすい』環境にあることになる。シンがいた世界では『ルナツーが双方を恫喝したため、ルナツーがいなくなったのを見計らって開戦したが、ナチュラルそのもののルナツーの部隊がコーディネーター相手に大暴れした後遺症により、プラントがあまり拡大政策を取らず、オーブなどの特定国に的を絞ったり、連合の重要拠点だけにに攻撃をかけるなどの手法の限定戦争になった。デスティニーやレジェンドは『不利な戦局を鑑み、本土防衛の最終手段として造られた』という風に、開発経緯がステラの世界とは異なる。
「カミーユさんが保護してる子はまた別の下位世界の出身だったから、シンやルナマリアとまた別の経緯辿って来たらしいし、あの世界ってなんか馬鹿らしい理由で戦争するのよね」
「不思議だよな。下位世界ってのがあるんだから」
「フェイトの報告によると、なのはとフェイトの世界も、ある世界の派生の一つに過ぎないかもって仮説が立ったようだし、私達の世界も、コズミック・イラ世界も、時空管理局の世界も派生世界が多いって事よ」
智子の言うことは正しい。ウィッチ世界も、時空管理局世界もそれぞれの世界の基盤の上に乗っかっている以上、派生世界は多い。マジンガーZEROの癇癪で滅ぼされた次元も存在するのだ。時空管理局は既に三つほどが、ZEROにより、ミッドチルダ本国や本局を滅ぼされて消え去っている。いずれにおいても、ZEROに対し、なのは、フェイト、はやての三人は最期まで抗ったという。フェイトAがロボットガールズを調査している過程で判明したが、少なくとも、自分が三人ほど『伝説巨神イデ○ン』よろしく、星になった事にはイラつきを顕にしている。そのため、ZEROの子である『Zちゃん』を思い切りしごいている。フェイトAはそれら『殺された三人の自分』と隔絶した戦闘力を持つため、Zちゃんが反抗しようものなら、グレートマジンガーの象徴である雷を威嚇で放つ。Zちゃんの脳裏には、獣魔将軍や戦闘獣にマジンガーZが破壊される時に、Z自身が抱いた自分の力が通じない恐怖が刻まれている。雷は『自分を超える者』グレートマジンガーの象徴でもあるため、雷を怖がる。
「うわぁ〜ん!」
と、耳をつんざくような泣き声が響く。
「Zちゃん?あー、フェイトの奴、サンダーレイジで脅したな?気持ちは分からんでもないが」
「あのくろがね頭のZちゃんがねぇ。どうして雷がだめなのかしら?」
「うーむ。前の時にZEROがグレートマジンガーを嫌ってる根源の記憶を甲児に聞いておいたんだけど、どうやらよ、グレートマジンガーが雷をバックに颯爽登場して、『マジンガーを超えるマジンガー』的なアピールかましたのが、Zには堪えたらしーんだよ」
「つまり、Zがその時に抱いた負の感情があの子の恐怖に繋がったってわけ?」
「たぶん。グレちゃんは『いや、そこまで怯えられても困る……』とか言ってるし、グレちゃんはスイーツ大作戦で懐柔に出るそうな」
「グレちゃんって、漫画だとダウナーじゃない?当人はもうちょい活発に見えるけど」
「GカイザーやエンペラーGとしての記憶が作用したんだろうな。エンペラーとカイザーモードだと、背丈が大人になるし」
「なんかヴィヴィオみたいね」
「あいつと違うのは、素がダウナーなところだけだな。ただ、大人モードだと鉄也さんの影響が出てるのか、好戦的だな」
グレちゃんの大人モードへ、同じような変身を用いる、なのはの義理の娘のヴィヴィオを引き合いに出す。当時、既に面識がある二人。ヴィヴィオからは、母の師という事で『先生』と呼ばれている。
「ヴィヴィオって、この時間軸だと、どの辺りにあたる?」
「疎開した学校に入れる準備してる段階だったような。見かけが6歳くらいに落ち着いたから、とかでよ」
ミッドチルダ動乱後、救出されたヴィヴィオはレリックの副作用により、肉体が元々の姿には戻らず、元々の姿+数歳程度の外見と精神年齢の誤差で落ち着いた。これは肉体と精神が急激な幼児化を抑制しようとした事によるものである。結果として、後のライバル『アインハルト・ストラトス』と同年代になってしまう事でもあり、ヴィヴィオの『物語』が数年早まって始まる示唆になった。また、ヴィヴィオが格闘技を始めるきっかけが『フェイトが聖闘士としての闘技フル活用でインターミドルで優勝した』事になっている。その優勝の原動力が『お忍びで見に来たランカ・リーだった』のは秘密だが、フェイトは予選会の段階で圧勝の連続であった。当然ながら、セブンセンシズに目覚めているフェイトに取って、優勝は容易かった。予選会決勝の際には背後に『獅子』の幻影が浮かび、対戦相手を怯えさせている。フェイトが他の世界の自分自身と決定的に違うのは、この戦闘力だ。黄金聖闘士となった事による圧倒的な力。結果、フェイトは圧倒的な強さで優勝したが、流石にランカとオズマには引かれたとのこと。
「で、ヴィヴィオを鍛えてるんでしょ?アインハルトくらい余裕でしょ?邪武くらいには今の時点でも強いんだし」
「ユニコーンギャロップ打てそうだしな」
ヴィヴィオはA世界では、入学を控えた段階でさえ、青銅聖闘士の中位に位置する邪武とほぼ互角の実力を持つ。ただし、目指している技は星矢寄りだが。
「いや、パンチが良いって言うから流星拳練習してるわよ。極初期の星矢くらいはあるんじゃない?速度」
「スバル、再改造してなきゃ、今頃は死んでるわな」
「あの子、最近は楯無に声が似てるとか、箒達から言われてるけど、甘えてる時はルッキーニ似なのよね」
「そうそう。ルッキーニのやつにそれ言ったらさ、あいつ、オッパイ好きなところで親近感感じたらしくて」
「そこかい!」
ルッキーニとスバルには声色と嗜好、性格に共通点が多く、シャーリーでも聞き分けが難しい。芳佳と合わせて、黒江達は『おっぱい星人軍団』と呼んでいる。なのはAがBより巨乳なのは、彼女らのおかげである(?)。
「そいや、ケイはどーした?」
「会議中。人数多くなったから、管轄とかの割り振りがややこしいとかで」
「ミーナは胃薬頼んだのかな?」
「ロボットガールズも来たし、前の三倍は飲むかも」
ミーナの胃はますます痛くなるのは確定事項である。ΞガンダムやゲッターロボG改などがアフリカからの移動便で運ばれて来た事による兵站面での勉強やアナハイム社との折衝など。勉強すべきことは多い。ロボットガールズの処遇も大きな問題である。会議では、それらも議題であり、ミーナの更に上官であり、編成上の責任者であるルーデルが顔を出して会議のまとめ役となり、実質的に圭子が次席である。
「ロボットガールズに関しては、加東中佐らに一任する。それと、ローテーション編成は適宜、メンバーを変更しつつ行い、機材補充は地球連邦軍にも協力を仰ぐ事にする。ローテーションには私も加わる」
「大佐御自ら?」
「なに、デスクワークは性に合わんからな」
「それと、先任中隊長はレイブンズの三人、元統合戦闘航空団戦闘隊長は飛行隊長、司令級は大隊長に任ずる。ヴィルケ中佐に責任が集中しても負担になるからな」
ルーデルのペースで会議は進んだ。中にはルーデルの前線勤務好きに引く者がいる。サーシャなりミーナであり、竹井である。
「皇帝が勲章やるから本国勤務、近衛参謀になれって言われたから、前線に居られないなら勲章なんぞ要らんって言ったら、(勲章だけ取りに来い』って貰って来たのがこれ」
騎士鉄十字章の中でも、最上位に位置する『黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章』。ルーデルのために皇帝が作った勲章で、実質的にルーデルしか持つ者がいない。最近ではエーリカ/マルセイユ/ガランドの三名が最有力候補である。
――ルーデルが示してみせた勲章はカールスラントで実質的に最上位の勲章であり、ミーナでさえ柏葉・剣付騎士鉄十字章までしか授与されていない。これはバダンへの利敵行為が疑われ、柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章の授与候補から外されたためで、ミーナは勲章ではエーリカの後塵を拝する事になる。
「大佐……勲章自慢しとる時間ではありませんぞ」
「あー、そうだ。ラル少佐。君は皇帝陛下より、次期総監に内定しておる」
「知っております。陛下からご連絡がありましてね」
ラルがカールスラント空軍次期総監(後に三軍総監)に任ぜられる事を、早期に公表するルーデル。前史の反省で、ミーナの精神的負担を軽くするべく、早期にその人事を公表する事になった。ミーナは安心したような顔を見せる。前史では次期総監に目されていたので、その事も負担になっていた。が、その要素が無くなった事に安堵したようだった。
「さて、次に移ろう。ティターンズが動かしているリベリオン軍の航空機の機種だが、大淀、説明を頼む」
「大淀?」
「そうだ。こいつの名前だ」
「ファーストネームは?」
「いえ、私の名前は大淀です」
「???」
戸惑う一同の殆どだが、制服の名札にファーストネームの記載が無く、その事が一同にある事を思い出させる。
「ファーストネームがない……。まさか、リバウ奪還の時の!?」
サーシャが言う。彼女は噂であるが、リバウ奪還作戦の主力がウィッチでないのに成功したという報を耳にしており、それが気になっていたのだろう。ルーデルはそれを肯定する。
「そうだ。こいつは人間に見えるが、人間ではなく、船の化身、その中でも軍艦の化身だ。その内の大淀型軽巡洋艦の化身だ。リバウ奪還の時に噂があったが、その実物だ」
二度目においては、地球連邦軍が加わった段階で、艦娘も攻勢作戦に初投入されており、リバウ奪還の際の主力であった。扶桑(日本)艦のみであった事もあり、存在はまだ秘匿されていたが、ルーデルはその時にいたので、知っていたし、黒江から事情を聞き出している。また、司令部付きの戦力扱いであるので、実質的に政治的後見人に当たる。
「ご紹介に預かりました、私は大淀型軽巡洋艦、大淀です。艦の化身『艦娘』の一人にあたります。ですが、私は所謂、秘書としての仕事が主任務ですので、あなた方の政治的後見人になるのは、今、入ってくる方です。それと、大佐。実物って、人格有るし人型してるんですから本人とか言ってほしいです」
「これは失礼した」
「あの、もう一人来ておられると?」
「はい。……どうぞ」
と、ドアが空き、一人の艦娘が入ってくる。坂本は前史の記憶から、あの艦娘である事を知っていた。扶桑のオールドネイビーでありながら、性格が若々しいあの……。
「ハァーイ!オマタセネー! 私が金剛型高速戦艦の一番艦、金剛ネー!ミィなさん、よぉろしくぅー!」
その瞬間、坂本は額を抑えた。金剛の登場である。見かけが若々しいので、とても扶桑海軍のオールドネイビーとは思えない。他の皆は呆然として固まっている。
「オホン。皆、敬礼しろ。この方は……海軍少将にあらせられるぞ。一応、な」
咳払いし、とりあえず空気を作る坂本。金剛の待遇は将官であり、ルーデルよりも上位の立場である。金剛の容姿と性格で忘れられがちだが、連合艦隊旗艦経験の現役戦闘艦での最古参である。礼儀は必要と判断した坂本の言で、全員が敬礼する。
「式典じゃないし、そんなに堅苦しくしなくてオッケーネー。続きを始めましょう」
と、金剛自身が止めさせる。扶桑最古参の軍艦の化身が元気っ子少女なのはインパクト大だが、決める時は決める。議題はやがて、リベリオンの航空機生産速度に移った。リベリオンが戦時体制に本格的に移行した場合、年間で30万機を生産できるほどに膨れ上がる事は、メンバーに衝撃を与えた。もちろん、複雑で大型のジェット機を生産の主体にすると、上下するだろうが、この時代の世界の工場であった国である。連合軍と日本との交流が本格的に始まるのは、あと数年後。それまでに『この時点の新鋭機より二世代は進んだ兵器』を大量産され、早期に攻勢に出られては、ブリタニアの失陥すらありえる。リベリオン東海岸に弾道弾を打ち込むか、最新鋭爆撃機『飛天』でブリタニアから戦略爆撃を行うかの二択が司令部が取るであろう選択肢であると、金剛と大淀から伝えられる。
「フォン・ブラウン博士が実用化したというV2を打ち込むのですか?」
「正確には、その遠い発展型になるけどね。それで工業地帯に間接的に打撃を与えるか、戦略爆撃機で民間人ごと工業地帯を直接焼き払うか。それが取り得る選択肢ね」
圭子が補足する。弾道弾は核弾頭ではないにしろ、使用予定の弾道弾は未来の弾道弾なので、命中率は良好だ。しかし、一度に撃ち込める量には限界がある。それと、すぐに迎撃網を構築される危険と、相互確証破壊の訪れを早めてしまうという政治的危険性。B案は大規模無差別爆撃であり、味方から批判が出るのは覚悟で行う必要がある。特にウィッチ閥は騎士道や武士道が色濃い文化を持っており、近代戦以後の大量破壊を忌み嫌う傾向がある。ウィッチ閥は戦略爆撃機を忌み嫌うが、既に戦争の形態そのものが大量破壊に舵を切りつつあった1945年の段階では、各地の連戦連敗もあり、政治的発言力は減退の一途だった。彼女らにとっての不幸といえるのが、彼女らの拠り所であったはずのスリーレイブンズが近代戦に適応し、大量破壊を肯定した事であった。
「政治的にはB案が推されるでしょうね。戦略爆撃だから、民間人にも犠牲は出るけど、本来、戦略爆撃で日独が焦土になってるはずの時間軸であるから、むしろ精密攻撃が出来る分、『幸運』かも」
「幸運!?あなたは、民間人が死ぬ事を幸運だと!?」
「ロスマン、落ち着け。精密攻撃と中佐は言っている。」
「精密攻撃……?」
「積むのを爆弾じゃなくて、巡航誘導ミサイルにすれば可能よ。M粒子があるから、一定のところから観測する必要があるけど、被害も必要最小限に収まるわ。あなた達が戦略爆撃に反対するのは分かるけど、騎士道や武士道にこだわってる時代でもないわ、今はね。工作員か観測機にレーザーポインタを持たせて照準させるだろうから、爆弾で焼き払うよりはよほどマシよ」
「爆撃機にそんなモノが積めるのですか?」
ロザリーが言う。
「そのための飛天よ。わざわざ未来の爆撃機であるB-52をベースにしたのは、その意図と、ウィッチの空中母機にする計画だったからなんだし」
B-52をコピーしたような外観であるので、富嶽の系譜の面影はないが、機体構成は富嶽の発展型に位置する。戦略爆撃機の調達自体、『ウィッチの空中母機に適した大型機』という名目でなされているため、爆撃機型と別に、『パラサイトウィッチ母機』型(黒江のメタ情報で命名)が調達されている。兵器庫はウィッチの待機所などにも転用できるため、母機型はウィッチ待機所を兵器庫部分に宛て、発進をコア・ファイターのペガサス級初期型への着艦をヒントに、逆T字バーに掴まって発進、回収という手法だ。ジェットストライカーはその戦術の実現のためにも必要とされている。また、輸送機ベースの機体では、床が低いため、側面に発進補助レールも増設されている。爆撃機ベースの場合は、爆弾倉への搭載作業のために高さがあるからだ。これは基本的に、当時の航続距離が短いジェットストライカーを前提にしているため、レシプロストライカーでは好ましくないとされる。レールでの射出にレシプロでは構造に負担がかかるからだ。零式では、構造が射出に耐えられずに機体が分解する危険がある。そのテスト結果により、レシプロでの運用は扶桑の場合は紫電改以後が望ましい。ジェットの運用を前提のモノにレシプロという自体が無茶であるとも言えるが、実際はレシプロの方が大多数であった時代においては、許容された。
「も、申し訳ありません。つい先走ってしまい……」
「あなたくらいの年齢にはよくある事だから、気にしてないわ。ウィッチは近代戦の大量破壊ドクトリンに嫌悪感示すけど、近代戦と言うのはそういうものよ。覚えておきなさい」
これは近代戦争に慣れた者、そうでない者との差だった。ロスマンは古参ウィッチであるが、近代戦争を経験していない。圭子は未来で近代戦争を経験してきた。その差により、圧倒されていた。実際、この時期は日本や連邦から入ってきた『進化した戦争に適応するためのドクトリンや装備』に嫌悪感を見せるウィッチが多く、しかし兵器の性能が一気に進化したり、整備要領が厳格化した事による整備兵再教育の必要が生じたなど、各国軍の多くは振り回され、ウィッチ用機材そのものの生産数が低下し、通常兵器のほうが生産数が多くなっていた。特に扶桑においては顕著に現れ、通常兵器の大増産により、ストライカーの生産数は減らされ、錦と天姫の代替機すら用意できないほどに切迫しており、亡命リベリオンの倉庫からP-51Cを引っ張り出して対応したという。結果、ウィッチ隊編成がウィッチそのものの失態続きもあり、秋以後に設立される扶桑空軍のウィッチ部隊は前身時代の栄華からは考えられないほど少数に集約される。それが64Fの豪華さの理由となる。ウィッチ部隊が主に日本から『儀仗的役割の部隊』と見なされたためだ。翌年の1946年の開戦時に存続していたウィッチ部隊は64F、50F、244F、47Fと少数であり、その内の最前線部隊は64Fだけとなる。開戦後に必要上、扶桑海当時にあった部隊が復活してゆく。有力でない者の掃き溜め感があるものの、数合わせとしては必要十分であったという。ウィッチ部隊はこの時点で『少数精鋭化』が決定されていたのである。
「この編成がなされた時点で、私達は圧倒的な戦果を求められることになりマス。それも大衆にもわかりやすいモノが」
「金剛さんの言うとおり、私達はジオンだろうが、ティターンズだろうが、あらゆる敵と戦う使命を負わされている。この事は若い連中にも自覚させなくてはならん」
坂本が発言する。坂本はリーネのような『一族の義務感で志願したタイプ』を不安視していた。前史のリーネが前線には出ずにペリーヌの従卒として軍生活の後半を過ごしたという事実を知る故、坂本はリーネやパティなどを戦力として数えていなかった。近代戦の情け容赦ない破壊の嵐に耐えられない胆力であり、太平洋戦争(前史)ではペリーヌの従卒としてしか活動しておらず、終戦と同地に退役したからだ。リーネのスナイパーとしての技能は高いが、圭子という上位互換の人員が来ている事もあり、リーネは前史での事もあり、前線で用いるのは控えたい坂本。そのために芳佳を菅野と組ませたのだ。それと、いくつもの統合戦闘航空団とアフリカが統合された事で、スナイパーが多くなった(アンジー、圭子、リーネ、孝美など。)ため、リーネに依存する意義も無くなった。それら熟練の人員を更に凌ぐのがのび太であり、あの圭子の心をぶち折り、懇願しながら師事を仰いだほどの凄腕である。リーネはのび太に鍛えてもらいたいと黒江に頼んでおり、のび太の都合がつき次第、招聘する事になっている。
「講師を私と黒江が頼んである。ラル少佐、それと金剛さん達は知っておいでだ。この少年だ」
作戦室の掲示板に、少年時代ののび太の写真を掲示する。冴えない風貌の扶桑人の子供である。
「この子供がどうかしたのですか」
「ロザリー少佐。この少年のことは一口では説明出来ん。加東がとうとう勝てなかったほどの銃のプロと言うべきか」
その一言で作戦室がざわめく。圭子は苦笑している。圭子は、かつて得た『扶桑海の電光』の二つ名を今でも名乗り、それを誇りとしているが、メカトピア戦争の折、のび太に得意の射撃で敗北し、その才能に気づき、のび太に『大人になったら、射撃競技やったほうがいいって!』と勧めたほど、のび太を高く買っていた。のび太の『才能』が自分以上である事を直感したのだろう。のび太はその頃、既にタイムマシンで『西部開拓時代のモルグ・シティを救った経験』もさることながら、いくつかの大冒険で射撃の腕前が完成の域に達しており、信条的にも、リーネの師に相応しい。坂本はそれを知っているため、のび太に依頼したのだ。のび太は了承してはいるものの、小学生当時の学業成績は坂本も認めるほど悪く、1945年当時の成績基準で『丙』である。その事から、玉子が勉強の様子を監視する事も多い。しずかの方面からどうにかする方法もあるにはあるが、のび太がしずかの『運命』を知らせていないため、あまり使えない。黒江は『のび太を連れて行くにゃ、お袋さんをどーにかせんと』とぼやいていた。ちょうど、のび太から泣きつきがあったため、黒江はその解決に菅野と孝美を駆りだして、のび太の時代に向かった。
――西暦2000年頃――
「と、いうわけでして……」
「のび太に休養と言うことで、どうにか出来ませんかね?」
野比家の応接間からは、黒江と菅野が玉子をどうにか口説き落とそうとする声が漏れてくる。
「のび太君、あなたのお母様って、厳しい方なのね」
「ウチのママは、ボクの成績が0点の記録に手が届くくらいに悪いのに危機感ありますから…。大学に入るまで無理なんですが」
のび太の学業成績の改善が目に見えてくるのは大学入学後の事で、それまでは0点の回数が減る程度にしか改善されず、のび太はその事を知っている。玉子はのび太が高校に入れるかを心配しているのだろうが、2004年頃に『物の弾み』で合格するのは判明しており、むしろ大学のほうを心配するべきと言える。
「ドラえもん君は?」
「学生時代の悪友たちに呼び出されて遠出中です。たしか、2120年代のガリアにいるとか」
「ガリアに?」
「その時代のガリアの新聞です。これが答えだそうで」
のび太は孝美に、ドラえもんが置いていった、その時代のフランスの新聞を見せる。孝美は仏語にも堪能であるので、道具の補助無しに読めた。
「『怪盗ドラパンの次なる標的は何か』……怪盗ドラパン?アルセーヌ・ル○ン気取りの怪盗がいるのね」
ドラえもんはこの時期でもドラえもんズの活動を続けていて、その時代のフランスの怪盗退治に呼び出された(実際は罠であるが)。孝美はキッドと王ドラとは会っていたので、ドラえもんズの事は知っている。
「ドラえもん君って、友達が7人いるのよね?」
「はい。学生時代はドラドラ7とか言ってたみたいで、親友テレカ手に入れてから『ザ・ドラえもんズ』に改名したそうで」
ザ・ドラえもんズ。その名は2120年代の記録にのみ登場する。2130年代からは泥沼の統合戦争になり、ドラえもんを作った『ひみつ道具社会』が戦火で崩壊してしまうからだ。『科学的特異点の将来を欧州諸国が恐れたから』という考察が後世からなされているが、『時空融合現象に危機感を持った者達が煽った』とも噂されており、真の開戦の理由は誰にも分からない。反統合同盟があっけなく瓦解したのも、世代交代で存在意義を理解する者が政府首脳にさえいなくなったからである。
「ザ・ドラえもんズ……。どうして、2130年代からぷっつりと記録が?」
「統合戦争が起きたからだとか、時空融合現象の副作用だとか、色々噂はあります。だけど、原因不明だそうです」
「原因不明?」
「ヤマトやガンダム、マジンガーのアニメが消えたのは、『時空融合で本物の世界が取り込まれた』事での統合で説明がつくでしょう?ザ・ドラえもんズに関しては分からないんです」
ここで、のび太は重大な事実を語った。元々、ドラえもんのいたこの世界と、スーパーロボットの世界は同一の次元ではなく、時空融合現象で取り込まれ、一つになった結果、生まれた融合世界であると。
「融合?」
「バダンが仮面ライダー達を倒すために、時空振動弾を作ってたんです。当時、仮面ライダー達はコールドスリープ中だったんで、ドラえもん達が阻止に動いたらしいんですが……」
「……どうなったの?」
「時空振動弾の炸裂は止められなくて、キッド達はドラえもんだけでも助けようと、親友テレカでドラえもんを助けた。ドラえもんがその後にどうなったのかは……」
のび太はその事が悔しいのか、肩を落とす。仮面ライダーらもその事への罪悪感があり、ドラえもん達や黒江などの『志ある者達』を助ける役回りを演じている。つまり、孝美が会ったドラえもんズは『その出来事が起きる前の』人物であるという事になる。
「のび太くん……」
「ドラえもんは命をかけて、バダンからこの星を守った。だから今度はボクがあなた達の世界を守ります。こんな事に巻き込んだ事の責任は僕たちにもありますから」
と、のび太は言う。孝美は職業柄、罪悪感を抱いた。プロの軍人であり、力を持つ者でありながら、どうする事もできないという無力感、のび太のような本来は『戦わなくてもいいはずの別世界の人間に、戦いを強いる』罪悪感。生真面目な孝美には堪える事実だ。黒江がどうして、聖闘士になる事を選んだのか。その理由が分かったような感じがした。孝美は二度目においては、その気持ちがセブンセンシズへの道を開くことになる。また、ある戦いで魔鈴が負傷し、治療の為の隠居をした後、双子座の黄金聖闘士の『影』になった篠ノ之束によって新造された『アクイラ』の名を持つ第二の『鷲星座の聖衣』を纏う事になるのだった。これは未来の話であるが、前史では起きなかった、今回独自の出来事である。だが、記憶を引き出す能力を持つ神の智子の影響もあり、『ディバイントルネード』、『アクィラ・シャイニング・ブラスター』などの別世界での鷲星座の技を得、放つ事が出来るようになった。使い魔がタンチョウヅルなのを考えると、数奇な縁である。
「私も、先輩が導いてくれて、『アクイラ』の力を得たわ。もっと後に得るはずの力だけど。話に聞いた『前史』からの恩義がある以上、報いなくてはならないわ。前史で妹を泣かせてしまったのだけど、今回は…」
孝美はアクイラの幻影を纏う。前史では妹を戦いから遠ざけたいあまりに確執となってしまった『反省』の弁をのび太に言って。
「お互いに頑張りましょう、大尉」
「ええ」
と、笑顔を向け合う二人。その直後、黒江と菅野が疲れた表情で応接間から出てきて、黒江が「のび太、風呂作ってくれ…」と息も絶え絶えとなっていた。口八丁の黒江が疲れるあたり、玉子が強情だったらしい。
「どうしたんです、先輩」
「な、なんとか語学研修って取り付けたんだが、強情でな……。『のび太は日本語もできないのに、外国語なんて!』なんて……」
「ご苦労様です」
「あ、そりゃ心外ですって…」
「だろ?のび太、ロッテさんに手紙書いてるだろ?そこから攻めたんだが、普段の成績や素行から信用されてなかったぞ」
「ん、もう。プラモで四畳半島作った時もそうなんですよ」
のび太は普段が普段なだけに、宿題をたまに真面目にしても、玉子は息子を信用できず、海底の冒険の時は、夏休み初めに全ての宿題を終わらせろと無理難題を吹っかけたことすらある。玉子は自分の小学生時代に成績が良くなく、その事ものび太が野比家長男代々の特徴である怠け者であることも快く思ってはいない教育ママである。だが、息子ののび太は『やる気スイッチがへそ曲がりで一回毎に変わるしなかなか上手く入らない』、『玉子自身が、やる気スイッチ入った瞬間にどやしつけてスイッチを切ってしまっている』事に無自覚である。のび助はそんな現状を打破するべく、妻の反対を押し切り、黒江らとの交友を認めたのである。のび助は仕事で黒江や菅野に救ってもらった事は、この頃には一度や二度でなく、商談を通訳してもらい、まとめてもらった事が評価され、重役コースが2000年の段階では内定した。その事が玉子に心境の変化をもたらしたようで、最終的に認める一因であった。
「さて、これからが大変だ。4ヶ国語喋れるようにならないと」
「英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語は覚えんと帰れねーぞ?」
「驚かせないでくださいよ、菅野大尉」
「ガハハ!大丈夫だ。ガリア語は俺が教えたる。安心しろ」
「は、ハハ。ありがとうございます…んじゃ、風呂作ってきます」
のび太は菅野に苦笑いを見せ、風呂場に向かっていった。黒江をも疲れさす玉子の強情ぶりに孝美は舌を巻くのだった。
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