外伝その91『攻防戦2』


――501の今後の敵には『神闘士』、『ラ級戦艦』が含まれる。ラ級戦艦は、前史では『ソビエツキー・ソユーズ』のみが姿を見せたが、今史では『モンタナ』の改装が早まる可能性が大であったからか、金剛らもそれを話題に出す。

「皆サンには、このレジメを見てもらいたいデス」

「これは?」

「未来世界のこの時代の旧日本帝国海軍が遺した第一級機密書類のコピーです。これが今回の議題になります」

「『羅計画』……旧日本海軍の軍備計画がどうして我々と?」

「次のページの概念図を見てください」

「超大和型戦艦『ラ號』及び、『まほろば』の建造は45年度中に完了すべし…?」

「敵が秘密兵器として隠し持つ超兵器のおおよその由来がその計画なのです」

「超兵器?」

「はい。バダンが日米英仏独伊ソに作らせ、日本が起死回生を託していた超兵器です」

ラ號に由来を持つラ級戦艦。その資料を圭子と坂本、大淀、金剛の示し合わせで早めに配布する方向となった。前史ではラ級と戦わなかった者もいるからだ。

「日本がその計画を立案したのと同じ頃に相次いで完成した超戦艦。それがラ級戦艦です。核兵器にも耐え、他の戦艦に絶対的優位に戦え、ミサイルやビームでも致命打とならない防御力を誇る。最も早くに計画されたラ號がその名の由来です。ラ號は大和型五番艦を超大和型戦艦にグレードアップして開発した艦であり、現在は宇宙戦艦となり、地球連邦軍の第七艦隊/第二戦隊の旗艦です」

ラ號が建造当初にメイン動力炉とした重力炉はバダンにその由来を持ち、バダンはフリードリヒ・デア・グロッセなどのラ號には遠隔コントロール機能を組み込んでいたが、ラ號は同盟国向けの艦であったため、日本人がブラックボックスを解析し、ばらした事で省かれた事、終戦時に建造段階だったのが幸いし、バダンの戦後の回収を免れた。ラ號の建造は『二順目』では、1945年8月の段階で船体ブロックと武装が完成したのみであった。建造場所は南太平洋上の『轟天建武隊』秘密基地。神宮寺大佐の先祖『神宮司八郎』帝国海軍大佐が終戦まで指揮を取り、終戦で廃棄指令が出たが、彼は同志と共に、戦後に伊400型の最後の生き残り『伊403潜』で電探などの必要資材を運搬し、建造した。全ての完成には長い年月がかかり、1990年代までには完成を見たものの、秘匿された。その後にその子孫らに回収され、連邦時代にヤマト級の宇宙戦艦として改造された。戦後の日本国政府には運用が任せられなかったのは、野党が『他国の脅威になるから解体しろ!』と宣う事が予想された事や、戦前日本の象徴とされた大和型戦艦の姿を持つ事を戦後の国民が許容しない事が予測されたからだった。その威容は地球連邦時代には『ヤマトの正統な姉妹』として肯定的に見られるという皮肉となったが、後に知らされた21世紀日本はこの事実に落胆し、日本国歴代首脳の事なかれ主義と、野党の戦後賛美を嘆いたとのこと。

「この艦級が牙を拔いた場合、一国の海軍を破滅させる事は容易です。たとえ21世紀、いえ、22世紀の軍隊であろうともです。対抗するにはラ級の倍する口径の列車砲か、スーパーロボットを必要とします。そうでなければ、真っ向から傷は入れられません」

列車砲『ドーラ』は通常兵器でほぼ唯一、ラ級のバリアを突破できる力を誇る。だが、停泊中でなければ当てられないという欠点と、弾薬装填作業などの膨大な手間もあり、スーパーロボットか、同じラ級を用いたほうが早いと結論づけたのだろう。

「このラ級は1950年代までに、伊以外のほぼ全部の国が完成にこぎつけています。一部は回収されましたが、建造が戦後にずれ込んだ艦はリモートコントロールシステムが外されたので、手元に残されました。皮肉にも、連合国でも忘れ去られましたが。バダンに回収されたのは、『フリードリヒ・デア・グロッセ』、『ソビエツキー・ソユーズ』ですが、この世界のモンタナをラ級に改造しているとの情報も入って来ています。もし、全てがいっぺんに襲いかかった場合は地球連邦軍頼みになります」

「我々はそんな化物と対峙せねばならないと」

「それが厳然たる事実です。我々は宇宙戦艦と戦うことを考慮に入れねばなりません」

「サラミスやマゼランなら私達で容易に落とせるが、かの宇宙戦艦ヤマトに匹敵するであろう大戦艦が敵となるのだ。尋常な敵ではないことは頭に入れておけ」

「宇宙戦艦ヤマト……。記録映像は見たけど、キチガイじみた戦果と不死鳥のような不沈ぶり。あれと同等の性能を持つ敵なんてね」

フレデリカが唸る。そんな敵が今後に現れてくるのでは、ウィッチのメンツに拘っている場合ではない。

「私たちは、このような超兵器の現れる戦場に身を置いていると自覚する必要がある。それに通常兵器とて、亡命リベリオンより確実に一世代は進んでいる。ローマには姿を見せ始めている。別のレジメを見るように」

「敵はどこから空襲を?」

「敵に降ったヴェネツィアや、洋上の空母からだ。我々が当面の間、対峙するであろう敵機をまとめておいた」

1945年当時のリベリオン本国軍の現用機種をまとめたレジメに一同が目を通す。いずれも、12.7ミリ銃を200発撃ち込もうが、平然と飛んでいるような防弾装備を備えており、現有装備では火力不足に陥るのが一目で分かる。

「この機種らと戦うには、最低ラインで20ミリ砲が必要になる。13ミリ弾ではとても役に立たん。怪異にはある装甲弱体化も、通常兵器相手では起きんからな」

「坂本少佐の言うとおり、我々は怪異を相手にしてきたので、多くのウィッチが12.7ミリ、もしくは7.92弾を主用してきた。が、これからは最低でも20ミリ砲を携行しなければ、まともに戦えん。我がカールスランドのMG 151/20をとりあえずは用意した。製造ラインが生きてたからな」

ウィッチ達は軽量、低反動な7.92〜12.7ミリ弾を好む傾向が強く、扶桑も20ミリ砲のスケールダウンをわざわざ作るほどの手間がかかった。だが、ジェット戦闘機、大戦究極世代のレシプロ戦闘機にはそんな小口径弾は通じない。まして、B-29などとも一戦を交えようとするのだ。それではまともな戦にもならない。坂本が前史の反省として取り組んでいるのが、ウィッチの大火力化だ。

「出来れば、大口径のリボルバーカノンが欲しいんだがね」

「あれはジェットでなければ、反動の問題でまともに撃てませんよ。ミニガンだって持てませんし」

「隊員から文句は出るだろうが、通常兵器とも戦えることを示す必要があるという事よ。日本からは、私達は戦闘部隊と見なされてないのよ?」

「本当なのですか?」

「ウィッチがいない世界よ?女性だけの部隊なんて、儀仗目的にしか見えないわ」

「そうだ。我が国ではそれで迷惑を被っていてな。空軍が近々出来る予定だが、ウィッチ部隊枠は4枠しか用意されていない」

「ええ。だから、ウィッチ兵科そのものの存在意義が問われてるのよ。極端な話、少年兵問題との兼ね合いで、10代の兵士を持ってる事が疑問視されてるから、連合軍は対応に追われてね。私達は定年退官まで飛ぶ羽目になりそう」

「どういうことです」

「未来から持ち込まれた倫理観が若年ウィッチの登用を駄目にして、良心的兵役拒否や任官拒否の考えを広めたから、ウィッチの世代交代が進まなくなるって事。志願最低ラインが15歳、そこから3年の教育機関じゃ、普通にあがってしまうでしょう?」

「それに今の子達は『人生に箔をつける』ためにとか、『花嫁修業』、『一族の義務』とかで軍にいるのが多いから、近代戦の殺し合いには不向きなのよ。サボタージュが問題になってるのよ」

圭子は歴史改変を経験してからは『大いなる力には責任が伴う』とし、ウィッチは敵と戦うことが責務であると考えている。改変前とは違い、ウィッチに戦いを求めるような思考になっている。ゲッター線に闘争本能を引き出されたせいもあるが、改変前の『ウィッチに戦うことは強制出来ない』という思考とは対極に位置する『戦う意志がある者こそが、真のウィッチである』という考えを持つに至った。前史では、別の自分自身とそのあたりで折り合いがつかなかった。圭子Bは本質的に優しく、良心的兵役拒否にも理解を示すが、Aは芳佳の影響により、良心的兵役拒否や任官拒否などの行為を忌み嫌う。それで前史では口論になった事がある。前回の最後に融合したため、その『自分』とは別の自分に出会う事になるだろう。融合の後に『代替』として置かれた、また別の自分と。

「坂本少佐、何を考え込んでいるのです」

「なに、大した事ではない。私らは転生者だが、その記憶と今回はまた別の歴史に成ると言うことだよ。」

「どういう事ですか」

「事の経緯が違っていれば、別の結果が生じる。ラ號の誕生の経緯も私達の記憶とは食い違っている。その事からも、歴史というのは流動的な要素が多いと言える」

「坂本少佐の言うとおりデス。前々から検証はしていましたが、全体的に早まっていマース」

「早まっているとは?」

「マジンエンペラーの完成、ロマーニャへの侵攻、それに黒江達の黄金聖闘士への叙任だ。その全てが早まっている。おおよそ短い間隔でも年単位でな」

「どうして早まっていると?」

「詳しくは分からん。だが、ペースが早まっているのは確かだ。ゼウスあたりが急かしているのだろう」

「オリンポス十二神の長が現世に直接?」

「そうだ。推測だが、ゼウスは何かの目的があると思う。現世を守護するべき何かがな」

オリンポス十二神の実在が証明されたので、坂本はゼウスを『一人の人物』と見ていた。扶桑人にとってはオリンポスが実在していようが、驚くことでもないが、他国人には大事らしい。

「神々が実在しているなら、現世に干渉してこなかった理由は?」

「現世のことは人間ができるだけ解決すべし、と考えていたからだ。神々同士の戦いには、神々の闘士達が対処していたしな。黒江達のような、な」


「人間を支配したがる割には、不干渉、か。いいんだか悪いんだか」

「だが、そのおかげで文明が発達した。そして、神を倒せるという特性を手に入れた。神をも超えるためにな」

フレデリカに坂本は言う。神々を超えるためと。『神を超え、悪魔を倒す』。それが人間に与えられた宿命であると。

「神を超え、悪魔を倒す?」

「そうだ。マジンエンペラーも、マジンカイザーもそのために生まれし魔神だ。私達は邪神であろうが、怪異であろうが、敵と戦いぬく決意を持たなくてはいかん。我々の居場所を守るためにもな」

「居場所……」

「そうだ。皆には自覚して欲しい。ウィッチの固定観念に囚われたままであれば、私達は軍隊を追われる事になる。未来兵器の火力で怪異を焼くメゾッドが完成した以上、私達を敢えて用いるメリットはかなり減じている。黒江が危惧していたのはそれだ。私達の双肩には『軍ウィッチの未来がかかっている』のだ」

「私の基本姿勢は『一機でも多くの敵機を落とし、戦場を無事に生き延びろ』。そう命じマス。分かりましたネ?」

「ハッ」

金剛に応えるウィッチ達。金剛は少将であり、この場で最先任である。自身も戦いの場に立つ事は言っていないものの、その気満々の金剛だった。彼女を編成上の責任者に添え、総司令部直属の精鋭部隊として新生した真・501。その物資、装備共に一流となり、更に他勢力の強力なバックアップもついている。必然的に求められるのは戦果。圧倒的な。かつて、スリーレイブンズが起こしたような『奇跡』を。その当人達がいる以上、求められるのは大きい。それを重圧と見るか、『大いなる目標』と見るか。かつてのスリーレイブンズを知る世代のウィッチは少ない。『背中に憧れた』者は扶桑勢の二人だけ。この会議に出ている中では。坂本はそれを心配している。圭子らの公式スコアは、実際から差し引かれている。部隊戦果を重視した江藤の意向だ。江藤は、三人の逆行の記憶が封印された以上、その状態での際立った戦果をその時間軸の個人に与えるのは『教育上、良くない』と考え、8割を差し引いたスコアを公式とした。が、後年に三桁台撃墜王が現実となり、世代交代でレイブンズ伝説に懐疑的な者が増えたのと、当人達に記憶が蘇った事、現役に戻ったなどの理由により、確認出来た限りの単独撃墜を加算した数を『再検証した』との名目で発表した。これにより、撃墜数では扶桑のトップ10にカムバックしたわけである。これはカールスラントの200機撃墜王達が『戦局そのものには寄与していない』事により、皮肉なことだが、『伝説』によって後輩世代との対立が起こる事に気づいた江藤が、慌てて当時の日誌などから記録を掘り起こして、急いで加算させたものだ。江藤はその泊つけをするため、経産新聞に『撃墜王ランキングの記事』を売り込み、書かせた。それが今史における、扶桑全軍の撃墜王褒章の統一のきっかけとなるのである。



――『撃墜王』という称号に不快感を示すのは、元々が生え抜きの海軍航空隊員達がやはり多く、反対意見も海軍軍人から多く出た。が、やはり天皇陛下のお言葉により、反対意見は鎮静化していった。陸軍の『スリーレイブンズ』伝説に対抗するために『クロウズ』を宣伝していた事が指摘されたのだ。

『撃墜王の存在が国民の士気を高揚し、慰めになるのなら、それでよろしいのではないか、参謀総長、海軍軍令部総長?直ちに、戦果の明確化でとして、スコアを公表せよ。これは大元帥である朕の命令である。それに、軍令部総長。君らはクロウズをあれほど対外的に宣伝しておったというのに、まだ言うのかね?」

「は、ハッ……へ、陛下。それは私の管轄外でありまして、後日ご報告に参ります…」

矛盾であった。クロウズがキャリアの絶頂にあった頃、戦意高揚を名目と、対外的宣伝にクロウズを大いに利用していた。それは扶桑海前後にスリーレイブンズが戦意高揚の宣伝に使われていたことへの対抗心からだったが、この状況では、天皇陛下には『言い訳がましい』と思われたのだ。これにより、海軍も陛下の圧力に折れる形で『撃墜王褒章の正式設立』を認めた。反対した理由は、実はまだある。陛下には言えないことだが、海軍は自己申告を認めている事が多く、厳格な規定や確認により、記録が残っている陸軍に比べて、スコアが未確認になりがちで不利になってしまうのだ。それにより、坂本らでも、スコアが20から30は下がる事が考えられたため、現場の士気の問題が懸念されたからだ。ましてや当時はスリーレイブンズの復活が紙面を賑わせていたし、自衛隊との交流が始まった頃。日本のマスコミに『撃墜王がいない三流の航空隊』となじられ、搭乗員、ウィッチらが誹謗中傷され、故郷で村八分にされることを恐れた彼らには、現場の事情を無視してでも、多量撃墜者を祭り上げるしかなかった。日本には『戦後の混乱期に、自分達の撃墜スコアを本にしてたのどこのどいつだっけ』となじられた海軍航空隊は強烈な外圧と天皇陛下の勅により、その風習を葬り去られたわけだ。これに納得できない海軍航空の多くがこの年の秋から五回のクーデターに加担し、粛清されていったし、空軍設立までに有力者の3割をクーデター事件で失った陸軍も空軍移管後、民間に転職していた古い世代のエクスウィッチを競うようにして呼び戻した。これは新規志願数が目も当てられないほどに下がったことへの応急措置を兼ねており、赤松の同期らもこの時に多くが軍に復帰している。特に、海軍がその素行の悪さで手放した赤松の同期『黒岩利奈』(上官暴行などで放り出されたので、空軍の誘いにすぐ乗った)や、『虎熊正子』(かつて『虎熊豹象』と自称した、北郷以前世代最強の一角)を得たのが空軍の僥倖だった。それまでの暫定措置として、彼女らを源田直轄の343空に配置しておいたので、そのまま64Fに引っ張る事に成功する。が、これはこれで別の問題が将来に権限化する。海軍が42年から44年までの大増員で育成したウィッチ/搭乗員の全てが陸上勤務だったのを理由に、空軍に移管されたのだ。これにより、残された空母部隊所属ウィッチの多くは未熟者ばかりで、搭乗員のほうがミッド動乱を生き延びた熟練者の割合が多くなったのと逆転してしまった。そのため、まともに離着艦も出来ない彼女らは実戦任務では降ろされ、戦時中に64が酷使される原因となる。度重なる不幸と粛清でいいところなしの海軍航空閥から『スリーレイブンズ』への恨み節が出、後に、三輪に加担する者が続出した芽はこの時点で出ていたのだ。数十年の後、三輪が粛清された時、スリーレイブンズをせめて殺そうとする者が現れるが、全てが徒労に終わる。その時、彼らは知った。『全てが掌の上であった』と…。






――45年では、そんな政治的思惑が噴出することはなく、三輪自身も一介の若手参謀でしかない。が、現場単位では、元々の風習による気負いから、自己戦果に逸る者も多かった。501では下原が該当した。これは一度目でもあったが、二度目では『下原の叔父が陸軍の横暴で体に障害を負ったため、その兄である学者の父から『陸軍を超える戦果を挙げてくれと懇願されていた』事が影を落としていた。黒江がのび太を引き連れて戻った日のこと、下原は独断専行で、敵機に無謀にも突撃してしまい、囲まれてしまう――

――移動中のディッシュ機内――

「なにィ、下原が独断専行したぁ!?クソ、あのガキ、前史と似たような事しやがって!アホかつーの!」

「中佐、僕が援護します。タケコプターの予備は持ってきてます」

「ひらりマント持ってけ。私はサジタリアスで出る。」

「また借りてる〜」

「しゃーね―だろ、姪っ子に貸しちまったんだよ、カプリコーン」

黒江は元々、飛行ウィッチである都合、小宇宙の応用で飛行ができる。のび太より先に出て、光速で向かう。子孫の翼に聖衣を使われる事も多いため、自分は箒から拝借している。将来的に星矢の代理でサジタリアスも兼任するので、あながちあり得ない光景でもない。


『下原、ジョゼ、下がってろ!』

「え!?」

二人があっと声を上げた瞬間、黒江はナインセンシズの真髄を見せる。ライトニングプラズマを超えるライトニングプラズマ『ライトニングフレイム』を実戦の威力で放った。数多の雷光が火花を散らすアーク放電を操り、雷撃と同時に巻き起こる超高電の焔で焼き尽くす技。もちろん、二人には何が何だか分からない。凄まじい炸裂音と共に、敵機と怪異は消滅する。

「おいコラ下原!まぁた面倒かけやがって!帰ったら三時間の正座とおまけ覚悟しとけよ!」

「は、はい。先輩、ストライカーは!?」

「今は履いてね―よ。見りゃ分かんだろ。今回は聖闘士としての任務も兼ねてるんだよ」

「分かりませんって〜!」

「なぁに、コツさえ覚えりゃストライカー無しでも飛べるからよ。フェイトだってそうしてんだろ?それに今日は、リーネの講師を連れて来てる。そのまま戦闘に参加してもらってる」

「講師って……って、のび太くん!?先輩、のび太君連れて来たんですか!?」

「銃の腕じゃケイより上だし、お袋さんをなんとか説得して連れて来た」

「よくOKしましたね…」

「あとでタイムマシンで遡って帰らせるから、なんとかなった。それと、のび太からドラえもんの誕生パーティーの誘いあったから、お前、強制参加な」

「えぇ〜〜!?」

と、何気にとんでもない事を伝えられる。下原は菅野を迎えに行く必要上、のび太とは既に面識があり、第一印象は『冴えないダメ少年』であった。ところが銃の腕は下原自身は愚か、圭子よりも上の驚異的な技能を誇る。ドラえもんが未来から持って来た射撃ゲームでパーフェクトを容易く叩き出し、昔ながらのリボルバーの二丁拳銃で百発百中など、圭子ですら達成できない事を平然と行う。のび太はかつての名銃『ピースメーカー』を模したデザインになった貴重な攻撃型秘密道具『MBTを木っ端微塵に吹っ飛ばす』威力の「ジャンボガン」を携行、使用した。ひみつ道具である以上、その威力はMSをも破壊できる威力の弾丸を『拳銃の反動でポンポン撃てる』程度。航空機相手には、明らかにオーバーキルである。

「それっ!!」

ジャンボガンの反動は、最終型では『ピースメーカーと同程度』にまで抑えこまれており、のび太(少年期)のような非力な者でも連射が可能であった。タケコプターと、ひらりマントをスーパーマンの如く纏うスタイルは本来ならドラえもんの専売特許だが、今回はのび太がした。のび太の装填速度は西部開拓時代でも無敵を誇る速さであり、専用の弾丸をあっという間に装填し、撃つのはのび太の非凡さの証明だった。

「定ちゃん、あの子は?」

「野比のび太君。未来世界の西暦2000年に住んでる子で、私達から見たら孫世代の子だよ」

「ま、孫!?」

「だって、あの子の生まれた年は1988年だよ?私達に孫が出来るとしたら、それくらいだよ?」

「う、うん!?」

1920年代後半生まれ世代の孫世代は1979年からの15年間ほどに広く分布している。のび太はその後期の1988年の生まれ。下原らが60歳を迎える年である。なので、この時代はのび太の祖父母が子供、あるいは青年として生きているはずの時代なのだ。

「理屈はわかるけども!?いやいやいや!?」

「ジョゼ……。細かい事気にしてたら、負けだよ。うん」

「定ちゃん、何その諦めの顔は!?」

「だってあれ見てよ」

「ライトニングテリオス!!」

ライトニングボルトを超えるライトニングボルト『ライトニングテリオス』を放つ黒江。怪異のコアを極限まで爆縮した雷撃で粉砕する。この爆縮を単独で起こすのが『ライトニングインプロージョン』である。黒江の戦闘力は既に並のウィッチが努力だけで追いつけるものでは無くなっていた。

「何あれ……雷光?」

「先輩、普通にあれ出来るからね……。伝説通りだよ」

「まさか、扶桑海の伝説って本当だったの!?」

「うん。新兵だった頃は、坂本先輩達が新兵に気概を持たせるために作った作り話と思ってたけど、エクスカリバーやあれを見ちゃうとねぇ。おまけにのび太君は普通の小学生なのに、あの動きだよ?私達って……」

「あの子が異常なだけじゃ……。って言うか、中佐が強すぎるだけだって」

と、冷静にツッコミを入れるジョゼ。実際、幾多の修羅場を潜り抜けて来た二人(のび太も、生きるか死ぬかを幾度も経験した)は戦闘に必要な術を身に着けている。普段の運動神経や判断力の無さは吹き飛び、戦いの場では優秀な戦士になれる。それがのび太の親も知らぬ二面性である。そして。

「黒江さん、これを使え!智子さんからの事付だ!」

「サンキュー!『雷鳴を切り裂け、エンペラーソード!!』」

遅れてやって来た菅野が、智子が具現化させていたエンペラーソードを投げ渡す。智子はマジンエンペラーの力も奮えるようになったらしい。受け取り、構える黒江の姿は聖衣のヒロイックさも重なり、ファンタジーの『勇者』に見える。雷をバックに、エンペラーソードをロボットアニメでよく見るパースのように構える姿はとてもカッコイイのだが、扶桑文化を大事にする下原には『コレジャナイ』感のするモノだった。『伝説』とまで謳われていたのなら、ここは扶桑刀で決めて欲しい。そう思う下原だった。



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