外伝その93『太陽戦隊サンバルカン!』


――グレートヤマトで基地に帰還した黒江達。それから間もなく、のび太と話す内に、B世界のことに言及する。

「B世界の私は女々しくてなぁ。前史で圧倒してやったら泣かれてよ。ほんと、やりにくかったぜ」

「中佐の素がそれなんじゃ?今の性格は色々あってのことだし」

「そうなんだよな。最後に女言葉を普段に使ったの、いつか覚えてねーんだよな、こっちだと。今じゃ仕事以外じゃ使わねーしな」

「なるほど。よく、泊まりましたね、Gヤマト」

「泊まってる側は日が入らなくなったから、ミーナの胃袋が増量だな、こりゃ」

黒江とのび太が話してるのは、Gヤマトが基地本部塔の真ん前に停泊したので、その側は日が差さなくなった事を指している。更に、スーパーバルカンベースと繋がったため、今回もミーナは胃袋に負担がかかる。もっとも、日を遮らないように、沖田十三が気を使ったので、そのあたりが救いか。

「さて、スーパーバルカンベースに行くか?サファリのカレー久しぶりに食いてぇし」

「どこからです?」

「ここからだ。工事の時に嵐山長官や鉄山将軍に頼んで、移動用の鉄道のホームへのエベレータを作ってもらったんだ、今回は」

「職権乱用ですよ?」

「緊急連絡用って名目で、士官以上の私室にはつけてもらった。前回は連絡通路が遠かったしな」

「お、ついたついた。始動っと」

二人は、エベレータで連絡用の鉄道へ乗り込み、それを始動させる。バルカンベースへの所要時間はおおよそ10分ほど。これは普段は深海に潜ませているのと、探知を不能にさせるために海底トンネルを通っているからである。終点のホームからは近く、食堂はエベレータ直通であった。

――スーパーバルカンベース――

「お、来たね」

嵐山長官が出迎えた。スナックサファリは今生でも健在。バルパンサーこと豹朝夫が相変わらず、カレーを食いまくっている。

「お、綾ちゃんじゃないの。おれ、長官の新カレーレシピの試食してるところ」

朝夫は1980年当時から来ているため、現役当時の若々しい容貌である。彼は戦隊イエローの類形の一つ『カレー好き』に当てはまる数少ないイエローである。ちなみにカレー好きともなると、実はゴレンジャーの大岩大太と、朝夫、ジェットマンの大石雷太のみであるのは知られておらず、イエローフォー(バイオマン)、イエローマスク(マスクマン)、ファイブイエロー(ファイブマン)などの女性イエローは憤慨している。

「どうっすか?」

「今回はスパイス効いてるけど、子供にも食べやすいよ」

と、評論する朝夫。サンバルカンはイーグルこと飛羽が黒江と智子の剣の師の一人であるため、付き合いが深い。その関係で、黒江達に最も協力してくれる戦隊の一つとなっている。

「お、綾ちゃん。君も食べに来たのか」

「力さん」

炎力=レッドターボがサファリに顔を出した。ターボレンジャーは現役時に高校生であったため、黒江達と話が合い、協力関係にある。スーパー戦隊は各戦隊の思惑と都合もあるため、立ち位置的な意味で、黒江達と必ずしも協力関係にあるとは言えないが、明確に、いくつかの戦隊はウィッチ達との縁により、共闘関係にある。黒江&智子とサンバルカン、ターボレンジャー、圭子とマスクマン、武子とライブマンのように。なお、サンバルカンに付随する形で、電撃戦隊チェンジマンとも共闘関係にある。

「長官、この子達にカレー頼んます」

「分かった」

力がカレーを注文する。サファリと言えばカレー。これはサンバルカンの後輩戦隊も知る周知の事実。ここに来ると、必ずカレーだ。なお、カウンター席の一つは黒江達の言伝で薔薇乙女化し易いミーナの予約席である。

「力さん、今日はどこに行ってたんすか?」

「太平洋だ。ジオンの潜水艦隊が動いているって情報が入ったから、ライブマンと共同で調べていたんだが、耳よりな情報を手に入れた」

「どんな?」

「こっちで言うミクロネシアの辺りに、人工島を作り、そこを拠点にしている。ティターンズとの共同基地らしい」

「人工島?」

「ここではミクロネシアに島が殆ど無い代わりに、南洋島があるだろう?橋頭堡代わりに作ったんだろう。日本の左翼も相当に資金援助したらしく、そっち系の連中の金がジオンとティターンズに流れてる」

「アホか!?よくティターンズがジオンと同居しますね」

「組織の理念なんて、残党になったらどうでも良いって事だろうね。共通目的があるから、同盟してるんだし」

炎力は暴魔百族との戦いを経て、それなりの軍事的知識が身についたらしく、橋頭堡という言葉を使った。流れ暴魔などの事もあったため、第三勢力の介入には慣れっこである。(彼らは高校を卒業した1990年から来ているので、次代の戦隊である地球戦隊ファイブマンと同時代の人間である)

「彼らにとっての第一目的は、南洋島の豊富な資源だ。俺達から見れば45年前に当たる、太平洋戦争の日本軍もそうだけど、資源がないと、国が回らないし、軍隊も動かせない。南洋島さえ占領してしまえば、日本列島は早々に干上がる。飢餓作戦を相当に勉強しているよ、奴等は」

「南洋島の資源さえ奪えば、資源がない日本列島とウラジオストクしか無いですからね、ウチの国」

近代戦争の戦争資源の大半を南洋島に依存する扶桑皇国は、通商破壊戦においては不利な条件に置かれている。加えて、潜水艦による攻撃を殆ど想定していないのもあり、対潜哨戒機『東海』はまともな機数が配備されていない有様。急いで同機を大量生産したいが、扶桑海軍上層部の楽観と無理解で生産が遅れていた。そのため、史実の飢餓作戦の結果と、この時期、既に生じていた疎開船の被害を以て、山本五十六は上層部の者たちを恫喝した。この心労が山本の寿命を縮めたのは間違いないだろう。

「扶桑海軍は人同士の戦争でのシーレーン防衛というのを理解してない。あれじゃ、開戦したらどうなることやら」

「めちゃんこにされるでしょーね」

「それを守るのが俺達の役目だからね。それじゃ、次のパトロールがあるから」

「気をつけて」

「ああ」

サムズアップし、力は格納庫へ向かっていった。このように、スーパー戦隊は事態の悪化を防ぐための行動を取っているのだ。もっとも、サハリン含めて石油と天然ガスは確保出来るのだが、サハリンあたりからの確保はロシアや日本左派の妨害に遭う可能性が高い。サハリンなどの史実ロシア領地域からの原油/天然ガスはリスクが高く、増産は最後の手段だ。この1945年はクーデター事件も控えているため、サハリン油田などの今すぐの増産ははっきり言って無謀に近く、増産は1948年以後にずれ込むのだった。


「力さん達も大変だなぁ」

「これからがウチの改革だからな。それまでは銀河連邦や地球連邦にシーレーン防衛を頼まないといかん。それに、秋にはクーデター事件も控えてる。それを経て、新憲法だ。そうなると文民統制の時代になるから、皇室軍人の扱いが面倒なんだよ。元上官の参謀を説得しないと」

文民統制に伴い、皇室軍人は皇室の人間としての権利は軍に在籍中の間は停止される予定だが、黒江が説得させないとならない壁がある。他ならぬ、江藤だ。江藤は事変で扶桑の議会に強い不信感を持っており、政治家を『水商売』と公言して憚らない、東條英機と似たような『昔気質』の職業軍人だ。二つの軍隊で『シビリアン・コントロール』を叩き込まれた黒江はいいが、江藤は生え抜きの扶桑軍人である。皇室から国家緊急権を奪うのを最も反対し、議会と内閣に統帥権を与えるのを『水商売の連中に国家の一大事をやらせるのか!』と、前史では、吉田茂の要請で説得に訪れた黒江を逆に怒鳴るほど、大いに憤慨している。流石の黒江も、単独では無理と悟り、説得を外部に委託。前史では、吉田茂と鳩山一郎の両巨頭に江藤を説得してもらった。江藤も両巨頭の前ではおとなしくなったが、国家緊急権を内閣に与えるのだけは、扶桑海のクーデターを理由に譲らず、その折衷案を飲ましたという経緯がある。そのため、前史で江藤が飲ました案を採用し、今回は皇室軍人の伏見宮博恭王から『これで妥協せよ』と説得してもらう事となった。これは、前史での両巨頭を前にしても一歩も引かずに渡り合った江藤の豪胆さを計算した元首相の米内光政と岡田啓介の発案である。

「吉田と鳩山さんを呼んでも、中々首を縦に振らないんでしょ?その参謀」

「元上官だよ。扶桑海の時の経緯もあって、政治不信でな。『あん時はすんげ怒鳴られた』から、今回は米内さんや岡田のじー様に助言求めたよ。そうしたら『伏見宮様でも呼んだらどうだ』ってアドバイスもらった。フジに電話して、伏見宮邸にいってもらって、約束を取り付けてもらったよ」

のび太に言う。武子に頼んで、伏見宮の殿下に約束を取り付けてもらったと。江藤が唯一従う『権威』は皇族である。ならば皇族に説得してもらう。これは米内や岡田でなくても思いつくが、二人の人脈で伏見宮を引っ張り出すのに成功した。江藤が休暇で自宅に戻るタイミングを見計らい、伏見宮殿下が訪問する。超大物である。江藤も流石にビビるだろうと黒江は予測していた。元部下である以上、江藤が黒江の言動を予測するように、黒江も江藤の行動パターンを読んでいた。江藤がいつ、自宅兼店舗で使うコーヒー豆を仕入れに行くか、どの時間に店が空いているか。その事項を熟知していた。伏見宮へそれを伝えてもらった。

「宮様を引っ張り出す、ねぇ。岡田啓介元総理のアイデアにしては大胆ですね」

「だろ?私が言っても、隊長には頭あがんね―し、前史で『すんげ怒鳴られたんだもーん』」

「そこが重要なんですね…」

言い訳は子供じみているが、その通りである。前史では、額に青筋立てるほど江藤が怒り、『お前は私に、水商売の連中が国家の一大事を決めるのを容認しろと言うのか!?』と怒鳴り、黒江は恐怖で涙目になっている。その事もあり、今回は伏見宮に丸投げするつもりだった。江藤は反骨精神の塊であり、前史では、空軍司令としての答弁も政治家不信がにじみ出るものだった。その記憶があるため、黒江は江藤の説得を難事だと思っているのが分かる。

「隊長は殿下に頼んだからいいけど、問題は山積なんだよなぁ」



――この時期、二度目においては、ロマーニャ軍は更に押されており、空軍はウィッチ部隊のみが稼働状態、海軍はタラント空襲で主力艦のほぼ全てが損傷するという有様。そのため、二度目に於いてのロマーニャ戦線は地球連邦軍とスーパー戦隊が維持している状態であり、連合軍はリベリオンという兵站基地が失われた事もあり、もはや形骸化していた。その兵站上の理由で、各地に散っていた統合戦闘航空団の一点集中が起こり、501の名のもとに集結させられたのだ。連戦連敗と、スーパーロボットなどの超兵器の活躍で、対人戦闘で見いだせるメリットの少ないウィッチ部隊の存続はかなり危ないところに来ていた。立場の喪失を恐れたウィッチ閥は、『現役に戻った伝説の三人』に兵科そのものの運命を託す事しか選択肢がなかった。それは当の三人には皮肉でしかない。『ウィッチであって、ウィッチではない』のもあって、三人はウィッチ閥に冷淡であり、いつしか、派閥の望んだ形の『ウィッチによる、ウィッチのためのウィッチ部隊』は存在しなくなる。これは三人の戦果が醸成した『ウィッチ万能論』を彼女ら自身が葬り去るという、因果が回る結果となった。『ウィッチも軍の一兵科である』とする論理を主張した黒江はこう纏め、総括している。

『ウィッチだけ居たって軍隊は回らねーんだよ、大体な、ウィッチは騎馬隊に対する長槍兵みたいなネウロイ特化の対抗兵科として生まれたんだぞ。軍の戦う相手が軍隊なら、ウィッチの仕事が無くなるのはとーぜんだろ』と。黒江はその言葉の通り、航空パイロットを兼任し、それでも戦果を挙げている。その事もあり、ウィッチ部隊でも『通常兵器運用部門』を持つのが当たり前となる。501は、後の『64F』のテストケースでもあったので、通常兵器運用部門は模索の段階だったが、ちゃんと存在し、レイブンズがその責任者を兼ねている。格納庫もそれ専用の施設があり、『対人戦闘に備えるための武器庫』を初めて備えている。また、各組織との連携の必要上、PCを始めとする電子機器の講習なども行われる事になっている。情報端末や携帯電話も普段の連絡用に持たせられる。また、月曜日から金曜まではびっちり講義と訓練、土日は休養日となっていたりする。慰問映画会は智子と圭子が取り仕切っている(黒々コンビではアクション映画なりSF、ホラーに偏るし、リベリオン組は西部劇やヒーロー物になる)。土曜に開催となり、視聴覚室での上映となった。(ホームシアターを映すので)

「確かタイムテレビで見たら、秋にはクーデター、次の年の夏には芳佳さんの留学取り消し、その冬に開戦でしたっけ」

「ああ。留学取り消しでバルクホルンがウチの軍医学校に怒鳴り込むから、事後処理が大変だった。確かに召還が無理矢理だったし」


芳佳の留学取り消しは無理矢理感の強いモノで、カールスラントから公式に扶桑に抗議が行くほどの大事になってしまい、扶桑軍が慌てて声明を出す事態となるのだ。ただし、前回はゴッドマジンガーが介入したが、今回はマジンカイザーになるだろう。

「でも、色々変わりそうですよ?」

「前回の時のゴッドはZERO対策で使えんだろうから、カイザーだろーな。スペックは互角だし」

芳佳の留学事件で介入するマジンガーがゴッドマジンガーでなく、マジンカイザーになるであろう事を予測する黒江。マジンカイザーであっても、甲児を無敵たらしめるマジンガーであるので、それは問題はない。

「Zちゃんの生まれが早まるかもな。今連れてきたのは、チームTとチームGが中心で、Zちゃんはいないし」

「ああ、あの子ですか」

「さやかさんの外見とZEROのデフォルメされた性格持ちだから、ギャグキャラだけどな。そう言えば、思い出した。さやかさんがMA計画を立ててるけど、戦力になると思うか?」

「よっぽど魔改造しないと無理ですよ。レディーロボットって非力だし。ロボットジュニアやボスボロットよりマシな程度だし。元が」

のび太はレディーロボットが非力であるのをアニメで死ぬほど見たためか、レディーロボットのパワーアップ計画『マジンガーエンジェル計画』には辛辣だった。だが、当のさやか、ひかる、ジュンにとっては切実で、甲児や鉄也、デュークがZEROを倒すためにどんどんパワーアップしているのに、レディーロボットは二線級戦力扱いで、ロンド・ベルにも同行させてもらえないのだ。その戦力差は容易に埋められないため、野中博士の腕前次第だろう。

「って、朝夫さん。さっきから6杯食ってません?」

「いつ出撃があるか分からないしさ、こういう時に栄養蓄えておくもんだよ」

と、カレー好きの証明を示していたバルパンサーこと、豹朝夫。そんな彼らに出撃命令が放送で下る。

「ひょ!?出撃だ!」

「あ、カレーは?」

「君達が食べといてくれ!……バル!パンサー!」

そのままバルパンサーに変身し、食堂のダストシュートから格納庫へ向かっていった。

「ダストシュートついてたんすね、長官」

「ああ。緊急用だけどね。我々が処理するから、心配しないでいい。友達でも呼んで、余ったカレーを処理してくれんかね?作りすぎた」

「長官……。電話はあります?」

「そこの壁に連絡用の内線電話がある。好きに使い給え」

「あんがとっす」

「シャーリーか?非番の奴等をバルカンベースまで連れてきてくれ。サンバルカンが出撃したんで、嵐山長官の試作のカレーが余ってしょうがないそうだ」

「手当たり次第に誘ってみますぜ。それじゃ」

「分かった。バルカンベースの食堂で待つ」

と、言うことで、シャーリーの誘いに乗った者達が食堂に集まった。食にうるさいアンジー、芳佳にホイホイついてきたトゥルーデ、それに付きそうリーネ、サファリカレーに興味津々の下原、ジョゼなどがメンバーだった。

「お、来たね」

『お世話になります』

初対面の者も多いのと、嵐山は地球平和守備隊(連邦軍の前身の一つ)の高官で、将官である事を鑑み、形式上であるが、敬礼をする。嵐山もエプロン姿ながら、見事な答礼を見せた。嵐山長官はサングラスをしている事が多いので、この時もそうだった。アンバランスだが、妙な迫力があった。

「君たちには、私の作ったこのカレーの試食を頼みたい。個人的に料理は好きでね……」

話し始めると、引き込まれるような、軽妙なトークを見せる嵐山。子どもたちに優しく、仕事上でも人心掌握術は上官の鉄山からも評価されている。

「三日ほどかけてカレールーを作ったり、手間をかけるが、美味しいと自負している。ささ、調理風景を見せよう」

嵐山は話術もさることながら、料理も偽装を兼ねているとは言え、プロ級の腕前である。こだわりぬいた食材とスパイスの組み合わせは無限大。ブレンドしてから炒りして、煮込み終わった材料に絡めるわけだが、この時代には発見されていないスパイスもあり、料理担当の下原や芳佳、リーネは興味津々で聞いている。真美はあいにく、非番ではないので同席していない。

「カレーの真髄とはだね……」

カレーについて、熱く語る嵐山長官。すっかり料理人である。その一方で、ブラックマグマを倒した優秀な指揮官である。そのギャップも彼の魅力である。

「バルクホルン、どうした?」

「いえ、この方がとても……」

「優秀な軍人に見えないって?いいか?オンオフのスイッチをはっきりさせてこそ、公私が分けられるってもんだ。お前は生真面目だが、公私を明確にしろ。ユーモアを勉強しろ、とは言わんが、宮藤に好かれたいんなら、もう少し柔らかく物事を見ろよ?」

「は、はぁ……ってな、なにを…」

「これは彼の作戦書だ。見てみろ」

「失礼して……。こ、これは……」

作戦書は綿密なモノで、ウィッチ世界からは考えられないほどに高度な内容であった。諸兵科連合、エアランドバトルなど。攻撃タイミングと兵力投入タイミングを英語でびっちり書かれていた。嵐山の綿密な性格が滲むものだ。

「現在進行系で採用されている彼の作戦だ。脆弱なロマーニャ軍中心の戦力が持ちこたえてる理由だよ」

黒江は嵐山を尊敬している。脆弱なイタリア軍中心の戦力で戦線を維持している大戦略。対戦車トーチカや、対空戦力の配置など、この世界の軍人から見れば、不必要なほどに綿密な戦略に舌打ちされた作戦であった。バルクホルンは思わず唸った。

「うーむ……」

「多少の戦力の質の差は巧みな軍略でカバー出来る。モンティみてーに戦力差に拘っていても勝てないんだ、実際の戦争は。士気高揚も重要な要素だ。だから、部隊の特性を押さえた作戦を立てて、ロマーニャなら陸戦ウィッチのそばに配置して士気高揚とか、戦線突破された際の対処まで考えられてる。あの人は時代が時代なら、何万の軍隊を率いる事が出来る逸材さ」

嵐山は生まれる時代がもう20年か30年は早ければ、帝国陸軍きっての俊英になりえた逸材である。鉄山もそうだが、スーパー戦隊初期の司令官は『実際の戦争でも戦略家として名を馳せられたであろう逸材』が多い。

「なるほど」

「ロマーニャの最前線に行ってみろ。地獄だぞ。相手方の圧倒的な火力で心が折れそうになるぞ。まさにプライベート・ライアンだ」

「向こうの世界でのノルマンディー作戦の映画ですか……」

「奴等の戦車は、質は大した事はないが、数が多い。如何にティーガーでも、一両で12両までは捌ききれん。車長が全員、ヴィットマンやカリウスってわけじゃないしな」

「陸戦ウィッチにいますね、そんな名のエースが。そうか、大抵の場合は戦車のエースか」

「そうだ。一騎当千だが、そいつらみたいな圧倒的に強い車長はこの世界にゃいない。戦車戦自体、ミッド動乱が初めてだしな」

「リベリオンはそこまでの戦力を?」

「畑から兵士を『収穫』してたソ連ほどじゃないが、戦車の物量だけでもロマーニャ軍の10倍から100倍は数ヶ月で用意できる。それが強みだ。幸い、リベリオンの合理主義で重戦車を嫌ってるから、そこがつけ入る隙だ」

リベリオン軍はアメリカ軍の同位体であるので、ドクトリンも似たようなものだ。当時最新のM4中戦車に惚れ込み、その物量でローラー作戦をするのが常態であった。そこに勝機を見出した連合軍は当時最新の重戦車である『ケーニッヒティーガー』を部隊使用許可を制式化を待たずに投入。一両あたり20両のキルレシオを記録していた。もちろん、これはMBTである『センチュリオン』や『レオパルト』、『74式戦車』までの場繋ぎだ。ティーガーUはAPDSとAPFSDSがない戦場では無敵の重戦車である。その証明のように、史実でティーガーTが記録した神話の多くは、この世界においてはケーニッヒのモノとなっている。

「ティーガー系のような重戦車を?どうしてですか?」

「あいつらは『一の強力で高価な戦車よりも、百の廉価な平均的な戦車を持ったほうが安上がり』なんて考えてるんだよ。兵隊の命なんて統計上の数字でしかない」

「ひどい考えだ」

「合理主義も行き過ぎると、ろくな結果にならんって事だ。マスコミに嗅ぎつけられてスキャンダルになった途端、慌ててM26重戦車を採用したって逸話が言い伝えられてる。この世界でも、それは遅かれ早かれ現れるだろう。史実だと、もう試作品はできてるはずだ」

「どうして採用してなかったのですか?」

「史実だと、重戦車に重戦車で対抗するのは米軍の教義に反していた、ティーガーの生産数を少なく見積もっていた、絶対的制空権を持ってたからだ。この世界だと、制空権は当てはまらん。最後の理由も怪異への対抗の目的で当てはまらない。戦車駆逐車隊の仕事の維持のためだな、多分」

「戦車駆逐車?」

「扶桑でいう砲戦車、カールスラントの駆逐戦車みたいな車種だ。それの仕事のために犠牲になる兵隊はたまったもんじゃねーが」

戦車駆逐車はこの時期のリベリオン本国/亡命軍の双方に見られた戦闘車両である。軽装甲/高火力のトレードオフであり、重戦車が機動力を持てば消え行く宿命の車両だ。実際、それらの中で最も高火力のM36でもケーニッヒティーガーは貫けず、その陳腐化を身を以て示した。近い内に『M26が採用されれば、戦車駆逐車は用無しになる』というのは、高火力と引き換えの軽装甲が割に合わなくなったからである。

「そのM26重戦車が来れば、こっちのティーガーも直に旧式になる。そうなれば、主力戦車に代替わりだ」

「それにはどのくらいの期間が?」

「恐らく、一年から一年半だろう」

「長官」

「アメリカ軍の陸軍管理本部のドクトリンはかなり強固だ。10万単位の犠牲で、センセーショナルな報道をされない限り、M26系は採用されんだろう。史実からして、グダグダだからな」

嵐山が話に加わってきた。彼の言う通り、M26の採用にはかなりのグダグダな経緯がある。『バルジの戦いで新型重戦車に蹂躙された!』とのセンセーショナルな報道と兵器局長の恫喝でようやく採用されたが、配備は終戦間近だったというモノだ。それが、『ケーニッヒティーガーの重装甲に対抗出来る戦闘車両は一年以上は現れない』という予測に繋がっている。実際、これはティターンズ/ジオンやそのシンパに事実上なっている日本の左派/反戦自衛官らも手を焼いていた。彼らはM26系がM60にまで発達するのを知っており、陸軍管理本部に採用を迫ったが、管理本部は『遭遇する敵戦車のほとんどは脆弱なロマーニャか旧式のV号やW号、せいぜいマチルダで、M4中戦車で対抗不能な戦車は少数のはず。仮にあっても76.2ミリ砲装備のM4中戦車で充分で、そんな例外的事例のためにわざわざ対戦車戦闘向けの重戦車なんか作れるかつーの!第一、対戦車兵のほうが怖いわ!!』と拒否し続けている。が、実際に対峙した戦車は遥かに強力なケーニッヒティーガー、パンターを中心にした強力な戦車であり、更にはセンチュリオンの配備も間近との凶報まで入っていた。流石に、センチュリオン配備の情報を聞いては、ティターンズとネオ・ジオンも陸軍管理本部を恫喝せざるを得なくなった。このような経緯で、リベリオン本国は『T26重戦車』をM26として緊急採用。ロマーニャ戦線にその際の試作品である30両が空輸されていた。

「敵はM26をそろそろ配備しだすだろう。そのために、こちらのティーガーをケーニッヒ型にしたのだ。あれならば、M26であろうと正面撃破は不可能だ」

「そろそろとは?」

「本国の新聞紙はスキャンダル的にロマーニャ戦線での体たらくを報じている。それと、仮面ライダー達が入手した会話情報を書き起こしたメモが次のページに書いてあるよ」

「本当だ」

―二人が見たそのページの概要はこのようなものだ―

『90mm砲以上積んだ戦車、作れ。でないと機甲戦力擂り潰されるぞ?』

『そんなデカイ大砲積んだら機動戦出来ないじゃないか!』

『お宅は無知か、それそも馬鹿かね?ブリタニアがやらかしとるぞ?』

「ウヘェ……嘘だろ……」

ジオンとティターンズはセンチュリオンの資料を掲示し、陸軍管理本部をこのように恫喝した。管理本部もこの『スキャンダル』で国民から罵倒されるのに怯えだした。ブリタニアの新型巡航戦車『センチュリオン』は当時の水準から見たら『高性能戦車』そのものであり、当時の主力であるシャーマン戦車をあらゆる諸元で圧倒している。そうなれば、制空権を確保しない限り、機甲戦力は無力化する。(彼らも予測していないのは、そのセンチュリオンの主砲は最初から『105ミリライフル砲』であったという点だろう)その恐怖がM26の試験に繋がったが、既に連合はセンチュリオンの史実最末期型相当をそれまでの旧式巡航戦車『チャレンジャー巡航戦車』に変わる形で配備しだしていた。

「センチュリオンを最初から最末期型で配備させた。M26が来ようとも、余裕で撃退できる」

「L7砲を?よく作れましたね?」

「20ポンド砲の改良で済むから、数ヶ月で出来上がった。弾の製造が軌道に乗った段階で車両の配備を承認させてあるから、撃ちまくっても問題はない。車体はコメット巡航戦車を中断させてまで、早くした」

コメットの方が試作品も出来上がっているなど、開発状況で先行していたが、性能的陳腐化が早晩に訪れる(鉄道輸送のため、ブリタニア製戦車に課せられた車幅制限に適合するようにした)事から、センチュリオンにそのリソースをつぎ込み、早期に完成させる事に成功した。その甲斐あり、ブリタニアの戦車隊は一躍脚光を浴びる事となった。

「それでコメットは?」

「コンコルド錯誤の要領で、試作品の30両は本国の師団が教育用に受領したそうな」

「なるほど」

――センチュリオンの配備は、主にローマの守備師団であるが、一部は進出した師団にも出回っており、その快速で戦車エースも輩出している。戦線では、連合軍では最右翼に属する車両であるのもあり、史実と正反対に、第二次大戦前中期世代の戦闘車両を圧倒していた。501の司令室でその報を見たミーナは憂いのため息をついていた。

「エーリカ、これが世界のあるべき姿だというの?」

「そうさ。これが本当の戦争だよ。血で血を洗う。向こうの一次大戦と二次大戦を思えば、局地戦で済んでる分、マシってもんだよ。ロマーニャは」

ハルトマンはグランウィッチであるため、このようなところで『大人としての割り切り』を見せる。刀の帯刀、携帯している銃がマグナム系の大型リボルバーであるのも、ハルトマンの『これまでとの違い』を際立たせていた。

「世界は確実に未来世界の方向に『向かいつつあって』、私たちは『通常兵科の仕事もしなければ生き残れない』。この先に控えてる出来事から考えれば当然でしょうけど、頭で考えるのと、実際にやるのはワケが違うのよ、フラウ?」

「そんなの慣れだってば。あたしも、トゥルーデも、ハンナも慣れたよ。キレイ事ばかりで世界は守れないし、優しくもないし」

ハルトマンはミーナの『青臭さ』を歓迎してはいないが、『思い出の通り』であるのは安心はしていた。

「酒飲むと、平気で『ジャンクにするわよ?』とか、『乳酸菌取ってるぅ?』なーんて言ってるくせに」

「あれは無し!無しにして!記憶ないのよ、本当に!」

「ったく、あれ怖い!って、中佐たちもブルってるんだから」

「あぁ〜!本当に記憶ないってばぁ……」

ミーナは比較的酒に弱く、強い酒に当たると、泥酔して『薔薇乙女モード』になってしまう。そうなると、レイブンズも恐れるほどに妖艶かつ怖さを感じさせる言動と態度を見せ、コスプレ衣装を着たら『薔薇乙女』そのままである。(最も、ハルトマンも『薔薇乙女』の一体と声が似ているのを、黒江達にネタにされているし、ペリーヌも主人公格の薔薇乙女と声が良く似ている)

(まぁ、あたしも『うにゅ〜』とか言ってるから、お相子なんだけど、ミーナは顕著に出るからな。あ、そうだ。シャーリーはISとかの時に熱くなると、『弾けろぉぉ!』とか、『終わりだぁああ!』とか言い出すんだった。ありゃコードギ○スだよな…)

シャーリーはハイテンションになると、コードギ○スが入るのか、熱い台詞の宝庫である。黒江からは『エウ○カセブンじゃないんだな』と大笑いされており、シャーリーも『あれじゃキ○ガイじみてるだろ〜』と軽く流している。楽しんでいる面はあるが、半分は本気である。その事からもシャーリーは、転生後は黒江から冗談めかして、『アメリカ人になった紅月カ○ン(バージョンスパ○ボ)』の渾名で呼ばれていたりする。他にも、ルッキーニはエクレウスの聖闘士になる未来が控えているなど、未来の予定が詰まっている者は多い。なお、芳佳は転生後、皆の『プリ○ュア?』というカタイ予想を覆して、戦車道世界にいる角谷杏寄りのサバサバした面を持つようになっている。その影響か、胆力や交渉力が黒江も目を見張るほどに成長していた。その証拠に、黒江が要望していた『プルトニウス初期生産機の早期配備』を取り付けて来るなど、明らかに芳佳の本来の性格では考えられないほどの交渉力である。本人曰く、『軍医だし、引退しても家の切り盛りしてたし、交渉力ないと、いい薬とか買えませんよ』との事である。それと転生者達の中では、菅野、黒田と同じく、『戦後に自分の子を設けた』経験があるのも大きかった。

「本当、世の中どうなってるのかしら?」

ミーナがぼやいているのは、情報端末越しに見る、サンバルカンの勇姿だ。

『輝け!!太陽戦隊!サン!バルカン!!』

と、名乗りを決めるサンバルカン。欧州人から見れば、大昔の時代に扶桑で行われていた行為でしかないが、妙な迫力がある。それでいて、圧倒的に強いため、スーパーヒーローには参るらしい。

「スーパーヒーローの事は、深く考えたら負けだってば。サンバルカンは三人で世界征服企んだ組織をぶっ倒してるし、歴代仮面ライダーは代々、組織をほぼ独力で倒してきてるんだよ?」

「……」

額を抑えて、考え込むミーナ。しかしながら、中には世界のゲテモノ忍者相手に戦ってきた『磁雷矢』、サイボーグになってバイオロンを殲滅した機動刑事ジバン、旧帝国陸軍の忘れ形見『超人機メタルダー』もいる。銀河連邦には三大宇宙刑事も控えている。それを考えれば、彼らに頼るのは当然の流れと言える。ウィッチとしての矜持に拘って、破滅しかけるのは前史で懲りた事だ。


「ウィッチとしての矜持、か」

「え?」

「前史で美緒や多くのウィッチがこだわり、時には破滅を招いた考え……。今回は彼らに頼っていいのかもしれない。そう思ったのよ」

ハルトマンには、この時、ミーナの前史での最終的な容姿が今の姿に被って見えた。錯覚かも知れないが、ハルトマンにはそう見えた。それはミーナが前史を知った故に起こった現象かも知れない。

「単純に頼るだけじゃなくて、鍛えてもらったら?よかったら、私のツテで……」

「いいの?」

「他力本願はあの人たちの嫌うところだしね。とりあえず、ランニングから始めな」

サンバルカンの戦いを目にしつつ、ミーナは前史では踏み出せなかった道を歩み出す。それは坂本が望んだ道でもある。前史で自分が先に亡くなった事への償いも兼ねていたかも知れない。サンバルカンの勇姿は、ミーナに新たな道を示したのであった。




――ロボットガールズは前史でのパワーアップを引き継いでいたため、ガイちゃんは当初からトリプルガイちゃんであるし、ゲッちゃんは真ゲッターモードを持つ。記憶も引き継いでいたため、当初からウィッチたちと協力関係にあった。中には、その力に加え、ゼウスから『聖剣』を与えられていた者もおり、ガイちゃんは『デュランダル』をゼウスから与えられていた。

「へへーんだ!今回のあたしはデュランダル持ってるもんね〜!」

ガイちゃんは今回、その右腕に聖剣デュランダルを宿している。ゼウスがその目的のもとに、手当たり次第に与えた聖剣の一つだ。ゼウス曰く、『グレちゃんにはグラムを与えてある』との事。

「お前ら、今回はどすんの?」

「あんた達に協力しますわ。これも何かの縁ですもの」

「ストナーサンシャインは撃てるようになったのか?」

「し、集中すればなんとか……」

菅野のツッコミにタジタジのゲッちゃん。元々がゲッタードラゴンであるので、真ゲッターの技を放つには相当な鍛錬を必要とする。圭子が素で放てるのと比べると劣るが、そのあたりはゲッちゃんの訓練不足である。ゲッちゃんはその点で圭子にライバル意識を持っている。(ゲッタードラゴンの化身なので、真ゲッターの技を使うにはハードルが高い)

「でも、シャインスパークは連打出来るようになりましたわ、三発で息切れしますけど…」

「ツインバスターライフルじゃあるまいし。真シャインくらい会得しろよ!」

「あれはすっごくゲッター線と体力を使うんですのよ!?今の私では……」

ゲッちゃんはゲッター線の力を充分には引き出せていないため、ストナーサンシャイン一発とシャインスパーク三発がトレードオフの関係にある。その更に上位技『真シャインスパーク』は今のゲッちゃんでは、超高密度ゲッターエネルギーの制御が覚束ないため、ゲッターシャインすらできない。

「ライガを見ろ!真マッハスペシャルからのミラージュドリル撃てるんだぞ!」

「ら、ライガはゲッター2系ですし……」

菅野に痛いところを突かれ、涙目のゲッちゃん。ポンちゃんもそうだが、他のゲッターの力も手にしたため、豊富な攻撃手段があるが、ゲッちゃんは真ゲッター1の力を中途半端に持っている状態なので、そこがコンプレックスであった。

「へー、そなの。なら、代わりにソードトマホーク特訓ね、ゲっちゃん〜」

「へ、へ!?こ、今回は號にやらせれば……」

「だぁーめ。あんたそうやって特訓サボるでしょー?」

「あぁ――〜……誰かいないの〜!?」

「ここにゃ竜馬さんも隼人さんもいないわよ」

「い、いやぁ〜〜!」

と、智子に連れ去られるゲッちゃん。それを尻目に、ポンちゃんは。

「い、いやったで――!赤ヘ○軍団は今回も健在や!!」

と、情報端末の野球の試合結果に狂喜する。その試合は対タイ○ース戦なので、当然ながら、今頃、自室で不機嫌になっているフェイトの姿が目に浮かぶ菅野。そのフェイトは。

「くそ!!なんであそこでカーブ投げるかなー!?」

と、不機嫌になり、鉛筆をポキポキ折るフェイト。フェイトは大人になり、聖闘士に任じられてからは、贔屓の球団がボロ負けして不機嫌になると、何かと鉛筆をポキンとへし折る癖がある。この日は逆転サヨナラ満塁ホームランで負けたため、特に荒れていた。この野球狂いとも言える側面はA世界特有のもので、Bからは思い切り引かれている。23世紀初頭の時点では、両球団は『どっちかが勝てば、どっちかがボロ負けする』という奇妙な因果関係となっており、皆はそれを機嫌の指標にしていた。なお、鉛筆は特に何かに使うわけではなく、イライラ解消の道具の一つとして持っているだけだ。

「ん?Bからメール?なんだ、こんな時に……」

別の自分自身からのメールにも、これである。メールを送ったBの方は、別れ際の際のあの模擬戦のことを回想しており、その際にAが放ったライトニングプラズマをまともに食らった事がよほど印象に残ったのか、ライトニングプラズマのような光速の攻撃を見切りたいと思っている。フェイトは高速の機動を売りにしていたが、それを超越したセブンセンシズの産物であるライトニングプラズマ(現在はフレイムを習得した)は、いくら真ソニックフォームになったところで避けられるはずはない。

『見切れるか?私の光速の牙が!!』

『う、うわあああああっ!!』

真ソニックフォームのフェイトBがライトニングプラズマの猛攻で宙を舞う。拳をかざし、光を放つだけで微動だにしないA。その軌跡が当たっただけで大ダメージを蒙り、次の瞬間には気絶したB。その攻撃が何であるかを知るはやてB以外は皆、唖然としていた。

『ムウン!』

軌跡が止んだ時、フェイトBはバリアジャケットを破壊されて半裸にされており、無傷のAとは対照的だった。ちなみに俗に言う『御開帳』は後ろから抱きとめる事で阻止してはいるが、百合百合しい場面となった。

『これが、雷刃の獅子と呼ばれる私の力だ』

聖闘士としての二つ名をアピールしており、自分が聖闘士であることを明示する。


『あの時は何がなんだか分からない内にやられたんだよね。セブンセンシズって何なの?』

これはメールの一文だ。Bはセブンセンシズという言葉が分からずに困惑していた。真ソニックフォームですら避けられない攻撃がこの世にある事が悔しいらしい。最も、Aは更なる飛躍を遂げており、アーク放電すら自在に操り、超光速拳を繰り出せる。物理的速度を速めたところで、どうにかできるレベルではない。

「『可知や不可知を超えた感覚がセブンセンシズだ。更に先の感覚も存在しているのだ――』っと」

超光速はエイトセンシズ以降のセンシズに到達する事で起こる。つまり、フェイトAは冥界にいるであろう姉のアリシアに任意で会えるのだ。エイトセンシズ以降への到達は、阿頼耶識に目覚めることを意味するからだ。冥王ハーデスがその肉体を滅ぼされた事で、冥界は不安定化しており、死人が生き返ったところで咎める神はいない。ゼウスが先代黄金聖闘士の多くを使いっぱしりにしたので、フェイトAもアリシアの蘇生、あるいは転生を考えていた。転生が蘇生より楽なので、自身の実の娘として転生させる事を考えていた。それはここより数年後、Z神の許可を得、ヴィヴィオと同じ、オリヴィエのクローン素体をベースに憑依、転生。アリシアの蘇生は、公には『フェイトの養子』として転生する事で実現するのだった。また、それと同時期、黒江も不安定な次元の境界線に、敵のアナザーディメンションで飛ばされ、戦姫絶唱シンフォギアの世界に飛ばされてしまう。その世界に転移した際に、『月詠調』という少女の役目を負わされており、彼女の姿になっていた。仕方がなく、しばしの間は『月詠調』を演じたが、『風鳴翼』との対峙の際に素を出し、『エクスカリバー』を『シュルシャガナ』を纏った状態で披露したという。その時の光景の一部はこちら。


「ほう。これが天羽々斬、正確にはその破片ベースの刀か。ヒヨッコにしてはいい太刀筋だ」

「な……!?腕で天羽々斬を受けきったただと……!」

「ふふ、何を驚いているのだ?」

黒江は『月詠調』の役目を負わされたため、声や姿は彼女そのものへ変貌しているが、エクスカリバーとエア、それと姿が変わっただけであり、聖闘士としての能力そのものは健在である。仕事柄、演技力は高いため、知り合いにも違和感を感じさせないようには、月詠調という少女を演じていた。また、歌唱力が高かった事もあり、その世界の重要なモノたる『シンフォギア』の起動は問題なかったが、彼女自身がアテナの加護を得ていた都合上、『シュルシャガナ』とエアが共鳴を起こし、ギアの適合係数が『本来の調』より数段高い数値をマークしてしまったのだ。この結果が調の親友たる『暁切歌』に違和感を抱かせる要因となった。そのため、翼との対決を楽しんでから姿を消すという選択を取った。

「天羽々斬、か。ならば、私も見せよう!勝利を約定せし『聖剣』を!」

「聖剣だとぉ!?」

シュルシャガナを纏った状態で、黄金のオーラを身にまとい、その先が剣状になっているのを翼は目にした。更に風を巻き起こしていた。これがエクスカリバーなのだ。

『勝利を約定せし『聖剣』!!エクスカリバァ――ッ!!』

その瞬間、どこかで『エクスカリバーだとぉ!?』との叫びが木霊した。戦場に、当面の敵の『立花響』と『雪音クリス』の絶叫が響く。黒江は急所を外して、エクスカリバーを放った。手刀という名の衝撃波を。鎌鼬。そう呼ぶに相応しい衝撃波。目つきが普段のそれに戻っており、目つきが月詠調としての温和な目ではなく、山羊座の聖闘士としての殺気に満ちた目と化しており、周囲を畏怖させる。黒江はそのまま姿を消そうとする。素の言葉づかいを織り交ぜて。自分が『月詠調』ではない事を示すために

「あばよ。楽しかったぜ、嬢ちゃんたち」

光速で姿を消したため、誰も反応さえ出来なかった。レーダーにも反応をさせずに消える。


――この世界では破片という形でしか現存しない場合が多い聖遺物。その中でも、イギリスの王権のシンボルとされる『エクスカリバー』は、現存する可能性が低い伝説の代物である。黒江は謎を残して、その場から姿を晦ました。ギアに頼らずとも、素でギアの限定解除をも超越した戦闘能力がある(超光速、神をも屠る力など)ため、シュルシャガナの車輪は使わず、小宇宙での徒歩移動を行っている。(なお、黒江が聖詠を行い、ギアで戦闘する場合、その際の唄も本来の『鏖鋸・シュルシャガナ』ではなく、本来ならば、調当人がこの先の時間軸で唄うはずの『ジェノサイドソウ・ヘヴン』になっているなどの差がある。

(はぁ。ギアそのまま持ち出して来ちまったよ。私ならLiNKER無しにギアで無制限に活動できるが、それなら完全聖遺物に分類されるだろう聖衣があるし、ギア使うメリット無いんだよな。第一、鋸は性に合わんし)

シュルシャガナは黒江の戦闘スタイルには合わない。素でそれ以上の切れ味のエクスカリバーやライトニングクラウンを撃てるため、頼る必要がないのだ。しかし、元の姿を『喪失』している以上、聖衣を呼び出せるか確証はなく、他の奏者などからの護身も兼ねて、ギアを発動させた状態で行動するのだった。(他の奏者をまとめて一蹴できる戦闘能力故、その状態でコスプレ喫茶でバイトして金を稼ぎ、そのままコンビニに行く余裕ぶりであったという。)

――詳しくは別の機会に語るが、その珍道中で持ち出した『シュルシャガナ』はそのまま黒江が調の姿のまま、ウィッチ世界に持ち帰り、時空管理局に解析を依頼。それを受けた後、そのまま手元に置く事になるのだった――



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