外伝その92『攻防戦3〜Gヤマト〜』


――アースと呼ばれし地球を守護してきた宇宙戦艦ヤマト。大和型戦艦の後裔にして、地球最強の宇宙戦艦。その最終形態が『宇宙戦艦Gヤマト』である。大ヤマトがハーロックの時代に改装され、その時代の第一級艦として、第二の新生を遂げた姿である。波動/モノポール/時流の双連複合エンジンを積み、大ヤマトの更に10倍の戦力を誇る。キャプテンハーロックとの盟約を守るべく、大ヤマトが最強を誇っていた23世紀に現れた。彼らの目的も歴史改変。地球星間連邦政府が銀河100年戦争からの安定期で腑抜ける事を嫌悪しての行動であり、『長すぎる平和は人を弛緩させる』という理論が数百年の繁栄期の平和でまたも証明されてしまった事である。23世紀の平和主義者の多くが失望したのは、『定期的に戦争が起こったほうが、人は気高くいられる』という歴史が証明された事だった。人は闘争を続ける宿命にある。それはゲッター線に選ばれし存在になった地球人類の宿命だった。



――23世紀の地球――

「数百年後の銀河100年戦争、その後の安定期が人を堕落させる、か。それは宿命とも言うべきだな」

「藤堂総長、よろしいのですか?」

「構わん。我々が世を去り、平和が数世代も続けば、皆、戦乱の世の労苦などは忘れてゆく。皮肉な事だが、数十年かに一度は緊張状態に置かれた方が、生物としては正しいのかも知れん」

――それは平和を望む人と裏柄に、種族としての人間に『闘争』を宿命づけた神々の意志かもしれない。『銀河100年戦争』と第18代宇宙戦艦ヤマトの戦いが終わった後に訪れた安定期で堕落する歴史を良しとしない宇宙戦艦ヤマトの初代クルーの末裔達の意志であり、ヤマト初代艦長の沖田十三の遺志でもあった――

「人間と言うのは、平和が続き過ぎても堕落し、戦が長引けば野蛮に堕ちる。なんともいい難い種族だ。それはアケーリアスの頃から変わらん事だよ、君」

藤堂は副官にそう漏らす。アケーリアス超文明は内輪もめの挙句に、『超波動砲』を銀玉鉄砲感覚で撃ち合って滅び、プロトカルチャーはプロトデビルンを制御し損ね、ゼントラーディとメルトランディの闘争を止められずに滅び去った。地球人類は西暦が3000年を超えようとする時代でも、本質的には『現在』と変わらない事に、諦感を見せた。

「待たせて済まない。君が古代の末裔なのかね?」

「はい。僕は古代進。その末裔にあたります」

ヤマトの戦闘班長にして、艦長も努めた古代進。その末裔が姿を藤堂平九郎の前に見せた。その末裔の風貌はイスカンダル初航海時の若き古代にほぼ瓜二つであったが、目元は森雪の面影を持っていた。これは古代進と森雪の娘『美雪』の子孫である証明であった。

「顔は士官学校時代の古代の生き写しだが、目元は雪にも見ている。君は古代と雪との間の……」

「はい。初代の古代進、森雪の娘『美雪』は僕の遠い祖先です。森家は別世界の森雪の同位体が転移してきて再興させたので、僕と、今代の森雪との間に血縁関係はありません」

「つまり、関係が昔のように戻ったと言うべきか」

「はい。僕の祖先の同位体なので、Gヤマトに乗るまでは面識がありませんでした」

再興森家は初代ヤマトクルーの末裔ではない、別世界の森雪を祖とする。そのため、ヤマトに乗った経験を有していたが、それ以外、他のクルーの末裔達との結びつきは薄い。初代の雪は看護師/レーダー手などを兼任していたが、別世界の雪はコスモタイガーのパイロットであったため、代々戦闘機パイロットであった。初代クルーの末裔達が再興森家をクルーに受け入れたのがどの辺りかは不明だが、やはり宿命が結びつけたのである。


「これぞ、次元世界の神秘だな。つまり、君らのヤマトは、ヤマトと大ヤマトの更に後身という事だね?」

「はい。大ヤマトが更に拡大強化されて新生した偉大なる宇宙戦艦。宇宙戦艦Gヤマトです」

「グレートヤマト。名称的には、まるでグレートマジンガーだな」

「大ヤマトを超えるヤマトという意の通信符丁なので、正式艦名は元のままです。まほろばとラ號が僚艦として、影で支えてくれていたからこそ、なし得たことです」

「倭(やまと)は国のまほろば、という事か」

藤堂は、景行天皇、あるいはヤマトタケルが読んだと伝えられる望郷歌を引き合いに出し、ヤマトを影で支えてきた『まほろば』、『ラ號』をそう例えた。元々の姉妹艦であった武蔵と信濃に代わり、大和の姉妹艦として転生後に存在し続けた艦を。

「君は誰の指揮下にあるのだね」

「沖田十三提督です。正確には、提督当人の魂がクローン体に宿った転生体とでも言いましょうか」

「沖田、死してもヤマトとともにあり続けるか……」

「沖田艦長に家族は?」

「いない。冥王星沖の海戦の際に、遺伝子保存前であった駆逐艦艦長の子息が戦死した事で絶えている」

沖田十三の家族は、流星爆弾で妻が、冥王星沖海戦で駆逐艦艦長の任にあった息子が、その悲報に悲観した事で、息子の妻が自殺したため、沖田家は絶えている。沖田はヤマト艦長拝命時以後は天涯孤独の身であり、ヤマトを我が家とし、転生してまでヤマトの艦長の任を努めている。その事実は古代(Gヤマト)に強い衝撃を与えた。それほどヤマトへの思いが強い証明である。なお、この古代は当主としては進の名を受け継いだが、当人の本名は『古代敬』で、ヤマトに乗ろうと夢見ていたものの、心臓発作で死去した彼の父は『古代宏一』であったりする。敬自身は古代家中興の祖である進の容貌を先祖返りで色濃く受け継いでおり、その意味でもヤマトに相応しい男だった。髪型なども進と瓜二つであり、若さの違いを除けば、古代進そのものである。

「そして、君がGヤマトにいたとは思わんだ。羽黒君」

「お久しぶりです、藤堂総長」

まほろばの幹部だった羽黒妖。この時代には既に『存在していた』。不老なのか、Gヤマトの時代にも、この時代から容姿に変化が見られず、Gヤマトに乗艦していた。彼女の出自は明らかでない。大日本帝国海軍が生み出した不老兵士の一体だったのでは?という説、元は倭健命の従者であったのでは?という説もある。軍籍はこの時代に存在している。階級は少佐ほどだ。

「君は相変わらず謎めいているな。まほろばではなく、ヤマトにいたとは」

「ヤマトとまほろばの盟約により、私はヤマトに乗艦しました。この時代にGヤマトがやって来たのは、使命のためです」

「使命、かね」

「はい。ヤマトは元々、アースフリートの所属であります。貴方方の指令であれば、我々は従います」

Gヤマトの原型艦の大ヤマト/ヤマトは地球連邦軍の宇宙戦艦である。その関係上、この時代における地球星間連邦軍の指令であれば従うと、妖は明言した。藤堂は頷く。原型艦のヤマトは地球連邦軍が希望を託して建造した。その経緯を考えれば、ごく自然な事である。

「では、君らに指令を発する。大ヤマトとは別の地にての任務だ。ラ號と組んでもらう事になる。その場所は――」





――ウィッチ世界――


「雷鳴を切り裂け!エンペラーソォード!!」

黒江がエンペラーソードで幾何学的な超光速機動を見せる。マジンエンペラーGと同じように。もはや慣性の法則を無視した動きに、下原とジョゼは完全に目が点になっている。菅野が下原の肩をポンと叩き、『慣れろ』と言わんばかりの表情を見せる。

「おい、のび太!ジャンボガンを下原に分けてやれ。こいつの13ミリじゃ、ヘルキャットにゃ通用しねぇ」

「少尉、これを」

「あ、ありがとう…」

「この拳銃、本当にあの戦闘機を落とせるの?」

「バッカ、これならマチルダだって、シャールだって一撃で木っ端微塵に出来るんだぞ!」

「ええ!?」

「ジョゼ、下がって。これ、リボルバーだから取り回ししにくい上に、結構大きい音するから」

「!?」

「行けぇ!」

その瞬間、大口径戦車砲が撃たれたような音と共に、ジャンボガンが火を噴く。反動はどうという事はないが、音が大きく、慣れてないと心臓に来る大きさだ。威力は、F6Fがアベンジャー諸共に爆炎に飲み込まれて破壊される破格のモノだ。

「戦闘機と爆撃機をいっぺんにぶち抜いた!?」

「伊達に、戦車を一発でぶっ飛ばす銃じゃねーってこった。飛行機は戦車より柔いしな。この時代だと」

「って!戦車より頑丈な戦闘機があるの?!」

「最新のVFならバリアで200mmくらいまで防げるかな、20世紀半ば過ぎの攻撃機で機関砲弾四桁食らって飛んでた機体有るぞ」


「そういえば、飛行機の発達型は造られたのに、戦車はそういうのないんですか?MSはロボットじゃないですか」

「いいとこ聞くな、ジョゼ。あることにはあるんだが、運用目的とかでモビルスーツと被ったし、汎用性とかの問題で廃れてるんだよ。デストロイドってんだけど、モビルスーツのほうが作業性もあったとかで。使われているけど、主流じゃないな」

デストロイドは汎用性などでバトロイドに遅れを取ったり、VFとMSの万能性に押され、デザリアム戦役直前では『衰退』していた。唯一、モンスターがVBとして生き延びたが、それ以外はあまり後継機はない。それを言う菅野。

「あ、菅野さん。先輩の剣って、なんで直刀なの?ここは扶桑人らしく……」

「あ、ば、馬鹿!おまけが追加されんぞ!」

『おーし、下原。帰ったらおまけの時に説明してやるから覚えとけよ』

『え?!」

『インカムが聞こえなくても、あいにく、こっちはテレパシーで意思疎通出来るんだよ』

『って、テレパシーって、先輩、エスパーなんですか!?』

『ナインセンシズに目覚めてりゃ、第六感のテレパシーなんざ余裕のよっちゃんだ。つか、エスパーって単語、この時代に使われてたか?』

『うーん…』

引っ張られる形で、黒江とテレパシーで会話をする下原。ウィッチは第六感に属する能力なので、テレパシーの敷居は低い。むしろインカムがテレパシー補助具なのではないか?と連邦軍は思っており、1940年代にしてはインカムが小型化されている背景に、魔導技術がある事にたどり着いた。時空管理局の技術でその精度を上げたため、M粒子の影響もないし、チャフで妨害もされない。それが真501に制式採用されたものだ。科学機能を発揮し得ない場合はテレパシー補助具となる機能を持つ優れものだ。

『まぁいい、魔刃一閃!!』

魔刃一閃の掛け声はあらん限りの声でシャウトしたため、下原らのところまで届いた。光が走り、編隊はなんと母艦ごと消滅したらしく、スケールが違う爆発が起きる。

「これが『偉大なる帝王』の力だ!!」

と、エンペラーソードがマジンエンペラーのものであり、『借り物』だとアピールする。そこを狙おうとした怪異がいたが、海中からのショックカノンで撃ち抜かれて消滅する。

「ショックカノンだ!?と、いう事は……」

波動機関独特のエンジン音が響く。海を突き破るようにして現れたのは。

「大……、いや、グレートヤマト!?」

大ヤマトには存在したウイングパーツとバルジが消えている事から、周回した黒江は、それがGヤマトと分かった。更に巨大化した威容を表すGヤマト。大ヤマト時代のウイングとバルジは分離し、エンタープラ○ズ号のように変形して随伴艦と化している。砲塔はプラズマショックカノン(第三世代)にパワーアップし、威力は大ヤマトの比ですらない。

「大ヤマトも超えたGヤマトが来るなんて、予想外だぞ……」

黒江も呆然とすることしかできないほどの衝撃がGヤマトにはあった。ハーロックの世代のヤマトであり、初代の正統後継者。西暦3000年を超えた時代に於ける、宇宙の五大艦の一角。クイーンエメラルダスの『エメラルダス号』、ハーロックの『アルカディア号』、『宇宙戦艦Gヤマト』、『超時空戦艦まほろば』、『ラ號』。これらを超える艦はその時代に存在しない。ただし、それらには及ばないが、アンドロメダの末裔である『凌駕』が当代地球連邦軍の主力艦隊旗艦であるのが知られている。そのため、地球連邦軍は人々の弛緩とは裏腹に、軍事力では西暦3000年を超えても高い水準を誇っているのが分かる。

「先輩、あれは……」

「宇宙戦艦ヤマトの第三形態にして、最強形態。グレートヤマトだ……」

「ぐ、グレートヤマト!?」

「ヤマトがあるだろ?あれが長い年月で拡大大改装された最終型に当たる。大和から数えて行くなら、第4形態だな」

「なんですか、そのどこぞのシン・怪獣王みたいな進化の仕方」

「私に聞くなよ。つか、お前、あれ見たのか?」

「菅野さんに付き合わされて」

「なるほどな」

怪獣王シリーズは菅野が好きで見ており、下原も見させられていた。その中でも軍事関係者も唸る出来の2010年代の映画がパッと浮かんだらしい。

「でも、ペリーヌとかがどういう顔すんかな。Gヤマト。大和の後身が西暦3000年を超えても『地球の象徴』なんだよなぁ」

「あの人、愛国心旺盛ですからね。ジョゼはそうでもないけど」

「ペリーヌ中尉は貴族の出ですから。確か、領主の家柄で…」

ペリーヌは愛国心が旺盛なのは周知の事実だが、それが色々と軋轢を産んだのが前史である。ガリア(フランス)は、未来世界では統合戦争の折、開戦当時の首相の私怨もあり、徹底的に叩きのめされ、大国としての影響力と軍事力を喪失して衰退している。更に、ジャミトフ・ハイマンが仏出身であったために、連邦政府のポストを追われるわ、コロニー落としでパリが消えるなど、いいところがない。そのため、かつての大国では『イタリアと同レベル』扱いに衰退した。が、元々の技術力でガンダムファイトは強豪で、ガンダムローズが有名だ。それが唯一の光芒と言える。しかしながら、仏は波動機関の戦艦の独自設計が出来ないのが難点で、23世紀時点では、前期型ドレッドノート級の『エトワール』が仏系艦隊総旗艦である。23世紀時点で波動機関搭載艦の独自設計が可能な旧大国は日米英露独の五つである。これは地下都市の規模が大きく、ガミラス戦役時に移民船を作れていた五大国に由来する。もちろん、レビル将軍の座乗艦になった経験がある『ラー・カイラム級機動戦艦のジャンヌ・ダルク』という栄えある武勲艦もあるが、波動機関艦ではない。そのため、外宇宙艦隊の主力という意味でのフランス艦はないのがコンプレックスである。しかも、西暦3000年を超えても、地球の象徴は『宇宙戦艦ヤマト』の系譜なのだ。黒江はガリアに人生を捧げたと言える生涯を送ったペリーヌの前史での生き様を知っているので、微妙そうな顔を見せた。

「うーむ。Gヤマト、30世紀の宇宙戦艦だしなぁ。その年代でもフランスの立場って微妙だし。ガンダムファイトで何度か優勝はしてるけど」

「先輩、周回してる事を自慢しないでくださいよ」

「事実言ってるだけだぜ。でも、ペリーヌの奴、どう思うかね?前史だと、あまり付き合い無くて」

「中隊長はペリーヌさんみたいなタイプは苦手なんですか?」

「ああいうタイプは苦手なんだよ。とっつきにくくてさ。掴みどころも難しいし」

ペリーヌは貴族の唯一の生き残りなどの高貴な要素が多いため、『富裕層には入らない、中流階級の上層』に位置する出の黒江は、とっつきにくさを感じていた。その都合、芳佳を介してしか付き合いが無く、前史ではそれほど親しくはならなかった。その事もあり、ペリーヌは苦手なタイプと言える。

「どうします?」

「うーん。みんな、グレートヤマトに集まってくれ。グレートヤマトに送ってもらおう」

グレートヤマトに送ってもらった一同だが、それはそれで501の面々を驚愕させた。ヤマト型を見るのは、これが初めてという者も多かったからだ。

――501基地――

「うじゅ!?な、何あれ!?」

「おいおい、宇宙戦艦ヤマトじゃねーか!?でも、大きくなってるぞ!?」

ヤマトに乗った経験があるシャーリーも驚くほど、Gヤマトは巨大であった。しかも、砲塔が増加しているなどの目に見える改良点があるので、改良を受けたのが素人目にも分かる。概ね、戦艦大和をそのまま拡大した威容であるが、基地の中央塔が小さく見えるほど、基地のどんなところからも見えた。ヤマトを初めて目の当たりにした者は一様に唖然とした表情を見せながら、固まる。

「なんですの!?あの戦艦大和が更に大きくなったような戦艦は!?」

「地球連邦軍から通達があったわ。宇宙戦艦ヤマトの拡大改装後の姿の一つ『グレートヤマト』だそうよ」

「グレートヤマト……」

「大ヤマトよりもっと強いパワーアップがグレートだよ。あれ一隻で、23世紀の時代の近隣星間国家をねじ伏せられる。アースフリート最強の一角さ」

「アースフリート?」

「銀河連邦は連邦軍をそう呼んでるよ。銀河連邦の中じゃ新参者だけど、軍事力じゃ銀河連邦の二強だしね」

――アースフリート 制式名称 : 地球連邦軍 銀河連邦派遣軍基幹艦隊 地球連邦軍に名目上所属するが、連邦政府から直接司令する事は出来ない独立艦隊。 銀河連邦領域に置いての侵略、軍事的恫喝に対して銀河連邦議会安全保障委員会の決定をもって行動する艦隊。予算は銀河連邦持ちで管理補給を地球連邦が行うが人員は銀河連邦から広く採用される。結成は23世紀頃とされ、30世紀にも存続している組織である――


銀河連邦は過去のフーマの攻撃で衰退期に入っていたのを、地球の加盟で持ち直した経緯があり、安全保障を地球とバード星に依存している。銀河系の安全保障を担わされた地球は自分の都合で縮小傾向にあった軍備を拡大に転じなくてはならず、地球連邦軍は再び軍拡基調に転じる。Gヤマトの政府が腑抜けた時代においてでさえ、アースフリートの動く事は侵略者の破滅を意味する。そのため、侵略者は政府の籠絡から始める。ハーロックが戦う相手のマゾーンがそうだ。地球星間連邦の堕落は銀河100年戦争を乗り越えた直近の数百年で生じた弛緩でもあるが、やはり前身時代と同じく、『戦乱を忘れ去った頃に起こる有事に政府機構は無力に等しい』。

「ハルトマン少佐、何故、あなたはそんな事を知っておいでなのですの?」

「あたしが『あの人達の加護を受けた』転生者の一人だからさ。今は、ウィッチでも、リウィッチでもない高位のウィッチ『グランウィッチ』とでも言うべき存在さ」

「グランウィッチ!?」

「そうさ。そうでなかったら、転生者の中佐達と対等に話せるわきゃないだろ?シャーリーも、クロダも、ミヤフジも、カンノも、カリブチも、それとラルも転生者の『グランウィッチ』さ」

ハルトマンが言ったグランウィッチとは、昇神したスリーレイブンズの神使となって付きそうように転生した者で、生前にウィッチであった者たちを指す。その中でも、生前にスリーレイブンズと深い関係にあった者たちが神徒に選ばれ、再度の生を得た。その際にリウィッチをも超える存在としてのウィッチである事を示すための造語だ。ハルトマンはその中でもカールスラント勢では最も親しい友人の一人だったため、グランウィッチの長的ポストであり、次席が黒田である。

「貴方方は転生者だと?」

「荒唐無稽だから隠してたんだ。歴史がこれ以上変わるのは止めるように、ゼウスのおっちゃんから厳命されてたしね」

「ゼウスをそう呼んで良いんですの?」

「十二神の長って言っても、娘に激甘のオヤジだよ。威厳はんなにないさ。気さくだしな。ハーデスは意外に陰険だし、まだポセイドンの方が話は分かるね」

ハルトマンはオリンポス十二神の三兄弟をそう評する。ゼウスは壮年の男性として行動することが多いのに、ハーデスは美青年を好み、姪のアテナと刃を幾度も交え、その一方で兜一族や剣鉄也との深い因縁があり、流竜馬に恐れを抱いている。竜馬がゲッターに選ばれた男であるのを知っているからだろう。これは星矢達を迎え撃った際の言動とは矛盾するが、ゲッター線は十二神よりも古の神々が生み出したエネルギーであり、その神々が人類に与えた本能を意味するからだろう。その『本能を最も強く宿す』のが流竜馬なのだ。

「十二神……それよりも上の神々はいるんですの?」

「ウラノスのじー様やクロノスのじー様とか、ガイアのバー様とかが控えてる。基本的にゃ、向こうでのギリシア神話に準じてるけど、地域によって姿変えたりしてるしね」

神話が地域によって違い、神々の名も違う理由の一つがそれだった。また、扶桑神話にはバダンの長のジュドも一枚噛んでいるので、それが神話の謎を深めている。

「そうだ」

「なんだ、その姿で来てたんだ、ゼウスのおっちゃん」

「うむ。故あって、友の姿を借りているのでな」

「その方は?」

「我が名はゼウス。今は友である兜甲児の姿を借りている。宇宙の創成と関わる神はほとんど居ないし、創成神のほとんどは人の認識によって産み出され、近い能力を得た超越者が核になって形成された。我の場合はマジンガーZがその核になったが」

「オリンポス十二神!?」

「そうだよ。おっちゃんの場合は、平行世界に跨って存在してるマジンガーZの善の意識が神化したって奴。いつしかオリンポス十二神の長になったけど」

マジンガーZの意識は極端な善と悪に分かれて存在する。これは創造主の兜十蔵は若き日には世界征服の野望を心の片隅で思っていたからだ。Dr.ヘルと親友であったのは、その共鳴からだったのだろう。しかし、息子の剣造と孫の甲児の生誕が十蔵を善の立ち位置に変え、マジンガーZを作った。十蔵はマジンガーZを作ったあたりで、ミケーネ帝国の存在に気づき、剣造にZの二号機、あるいは改良型の建造を指令した。これがゴッド/グレートの出自だ。Zの意識は平行世界をまたがる内に明瞭となり、悪の意識が独自の自我を持つと、兄弟であるグレートマジンガーを敵視するようになり、「我を超える者は何人たりとも許さない」という強い意識となった。そして、Zのゴッドへの改装の際に抜け出た悪の心がプロトZを母体に『ZERO化』した。善の心がゴッドを新たな肉体としたのとは対照的に、幼さを持つのがZERO、大人としての理性があるのがゴッドという風に分かれた。ZEROが子供じみた行動原理をしているのはそのためで、ゼウスは『癇癪を起こした幼子』とZEROを評した。


「連邦軍にはあ奴のことを警告しておいた。エンペラーを急がせたのも、そのためだ」

「ZEROのこと?」

「そうだ。あ奴は別世界のZをZERO化させ、また暴れておる。癇癪を起こしていて、平行世界を手当たり次第に滅ぼしておるよ」

「また倒さないといけないね」

「うむ。あ奴は因果律を操る事で、自らを不滅にしようとしておるが、前回のビッグバンパンチでの傷は残っておる」

ゴッドマジンガーのビッグバンパンチでつけられた傷はZEROの意識下に刻まれており、別のZを素体にしても、ZERO化で顕現する。そのため、傷が疼き、ブレストファイヤーのチャージに支障がある。チャージの際には咳き込むようなアクションを見せる。また、ZEROは原則として『初見殺し』が出来ないのもあり、マジンガー系以外のスーパーロボット相手では苦戦する。マジンガーには無敵に近くとも、ゲッターやコン・バトラー、ボルテス、ダンクーガなどが相手では、因果律兵器を使用できず、自力で戦うことを強いられる。そのため、ZEROも渡り歩く過程では、大きな傷を負う事が常態である。この『二回目」では、ウィッチA世界に向かう前に、平行世界のダンガイオーを僅差で下したものの、フルパワーサイキックウェーブを喰らい、かなりの傷を負っている。それを視認したためか、ゼウスは警告に現れたのだ。

「倒せるかな?」

「平行世界巡りの際に、うぬらの仲間が突き刺した刀が奴の力を削いでいる。その効用でだいぶ弱まっているが、やはり並のスーパーロボットでは無理だ」

黒江Cが最後の力で突き刺した刀のエネルギーがZEROの動力伝達機構に霊的損傷をもたらし、それがZEROの『マジンパワーでも直らない咳き込み』や『技の出が遅れる』不具合の真の理由だった。

「エンペラーはもう?」

「完成させて、投入できる状態に持ってきたが、問題は剣鉄也の訓練が終わるかどうか」

スーパーロボットにはパイロットがつきものだが、鉄也がマジンカイザー級のマシンに乗った事は、本来、この時間軸ではまだそれほどない。エンペラーの即投入に剣造が及び腰であるのも手伝い、ZEROの破壊を未然に防げる保証はない。最悪、前史のトゥーロンのような事を覚悟しなければならない。コン・バトラーやボルテス、たとえダイモスや鋼鉄ジーグをガイアから連れてきても、時間稼ぎがせいぜいだろう。

「テツヤの?どうしてるのさ」

「マッドウォッチで訓練をさせようと提案しておるが、剣造が及び腰でな。あれは父親と違い、慎重で困る」

「甲児のパパさん、慎重だよね」

「親よりは堅実な科学者なのだろう。グレートの設計も実は堅実だからな。エンペラーは我が手を貸したが」

エンペラーの設計には、ライオネルとしてゼウスがアドバイスをする形で関わり、ZEROの高次予測でも予測できないエネルギーであるゲッター線を補助動力に用いる事を通し、ゲッターの技術をかなり入れている。その恩恵により、エンペラーはZEROの攻撃にも耐えるし、攻撃が有効なのだ。従って、『エンペラーはマジンガーの姿を持つゲッターロボ』と言えるのだ。

「失礼ですが、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の執務室はどこでしょうか?」

「ヨウ……!そうか、あんたがいたんだったね、Gヤマトには」

いつの間にか、Gヤマトからの親書を持ってきた羽黒妖がいた。妖艶かつ神秘的な雰囲気を纏う彼女に、すっかり蚊帳の外状態のペリーヌは圧倒された。

「ついてきて。案内するよ。ペリーヌ、ゼウスもついでに紹介するから、ついてこいよ」

「は、はい……」

羽黒妖は、智子がその正体を知っている。正体はウカノミタマの神使の狐であり、智子の狐としての先輩であり、立場的にはお仲間の部下に当たる。智子は使い魔を取り込んだため、狐神となっている。昇神のおかげか、生前にはあまり食べていなかった油揚げを好む傾向がある。それはグランウィッチやそれを束ねるレイブンズの周知の事実だ。


「ミーナ。ヤマトから親書の使者が来たよ」

と、ドアをノックし、返事を待つ。グランウィッチとしてのハルトマンは坂本が担っていたような統率者としての側面を持ち、事情を知らぬバルクホルンは大いに狼狽えていたりする。バルクホルンはあくまで、『その時間軸のゲルトルート』であるため、ハルトマンが大人びたり、戦士として成熟した姿を知らないからである。グランウィッチは転生者であり、スリーレイブンズの神使として、高次の存在となったウィッチであるので、その時間軸では知らないはずの記憶も持つ。そこがハルトマン達の高次の存在故の悲哀でもあった。

――とある空域――


「やれやれ。まさか、この時間軸でこいつを使う事になるとはな」

ラルが別空域で戦闘に入り、他のメンバーの前で、『雷砲(ブリッツカノーネ)』と呼称する、御坂美琴からのフィードバックで得た『超電磁砲』を放った。その速度は音速の20倍に相当し、パワーアップした美琴の能力を引き継いだ上で、弾体をライフル弾に変更することで、射程を伸ばしている。

『ブリッツカノーネ!!』

原理的にはコイルガンに近いが、その威力は黒江、フェイトに次ぎ、御坂美琴(パワーアップ後)と同等である。紫電を散らしながら、微笑するラル。美琴と同じようなポーズで発射するのもあって、強烈なインパクトを与えた。護衛のサーシャ、ロスマンは硬直して固まってしまった。

「おっと、刺激が強すぎたか」

と、ため息をつく。ややあって、両者から激しく詰め寄られた。

『今のはなんですか、少佐!?』

「うお!二人してなんだ!」

「何だじゃありません!!今のは少佐の魔法ではありませんよね!?」

「魔法ではないな。うむ、秘密にする事もないか。 体質だ、体質!」

「なんですかそれ!」

「だから、私自身にも説明がうまくできんのだ、先生、大尉。雷撃の槍も投げられるし」

「流行ってるんですか……雷」

「ゼウスの力の象徴でもあるからな。ただし、聖闘士である彼女達には及ばん。私はシックスセンスの範疇だが、彼女らはセブンセンシズ、更にその先のセンシズだしな」


雷を操る戦士。近代は仮面ライダーストロンガーを嚆矢に、美琴や生前のアイオリアやアイオロスなどがそれであった。黒江とフェイトはアイオロス/アイオリア兄弟の衣鉢を継ぐ事で、ラルは美琴と入れ替わる事で生じたフィードバックにより、その力を得た。が、当然ながら、電撃のパワーの上限はシックスセンスより、セブンセンシズ以降に目覚めている者のほうがより上の次元である。ラルは100億ボルトが上限だが、黒江とフェイトはテラボルト級の威力の電撃を扱える。平素でそれであるため、本気の場合はエクサボルトに達する。これは神域に達した場合、自然界の雷を超えるエネルギーの雷を行使できるようになる表れで、ゼウスは更に強力な雷を持つ。黒江とフェイトは、既にマジンガーZまでのスーパーロボットの回路であれば、素で焼き切る事が可能で、ゲッター真ドラゴンに由来するゲッター線の高鳴りで暴走したプロトゲッターの回路をライトニングボルトで焼き切っている。

「セブンセンシズ……?」

「六感を超えた先の領域だ。そこにたどり着くには、才ある人間が更に鍛錬することが必要だがな」

「それに目覚めると、何が起こるのですか?」

「光を超える速度で動け、それを視認できるようになり、技の破壊力もそれまでの比ではなくなる。その更に先になると、人であることを超える必要があるがな」

エイト/ナインセンシズは、人がたどり着けるか分からない領域である。が、セブンセンシズに熟達すれば『人類最強格』である事を考えれば、その領域は実質的に必要性は低い。が、ナインセンシズにもなると、クロックアップやハイパークロックアップと同等の現象を任意にリスク無しに起こせるようになる。神域に至った者は自然にこの領域に達すると言える。

「何がなんだか……」

「要するに、人を超えるか、だ。人を超える必要があるのだ。我々は概ね、魔法が使えるだけの単なる『人』に過ぎん。私は超能力を得たが、それだけで思い上がるほど青くもない。そういう事だ。もう私はブレイブウィッチーズの司令でもない、一介の少佐だしな」

ラルは微笑を浮かべながら、そう告げる。超能力を得たと言っても、自分は『人』の領域にいるだけだと。黄金聖闘士は超電磁砲も『軽く』避けられるし、それ以上の現象を容易に引き起こす。それと、自身の立場が一介の『グランウィッチ』となった事を意識した台詞であった。ラルの雰囲気が不思議と、以前とは違うことに気づく二人。どことなくだが、明るい。そんな事実にほくそ笑むラル。帰還した彼女らがグレートヤマトを目の当たりにするのは間もなくだった。



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