外伝その106『ダイ・アナザー・デイ5』
――ダイ・アナザー・デイ作戦を名目に、日本の左派の攻撃目標にされやすいモノを排除するため、扶桑は急ピッチで軍備更新を急いだ。その最たるモノが飛燕(キ61)のキ100(五式戦闘機)への切り替えであった。川瀧の工場努力などの要素を排除し、『日本での運用結果』を突きつけ、強引に空冷型飛燕を作らせた。良好な稼働率、機動性は当時の第一級と言えるもので、ストライカー部門でも、元・テストパイロットであり、レイブンズの黒江が『P-51を圧倒できる』という所見の具申を出したのもあり、直ちに空冷型飛燕は双方が『飛燕改』という名で正式採用された。また、戦線用改造用キットを流通させたほか、黒江と智子がジェットまでの繋ぎに使用した。二人はキ84の誉が精度の悪い個体に当たったせいか、同機を嫌うようになり、キ100をレシプロ最後の愛機とした。二人のポテンシャルを存分に発揮できる特性を備えていた幸運もあり、『偉大な撃墜王のレシプロ時代最後の愛機』の名誉を授かった――
――501 基地上空――
「きゃっ!?……速度性能は平凡なのに、何よ!あの機動性!?」
パトレシア・シェイドは模擬戦で圭子に圧倒されていた。圭子の腕が本当に伝説通りか、疑問を呈する中堅が多かったためだ。圭子はアフリカでずっと飛んでいたため、黒江や智子と違って、実戦のブランクがなく、メカトピア戦争当時は二人より早く、実戦任務についていた。カンが鈍っていないので、メカトピア戦争で飛んだ時間が二人より僅かに長い。更に、飛燕系の取り扱いに一日の長があるのもあり、フルポテンシャルを発揮させ、(別世界の飛行機乗り女子高校生『飛燕のお蛍』と連絡を取り合っているため、飛燕系統のエキスパートになっている)パティを圧倒するに値するポテンシャルを発揮できる。最近は黒江が智子を引き連れて行動するため、圭子は模擬戦のバディを坂本か竹井にする事が多い。
「加東、若い連中をあまり揉むなよ?来る決戦に備えての模擬戦なんだから」
「わーっとる」
「お前なぁ。あまり熱くなるなよ?」
圭子は戦闘になると、普段の大人びた雰囲気が消え失せ、レイブンズ最恐とも言われる『バーサーカー』ぶりを発揮する。ゲッター線の使者になったため、改変前と方向性が180度異なるのだ。坂本が危惧しているのが、若手の心をポキンと折ってしまうほどエスカレートする事だ。最も、パティは『反発組』であるので、揉みたくなるのは当然だろうが…。
「訓練で死にかけりゃ、実戦では死ににくくなる。 訓練で死ぬヤツぁ、どっちみち死ぬ。 だから訓練は殺す気でやんなきゃダメだ」
「は、はは……」
坂本は呆れる。完全にスイッチが入ったのか、圭子の口調は荒くなっている。圭子は戦闘である一定のテンションになると、ゲッター線の使者としての好戦性が表に出る。口調が黒江並に荒くなるのが、その証拠だ。パティはその洗礼を受ける事になった。
「血が騒ぐぜぇ!」
医学で言えば、一種のトランス状態と言うべきだろう変化は、ゲッター線が引き出した圭子の深層意識である。圭子は本質が心優しい乙女である黒江と逆に、闘争心に溢れるガキ大将気質であるらしく、試しに未来世界で黒江との比較のため、催眠状態に置いてみると、このような『好戦性が強いが、面倒見のよい』深層意識があり、それがゲッター線によって引き出された結果、黒江のような二重人格とまではいかないが、戦闘時の好戦性なのだろう。こうなると圭子は敵を倒さないと止まらない。
「何よあの人!?もの凄く怖い目してるんだけど!?アンジー、援護お願い!」
『了解した!』
アンジェラ・サラス・ララサーバル。当時、中尉。前史では新生501には配属されずじまいだったが、今回はスーパーヒーロー達による504救出が成功したため、配属された。が、智子の護衛が命題であった事から、ビューリングの配属はやはり必須だった。(赤松は単騎でもいいくらい)アンジーは模擬弾が入ったライフルを撃つが、当然、扶桑海最高のスナイパーであった圭子には弾道を見切られ、避けられる。
「何!?こちらの狙撃を読んだだと!?」
「こちとら狙撃で鳴らしてたんだ!お前みたいなハナタレ共の狙撃なんぞ、余裕で見切れるわい!」
と、圭子のノリノリな声が無線で返ってくる。パティの援護にはなるが、当たらない。アンジーとしてはイライラするモノだが……。
『合わせ風車ッ!』
長刀を二本つなげて、それをアンダースローで投げたモノがアンジーに迫ってくる。トマホークブーメランの長刀版だが、これは怖い。冷静沈着なアンジーも、これはシールドで受け止める。と、思った次の瞬間、テンションマックスの圭子がバトル漫画にありがちな『溜め』の体勢からゲッタービームを生身で放った。前史でも行った『斬魔光』である。
『終いだ!!斬魔光――ッ!!』
「そ、そうか、先程の刀を投げる攻撃はフェイ……!」
圭子はテンションMAXになると、手加減なしの戦闘者に変わる。坂本は『あ〜あ……』とため息であった。5式ストライカーは速度性能が1945年の水準では平均より下の水準(時速610キロほど)である代わりに、元設計のフルポテンシャルを引き出せる旋回性能や上昇力、加速力を持つ。玄人が使えば、速度性能で勝るグリフォンスピットも圧倒できるため、このストライカーは新人達にも供給されたものの、使用者の過半数は歴戦の勇者達であり、彼女らが優先的に使用した事から、『エース専用機』のイメージがついたという。模擬戦はものの数分でケリがついた。圭子がアンジーを落とした直後に、坂本がパティを落としたからだ。模擬戦になっているかも不明な戦闘だが、圭子の『恐ろしさ』はこれで確実に若手にも知れ渡るだろう。ロマーニャにいる古参ウィッチでは、坂本と竹井、赤松のみがその業を覚えている。圭子はその気になれば、真ゲッターロボの『ストナーサンシャイン』すらも、自らの意思で放つ事ができる。それを竹井が知ったのは、坂本と赤松の二人が覚醒を遂げた後のことだ。坂本が先に『覚醒』を遂げ、次いで赤松が『覚醒』し、竹井は事の真相を知ったわけである。
――グランウィッチは基本的に、レイブンズの三人が共通して戦友と認識していたり、強く慕っていた人物らが生前の強い絆により、神になった三人の神使となった者達の事を指す。レイブンズで最後まで生きた黒江が圭子の自爆、智子の死後の晩年を、二人の鎮魂と弔いに捧げた事による『プレゼント』のようなものだった。黒江は二人の『死後』の行き場の無い悲しみを『アテナへの忠節』という形で燃やし、その生を終えた。その後の昇神と転生が起こったが、圭子は蘇る過程で、ベースとなる肉体をBのそれをベースに融合したので、今の圭子は、前史におけるAとBの融合体と言うべき存在だ。黒江と智子が生前の人格を、転生後もそのまま保っているのに対し、圭子はAとBとが生前の約定の通りに融合したため、Bの記憶と感情も引き継いでいる。Aの強さと勇猛さを持つ一方、Bが培った包容力も持ち併せている。その事から、実は黒江以上の『二面性』がある。赤松は『B世界には代替となるB-がいるだろうな』と推測しているが、圭子は今、Aの激しさと、Bの優しさが同居している状態なのだ。それは他の二人も同じで、黒江の防衛反応の暴走の真の理由は、平行世界でマジンガーZEROに二人を目の前で殺された事が大きく関係している。黒江は少なくとも3つの世界で、それぞれ違う方法でZEROによって、二人を目の前で失った。C世界が最も凄惨なやり口であり、それがC世界での最後の一太刀となった経緯がある。その三人の自分自身の想いが、ZEROの因果律干渉すら超えた『A』に作用し、あーやの転生後での発現に繋がった。今回におけるあーやは、黒江の『親友を失いたくない』という純粋な想いが転生の過程で強くなり、505壊滅で発現したと言えるものだ。ZEROに滅ぼされた『三人』の彼女自身は性格がそれぞれ微妙に違っており、その内の求道者としての面はCの、乙女の面はD、戦闘者としてはEのそれがAに反映されている。転生したAに反映され、継承された要素はそれらで、その内の『茶目っ気のある乙女な面』は変身能力習得をタイミングに出るようになった。変身能力習得後の精神年齢は、智子より下の15歳前後で、ある意味では末っ子キャラになったと言えよう。智子は圭子と黒江に挟まれる形で、次女のポジションを確立した。これは黒江の精神年齢が改変前よりかなり若々しい、圭子がほぼそのままという状況と、のび太いわく、『キャッ○・アイ理論』というキャラ効果の都合、智子が『次女』に収まったからで、ロンド・ベルでもそう見られている。のび太はレイブンズのキャラ的変化を『キャッ○・アイ』の三姉妹に例えると、智子は主人公属性の持ち主であると言うが、同作主人公の次女は記憶喪失になるので、智子にツッコまれている。のび太は『歴史改変の時の記憶の封印がそれに当たるから、大丈夫だ』と楽観的である。智子がもっとも、精神年齢と見かけのバランスが取れているため、転生後は苦労人属性が黒江と入れ替わったと言える。逆に言えば、巻き込まれ属性は健在なので、それを『楽しむ』思考が出てきている分、真にミドルティーンの少女に戻ったという見方がある。調の姿を獲得してからは、好んで変身していることからも証明されている――
――移動中のジェット機の機内――
「ふう。21世紀日本のチャーター便に乗り換えられて良かったぜ。機内映画あるし」
「何見るんですか?」
「んー、私は『トゥモロー・ネバー・ダイ』にするよ。あれ、まだみてねーし」
「それじゃ、ぼくは『夕陽のガンマン』に……」
「あたしは『エクソシスト』に……」
「おい黒田!なんだよ、その発想!こんな時にエクソシストはやめろ!せめて『フライトプラン』にしろ」
「えー!」
「お前、ホラー映画選ぶの控えろよ。ハインリーケがめっちゃブルってるんだぜ」
「ほんと、前史から変わんないよねぇ」
ガイちゃんにツッコミを入れられる二人。ガイちゃんは『トリプルガイキング』姿であるので、『大空魔竜ガイキング』としての姿と前髪の分けかたが違い、多少大人びている。この姿になると、Zちゃんを上回る戦闘力を持つので、その自信も作用しているが。
「ガイちゃんは何を見んの?」
「え?侍ジャイア○ツの最終回。ハイドロブレイザーの参考にしようかと思って……」
「お前、ソフトボールじゃ?」
「野球もしてるもん〜!」
ガイちゃんはソフトボールと野球のチームに所属しており、持ち前の超能力のおかげもあり、双方でエースピッチャーだった。その技能をハイドロブレイザーに活かすべく、侍ジャイア○ツを教科書にするつもりらしい。
「クロガネ頭にブチかますにゃ、クロガネ頭の予測超えなきゃ駄目じゃん?それでさ」
「海老反りハイジャンプハイドロブレイザーでもやんのか?」
「分身も入れようかな?」
「原作だと投げすぎで死んだぜ―?」
「か、梶○一騎のは過激だし…」
プルプル震えるガイちゃん。そこは当然ながら原作とアニメの違いだが、気にしてるらしい。
「でもよ。分身はマジでやめろって。分身はコントロール効かねーし、威力バラけて、拡散波動砲の悲劇にー」
「あれねー。つか、あんなでっかい奴に拡散波動砲なんて、なぁ」
「うん。それ思ってた」
アンドロメダの悲劇の要因である拡散波動砲は、戦後は対要塞/流星などの用途が重視されたため、装備艦は減少傾向にある。ガイちゃんも黒江も当時の再現映像やアニメで知っているため、ガス体を取り除くだけに終わった拡散波動砲にはネガティブである。連邦軍も次期波動砲に、収束波動砲の強化の『拡大波動砲』を選んでいるので、拡散して威力がバラけるものの例えが拡散波動砲なのは仕方がなかった。
「つか、なんであれを全部につけたのさ」
「うーん。確か、当時の連邦艦隊の主敵が宇宙艦隊で、敵が要塞や星を押し立てて攻めてくるなんて、想定外だったって聞いた事がある」
「そーいや、冥王星沖海戦の時まで、艦隊戦以前の問題だったんだっけ?」
「そそ。波動エンジンま持つ前は、技術力の差でフェーザーがまるで効かなかったトラウマがあったから、波動砲を対艦戦闘に特化させて積んだのがアレだって聞いた事が。でも、使われたのが白色彗星で、ガス体を取り除いて、ショックカノンで撃ち合う羽目に――らしーぜ」
「予定変更だね」
「ああ。宇宙戦艦ヤマト2の後半部見るかな?細かいとこ以外同じらしーし」
波長が合った二人は、同戦役に当たる『宇宙戦艦ヤマト2』(実際は『さらば宇宙戦艦ヤマト愛の戦士たち』の要素も多いが)を見ることにした。実際の戦役は2とさらば宇宙戦艦ヤマトの要素が入り交じったもので、アニメより連邦艦隊はかなり善戦している。そこを考えると、アニメは『ヤマトびいきだ』と、実際に戦った世代の連邦軍人からは不評であるとか。黒江たちは作中の『地球防衛軍』が臨戦態勢に入るところから視聴した。(土方竜の人物像は、大ヤマトにいる古代も『こんな感じだった』と太鼓判を押すほど当人にそっくりだったりする)
「お、芹沢参謀長、ここでも無能だ。ん?あれ?外周艦隊にアンドロメダ級が?もしかして二番艦?」
アニメの地球防衛艦隊集結場面に登場するアンドロメダ級は、アニメではアンドロメダと同一と描かれたが、実際の戦役では、当時に試運転中の二番艦であった。戦役では練度不足で投入されていない。その後の戦乱にも参加記録はなく、公的には『アンドロメダU』(しゅんらん)が二番艦とされている。しゅんらんの姉妹艦『ネメシス』の母体となったのという噂も流れている。アンドロメダ級はリメイクバージョンでは『宇宙運用を主眼にした』とされているが、実際はヤマト同様の汎用性を持つ。空母型も艦橋部を発着区間にするのではなく、海での安定性を考慮した『アングルド・デッキを持つ』洋上空母型で生を受けている。地球連邦軍は恒星間航行艦の能力として、洋上に着水する事が前提条件なので、艦橋部を発着区間に改造する選択肢はあり得ない。ただし、アンドロメダの改造は急ごしらえ感があり、その内の一つ『ミッドウェイ』は洋上での安定性が問題視されている。
「お、フェーべ航空決戦だ。たしか当時、イサムさんも11で参加したとか言ってたな」
「ああ、あの『飛行機に乗れば怪我は治る』とか言ってた兄ちゃん」
「うん。当時は志願からそんな経ってなかった頃の少尉だったとか。で、11の銃剣廃止は改悪だったって言ってたぜ」
「で、その後だよね?マクロスシティやシャロン・アップルの事件」
「ああ。当時のマクロスシティの防空隊の取ってた映像見たか?バケモンだぜ。お前のウイングでマクロスの対空砲火ぶち抜けるか?」
「ザ、ザ・グレートの時のGウイングなら…」
マクロス級/バトル級の対空砲火は地球圏最高難度であり、ニュータイプや強化人間も、ロボットガールズたちでも戦慄するほど濃密である。イサムは乱回転の自由落下でそれを拔いたわけで、ガイちゃんもトリプル形態では蜂の巣になるだけと認めたので、彼の卓越した腕、YF-19の高性能がよく分かる。
「アニメだと、コスモタイガー、無限湧きしてない?」
「70年代のアニメだしなー。実際のヤマト乗ったけど、ヤマトの時はコスモタイガーで43機くらいが限界だった。大ヤマトで一気に増えるけど」
「リメイクバージョンみたいなリボルバー形式?」
「いや、旧作に近い感じだよ。元々は移民船だったから、スペースが有ったとかで」
「なるほど〜」
「たしか、内火艇やコスモ・ゼロも全部積み替えて43、内火艇とゼロ省いたら36機くらいのはず。竣工からしばらくは」
「格納庫ってどうなってんの?」
「主格納庫があって、コスモ・ゼロ用の第二、内火艇用の第三。竣工当時はこうなってた。大ヤマトで巨大化したから、多くなった時のはまだ数えてないな…」
「Vのコスモハウンドは?」
「大ヤマトになってから積むと思うよ。デザリアムの時には試作機が飛んでたような記憶がある。パルサーの実戦テストも控えてるから、そろそろパルサーの先行機が配備されたと思う」
「あれ、タイガーとあまり似てないような」
「リメイクバージョンに出てきたTに似てる印象の機首だからじゃないか?ミサイルを上につけないでみると、タイガーに似てるぞ」
パルサーはタイガーの後継機種だが、機首周りの印象の違いから、コスモタイガーの後継機種と見るものはあまりいない。『今回』においては、タイガーのラインで製造された先行機がデザリアム戦の数ヶ月前には完成しているが、コスモタイガーのどこを強化したか分かりにくいと不評である。ガイちゃんもそのクチらしい。実際、主に火力を伸ばしており、運動性能においてはタイガーからあまり代わり映えしない試作機であったので、制式採用になるにあたり、運動性能を新型エンジンと高機動バーニア増設と強化を行ったという。これはコクピット視界の強化、主翼の大型化と搭載量の強化が主な要求性能だったためで、機銃に頼らない攻撃方法の構築のため、ミサイル搭載量を伸ばしたが、重量増加のため、タイガーと同型のエンジンではパワー不足が目立ち、不評であった。これを新型コスモタービン(従来型より推力が2倍以上増加)に換装した機体はコスモタイガーを上回る機動性を確保する事に成功する。これはより軽量の競作機『コスモファルコン』(アースではブラックタイガー後継機)を退けるほどのものだった。また、高コストすぎて選考段階で採用を見送られた『コスモミラージュ』という機種もあったが、設計変更の後、ガイア側の主力機に売り込むが、これまた落選したが、が、ガイアに『試作戦術戦闘機』扱いで拾われたという。しかし、コスモパルサーは新コスモタイガーに輪をかけて、導入コストがかかるため、空軍の古い機種や、宇宙軍のコスモタイガー初期導入機の老朽化に間に合わないと判断され、コスモファルコンを設計変更し、パルサーとコックピット周りの機材を共通化して、軽戦闘機という扱いで採用。また、ブラックタイガー母体であるので、安価であるのもあり、輸出用にも選ばれ、ガイアに提供されて、ライセンス生産機が現地の宇宙戦艦ヤマトの艦載機になった他、ガルバーFXの改良母体に使用されたという。
――日本では、マジンガーZEROの襲来に伴い、一旦、連絡に必要な人員以外を引き揚げた。韓国が無力化し、中国が扶桑の軍事力を恐れ、日本左派の扇動を止め、更にオラーシャ共産化の野望が砕かれた事で、ウィッチ世界から手を引いた事から、後ろ盾を失った日本の野党の殆どは、扶桑からの連絡で党への破防法適応を恐れ、扶桑やオラーシャなどからの猛抗議に萎縮し、一部党員に責任をなすりつけ、影響下にあった市民運動や活動家を切り捨て、生贄として差し出した。これは体のいい保身であった。既に扶桑に長期的な悪影響が及んでおり、ウィッチ志願数の目に見える減少の他、軍への志願者全体が落ち込む事態となり、45年時点で高年齢層のウィッチを引退させられなくなった他、ウィッチの世代交代そのものが大きく阻害させられた。男女平等を掲げる日本の市民団体がウィッチに認められていた『昇進速度の速さ』を『逆差別』と糾弾した事に関連し、これをいい機会と、リウィッチ化前提だが、昇進速度が一般兵科よりは早い速度に緩められた。そのため、戦前と同じ速度で昇進出来たのは、服部静夏の代までとなる。それ以前の世代であっても、小学校から兵学校/士官学校に行った世代は改めて、高等教育を受ける』事が義務付けられた――
――黒江、智子、圭子はそれを見越して、未来世界で予め、『大検』を90年代末の日本で取得、2002年度は菅野や芳佳、孝美も続いた。グランウィッチの内、扶桑出身者のほぼ全員が未来の大検(2005年以後は高認)に合格した上で、防衛大学校や私立大学などに入学して卒業している他、連邦軍士官学校で高度な軍事教育を受けている。従って、扶桑の陸海ウィッチ達の多くが戦争の開戦までに『高等教育』を受け直された』事になる。グランウィッチの扶桑出身者にとっては、戦後日本の高等教育は『日本で生活するための資格と表向きの職業取得のため』の手段であった。これは戦後の豊かになり、大卒が当たり前になった時代に於いては『大卒』の肩書きが外聞上、必要だったからだ。軍事的には、ロジスティックスを真に理解するウィッチが1945年当時の高年齢層やエクスウィッチ、グランウィッチ、リウィッチしかいないため、連合軍全体の課題となったからでもある。
――基地では、角谷杏としての記憶がある芳佳が交渉術を駆使して、物資を調達してきた事に驚きの声が上がっていた――
「おお、宮藤。でかしたぞ」
「おっちゃんたち脅して、調達して来ました〜。フォッケウルフの部品一式の予備、高オクタン価ガソリン、宇宙訓練用のVFのプロペラント……」
「宮藤、ミーナが腰を抜かすぞ?あいつは我々と違い、この時間軸のあいつ自身でしかないからな」
「隊長、前史じゃ黒江さんたちとそんなに親しかったわけでもありませんでしたからねー。今となっちゃ、部下に寛容ってことくらいしか、地上での長所があんまりないですからねぇ」
「うむ。飛べば強いんだが、年齢相応に青二才だから、今の我々にはやりにくい相手でもある。事務作業は我々がなるべくやり、あいつは飛ばそう」
「そうですねぇ」
バルクホルンは覚醒したからか、ミーナを扱いあぐねているようだ。決済さえしてくれればいいのだが、ミーナはグランウィッチの統制を取ろうとしているらしく、彼女らの行動を気にしていた。
「宮藤、先ほどミーナに愚痴られたが、筆記体で書かんでくれ。私が代読する羽目になったぞ…」
「え〜。医学学校とかで覚えたんですけど」
「仕方がない。筆記体読めない者は欧米人には多いのだ。ミーナは高等教育を受けたわけではないからな。音楽の楽譜のこともあるから、ミーナはマシなほうだ」
「タイプライターでも使おうかな?」
「そうしてくれ」
「分かりました。それと、どうします?メンバーの割り振り」
「我々が基本的に対ZERO、若い連中はヒーロー達の補助だな。ZEROと戦うには弱すぎる。それと、あの破壊を目の当たりにしては、連中では正気を保てんだろう。特に、リーネやパティは優しすぎる」
「おまけに、オラーシャは政情不安定だ。サーニャの両親が革命騒ぎで殺されてなければいいが……」
「川内さんを使って調べたら、サーニャちゃんのご両親、今回は扶桑に亡命していたらしいです。サーニャちゃん、次の戦争が終わったら、扶桑に帰化するつもりだとか」
「そうか…。だが、サーニャ程のエースを手放すと思うか?」
「日本がシベリア抑留の事を恨んでますからね。同じ国家のやった事じゃないけどなぁ」
「オラーシャはロシア帝国であって、ソビエト連邦ではないからな。サーニャが移住で退役するとなってはパニックになるぞ?」
「扶桑軍に移籍するでしょうけど、それでもねぇ。サーニャちゃんは結局、退官まで軍にいましたからねぇ」
「あいつは音楽家になりたがっていたが、今回や太平洋戦争を通して、軍にいる事で、家族の安全や周囲の印象を良くしておたかったんだろう。今回はより顕著なはずだ」
中国共産党、ソ連残党らが仕掛けたオラーシャ帝国政府へのクーデターは、オラーシャに再起不能一歩手前の傷を負わせ、ウィッチもかなりの数が暴徒化した民衆なり、クーデター軍に虐殺された。そのため、サーニャは自分らに手のひらを返したオラーシャの民衆に嫌気が差しており、いずれウィッチに寛容な風潮の扶桑に移住するつもりだった。バルクホルンはそれに言及した。
「太平洋戦争まではオラーシャ軍にいるだろうし、皇帝があらゆる手段で慰留するだろうが、サーニャの不信は決定的だ。おそらく、オラーシャ軍を太平洋戦争の終わりで退役し、それで扶桑に移住して再任官を目指すだろう。サーニャほどのウィッチは教官に欲しいだろうしな」
「エイラさんに言います?」
「まだ言うな。動揺して、あの不死鳥に取り込まれても困るからな。サーニャもアイツに言わないだろうし。言ったら、あいつは扶桑の駐在武官に志願しかねんしな」
「ですねぇ」
二人は、サーニャが扶桑へ、いずれ移住することを読んでいた。両親が扶桑にいるのなら、サーニャも後を追うのは容易に想像がつく。つまりサーニャは、夢を叶えるよりも『戦士』として生きる道を選ぶであろう事の暗示でもあった。皮肉にも、サーニャの夢を、日本左派と中国共産党、ソ連残党が間接的に奪ってしまった事でもある。二人は複雑な表情だった。
――ミーナは、黒江が見せたシンフォギア、変身しても歌唱力は保たれ、その気になれば、ポップミュージック系の歌手になれる才能がある事に対抗心を燃え上がらせるが、元々がオペラなどの歌手を目指していたため、21世紀以後のポップミュージックを密かに練習する。奇しくも、彼女の声色がラクス・クラインと似ていたのが吉となり、しばらくして、彼女の楽曲を試しに練習し、日本ののど自慢大会に出たところ、見事に優勝する。これで自信をつけたらしく、隊のカラオケ大会のトトカルチョの対象にされた(元締めは邦佳。自身もそれなりに歌唱力がある)という。――
――黒江は、シンフォギアでの戦闘曲を、偽装の意味で歌っていた『ジェノサイド・ソウヘブン』から『eternal reality』へと切り替えた。調の姿は借りていても、明確に奏者としての自己を確立した。ファイトスタイルもギアのスペックには頼らない聖闘士してのそれである。シンフォギア世界の『魔法少女事変』では、ギアを破壊されても、山羊座の聖衣を呼び出して纏い、エクスカリバーを使い、敵を撤退に追い込んだ事がある。その事もあり、『キャロル・マールス・ディーンハイム』は『因果律も味方につけた聖剣保持者』と見なし、その力を欲し、重点を置いて攻撃したが、黒江がシンフォギアの修理中で、有利な立場にいながら、光速移動する黒江を『視覚』できず、廬山真武拳、廬山昇龍覇の連撃を全力で食らう地獄を見、文字通りにコテンパンに叩きのめされている。それを聞いたのび太が、黒江を『魔法少女属性持ち』と称したのは言うまでもない。それを知った調は、同じギアを持つ奏者としての対抗心を抱き、黄金聖闘士である『師』に追いつこうとする。それがエクスカリバーの発現に繋がるのだ。響やマリア、切歌からその戦いぶりを聞き、対抗心を燃え上がらせた調は、自分が古代ベルカに置いてきた『デバイス』が後に発掘され、レプリカが作られたと聞くと、すぐに発送を要請し、受け取った。それを媒介に、エクスカリバーを発動させるようになる。この戦いにそれは持って来ており、便宜上、『エクスキャリバー』と呼んでいる。従って、聖剣『エクスカリバー』と『デュランダル』の饗宴とも言える戦いとなるだろう――
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