外伝その107『ダイ・アナザー・デイ6』


――ダイ・アナザー・デイ作戦の決行に必要な戦力が続々と到着し始める。マジンガー、ゲッター、ダンクーガ、コン・バトラー、ボルテスなどのアース側のスーパーロボットはもちろん、ガイアからも続々とスーパーロボットが到着し始める。

「やぁ、ケイちゃん」

「一矢さん。ガイアからご苦労様です」

「アースにいるドモンから連絡を受けて、すぐに準備したんだが、ダイモスの修理に手間取ってね」

竜崎一矢。ガイアのスーパーロボット『闘将ダイモス』の搭乗者で、国交樹立後はドモン・カッシュの友人である。彼はガイアが巻き込まれた『バーム星人』との戦いを『闘将ダイモス』でくぐり抜けてきた。最終決戦でダイモスが大破したが、その後に再建され、アースとの国交樹立後に共同作戦という形で投入された。バーム星人『エリカ』との恋愛は有名で、今や世帯持ちだ。

「ここしばらくは、和平したバーム星との折衝で忙しくて、体が訛っててな。ちょっとトレーニングに付き合ってもらえないか?」

「お安い御用です」

「穴拭少佐、あの人は?」

「竜崎一矢さん。未来世界の地球の反対にある『反地球』の人で、スーパーロボット『闘将ダイモス』のパイロット。スーパーロボットでも珍しいマスタースレーブ方式のロボだから、あの人、空手の達人よ」

一矢をリーネに紹介する智子。と、智子のもとにも一人の青年が声をかけてきた。

「よう」

「宙さん。あなたも来たんですね」

「他のみんながやろうってのに、俺がやらなかったら、誰がやるんだって話だぜ。ガイアは鋼鉄神になれるあいつらに任せてきた」

彼は司馬宙。鋼鉄ジーグにビルドアップする青年である。超電磁エネルギーの研究の結実の仕方がアースと違い、ガイアでは『マグネロボ』の研究が盛んで、彼はその第一号『鋼鉄ジーグ』である。彼は邪魔大王国という古代から復活した邪悪と戦い抜いたが、ガイアの次元断層落ち込みからの復帰の際に、平行世界の自分達が出現し、仕方がなく、彼らを同居させていた。その平行世界のジークこそ、鋼鉄神ジークの世界の住人である。ジークとしての戦闘力は彼の方が上であり、サイボーグ形態も彼自身の方が強いため、遠征に参加したわけだ。

「鉄也さんはいるかい?挨拶したいんだが」

「鉄也さんなら、トレーニングルールですよ」

「そうか、ありがとうな」

彼は剣鉄也に見込まれ、後輩として特訓を受けている。その事もあって、鉄也に敬意を払って接している。智子と別れて鉄也のもとに向かっていった。

「よう。しばらく」

「忍さん。左遷させられたって聞いてましたけど?」

「忍のバカが、司令官級のお偉方を殴っちまったのさ。それでアフリカ戦線に左遷ってわけ。今回は将軍直々のお達しで放免って話さ」

「沙羅さん、戦間期はどうやって食いつないでたんです?」

「あたし達は基本的に有事に召集されるから、平時は別の職だよ。まぁ、軍籍は維持されてるけど」

「忍さんは何を?」

「草レースのレーサーとか、バンドとかだよ。軍から年金は出てるから、衣食住には困んねぇからな」

「思い切り、教育に良くないじゃないですか」

「沙羅にも言われたぜ、それ。おりゃ、つぶしは効く方だぜ?亮なんて世帯持ったのに、格闘家だしよ」

「俺は家業継いで、家を切り盛りしてるよ。こう見えても重工業の坊っちゃんだし、俺」

「雅人さん、確かムゲとの戦いで……」

「俺、一人っ子でさ。跡継ぎは俺しかいなかったからね。こう見えても、業績上げてるほうだよ」

獣戦機隊は基本的に、有事の時に召集される部隊であるので、平時はそれぞれ別の生活を送っていた。沙羅はアパレル系の職業なので、忍が一番、風来坊的な生活を送っている。ちなみに、忍はジュドーと声が似ているが、忍は事あるごとに『やぁってやるぜ!』と言う、喧嘩に弱いので、そこがポイントとの事。

「智子、綾香見てねぇか?この前にあった時にダンクーガの超合金頼まれてよ。雅人がパイロット特権で一枚噛んだハイグレードモデルを用意してくれたんだけどよ」

「俺、実家に玩具事業始めさせてね。ダンクーガは俺がパイロットの一人だから、商標使用許諾取るの楽でさ」

「なるほど。あの子、今は飛行機の中ですよ。扶桑本土に戻ってたんで」

「へぇ。ほんじゃ、部屋に置いとくぜ」

「あたしからの手紙も添えといたから」

「ありがとうございます」

忍たちと別れ、廊下を歩いていると、バラたんがルッキーニと喧嘩をしていた。どうやらルッキーニとおやつの取り合いをしているらしい。しかし、双方の技の応酬で、犠牲者が数人出ていた。

「バラダックビ〜ム!!」

「にしし、そんなノロノロビーム、当たんないもんねー!エクレウス流星けーーん!!」

「おおおおおっ!?し、少佐!いいところに!こいつら止めてくれー!犠牲者が数人出てるんだ―!」

エイラの悲鳴が聞こえる。どうやら、エクレウスの聖闘士のルッキーニにバラダックビームを当てようと撃ちまくり、数人が不運にも当たってしまったらしい。思わずアホウドリが鳴く智子。

「バラダックタイフーン!」

「あ、バカ!ケイオンズライトインパルス!!」

智子がケイオンズライトインパルスで風を起こし、バラダックタイフーンを相殺する。そして、光速で二人にハリケンをかます。

「あだーー!!何すんのよー!」

「あんたねぇ。やたら滅多にバラダックビーム撃たないの!原因は何?」

「あいつが私のケーキ食べたのよー!それで攻撃したんだけど…」

「ルッキーニは青銅とは言え、聖闘士よ。あんたの攻撃じゃ当たらないって。それにアンタ、マニアックなロボだし。つーか、『ゴワッパー5 ゴーダム』の焼き直しに近いコンセプトだし、アンタの母体のロボアニメ」

「あー!私の気にしてるところをー!ドリィィルミサイル!!」

「ドリルミサイル撃たないの!ダイヤモンドォダスト!」

「ぐぬぬ……」

ミサイルを凍結させられ、不発に終わるバラたん。彼女の母体となる力『超人戦隊バラタック』はマニアックであり、かなりディープなのが災いし、ロボットガールズでは総合戦闘力は低い部類に入ってしまう。バラたんはエスパーなのだが、能力がインパクトに欠けるので、智子は偵察要員と見ていた。そのため、ルッキーニに攻撃を当てられなかったり、智子に事も無げにドリルミサイルを凍結させられた事に落ち込むバラたん。

「さて、ルッキーニ。あんたはしばらくはんせーしなさい。フリージングコフィン!!」

「にゃー!?ふ、フリージングコフィ……」

「後で解凍してあげるから、しばらく凍ってなさい」

ルッキーニへの懲罰にフリージングコフィンを使うあたり、智子も相当に思考回路が聖闘士じみてきている。

「やれやれ。バラたん、後で食堂のスイーツ奢ってあげるから、ね?」

「ぶー!!あたしもなんかパワーアップするわ!あの黒猫娘に負けてられないわ!」

「黒豹よ、正確には」

「同じネコ科じゃないー!今度は見てなさいよ!エスパーの意地見せてやるわ!」


息巻くバラたん。これ以後、彼女はパワーアップに必死になり、ブラック・バラタック、ブルー・バラタック、グリーンバラダック形態になるため、洋服の色を変えてみたり、乗用マシン『トロッター』を改造し、自分のパワーアップアイテムにしたりと、色々な試行錯誤をしてゆくのだった。それほど、ルッキーニの戦闘能力が上がっていた事の証明でもあった。





――智子はその日、多忙を極めた。この他にも、ガッキーのトレーニングに付き合ったり、ゲッちゃんの特訓を見たり、やって来た他のスーパーロボット乗り達の出迎えなど。黒江が普段している分も仕事したため、夕方にはヘトヘトになっていた。

「はひ〜……死ぬ〜」

「ご苦労様」

「あ、健一さん」

ボルトチームの剛健一が飲み物を買いに来たため、鉢合わせとなった。

「飲むかい?」

「あ、ありがとうございます」

「今日は大変だったようだね」

「綾香みたいに肉体派じゃないんで……参りましたぁ…」

黒江が転生後、『元気が服着て歩いてる』と言われるほどの超人的体力の持ち主となっているのとは対照的に、水瓶座の黄金聖闘士になったとは言え、体力面は一歩出遅れている。健一から渡されたスポーツ飲料を飲み干しながらも完全にヘバッていた。これは肉体的というより、智子の気質的に、茶目っ気があまりないため、精神的に疲れてしまったと思われる。

「智ちゃん。もうちょっと楽にしたらどうだ?綾ちゃんほどとは言わないが、これでは持たんぞ?」

「努力はしてるんですけど……」

「君は生真面目だからね」

今回では、あーやが公然の秘密となったため、健一は智子と黒江には『年上』として接していた。(前史では違っていた)また、関係もより親しくなっているため、健一も砕けた会話をしている。これは割と珍しい。

「綾ちゃんは今どこに?」

「飛行機の上です。今の時間だと、ルート的にマラッカ海峡当たりかな?」

「随分とかかるね」

「ムー大陸から飛んでますし、ムー大陸、位置的にハワイの近くなんですよ。リベリオン本国横断はできなくなったんで、どうしても遠回りに」

「制空権の関係かい?」

「あちこちが混乱してて、おまけに怪異との戦闘は散発的にも続いてはいるんで、それを避けると、どうしても遠回りに」

正確に言えば、南洋島はハワイ近くではない。ウェーク、マーシャル、ミクロネシア一帯だが、智子は北方勤務であった時期が長かったため、実は太平洋戦争まで南洋島に行った経験は無かったりする。そのため、南方の地理は意外とガバガバだったりする。

「ふむ。智ちゃん、そっちのほうに勤務になった経験は?」

「ないんですよ、実は。若い頃はウラジオストク方面に、成人近くまでは北欧の勤務だったんで…」

「なるほどな。ケイさんが聞いたら笑われてるところだよ。正確には、こっちの『ウェーク、マーシャル、ミクロネシア一帯』だよ」

「あ、そうなんですか…」

「数年後には勤務地になるんだし、覚えておいたほうがいいよ?」

「うっ……痛いところを」

智子達は64F結成と、太平洋戦争勃発に伴い、当面は南洋勤務が続く。それはロンド・ベルの皆も知っているので、当然、健一にも指摘されたのだ。

「なんかそれ、今、上が揉めてるんですよ。あたし、北方に精通してるから、北方方面軍が文句言ってきて。それと、私、元は陸軍なんで、元々地文航法だから、海の上ってどうも距離感が解りにくいんですよ」


――智子は北方で名を挙げたエースとしても名が知られていたため、南洋島勤務にするのに反対論もあった。相方の黒江は宇宙で戦っていた経験があり、宇宙軍で海軍流の航法を仕込まれたため、洋上航法も難なくできるが、智子は切り替えが遅れ気味だった。そのため、アムロからは『智子君は洋上航法に慣れていないからなぁ』とその辺を心配されている。智子はレイブンズの一角であるので、源田の強権発動で北方方面軍を黙らせたが、智子への心配は多分にある。そのため、源田は赤松に『穴拭を次の大戦に備えて、鍛えておけ』と厳命している。黒江は空自と連邦軍で航法を身に着けているために大丈夫だが、智子は21世紀での表向きの職業は巫女であるので、その辺が源田の心配のタネだった。が、赤松は『案ずるより産むが易し、やらせてみようぞ』と大笑し、試しにやらせてみた。その訓練が入ったのも、疲労の原因だった。目隠しをさせられて長時間、地中海をさまよったからで、智子は精根尽き果てていた。健一はそんな智子を気晴らしに、散歩に誘うのだった。




――黒江たちを追いかける形でミデアで飛行中の奏者達の内、調は、自分の姿を借りていた黒江がどんな事を行っていたのか、連邦のタイムテレビで映像を見ていた。その中にはバイトの際の様子もあり、調当人はもちろん、切歌やマリアも目が飛び出ん勢いで驚いた。

「なっ……!?こ、これは!?」

「師匠が侘びてたのって、こういう事だったんだ……シュルシャガナをバイトで使うなんて……」

「は、反則デス!戦闘目的以外にもギアを纏うなんて!バックファイアはないんデスカ!?」

「黒江女史は存在そのものが我々より上の次元に到達していた。正規適合者以上の適合率だし、存在そのものが聖遺物を超えている。バックファイアどころか、自己の意志でギアを改造できる領域だった」

「なっ!?」

「あの方は神を守るための闘士だといったろう?だからこそ、我々も想定外の使い方をして見せていた。立花がその喫茶店で女史を見た時は我が目を疑ったそうな」

「うん。何度か戦った子が、その格好でバイトしてたもの。目をこすったよ、思わず。ただ、背丈が高かったから、初めて見た時は確信じゃ無かったけど」

「師匠は私の姿になってても、160はあるから」

「でも、スゴイデス……調になりきってるデス……」

「違いは、この時期の調より明るめなところだな…。それ以外は完璧だ」

切歌やマリアをして、態度が活発なのを除けば、当時の調当人と区別がつかないほどに、黒江の演技は完璧と言わしめた。これぞ英才教育の賜物だ。フィードバックした記憶の補助はあったが、それをここまで再現できるのは、黒江の演技の才能が歌劇団のトップスターになりうるほどのものである証明だった。ただし、明確な違いも要所で見せており、クレーマーが騒ぎを起こした際は、多少は地を出して追い払ったり、乱闘が起きた際には原因となった双方を音速の遠当てで気絶させている。その事から、店長からも信頼を置かれていた。それ以外は『アンダーウェア一体式だから……。ゴメンね』とピンチを切り抜けたり、寒い日はギア姿で寝泊まりしたり……。意外に長い日数、バイトをしていた。また、非番の日はそのままの格好で繁華街の祭りの屋台で買い食いするなど、驚きの光景が続いた。これは脱走した際に着ていた服しか持ち合わせがなく、服の洗濯が出来ない都合、化粧所(トイレ)にいく時以外は、ギアを纏っていた方が汚れないので、楽であったからという切実な理由である。一日中、シンフォギアを展開しぱなしというのは、前代未聞の快挙と言えるが、これは黒江の存在の格に依存するため、微妙なところだ。ちなみに、響達の味方についた時の身体検査では、外見以外の身体能力は黒江のそれであるため、視力検査で2.0を出していたりする。(調当人は1.2と、21世紀の平均よりは良い程度。黒江曰く、視力は6.0ほどらしい)

「うーん……。流石、師匠……シュルシャガナでアルバイトなんて」

「ぐぬぬ……羨ま……い、いや、けしからんデス……」

黒江の行為はある意味、正規適合者でもできるか怪しい芸当であった。普段の生活でギアを纏うなど、通常はありえない。しかも、バックファイアが無いと言うのは、理論上、ギアが肉体にかける負担が無いという事であり、絶唱を発動しても問題は全くない事でもある。元々、欠片から発現させた力たるシンフォギアよりも遥かに強力で、高位の宝具である『黄金聖衣』を常用しているため、シンフォギアは普段着感覚に等しい。しかも、黒江が高位の存在である都合、力加減を間違って、限定解除のエクスドライブ状態になり、その状態で勤務した日もあるほどだ。それは全員を驚かせた。

「お、おい。ばーちゃんの奴、エクスドライブ状態でバイトしたのかよ!?」

「存在の位が人間ではないとは言っていたが、これは……反則だぞ!?」

「師匠は神聖衣の発動条件も、自分の血で満たせる『従神』だから……。多分、歴代でも気安く神聖衣使ってる方だと思う……。神話の時代に一度だけ、天馬星座の聖闘士が発動に成功しただけだっていうし…」

「……電話だ。あ、綾香女史!?どこから電話を!?」

「お前らよりも、もうちょい遠くを飛んどる飛行機の中からだ。今の会話だが、ドラえもんのスパイ衛星で筒抜けだぜ」

「なぁ!?」

「おい!ばーちゃん、あんの青狸野郎の道具持ってんのかよ!?」

「本人から借りた」

「なぁ!?ばーちゃん、何で釣った?」

「どら焼きだよ、どら焼き」

「つか、そっちの世界にはいんのかよ!?青狸!」

「ああ。声変わり前基準のドラ声の奴がな。多少、原作入ってるな。リアリストでフランクだし。つか、クリス、お前……見てたんだな」

「あれは子どものバイブルみてーなもんだし、親が生きてた頃に見せてくれたんだよ。で、道具なんてどうやってもらったんだよ」

「え?普通にお中元でもらったの未来デパート商品券で買ってもらって。当人がいるから、手続き楽だし、あいつ、ああ見えてクレジット切れるんだぜ」

「嘘だろ……500円しかもらってねぇだろ、あいつ!?」

クリスは色々とハードな人生を送ったが、生まれは世界的音楽家の家庭で、元々は裕福な家庭であった。その事もあり、アニメはそれなりに知っており、ドラえもんも当然ながら、知っている。そのあたりは日本の武門の家柄で生まれ育ち、厳しい教育を受けた翼よりは世俗的であった。

「あいつ、意外に儲けてんだけど、ディスカウント品多いんだよな。いわく、バーゲンセールで買ったほうが安いとかで」

「あ、あははは……ディスカウントねぇ。安さ爆発ってか…」

「その割には、銀河鉄道の切符、三日三晩並んで買ってるんだよなぁ」

「確か、銀河鉄道って、漫画で廃止されてなかったか?」

「そうなんだけど、観光列車は人気があるから継続してるんだよ」

「なるほどな。センパイが話したいようだから、替わるぜ」

「おう」

「ど、どうも……」

「翼、緊張してるな?お前にその調子でやられると、どうも弟子の一人とこんがらかるんだよな」

「す、すみません……」

風鳴翼は、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの成人後と声がよく似ている。フェイトの戦闘時の雰囲気をもうちょっと武士道然とさせると、翼になるとは、黒江の評だ。正確に言えば、フェイトが翼に似たのであり、翼も、まさかなのは世界で『アニメ』として自分達が存在しているとは思ってもいないだろう。これは先に箒が味わっており、箒は意図して態度を変えるように努めている。箒はメカトピア戦からしばらくして、その事実を知り、以後は態度を改めるようにしており、それがアガートラームの起動のキーともなった。箒の人当たりが良くなった背景には、『自分達がフィクションキャラクターとして、別世界でも知られていたから』という、なんとも世知辛い事情も含まれていた。

「女史、あなたの用いていた武器のほとんどは、元はロボットの武器と言うのは本当なのですか?」

「ああ。マジンエンペラーGってスーパーロボットの武器だよ。アームドギアも自由に作り変えできるしな」

「アームドギアまで任意に作り変えできるのでですね…」

「シュルシャガナのギアで具象化したアームドギアだったヨーヨーは、ヨーヨーで遊んだ世代じゃねーから苦手でな。ハ○パーヨーヨーは愚か、その前のブームの世代の親世代くらいにあたるし」

黒江は生まれた年代が70年代のヨーヨーブームよりも遥か以前で、子供の時に起こっていたとされる戦前の短いブームは田舎暮らしなのと、やっと物心がついたくらいの頃で、体験していない。(その頃である1933年は11〜2歳前後)そのため、ヨーヨーはできず、扱いに手慣れた武器に自分の力で作り変えていた。この違いが調との決定的な差である。エンペラーブレードを二刀流で用い、翼を圧倒したのも一度ではない。その事が気になっていたのだろう。




――黒江の特技である剣技は、箒、フェイトの二人がかりと互角に打ち合えるが、緋村剣心や斎藤一、比古清十郎と言った『人外級』には及ばず、彼らに教えを請いている。比古は黒江の全力をいなし、逆に軽く圧倒せしめたので、比古清十郎の人外ぶりが際立つと言うものだ。これは転生後でも変化は無く、『くっそー!経験積んでもダメか―!』と嘆いたほどだ。これは智子も同じで、彼の超人ぶりは群を抜いている証明となった。黒江の見立てとして、『たぶん、翼が天ノ逆鱗で襲いかかっても、九頭龍閃か龍翔閃で一撃で粉砕できるだろうな』とするほどだ――

「私なんて、その道じゃまだまだケツの青い小僧だぜ。世の中にゃ、私が全力でやっても歯が立たない人がいるからな」

「いるんですか!?」

「私の身近だけでも、一人はいるぞ。しかも職場の先輩だ」

赤松の事だ。赤松は女子でありながら、武道全般に秀で、柔道・相撲・水泳・剣道・弓道の達人で、合わせて十五段の猛者である。空戦で何をやらせても、レイブンズよりも強く、『扶桑軍最長老にして、最強』と目されている。聖闘士としてもこの力関係は同じであるので、三人の手綱を引ける者として、上層部より推挙されるのである。ミーナの今回の成功は、赤松にレイブンズの統制を委託したことだろう。(前回は自分で取ろうとして、逆に失敗した)


「軍全体の最長老だけどな。ってなわけだ。上には上がある。お前らはヒーローみたいな事、普段からしてるけど、こっちはモノホンのヒーロー見てる身だから、そっちでの生活は楽しかったぞ」

「ヒーロー、ですか?」

「そう言えば、綾香さん。年の割にそういうの大好きでしたね〜」

「お、響だな。そうなんだよ。年のわりにってのは余計だけど。資料は見たか?」

「見ました〜。意外に新しいんですね。1971年が元年なんて」

「現代的な意味でのヒーローが生まれたって意味だとな。仮面ライダーの実物と会ってるから、こっち」

「え?待ってください。23世紀に会ってるってことは、まだ、ご、ご、ご存命で?」

「改造人間なんだし、200年は屁でもない」

「そうかぁ、改造人間……って、サイボーグ!?」

「そうだ。オーバーテクノロジーで改造されてるから、原則的に歳も取らないし、戦闘用だから、戦闘で死なない限りは不死身だよ。昭和仮面ライダーを皮切りに、ヒーローが続々と生まれて活動していたのはそれから数十年くらいだって聞いてる。平和になったし、活動していたヒーローたちも、ある時期から活動をやめたり、順番にコールドスリープに入っていったしな」

「冷凍睡眠って事ですか?」

「そうだ。平和な時代、彼らの力は逆に迫害されるかもしれないってのもあるな。人間ってのは、毛色が違う連中を迫害したがる陰湿極まりない性質があるからな」

「私には結構来ますね……」

「たしか、お前……」

「はい。私、経験がありますから……」

響はノイズから自らが生還したことが発端となり、家庭的には不幸に見舞われ、自身もガンニグールと融合したり(後に融合していた破片が除去され、改めて正規適合者になった)、実の父親が蒸発した(後に和解)、親友と戦ったなど、ハード極まりない青春を送っている。彼女は、話に聞く未来世界のアースノイドとスペースノイドの血で血を洗う争いなどには悲観的なところを見せるが、自身が天羽奏が命と引き換えに助け、自身が救われた事が、不運にも家庭的な不幸の引き金になり、人の闇を嫌というほど味わったため、黒江の言葉に同意した。それは父親との和解後も持つ、諦観した部分でもある。響は、自分の居場所を守るという理由が戦う理由の半分近くを占めているため、意外と脆さがある。エリスが彼女の拠り所である小日向未来を自身の力で召喚し、目の前で攻撃を行ってみせた時には、激昂してエリスに攻撃を仕掛けたが、『グンニグルの欠片の力などに!』と攻撃を弾かれ、逆により上位の槍『ゲイ・ボルグ』を使われ、貫かれている。ガンニグールはグンニグルだが、所詮は欠片である。ゲイ・ボルグはエクスカリバーでしか弾けない『神槍』。それも完全な形のものであり、いくら限定解除状態のギアであろうとも、薄紙の如く貫く。それは黄金聖衣でも例外ではなく、黒江も負傷している。

「……あの時、未来を攻撃された時は……頭が真っ白になって、それで……。でも、あのゲイ・ボルグはガンニグールを貫いた……。なんでですか?」

「ゲイ・ボルグは如何なモノ、たとえアテナの盾と言えども、持つ因果だけで貫ける神槍だ。グンニグルより強力な宝具だしなぁ」

神槍はグンニグルもそうだが、響や生前の奏などが用いていたのは、本来の力からは程遠い断片的な力でしかない。エリスが持っていたゲイ・ボルグは、完全聖遺物と言っていい本物であり、因果律兵器になる。なので、必然的にゲイ・ボルグが勝った。ガンニグールは損傷し、響は重傷を負い、黒江も黄金聖衣をゲイ・ボルグに貫かれ、負傷している。それほどの貫通力と因果を誇るため、エクスカリバーを使ったのだ。

「で、私のエクスカリバーはそれをもねじ伏せられる。エクスカリバーは精霊が精錬した剣だから、それを上回るのは神剣だけだ。お前らが使ったというデュランダルを、エクスカリバーは超える」

「デュランダルのことを知ってるんですか?」

「私の隣りにいる奴がそれを宿してんだよ。多分、お前らの世界から消えたんじゃなくて、ゼウスが呼び出したと言えるな」

「反則的と言おうか、なんて言おうか」

「オリンポスの長だしな〜。聖剣を呼び出すことくらい簡単だろうさ。最上位の一つが草薙剣らしいけど。正確に言えば、剣の霊格を宿すのが聖闘士の剣だ。媒介は何でもいい」

手刀や実体剣を媒介に力を発揮させる事。元々、剣術に長ける者は後者を好む。そのため、傍目から見れば、後者は『極太ビームを放つ』ようにしか見えないことも多い。黒江はエクスカリバーに風を纏わせて、エンペラーソードを媒体に放つのと、伝統の手刀の双方を使う。ハインリーケは前者の武器を媒体にするのががメインだ。エアは手刀だが、これは『下手な媒介使うと一回でオシャカになるから』だ。

「聖剣はエクスカリバーが割と発現しやすくて、デュランダルやグラムとかになるのは珍しいんだ。北欧系は管轄外だし」

「なんですかそれ」

「神様も地域の管轄があるんだよ。あ、マリアはいるか?そっちに私の弟子がアガートラームを使った時のデータ送るわ」

「いいですよ〜」

黒江は、箒がアガートラームを発動させた際の映像データを送る。それを次に再生してみる……。


――デザリアム戦役(やり直し)前、箒が代表して、IS学園に報告に戻った時の事。偶々、一夏は不在で、姉に進化した赤椿の解析を頼み、そこに亡国機業がタイミングよく攻撃をかけてきた。ラウラも連邦軍の要請で、出向の準備中であったため、その場にいたセシリアが応戦したが、無人機との連携と複数機との攻撃に苦戦し、メインスラスターを損傷してしまい、浮かぶことは出来ても、機動が不可能に陥る。箒はとっさに駆け出し、黒江から送られていたアガートラームを聖詠し、起動させた。それは当然、ISとは全く異なるものであった。

「ほ、箒さん!?ISもなしに……!?」

「〜〜♪」

聖詠を唄い、銀の光に包まれた右拳で無人ISを殴り飛ばし、そのまま白銀のシンフォギアを纏った。銀腕・アガートラームである。ISのような機械的な装甲ではなく、『バトルヒロイン』なモノを瞬時に纏ったので、これまた驚きであった。箒も黄金聖闘士の端くれ、これは容易なことだった。

「え!?……なんですのそれは!?」

「ごちゃごちゃした説明は後だ!ここは任せろ!」

右手を覆う覆う大きな篭手から西洋風の剣を形成し、それで戦う。元々、剣術は得意であるので、アガートラームの扱いもマリアと遜色ないレベルで可能だった。戦闘曲はマリアとほぼ同様だが、歌詞が多少違っている。また、箒の戦闘スタイルはマリアと違って、斬撃メインなので、インファイト寄りだ。

「亡国機業!毎度毎度、同じようなタイミングで攻撃してきおって!今日も叩きのめしてくれる!」

バシッと決める箒。黄金聖闘士になっているからか、自信たっぷりである。無人機は防御が薄いと思われる箒を狙うが、聖闘士+アガートラームの箒には攻撃は躱され、箒はカウンターとばかりに、左腕の刀で斬り裂く。一撃である。その様子を映像データで確認した、マリア・カデンツァヴナ・イヴは、箒の声質が自分を多少若くしたようなものであるのに驚愕した。

「なんか、この子……他人のような気がしないわね…」

箒とマリアは、互いの声質が酷似している事がここで明確になった。言葉づかいを除けば、調や切歌、翼も聞き分けできないレベルで似ていた。マリアがそうつぶやくのも当然だった。箒もこれで自身の歌唱力に自信がついたらしく、黒江を通して知った、マリアの持ち歌『Dark Oblivion』を歌い、学園祭を盛り上げたという。

「平行世界というのは、かくも恐ろしいな。自分と似た声の人間がいるとは……」

「それが平行世界なんでしょう。翼、貴方と似た声の子が綾香さんのもう一人の弟子で、獅子座の黄金聖闘士だそうだし」

「なんだとッ!?し、信じられん……」

翼もこれには驚く。平行世界の恐ろしさを実感したようだ。実際、少年期のび太は声色がボルトチームの『剛日吉』と酷似しているし、司馬宙は、アムロ・レイや星矢に声色が酷似している。更に言えば、葵豹馬は、今は亡き乙女座の黄金聖闘士『乙女座のシャカ』と似ていたりする。

「これが次元世界だとッ……!」

と、唸る。それが翼がフェイトを知るきっかけであり、箒同様の思いを、彼女も体験する事になるのだが、それはまた別の機会に。



――一同は、黒江のチャーター便の後を追う形でミデアに乗っていた。ミデアは航路のカモフラージュのために一旦、駐屯地に降りるのだが、そこであるMSを目撃する。

「何だあのロボット!すっげーかっけーぞ!」

――クリスが目撃したのは、駐屯地で調整作業を行っていたヘビーウェポンシステム装備型のHI-νガンダムだった。地上用追加装甲(ヘビーウェポンシステムの第二次テスト)のテストのためか、排熱の確保のため、胸部追加装甲はしていなかった。兵器としては目立つであろう白と青のツートンカラー、肩と盾のユニコーンのパーソナルエンブレムなど、手練が乗っていることを否応なく示す。ヒロイックな造形であり、クリスが惹きつけられたのも当然だった。垂直に着陸するミデア。彼女らはそこで、元の世界とは隔絶した未来的な光景を目の当たりにするのだった――



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