外伝その108『僕らの戦場』
――扶桑皇国が受ける損害は49年の重慶市を省いても、相当なものだった。物理的は重慶市だが、精神的な分断はかなりのものであり、軍人への差別意識が生まれてしまった埋め合わせが未来技術の無償提供であろう。扶桑の立場を知る自衛官や保守系政治家らの行動で、日本世論は左派の行動を白眼視するようになり、左派内部からも離反者が生じていった。広島や長崎が戦前の姿を保っていたからだ。そのため、彼ら左派の行動原理は政治的に、扶桑とリベリオンの間に交戦規定の作成を斡旋する方向に変わっていき、戦前の姿を保つ広島・長崎への空爆をとにかく阻止する方向に向かった。これは中島地区が現存する扶桑の広島を特別視するも同然なのと、ティターンズにとって、核兵器は使用の敷居が低い兵器でしかなく、絶対の切り札でも無くなっている現状を顧みないものなので、これは連邦の失笑を買った――
――黒江は、自らの思惑も兼ねて、箒にコピーしたアガートラームを送った。箒はそれを実際に使用し、その能力を存分に発揮した。蛇腹状に展開するアガートラームの刃で敵無人ISを斬り裂く。箒は戦闘力という観点では、本来のアガートラームの奏者のマリア・カデンツァヴナ・イヴよりも高い次元であったため、奏者としては未熟でも、基礎的戦闘能力の高さがそれを補った。当然、持ち合わせの闘技も放つことも可能なので、ここがマリアとの差であった。その映像はオリジナルのアガートラームを持つマリアを唸らせた。自分ととても似た声である事もあり、他人のような気がしないからだ。そんなマリアの感嘆をよそに、黒江は機内でまた変身をしていた。後は、いくつかの基地に着陸するだけなのをいいことに、調の姿を取って、ギアも展開していた。
「あんれ、変身した?」
「おう。この姿のほうが、今じゃ気が楽になれるからな。大変なんだぜ?エースなんてのは。味方から常に高い戦果が求められて、敵からは目の敵にされんだぜ?最近はZEROの奴のことで頭が一杯だったし」
「だよなぁ。あれ?あーやんとこ、確か定数が700人だよね?機械化航空歩兵」
「ああ?」
「このニュース記事見てよ。場面切り替えてみたんだけどさ」
「何々、航空ウィッチの自主退役、200名に達する……。若手から中堅がその大半であり……。クソ、日本の奴らめ。厄介な置き土産を!」
日本左派が強力に仕掛けた『ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム』により、ウィッチが強力な近代兵器に対して微力であるとするプロパガンダがなされた事、彼らが科学の進歩を強力に奨励した事、ウィッチへの異物感を煽り、『魔女狩り』的な風潮を煽った事により、ウィッチへの迫害が起こり、この時期に志願した新人は、『代々の軍人一家の家系』の出身者で占められた。服部静夏もその一人だ。そのため、素養が伴っていない新人が多く、前線の弱体化を恐れた上層部により、エクスウィッチの少なからずが前線に呼び戻された。レイブンズも帳簿上はその中に入る。そのため、当時の扶桑航空部門は『急場凌ぎ』と見込んでいた『リウィッチ』を大量確保(歴代からおおよそ150名)する必要に迫られた。新人をのんびりと育成している暇はないため、リウィッチが続々と戦線に復帰していった。歴代でも選りすぐりの猛者達をだ。黒江はウィッチとしては、グランウィッチであるため、若手の反発には冷淡だが、流石にこれには怒り心頭らしい。
「日本の連中のおかげで世代交代の摂理があらぬ方法に捻じ曲げられた……クソッタレェ!私らウィッチはテメエらの知る大日本帝国の臣民じゃねーんだぞ!!デモ隊にシュルシャガナで突撃したい気分だぜ…」
「まぁまぁ。落ち着いて」
ガイちゃんが抑え役になる。変身していても、怒ると怖い黒江。左派がウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムを応用し、負の方向にウィッチの摂理を捻じ曲げ、扶桑社会を歪めたとわかり、前史での謎が解明されたためか、変身していても素が出ている。ガイちゃんが抑え役に回る事は珍しく、変身した姿でも怒りを顕にするほど、怒髪天を突いたのが分かる。
「本当、あいつらをシュルシャガナで切り刻んでやりたくなるぜ……。」
「前史の時は分かんなかったの?」
「ここまであからさまに、ネガティブキャンペーンを貼ってるなんて思うか?それも同位の国の政治勢力の一つが」
「あれ?さっきまでとコスチュームの形が変わったね?」
「あ、いけね。頭に血が登ったから、ギアのロックを物理的に外しちまって、限定解除状態になってる」
黒江は感情が昂ると、小宇宙が一気にセブンセンシズにまで高まるため、ギアのロックを自分で解除してしまう。これはギアのロックが神と同質の力たる小宇宙に反応し、ギアが黒江の力を受け取められなくなり、ギアの維持のため、本来は負担制限かけられていた三億のロックが一気に解除されたからだ。限定解除状態では、自力飛行能力のための翼が追加されるなど、神聖衣に似た変化を起こす。そのため、ギアが限定解除状態に容易くなる。他の奏者らが聞いたら血の涙を流すだろう事実である。
「これさ、リミッター解除状態なんでしょ、他の子が聞いたら羨ましがるよ〜」
「リミッター解除だから、ギアでの能力も飛躍するんだが、神聖衣発動できるからなぁ、私」
「お、護衛の戦闘機だ。ん?あれって紫電改?」
「いや、あの頭でっかちは雷電だ。機銃から見るに、二一型だ」
エスコートに、扶桑軍の雷電が飛来した。後期生産型の雷電二一型である。この時期になると、零戦各型の陸上部隊機、二式水戦などは日本の介入などを理由に、一線から下げられ、その代わりに紫電改と雷電が配備されるようになっていた。高オクタン価ガソリン、遥かに高精度な工作で製作された機体とエンジンの効果により、日本側の記録よりも+50から60キロほどの速度向上があり、設計が古いと揶揄されたはずの雷電でさえ、時速670キロ以上の速度に飛躍した。これは戦中日本の劣悪な燃料事情と異なり、扶桑では100オクタン値以上のハイオクガソリンが湯水のように使えるため、雷電本来のポテンシャルが出せたからである。670キロという数字は、当時の第一線機に比しても劣らぬもので、戦時中の主敵であったF6Fより優速である。日本の左派や軍事音痴もこれで黙った。『彩雲と同レベルの速さ』だからだ。日本が扶桑の設計図を補正して製作したとは言え、性能向上の仕方が凄いので、海軍航空本部と横須賀航空隊が困惑したほどだ。横須賀航空隊は史実での紫電改の実用化時、『生産を中止して紫電改の生産に集中すべき』という意見具申をしたが、その事を軍事評論家などから責められたため、横空の立場は窮地に陥っていた。
「職場の先輩から聞いたんだが、雷電の生産拡大を決める会議で、横須賀航空隊がかなり日本からネチネチグダグダ言われたらしくて、担当者が『ウチとは別だ、関係ない話で混ぜっ返すな!』って言ったんだって。そうしたら『終戦間際のクーデターに同調しかけてたって、聖上に奏上して、お前らの軍籍剥奪してやる!』と言い返して、殴り合いよ」
「何それ、ひどくない?」
「あいつらにとっちゃ、今の佐官とかは軍国主義者らしーからな。それで見かねた源田の親父さんが『よろしい!リベリオンから譲渡されたB-29を使ってテストしてみようではないか?』と言って、パイロットを用意して、テストしたそうだ」
「結果は?」
「B-29にゃ雷電のほうが有効だって分かったんで、横須賀航空隊の幹部数人が責任取って異動、紫電改は甲戦闘機に種別替えだ。本来は乙戦だったのを考えると、微妙だがな」
紫電改は本来、乙戦闘機と言われる種別、『局地戦闘機』であり、零戦のような甲戦闘機(制空戦闘機)ではない。しかしながら、烈風の開発遅延により、急激に陳腐化した零戦に代わる『次期戦闘機』として白羽の矢を立てられ、大量生産がなされた。その事もあり、扶桑臣民にも『零戦の後継は紫電』というイメージがついていた。それを肯定する形になるが、烈風も既に生産ラインが用意されており、遊ばせるわけにもいかなかった。それがターボプロップ烈風の誕生に繋がるのである。
「日本海軍ってさ、なんでグダグダなのさ」
「陸軍と違って、零戦の成功体験に固執してたし、艦載機に設計の縛りが多かったんだ。こっちと違って、日本は油圧カタパルトも作れなかったかんな」
「カタパルトねぇ……」
「日本はパッキンの油漏れが止まんなかったし、大戦末期にはプラグだか、パッキンだかに紙を使ってたなんて話もあるんだ。おまけに、大半は零戦をだましだまし使ってたんだ。まだ戦争の記憶が鮮明な時代だしなぁ、21世紀くらいは」
「戦争の記憶ねぇ。でも、100年近くたった2010年代じゃ、その時の大人たちは生きてないよね??」
「当時の青年層の最若年が90代になる時代だしなぁ。80以下は戦争中は子供で、ろくに覚えちゃいねーよ」
黒江が自衛官としてバリバリに働く2010年代前半時点では、戦争体験を鮮明に記憶している当時の青年層は高齢化と死亡で数を減らしていた。黒江はバリバリの戦前派にあたる世代なため、終戦時に国民学校初等科だった子供世代の語る戦争体験談の効果に懐疑的だった。彼らの年代になれば、戦後の墨塗り教育を受けた時間が長く、戦後の価値観で戦争をを言うからだ。黒江は従軍者であるため、彼らの立場を擁護する立場を取った事がある。98年に遡って『大検』に合格し、99年に戻って、防大を受験する準備を進めていた頃の事だ。のび太の学校に三者面談の代理(のび太の両親がのび太の従兄弟の結婚式で不在)で赴いた時に学校で戦争体験談を聞く機会があったのだが、その中に、戦争中は一桁の子供であった者が呼ばれていた事に疑問を感じた。最も、当時に一桁でも、ショッキングな事を体験すれば覚えてると言うのは聞いていたので、それはいいのだが、その人物の物言いが反軍・反戦前的であったため、その人物が帰ろうとしたところを呼び止め、激論して論破した事がある。転生した芳佳程ではないが、黒江はディベートが得意であるので、楽に論破出来た。大人げない行動だが、従軍者としての倫理観として許せなかったからだ。
「前、のび太の時代でむかっ腹たった事があってな。大人げないと思ったが、どうしても従軍してる身として言いたくなって、爺様をディベートで負かした事があるんだ。で、その時は『小娘の分際で!』とか言われたから『こちとら、元陸軍少佐じゃあ!』って言い返してやったよ。そいつ、インパール作戦で親が死んだらしく、左の視点から日本軍を否定する本書くのをライフワークにしてたから、私を日本軍のトンデモ計画の被験体と思ったらしく、顔面蒼白で逃げてった。日本軍、人手不足で女性の軍事利用を、あ号作戦が崩壊した時期から検討し始めていたらしくてな」
「あ号作戦?」
「マリアナ沖海戦とサイパンの戦いでの日本の防衛作戦名だよ。日本の極秘文章見ると、メタルダーやラ級の建造促進、女性の軍事利用はその作戦の破綻と同時に検討、あるいは進められた」
日本軍の起死回生のための切り札と目されたものの多くは、あ号作戦の破綻した44年6月を皮切りに予算が増額、あるいは検討された。それらの多くは様々な形で戦後に日の目を見たが、23世紀まで忘れ去られていた事が一つある。大日本帝国の時代には政府要人や軍上層部が存在を知っていた『ウィッチ』、その軍事利用の事だ。これは東条内閣から小磯内閣の時期に検討されたという書類の現存が23世紀に判明し、20世紀最末期に伝えられるという変則的な形で伝えられた。つまり東条英機とその後継の小磯國昭はウィッチの力を使い、戦局逆転を目論んだのだ。しかし、大日本帝国にはそれを発露する術がなかったため、諦めたのだ。それを20世紀最末期の日本は『女性を超人にする』計画と解釈した。その被験体の生き残りと思ったのだろう。黒江の外見年齢はどう見てもミドルティーン。元・陸軍少佐であれば、45年には若くとも20代半ばに達しているはずで、99年当時には80代を超える。それが彼の恐怖を煽ったのだろう。戦後は科学が日本を覆ったため、ウィッチの存在は、ウィッチ世界と接触済みの23世紀の地球連邦が公的に接触してくるまで把握しておらず、大日本帝国政府から日本国政府への改組に当たり、齟齬があったことが分かる。事を知らされた日本政府はウィッチを『日本帝国の忘れ形見』と称したが、実際は太古より存在している力である。井伊直虎、小松姫、巴御前、甲斐姫と言った名だたる女武将なり、姫は実はウィッチであった。大日本帝国もその古文書を知っており、戦局逆転の一縷の望みをかけようとしたのだろう。その古文書は名古屋大空襲と東京大空襲で消失。軍の解体と共に伝説だけが残った形となる。その検討書類が、枢軸国や連合国が実際に研究し、ソビエトも戦後に研究していた『超人兵士』と混同された形だ。フィクションの『キャ○テン・アメリカ』を本当に作ろうとした米国の動きの証明だが、『超人機メタルダー』の計画に恐れおののいたからではないか?とも噂された。これはウィッチの存在を知っていたのが大日本帝国とナチス・ドイツなどの枢軸国の一部の人間のみであり、連合国はウィッチの存在を知らず、科学の力で超人を作ろうとしたという米国側の機密書類からわかったことだ。
「ウィッチって、なんで枢軸国だけに計画が?」
「枢軸国はウィッチが多く出てたが、当時のアメリカで、白人以外の人権なんて『あってないような』もんだ。日系人強制収容や、黒人への迫害が戦後しばらくまで続いたほどの国だ。インディ……もとい、ネイティブアメリカンにゃ多いと思うが、当時の米国にそんなリベラルな思想はないからな」
「ナチスのこと笑えないね、それ」
「当時の欧米人は『自分達こそ覇者』と思ってたんだよ。未来の統合戦争でフランスが徹底的にボコられた本当の理由だって、総理大臣の母親がフランスの貴族の家柄の資産家に事故られて殺されて、事故を揉み消された上に、日本人を見下した言葉を放たれた事への恨みだって言うし、あとでしっぺ返しが来るもんだよ」
「そういうの、どっかで聞いたような話だね」
「あれは母を奪われて、姉も皇帝に盗られた金髪の孺子の成り上がりみたいなもんだろー?統合戦争で似たようなことが起こって、フランスは没落したんだよ。日本との戦争に負けて」
「人種差別はするもんじゃないね。ジオンもティターンズも、フランスも、ドイツも似た末路じゃん。あ、アメリカもか」
黒江は未来世界の戦争を生き抜いてきたため、統合戦争開戦時の日本の首相の生い立ちと、統合戦争でのフランスの末路を、とある人気SFに例えた。ガイちゃんも人種差別をしていた組織や国が辿った末路に思いを馳せ、同意する。特にジオンは、スペースノイドの権利の取得の美辞麗句を並び立てながら、何億もの罪もない同胞らを虐殺している。ガイちゃんは仁と義に溢れるため、ジオンのような『美辞麗句のもとに、相容れない者に情け容赦無く破壊を振りまく』者へは慈悲がない面があり、そこが黒江の親友になった理由だ。もちろん、ZEROに対しても『クロガネ頭はあたしが止める!!』と公言しており、それがゼウスに見込まれ、デュランダルを与えられた理由だ。また、黒江を、黒江自身の小学生時代のアダ名&従人格名の『あーや』と呼ぶ数少ない人物でもある。それを許している事が、ガイちゃんが黒江の信頼を得ている証と言える。
「そう言えば、あと一個どうすんの?コピーしておいたとか言ってたじゃん」
「フェイトに送るよ。天羽々斬、フェイトのやつがデバイスのモード名につけるくらい気に入っててな。ほんならいっその事、ホンモン渡そうと思って」
フェイトが翼に似てきた理由を知る黒江は、天羽々斬(コピー)をフェイトに送るつもりだった。本物と言ったのは、『ある時期にアニメで見た』翼に影響を受けたのを知っているからだ。黒江がコピーできたのは、自分のも含めて三個。アガートラーム、シュルシャガナ、天羽々斬である。二つを分け与えたのは、聖衣のリースがお互いに多く、バリアジャケットやISでは、神闘士や海闘士などに太刀打ちできないからだ。こうして、フェイトと箒は新たに、『シンフォギア奏者』という肩書きを得ることになった。フェイトは魔導師でもあるので、管理局で天羽々斬をバルディッシュ・アサルトに組み込み、多段変身という形でシンフォギアを用いる様になる。フェイトはこれにたいそう喜び、Bとの再会時に多段変身という形で天羽々斬を纏う姿を披露し、Bをまたも泣かせたという。
「さて、そろそろ基地につくな」
チャーター便が基地に着陸する。そこからまた乗り換えるのだが、搭乗予定機がトラブルにより、しばらく出れないため、黒江はギアの脚部に組み込まれたローラーの訓練と、限定解除状態のギアでの飛行訓練を暇つぶしに始める。
「これ、ボト○スの要領でやればいいんだな?だんだんコツが分かってきた」
元々、運動神経抜群であるため、ローラ機構の熟練に必要な時間は短く、15分ほどの走行でコツを掴み、ボト○ス張りの方向転換も覚えた。次の限定解除状態での飛行では、飛行が本業であるため、元の持ち主以上の見事な飛行術を見せる。ギアの意匠は黒江の心象を反映し、調とは違い、射手座の聖衣のような実体の翼を持つ。これが限定解除状態での差異だった。(わかりやすく言うと、ウイングガンダムゼロの翼のようなもの)更に補助翼がストライカーを履いた場合の翼の位置にあり、飛行能力で言えば、調の纏った場合を上回る。補助翼と主翼は任意で折り畳めるため、『スクランブルダッシュみてぇだ』と気に入っている。これはグレートマジンガーのそれや、マジンエンペラーGのエンペラーオレオールに憧れていた心象が反映された結果だ。元々、黒江は『空の女』であるため、これを以て、シュルシャガナを自家薬籠中の物にしたと見るべきだろう。
「なるほど。こりゃいい。スピードも実用的だ。元のデザインとは違ったが、これが私のモノって証なんだろう」
ちなみに、シンフォギア世界では、シンフォギア装備を纏うという意味合いから、纏う者は『装者』という表記だが、他世界では『歌う』ことが最重要視されたため、『奏者』と表記されるようになった。これはサウンドエナジーなど、歌の研究が進んでいるためで、黒江は『ヴァールシンドロームの治癒に使える』とも意見具申をしている。地球連邦は歌が戦乱の鍵になった経験を持つので、歌の研究に熱心であり、シンフォギアの研究もすぐに進展した。地球連邦の調査によれば、黒江や箒とフェイトは、バサラやミンメイには流石に及ばないが、シャロン・アップルやシェリル・ノーム、ランカ・リーに比肩するレベルの歌エネルギーを発生させられると判明する。また、意見具申に関係する事として、かつてのジャミングバーズの残したデータが、後のワルキューレ結成に大きく関係したという事実を知ったロイ・フォッカーは、『ハハーン、ジャミングバーズはワルキューレを生み出す上での踏み台にされたわけだな』と評したという。ワルキューレの歌には『フォールド因子受容体』(フォールドレセプター)が含まれているが、それは歴代の歌姫やバサラも持つ素養で、偶々に黒江たちもそれを有した事から、シンフォギアの起動が他の人間よより遥かに容易だった事も判明する。これは天羽奏の努力の否定ではないという、風鳴翼の安堵にも繋がった。
「あーや、ちょーしどう?」
「ばっちりだ。これなら聖衣が使えない時の代打と、普段使いには丁度いいだろう」
「あれ使うと、街じゃ気兼ねしちゃうしね〜」
「ここからなら、ロマーニャは近い。ダイレンジャーから教わってる中国拳法の演舞でもするかな?」
「ダイレンジャーと知り合い?」
「ああ、エーリカの妹を助けてもらった縁で知り合ってな」
今回においては、五星戦隊ダイレンジャーの影響で中国拳法を始めたらしく、ギア姿で演舞を始める黒江。スーパー戦隊のすべてが彼女たちの味方ではないが、ダイレンジャーやマスクマン、ライブマン、サンバルカン、ターボレンジャー、チェンジマン、カクレンジャーのように、黒江らに協力する戦隊が確かにいる。それが黒江の安堵だった。
「ハァッ!」
リュウレンジャーの名乗りの際のポーズをバシッと決める。ダイレンジャーの名乗りのポーズは難易度が高く、運動神経が良くないと再現できない。戦車道世界の西住みほ達はすべて再現できるので、その事への対抗心があるのだろう。ガイちゃんも続く。
「ガッキーがいたら、やりたがるよ〜これ」
「だろーな」
と、ダイレンジャーの名乗りを再現してゆく二人。ダイレンジャーのメンバーが見たら喜ぶだろう。だだ広い基地のド真ん中でスーパー戦隊の名乗りを再現してみようなど、そうそう考えつくものではない。まさか、調も自分の師が自分の姿を借りて、このような事をしているとは思うまい。この茶目っ気がガイちゃんと黒江を結びつけたとも言える。
「でもさ、なんか並んでる飛行機、時代も所属もバラバラだよね」
「しゃーない。21世紀の米軍、自衛隊の非戦闘部隊、23世紀の連邦軍、扶桑軍が同居してるんだし、バラバラなのはなぁ。コスモタイガーに混じって、F-15とかF-22と日本軍系のレシプロ機があるんだぞ?現実にいるかどうか、時々、判別がつかなくなるぜ」
「日本軍系にジェットは?」
「メッサーシュミットのコピーがあるだけ。だから慌てて、アメリカやスウェーデンからからライセンス買ってるんだよ。まさか制空戦闘機にジェットが適任なんて、考えてもなかったのさ」
「あー……」
「で、日本からジェット制空戦闘機の優位性が伝えられた途端にライセンス購入と来てるから、現金なもんだ。初めは爆撃機にするつもりだったんだからな」
扶桑皇国のジェット機開発は『高速爆撃機』として始まり、『対大型ネウロイ』(対大型爆撃機)迎撃用の局地戦闘機、『ジェット制空戦闘機』に変遷し、その研究は開戦後の米製戦闘機などのライセンス生産に生かされていくが、各軍需産業の技術者達は自分達の独自の戦闘機が作れないという状況には複雑であったという。が、これは技術の発展上、必要な事だ。
「せめて、ベース機より高性能に仕上げてもらいたいもんだ。そうでないと、乗る身としては面白味がない」
黒江はパイロットとしての願望を口にする。扶桑の技術者の意地として、『ベース機より高性能』は達成してもらいたいと。その願いはすぐに叶うのだった。
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